説明

鋼管用アーク溶接装置

【課題】アーク溶接により均質な溶接ビードが形成された高品質な鋼管を効率よく大量生産するために、確実なアースを実現するとともに駆動装置への通電を防止することができ、そして鋼管の回転ムラをなくして安定的に回転させることができる鋼管用アーク溶接装置を提供すること。
【解決手段】アース線を備えた基台1上において水平かつ並行に配置された2本の駆動ローラ2a,2bと、これら駆動ローラ2a,2bの非溶接作業側端部に接続された駆動装置Mとからなるものとし、前記2本の駆動ローラ2a,2bが、ともに左右両端付近にフランジ51a、51b、52a、52bが突設されたものであり、かつ、少なくとも溶接作業側端部におけるフランジ51a、51bを複数枚離隔して突設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空の鋼管をはじめ中実の鋼棒等(以下、「鋼管」と総称する)を対象とするアーク溶接装置であり、とくに鋼管の先端部分に対して他の金属部材を溶接する際に好適に用いられるアーク溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
断面円形をなす鋼管を母材として長手方向に複数本を連結したり、これら鋼管の先端に他の金属部材を溶接するには、鋼管の外周面に亘って周回するように均質な溶接ビードを形成する必要があることから、従来より鋼管を回転させながら溶接作業を行う装置や方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に係る管溶接装置及び管溶接方法では、仮溶接された鋼管の外周面に転接される車輪を有する台車上に鋼管を載置する一方、台車に支持された駆動装置と鋼管間に無端状の条体を巻き掛けることにより、トーチを位置固定しつつも駆動装置によって鋼管を回転させながら、鋼管の横断面方向全周に亘る溶接作業を行うことが提案されている。
【0004】
ところが、前記溶接装置では、溶接作業を終えた鋼管を新しい未加工の鋼管に交換するごとに無端状の条体を巻き掛け直す必要があり、溶接作業工程が煩雑になる欠点がある。そこで、台側の車輪を駆動ロールとし、該駆動ロール上に鋼管を載置することにより軸周りに鋼管を回転させながら、位置固定したトーチを当接して鋼管の横断面方向全周に亘る溶接作業を行う方法も提案されている(特許文献2)。こうした方法であれば鋼管を載せ換えるだけで次なる溶接作業に移行できる利点がある。
【0005】
【特許文献1】特開平5−177389号公報
【特許文献2】特開平7−241683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
いずれにしても、鋼管とその載置台を相対的に回転させながら鋼管の全周に亘るアーク溶接作業を行う場合には、均質な溶接ビードを形成するために、確実なアースを実現するとともに駆動装置への通電を防止すること、そして鋼管の回転ムラをなくして安定的に回転させることが重要な課題となる。
【0007】
ところが、載置台上で回転する鋼管に対してアース器具を逐一固着・離脱させることは作業効率を低下させるので非現実的であるし、鋼管に常時接触しているはずの載置台を介してアースを行うことも意外と容易ではなかった。とりわけ、例えば鋼管が長尺な棒状をした小径管体である場合、製造上あるいは輸送・保管上の理由から鋼管が僅かに屈曲してしまうことも少なくないところ、鋼管の軸芯が偏心していると、鋼管とその載置台の接触ムラが生じる結果、アースにもムラが生じやすかった。また、鋼管表面に施された保護膜や、後発的な錆・汚れ等の存在によってもアースにムラが生じやすかった。
【0008】
また、軸芯が偏心してしまった鋼管は、鋼管自体の回転にムラが生じやすくなるし、屈曲の程度によっては溶接作業中に鋼管の一端側が跳ね上がるなどの危険もあった。
【0009】
したがって、本発明は、アーク溶接により均質な溶接ビードが形成された高品質な鋼管を効率よく大量生産するために、確実なアースを実現するとともに駆動装置への通電を防止することができ、そして鋼管の回転ムラをなくして安定的に回転させることができる鋼管用アーク溶接装置の提供を主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記所期の課題解決を図るため、本発明に係る鋼管用アーク溶接装置では、アース線を備えた基台上において水平かつ並行に配置された2本の駆動ローラと、これら駆動ローラの非溶接作業側端部に接続された駆動装置とからなるものとし、前記2本の駆動ローラが、ともに左右両端付近にフランジが突設されたものであり、かつ、少なくとも溶接作業側端部におけるフランジを複数枚離隔して突設した。
