説明

鋼構造物反転治具、鋼構造物反転装置および鋼構造物反転方法

【課題】寸法や重量が個々に異なる鋼構造物を、反転機構部の回転中心に対して重心線を合わせて支持させること。
【解決手段】鋼構造物100を反転させるように当該鋼構造物100の両端を支持する一対の反転機構部3に用いられ、鋼構造物100と各反転機構部3との間の位置決めを行う鋼構造物反転治具2であって、反転機構部3の回転中心に一致する回転中心線Sを有して当該反転機構部3に取り付けられる回転部21と、回転部21と一体に設けられており鋼構造物100の端部に連結される固定部22と、固定部22および鋼構造物100の間で固定部22と鋼構造物100とを連結する連結部23と、回転部21の回転中心線Sに対して鋼構造物100の重心線Gを合わせるように、固定部22と連結部23との取付位置を調整する固定部側位置調整手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼構造物を反転させるための鋼構造物反転治具、鋼構造物を反転させる鋼構造物反転装置、および鋼構造物を反転させる鋼構造物反転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1に記載の大型構造物の反転装置は、大型構造物の溶接施工時などにおける反転作業に係り、特に大型構造物に内部作業がある場合に内部に作業者が自由に入れることを目的としている。この大型構造物の反転装置は、マンホールが形成された回転胴に取り付けられた面板に対し、ブラケットを介して大型構造物を取り付け、さらに回転胴を台車に対して回転可能に支持する。
【0003】
また、従来、例えば、特許文献2に記載の金型反転装置は、金型の組立・分解を機械的に行うことを目的としている。この金型反転装置は、下金型上に上金型を反転・載置する組立あるいは分解可能な金型反転装置であり、内部に金型を収容可能な空間を有する金型収容部と、この金型収容部を一体的に内蔵するリング部材と、金型収容部の対峙する二面にそれぞれ配設された搬送手段と、収容する金型に形成されたテーパ部を有する位置決め手段に対して嵌合可能で、金型収容部の両側面に配設され一部にテーパ部を有する位置決め手段と、収容され位置決めされた上金型を昇降可能に上下方向に固定する昇降手段と、リング部材をその周方向に回転可能に支持し回転させるベース部と備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭58−170190号公報
【特許文献2】特許第2740725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、橋梁などの大型の鋼構造物は、一品生産であり、その寸法や重量は個々に異なる。このような鋼構造物を製造する際の溶接は、溶接部分を上方に向けて水平に保つことが必要で、鋼構造物を反転する作業が発生する。鋼構造物の反転には、上述した特許文献1または特許文献2に記載する反転機構部を用いることが可能である。しかし、上述したように橋梁などの大型の鋼構造物は寸法や重量が個々に異なるため、様々な鋼構造物を反転機構部の回転中心に対して重心を合わせて支持させることは容易ではない。
【0006】
本発明は上述した課題を解決するものであり、寸法や重量が個々に異なる鋼構造物を、反転機構部の回転中心に対して重心を合わせて支持させることのできる鋼構造物反転治具、当該鋼構造物反転治具と反転機構部とを備える鋼構造物反転装置、および前記鋼構造物反転治具と反転機構部とを用いた鋼構造物反転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するために、本発明の鋼構造物反転治具は、鋼構造物を反転させるように当該鋼構造物の両端を支持する一対の反転機構部に用いられ、前記鋼構造物と各前記反転機構部との間の位置決めを行う鋼構造物反転治具であって、前記反転機構部の回転中心に一致する回転中心線を有して当該反転機構部に取り付けられる回転部と、前記回転部と一体に設けられており前記鋼構造物の端部に連結される固定部と、前記固定部および前記鋼構造物の間で前記固定部と前記鋼構造物とを連結する連結部と、前記回転部の回転中心線に対して前記鋼構造物の重心線を合わせるように、前記固定部と前記連結部との取付位置を調整する固定部側位置調整手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この鋼構造物反転治具によれば、鋼構造物の設計事項に対応し、固定部側位置調整手段によって、固定部と連結部との取付位置を調整する。そして、連結部と鋼構造物とを相互に固定する。これにより、回転部の回転中心線と鋼構造物の重心線とが合うように、鋼構造物の両端部に固定部が連結される。そして、このように鋼構造物に連結された鋼構造物反転治具の回転部を、反転機構部に取り付けることで、反転機構部の回転中心と鋼構造物の重心線とが合うこととなる。この結果、寸法や重量が個々に異なる鋼構造物を、反転機構部の回転中心に対して重心線を合わせて支持させることができる。
