説明

鋼構造物の補強方法及び鋼構造物補強用積層材

【課題】温度変化により鋼構造物表面に接着される強化繊維含有材料と鋼材表面との間に発生する熱応力を低減し、十分な補強効果を得ることができる鋼構造物の補強方法、及び、鋼構造物補強用積層材を提供する。
【解決手段】鋼構造物200を構成する鋼材の表面に補強材100を接着剤110にて接着する鋼構造物の補強方法において、補強材100は、鋼構造物200を構成する鋼材より線膨張係数が小さい強化繊維含有材料1と、鋼材より線膨張係数が大きな合金板10とにて構成され、鋼材表面に強化繊維含有材料1と合金板10とを交互に少なくとも1層づつは接着剤110にて接着して積層し、鋼材の温度変化により鋼材、及び、補強材1と鋼材との接着界面に発生する熱応力を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続した強化繊維を含むシート状或いはプレート状の強化繊維含有材料を使用して、橋梁、建築、機械等の鋼構造物を補修補強(以後、単に「補強」という。)する鋼構造物の補強方法、及び、鋼構造物補強用の積層材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、補強対象構造物の鋼材表面に鋼板を溶接若しくは高力ボルトにより添接し既設鋼材の応力度を低減する工法が実施されている。ただ、この工法は、溶接や孔開けが必要で補強鋼板の重量があるため工事が大掛かりとなり、また、溶接による残留応力や孔開けによる断面欠損など構造上弱点となる可能性がある。
【0003】
そこで、近年、溶接や孔開けが不要で工事が簡便であるという理由から、補強対象構造物の鋼材表面に強化繊維含有材料を接着剤で張り付け既設鋼材の応力度を低減する工法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−193425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、強化繊維含有材料を鋼構造物に接着剤で張り付ける補強方法は、利点として、材料が軽量であるので施工時のハンドリングが容易であること、接着するだけで補強できるので、鋼材にボルト孔を設けるなど特殊な加工が必要ないことが挙げられる。
【0006】
しかしながら、例えば、強化繊維含有材料として、例えば、炭素繊維に樹脂を含浸して硬化した炭素繊維強化樹脂板(以下、「CFRP板」という。)は、線膨張係数がほぼ0μ/℃であるため、温度変化を受けるとCFRP板が接着された鋼材には内部応力(即ち、熱応力)が生じる。鋼材に生じる応力を低減させるための補強工法としてCFRP板が接着されるので、温度変化を受けて鋼材に熱応力が生じることは好ましくない。
【0007】
そこで、本発明者らは、多くの研究実験を行った結果、鋼材より線膨張係数が大きい、例えば、線膨張係数が鋼の約2倍のアルミニウム合金板をCFRP板と共に鋼板に接着することにより、温度変化によって鋼板に生じる熱応力、及び、鋼板と補強材(CFRP板+アルミニウム合金板)との接着界面に生じる熱応力を低減させる得ることを見出した。
【0008】
本発明は、斯かる本発明者らの新規な知見に基づくものである。
【0009】
本発明の目的は、温度変化により鋼構造物表面に接着される補強材と鋼材表面との接着界面に発生する熱応力、及び、鋼材に発生する熱応力を低減し、十分な補強効果を得ることができる鋼構造物の補強方法、及び、鋼構造物補強用積層材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は本発明に係る鋼構造物の補強方法及び鋼構造物補強用積層材にて達成される。要約すれば、第1の本発明によれば、鋼構造物を構成する鋼材の表面に補強材を接着剤にて接着する鋼構造物の補強方法において、
前記補強材は、鋼構造物を構成する鋼材より線膨張係数が小さい強化繊維含有材料と、鋼材より線膨張係数が大きな合金板とにて構成され、
前記鋼材表面に前記強化繊維含有材料と前記合金板とを交互に少なくとも1層づつは接着剤にて接着して積層し、前記鋼材の温度変化により前記鋼材、及び、前記補強材と前記鋼材との接着界面に発生する熱応力を低減することを特徴とする鋼構造物の補強方法が提供される。
【0011】
第2の本発明によれば、鋼構造物を構成する鋼材の表面に補強材を接着剤にて接着する鋼構造物の補強方法において、
前記補強材は、鋼構造物を構成する鋼材より線膨張係数が小さい強化繊維含有材料と、鋼材より線膨張係数が大きな合金板とを交互に少なくとも1層づつは接着剤にて接着して一体に積層して構成され、
前記補強材を前記鋼材の表面に接着剤にて接着し、前記鋼材の温度変化により前記鋼材、及び、前記補強材と前記鋼材との接着界面に発生する熱応力を低減することを特徴とする鋼構造物の補強方法が提供される。
【0012】
第3の本発明によれば、鋼構造物を構成する鋼材の表面に接着剤にて接着して鋼構造物を補強するための鋼構造物補強用積層材であって、
鋼構造物を構成する鋼材より線膨張係数が小さい強化繊維含有材料と、鋼材より線膨張係数が大きな合金板とを交互に少なくとも1層づつは接着剤にて接着して一体に積層されたことを特徴とする鋼構造物補強用積層材が提供される。
【0013】
上記本発明の一実施態様によると、前記補強材又は前記鋼構造物補強用積層材は、前記強化繊維含有材料、前記合金板及び前記強化繊維含有材料の少なくとも3層を有している。また、前記強化繊維含有材料が前記鋼材表面に接着される。
【0014】
本発明の他の実施態様によると、前記補強材又は前記鋼構造物補強用積層材は、前記合金板、前記強化繊維含有材料及び前記合金板の少なくとも3層を有している。また、前記合金板が前記鋼材表面に接着される。
【0015】
本発明の他の実施態様によると、前記鋼材の線膨張係数(αs)は、10(μ/℃)≦αs≦12(μ/℃)であり、前記鋼材に接着された前記強化繊維含有材料の線膨張係数(αf)は、−15(μ/℃)≦αf<αsであり、前記合金板の線膨張係数(αa)は、αs<αa≦30(μ/℃)である。
【0016】
本発明の他の実施態様によると、前記鋼材に接着された前記強化繊維含有材料(FRP板)及び前記合金板の各層の厚さは、下記式にて算定される。
【0017】
【数1】

