説明

鋼帯の巻きずれ防止方法

【課題】連続焼鈍ライン等の鋼帯連続処理ラインにおいて、鋼帯をテンションリールに巻き取る際に、シャーで切断後の鋼帯の巻きずれを簡便かつ的確に防止することができる鋼帯の巻きずれ防止方法を提供する。
【解決手段】ピンチロール13、23として、ロール幅中央部とロール幅端部にそれぞれ平坦部を備えた凸型ロール30Aを用い、その凸型ロール30Aのロール幅中央部の平坦部31の半径(Rc)とロール幅端部の平坦部32の半径(Re)との差(ΔR=Rc−Re)を、鋼帯1の耳伸び量hおよびハイスポット量Hの最大値を超える値とするとともに、ロール幅中央部の平坦部31の幅(ロール幅方向長さ)Lを、ピンチロール13、23を通過する最小幅の鋼帯における耳伸びの発生領域に掛からない幅とするようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続焼鈍ライン等の鋼帯連続処理ラインにおいて、鋼帯をテンションリールに巻き取る際に発生する巻きずれを防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続焼鈍ライン等の鋼帯連続処理ラインにおいては、鋼帯をコイルに巻き取る設備として、通常、図1に示すように、第1テンンションリール11と第2テンンションリール21の2機のテンンションリールを備えている。なお、図1において、12は第1テンンションリール用デフレクターロール(第1デフレクターロール)、13は第1デフレクターロール12に対向する第1テンンションリール用ピンチロール(第1ピンチロール)、22は第2テンンションリール用デフレクターロール(第2デフレクターロール)、23は第2デフレクターロール22に対向する第2テンンションリール用ピンチロール(第2ピンチロール)である。
【0003】
そして、例えば、第1テンンションリール11での鋼帯1の巻き取り長が製品長に達した場合、シャー2によって鋼帯1を切断し、使用するテンションリールを第2テンンションリール21に切り替えることで、連続的に鋼帯1の巻き取りを実施している。
【0004】
その際に、鋼帯1の巻きずれを防止する方法として、EPC(Edge Position Control:幅端部位置制御)を使用している。このEPCは、鋼帯1の幅端部をセンサー(図1では、第1テンンションリール用センサー14、第2テンンションリール用センサー24)によって把握し、その情報に基づいて、テンションリール(図1では、第1テンンションリール11、第2テンンションリール21)のマンドレルを幅方向に移動させることで巻きずれを防止するものである。
【0005】
しかし、EPCは、鋼帯1に充分な張力が掛かっている場合は有効であるが、シャー2で切断後の鋼帯1における張力は0となるため、センサー14、24の位置に至るまでに鋼帯1の形状により蛇行が発生した場合、EPCのみでは充分に巻きずれの防止ができなくなる。このため、コイルの外巻きに巻きずれが発生する。
【0006】
そこで、このようなシャーで切断後に発生する巻きずれを防止する技術として、これまで以下のようなものが提案されている。
【0007】
すなわち、特許文献1には、シャーとデフレクターロールの間に傾動式シュータと鋼帯尾端の拘束装置を設置し、シャーでの切断直前から拘束装置で鋼帯尾端を拘束することで巻きずれを防止しようとする技術が提案されている。
【0008】
また、特許文献2には、シャーとデフレクターロールの間に一対の小径縦ロールを鋼帯幅方向に移動可能に設置し、シャーでの切断で張力が無くなった鋼帯を小径縦ロールでガイドすることで巻きずれを防止しようとする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−175713号公報
【特許文献2】特開2006−281248号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日本鉄鋼協会編、「第3版 鉄鋼便覧 第III巻(1) 圧延基礎・鋼板」、昭和55年5月15日、p394〜395
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1、2に記載の技術は、鋼帯を拘束する拘束装置や小径縦ロールを設置する費用や制御システムが必要であり、煩雑である。