【0009】
また、本発明の鋼構造物反転治具は、前記回転部の回転中心線に対して前記鋼構造物の重心線を合わせるように、前記連結部と前記鋼構造物との取付位置を調整する構造物側位置調整手段をさらに備えることを特徴とする。
【0010】
この鋼構造物反転治具によれば、鋼構造物の設計事項に対応し、構造物側位置調整手段によって、連結部と鋼構造物との取付位置を調整することで、寸法や重量が個々に異なる鋼構造物に対し、反転機構部の回転中心に対して重心線を正確かつ容易に合わせることができる。
【0011】
上述の目的を達成するために、本発明の鋼構造物反転装置は、鋼構造物を反転させる鋼構造物反転装置であって、上述の鋼構造物反転治具を回転可能に取り付ける一対の反転機構部を有し、当該反転機構部の少なくとも一方に設けられており前記鋼構造物反転治具を回転させるように前記反転機構部を回転駆動する駆動機構と、少なくとも前記駆動機構を設けた前記反転機構部に設けられており前記鋼構造物反転治具の回転部と係合して前記鋼構造物反転治具の回転を停止させる回転停止機構と、を備えることを特徴とする。
【0012】
この鋼構造物反転装置によれば、駆動機構の故障や異常などによって鋼構造物を反転させる駆動力がフリーになった場合、反転する鋼構造物の慣性力によって鋼構造物が反転し続けるおそれがあるが、これを停止することができ、装置の安全性を向上することができる。
【0013】
また、本発明の鋼構造物反転装置では、前記駆動機構は、前記反転機構部に回転駆動力を伝達する環状索を有し、前記回転停止機構は、前記環状索の切断を検出し、前記鋼構造物反転治具の回転を停止させることを特徴とする。
【0014】
この鋼構造物反転装置によれば、環状索を有する場合、この環状索の切断の事象が危険性の大きいものであり、この事象を検出して鋼構造物反転治具の回転を停止させることで、安全性を向上する効果をより顕著に得ることができる。
【0015】
上述の目的を達成するために、本発明の鋼構造物反転方法は、鋼構造物を反転させる鋼構造物反転方法であって、上述の鋼構造物反転治具を用い、位置調整手段によって回転部の回転中心線に対して前記鋼構造物の重心線を合わせつつ連結部を介して固定部と前記鋼構造物とを連結する工程と、次に、前記回転部を反転機構部に取り付ける工程と、次に、前記反転機構部により前記回転部を回転させ前記鋼構造物を反転させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
この鋼構造物反転方法によれば、寸法や重量が個々に異なる鋼構造物を、反転機構部の回転中心に対して重心線を合わせて支持させることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、寸法や重量が個々に異なる鋼構造物を、反転機構部の回転中心に対して重心を合わせて支持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る鋼構造物反転装置の概略図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態に係る鋼構造物反転治具の側面図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態に係る鋼構造物反転治具の正面図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態に係る鋼構造物反転治具の背面図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態に係る鋼構造物反転治具の使用状態の側面図である。
【図6】図6は、図5におけるA−A断面部分図である。
【図7】図7は、本発明の実施の形態に係る鋼構造物反転装置における反転機構部の正面図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態に係る鋼構造物反転装置における反転機構部の側面図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態に係る鋼構造物反転装置における回転停止機構の正面図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態に係る鋼構造物反転装置における回転停止機構の動作図である。