【0018】
本発明の他の実施態様によると、前記強化繊維含有材料は、一方向に引き揃えた連続した強化繊維を互いに線材固定材にて固定した繊維シートで作製されるか、又は、強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、線材を互いに線材固定材にて固定した繊維シートで作製されるか、又は、一方向に引き揃えた連続した強化繊維シートに樹脂が含浸され、前記樹脂が硬化された繊維強化樹脂板である。
【0019】
本発明の他の実施態様によると、前記合金板は、アルミニウム合金、ステンレス合金、又は、マグネシウム合金である。
【0020】
本発明の他の実施態様によると、前記強化繊維含有材料の強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維などの無機繊維、又は、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用され、
前記強化繊維含有材料に含浸されるマトリクス樹脂及び前記接着剤は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ナイロン、ビニロンなどの熱可塑性樹脂である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の鋼構造物の補強方法、及び、鋼構造物補強用積層材によれば、温度変化により鋼構造物表面に接着される補強材と鋼材表面との接着界面に発生する熱応力、及び、鋼材に発生する熱応力を低減し、十分な補強効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の鋼構造物の補強方法の実施例を説明するための断面図である。
【図2】本発明の鋼構造物の補強方法に使用する強化繊維含有材料を作製するための繊維シートの一実施例を示す図である。
【図3】本発明の鋼構造物の補強方法に使用する強化繊維含有材料を作製するための繊維強化樹脂板の一実施例を示す図である。
【図4】本発明の鋼構造物の補強方法に使用する強化繊維含有材料を作製するための繊維シートの他の実施例を示す斜視図である。
【図5】図4に示す繊維シートを構成する繊維強化プラスチック線材の断面図である。
【図6】本発明の鋼構造物の補強方法に使用する強化繊維含有材料を作製するための繊維シートの他の実施例を示す斜視図である。
【図7】本発明の鋼構造物の補強方法に使用する合金板の一実施例を示す斜視図である。
【図8】本発明の鋼構造物の補強方法の一実施例を説明する工程図である。
【図9】本発明の鋼構造物の補強方法の他の実施例を説明する工程図である。
【図10】本発明の鋼構造物の補強方法を実証するための種々の試験体の構成を説明する図である。
【図11】本発明に従って補強された試験体の温度変化試験におけるひずみゲージの取付け位置を説明する図である。
【図12】本発明と比較するために従来方法にて補強された試験体に生じる熱応力を示す図である。
【図13】本発明と比較するために従来方法にて補強された試験体に生じる熱応力を示す図である。
【図14】本発明に従って補強された試験体に生じる熱応力を示す図である。
【図15】本発明に従って補強された試験体に生じる熱応力を示す図である。
【図16】本発明に従って補強された試験体に生じる熱応力を示す図である。
【図17】図17(a)は本発明に従って複数の補強板にて補強された試験体の側面図であり、図17(b)は断面図である。
【図18】本発明に従って複数の補強板にて補強された試験体における鋼板の微小区間の水平方向の力のつり合いを説明する図である。
【図19】図19(a)、(b)は本発明と比較するために従来方法にて補強された試験体の接着剤に生じるせん断力の分布を示す図であり、図19(c)は本発明に従って補強された試験体の接着剤に生じるせん断力の分布を示す図である。
【図20】図20(a)、(b)は本発明に従って補強された試験体の接着剤に生じるせん断力の分布を示す図である。
【図21】図21(a)、(b)は本発明に従って補強された試験体における積層数と、熱応力及び接着剤に生じるせん断力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る鋼構造物の補強方法及び鋼構造物補強用積層材を図面に則して更に詳しく説明する。
【0024】
図1(a)、(b)を参照すると、本発明に係る鋼構造物の補強方法によれば、所定の厚さ(T)、例えば、1〜50mm厚の鋼材とされるような鋼構造物200に対して、少なくとも一側の鋼材表面に鋼構造物補強材100が接着剤110により接着されて一体化される。
【0025】
鋼構造物補強材100は、鋼構造物を構成する鋼材200より線膨張係数が小さいシート状或いはプレート状とされる強化繊維含有材料1と、鋼材200より線膨張係数が大きな合金板10とにて構成される。補強材100は、強化繊維含有材料1か又は合金板10のいずれか一方の部材を鋼材200の表面に接着剤110にて接着し、次いで、他方の部材を前記一方の部材に積層して、必要に応じて更に前記部材を交互に積層して接着剤110にて接着する。又は、予め、所定の層数の強化繊維含有材料1と合金板10を接着剤110で交互に積層して一体とした積層材とされ、この補強積層材が鋼材表面に接着剤で接着される。図1(a)では、強化繊維含有材料1が鋼材表面に接着され、図1(b)では、合金板10が鋼材表面に接着された態様を示す。
【0026】
本発明の特徴は、温度変化により鋼材200に発生する熱応力、及び、鋼構造物補強材100と鋼材200との接着界面に発生する熱応力を低減することにある。そのために、強化繊維含有材料1と合金板10との積層構造とされる鋼構造物補強材100を鋼材表面に接着剤110にて一体的に接着し、鋼材200の温度変化により、鋼材200、及び、鋼構造物補強材100と鋼材200の接着界面に発生する熱応力を低減する。
【0027】
先ず、本発明にて使用する各材料について説明する。
【0028】
(鋼構造物補強材)
鋼構造物補強材100は、上述のように、鋼材より線膨張係数が小さい強化繊維含有材料1と、鋼材より線膨張係数が大きな合金板10とを交互に、少なくとも1層づつは含むようにして積層される。通常、鋼材は、その線膨張係数(αs)が、10(μ/℃)≦αs≦12(μ/℃)とされる。従って、強化繊維含有材料1は、含有した強化繊維自体の線膨張係数(αft)は−15(μ/℃)≦αft<αsとされ、また、マトリクス樹脂自体の線膨張係数(αfm)は、通常、30(μ/℃)≦αfm≦150(μ/℃)されるが、マトリクス樹脂含浸硬化された状態での強化繊維含有材料自体の線膨張係数(αf)は、−15(μ/℃)≦αf<αsとされる。また、強化繊維含有材料1の厚さ(tf)は、0.1〜2mmとされる。また、合金板1は、線膨張係数(αa)は、αs<αa≦30(μ/℃)とされ、厚さ(ta)は、0.5〜5mmとされる。接着剤110の層厚(ts)は、100〜1000μmとされる。
【0029】
(1)強化繊維含有材料
本発明においては種々の形態の強化繊維含有材料1を使用することができる。強化繊維含有材料1の実施例を以下に具体例1〜3として説明するが、本発明で使用する強化繊維含有材料1の形態は、これら具体例に示すものに限定されるものではない。
【0030】
具体例1
図2に、本発明にて使用することのできる強化繊維含有材料1の一実施例を示す。強化繊維含有材料1は、連続した強化繊維fを一方向に引き揃えてシート状に構成される樹脂未含浸の繊維シート1Aとされる。樹脂未含浸の繊維シート1Aは、補強工程において樹脂含浸されるが、繊維シート1Aの厚さは、0.1〜0.3mmとされる。繊維シート1Aは、所望に応じて複数枚積層して使用される。
【0031】
更に説明すると、繊維シート1Aは、一方向に引き揃えた連続した強化繊維fから成る強化繊維シートをメッシュ状の支持体シートなどとされる線材固定材3にて保持した構成とすることができる。例えば、強化繊維fとして炭素繊維を使用した場合には、例えば平均径7μmの単繊維(炭素繊維モノフィラメント)fを6000〜24000本収束した樹脂未含浸の単繊維束を複数本、一方向に平行に引き揃えて使用される。炭素繊維シート1Aの繊維目付は、通常、30〜1000g/m2とされる。
