説明

鋼線の連続表面処理装置及び連続表面処理方法

【課題】鋼線を処理液に浸漬することにより表面処理を均一かつ連続的に行うための装置および処理方法を提供する。
【解決手段】横型の処理槽の下層に処理液を均一に流入する整流板を設け、該整流板を通過して処理液が供給されるとともに処理槽上部に鋼線が装入可能なスリットを有し、該スリットから処理液を排出する処理槽を処理液排出部を有する保持槽内に設置したことを特徴とし、更に処理槽の長さを調整可能な機構を有し、処理液の温度、流量を制御するとともにパスラインの調整可能な機構を有する移動可能な台車に一体で設置したことを特徴とする鋼線の表面処理装置および処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺の鋼線を処理液に浸漬することにより簡便に長尺の鋼線表面と処理液との化学反応による表面処理を行うための装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼線の表面処理はコイル状にして、処理溶液に一定時間浸漬するバッチ処理法およびコイルから繰り出し、単線として処理液中を連続して通過させる連続処理法が行われている。バッチ処理では一度に大量処理が可能であり生産性は高いものの、鋼線が重なり合う部分では十分な表面処理効果が得られない問題がある。一方、鋼線を単線で通線し、連続処理を行う方法は、多くは通電による電解処理あるいは電気めっきを行う方法に代表されるように、これらの処理装置は大型で非常に高価なものであり、一度設置すると移動することが出来ないものである。しかし、鋼線の表面を化学反応により処理する場合は必ずしも電気を流す必要もなく、一定時間浸漬することで十分な場合があり、特に各種処理液を変えて多様な鋼線の表面処理を行う場合は、その処理液を容易に交換可能であるとともに、処理装置そのものが移動可能で各種処理工程に付帯的に設置、組み合わせて使用することが要求される。
【0003】
処理液中を連続して通過させる連続処理法に用いる細長い材料の表面洗浄装置として、複数の処理チップを設け、洗浄液を流入させたチップ内を通過させる装置(特許文献1)が開示されている。この装置では細長い材料を初めに通線する場合あるいは断線等のトラブルが発生した場合には全てのチップ内に細長い被処理材通す必要があり、通線性が著しく悪く、作業性に問題がある。また、チップへの洗浄液の流入部が固定されているために容易にチップの数を変えることができず、処理時間を変更するためには被処理材の通線速度を変える以外に手段が無く、長時間処理が必要な場合には生産性の低下をもたらすため、多種、多様な表面処理装置として使用するには問題がある。
【0004】
【特許文献1】特表昭57−501787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述のような問題に鑑みてなされたものであり、長尺の鋼線の通線処理作業が容易で、線速を変えずに表面処理時間を制御できるとともに、各種表面処理液の交換も容易で、かつ処理場所を選ばず、移動可能なコンパクトで作業性の高い鋼線の表面処理装置及びこれを用いた表面処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、筒状の横型処理槽と、該処理槽を収容する処理槽保持容器を少なくとも有する鋼線の連続表面処理装置について上記課題を解決すべく鋭意研究した。その結果、処理層下部に整流板を設けることで、処理槽の長手方向で処理液通過時の圧損を変えることが可能となり、処理液の流速が処理槽全長にわたり均一となること、処理槽の中心より上方にスリットを処理槽の長手方向全長にわたりに設けることで、初めに被処理鋼線を設置する場合、容易に処理槽内部に設置することができること、処理槽の出側あるいは入り側の一端あるいは両端とも長手方向にスライド部を設けスライドすることにより、処理槽の長さを変え、被処理鋼線の移動速度を変えることなく、表面処理時間が調整可能となること、および、処理槽を保持した保持容器を移動可能な台車上に設置して、容易に移動可能とすること等で、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明の要旨は、次の通りである。