【図11】図11は、本発明の実施の形態に係る鋼構造物反転方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0020】
図1は、本実施の形態に係る鋼構造物反転装置の概略図である。図1に示すように、鋼構造物反転装置1は、鋼構造物反転治具2と、反転機構部3とを有する。鋼構造物反転治具2は、鋼構造物100を反転させるように当該鋼構造物100の両端を支持する一対の反転機構部3に用いられ、鋼構造物100と各反転機構部3との間の位置決めを行うものである。この鋼構造物反転治具2は、鋼構造物100の各端部にそれぞれ固定され、各反転機構部3にそれぞれ取り付けられ、反転機構部3によって鋼構造物100を伴って回転される。
【0021】
図2は、本実施の形態に係る鋼構造物反転治具の側面図であり、図3は、鋼構造物反転治具の正面図であり、図4は、鋼構造物反転治具の背面図である。図2〜図4に示すように、鋼構造物反転治具2は、鋼材によって形成された、回転部21と固定部22とを有している。
【0022】
回転部21は、反転機構部3に取り付けられるもので、反転機構部3の回転中心に一致する回転中心線Sを有する円環状の回転リング21aを有している。回転リング21aは、その外周面21bが回転中心線Sを中心とした円形状に形成されている。また、回転部21は、回転リング21aの外周面21bの円形状に沿って少なくとも正面側に突出する鍔部21cが形成されている。また、回転部21は、回転リング21aの内周面から回転中心線Sに向けて延在する面板部21dが設けられている。また、回転部21は、回転リング21aの内周面と面板部21dとに連結された複数の補強板部21eが設けられている。また、回転部21は、回転リング21aの中央にて面板部21dに接続されて回転中心線Sに沿って延在し、固定部22に接合される接合部21fが設けられている。接合部21fは、4つの板材を矩形状に組み合わせた筒状体を形成している。この接合部21fは、その一部が面板部21dの板面に沿って回転リング21aの内周面に至って延在し、面板部21dの板面および回転リング21aの内周面にも接続されている。
【0023】
固定部22は、正面板部22aおよび背面板部22bを有し、これら正面板部22aおよび背面板部22bを回転中心線Sに沿って間隔をおいて対向配置して形成されている。
正面板部22aおよび背面板部22bは、八角形状に形成され、図2および図3における上下左右の位置で複数の固定孔22cが形成されている。また、正面板部22aは、回転中心線Sに沿って、回転部21の接合部21fが貫通されているとともに、当該接合部21fに接続されている。また、背面板部22bは、回転部21の接合部21fが貫通されているとともに、当該接合部21fに接続されている。また、固定部22は、正面板部22aと背面板部22bとの間に、相互の間隔を維持しつつ相互を接続する補強板部22dが設けられている。
【0024】
図5は、本実施の形態に係る鋼構造物反転治具の使用状態の側面図であり、図6は、図5におけるA−A断面部分図である。図5および図6に示すように、鋼構造物反転治具2は、鋼材によって形成された、連結部23と固定部側位置調整手段24と構造物側位置調整手段25と連結補強部26とをさらに有している。
【0025】
連結部23は、固定部22の背面側に固定されるものである。連結部23は、図6に示すように平板23aと平板23aから突出する突出板23bとでT字形状に形成されている。連結部23は、平板23aおよび突出板23bに複数の固定孔23cが形成されている。
【0026】
固定部側位置調整手段24は、固定部22において背面板部22bに形成された固定孔22cである。この固定孔22cは、連結部23の固定孔23cと一致するように設けられており、かつ連結部23の固定孔23cよりも多くの数を有することで、連結部23の固定孔23cが一致する位置を変えることができるように設けられている。そして、固定部側位置調整手段24である固定孔22cと、連結部23の固定孔23cとが一致した状態で、ボルト(図示せず)によって固定部22の背面板部22bに対して連結部23が固定される。
【0027】