【0011】
長尺な鋼管を支持回転させるために同じく長尺な駆動ローラを用いつつも、溶接母材となる鋼管を駆動ローラ上において直接支持回転させるのではなく、駆動ローラの両端側に突設されたフランジによって支持することにより、駆動ローラと鋼管の接点を線接触とした。駆動ローラの非溶接作業側端部に対して駆動装置を接続したり、少なくとも溶接作業側端部におけるフランジを複数枚離隔して突設することとしたのは、鋼管への通電を溶接作業側に集中させる一方で、駆動装置に対する電流の影響をできるだけ少なくするためである。
【0012】
なお、駆動ローラの回転軸を基台上に軸着することで、溶接母材となる鋼管から駆動ローラ、そして基台を経てアース線へと通電することになるが、より確実なアースを実現するためには、駆動ローラに対して重量のある金属チェーンを掛け回しながら、その金属チェーン端部が常に基台に接触するようにしておくとよい。重機の駆動伝達に用いられるような重量のある金属チェーンは、回転する駆動ローラに掛け回されたまま、その表面で摺動するので通電部材としては好適であるし、摩耗した際の交換も容易である。
【0013】
ここで、駆動装置は、鋼管の回転速度を抑制する一方で回転トルクを確保するために、減速機付きのモータを用いるのが望ましいのであるが、モータに対する溶接電流の影響を遮断するべく、減速機はオイル式とすることができる。
【0014】
また、少なくとも1本の駆動ローラにおける非溶接作業側端部に突設されるフランジをベアリング付フランジとすることで、軸芯が偏心した鋼管を溶接母材とする場合においては、2本の駆動ローラ間(正確には、駆動ローラに突設されたフランジ間)において回転する鋼管の回転ムラをベアリング付フランジで吸収させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る鋼管用アーク溶接装置では、溶接母材となる鋼管の左右両端付近にあたる、駆動ローラの左右端付近に各々フランジを突設し、該フランジにより線接触にて鋼管を支持させるようにする一方、溶接作業側端部に対して多くのフランジが接触するようにして通電位置を溶接作業側に偏重させるようにしたので、とくに溶接作業側において確実なアースを実現することができる。そして、常に良好なアース状態を実現できる結果、例えば鉄製鋼管の先端に45Cのような炭素鋼材を溶着することも問題なく行うことできる。
【0016】
また、駆動装置における減速機をオイル式とすることで、モータに対する溶接電流の影響を完全に遮断することができ、溶接装置としての耐久性を高めることができる。
【0017】
前述のように、本発明に係る鋼管用アーク溶接装置では、溶接母材となる鋼管を駆動ローラに突設されたフランジにより線接触支持させることで、2本の駆動ローラの谷間で回転する鋼管の回転ムラをある程度吸収できるのであるが、場合によって少なくとも1本の駆動ローラにおける非溶接作業側端部に突設されるフランジをベアリング付フランジとすることで、屈曲するように軸芯が偏心した鋼管であっても安定的に回転させることができるようになったのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明につき、図面にもとづいて詳細に説明する。図1は、本発明に係る鋼管用アーク溶接装置の一例を示した概略平面図である。図示されるように、本発明に係る装置は、地中へのアース線(図示されていない)を備えている基台1上において、2本の駆動ローラ2a,2bを水平かつ並行に配置した構成をしている。作図上の都合で駆動ローラ2a,2bと基台1は中間省略されているが、溶接母材となる鋼管の長さに対応した長さで構成される。
【0019】
各駆動ローラ2a,2bは、各々の両端から外方に向けて延設された細径の駆動軸21a,21b部分において、それぞれピロー型の軸受け6a,6bを用いて基台1上に軸着されており、それらの左右両端付近にはフランジが突設されている。本例の装置では、溶接作業側(図1においては左側)に各々計5枚のフランジ51a,51bが等間隔に離隔して設けられているが、溶接時の通電量を溶接作業側に集中できるのであれば、これらフランジ51a,51bを設ける枚数は任意であるし、各フランジ同士の間隔も任意に設定することができる。そして、これらフランジ51a,51bの外径を考慮して、2本の駆動ローラ2a,2bの配置間隔が設定されることとなる。
【0020】
なお、駆動ローラ2a,2bは、中空で太径な鋼管を用い、該鋼管内に両端から駆動軸21a,21bを内挿する際、各駆動軸に対して鋼管内径に適合する外径を備えたドーナツ状のリングないしフランジを複数枚離隔して外嵌しておくことで、駆動軸21a,21bの芯出しと安定化が図られる。
【0021】
