説明

鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法

【課題】鋼製橋梁の製造コスト及びライフサイクルコストを低減することが可能な鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法を提供する。
【解決手段】左主桁10及び右主桁20の表面を、錆の形成への影響が互いに異なる複数の影響因子による、錆の形成への影響度合いに応じて、予め設定した24箇所の部位毎に区分し、この区分した部位毎に、0〜1.0の範囲内に設定された、複数の影響因子を、それぞれ、錆の形成への影響度合いを反映する数値として、飛来塩分雰囲気係数、表面塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数を決定し、24箇所の部位毎に、各係数と、100年後に形成されると予測される錆の性状を、それぞれ、乗算することにより、24箇所の部位毎において、最終的に形成されると予測される錆の厚さを算出して、錆の性状を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、海岸付近に建設される鋼製橋梁等、飛来塩分によって腐食が生じるおそれがある鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、道路や線路等の交通路を連絡するために建設される橋梁としては、例えば、初期投資コストのみならず、建設後の維持費及び管理費も含めたライフサイクルコストを低減するために、無塗装のJIS耐候性鋼(以下、「耐候性鋼」と記載する)を用いて形成された鋼製橋梁(以下、「耐候性鋼橋梁」と記載する)がある。
このような耐候性鋼橋梁に用いられる耐候性鋼は、大気中に曝露された環境においては、初期には赤錆が形成されるものの、十数年後には、その表面を、銅、リン、クロム等の有効元素が富化して形成された防食性の高い保護性錆層が覆うため、腐食の進展を著しく遅らせることが可能な構成となっている。
【0003】
したがって、耐候性鋼を用いて形成された耐候性鋼橋梁には、防食塗料等の塗装が不要となり、普通鋼を用いて形成された鋼製橋梁では数十年(20〜30年)毎に行なう必要がある塗り替え作業を、省略することが可能となるため、ライフサイクルコストを低減することが可能となっている。
しかしながら、上記のような耐候性鋼は、例えば、海岸付近等、飛来塩分量が多く、大気中の塩分濃度が高い環境下においては、腐食が進行しすぎて保護性錆層が形成され難いため、鋼製橋梁の形成には不適切である。
【0004】
したがって、このような環境下において建設される鋼製橋梁は、ニッケル(Ni)等を添加したNi系高耐候性鋼を用いるか、十分な塗装を施した普通鋼を用いて形成されることとなる。
しかしながら、防食塗料等を塗装した耐候性鋼を用いて鋼製橋梁を形成した場合、普通鋼を用いて鋼製橋梁を形成した場合と同様、数十年毎に塗り替え作業を行なう必要があるため、ライフサイクルコストが増加してしまうという問題が発生する。また、Ni系高耐候性鋼は、飛来塩分量が約0.5mddであっても、無塗装の状態で使用可能とされており、大気中の塩分濃度が高い環境下においても使用が可能であるが、通常の耐候性鋼よりも高価である。
【0005】
一方、耐候性鋼橋梁の建設予定場所における飛来塩分量が少なく、建設予定場所が、大気中の塩分濃度が低い環境下である場合には、耐候性鋼を無塗装で使用することが可能であるため、無塗装の耐候性鋼を用いて、耐候性鋼橋梁を建設することができる。このため、コスト面のメリットから、無塗装の耐候性鋼を用いて、耐候性鋼橋梁を建設することが多い。
【0006】
なお、大気中の塩分濃度が低い環境下である場合とは、耐候性鋼橋梁の建設予定場所における飛来塩分量を所定の方法によって実測し、この実測した飛来塩分量が0.05mdd(mg/dm/day)以下である場合や、耐候性鋼橋梁の建設予定場所が、予め指定された、飛来塩分量が0.05mdd以下である地域に該当する場合である。