なお、連結部23を背面板部22bに固定する場合、固定部22の正面板部22aと背面板部22bとの間に、補強用のH形鋼27が配置される。H形鋼27は、各フランジに正面板部22aおよび背面板部22bの固定孔22cと一致する固定孔27aが形成され、一方のフランジが連結部23の平板23aとで背面板部22bを挟むようにボルト(図示せず)により締結され、他方のフランジが正面板部22aに対してボルト(図示せず)により締結される。
【0028】
構造物側位置調整手段25は、鋼構造物100に形成された固定孔100aと、この固定孔100aを介して鋼構造物100に固定されるとともに連結部23の突出板23bに固定される固定板28とを有している。鋼構造物100の固定孔100aは、鋼構造物100の両端部に形成されている。固定板28は、連結部23の突出板23bと鋼構造物100の端部とを挟んで配置されるように一対設けられている。固定板28は、連結部23の突出板23bに形成された固定孔23cに一致するように形成された固定孔28aと、鋼構造物100の固定孔100aに一致するように形成された固定孔28bとを有している。そして、構造物側位置調整手段25において、固定板28は、その固定孔28aと連結部23における突出板23bの固定孔23cとが一致した状態で、ボルト(図示せず)により突出板23bに対して固定される。また、構造物側位置調整手段25において、固定板28は、その固定孔28bと鋼構造物100の固定孔100aとが一致した状態で、ボルト(図示せず)により鋼構造物100に対して固定される。
【0029】
ここで、鋼構造物100の固定孔100aは、寸法や重量が個々に異なる様々な鋼構造物100において設けることができる様々な位置に設けられている。このため、固定板28は、固定孔28bが固定孔100aに一致するように、様々な鋼構造物100に対応して設けられる。
【0030】
連結補強部26は、ターンバックルとして構成され、固定部22の背面板部22bと鋼構造物100とを連結するものである。そのため、連結補強部26は、固定部22の背面板部22bに対して固定孔22cを利用してボルト(図示せず)により固定され、ターンバックルの一端を取り付けるターンバックル取付部26aと、鋼構造物100に対して固定孔100aを利用してボルト(図示せず)により固定され、ターンバックルの他端を取り付けるターンバックル取付部26bとを有している。
【0031】
このように構成された本実施の形態の鋼構造物反転治具2の使用について説明する。まず、鋼構造物100は、その重心から両端部に向けて延在する重心線Gが設計時に定められている。そして、鋼構造物反転治具2は、回転部21の回転中心線Sと、鋼構造物100の重心線Gとを合わせる。回転中心線Sと重心線Gとを合わせるとは、反転機構部3により鋼構造物100を反転させた際、鋼構造物100に過大な偏心モーメントが発生することを抑えるため、回転中心線Sと重心線Gとを一致させることを意味する。なお、反転機構部3の回転力の許容範囲であれば、回転中心線Sと重心線Gとが完全一致せず、所定範囲の誤差を含んでいてもよい。
【0032】
このため、本実施の形態の鋼構造物反転治具2では、鋼構造物100の設計事項に対応し、固定部22における背面板部22bの固定孔22c(固定部側位置調整手段24)によって、固定部22の背面板部22bへの連結部23の取付位置を調整する。さらに、鋼構造物100の設計事項に対応し、鋼構造物100の固定孔100aおよび固定板28である構造物側位置調整手段25によって、鋼構造物100への固定板28の取付位置を調整する。そして、連結部23と固定板28とを相互に固定する。これにより、回転部21の回転中心線Sと、鋼構造物100の重心線Gとが合うように、鋼構造物100の両端部に固定部22が連結される。そして、このように鋼構造物100に連結された鋼構造物反転治具2の回転部21を、反転機構部3に取り付けることで、反転機構部3の回転中心と鋼構造物100の重心線Gとが合うこととなる。
【0033】
すなわち、本実施の形態の鋼構造物反転治具2は、鋼構造物100を反転させるように当該鋼構造物100の両端を支持する一対の反転機構部3に用いられ、鋼構造物100と各前記反転機構部3との間の位置決めを行うもので、反転機構部3の回転中心に一致する回転中心線Sを有して反転機構部3に取り付けられる回転部21と、回転部21と一体に設けられており鋼構造物100の端部に連結される固定部22と、固定部22および鋼構造物100に取り付けられて固定部22と鋼構造物100とを連結する連結部23と、回転部21の回転中心線Sに対して鋼構造物100の重心線Gを合わせるように、固定部22と連結部23との取付位置を調整する固定部側位置調整手段24(固定部22における背面板部22bの固定孔22c)と、回転部21の回転中心線Sに対して鋼構造物100の重心線Gを合わせるように、連結部23と鋼構造物100との取付位置を調整する構造物側位置調整手段25(鋼構造物100の固定孔100aおよび固定板28)とを備える。
