説明

鋼材の大気環境促進腐食試験方法

【課題】鋼材の大気環境促進腐食試験試験方法を提供する。
【解決手段】腐食試験片の被試験面に予め付着させるさびとして、γ−FeOOH粒子および/またはFe粒子を総量で10g/m以上、100g/m以下付着した後に、試験片に連続的な温度変化を与え結露、乾燥を24Hrで1サイクルとし、複数サイクル繰り返して耐食性を評価することを特徴とする鋼材の大気環境促進腐食試験方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の大気環境促進腐食試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐候性鋼は、種々の大気環境で使用され、当該環境で発生するさびによって、耐食効果を期待される鋼材である。その耐食性能は腐食試験で評価される。最も一般的な耐食性評価方法は、実際の環境である屋外での暴露試験である。しかし、当該暴露試験は少なくとも、数年単位の長期間を必要とするために、材料評価の効率が著しく悪いという問題がある。
【0003】
そこで、鋼材の耐食性を短期間で評価するために、種々の促進試験方法が開発されている.
最も多く行われている評価試験方法は,塩水噴霧による腐食促進効果を用いた乾湿繰り返し試験による評価方法であり、特許文献1など多数の方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、エアーバブルなどによって塩分を発生させ、実環境で、直径数から数十の飛来海塩粒子が付着して、結露より凝縮して腐食が加速する機構を再現可能にすると共に、湿度を任意に調整可能とすることにより実環境に近い大気腐食試験をシミュレートできる実環境シミュレート大気腐食試験装置およびその方法が提案されている。
【0005】
特許文献3では、鋼材の表面に硫酸塩を含む水溶液を塗布することにより、早期に耐候性保護さびを形成し、浮きさびや流れさびの発生を防ぐことができる保護性さび生成促進処理方法が提案されている。
【特許文献1】特開2007−139484号公報
【特許文献2】特開2006−258506号公報
【特許文献3】特開2001−115270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示された方法など、高濃度の塩分を供給することによる腐食促進効果を用いた乾湿繰り返し試験では、腐食速度は高くなるものの、高塩分環境で特有なさびの成分が多く生じ、実環境とは、さびの組成が異なるため、さびによる耐食効果を正しく評価することは、困難であった。
【0007】
また、特許文献2に示された方法では、塩分の供給方法を、より現実に近づけてはいるものの、塩分による腐食促進試験には変わりがないという問題がある。
【0008】
一方、特許文献3は、塩分を与えずにさびの生成を促進する技術が開示されているが、さびの成分の中で特定のα−FeOOHの形成のみを促進するものであり、鋼材が持つ耐食性能を評価する目的には使えないという問題がある。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決した鋼材の大気環境促進腐食試験試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記した課題を解決すべく、なされたもので、以下のような構成をとる。
【0011】
第一の発明は、腐食試験片の被試験面に予め付着させるさびとして、γ−FeOOH粒子および/またはFe粒子を総量で10g/m以上、100g/m以下付着した後に、試験片に連続的な温度変化を与え結露、乾燥を24Hrで1サイクルとし、複数サイクル繰り返して耐食性を評価することを特徴とする鋼材の大気環境促進腐食試験方法である。
【0012】
第二の発明は、予め付着させるさびとして、γ−FeOOH粒子とFe粒子との組成比を10:90〜90:10としたことを特徴とする第一の発明に記載の鋼材の大気環境促進腐食試験方法である。
【0013】
第三の発明は、予め付着させるさびとして、γ−FeOOH粒子、Fe粒子に対して、α−FeOOH粒子を組成比で30%以下添加することを特徴とする第一または第二の発明に記載の鋼材の大気環境促進腐食試験方法である。
【0014】
第四の発明は、予め付着させるさびに、Cl量で0.1mass%以下の塩分を添加することを特徴とする第一ないし第三の発明のいずれかに記載の鋼材の大気環境促進腐食試験方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、鋼材のさびを実際の大気環境の腐食メカニズムで早期に形成できるようにしたので、鋼材の耐食性が短期間で精度良く評価出来るようになった。また、短期間で評価できるため、材料開発や実構造物への適用が早期に判断できるという経済上の効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
腐食試験片の被試験面に予め付着させるさびとしてのγ−FeOOH粒子およびFe粒子の添加量は、総量で10g/m以上添加していれば腐食は促進するが、多量に添加してもその効果は飽和するか、若干減少傾向となるので、上限は、100g/m以下の添加とするのが望ましい。
【0017】
γ−FeOOH粒子およびFe粒子は、いずれを添加しても効果はあるが、各々の単体を添加するよりも混合添加したほうが、鋼材のさびの初期形成が促進されるのでγ−FeOOH粒子とFe粒子との組成比は、γ−FeOOH粒子:Fe粒子=10:90〜90:10の範囲となるようにするのが望ましい。
【0018】
鋼材のさびの主成分であるα−FeOOHは、過剰に添加すると腐食促進効果を減少させるが、γ−FeOOH粒子およびFe粒子の総量に対して、組成比で30%以下の添加の場合は、腐食促進に対する阻害要因となることはない。
【0019】
腐食試験片の被試験面に予め付着させるさびにClを添加すると、さびの組成が変化してしまうが、さび中にCl量で0.1mass%以下の添加であれば、塩分を添加しても、さびの耐食効果を損なうことはない。
【実施例1】
【0020】
本願の大気腐食試験方法を述べる。
【0021】
腐食試験片の被試験面に予め付着させるさびは、γ−FeOOH粒子およびFe粒子を粉砕して質量比率を調整して、所定量秤量したのち、混合した。なお一部の試験では、
α−FeOOHやNaClを同様に秤量して混合した。
【0022】
大気腐食試験には、雰囲気を結露、乾燥を繰り返し制御する恒温恒湿槽を用いた。乾湿繰り返しサイクルは、1日の気候変化を想定して24Hr周期で行った。 乾湿の移行時間は1Hrであり、これは12Hrの中に含まれる。従って、1サイクルは、
温度25°、湿度95%で12Hr、次いで温度40°、湿度40%で12Hrとして、大気腐食試験は12周間行った。
【0023】
大気腐食試験後に「付着させたさび」と「鋼材表面に生成したさび」の両方を化学的に取り除いた後に秤量し、大気腐食試験前後の重量減少から、腐食減量を求めた。
さびを全く付着させない場合の腐食量を1として各試験体の腐食比率を求め、これを腐食促進度として、腐食促進度≧4 の場合を基準として腐食促進度を判定した。
【0024】
表1は、予め付着させるγ−FeOOH粒子およびFe粒子の総量とその比率の影響を調べた結果である。
【0025】
No.1〜28の本発明例では、予め付着させるさび量(γ−FeOOH粒子、Fe粒子の総量)をNo.1〜7、No.8〜14、No.15〜21、No.22〜28のグループに分けて、その量を徐々に増加させて腐食促進度を判定した。
【0026】
予め付着させるさび量が増えると腐食促進度は増える傾向になるが、付着量40〜90g/m2では腐食促進度はほぼ安定した値となっている。また、No.1、7、8、14、15、21、22、28に示すように、γ−FeOOH粒子とFe粒子は単独添加よりも複合添加するほうが腐食促進度は増える傾向にあり、γ−FeOOH粒子とFe粒子は複合添加がより好ましいことがわかる。
【0027】
No.1〜28は、本発明の範囲に属するので腐食促進度はいずれも4以上の値が得られた。
【0028】
一方、比較例として、No.29にγ−FeOOH粒子とFe粒子を全く付着させない例を、No.30にはγ−FeOOH粒子とFe粒子を全く付着させないが、α−FeOOH粒子を付着させた例を示す。いずれも、本発明の範囲外であるので、腐食促進の効果は得られなかった。 同じく比較例として、No.31〜44は、γ−FeOOH粒子とFe粒子の総量がいずれも本発明の範囲外であるので、腐食促進の効果は得られなかった。
【0029】
【表1】