しかしながら、上記のうち、耐候性鋼橋梁の建設予定場所における飛来塩分量を実測し、飛来塩分量が0.05mdd以下であることを確認する場合には、耐候性鋼橋梁の形成に用いる鋼種の選定に当たって、事前に、1年以上に亘る飛来塩分の現地調査が必要となる。このため、現実的には、作業工程上極めて困難である。
【0007】
また、上記のうち、耐候性鋼橋梁の建設予定場所が、飛来塩分量が0.05mdd以下である地域に該当するか否かで判定する場合においては、この地域が、飛来塩分量に関する、従来の実測データベース(平坦地上における実測)に基づいて、安全側に定められている。このため、地形的な影響が考慮されず、例えば、建設予定場所が大規模な山の背後に位置しており、明らかに飛来塩分の輸送が遮断され、大気中の塩分濃度が低い環境下である場合でも、飛来塩分量が0.05mddを超えていると定められている地域では、無塗装の耐候性鋼を適用することができないと判断される。
【0008】
また、飛来塩分の濃度は、耐候性鋼橋梁の部位によって異なることが一般的に認められているが、上述した方法では、耐候性鋼橋梁の部位毎に飛来塩分の濃度を測定することが困難である。
このため、部位によっては飛来塩分量が0.05mdd以下である場合であっても、耐候性鋼橋梁全体に対して、無塗装の耐候性鋼を適用することができないと判断し、耐候性鋼橋梁全体に対し、Ni系高耐候性鋼を用いて、鋼製橋梁を建設することとなる。
【0009】
そこで、このような問題を解決するため、例えば、特許文献1に記載されている発明が提案されている。
特許文献1に記載されている発明は、耐候性鋼橋梁の断面周りにおける数値流体解析によって流速計算を行い、その計算結果に基づいて方程式を解くことにより、例えば、図18に示すような、塩分濃度の等高線を示すものである。なお、図18は、2本の主桁、すなわち、左主桁10及び右主桁20から構成された2主桁橋に対し、耐候性鋼橋梁の桁断面周りの領域で、風流れ解析および塩分拡散解析を行なって、耐候性鋼橋梁の桁断面における部位毎の飛来塩分量を、無次元の塩分濃度で示した予測例を示す特性図である。また、図18に示す例では、鋼製橋梁1に接近する気流(図18中では、「風」と記載している)の塩分濃度を、1.0としている。
【0010】
図18中に示されるように、鋼製橋梁1に接近する気流の塩分濃度が1.0であっても、耐候性鋼橋梁の桁断面周りの領域では、塩分濃度は必ずしも1.0とはならず、耐候性鋼橋梁の桁断面周りでの流速分布の影響によって、局所的に1.0未満となっている。
すなわち、耐候性鋼橋梁の断面位置によっては、桁表面近傍の塩分濃度を、必ずしも、耐候性鋼橋梁の建設地点における飛来塩分に設定する必要がないということが示されている。なお、図18の例では、塩分濃度で1.0、一般的には、例えば、飛来塩分量0.05mddを塩分濃度で1.0とした場合、着目する箇所の雰囲気係数が0.5であれば、この着目箇所の飛来塩分量は0.025mddとなる。
【0011】
したがって、このような方法であれば、耐候性鋼橋梁の断面周りにおける飛来塩分雰囲気(ここでは塩分濃度である)を数値解析的に解くことにより、空間的な塩分濃度の分布を計算することが可能となる。このため、長期に亘る現地調査を必要とせず、地形の影響を考慮に入れた、信頼性の高い飛来塩分量の算定をすることが可能となるとともに、耐候性鋼橋梁の部位毎における飛来塩分の濃度を評価あるいは算定することが可能となる。
【特許文献1】特開2001−152413号公報(図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載した発明では、耐候性鋼橋梁の断面周りにおける飛来塩分雰囲気を数値解析的に解くことにより、空間的な塩分濃度の分布を計算して、耐候性鋼橋梁の部位毎における飛来塩分の濃度を評価している。
しかしながら、耐候性鋼橋梁の部位毎における飛来塩分雰囲気の大小と、最終的に形成されると予測される部位毎の錆の性状(例えば、形成された錆の厚さや板厚の減少量)は、一般的には対応していないと考えられる。これは、耐候性鋼橋梁の断面位置における表面の濡れ具合や、表面の凹凸の具合、あるいは、表面の風速によって、表面への塩分付着状態が大きく左右されるためである。また、雨が当たりやすいところと当たり難いところでは、表面に付着した塩分が流される具合、(換言すれば、表面に付着した塩分残存具合)に大きな差が出るためである。