【0032】
線材固定材3としてのメッシュ状の支持体シートを構成する縦糸4及び横糸5の表面に低融点タイプの熱可塑性樹脂を予め含浸させておき、メッシュ状支持体シート3をシート状に配列した炭素繊維の片面或いは両面に積層して加熱加圧し、メッシュ状支持体シート3の縦糸4及び横糸5の部分を炭素繊維シートに溶着する。
【0033】
メッシュ状支持体シート3は、2軸構成のほかに、ガラス繊維を3軸に配向して形成したり、或いは、ガラス繊維を一方向に配列された炭素繊維に対して直交する横糸5のみを配置した、所謂、1軸に配向して形成して前記シート状に引き揃えた炭素繊維に接着することもできる。
【0034】
又、上記線材固定材3の糸条としては、例えばガラス繊維を芯部に有し、低融点の熱融着性ポリエステルをその周囲に配したような二重構造の複合繊維も又好ましく用いられる。
【0035】
具体例2
また、強化繊維含有材料1は、図3に示すように、複数の強化繊維fを一方向に引き揃えた強化繊維シート、例えば、図2に示すような繊維シート1Aを1枚或いは複数枚積層して、樹脂Reを含浸し、前記樹脂が硬化されたプレート状の繊維強化樹脂板(以下、「FRP板」という。)1Bとすることもできる。通常、繊維強化樹脂板1Bは、厚さが、0.1〜2mmとされるが、これに限定されるものではない。
【0036】
上記具体例1、2で説明した繊維シート1A、繊維強化樹脂板1Bにおいて、強化繊維fは、炭素繊維に限定されるものではなく、その他、ガラス繊維、バサルト繊維などの無機繊維、更には、アラミド繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)繊維、ポリアミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリエステル繊維などの有機繊維が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することができる。
【0037】
また、具体例2における繊維強化樹脂板1Bの場合の樹脂Reとしては、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、ナイロン、ビニロンなどが好適に使用可能である。又、樹脂含浸量は、30〜70重量%、好ましくは、40〜60重量%とされる。
【0038】
具体例3
更には、図4及び図5に示すように、強化繊維含有材料1としては、マトリクス樹脂Rが含浸され硬化された細径の連続した繊維強化プラスチック線材2を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、各線材2を互いに線材固定材3にて固定した繊維シート1Cを使用することもできる。
【0039】
繊維強化プラスチック線材2は、直径(d)が0.5〜3mmの略円形断面形状(図5(a))であるか、又は、幅(w)が1〜10mm、厚み(t)が0.1〜2mmとされる略矩形断面形状(図5(b))とし得る。勿論、必要に応じて、その他の種々の断面形状とすることができる。
【0040】
上述のように、一方向に引き揃えスダレ状とされた繊維シート1Cにおいて、各線材2は、互いに空隙(g)=0.05〜3.0mmだけ近接離間して、線材固定材3にて固定される。また、このようにして形成された繊維シート1Cの長さ(Lf)及び幅(Wf)は、補強される構造物の寸法、形状に応じて適宜決定されるが、取扱い上の問題から、一般に、全幅(Wf)は、100〜1000mmとされる。又、長さ(Lf)は、1〜5m程度の短冊状のもの、或いは、100m以上のものを製造し得るが、使用時においては、適宜切断して使用される。
【0041】
また、繊維シート1Cの長さ(Lf)を1〜5m程度として、幅Wfをこれより長く1〜10m程度として製造することも可能である。繊維シート1Cの厚さtfは、0.1〜2mmとされるが、これに限定されるものではない。
【0042】
繊維シート1Cの場合においても、強化繊維fとしては、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維などの無機繊維、更には、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用することができる。また、繊維強化プラスチック線材2に含浸されるマトリクス樹脂Rは、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができ、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、ナイロン、ビニロンなどが好適に使用可能である。又、樹脂含浸量は、30〜70重量%、好ましくは、40〜60重量%とされる。
【0043】
又、各線材2を線材固定材3にて固定する方法としては、図4に示すように、例えば、線材固定材3として横糸を使用し、一方向にスダレ状に配列された複数本の線材2から成るシート形態とされる線材、即ち、連続した線材シートを、線材に対して直交して一定の間隔(P)にて打ち込み、編み付ける方法を採用し得る。横糸3の打ち込み間隔(P)は、特に制限されないが、作製された繊維シート1の取り扱い性を考慮して、通常10〜100mm間隔の範囲で選定される。
【0044】
このとき、横糸3は、例えば直径2〜50μmのガラス繊維或いは有機繊維を複数本束ねた糸条とされる。又、有機繊維としては、ナイロン、ビニロンなどが好適に使用される。
【0045】
各線材2をスダレ状に固定する他の方法としては、図6(a)に示すように、線材固定材3としてメッシュ状支持体シートを使用することができる。
【0046】
つまり、シート形態を成すスダレ状に引き揃えた複数本の線材2、即ち、線材シートの片側面、又は、両面を、例えば直径2〜50μmのガラス繊維或いは有機繊維にて作製した、上記具体例1で説明したと同様の構成とされるメッシュ状の支持体シート3により支持した構成とすることもできる。
【0047】
更に、各線材2をスダレ状に固定する他の方法としては、図6(b)に示すように、線材固定材3として、例えば、粘着テープ又は接着テープなどとされる可撓性帯材を使用することができる。可撓性帯材3は、シート形態を成すスダレ状に引き揃えた各繊維強化プラスチック線材2の長手方向に対して垂直方向に、複数本の繊維強化プラスチック線材2の片側面、又は、両面を貼り付けて固定する。
【0048】
つまり、可撓性帯材3として、幅(w1)2〜30mm程度の、塩化ビニルテープ、紙テープ、布テープ、不織布テープなどの粘着テープ又は接着テープが使用される。これらテープ3を、通常、10〜100mm間隔(P)で各繊維強化プラスチック線材2の長手方向に対して垂直方向に貼り付ける。
【0049】
更に、可撓性帯材3としては、ナイロン、EVA樹脂などの熱可塑性樹脂を帯状に、線材2の長手方向に対して垂直方向に片側面、又は、両面に熱融着させることによっても達成される。
【0050】
(2)合金板
図1、図2に示す補強材100を構成する合金板10は、アルミニウム合金、ステンレス合金、マグネシウム合金、などとされる。図7に示すように、合金板10の長さ(La)及び幅(Wa)は、補強される鋼構造物200の寸法、形状に応じて適宜決定される。合金板10の厚さ(ta)は、0.5〜5mmとされるが、この厚さに限定されるものではない。
【0051】
(3)接着剤
補強材100を鋼材表面に接着する接着剤110、及び、強化繊維含有材料1と合金板10とを接着する接着剤110は、上記強化繊維含有材料1に含浸されるマトリクス樹脂と同じとすることができ、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を使用することができる。例えば、熱硬化性樹脂としては、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などが好適に使用され、又、熱可塑性樹脂としては、ナイロン、ビニロンなどが好適に使用可能である。上述のように、接着剤110の層厚(ts)は、100〜1000μmの範囲とされる。
【0052】
(補強方法)