【0008】
(1) 長尺の鋼線を連続して処理液に浸漬して表面処理する装置であって、該装置が、筒状の横型処理槽と、該処理槽を収容する処理槽保持容器を少なくとも有する鋼線の連続表面処理装置であり、前記処理槽が、該処理槽の下部に設けた少なくとも1つの処理液供給口と、供給口と鋼線の間に設けた整流板と、処理槽上部の通線方向全長にスリットとを少なくとも有すると共に、前記処理槽保持容器が、前記処理槽の保持部と、保持容器下部に設けた少なくとも1つの処理液排出口と、鋼線の通線方向の保持容器側面に鋼線の通過可能なシールを有する鋼線入出部とを少なくとも有することを特徴とする鋼線の連続表面処理装置である。
【0009】
(2) 前記処理槽の少なくとも一方の端部に、処理槽の長さを可変とするスライド部を有することを特徴とする上記(1)記載の鋼線の連続表面処理装置である。
【0010】
(3) 前記スリットの幅が、鋼線の線径+2mm以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の鋼線の連続表面処理装置である。
【0011】
(4)前記処理槽保持容器の上部が、開閉可能な蓋であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の鋼線の連続表面処理装置である。
【0012】
(5)前記処理槽保持容器が、移動可能な台車上に設置してなることを特徴とする上記(1)〜(4)記載のいずれかに記載の鋼線の連続表面処理装置である。
【0013】
(6)前記台車が、前記処理槽保持容器の高さ調整手段を有することを特徴とする上記(1)記載の鋼線の連続表面処理装置である。
【0014】
(7)前記台車が、処理液保持槽と、前記処理液供給口への処理液供給手段と、前記処理液排出口から処理液保持槽への処理液回収手段とを有することを特徴とする(5)又は(6)に記載の鋼線の連続表面処理装置である。
【0015】
(8)前記処理液供給手段が、定量ポンプであることを特徴とする上記(7)記載の鋼線の連続表面処理装置である。
【0016】
(9) 前記処理液保持槽が、温度制御手段を有することを特徴とする上記(7)記載の鋼線の連続表面処理装置である。
【0017】
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに記載の鋼線の連続表面処理装置を用いて、鋼線を処理液に浸漬することで、連続的に表面処理することを特徴とする鋼線の連続表面処理方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の鋼線の連続表面処理装置は、(a)容易に長尺鋼線の交換が可能で、高い作業
【0019】
性を有し、(b)被処理材の通線速度を変えることなく処理時間の制御ができ、(c)被処理鋼線の均一な表面処理が可能となり、(d)処理液の飛散が防止でき、(e)処理液の温度制御、流量の制御が可能で、(f)処理槽が容易に移動可能な各種表面処理が可能なコンパクトな装置であることから、操作性やメンテナンス等の作業性の高いものであり、この装置を用いた表面処理方法により、鋼線への表面処理を必要なときに簡便に効率良く行え、鋼線の表面処理の生産性を格段に改善するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0021】
図1は、本発明装置の表面処理槽部分の側面概略図である。本発明の表面処理装置は、図1の側面概略図に示すように、処理槽1の下部には処理液供給管5を接続し、処理槽下部の内面に二重構造とした。処理液流入部に多数の穴6‘を有する整流板6を介して処理液が連続して供給されるものである。この整流板の穴の形や大きさや数は幅方向、長手方向に適宜調整し、処理槽1の長手方向で処理液通過時の圧損を変えることが可能である。この結果、処理液の流速が処理槽全長にわたり均一になるように構成されている。
【0022】
処理槽1の両側あるいは片側には処理槽の長手方向にスライド可能な部材2が処理槽1に勘合されている。該処理槽1および2は固定部材10により保持容器3の内部に設置される。被処理鋼線の出側と入り側には液漏れを防止するシール8を有し、保持容器3の下部には表面処理液が排出される排出口9を有することにより、処理液の飛散を防止し、処理液の循環使用が可能な構造からなるものである。