【0034】
この鋼構造物反転治具2によれば、寸法や重量が個々に異なる鋼構造物100を、反転機構部3の回転中心に対して重心線Gを合わせて支持させることが可能になる。この結果、過大な偏心モーメントが発生することなく鋼構造物100を反転させることが可能になる。
【0035】
なお、上述した鋼構造物反転治具2は、固定部側位置調整手段24と構造物側位置調整手段25とをともに備えた構成であるが、鋼構造物100の形状などにおいて、固定部側位置調整手段24によって固定部22と連結部23との取付位置を調整するだけで、回転部21の回転中心線Sに対して鋼構造物100の重心線Gを合わせることが可能な場合もある。このような場合、構造物側位置調整手段25を有さず、連結部23を鋼構造物100に直接取り付けてもよい。
【0036】
また、上述した鋼構造物反転治具2において、連結補強部26は、固定部22と鋼構造物100とを連結するものである。すなわち、連結補強部26は、連結部23や固定板28によって固定部22と鋼構造物100とを連結する位置に制限があって、連結強度を保てないおそれのある場合に、固定部22と鋼構造物100との連結強度を補強する。具体的には、連結部23や固定板28が、他の取付位置と平行な関係だけで連結している場合、鋼構造物100の反転によってこれらが水平に配置されると、垂直方向での連結強度が低下することになるため、これを補強するように連結補強部26を設ける。
【0037】
図7は、本実施の形態に係る鋼構造物反転装置における反転機構部の正面図であり、図8は、本実施の形態に係る鋼構造物反転装置における反転機構部の側面図であり、図9は、回転停止機構の正面図であり、図10は、回転停止機構の動作図である。
【0038】
本実施の形態の鋼構造物反転装置は、上述した鋼構造物反転治具2を回転可能に取り付ける一対の反転機構部3を有する(図1参照)。一対の反転機構部3は、床Fに載置されるフレーム3aに、2つのロール3bが回転可能に設けられている。各ロール3bは、回転中心線Sを平行にしてフレーム3aに取り付けられている。このロール3bは、鋼構造物反転治具2における回転部21の回転リング21aが載置されるもので、回転リング21aの外周面21bに接触する表面にローレット加工が施されている。そして、一対の反転機構部3は、鋼構造物100の両端に取り付けられた鋼構造物反転治具2の回転部21をロール3b上に載置することで、ロール3bの回転に伴って鋼構造物反転治具2とともに鋼構造物100を反転させるように支持する。
【0039】
少なくとも一方の反転機構部3は、図7および図8に示すように、駆動機構31と、回転停止機構32とを有している。
【0040】
駆動機構31は、鋼構造物100を反転させるために鋼構造物反転治具2を回転させるように、反転機構部3のロール3bを回転駆動するものである。そのため、駆動機構31は、減速機付きのモータ31aがフレーム3aに取り付けられている。モータ31aは、その出力軸に駆動スプロケット31bが固定されている。また、ロール3bは、その回転軸3cに従動スプロケット31cが固定されている。各スプロケット31b,31cは、無端状の環状索としてのチェーン31dが掛け回されている。また、駆動機構31は、各スプロケット31b,31cへのチェーン31dの係合状態を維持するため、チェーン31dに張力を付与する張力付与スプロケット31eを複数有している。張力付与スプロケット31eは、本実施の形態では、モータ31aの近傍に固定された2つの張力付与スプロケット31eと、各ロール3bの近傍にてチェーン31dに付与する張力を調整するように位置を調整可能に設けられた張力付与スプロケット31eとを有する。
【0041】
この駆動機構31は、モータ31aの駆動により、各スプロケット31b,31c,31eに掛け回されたチェーン31dが循環することで、各ロール3bが回転駆動される。これにより、鋼構造物反転治具2の回転部21が回転し、この鋼構造物反転治具2とともに鋼構造物100が反転する。また、モータ31aの駆動を停止することで、鋼構造物反転治具2の回転部21の回転が停止し、この鋼構造物反転治具2とともに鋼構造物100の反転が所定の回転位置で停止する。
【0042】