本発明によれば、上記構成とされる強化繊維含有材料1及び合金板10を交互に順次、鋼構造物200の表面に積層しながら接着するか、或いは、強化繊維含有材料1及び合金板10を予め接着剤にて積層して一体化した補強用積層材を補強材100として、この補強用積層材100を鋼構造物200の表面に接着して、鋼構造物200の補強を行うことができる。
【0053】
本発明に係る鋼構造物の補強方法の実施例を具体例1、2について説明する。
【0054】
具体例1
本発明の鋼構造物の補強方法によれば、例えば、強化繊維含有材料1として、上記強化繊維含有材料具体例1で説明した強化繊維fを一方向に引き揃えて作製された繊維シート1Aを使用することができ、鋼構造物200の表面上に接着剤110にて接着して一体化する。
【0055】
鋼構造物200の補強に際して、曲げモーメント及び軸力を主として受ける部材(構造物)に対しては、曲げモーメントにより生じる引張応力或いは圧縮応力の主応力方向に強化繊維の配向方向を概ね一致させて接着することで、繊維シート1Aが効果的に応力を負担し、効率的に構造物の耐荷力を向上させることが可能である。
【0056】
また、直交する2方向に曲げモーメントが作用する場合、繊維シート1Aの強化繊維fの配向方向が曲げモーメントにより生じる主応力に概ね一致するように2層以上の繊維シート1Aを直交させて積層接着することで効率的に耐荷力の向上が図れる。
【0057】
次に、図8を参照して、本発明に係る鋼構造物の補強方法の具体例1について更に説明する。
【0058】
(第1工程)
図8(a)、(b)に示すように、鋼構造物200の被補強面(即ち、被接着面)201の脆弱部201aを、ディスクサンダー、サンドブラスト、スチールショットブラスト、ウォータージェットなどの研削手段50により除去し、鋼構造物200の被接着面201を適度な粗度を持つ面202となるように下地処理をする。
【0059】
(第2工程)
下地処理した面202にエポキシ樹脂プライマー203を塗布する(図8(c))。プライマー203としては、エポキシ樹脂系に限ることなくMMA系樹脂など被補強鋼構造物200の材質に合わせて適宜選定される。
【0060】
なお、プライマー203の塗布工程は、省略することも可能である。
【0061】
(第3工程)
次いで、図8(d1)に示すように、鋼材表面上に接着剤110を塗布し、この面に、繊維シート1Aを押し付けて補強対象鋼構造物200の表面202に繊維シート1Aを接着する。本例では、樹脂未含浸の繊維シート1Aを使用しているために、接着剤(樹脂)は、その一部がマトリクス樹脂として繊維シート1Aに含浸される。勿論、現場で樹脂含浸した繊維シート1Aを鋼構造物表面202上に押え付け接着してもよい。
【0062】
繊維シート1Aへの樹脂含浸量は、上述のように、30〜70重量%、好ましくは、40〜60重量%とされる。
【0063】
その後、図8(e1)に示すように、樹脂含浸された繊維シート1A(即ち、強化繊維含有材料1)の上に、必要に応じて、更に接着剤110を追加塗布して、合金板、例えば、アルミ合金板10を押し付けて接着する。
【0064】
また、別法として、図8(d2)に示すように、鋼材表面202上に接着剤110を塗布し、この面に、先ず、例えばアルミ合金板のような合金板10を押し付けて補強対象鋼構造物200の表面202に合金板10を接着する。その後、図8(e2)に示すように、合金板10の上に接着剤110を塗布し、その上に、繊維シート1Aを押し付けて接着する。勿論、現場で樹脂含浸した繊維シート1Aを合金板10上に押し付けて接着してもよい。
【0065】
使用される接着剤110としては、上述の繊維シート1Aに含浸されるマトリクス樹脂と同様のものが使用され、特に、常温硬化型エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、アクリル樹脂、MMA樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ビニルエステル樹脂、光硬化型樹脂等が挙げられ、具体的には、常温硬化型エポキシ樹脂及びMMA樹脂が好適とされる。本実施例では、エポキシ樹脂を使用した。
【0066】
上記補強作業により、図8(f1)、(f2)に示すように、鋼材表面202に強化繊維含有材料1と合金板10を少なくとも1層ずつ積層して構成される2層構成の補強材100が一体的に接着され、鋼構造物200が補強される。
【0067】
更に、必要に応じて、図8(g1)、(g2)に示すように、更に、上述した強化繊維含有材料1又は合金板10を交互に積層することにより、強化繊維含有材料1と合金板10をそれぞれ複数層備えた補強材100による鋼材補強が可能である。
【0068】
また、上記補強方法具体例1の説明では、強化繊維含有材料1と合金板10とを各々交互に、鋼材表面上へ接着剤を介して積層しながら補強材100による鋼材補強を行なうものとしたが、図9(a)に示すように、予め、強化繊維含有材料1と合金板10を互いに接着剤110にて一体に接着した積層物を形成し、この積層物からなる補強材(補強用積層材)100を、図9(d11)に示すように、鋼材表面202上に接着剤110を塗布し、補強材100の強化繊維含有材料1の側を接着するか、或いは、図9(d12)に示すように、補強材100の合金板10の側を押し付けて接着することもできる。このとき、補強用積層材100を構成する強化繊維含有材料1は、通常、樹脂が含浸され、硬化された繊維強化樹脂板(即ち、FRP板)1Bとされるが、樹脂未含浸の繊維シート1Aであってもよい。樹脂未含浸繊維シート1Aの場合は、接着時に接着剤がマトリクス樹脂として繊維シート1Aに含浸される。
【0069】
具体例2
上記補強方法具体例1では、鋼材表面202に強化繊維含有材料1と合金板10にて構成される2層構成の補強材100を接着して補強する態様について説明したが、本発明で使用する補強材の積層構成は、これに限定されるものではない。
【0070】
例えば、図8(g1)に示すように、鋼材表面に積層する補強材100は、強化繊維含有材料1、合金板10、強化繊維含有材料1の3層構成とすることもでき、この場合は、硬化繊維含有材料1が鋼材表面202に接着されることとなる。
【0071】
更には、図8(g2)に示すように、鋼材表面に積層する補強材100は、合金板10、強化繊維含有材料1、合金板10の3層構成とすることもでき、この場合は、合金板10が鋼材表面202に接着されることとなる。
【0072】
これら積層構成の補強材100の上に、更に、強化繊維含有材料1或いは合金板10を重ねて積層することができる。積層数(N)は、必要とされる鋼板補強程度によって適宜決定される。
【0073】
上記構成とされる本発明の補強方法によれば、強化繊維含有材料1と合金板10が接着され一体となった補強材100の線膨張係数を、鋼板200の線膨張係数に近づけることによって、補強材100が接着された鋼板200に生じる熱応力、及び、補強材100と鋼板200との接着界面に生じる熱応力を小さくすることができる。この点について、次に詳しく説明する。
【0074】
一般に、樹脂(マトリクス樹脂)含浸済みの強化繊維含有材料1、即ち、繊維強化樹脂板(FRP板)においては、強化繊維含有率を変化させることにより、FRP板の線膨張係数を任意に設定することができる。
【0075】
しかし、強化繊維含有材料(FRP板)1は、マトリクス樹脂のヤング率が強化繊維と比べて非常に小さいので、FRP板の線膨張係数を鋼と同程度にすると、繊維含有率が小さくなり、力学的性質が乏しくなる。そこで、鋼板に生じる熱応力、及び、FRP板と鋼板との接着界面に生じる熱応力を低減させる方法として、本発明では、FRP板1に加え、例えば、ヤング率70GPa、線膨張係数23μ/℃とされるアルミニウム合金板のような合金板10を鋼板200に接着することとした。
【0076】
つまり、FRP板1と合金板10が接着され一体となった補強材(補強用積層材)100の線膨張係数を、鋼板200の線膨張係数に近づけることによって、FRP板1と合金板10の積層材(補強材)100が接着された鋼板200に生じる熱応力、及び、補強材100と鋼板200との接着界面に生じる熱応力を小さくすることができる。
【0077】
FRP板1と合金板10が接着され、一体となった補強材100の線膨張係数ανは、各FRP板1と各合金板10の熱伸縮による内力のつり合いから次式で与えられる。
【0078】
【数2】