【0012】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、連続焼鈍ライン等の鋼帯連続処理ラインにおいて、鋼帯をテンションリールに巻き取る際に、シャーで切断後の鋼帯の巻きずれを簡便かつ的確に防止することができる鋼帯の巻きずれ防止方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0014】
[1]鋼帯をテンションリールに巻き取るに際して、テンションリールの上流側に設置されるデフレクターロールに対向するピンチロールとして、ロール幅中央部とロール幅端部にそれぞれ平坦部を備えたロールを用い、そのロール幅中央の平坦部の半径(Rc)とロール幅端部の平坦部の半径(Re)との差(ΔR=Rc−Re)を、鋼帯の耳伸び量およびハイスポット量の最大値を超える値とするとともに、ロール幅中央部の平坦部の幅を、当該ピンチロールを通過する最小幅の鋼帯における耳伸びの発生領域に掛からない幅とすることを特徴とする鋼帯の巻きずれ防止方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、連続焼鈍ライン等の鋼帯連続処理ラインで鋼帯をテンションリールに巻き取る際に、シャーで切断後の鋼帯の巻きずれを簡便かつ的確に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態における鋼帯の巻き取り設備を示す図である。
【図2】鋼帯の断面プロフィルを比較した図である。
【図3】本発明の実施形態1におけるピンチロールを示す図である。
【図4】耳伸び量の測定方法を示す図である。
【図5】ハイスポット量の測定方法を示す図である。
【図6】本発明の実施形態2におけるピンチロールを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
[実施形態1]
まず、本発明の実施形態1において対象とする鋼帯の巻き取り設備は、前述の図1に示したものである。すなわち、連続焼鈍ライン等の鋼帯連続処理ラインに設置されて、第1テンンションリール11と第2テンンションリール21の2機のテンンションリールを備えており、第1テンンションリール用に、第1デフレクターロール12と、第1デフレクターロール12に対向する第1ピンチロール13を有し、第2テンンションリール用に、第2デフレクターロール22と、第2デフレクターロール22に対向する第2ピンチロール23を有している。
【0019】
そして、例えば、第1テンンションリール11での鋼帯1の巻き取り長が製品長に達した場合、シャー2によって鋼帯1を切断し、使用するテンションリールを第2テンンションリール21に切り替えることで、連続的に鋼帯1の巻き取りを実施している。
【0020】
その際に、シャー2で切断前の鋼帯1の巻きずれを防止するために、EPC(Edge Position Control:幅端部位置制御)を行い、鋼帯1の幅端部をセンサー(第1センサー14、第2センサー24)によって把握し、その情報に基づいて、テンションリール(第1テンンションリール11、第2テンンションリール21)のマンドレルを幅方向に移動させるようにしている。
【0021】
その上で、この実施形態1においては、シャー2で切断後の鋼帯1の巻きずれを防止するために、ピンチロール(第1ピンチロール13、第2ピンチロール23)として、ロール幅中央部とロール幅端部にそれぞれ平坦部を備えた凸型ロールを用い、その凸型ロールのロール幅中央部の平坦部の半径(Rc)とロール幅端部の平坦部の半径(Re)との差(ΔR=Rc−Re)を、鋼帯の耳伸び量およびハイスポット量の最大値を超える値とするとともに、ロール幅中央部の平坦部の幅(ロール幅方向長さ)を、当該ピンチロールを通過する最小幅の鋼帯における耳伸びの発生領域に掛からない幅とするようにしている。
【0022】
その詳細を以下に述べる。
【0023】
図2に鋼帯の断面形状(板厚差)を示すが、巻きずれが発生しなかったコイルでは、図2(a)に示すように、鋼帯の両幅端部が鋼帯幅中央部と比較して均等に延びている断面形状であるのに対して、巻きずれが発生したコイルでは、図2(b)に示すように、耳伸びが生じた断面形状、または、図2(c)に示すように、ハイスポット(鋼帯幅方向の局所的な板厚のふくらみ)が生じた断面形状になっている。
【0024】
これに対して、従来、ピンチロール(第1ピンチロール13、第2ピンチロール23)としては、幅方向全長が平坦なロールを使用しているため、シャー2で切断後に鋼帯1の張力が0となった場合、巻きずれが発生したコイルでは、前記のような鋼帯1の幅端部の形状不良部(耳伸び部、ハイスポット部)に作用するピンチロール13、23からの押付圧が変化することで、鋼帯1が蛇行し、巻きずれが発生すると考えられた。