【0030】
表2は、α−FeOOH粒子の添加の影響、塩分添加の影響を調べた結果である。
【0031】
No.51〜68の本発明例において、No.51〜59はα−FeOOH粒子の添加の腐食促進度に与える影響を調べたもので、予め付着させるさび量をNo.51〜53、No.54〜56、No.57〜59のグループに分けて、その量を徐々に増加させて、α−FeOOH粒子を10〜30%付着させた例を示す。α−FeOOH粒子の添加量が30%以下であれば、どのグループにおいても腐食促進の効果を阻害する影響は出ていないことが分かる。
【0032】
同様に、No.60〜68についてもNo.60〜62、No.63〜65、No.66〜68の3グループについて、Cl濃度を3レベル設定して、塩分添加の影響を調べた。
【0033】
塩分を添加するといずれのグループとも腐食が促進する傾向にあるので、Cl量は,0.1mass%以下とした。
【0034】
比較例として、No.69にγ−FeOOH粒子とFe粒子を全く付着させない例を示す。このサンプルの腐食量を基準として腐食促進度を算定した。
【0035】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食試験片の被試験面に予め付着させるさびとして、γ−FeOOH粒子および/またはFe粒子を総量で10g/m以上、100g/m以下付着した後に、試験片に連続的な温度変化を与え結露、乾燥を24Hrで1サイクルとし、複数サイクル繰り返して耐食性を評価することを特徴とする鋼材の大気環境促進腐食試験方法。
【請求項2】
予め付着させるさびとして、γ−FeOOH粒子とFe粒子との組成比を10:90〜90:10としたことを特徴とする請求項1記載の鋼材の大気環境促進腐食試験方法。
【請求項3】
予め付着させるさびとして、γ−FeOOH粒子、Fe粒子に対して、α−FeOOH粒子を組成比で30%以下添加することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の鋼材の大気環境促進腐食試験方法。
【請求項4】
予め付着させるさびに、Cl量で0.1mass%以下の塩分を添加することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の鋼材の大気環境促進腐食試験方法。

【公開番号】特開2010−122085(P2010−122085A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296337(P2008−296337)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】