【0079】
式(1)のανを鋼の線膨張係数αsに置換し、FRP板1に対する合金板10の伸び剛性比Eaa/(Eff)に対して解いて次式を得る。
【0080】
【数3】

【0081】
この式(2)に、鋼、FRP板及び合金板の線膨張係数を代入して、FRP板1と合金板10の補強材100の線膨張係数を、鋼板200のそれと等しくするFRP板1の伸び剛性に対する合金板10の伸び剛性が設計できる。
【0082】
上述より理解されるように、FRP板及び合金板が複数枚(N層)積層される場合には、上記式(1)及び式(2)は、一般化し、下記式(1−1)、(2−1)として表すことができる。
【0083】
【数4】

【0084】
上記各式は、補強材100を構成する積層板の熱膨張係数と補強対象である鋼材の熱膨張係数とを等しくするために必要な積層板の各層の板厚、幅を求める式であり、積層板の各層の板厚、幅はこれに限定されるものではない。これらの式から求まる各層の板厚、幅にすれば理論上熱応力は発生しないが、これに限らず、鋼材より熱膨張係数の小さいFRP板のみの補強に比べて、鋼材より熱膨張係数の大きい合金板を組み合わせれば、熱応力は緩和される。
【0085】
本発明に係る構造物の補強方法の作用効果を実証するために以下の試験を行った。以下に、この試験例について説明する。
【0086】
なお、本発明の補強方法において、強化繊維含有材料1の強化繊維としては、典型的には炭素繊維が使用されるので、本試験例において強化繊維含有材料1としては、具体例2として説明した、強化繊維として炭素繊維を使用し、含浸樹脂としてエポキシ樹脂を使用した炭素繊維強化樹脂板(CFRP板)1Bを用いた。また、補強材100における合金板10としては、典型的には、アルミニウム合金板(AL板)が使用されるので、本試験例ではAL板を使用して試験を行なった。
【0087】
(試験例)
(1)試験条件
試験体
図10(a)に示す、厚さ4.5mm、幅25mmの鋼板の上下面に、ヤング率140GPa、厚さ1mm、幅25mmのCFRP板2枚をそれぞれ接着した場合(従来工法)を対象(比較例)として、本発明に係る補強法における熱応力の低減効果を明らかにする。
【0088】
鋼板の補強効果を一定にするために、CFRP板と、AL板の和の伸び剛性を図10(a)のCFRP板の伸び剛性と同じになるように設計する。接着するAL板の伸び剛性を設計するために、鋼板の線膨張係数αs、CFRP板の線膨張係数αf及びAL板の線膨張係数αaをそれぞれ、αs=12μ/℃、αf=1μ/℃及びαa=23μ/℃として与えた。それらの値を式(2)に代入して、Eaa/(Eff)=1を得る。
【0089】
したがって、AL板の伸び剛性をCFRP板のそれと等しくすることにより、CFRP板とAL板の合成板の線膨張係数を、鋼板のそれと等しくすることができる。すなわち、図10(a)に対して、鋼板の片面に接着された2枚のCFRP板のうち、1枚のCFRP板を、それと同じ伸び剛性のAL板に置換する。AL板のヤング率が70GPa(CFRP板の1/2倍)であるので、熱応力を低減させるAL板の断面はCFRP板の2倍になる。このように設計した、CFRP板とAL板が接着された鋼板を図10(b)、(c)、(d)に示す。
【0090】
図10(d)の試験体ACAには、各厚さ1mmのAL板の間にCFRP板が接着された3層の積層板としている。
【0091】
図10(b)、(c)、(d)の試験体に加え、図10(a)で示したCFRP板が2枚接着された試験体CC、及び、図示してはいないが、鋼板の両面に厚さ2mmのAL板が各2枚装着された試験体AAの温度変化試験も行った。また、図示してはいないが、図10(d)の試験体ACAと同様の3層構成であるが、各厚さ1mmのCFRP板の間に厚さ2mmのAL板が接着された3層の積層板とされる試験体CACの温度変化試験も行った。
【0092】
本発明のように補強材を被補強対象物に接着することにより補強する補強方法では、接着剤を介して鋼板とCFRP板或いはAL板の相互の力が伝達される。したがって、鋼板、CFRP板及びAL板間の力の伝達が十分になされるように接着長さを設計する必要があるが、本試験例では、試験に用いた乾燥炉の大きさからCFRP板及びAL板の長さを100mm(鋼板の長さ160mm)とした。
【0093】
鋼板、CFRP板及びAL板の各接着面を、#100のサンドペーパーで研磨し、油脂を拭き取ってからそれぞれ接着剤にて接着した。鋼板の片面にCFRP板及びAL板を接着し室温20℃の恒温状態で1日養生した後、もう片面に同様にしてCFRP板とAL板を接着し、室温20℃の恒温状態で1週間以上養生した。
【0094】
計測した試験体の各寸法を表−1に示す。各材料の厚さは表−2の材料定数に示している。接着剤の厚さは、ノギスで計測した試験体の全厚さから、鋼板及び接着したCFRP板とAL板の厚さを引いて、接着剤層の数で除した平均厚さが示されている。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
図11に、試験体に貼付けたひずみゲージの位置を示している。鋼板の両側面と、最外に接着されたCFRP板或いはAL板の両表面に線膨張係数が11.7μ/℃に設定されたひずみゲージを貼付けている。
【0098】
試験体に用いた材料の特性
試験体に用いた鋼板、CFRP板、AL板及び接着剤の材料定数を表−2に示す。鋼板、CFRP板及びAL板は、引張試験、及び、温度変化を与えた試験から得られた値を示している。接着剤の材料定数は、材料試験成績書の値に加え、試験体で用いた接着剤で作成した立方体(一辺14mm)の供試体の圧縮試験(20℃)から得られた圧縮弾性係数とポアソン比も示している。
【0099】
鋼板、CFRP板及びAL板の線膨張係数は、後で説明する温度変化試験において、無拘束の鋼板、CFRP板及びAL板に生じたひずみから次式を利用して算出した。
【0100】
【数5】

【0101】
εg(T)[μ]は、自己温度補償ひずみゲージの見掛けひずみの近似式であり、製造ロットによって係数が異なる。
【0102】
表−1、表−2から、試験体に用いた鋼板、CFRP板及びAL板の各ヤング率と各線膨張係数は、それぞれ設計で仮定した各材料の値と同程度であることがわかる。表−1、2の計測寸法と材料定数を式(1)へ代入し算出されたCFRP板とAL板からなる合成板(補強材)の線膨張係数ανを表−1に示す。試験体CA、AC及びACAに対して、合成板(補強材)の線膨張係数ανは、鋼の線膨張係数αsに近い値になっていることがわかる。
【0103】
試験方法
本試験例では、乾燥炉を用いて、温度変化試験を行った。乾燥炉に試験体を鉛直に吊るし、扉を開けた状態で20℃の恒温室に2時間程度放置した。その後、ひずみを計測し、乾燥炉の扉を閉め、炉内の設定温度を40℃まで上昇させて、各ひずみの変動がなくなるまで温度を保持した後、ひずみを計測して温度上昇に対する試験とした。さらに、その状態から乾燥炉の扉を開けて、温度を20℃まで低下させ、同様に各ひずみの変動がなくなった後、ひずみを計測して温度下降に対する試験とした。各試験体に加え、無拘束の鋼板、CFRP板、AL板も同様に温度変化を与えてひずみを計測した。試験体の温度は熱伝対を用いて計測した。実際に計測された試験開始時と終了時の温度T1、T2を表−1に示している。
【0104】
(2)(試験結果)
計測された鋼板に生じるひずみεsmと無拘束の鋼板に生じるひずみεsn及び鋼ヤング率Esを用いて、次式から鋼板に生じる熱応力σsを算出した。
【0105】
【数6】

【0106】
同様にして、試験体のCFRP板或いはAL板に生じるひずみ及び無拘束のCFRP板或いはAL板に生じるひずみを用いて、最外のCFRP板或いはAL板の熱応力σf、σaを算出した。
【0107】
温度上昇時及び下降時の各試験体に生じる熱応力を図12(a)、(b)〜図16(a)、(b)にそれぞれ示す。
【0108】
鋼板に生じる熱応力は、鋼板の両側面の平均値を示し、CFRP板及びAL板に生じる熱応力は、上下面の平均値を示している。図の横軸は、CFRP板とAL板の接着長さの中央からの距離x(図10(a)〜(d)参照)を示している。図12(a)、(b)〜図16(a)、(b)には、後で説明する「数値解析結果」も実線と破線で示されている。
【0109】
図12(a)、(b)〜図16(a)、(b)からわかるように、温度上昇時と降下時に生じる熱応力は、符号が異なるのみで絶対値はほぼ等しい。
【0110】
図12(a)、(b)及び図13(a)、(b)から、温度上昇時、CFRP板のみが接着された試験体CCとAL板のみが接着された試験体AAでは、圧縮応力及び引張応力がそれぞれ生じていることがわかる。CFRP板或いはAL板の端部では、それらの値は小さく、x=0の位置で、大きな引張応力或いは圧縮応力が生じている。x=0の位置の鋼板及びCFRP板に生じる熱応力は、部材内力のつり合いから導出される次式に、表−1、2の計測寸法と材料定数を代入して算出された値σsT、σfT(図中のx=0の位置の■)とほぼ一致している。
【0111】
【数7】