【0025】
そこで、本発明者らは、上記のようにして発生する巻きずれを解消するためには、ピンチロール13、23として、鋼帯幅端部に接触しないロールを使用すれば、鋼帯幅端部の形状の影響を受けずに巻き取りを行うことができ、巻きずれの発生を防止するが可能であると考えた。
【0026】
そして、上記の考え方に基づいて、この実施形態1においては、ピンチロール13、23として、図3に示すような凸型ロール30Aを使用するようにした。
【0027】
その際に、凸型ロール30Aのロール幅中央部の平坦部31の半径Rcとロール幅端部の平坦部32の半径Reの差(ΔR=Rc−Re)については、鋼帯1の蛇行に影響すると考えられる耳伸び量およびハイスポット量に基づいて決定するようにした。
【0028】
ここで、耳伸び量とは、耳伸びにより生じた耳波の波高さをいう。すなわち、非特許文献1に記載されているように、図4における波高さhである。また、ハイスポット量とは、図2(c)に示したように、鋼帯幅方向の局所的な板厚のふくらみ量Hをいう。すなわち、非特許文献1に記載されているように、図5に示した鋼帯の板厚分布において、板厚のふくらみの頂点の板厚Xと板厚のふくらみの裾野の板厚Y、Zとの差である。つまり、H=X−(Y+Z)/2である。
【0029】
そして、この鋼帯巻き取り設備で処理する鋼帯の耳伸び量の分布とハイスポット量の分布から下記の(1)式によって半径差ΔRを決定した。
【0030】
ΔR=α(MAX(耳伸び量hの最大値、ハイスポット量Hの最大値))・・・(1)
ここで、αは補正係数であり、1<α≦3とした。また、MAX(耳伸び量hの最大値、ハイスポット量Hの最大値)では、引数である耳伸び量hの最大値とハイスポット量Hの最大値のうちの最大値を求める。
【0031】
耳伸び量hの最大値およびハイスポット量Hの最大値は、所定期間、鋼帯の巻き取り設備で処理する鋼帯の耳伸び量hとハイスポット量Hの分布を調査して求めることができる。所定期間としては、鋼帯の耳伸び量hとハイスポット量Hの標準的な分布を求めることができる期間とすればよい。
【0032】
例えば、4ヶ月間、鋼帯の巻き取り設備で処理する鋼帯の耳伸び量hとハイスポット量Hの分布を調査した結果、耳伸び量hの最大値は2.4mmであり、ハイスポット量Hの最大値は48μmであったので、(1)式に基づいて半径差ΔRを5mmとした。ちなみに、ここでは、α=2.1にしている。
【0033】
なお、補正係数αを3以下としているのは、半径差ΔRが大きくなり過ぎると、ロール強度上あまり好ましくないからである。
【0034】
また、凸型ロール30Aのロール幅中央部の平坦部31の幅(鋼帯1との接触長さ)Lについては、ピンチロール13、23を通過する最小幅の鋼帯における耳伸びの発生領域に掛からない幅とした。なお、耳伸びは鋼帯端近傍に認められ、ハイスポットは鋼帯幅方向中央部寄りにも認められるものの、鋼帯幅端近傍に多く認められるため、上記のように耳伸びの発生領域に掛からない幅とすることで、過半数の、概ね7割以上のハイスポットが発生する発生領域にも掛からない幅とすることができる。
【0035】
すなわち、最小幅Wminの鋼帯において、耳伸びが発生する領域が当該鋼帯の最幅端からWeまでの領域だとすると、最小幅の鋼帯の幅端が通過する位置と平坦部31の端部の位置との距離ΔLが、ΔL≧Weを満足すればよいので、ロール幅中央部の平坦部31の幅Lを下記の(2)式によって決定した。
【0036】
L≦Wmin−2We ・・・(2)
【0037】
ただし、平坦部31の幅Lが狭くなり過ぎると、通過する鋼帯をピンチする力が弱くなるので、ピンチロール13、23を通過する鋼帯の最大幅Wmaxに対して、下記の(3)式を満たすようにした。
【0038】
L≧Wmax/5 ・・・(3)
【0039】
なお、最小幅Wminの鋼帯における耳伸びの発生領域、すなわち当該鋼帯の最幅端からWeまでの領域は、耳伸び量hとハイスポット量Hの分布を調査するのと同様に、所定期間、最小幅Wminの鋼帯における耳伸びの発生領域の分布を調査して求めることができる。
【0040】
例えば、鋼帯最小幅Wmin=700mm、鋼帯最大幅Wmax=1700mm、耳伸びの発生領域We=50mmであるとすると、平坦部31の幅Lは(2)式、(3)式に基づいて、340mm≦L≦500mmとなる。
【0041】