【0013】
このため、特許文献1に記載されているような発明では、耐候性鋼橋梁の部位毎において、必要とされる最終的な錆の性状、すなわち、耐候性鋼橋梁の部位毎に、最終的に形成されると予測される部位毎の錆の性状を、精度良く評価することが困難であるという問題が生じるおそれがある。
以下、耐候性鋼橋梁の部位毎における飛来塩分雰囲気の大小と、耐候性鋼橋梁の部位毎に、最終的に形成されると予測される部位毎の錆の性状が対応していないと考えられる理由について詳述する。
【0014】
耐候性鋼橋梁の表面近傍における飛来塩分雰囲気(時々刻々と変化する塩分の存在量)と、耐候性鋼橋梁の表面に付着する塩分量とは、必ずしも対応していないと考えられる。これは、耐候性鋼橋梁の表面への塩分の付着には、部位毎の表面の粗さや汚れ具合、表面の乾燥具合、塩分粒子自体の有する水分、重さ、風により与えられた慣性力等、様々な因子が影響すると考えられるためである。
【0015】
また、耐候性鋼橋梁の表面に塩分が付着しても、降雨によって、耐候性鋼橋梁の表面に付着した塩分は洗い流される。特に、耐候性鋼橋梁の表面には、雨に曝される部位と、雨に曝されない部位が存在するため、部位毎の雨への曝され具合には差が生じる。
したがって、部位毎における付着塩分の流され具合は、部位毎に大きく異なる。また、雨が降らない場合でも、温度及び湿度の変化により結露が生じ、それが水滴となって塩分を洗い流す場合もあり、このような現象も、耐候性鋼橋梁の部位毎において、一様ではないと考えられる。
【0016】
また、経年的に変化する温湿度の変化は、耐候性鋼橋梁の表面に発生する腐食に少なからず影響を及ぼす。特に、年間の湿度は錆の生成に影響するため、部位毎に湿度が異なる場合、錆の性状も部位毎に異なる。また、耐候性鋼橋梁の断面形状によっては、特定の場所に、湿潤空気が局所的に滞留する場合があり、その滞留の具合と湿度も部位毎に異なると考えられる。
上述した各理由により、数値流体解析によって求めた空間的な塩分雰囲気の分布と、耐候性鋼橋梁の部位毎において形成されると予測される錆の性状の分布は、必ずしも直接的に関係付けられないと考えられる。
【0017】
なお、耐候性鋼橋梁の部位毎における付着塩分については、ガーゼによる計測や表面塩分計により測定することが可能である。また、最終的な錆の性状は、耐候性鋼橋梁の部位毎の目視や、膜厚計、実際の残存板厚の計測により、定量的に評価することが可能である。しかしながら、耐候性鋼橋梁の部位毎における塩分濃度と、表面への塩分の付着、表面からの水洗、温度及び湿度と最終的な錆の性状の因果関係については、現在のところ明確ではない。
本発明は、上述したような問題点に着目してなされたもので、鋼製橋梁の表面に形成されると予測される錆の最終的な性状を、鋼製橋梁の部位毎に評価することが可能な、鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題を解決するために、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、表面に錆の形成が予測される鋼製橋梁に対し、前記錆の形成に影響する影響因子に基づいて、形成が予測される錆の性状を評価する鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法であって、
前記鋼製橋梁の表面を、複数の部位に区分し、
前記影響因子を、前記錆の形成への影響が互いに異なる複数の影響因子とし、
前記複数の部位毎に、前記複数の影響因子を、それぞれ、前記錆の形成への影響度合いを反映する数値として係数化し、
前記係数化した複数の影響因子を、それぞれ、前記複数の部位毎に乗算することにより、前記鋼製橋梁の表面に形成されると予測される前記錆の性状を前記複数の部位毎に評価することを特徴とするものである。
【0019】