【0112】
式(6)〜(8)のCFRP板の断面Afと材料定数Ef、αfをそれぞれAL板のAa、Ea及びαfに置換することにより、試験体AAの鋼板とAL板に生じる熱応力の収束値σsT、σaTがそれぞれ計算できる。
【0113】
図14(a)、(b)〜図16(a)、(b)から、試験体CA、AC及びACAでは、x=0の位置の鋼板に生じる熱応力がほぼ0になっていることがわかる。試験体CA、ACでは、補強板の端部近傍の鋼板に若干熱応力が生じているが、試験体ACAでは、接着端部近傍においても鋼板に生じる熱応力が低減されていることがわかる。
【0114】
したがって、式(2)で算出されるCFRP板の伸び剛性に対するAL板の伸び剛性の比を満足するように、CFRP板及びAL板を接着することにより、鋼板に生じる熱応力を大幅に低減させることができる。
【0115】
一方、図14(a)、(b)〜図16(a)、(b)から、試験体CA、AC及びACAの最外のCFRP板或いはAL板に生じる熱応力は、試験体CC(図12)或いは試験体AA(図13)に生じる熱応力σf、σaよりも大きくなっている。これは、鋼板とCFRP板或いは鋼板とAL板の線膨張係数の差より、CFRP板とAL板の線膨張係数の差が大きいためである。
【0116】
試験体CA、AC及びACAのx=0の位置の鋼板、CFRP板及びAL板に生じる熱応力は、鋼板、CFRP板及びAL板の内力の釣り合いから導出される次式に、表−1、2の計測寸法と材料定数を代入して算出された値σsT、σfT及びσaT(図中のx=0の位置の■)とほぼ一致している。
【0117】
【数8】

【0118】
試験体ACAに対して、AL板の断面積Aaは、2枚のAL板の断面積の和を与えた。
【0119】
(3)(数値解析)
次に、2枚或いは3枚のCFRP板とAL板が鋼板の上下面に接着された場合に対して、文献「宮下剛、長井正嗣:一軸引張りを受ける多層のCFRPが積層された鋼板の応力解析、土木学会論文集A、Vol.66、No.2、pp.378−392、2010」を参考に、数値解析によって鋼板、CFRP板及びAL板に生じる熱応力を算出した。図17に示すように、鋼板に近い側から、CFRP板或いはAL板とされる補強板に各々補強板1、2、・・・iと番号付をして数値解析を行った。
【0120】
解析方法
鋼板に生じる応力σs(x)とひずみεs(x)の関係及び補強板iに生じる応力σi(x)とひずみεi(x)の関係をそれぞれ次式で与える。
【0121】
【数9】

【0122】
接着剤iに生じるせん断応力τi(x)とせん断ひずみγi(x)の関係を次式で与える。
【0123】
【数10】

【0124】
式(14)、(15)及び(18)を行列・ベクトル形式で表すと次式になる。
【0125】
【数11】

【0126】
図18に示す、複数の補強板が接着された鋼板の微小区間の水平方向の力のつり合いから、導出されるひずみの関係式の行列・ベクトル形式が次式で与えられる。
【0127】
【数12】

【0128】
式(24)の一般解は、次式で与えられる。
【0129】
【数13】

【0130】
未定係数ベクトルCは、境界条件を与えて決定される。図17に示す複数の補強板が接着された鋼板に対して、補強板の端部において、鋼板に生じる応力σs(x)が作用応力σsnと等しく、各補強板に生じる応力σi(x)が全て0になり、更に補強板の付着中央(x=0)で各接着剤に生じるせん断応力τi(x)が全て0になる境界条件を与えて、未定係数ベクトルCが次式で算出される。
【0131】
【数14】

【0132】
したがって、複数の補強板が接着された場合に対して、式(31)から算出される未定係数ベクトルを式(26)に代入し、式(19)から、鋼板、各補強板及び各接着剤に生じる応力が数値解析によって計算できる。
【0133】
数値解析結果
(1)鋼板に生じる応力
表−1、2の試験体の寸法と材料定数を与えて、算出した数値解析結果を図12(a)、(b)〜図16(a)、(b)に実線と破線で示している。解析値は、CFRP板を形成する樹脂の影響を含んでいないので、接着端部近傍で、実験値よりも若干大きくなるが、両者は同様な傾向を示していることがわかる。
【0134】
図14(a)、(b)〜図16(a)、(b)に示すように、解析によって、試験体CA、AC及びACAの接着端部の鋼板に若干生じる熱応力も評価できていることがわかる。温度上昇時、試験体CAでは、接着端部の鋼板の熱応力は圧縮であるが、試験体ACでは引張が生じている。この理由は、鋼板から補強板1に軸力が伝達され、次に補強板1から補強板2に軸力が伝達されるため、接着端部近傍の鋼板は、他の補強板と比べて補強板1の線膨張係数の影響を大きく受けるためである。
【0135】
さらに、解析結果では、積層数が3層の試験体ACAの接着端部の鋼板に生じる熱応力が試験体CA及びACよりも小さくなっており、実験結果と同じ傾向を示した。
【0136】
CFRP板或いはAL板に生じる応力は、x=0の位置では、解析値と実験値がほぼ一致しているが、試験体CA、AC及びACAでは、接着端部近傍(x=45mm)において、両者の値に差が見られた。これは、本解析が軸力のみを取り扱った手法であるため、CFRP板とAL板の接着端部に生じる曲げモーメントが考慮されていないことが原因である。鋼板には曲げモーメントが生じないので、CFRP板とAL板の接着端部に生じる曲げモーメントが鋼板の熱応力に与える影響は小さいと考えられる。しかしCFRP板或いはAL板の接着端部近傍に生じる曲げモーメントによって接着剤に垂直応力が生じるため、CFRP板やAL板のはく離を評価する際には、それらに生じる曲げモーメントを明らかにする必要があると考えられる。
【0137】
(2)接着剤に生じるせん断応力
数値解析で得られた、温度上昇時に対する各試験体の接着剤に生じるせん断応力の分布を図19(a)、(b)、(c)及び図20(a)、(b)に示す。
【0138】
これらの図からわかるように、試験体CC及びAAでは、各接着剤に生じるせん断応力の符号は等しく、鋼板に近い接着剤1に生じるせん断応力の絶対値が接着剤2のそれよりも大きくなる。一方、試験体CA及びACでは、接着剤1と2に生じるせん断応力の符号が異なり、接着剤2に生じるせん断応力の絶対値が接着剤1のそれよりも大きい。
【0139】
さらに、試験体CA及びACの接着剤2に生じるせん断応力の絶対値は、試験体CC、AAの接着剤1に生じるせん断応力の絶対値よりも大きい。試験体ACAでは、接着剤1と3に生じるせん断応力の符号が等しく、接着剤3に生じるせん断応力の絶対値が最大になる。
【0140】
さらに、試験体ACAの接着剤3に生じるせん断応力の絶対値は、試験体CC、AAの接着剤1に生じるせん断応力の絶対値よりも小さくなっている。
【0141】
これらの現象は、鋼板とCFRP板、鋼板とAL板及びCFRP板とAL板の線膨張係数の差と各材料の伸び剛性に依存していることによる。
【0142】
先に述べたように、実験で計測された最外のCFRP板或いはAL板の接着端部近傍の表面のひずみは、曲げモーメントの影響を受けているので、それらの値を用いて接着剤に生じるせん断応力が算出できない、しかし、曲げモーメントが生じない鋼板応力の計測値を利用して、接着剤1に生じるせん断応力を計算できる。
【0143】
接着剤1に生じるせん断応力と鋼板応力の間には、以下の関係がある。
【0144】
【数15】

