説明

鋼管接続構造体

【課題】不等沈下修復工事用の鋼管の保持力が大きい鋼管接続構造体を提供する。
【解決手段】鋼管10を順次接続して家屋の不等沈下修復に用いられる鋼管接続構造体であり、相互に接続される2本の鋼管10,10の間に接続円筒体20を介設し、接続円筒体20は、外周面の上下中央位置の円環フランジ部5と、鋼管10の端部に内挿される内挿筒部21,21とを、一体に備え、各内挿筒部21の外周面に、揺動可能に係止用揺動子22が枢着され、鋼管10の端部10Aには、揺動子22が差し込まれて係止するL字状ガイド溝30を切欠形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家屋の不等沈下修復に用いられる鋼管接続構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
家屋が不等沈下して傾斜を生じた場合、これを修復して元の水平姿勢に戻す方法としては、いわゆるアンダーピーニング工法が知られ、例えば、特許文献1に記載の発明のように、傾いた基礎の周辺を人力で掘削し、油圧ジャッキにて鋼管を地中へ鉛直状に圧入し、順次、大径短筒体を溶接にて連結しつつ、十分に長い鋼管接続構造体を形成していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−295027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、溶接にて連結する作業は、溶接に必要な電力の確保や、溶接機の設置、段取り作業に、多大な時間と労力を必要とする問題があった。また、火災の虞れや、地中からメタンガスが噴出する場所では一層危険であり、また、酸欠問題もあった。また、上記大径短筒体は、鋼管よりも大径であるため、油圧ジャッキによる圧入力が余分に大きくなり、また、鋼管よりも大きい孔を形成してゆくので、摩擦抵抗力(鋼管保持力)が低下するという欠点もあった。
【0005】
そこで、本発明は、容易かつ迅速かつ安全に作業を行なうことができ、鋼管の保持力が大きい不等沈下修復用の鋼管接続構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明に係る鋼管接続構造体は、鋼管を順次接続して家屋の不等沈下修復に用いられる鋼管接続構造体であり、相互に接続される2本の鋼管の間に接続円筒体を介設し、該接続円筒体は、外周面の上下中央位置の円環フランジ部と、上記鋼管の端部に内挿される内挿筒部とを、一体に備え、各該内挿筒部の外周面に、揺動可能に係止用揺動子が枢着され、上記鋼管の上記端部には、上記揺動子が差し込まれて係止するL字状ガイド溝を切欠形成したものである。
【0007】
また、上記係止用揺動子が、揺動可能に枢着される上記内挿筒部の外周面に、切欠平面部が形成されているものである。
また、上記L字状ガイド溝は、上記鋼管の端面から軸心方向に形成された軸心方向溝部と、該軸心方向溝部の内端を周方向に折曲形成された周方向溝部と、から成り、上記軸心方向溝部と上記周方向溝部との内角部が、上記軸心方向溝部へ差込まれる上記係止用揺動子に摺接しつつ該揺動子を揺動させて上記周方向溝部に移動して係止するように構成されているものである。
【0008】
また、上記接続円筒体に於て、上記L字状ガイド溝の上記周方向溝部に係止した上記係止用揺動子の揺動を阻止して、上記係止用揺動子が上記軸心方向溝部へ戻ることを阻止する戻り止め小凸部が突設されているものである。
【0009】
また、上記戻り止め小凸部は、係止方向に揺動する上記係止用揺動子が乗り越えるように誘導する傾斜勾配面を有し、反係止方向に揺動する上記係止用揺動子に対して当接して揺動を阻止する揺動阻止直立面を有するものである。
また、上記係止用揺動子を常時上記内挿筒部の外周面へ接近させる方向に弾発付勢する弾発部材を設けたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の鋼管接続構造体によれば、溶接作業が不要であり、家屋の不等沈下の修復の工事を、作業効率良く、かつ、安全に、行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】不等沈下修復工事の説明図である。
【図2】不等沈下修復工事の説明図である。
【図3】本発明の実施の一形態を示す要部斜視図である。