本発明によると、鋼製橋梁の表面を複数の部位に区分し、錆の形成への影響が互いに異なる複数の影響因子を、それぞれ、複数の部位毎に、錆の形成への影響度合いを反映する数値として係数化し、これらの係数を複数の部位毎に乗算することにより、鋼製橋梁の表面に形成されると予測される錆の性状を、複数の部位毎に評価している。
このため、鋼製橋梁を建設する前に、鋼製橋梁の表面に形成されると予測される錆の性状を、複数の部位毎に、定量的に評価することが可能となる。
【0020】
また、複数の部位毎の錆の性状から、普通鋼(SM材)、一般鋼材よりも高価ではあるが耐腐食性の高い耐候性鋼(SMA材)、耐候性鋼よりも高価であり、且つ耐腐食性の高いNi系高耐候性鋼等を、それぞれ、複数の部位毎に適用する判断が可能となる。また、普通鋼や耐候性鋼に対して、複数の部位毎に塗装または無塗装として適用する判断が可能となる。
その結果、従来では、飛来塩分量に基づいて、全ての部位、すなわち、橋梁全体に対して、高価なNi系高耐候性鋼を適用するという判断がなされていた場合においても、高価なNi系高耐候性鋼は限られた部位への適用とし、それ以外の部分には、より安価な耐候性鋼や普通鋼を適用するという経済的な設計が可能となる。
【0021】
さらに、本発明によると、複数の部位毎における最終的な腐食性状分布を評価することが可能となるため、腐食が激しいと予測される部位には部分的な塗装を施す等、将来的には維持管理コストに貢献する対策を行うことが可能となる。
なお、複数の影響因子を係数化する際には、例えば、複数の部位毎に、0〜1.0の範囲内に設定された、例えば、0.1刻みの簡単な係数として決定し、鋼製橋梁の表面に形成される錆の性状の係数を、1.0が腐食大であり、0が腐食小であると設定する。
【0022】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明であって、前記複数の影響因子による前記錆の形成への影響度合いが、前記鋼製橋梁の表面において異なる場合には、前記複数の影響因子による前記錆の形成への影響度合いに応じて、前記鋼製橋梁の表面を複数の部位に区分することを特徴とするものである。
本発明によると、複数の影響因子による錆の形成への影響度合いが、鋼製橋梁の表面において異なる場合には、複数の影響因子による錆の形成への影響度合いに応じて、鋼製橋梁の表面を複数の部位に区分している。
このため、鋼製橋梁の表面を複数の部位に区分する際に、鋼製橋梁の表面において異なる錆の形成への影響度合いが反映され、鋼製橋梁の表面に形成されると予測される錆の性状を、複数の部位毎に、定量的に精度良く評価することが可能となる。
【0023】
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1または2に記載した発明であって、前記複数の影響因子は、以下の(a)〜(d)のうち少なくとも二つであることを特徴とするものである。
(a)前記鋼製橋梁の近傍における飛来塩分の空間的な分布を表す飛来塩分雰囲気係数
(b)前記鋼製橋梁の近傍に雰囲気として存在する飛来塩分の鋼製橋梁の表面への付着し易さを表す表面塩分付着係数
(c)前記鋼製橋梁の表面に付着した塩分が、水分による洗浄によって鋼製橋梁の表面から減少する減少度合いを表す水洗損失係数
(d)絶対湿度と温度から決定される相対湿度の、前記鋼製橋梁の近傍における経年的な分布を表す部位毎湿度係数
【0024】
本発明によると、錆の形成への影響が互いに異なる複数の影響因子を、それぞれ、鋼製橋梁の近傍における飛来塩分の空間的な分布を表す飛来塩分雰囲気係数、鋼製橋梁の近傍に雰囲気として存在する飛来塩分の鋼製橋梁の表面への付着し易さを表す表面塩分付着係数、鋼製橋梁の表面に付着した塩分が、水分による洗浄によって鋼製橋梁の表面から減少する減少度合いを表す水洗損失係数、絶対湿度と温度から決定される相対湿度の、鋼製橋梁の近傍における経年的な分布を表す部位毎湿度係数としている。
このため、鋼製橋梁の近傍環境と、鋼製橋梁の表面における塩分の状態に基づいて、鋼製橋梁の表面に形成されると予測される錆の性状を評価することが可能となるため、錆の性状を精度良く評価することが可能となる。
【0025】