【0145】
この式を差分の形で表すと次式になる。
【0146】
【数16】

【0147】
各試験体の鋼板の熱応力を利用して式(34)から温度変化を受けて接着剤1に生じるせん断応力τ1を図19(a)、(b)、(c)及び図20(a)、(b)にプロットしている。鋼板に生じるひずみの計測点数が少なく、それらの間隔が大きいため、精度の良い値は得られていないが、これらの図から、実験値から算出した接着剤1に生じるせん断応力は、解析値と同様な傾向を示していることがわかる。
【0148】
さらに、3層積層された試験体ACAの接着剤1に生じるせん断応力が最も低減されていることが実験値からも明らかである。
【0149】
(3)CFRP板とAL板の積層数が熱応力及びせん断力に与える影響
CFRP板とAL板の積層数Nに対する数値解析の結果、先に述べたように、積層数が偶数(N=2)の場合、鋼板に近い補強板がCFRP板の場合と、AL板の場合では、鋼板に生じる熱応力および接着剤に生じるせん断応力は符号が異なるだけで絶対値が等しい。同様に、積層数が奇数(N=3)の場合でも、図19、図20には示していないが、鋼板に近い補強板がCFRP板の場合と、AL板の場合では、鋼板に生じる熱応力および接着剤に生じるせん断応力は符号が異なるだけで絶対値が等しい。
【0150】
したがって、積層数N=4以上に対して、1層目がCFRP板となるようにCFRP板とAL板が鋼板に接着された場合に対して数値解析を行った。
【0151】
理論解析および数値解析を行った条件に対して、鋼板に生じる熱応力は、CFRP板の端部近傍以外はほぼ0であった。したがって、図21(a)では、N=1の場合を除いて、CFRP板の端部近傍の鋼板に生じる熱応力の最大値σsTと積層数Nの関係を示している。図のN=1は、1層のCFRP板が鋼板に接着された場合のCFRP板の接着長さの中央の鋼板に生じる熱応力σs(0)(ただし、σsn=0)を示し、縦軸はσsTをσs(0)で除した値を示している。この図から、CFRP板の端部近傍の鋼板に生じる熱応力の最大値σsTは、積層数Nが偶数の場合に若干増加傾向を示すが、積層数の増加に伴って低減していることがわかる。
【0152】
図21(b)に、各接着剤に生じるはく離せん断応力τeiと積層数Nの関係を示す。温度が上昇あるいは降下することによって、各接着剤に生じるはく離せん断応力は正負交番する。したがって、図の縦軸は、各接着剤のはく離せん断応力τeiを、N=1すなわち1層のCFRP板が鋼板に接着された場合の接着剤に生じるはく離せん断応力τ(l)(ただし、σsn=0)で除した値の絶対値を示している。図21(b)から、接着層が2の場合、温度変化によって接着剤2に生じるせん断応力の絶対値が、1層のCFRP板を鋼板に接着する場合に生じるはく離せん断応力τ(l)よりも大きくなるが接着層が3以上の場合、AL板とCFRP板を接着することにより、温度変化によって生じるはく離せん断応力の絶対値は、τ(l)の絶対値よりも常に小さくなることがわかる。
【0153】
引張応力が作用した場合にはく離せん断応力が最も大きくなる接着剤1では、CFRP板とAL板を接着することにより、温度変化によって生じるはく離せん断応力の絶対値が大きく低減していることがわかる。CFRP板とAL板の線膨張係数の差が、CFRP板と鋼のそれよりも大きいため、AL板とCFRP板の間の接着剤2〜7に生じるはく離せん断応力の絶対値は、接着剤1のはく離せん断応力の絶対値よりも常に大きく、最外層の接着剤に生じるせん断応力は、各積層数Nに対して常に最大になる。
【0154】
温度変化によって各接着剤に生じるはく離せん断応力は、積層数Nの増加に伴って低下傾向にあるが、積層数Nが偶数の場合、各接着剤に生じるはく離せん断応力は、積層数Nが奇数の場合の低下と比べて若干大きくなっている。この現象は、FEM解析の結果からも得られた。積層数Nが偶数の場合、各1層のCFRP板とAL板毎に、線膨張係数が鋼板と等しくなる部材が構成されるため、図21(a)、(b)に示されるように、鋼板に生じる熱応力の最大値及び接着剤に生じるはく離せん断応力に影響を与えたと考えられる。
【0155】
以上より、積層数Nが3以上になるようにAL板とCFRP板を鋼板の上下面に対称に接着することにより、鋼板に生じる熱応力、及び、温度変化によって接着剤に生じるはく離せん断応力を、CFRP板とアルミニウム合金板の和の伸び剛性を有する1層のCFRP板を鋼板に接着した場合よりも低減できることが明らかとなった。ただし、積層数Nが2の場合でも、作用応力やCFRP板とAL板の接着時間によって、CFRP板のはく離が防止されれば、鋼板に生じる熱応力を低減するために利用できる。
【0156】
(まとめ)
本試験例では、CFRP板が上下面に対称に接着された鋼板を対象(比較例)に、温度変化によって鋼板に生じる熱応力、及び、補強材と鋼板との接着界面に生じる熱応力を低減させる方法として、線膨張係数が鋼の約2倍のアルミニウム合金板をCFRP板と共に鋼板に接着する方法を提案し、鋼板にCFRP板とアルミニウム合金板を接着した試験体の温度変化試験及び数値解析を行い、開発した工法による鋼板の熱応力、及び、補強材と鋼板との接着界面に生じる熱応力の低減効果を明らかにした。主な結論を以下に示す。
【0157】
1)アルミニウム合金板をCFRP板と共に接着して、鋼板、及び、補強材(アルミニウム合金板+CFRP板)と鋼板との接着界面に熱応力が発生しないCFRP板を用いた補強工法を開発した。CFRP板の接着の中央で、鋼板に生じる熱応力を0にするのに必要なアルミニウム合金板の伸び剛性は式(2)(又は(2−1))から計算できる。
【0158】
2)式(2)(又は(2−1))を満足するように設計したCFRP板とアルミニウム合金板が接着された鋼板の温度変化試験を行い、接着端部の鋼板に若干熱応力が生じるが、それ以外の範囲では0になることを示した。さらに補強板全体の伸び剛性が等しい条件において、補強板の積層数を増加させることによって接着端部の鋼板に生じる熱応力を小さくできることを明らかにした。接着端部に生じる鋼板の熱応力の符号は、鋼板と鋼板に近い側の補強板との間の線膨張係数差に依存する。
【0159】
すなわち、CFRP板とアルミニウム合金板との2層で鋼材に生じる熱応力は小さくなるが、式(2−1)を満足する場合、積層数が3以上の場合に(即ち、CFRP板+アルミニウム合金板+CFRP板、又は、アルミニウム合金板+CFRP板+アルミニウム合金板以上で)鋼板に生じる熱応力及び各接着剤に生じるせん断応力をCFRP板とアルミニウム合金板の和の伸び剛性を有する補強材を鋼板に接着した場合よりも低減できる。
【0160】
3)本発明の補強方法によって、鋼板直上の接着剤に生じるせん断応力の絶対値が、CFRP板のみが接着されている場合よりも小さくなることを示した。さらに、補強板全体の伸び剛性が等しい条件において、補強板の積層数を増加させることによって鋼板直上の接着剤に生じるせん断応力の絶対値小さくできることを明らかにした。
【0161】
以上の試験例にても明らかとなったように、本発明の鋼構造物の補強方法、及び、鋼構造物補強用積層材によれば、温度変化により鋼構造物表面に接着される補強材と鋼材表面との接着界面に発生する熱応力、及び、鋼材に発生する熱応力を低減し、十分な補強効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0162】
1 強化繊維含有材料(繊維シート、繊維強化樹脂板)
10 合金板
100 鋼構造物補強材(補強積層材)
110 接着剤
200 鋼構造物(鋼材、鋼板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼構造物を構成する鋼材の表面に補強材を接着剤にて接着する鋼構造物の補強方法において、
前記補強材は、鋼構造物を構成する鋼材より線膨張係数が小さい強化繊維含有材料と、鋼材より線膨張係数が大きな合金板とにて構成され、
前記鋼材表面に前記強化繊維含有材料と前記合金板とを交互に少なくとも1層づつは接着剤にて接着して積層し、前記鋼材の温度変化により前記鋼材、及び、前記補強材と前記鋼材との接着界面に発生する熱応力を低減することを特徴とする鋼構造物の補強方法。
【請求項2】
鋼構造物を構成する鋼材の表面に補強材を接着剤にて接着する鋼構造物の補強方法において、
前記補強材は、鋼構造物を構成する鋼材より線膨張係数が小さい強化繊維含有材料と、鋼材より線膨張係数が大きな合金板とを交互に少なくとも1層づつは接着剤にて接着して一体に積層して構成され、
前記補強材を前記鋼材の表面に接着剤にて接着し、前記鋼材の温度変化により前記鋼材、及び、前記補強材と前記鋼材との接着界面に発生する熱応力を低減することを特徴とする鋼構造物の補強方法。
【請求項3】
前記補強材は、前記強化繊維含有材料、前記合金板及び前記強化繊維含有材料の少なくとも3層を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼構造物の補強方法。
【請求項4】
前記強化繊維含有材料が前記鋼材表面に接着されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかの項に記載の鋼構造物の補強方法。
【請求項5】
前記補強材は、前記合金板、前記強化繊維含有材料及び前記合金板の少なくとも3層を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼構造物の補強方法。
【請求項6】
前記合金板が前記鋼材表面に接着されることを特徴とする請求項1、2又は5に記載の鋼構造物の補強方法。
【請求項7】
前記鋼材の線膨張係数(αs)は、10(μ/℃)≦αs≦12(μ/℃)であり、前記鋼材に接着された前記強化繊維含有材料の線膨張係数(αf)は、−15(μ/℃)≦αf<αsであり、前記合金板の線膨張係数(αa)は、αs<αa≦30(μ/℃)であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかの項に記載の鋼構造物の補強方法。
【請求項8】
前記鋼材に接着された前記強化繊維含有材料(FRP板)及び前記合金板の各層の厚さは、下記式にて算定されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかの項に記載の鋼構造物の補強方法。
【数1】