回転停止機構32は、例えば、モータ31aの駆動中にチェーン31dが切断した場合、反転する鋼構造物100の慣性力によって鋼構造物100が反転し続けるおそれがあるため、これを停止するための安全機構である。回転停止機構32は、図7に示すように、各ロール3bの間に配置されるようにフレーム3aに設けられている。この回転停止機構32は、鋼構造物反転治具2の回転部21における回転リング21aの鍔部21cの内側に配置される固定ブロック321と、回転リング21aの鍔部21cの外側に移動可能に配置されるカム322と、カム322を移動させるカム移動機構323と、チェーン切断検出機構324とを有している。
【0043】
固定ブロック321は、通常時に駆動機構31によって回転される回転リング21aに接触することのない位置にてフレーム3aに固定されている。
【0044】
カム322は、本実施の形態では2つ設けられており、回転リング21aの鍔部21cを間において固定ブロック321と対向するように配置されている。各カム322は、カム軸322aを中心に回転可能に設けられている。また、各カム322は、カム軸322aを置いて回転リング21aから遠ざかる側の揺動端が、連結軸322bによって連結されている。連結軸322bは、各カム322に貫通して設けられ、貫通した両端に、カム322を内側に押圧するバネ322cが設けられている。
【0045】
カム移動機構323は、各カム322の揺動端の内側に形成された爪322dに係合可能に設けられた係合部323aを有している。各係合部323aは、互いに連結され、爪322dに係合する係合位置(図9参照)と、爪322dとの係合から離隔する非係合位置(図10参照)とに移動可能に設けられている。係合部323aが移動する移動方向であって非係合位置側には、フレーム3aに固定された固定部323bが設けられている。この固定部323bは、係合部323aの移動方向に延在する棒状の移動案内部材323cが挿通されている。この移動案内部材323cは、係合部323aの移動を案内するように、一端が係合部323a側に固定されている。また、移動案内部材323cは、固定部323bと係合部323a側との間に設けられて、係合部323a側を係合位置側に押圧するバネ323dが巻装されている。また、固定部323bは、2つの検索チューブ323eの一端が固定されている。この検索チューブ323eは、内部にワイヤ323fが挿通され、当該ワイヤ323fの一端が係合部323a側に固定されている。各検索チューブ323eおよびワイヤ323fは、それぞれ図示しない操作盤に至り、各ワイヤ323fの他端部が操作盤に配置された各アクチュエータにそれぞれ接続されている。
【0046】
チェーン切断検出機構324は、図7に示すように、フレーム3aに対して揺動可能に検出アーム324aが取り付けられている。検出アーム324aは、その揺動端に検出用スプロケット324bが取り付けられている。検出用スプロケット324bは、各スプロケット31b,31c,31eに掛け回されたチェーン31dの内側に係合する。また、検出アーム324aとフレーム3aとの間には、検出用スプロケット324bがチェーン31dに係合するように、当該検出アーム324aを押圧する伸張ダンパーである押圧部324cが設けられている。また、検出アーム324aおよびフレーム3aには、相互間の位置を検出する、例えば、投受光型の位置検出センサ324dが設けられている。このチェーン切断検出機構324は、図7に示すように、各スプロケット31b,31c,31eにチェーン31dが掛け回された通常状態では、押圧部324cによって検出アーム324aが押圧されることで、検出用スプロケット324bがチェーン31dに係合する。この状態で、位置検出センサ324dは、検出アーム324aおよびフレーム3aの相互の位置を検出する。そして、チェーン切断検出機構324は、各スプロケット31b,31c,31eに巻装されたチェーン31dが切断した場合、検出用スプロケット324bがチェーン31dから外れるため、押圧部324cによって検出アーム324aが押圧され、通常状態の位置から外れるように揺動する。すると、位置検出センサ324dは、検出アーム324aおよびフレーム3aの相互の位置を検出することができなくなる。これにより、チェーン31dが切断したことが検出される。このチェーン切断検出機構324における位置検出センサ324dの信号は、上述したカム移動機構323における一方のワイヤ323fが接続されたアクチュエータ(図示せず)を作動させる信号として出力される。
【0047】