【0023】
ここで、シール材は例えばゴム材質からなる可撓性を有する材料が好適に使用できる。シール材は中心から放射状に切り込みを入れ、その中心を被表面処理鋼線4が通過することにより鋼線表面とシール材が摩擦により鋼線表面に沿って移動方向に引き込まれることにより処理液の漏れを防止する機能を有し、シールおよび処理液の排出が防止されるものである。
【0024】
保持容器3内に設置される表面処理槽1は必ずしも1個ではなく、必要に応じて複数個を設置することも可能であり、個別に処理槽を設置することで鋼線の接着やもつれが防止できるものである。
【0025】
図2は、図1のA−A方向から見た断面概略図を示す。この図2の処理槽1の中心より上方、好ましくは真上部分に被処理線径の直径+2mm以上の幅Wとなるスリット7が処理槽の長手方向全長にわたりに設けられ、初めに被処理鋼線を設置する場合、容易に処理槽内部に設置できるように構成されている。
【0026】
ここで、スリットの幅が被処理線径+2mmより狭いと被処理鋼線の曲がりや、うねりがある場合、処理槽内に被処理鋼線を挿入し難くなるために、スリット幅の下限を被処理線径+2mmを下限とした。スリット幅の上限は特に限定しないが、幅が大きくなると処理液の排出量が多くなり流速が低下し、表面処理性が低下する場合があると共に、処理液の保持高さが浅くなる。また、被処理鋼線のうねりや曲がり部分では局部的に処理液から出てしまう場合がある。該スリットからは処理液がオーバーフローすることから、処理槽内に処理液を充満させるためには、スリット幅の好ましい範囲は、処理線径が10mm以下であれば、5〜20mmである。
【0027】
また、保持容器3の内部に設置される表面処理槽1のスリット7に対向する一面が開口可能な開閉機構を有する構造、例えば保持容器開閉蓋11とすることにより、被処理鋼線4を容易に処理槽1の内部に設置できる。
【0028】
図3は、処理槽に勘合されたスライド部が最も長い状態と短い状態を示す図で、(a)は処理槽をスライドすることで長くした状態を上方から見た図、(b)は処理槽をスライドすることで短くした状態の側面図である。図3に示すように、処理槽1の出側あるいは入り側の一端あるいは両端とも長手方向にスライド部2をスライドすることにより、処理槽1の長さを変えることが可能となり、被処理鋼線4の移動速度を変えることなく、表面処理時間を調整可能である。
【0029】
図4は、整流板部分拡大図(図3(b)のB−B−視野)で、(a)は整流板に敷設された穴が丸形状、(b)は整流板に敷設された穴が楕円形状、(c)は整流板に敷設された穴が短形を示す図である。図4において、図3の上面(B−B方向)から見た整流板6の形状の例を示している。整流板6に敷設する穴6‘形状は、丸、楕円、矩形等いずれでも良く、その形状、分布等は特に限定されないが、処理液の粘性が高い場合は穴径を大きくし、かつその数を増やすことにより、安定して処理液が処理槽1内に流入することができる。
【0030】
例えば水と同等の粘性を有する場合は整流板6の開口部6‘1個の開口面積は5〜20mmの断面積とすることで、安定して処理液を流入させることができる。該1この穴の開口面積は処理液供給口近傍では5〜10mm程度と小さくし、供給口から離れるにつれて15〜20mmと大きくすることにより処理槽の長手方向の液流速の均一化が図られる。
【0031】
また、処理槽1の材質は、スライド部2を含めて、処理液に侵されないものであれば特に限定されず、用いる処理液により適宜変更が可能であり、好ましくは、耐酸、耐アルカリ性及び耐熱性を有する塩ビ、FRP処理あるいは金属表面にセラミクスをコーテイングした材料の適用が好ましい。
【0032】
処理槽の長さは、500〜1500mmとすることで本発明の処理装置の移動を容易にし、各種装置との組み合わせによる表面処理の機能性を確保するためには好ましいサイズであり、スライド部の稼働長さは片側の最大スライド長さは500mm程度が好適である。
【0033】