【図4】拡張状態にて示す要部説明図である。
【図5】弾発部材を示す斜視図である。
【図6】接続円筒体の一例の正面図である。
【図7】接続円筒体の一例の側面図である。
【図8】接続部位の要部説明正面図である。
【図9】接続部位の要部拡大経過説明図である。
【図10】接続部位の要部説明正面図である。
【図11】図10のA−A断面図である。
【図12】戻り止め小凸部の一例の要部拡大説明図である。
【図13】戻り止め小凸部の要部拡大断面図である。
【図14】弾発部材の別の実施の一例を示す全体図であり、(a)は正面図であり、(b)は側面図である。
【図15】係止用揺動子の取着状態の別の一例を示す要部拡大側面図である。
【図16】係止用揺動子の取着状態の他の一例を示す要部拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態を示す図面に基づき本発明を詳説する。
図1に示すように、家屋1が不等沈下して傾斜を生じた場合に、これを水平状姿勢に修復する必要があり、その具体的工法は多くの提案(前記特許文献1等参照)がされてはいるが、図1及び図2のように、傾いた基礎2の沈下部の周辺に穴3を掘削形成し、油圧ジャッキ4…を使用して、本発明に係る鋼管接続構造体Zを地中の支持層まで、打設していた。
【0013】
その後、さらに油圧ジャッキ4…に(図示省略の)油圧ポンプ及び配管を介して加圧作動油を送り、伸長すると、基礎2が持ち上げられてゆく。全ての打設が終了すれば、全ての油圧ジャッキ4にて基礎2が高精度に水平状となるように伸縮調節しつつ、建物の傾きを修正・固定し、油圧ジャッキ4を外しつつ鋼管等を鋼管接続構造体Zの上端と基礎との間に介在させ、固定する。その後、穴3に土を埋め戻し、モルタル等を注入して補強する工法である。
【0014】
図1及び図2に示す実施の形態のように、本発明に係る鋼管接続構造体Zは、順次接続される鋼管10…と、相互に接続される2本の鋼管10,10の間に介設される接続円筒体20と、を具備している。
【0015】
図6及び図7に示すように、接続円筒体20は、外周面の上下中央位置に円環フランジ部5を外鍔状に有している。また、鋼管10の端部10Aに内挿される内挿筒部21,21を上下に有している。各内挿筒部21には、外周曲面を切削して(又は鋳造黒皮のままで)平面状に形成した切欠平面部11が設けられている。各切欠平面部11には、揺動軸心L22廻りに揺動可能として係止用揺動子22が枢着されている。また、切欠平面部11には、戻り止め小凸部15が突設されている。
【0016】
係止用揺動子22は、平面状の係止面22Aと、湾曲凸面状の誘導面22Bと、を有している。係止用揺動子22,22は、180°反対側に各該内挿筒部21に1個ずつ配設されている。係止用揺動子22は、内挿筒部21の外周面へ接近させる方向に常時弾発付勢する弾発部材25を六角穴付皿ボルトとの間に介設して、内挿筒部21に取着している。図5に示すように、弾発部材25は、円錐型バネ座金を、さらに、凹凸波形として、円錐形間隙に装入されて、常時弾発的に圧縮状態を保つ。なお、弾発部材25の別の一例として、図14に示すような平型ばね座金を弾発部材25とし、六角穴付ボルト(図15参照)あるいは六角穴付ボタンボルト(図16参照)を用いて締結するも好ましい。
また、図11に示すように、係止用揺動子22の高さ寸法H22は、鋼管10の肉厚寸法H10以下の寸法で、可能限大きく設定するのが望ましい。
【0017】
図12(a)に示すように、戻り止め小凸部15は、切欠平面部11に対して垂直に立設された揺動阻止直立面15Bと、揺動阻止直立面15Bの上端縁15Cから切欠平面部11にむけて緩やかに下降する平面を成す傾斜勾配面15Aと、を有している。
【0018】
図3及び図4に示すように、鋼管10の端部10Aには、揺動子22が差し込まれて係止するL字状ガイド溝30を切欠形成している。L字状ガイド溝30は、鋼管10の端面10Bから鋼管軸心L10方向に形成された軸心方向溝部30Bと、軸心方向溝部30Bの内端から周方向に折曲形成された周方向溝部30Cと、から形成される。周方向溝部30Cと軸心方向溝部30Bとは、内角部35を形成して折曲している。
【0019】
上述した本発明の鋼管接続構造体Zの使用方法(作用)について説明する。
図8に示すように、接続円筒体20は、鋼管10の端部10Aに、内挿筒部21を内挿して接続する。この際、係止用揺動子22は、L字状ガイド溝30の軸心方向溝部30Bに差込まれ、軸心方向溝部30Bの下端まで鋼管軸心L10方向に挿入される。