次に、請求項4に記載した発明は、請求項1または2に記載した発明であって、前記複数の影響因子は、以下の(e)に加え、(f)及び(g)のうち少なくとも一方であることを特徴とするものである。
(e)前記鋼製橋梁の表面に付着すると予測される飛来塩分の、前記鋼製橋梁の表面における分布を表す飛来塩分付着係数
(f)前記鋼製橋梁の表面に付着した塩分が、水分による洗浄によって鋼製橋梁の表面から減少する減少度合いを表す水洗損失係数
(g)絶対湿度と温度から決定される相対湿度の、前記鋼製橋梁の近傍における経年的な分布を表す部位毎湿度係数
【0026】
本発明によると、錆の形成への影響が互いに異なる複数の影響因子を、それぞれ、鋼製橋梁の表面に付着すると予測される飛来塩分の、鋼製橋梁の表面における分布を表す飛来塩分付着係数、鋼製橋梁の表面に付着した塩分が、水分による洗浄によって鋼製橋梁の表面から減少する減少度合いを表す水洗損失係数、絶対湿度と温度から決定される相対湿度の、鋼製橋梁の近傍における経年的な分布を表す部位毎湿度係数としている。
このため、鋼製橋梁の近傍環境と、鋼製橋梁の表面に付着すると予測される飛来塩分の分布に基づいて、鋼製橋梁の表面に形成されると予測される錆の性状を評価することが可能となり、錆の性状を精度良く評価することが可能となる。
【0027】
次に、請求項5に記載した発明は、請求項4に記載した発明であって、前記鋼製橋梁を模した橋梁模型を風洞内に配置して、
前記飛来塩分を模した模擬粒子を、前記橋梁模型よりも上流側から前記風洞内で飛散させ、
前記橋梁模型の表面に付着した前記模擬粒子の量及び位置に基づいて、前記飛来塩分付着係数を決定することを特徴とするものである。
【0028】
本発明によると、鋼製橋梁を模した橋梁模型を風洞内に配置して、飛来塩分を模した模擬粒子を、橋梁模型よりも上流側から風洞内に飛散させる。そして、橋梁模型の表面に付着した模擬粒子の量及び位置に基づいて、鋼製橋梁の表面に付着すると予測される飛来塩分の分布を評価する。
このため、重量に関する制約が無く、また、弾性支持機構等が不要な橋梁模型を用いて、鋼製橋梁を建設する前に、飛来塩分付着係数を決定することが可能となる。
その結果、数値流体解析を用いた場合と比較して、鋼製橋梁の表面に付着すると予測される飛来塩分の、鋼製橋梁の表面における分布を、簡便な方法、且つ実用的な評価精度及び評価期間で評価することが可能となる。
【0029】
なお、「橋梁模型」としては、例えば、鋼製橋梁を模した縮尺模型を用いる。
また、橋梁模型の表面に、接触した模擬粒子を保持する粒子保持手段を配置してもよい。さらに、風洞内の橋梁模型よりも上流側の空間を上下方向に沿って複数の区画に分割し、分割した複数の空間内にそれぞれ配置した、等量の模擬粒子を、橋梁模型よりも上流側から風洞内に飛散させてもよい。
また、模擬粒子拡散室の内部において浮遊させながら均等または略均等に拡散させた模擬粒子を、橋梁模型よりも上流側から風洞内に放出してもよい。また、鋼製橋梁の表面を区分した複数の橋梁側部位に対応する、複数の模型側部位に付着した模擬粒子の量及び位置に基づいて、鋼製橋梁の表面に付着すると予測される飛来塩分の分布を、複数の橋梁側部位毎に評価してもよい。
【0030】
次に、請求項6に記載した発明は、請求項1から5のうちいずれかに記載した発明であって、請求項1から5のうちいずれか1項に記載した鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法を用いて前記鋼製橋梁の表面に形成されると予測される前記錆の性状を前記複数の部位毎に評価する際に、前記係数化した複数の影響因子を前記複数の部位毎にデータとして蓄積し、
前記データを蓄積した鋼製橋梁と異なる鋼製橋梁に対して、その鋼製橋梁の表面に形成されると予測される前記錆の性状を前記複数の部位毎に評価する際に、前記蓄積したデータに基づいて、前記錆の形成への影響度合いを反映する数値を補正することを特徴とするものである。
【0031】
本発明によると、鋼製橋梁の表面に形成されると予測される錆の性状の評価を行う鋼製橋梁に対して、その鋼製橋梁の表面に形成されると予測される錆の性状を複数の部位毎に評価する際に、既に蓄積されたデータに基づいて、錆の形成への影響度合いを反映する数値を補正する。