処理槽1の断面形状は、本例示では円筒状としているが、必ずしも円形断面形状である必要ではなく、正方形、多角形等、必要に応じてあらゆる断面形状の処理槽が採用可能である。
【0034】
図5は、処理槽1に付属する他の各種パーツを一体に構成した表面処理装置全体の概略側面図である。処理槽1を保持した保持容器3が架台15の上部に固定され、該架台の脚部分16の下端にはキャスター17が設置され、容易に移動可能な構造となっている。処理槽1に供給する処理液20は、該架台中段部分18に、温度制御機能(図示しない)を有する処理液保持槽13を設置し、排出された処理液は排水口9に接続された排水配管14を経て処理液保持槽13に戻され、再度、流量調整可能なポンプ12から吐出され、処理槽1に供給管5を介して供給される。
【0035】
本発明では処理槽内に処理液を充満させ、鋼線の均一な表面処理を可能とするためには少なくとも20l/min以上の流量で処理液を供給し、スリットの幅を5〜10mmとすることで鋼線の出入り口から排出される処理液を抑制し、処理液をスリットから排出させることができる。保持容器内には処理液がたまらず、速やかに排出される能力を有するように大きめの排出口を設けることで、保持容器内への処理液の液だまりを防止し、処理液と鋼線との接触を防止し、処理槽の長さと線速のみで処理時間を調整出来るようにしたものである。
【0036】
このように、本発明の装置は、処理液循環の機構と鋼線の処理部分がそれぞれ連通して構成されたものである。
【0037】
この結果、本発明の鋼線の連続表面処理装置は、コンパクトで、処理場所の制限がなく、どこでも簡便に使用することが可能となる。
【0038】
又、移動架台の脚部は、それぞれ単独で上下にスライド可能な機構19を有し、被処理鋼線のパスライン高さの調整を可能としている。高さの調整機構は特に限定はされないが、連続的に高さの調整ができる構造が好ましく、ねじの勘合あるいはパイプと棒を組み合わせた上下スライド機構で、無段階で固定できる構造が好ましい。
【0039】
上記、装置全体でパスラインを調整するほかに、処理槽あるいは保持容器のみを上下、左右に移動できるようにすることで、パスラインの微調整も可能となる。
【0040】
また、本装置を複数台連続して設置することにより、異なる表面処理を連続して実施することも可能である。
【0041】
表面処理の例としてはNaOHのアルカリ水溶液による脱脂、塩酸、硫酸、リン酸の酸溶液による酸洗、硫酸導水溶液による置換めっき、リン酸塩による化成処理、水溶性ワックス処理による鋼線の滑り性改善等の処理が可能である。
【0042】
本発明の鋼線の連続処理装置は、処理液に浸漬することで表面処理を行うものであるが、必要に応じて処理槽内部に通電可能な電極を設置し、電極に電気を供給することにより電解処理も可能である。電解処理を行う場合には鋼線と電極が直接接触しないように陽極、陰極電解を繰り返すPR電解が好ましい方法である。
【0043】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、上記の装置により作業性が高く、多種多様な鋼線の連続的な表面処理が、設置場所を選ばずに可能となる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、装置の材質や、形状、寸法は以下の実施例の態様に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
処理槽の構成:
内径40mm、外径45mm、長さ900mmの形状の塩ビ製筒容器からなる処理槽の内部下層に直径3mmの穴径を有する整流板を設置し、処理槽とした。この両側に、内径40mmの処理槽の両端に、最大250mmの長さ調整が可能なスライド可能とした内径45mm、外径50mmの長さ調整部分を勘合した処理槽とした。
また、鋼線を通材するために、スライド部を含め処理槽の上面に5mm幅のスリットを形成した。
【0046】
処理槽保持容器:
一片が100mmで、上面が開放可能な塩ビ板で保持層を構成した。
本処理装置は線径2mmの鋼線に図示していない連続電気めっきを行う装置の後方に本装置を同一パスラインとなるように設置した。
【0047】