【0020】
図9に示すように、軸心方向溝部30Bの下端に達した係止用揺動子22は、係止面22Aを内角部35に摺接しつつ揺動軸心L22廻りに順次矢印N方向に揺動して、周方向に案内され、周方向溝部30Cに移動する。この際、図8の接続円筒体20は、係止用揺動子22の周方向への移動に伴って、軸心L10廻りに矢印M方向に回転しつつ挿入され、円環フランジ部5の端面5Aと鋼管10の端面10Bが摺接する。言い換えると、L字状ガイド溝30をカム溝として、係止用揺動子22がカム片となり、L字状ガイド溝30による係止用揺動子22の揺動と、接続円筒体20の回転及び挿入とが、相互に連動して行われる。
【0021】
図13に示すように、係止用揺動子22は、弾発部材25により内挿筒部21の外周面側へ常時弾発付勢されており、切欠平面部11に摺接しつつ矢印N方向に揺動する(図13(a))。係止用揺動子22は、誘導面22Bを傾斜勾配面15Aに摺接して、矢印N方向に揺動しつつ切欠平面部11から離反する方向へ誘導される(図13(b))。係止用揺動子22は、戻り止め小凸部15の上端縁15Cを乗り越えて、弾発部材25の復元力によって切欠平面部11へ接近する方向へ弾発付勢される(図13(c))。
【0022】
図10に示すように、周方向溝部30Cに移動した係止用揺動子22は、係止面22Aを周方向溝部30Cの上端面31に当接して、接続円筒体20が抜けることのないように係止する。また、戻り止め小凸部15の揺動阻止直立面15Bは、揺動子22の係止面22Aに当接して係止し、揺動子22が矢印R方向への揺動を阻止する。つまり、揺動子22と周方向溝部30Cとの係止の状態が離脱する方向(矢印Mの反対方向)への回転を阻止して、揺動子22が軸心方向溝部30Bへ戻ることなく係止する。
【0023】
図13(d)に示すように、揺動阻止直立面15Bは、矢印R方向に揺動しようとする係止用揺動子22の係止面22Aに当接して揺動を阻止する。弾発部材25は、揺動子22が揺動阻止直立面15Bを乗り越えて揺動することがないよう、内挿筒部21の外周面へ接近させる方向に常時弾発付勢する。
【0024】
なお、本発明は、設計変更可能であって、例えば、一つの内挿筒部21に対し、2個以上の係止用揺動子22…を配設し、これに応じて、鋼管10の端部10Aにも複数本のL字状ガイド溝30…を切欠形成するも、好ましい。
また、図12(b)に示すように、戻り止め小凸部15の傾斜勾配面15Aは、横断面円弧状に形成してもよい。
【0025】
以上のように、本発明は、鋼管10を順次接続して家屋の不等沈下修復に用いられる鋼管接続構造体であり、相互に接続される2本の鋼管10,10の間に接続円筒体20を介設し、接続円筒体20は、外周面の上下中央位置の円環フランジ部5と、鋼管10の端部10Aに内挿される内挿筒部21,21とを、一体に備え、各内挿筒部21の外周面に、揺動可能に係止用揺動子22が枢着され、鋼管10の端部10Aには、揺動子22が差し込まれて係止するL字状ガイド溝30を切欠形成したので、鋼管10と接続円筒体20をスムースに次々と接続できて、かつ、不意の離脱を生ずることなく、不等沈下修復工事を、能率的、かつ、安全に、行い得る。また、従来のように溶接作業が全く不要となるので、図1,図2に示した穴3は小さくて済む。特に、図1,図2の奥側(図の右側)の鋼管接続構造体Zよりも奥方には、少し掘削しておくだけで済む。さらに、この鋼管接続構造体Zは、外周面にほとんど突出部が形成されず、油圧ジャッキ4による打入力(圧入力)は、小さくて済む。また、鋼管10の内径公差が大きくばらついていても確実に抜け止めをすることができる。
【0026】
また、係止用揺動子22が、揺動可能に枢着される内挿筒部21の外周面に、切欠平面部11が形成されているので、係止用揺動子22を内挿筒部21の外周面に当接状として容易に取着することができる。また、この鋼管接続構造体Zは、外周面にほとんど突出部が形成されず、油圧ジャッキ4による打入力(圧入力)は、小さくて済む。
【0027】