このため、複数の部位毎に、複数の影響因子を、より精密に係数化することが可能となり、鋼製橋梁の表面に形成されると予測される錆の性状を、精度良く評価することが可能となる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、鋼製橋梁の表面に形成されると予測される錆の最終的な性状を、複数の部位毎に評価することが可能となるため、鋼製橋梁の部位毎に、耐腐食性の異なる鋼材を適用する判断や、部分的な塗装を適用する判断が可能となり、鋼製橋梁の製造コスト及びライフサイクルコストを低減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に、本発明の第一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
まず、図1から図5を参照して、本実施形態の鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法(以下、「錆形成影響因子評価方法」と記載する)の具体例を説明する。
図1は、本実施形態の錆形成影響因子評価方法を用いて、形成が予測される錆の性状を評価する対象となる、鋼製橋梁1の構成を示す図である。
【0034】
図1に示すように、鋼製橋梁1は、左主桁10と、右主桁20から構成されており、床版30を支持する2主桁橋を構成している。なお、本実施形態では、鋼製橋梁1を、左主桁10と右主桁20、すなわち、二本の主桁から構成された2主桁橋として説明するが、鋼製橋梁1の構成は、これに限定されるものではなく、三本以上の主桁から構成してもよい。また、本実施形態では、左主桁10及び右主桁20を、それぞれ、塩分を含んだ風に対して、風上に配置されている主桁を左主桁10とし、風下に配置されている主桁を右主桁20とした場合について説明する。
【0035】
左主桁10は、鋼によって形成されており、左側上フランジ12と、左側ウェブ14と、左側下フランジ16を有している。
左側上フランジ12及び左側下フランジ16は、軸を水平方向に向けて配置されており、左側ウェブ14は、軸を上下方向に向けて配置されている。すなわち、左側上フランジ12及び左側下フランジ16の軸は、共に、左側ウェブ14の軸に対して直角となっており、左側上フランジ12及び左側下フランジ16の断面方向と左側ウェブ14の断面方向は、互いに直角となっている。
【0036】
左側上フランジ12の左側ウェブ14との結合部位は、左側上フランジ12の中央付近となっており、左側ウェブ14の上端部からは、左側上フランジ12の両端部が、水平方向へ突出している。
左側下フランジ16の左側ウェブ14との結合部位は、左側下フランジ16の中央付近となっており、左側ウェブ14の下端部からは、左側下フランジ16の両端部が、水平方向へ突出している。
右主桁20は、左主桁10と同様、鋼によって形成されており、右側上フランジ22と、右側ウェブ24と、右側下フランジ26を有している。
【0037】
右側上フランジ22及び右側下フランジ26は、軸を水平方向に向けて配置されており、右側ウェブ24は、軸を上下方向に向けて配置されている。すなわち、右側上フランジ22及び右側下フランジ26の軸は、共に、右側ウェブ24の軸に対して直角となっており、右側上フランジ22及び右側下フランジ26の断面方向と右側ウェブ24の断面方向は、互いに直角となっている。
右側上フランジ22の右側ウェブ24との結合部位は、右側上フランジ22の中央付近となっており、右側ウェブ24の上端部からは、右側上フランジ22の両端部が、水平方向へ突出している。
【0038】
右側下フランジ26の右側ウェブ24との結合部位は、右側下フランジ26の中央付近となっており、右側ウェブ24の下端部からは、右側下フランジ26の両端部が、水平方向へ突出している。
床版30は、例えば、コンクリートによって形成されており、軸を水平方向に向けた状態で、左主桁10及び右主桁20によって下方から支持されている。具体的には、床版30の下面が、左側上フランジ12の上面及び右側上フランジ22の上面に接触している。