被処理鋼線は、保持容器の入り側に厚さ2mmのゴム円形ゴムシートの中心から、放射状に切れ目を入れたシール材の中心を通して、上記のスリットから処理槽内に導入し、通線させた後に、保持容器の上部の蓋を閉じた。
【0048】
処理液:
0.1mol/lの濃度のケイフッ化アンモニウム水溶液を50℃に加熱した処理液を20l/minの流量で連続的に供給し、処理槽内を鋼線を連続的に通線させた。
【0049】
表面処理方法:
線速10m/minで通線させて既設の表面処理ラインで約1μmの厚さとなるように電流密度を調整し、電気亜鉛めっきを形成した後に、本表面処理装置により、処理液中を通過させ、電気亜鉛めっき鋼線表面の亜鉛層と処理液を化学反応させて、酸化珪素の被膜を形成させた。
【0050】
本発明の表面処理槽はスライド部分を移動させ、900mm〜1400mmまで長さを変えて、処理時間を変化させた。
【0051】
処理後の鋼線は、温風のブロワを吹き付け、表面を乾燥し、図示していないスプールに連続して巻き取った。
【0052】
比較例は表面処理を行わない電気めっきままの鋼線を用いた。
【0053】
処理材の特性調査:
表面処理鋼線はX線光電子分光装置により表面のSi、O、Znのデプスプロファイルを測定し、酸化珪素の被膜厚さを測定した。この結果から求めた酸化珪素の被膜厚さと表面処理時間を図6に示す。この図6に示す結果の通り、処理時間が長くなると酸化珪素の被膜厚さが厚くなり、本装置を用いることで、線速を一定としたままで表面処理により形成される被膜厚さを変えることが可能であることを確認した。
【0054】
また、被膜処理材のパフォーマンスを大気暴露試験により白錆発生日数で評価した。
【0055】
その結果を表1に示す。被膜処理を行っていない比較例は2日の短時間で白錆が発生したものの、本発明の処理装置を用いて表面処理を行った場合は、酸化珪素の被膜厚さが厚いほど、白錆発生までの日数が長くなり、耐食性の改善が認められた。
【0056】
このように本発明の表面処理装置を用いることで、既設のラインに容易に組み込み、化学反応による表面処理が可能となり、その性能を制御することも可能である。
【0057】
【表1】

【0058】
[実施例2]
炭素を0.8%含む熱間圧延した5.5mmの高炭素鋼線材を1.5mmまで冷間伸線した鋼線を前処理として酸洗、脱脂した後に電気めっきにより、1μmの銅めっき、0.7μmの亜鉛めっきを線速12m/minで連続して行った後に流動床炉にて600℃で8秒の加熱拡散後水冷を行い、ブラスめっきを形成した。拡散、水洗槽の後段に実施例1記載の構造の本装置を設置し、25℃、5%濃度のリン酸を用い処理液内を通過させ、表面の洗浄を行った。その結果、処理前は拡散加熱により酸化し、赤茶色の黒ずんだ表面肌の色であったが、洗浄により綺麗な黄銅色のブラスめっき線を得ることが出来た。
【0059】
このブラスめっき鋼線を湿式伸線により0.2mmまで伸線したところ、洗浄を行わなかった場合は断線が多発し、仕上げ速度は300m/min以上に上げることが出来なかったが、本発明の表面処理装置により洗浄を行った場合は、何のトラブルもなく、0.2mmまで800m/minの仕上げ速度で伸線できた。
【0060】
[実施例3]
被処理鋼線にめっき付着量55g/mの線径2.0mmの溶融めっき鉄線を用い、本発明の処理装置の処理液に共栄社化学製ライトワックスM−300を3%濃度にして浸漬処理による表面処理を行った。処理条件は、処理速度20m/min、スリット幅10mm、処理槽長さを500mmとした。ワックス処理後、外径30インチで、縦型キャリアに巻き取った。比較材は溶融めっきままのワックス処理を行い同一線径、付着量の溶融めっき線を用いた。
【0061】
ワックス処理を行った溶融めっき鉄線とワックス処理を行わない溶融めっき鉄線を菱形金網に製網したところ、本発明の装置でワックス処理を行った溶融めっき線はキャリアから繰り出す際のめっき線の滑りが良くスムーズに繰り出すことができ、1200rpmの高速回転で製網が可能であったが、ワックス処理を行わなかった場合は溶融めっき鉄線を繰り出す時に安定して繰り出すことが出来ずに、回転数を800rpmまで低下せざるをえず、約30%もの生産性が低下した。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明装置の表面処理槽部分の側面概略図である。