また、L字状ガイド溝30は、鋼管10の端面10Bから軸心方向に形成された軸心方向溝部30Bと、軸心方向溝部30Bの内端を周方向に折曲形成された周方向溝部30Cと、から成り、軸心方向溝部30Bと周方向溝部30Cとの内角部35が、軸心方向溝部30Bへ差込まれる係止用揺動子22に摺接しつつ揺動子22を揺動させて周方向溝部30Cに移動して係止するように構成されているので、L字状ガイド溝30をカム溝として、係止用揺動子22がカム片となり、接続円筒体20を回転させることによってL字状ガイド溝30に接続円筒体20を係止でき、溶接することなく鋼管10をスムースに接続できる。
【0028】
また、接続円筒体20に於て、L字状ガイド溝30の周方向溝部30Cに係止した係止用揺動子22の揺動を阻止して、係止用揺動子22が軸心方向溝部30Bへ戻ることを阻止する戻り止め小凸部15が突設されているので、不意に接続状態から分離することがなく、不等沈下修復工事を円滑に進めることが可能となる。
【0029】
また、戻り止め小凸部15は、係止方向に揺動する係止用揺動子22が乗り越えるように誘導する傾斜勾配面15Aを有し、反係止方向に揺動する係止用揺動子22に対して当接して揺動を阻止する揺動阻止直立面15Bを有するので、容易に係止状態とすることができ、一旦係止状態となってからは不意に接続状態から分離することがなく、不等沈下修復工事を円滑に進めることが可能となる。
【0030】
また、係止用揺動子22を常時内挿筒部21の外周面へ接近させる方向に弾発付勢する弾発部材25を設けたので、容易に係止状態とすることができ、一旦係止状態となってからは不意に接続状態から分離することがなく、不等沈下修復工事を円滑に進めることが可能となる。
【符号の説明】
【0031】
5 円環フランジ部
10 鋼管
10A 端部
10B 端面
11 切欠平面部
15 戻り止め小凸部
15A 傾斜勾配面
15B 揺動阻止直立面
20 接続円筒体
21 内挿筒部
22 係止用揺動子
25 弾発部材
30 L字状ガイド溝
30B 軸心方向溝部
30C 周方向溝部
35 内角部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管(10)を順次接続して家屋の不等沈下修復に用いられる鋼管接続構造体であり、
相互に接続される2本の鋼管(10)(10)の間に接続円筒体(20)を介設し、該接続円筒体(20)は、外周面の上下中央位置の円環フランジ部(5)と、上記鋼管(10)の端部(10A)に内挿される内挿筒部(21)(21)とを、一体に備え、
各該内挿筒部(21)の外周面に、揺動可能に係止用揺動子(22)が枢着され、 上記鋼管(10)の上記端部(10A)には、上記揺動子(22)が差し込まれて係止するL字状ガイド溝(30)を切欠形成したことを特徴とする鋼管接続構造体。
【請求項2】
上記係止用揺動子(22)が、揺動可能に枢着される上記内挿筒部(21)の外周面に、切欠平面部(11)が形成されている請求項1記載の鋼管接続構造体。
【請求項3】
上記L字状ガイド溝(30)は、上記鋼管(10)の端面(10B)から軸心方向に形成された軸心方向溝部(30B)と、該軸心方向溝部(30B)の内端を周方向に折曲形成された周方向溝部(30C)と、から成り、上記軸心方向溝部(30B)と上記周方向溝部(30C)との内角部(35)が、上記軸心方向溝部(30B)へ差込まれる上記係止用揺動子(22)に摺接しつつ該揺動子(22)を揺動させて上記周方向溝部(30C)に移動して係止するように構成されている請求項1又は2記載の鋼管接続構造体。
【請求項4】
上記接続円筒体(20)に於て、上記L字状ガイド溝(30)の上記周方向溝部(30C)に係止した上記係止用揺動子(22)の揺動を阻止して、上記係止用揺動子(22)が上記軸心方向溝部(30B)へ戻ることを阻止する戻り止め小凸部(15)が突設されている請求項3記載の鋼管接続構造体。
【請求項5】
上記戻り止め小凸部(15)は、係止方向に揺動する上記係止用揺動子(22)が乗り越えるように誘導する傾斜勾配面(15A)を有し、反係止方向に揺動する上記係止用揺動子(22)に対して当接して揺動を阻止する揺動阻止直立面(15B)を有する請求項4記載の鋼管接続構造体。
【請求項6】
上記係止用揺動子(22)を常時上記内挿筒部(21)の外周面へ接近させる方向に弾発付勢する弾発部材(25)を設けた請求項1,2,3,4又は5記載の鋼管接続構造体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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