このような回転停止機構32は、駆動機構31によって回転リング21aが通常に回転し、鋼構造物100を反転させる通常時では、図9に示すように、各カム322の爪322dに係合部323aが係合している。この状態では、カム322の揺動端が係合部323aによって外側に押し広げられるように揺動することで、カム322が回転リング21aの外周面21bから離隔する。このため、回転リング21aは、通常通りに回転が許容される。なお、カム322は、バネ322cによって揺動端が内側に揺動するように押圧されているが、係合部323aの係合によってバネ322cの弾性力に抗して外側に押し広げられる。また、係合部323aは、各カム322の爪322dに係合する位置となるようにバネ323dによって押圧されている。なお、回転停止機構32は、この通常時において、回転リング21aがカム322に接触することがないように、カム322の間に回転リング21aの外周面21bと接触する回転子325が設けられている。
【0048】
そして、上記のチェーン切断検出機構324によるチェーン31dの切断の検出によって一方のアクチュエータが作動した場合、または、作業者による緊急停止信号によって他方のアクチュエータが作動した場合、図10に示すように、ワイヤ323fが引かれることで、バネ323dの弾性力に抗して係合部323aが移動し、各カム322の爪322dへの係合が外れる。このため、カム322は、バネ322cによって揺動端が内側に揺動するように押圧されていることから、このバネ322cの弾性力によって内側に揺動する。すると、カム322が回転リング21aの外周面21bに接触し、この抵抗によって回転リング21aは、上方に持ち上がり内周面が固定ブロック321に接触する。この結果、固定ブロック321と各カム322との間で回転リング21aの鍔部21cを挟み込むことで、回転リング21aの回転を強制的に止め、鋼構造物100の反転動作を停止させる。
【0049】
すなわち、本実施の形態の鋼構造物反転装置1は、鋼構造物100を反転させるものであって、上述した鋼構造物反転治具2を回転可能に取り付ける一対の反転機構部3を有し、当該反転機構部3の少なくとも一方に設けられており鋼構造物反転治具2を回転させるように反転機構部3を回転駆動する駆動機構31と、少なくとも駆動機構31を設けた反転機構部3に設けられており鋼構造物反転治具2の回転部21と係合して鋼構造物反転治具2の回転を停止させる回転停止機構32とを備える。
【0050】
この鋼構造物反転装置1によれば、駆動機構31の故障や異常などによって鋼構造物100を反転させる駆動力がフリーになった場合(例えば、チェーン31dが切断した場合)、反転する鋼構造物100の慣性力によって鋼構造物100が反転し続けるおそれがあるが、これを停止することができ、装置の安全性を向上することが可能になる。
【0051】
なお、駆動機構31は、少なくとも一方の反転機構部3に設けられていればよいが、一対ある反転機構部3の双方に駆動機構31を設ければ、鋼構造物100の両端を駆動して反転させることになるため、鋼構造物反転治具2において、その回転中心線Sと鋼構造物100の重心線Gとの位置関係のずれが大きくても、鋼構造物100を反転させることが可能になる。例えば、一方の反転機構部3に駆動機構31を設けた場合での回転中心線Sと重心線Gとの許容誤差の2倍分のずれがあっても鋼構造物100を反転させることが可能になる。
【0052】
また、本実施の形態の鋼構造物反転装置1では、駆動機構31は、反転機構部3に回転駆動力を伝達する環状索としてのチェーン31dを有し、回転停止機構32は、チェーン31dの切断を検出し、鋼構造物反転治具2の回転を停止させる。
【0053】
この鋼構造物反転装置1によれば、環状索としてのチェーン31dを有する場合、このチェーン31dの切断の事象が危険性の大きいものであり、この事象を検出して鋼構造物反転治具2の回転を停止させることで、安全性を向上する効果をより顕著に得ることが可能になる。
【0054】
図11は、本実施の形態に係る鋼構造物反転方法の説明図である。この鋼構造物反転方法は、図11に示すように、上述した鋼構造物反転治具2を用い、位置調整手段24,25によって回転部21の回転中心線Sに対して鋼構造物100の重心線Gを合わせつつ連結部23を介して固定部22と鋼構造物100とを連結する工程と、次に、天井クレーン(図示せず)によって図1に示すように、回転部21を反転機構部3に取り付ける工程と、次に、反転機構部3により回転部21を回転させ鋼構造物100を反転させる工程とを含む。なお、回転部21を反転機構部3に取り付ける工程では、回転停止機構32におけるカム322の爪322dに、カム移動機構323の係合部323aを係合させ、このカム322と固定ブロック321との間に回転リング21aの鍔部21cを挿入する。また、鋼構造物100を反転させた後は、当該鋼構造物100の加工を行う。そして、鋼構造物100の加工が終わった場合、上記の工程を逆に行って鋼構造物100を鋼構造物反転装置1から外し、鋼構造物反転治具2を鋼構造物100から外す。