【図2】図1のA−A視野断面図である。
【図3】処理槽に勘合されたスライド部が最も長い状態と短い状態を示す図で、(a)は処理槽をスライドすることで長くした状態を上方から見た図、(b)は処理槽をスライドすることで短くした状態の側面図である。
【図4】整流板部分拡大図(図3(b)のB−B−視野)で、(a)は整流板に敷設された穴が丸形状、(b)は整流板に敷設された穴が楕円形状、(c)は整流板に敷設された穴が短形を示す図である。
【図5】装置全体の側面概略図である。
【図6】処理時間と鋼線表面の被膜厚さの関係を示す図である。
【符号の説明】
【0063】
1 処理槽
2 処理槽スライド部
3 処理槽保持容器
4 鋼線
5 処理液供給管
6 処理液整流板
6‘ 整流板に設けた処理液通過孔
7 処理槽上部のスリット
8 シール
9 排水口
10 処理槽固定部材
11 保持容器開閉蓋
12 処理液供給ポンプ
13 処理液保持槽
14 排水配管
15 処理槽設置架台
16 架台の脚部
17 キャスター
18 処理液保持板
19 パスライン調整部
20 処理液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の鋼線を連続して処理液に浸漬して表面処理する装置であって、
該装置が、筒状の横型処理槽と、該処理槽を収容する処理槽保持容器を少なくとも有する鋼線の連続表面処理装置であり、
前記処理槽が、該処理槽の下部に設けた少なくとも1つの処理液供給口と、供給口と鋼線の間に設けた整流板と、処理槽上部の通線方向全長にスリットとを少なくとも有すると共に、
前記処理槽保持容器が、前記処理槽の保持部と、保持容器下部に設けた少なくとも1つの処理液排出口と、鋼線の通線方向の保持容器側面に鋼線の通過可能なシールを有する鋼線入出部とを少なくとも有する
ことを特徴とする鋼線の連続表面処理装置。
【請求項2】
前記処理槽の少なくとも一方の端部に、処理槽の長さを可変とするスライド部を有することを特徴とする請求項1記載の鋼線の連続表面処理装置。
【請求項3】
前記スリットの幅が、鋼線の線径+2mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼線の連続表面処理装置。
【請求項4】
前記処理槽保持容器の上部が、開閉可能な蓋であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋼線の連続表面処理装置。
【請求項5】
前記処理槽保持容器が、移動可能な台車上に設置してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鋼線の連続表面処理装置。
【請求項6】
前記台車が、前記処理槽保持容器の高さ調整手段を有することを特徴とする請求項5記載の鋼線の連続表面処理装置。
【請求項7】
前記台車が、処理液保持槽と、前記処理液供給口への処理液供給手段と、前記処理液排出口から処理液保持槽への処理液回収手段とを有することを特徴とする請求項5又は6に記載の鋼線の連続表面処理装置。
【請求項8】
前記処理液供給手段が、定量ポンプであることを特徴とする請求項7記載の鋼線の連続表面処理装置。
【請求項9】
前記処理液保持槽が、温度制御手段を有することを特徴とする請求項7記載の鋼線の連続表面処理装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の鋼線の連続表面処理装置を用いて、鋼線を処理液に浸漬することで、連続的に表面処理することを特徴とする鋼線の連続表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−221499(P2009−221499A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64850(P2008−64850)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】