【請求項9】
前記強化繊維含有材料は、一方向に引き揃えた連続した強化繊維を互いに線材固定材にて固定した繊維シートで作製されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの項に記載の鋼構造物の補強方法。
【請求項10】
前記強化繊維含有材料は、強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、線材を互いに線材固定材にて固定した繊維シートで作製されることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの項に記載の鋼構造物の補強方法。
【請求項11】
前記強化繊維含有材料は、一方向に引き揃えた連続した強化繊維シートに樹脂が含浸され、前記樹脂が硬化された繊維強化樹脂板であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかの項に記載の鋼構造物の補強方法。
【請求項12】
前記合金板は、アルミニウム合金、ステンレス合金、又は、マグネシウム合金であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかの項に記載の鋼構造物の補強方法。
【請求項13】
前記強化繊維含有材料の強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維などの無機繊維、又は、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用され、
前記強化繊維含有材料に含浸されるマトリクス樹脂及び前記接着剤は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ナイロン、ビニロンなどの熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかの項に記載の鋼構造物の補強方法。
【請求項14】
鋼構造物を構成する鋼材の表面に接着剤にて接着して鋼構造物を補強するための鋼構造物補強用積層材であって、
鋼構造物を構成する鋼材より線膨張係数が小さい強化繊維含有材料と、鋼材より線膨張係数が大きな合金板とを交互に少なくとも1層づつは接着剤にて接着して一体に積層されたことを特徴とする鋼構造物補強用積層材。
【請求項15】
前記強化繊維含有材料、前記合金板及び前記強化繊維含有材料の少なくとも3層を有していることを特徴とする請求項14に記載の鋼構造物補強用積層材。
【請求項16】
前記合金板、前記強化繊維含有材料及び前記合金板の少なくとも3層を有していることを特徴とする請求項14に記載の鋼構造物補強用積層材。
【請求項17】
前記鋼材の線膨張係数(αs)は、10(μ/℃)≦αs≦12(μ/℃)であり、前記鋼材に接着された前記強化繊維含有材料の線膨張係数(αf)は、−15(μ/℃)≦αf<αsであり、前記合金板の線膨張係数(αa)は、αs<αa≦30(μ/℃)であることを特徴とする請求項14〜16のいずれかの項に記載の鋼構造物補強用積層材。
【請求項18】
前記強化繊維含有材料(FRP板)及び前記合金板の各層の厚さは、下記式にて算定されることを特徴とする請求項14〜17のいずれかの項に記載の鋼構造物補強用積層材。
【数2】

【請求項19】
前記強化繊維含有材料は、一方向に引き揃えた連続した強化繊維を互いに線材固定材にて固定した繊維シートで作製されることを特徴とする請求項14〜18のいずれかの項に記載の鋼構造物補強用積層材。
【請求項20】
前記強化繊維含有材料は、強化繊維にマトリクス樹脂が含浸され、硬化された連続した繊維強化プラスチック線材を複数本、長手方向にスダレ状に引き揃え、線材を互いに線材固定材にて固定した繊維シートで作製されることを特徴とする請求項14〜19のいずれかの項に記載の鋼構造物補強用積層材。
【請求項21】
前記強化繊維含有材料は、一方向に引き揃えた連続した強化繊維シートに樹脂が含浸され、前記樹脂が硬化された繊維強化樹脂板であることを特徴とする請求項14〜20のいずれかの項に記載の鋼構造物補強用積層材。
【請求項22】
前記合金板は、アルミニウム合金、ステンレス合金、又は、マグネシウム合金であることを特徴とする請求項14〜21のいずれかの項に記載の鋼構造物補強用積層材。
【請求項23】
前記強化繊維含有材料の強化繊維は、炭素繊維、ガラス繊維、バサルト繊維などの無機繊維、又は、アラミド、PBO(ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール)、ポリアミド、ポリアリレート、ポリエステルなどの有機繊維が単独で、又は、複数種混入してハイブリッドにて使用され、
前記強化繊維含有材料に含浸されるマトリクス樹脂及び前記接着剤は、常温硬化型或は熱硬化型のエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、MMA樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂などの熱硬化性樹脂、又は、ナイロン、ビニロンなどの熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項14〜22のいずれかの項に記載の鋼構造物補強用積層材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−255303(P2012−255303A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129286(P2011−129286)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(306032316)新日鉄住金マテリアルズ株式会社 (196)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】