【0055】
この鋼構造物反転方法によれば、寸法や重量が個々に異なる鋼構造物100を、反転機構部3の回転中心に対して重心線Gを合わせて支持させることが可能になる。この結果、過大な偏心モーメントが発生することなく鋼構造物100を反転させることが可能になる。
【符号の説明】
【0056】
1 鋼構造物反転装置
2 鋼構造物反転治具
21 回転部
21a 回転リング
21b 外周面
21c 鍔部
22 固定部
22c 固定孔
23 連結部
23c 固定孔
24 固定部側位置調整手段
25 構造物側位置調整手段
26 連結補強部
26a,26b ターンバックル取付部
27 H形鋼
27a 固定孔
28 固定板
28a,28b 固定孔
3 反転機構部
3a フレーム
3b ロール
31 駆動機構
31a モータ
31b 駆動スプロケット
31c 従動スプロケット
31d チェーン(環状索)
31e 張力付与スプロケット
32 回転停止機構
321 固定ブロック
322 カム
322a カム軸
322b 連結軸
322c バネ
322d 爪
323 カム移動機構
323a 係合部
323b 固定部
323c 移動案内部材
323d バネ
323e 検索チューブ
323f ワイヤ
324 チェーン切断検出機構
324a 検出アーム
324b 検出用スプロケット
324c 押圧部
324d 位置検出センサ
100 鋼構造物
100a 固定孔
G 重心線
S 回転中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼構造物を反転させるように当該鋼構造物の両端を支持する一対の反転機構部に用いられ、前記鋼構造物と各前記反転機構部との間の位置決めを行う鋼構造物反転治具であって、
前記反転機構部の回転中心に一致する回転中心線を有して当該反転機構部に取り付けられる回転部と、
前記回転部と一体に設けられており前記鋼構造物の端部に連結される固定部と、
前記固定部および前記鋼構造物の間で前記固定部と前記鋼構造物とを連結する連結部と、
前記回転部の回転中心線に対して前記鋼構造物の重心線を合わせるように、前記固定部と前記連結部との取付位置を調整する固定部側位置調整手段と、
を備えることを特徴とする鋼構造物反転治具。
【請求項2】
前記回転部の回転中心線に対して前記鋼構造物の重心線を合わせるように、前記連結部と前記鋼構造物との取付位置を調整する構造物側位置調整手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の鋼構造物反転治具。
【請求項3】
鋼構造物を反転させる鋼構造物反転装置であって、
請求項1または2に記載の鋼構造物反転治具を回転可能に取り付ける一対の反転機構部を有し、
当該反転機構部の少なくとも一方に設けられており前記鋼構造物反転治具を回転させるように前記反転機構部を回転駆動する駆動機構と、
少なくとも前記駆動機構を設けた前記反転機構部に設けられており前記鋼構造物反転治具の回転部と係合して前記鋼構造物反転治具の回転を停止させる回転停止機構と、
を備えることを特徴とする鋼構造物反転装置。
【請求項4】
前記駆動機構は、前記反転機構部に回転駆動力を伝達する環状索を有し、前記回転停止機構は、前記環状索の切断を検出し、前記鋼構造物反転治具の回転を停止させることを特徴とする請求項3に記載の鋼構造物反転装置。
【請求項5】
鋼構造物を反転させる鋼構造物反転方法であって、
請求項1または2に記載の鋼構造物反転治具を用い、位置調整手段によって回転部の回転中心線に対して前記鋼構造物の重心線を合わせつつ連結部を介して固定部と前記鋼構造物とを連結する工程と、
次に、前記回転部を反転機構部に取り付ける工程と、
次に、前記反転機構部により前記回転部を回転させ前記鋼構造物を反転させる工程と、
を含むことを特徴とする鋼構造物反転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−86141(P2013−86141A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229899(P2011−229899)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(506122246)三菱重工鉄構エンジニアリング株式会社 (111)