一方、駆動ローラ2a,2bの非溶接作業側(図1においては右側)には、各々1枚ずつのフランジ52a,52bが突設されている。そして、少なくとも一方側のフランジには、ボールベアリング付きのものが用いられることになる。
【0022】
装置の非溶接作業側においては、駆動軸21a,21bに設けられたスプロケット7とローラチェーン8を介して、2本の駆動軸21a,21b間、そして手前側の駆動軸21bと駆動装置Mとが連結されている。本例の駆動装置Mは、電動式のモータ4と、減速機3とから構成されており、モータ4の出力軸に設けられたプーリー41と、減速機3の入力軸に設けられたプーリー31とがVベルト9によって接続され、減速機3の出力軸に設けられたスプロケット7が、手前側に位置している駆動ローラ2bの駆動軸21bに設けられた駆動軸21bとローラチェーン8によって連結されている。なお本例では、モータ4として200V仕様で1700〜1720rpm、出力0.2KWのものを用い、減速機3としてオイル式の減速比1:30のものを用いている。
【0023】
また、装置の溶接作業側においても、駆動軸21a,21bに設けられたスプロケット7とローラチェーン8を介して、2本の駆動軸21a,21b間が連結されている。したがって、モータ4の出力軸を始端とする駆動力は、プーリー41からVベルト9を介して減速機3の入力軸に設けられたプーリー31へ伝達された後、出力軸のスプロケット7からローラーチェーン8を介して手前側の駆動ローラ2bへ、そして手前側の駆動ローラ2bから奥側の駆動ローラ2aへと伝達されるわけである。
【0024】
ところで、本例の装置においては、計5本の金属チェーン10を各駆動ローラ2a,2bに対して掛け回している。これら金属チェーン10は、重量のあるものを単に掛け回しただけで駆動ローラ2a,2bに固定されるものではない。各駆動ローラ2a,2bが回転すると、その表面で摺動するので、端部が常に基台に接触している結果、効果的なアーシングが図られるのである。
【0025】
図2は、前記装置において、溶接母材となる鋼管を駆動ローラ上に載置した状態を示す概略縦断面図である。前述したように、モータ4の駆動力によって手前側の駆動ローラ2bと奥側の駆動ローラ2aが連動して反時計回りに回転すると、各駆動ローラ2a,2bに突設されたフランジ51a,51b上に載置された溶接母材となる鋼管Wも反時計回りに回転することになる。このとき、金属チェーン10は、両端を基台1に接触させたまま駆動ローラ2b上において摺動するので、鋼管Wに対して溶接作業を施すと、フランジ51bから駆動ローラ2b、そして金属チェーン10から基台1を経てアース線へと通電することになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る鋼管用アーク溶接装置の一例を示した概略平面図である。
【図2】図1の装置において、溶接母材となる鋼管を駆動ローラ上に載置した状態を示す概略縦断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 基台
2a,2b 駆動ローラ
3 減速機
4 モータ
6a,6b 軸受け
7 スプロケット
8 ローラチェーン
9 Vベルト
10 金属チェーン
21a,21b 駆動軸
31,41 プーリー
51a,51b フランジ(溶接作業側)
52a,52b フランジ(非溶接作業側)
M 駆動装置
W 鋼管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アース線を備えた基台上において水平かつ並行に配置された2本の駆動ローラと、これら駆動ローラの非溶接作業側端部に接続された駆動装置とからなり、前記2本の駆動ローラは、ともに左右両端付近にフランジが突設されたものであり、かつ、少なくとも溶接作業側端部におけるフランジを複数枚離隔して突設したことを特徴とする鋼管用アーク溶接装置。
【請求項2】
駆動装置が、オイル式の減速機を備えたものである請求項1記載の鋼管用アーク溶接装置。
【請求項3】
少なくとも1本の駆動ローラにおける非溶接作業側端部に突設されるフランジをベアリング付フランジとしたことを特徴とする請求項1又は2いずれかに記載の鋼管用アーク溶接装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−221302(P2008−221302A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−65317(P2007−65317)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(507083342)有限会社田渕 (2)