これによって、凸型ロール30Aが鋼帯1の幅端部に接触しないようになり、鋼帯1の幅端部の形状の影響を受けずに巻き取りを行うことができ、巻きずれの発生を防止することが可能になった。
【0042】
このようにして、この実施形態1においては、連続焼鈍ライン等の鋼帯連続処理ラインで鋼帯1をテンションリール11、21に巻き取る際に、特許文献1、2に記載の技術のような、鋼帯を拘束する拘束装置や小径縦ロールを設置することなく、シャー2で切断後の鋼帯1の巻きずれを簡便かつ的確に防止することができる。
【0043】
[実施形態2]
この実施形態2においては、基本的な構成は上記の実施形態1と同じであるが、ピンチロール13、23として、図3に示した凸型ロール30Aに替えて、図6に示すような台形状ロール30Bを使用するようにしている。
【0044】
すなわち、図6に示すように、台形状ロール30Bは、最小幅の鋼帯が通過する位置と平坦部31の端部の位置との距離ΔLの部分33がテーパ形状になっている。
【0045】
最小幅の鋼帯における耳伸び量の最大値やハイスポット量の最大値が発生する位置が、鋼帯の最幅端の近傍である場合は、ピンチロール13、23を台形状ロール30Bとすることによって、鋼帯1の幅端部に接触しないようにしながら、テーパ部33によって鋼帯1のセンタリング性を高めることができる。
【0046】
これによって、この実施形態2においても、連続焼鈍ライン等の鋼帯連続処理ラインで鋼帯1をテンションリール11、21に巻き取る際に、特許文献1、2に記載の技術のような、鋼帯を拘束する拘束装置や小径縦ロールを設置することなく、シャー2で切断後の鋼帯1の巻きずれを簡便かつ的確に防止することができる。
【実施例1】
【0047】
本発明の実施例1として、図1に示したような鋼帯連続処理ラインにおいて、鋼帯1をテンションリール11、21に巻き取る作業を行った。
【0048】
その際に、本発明例では、上記の本発明の実施形態2に基づいて、ピンチロール(第1ピンチロール13、第2ピンチロール23)として、図6に示した台形状ロール30Bを使用した。
【0049】
その際に、鋼帯最小幅Wmin=700mm、鋼帯最大幅Wmax=1700mm、耳伸びの発生領域We=50mmであったので、台形状ロール30Bにおける半径差ΔR=5.0mm、ロール幅中央部の平坦部31の幅L=500mmとした。
【0050】
これに対して、従来例では、ピンチロール(第1ピンチロール13、第2ピンチロール23)として、幅方向全長が平坦なロールを使用した。
【0051】
その結果、従来例では、処理量のうち約1.50%が巻きずれによって一次不適合となり、次工程での巻き直しが発生したが、本発明例では、巻きずれによる一次不適合が約0.94%に低減した。
【0052】
これによって、本発明の有効性が確認された。
【符号の説明】
【0053】
1 鋼帯
2 シャー
11 第1テンンションリール
12 第1デフレクターロール
13 第1ピンチロール
14 第1センサー
21 第2テンンションリール
22 第2デフレクターロール
23 第2ピンチロール
24 第2センサー
30A 凸型ロール
30B 台形状ロール
31 凸型ロールおよび台形状ロールのロール幅中央部の平坦部
32 凸型ロールおよび台形状ロールのロール幅端部の平坦部
33 台形状ロールのテーパ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯をテンションリールに巻き取るに際して、テンションリールの上流側に設置されるデフレクターロールに対向するピンチロールとして、ロール幅中央部とロール幅端部にそれぞれ平坦部を備えたロールを用い、そのロール幅中央の平坦部の半径(Rc)とロール幅端部の平坦部の半径(Re)との差(ΔR=Rc−Re)を、鋼帯の耳伸び量およびハイスポット量の最大値を超える値とするとともに、ロール幅中央部の平坦部の幅を、当該ピンチロールを通過する最小幅の鋼帯における耳伸びの発生領域に掛からない幅とすることを特徴とする鋼帯の巻きずれ防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−170960(P2012−170960A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32852(P2011−32852)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】