【0039】
以下、錆形成影響因子評価方法の手順について説明する。
本実施形態の錆形成影響因子評価方法では、まず、左主桁10及び右主桁20について、それぞれ、複数の部位毎に、錆の形成に影響する複数の影響因子を係数化するため、左主桁10及び右主桁20の表面を、以下に示すような複数の部位に区分する。
左主桁10については、左側上フランジ12の表面における部位を2箇所、左側ウェブ14の表面における部位を6箇所、左側下フランジ16の表面における部位を4箇所、それぞれ、設定する。すなわち、左主桁10の表面において設定される部位は、12箇所である。なお、これらの設定した箇所は、一例であり、左主桁10の表面において設定される部位は、複数箇所であれば、12箇所より多くても少なくてもよい。
【0040】
左側上フランジ12の表面における2箇所の部位は、左側ウェブ14の上端部から、水平方向へ突出している部分の、それぞれの下面とする。これは、左側上フランジ12の表面においては、下面のみが錆の形成への影響を受けるとともに、この下面は、左側ウェブ14を挟んだ風上側の面と風下側の面において、それぞれ、後述するように、複数の影響因子による錆の形成への影響度合いが異なると考えられるためである。なお、本実施形態では、説明のために、下面のうち、風上側の下面を、左側上フランジ風上側下面121と記載し、風下側の下面を、左側上フランジ風下側下面122と記載する。
【0041】
左側ウェブ14の表面における6箇所の部位は、左側ウェブ14の側面を軸方向に沿って三等分して設定するとともに、これらの三等分した側面を、それぞれ、風上側及び風下側毎に設定する。これは、左側ウェブ14の表面においては、その側面が、軸方向に沿って、複数の影響因子による錆の形成への影響度合いが異なると考えられるとともに、この側面は、風上側の面と風下側の面において、それぞれ、後述するように、複数の影響因子による錆の形成への影響度合いが異なると考えられるためである。なお、本実施形態では、説明のために、三等分した側面のうち、風上側の側面を、それぞれ、上側の左側ウェブ風上側上側面141a、中間の左側ウェブ風上側中側面141b、下側の左側ウェブ風上側下側面141cと記載する。また、風下側の側面を、それぞれ、上側の左側ウェブ風下側上側面142a、中間の左側ウェブ風下側中側面142b、下側の左側ウェブ風下側下側面142cと記載する。
【0042】
左側下フランジ16の表面における4箇所の部位は、左側ウェブ14の下端部から、水平方向へ突出している部分の、それぞれの上面及び下面とする。これは、左側下フランジ16の表面においては、上面及び下面が、共に錆の形成への影響を受けるとともに、これらの上面及び下面は、左側ウェブ14を挟んだ風上側の面と風下側の面において、それぞれ、後述するように、複数の影響因子による錆の形成への影響度合いが異なると考えられるためである。なお、本実施形態では、説明のために、上面のうち、風上側の上面を、左側下フランジ風上側上面161aと記載し、風下側の上面を、左側下フランジ風下側上面162aと記載する。また、下面のうち、風上側の下面を、左側下フランジ風上側下面161bと記載し、風下側の下面を、左側下フランジ風下側下面162bと記載する。
【0043】
右主桁20についても、左主桁10と同様、右側上フランジ22の表面における部位を2箇所、右側ウェブ24の表面における部位を6箇所、右側下フランジ26の表面における部位を4箇所、それぞれ、設定する。すなわち、右主桁20の表面において設定される部位は、左主桁10と同様、12箇所であり、左主桁10及び右主桁20の表面において設定される部位は、24箇所である。なお、左主桁10と同様、これらの設定した箇所は、一例であり、右主桁20の表面において設定される部位は、複数箇所であれば、12箇所より多くても少なくてもよい。
【0044】
右側上フランジ22の表面における2箇所の部位は、左側上フランジ12と同様、右側ウェブ24の上端部から、水平方向へ突出している部分の、それぞれの下面とする。右側上フランジ22の表面を、2箇所の部位に区分した理由は、左側上フランジ12の表面を、2箇所の部位に区分した理由と同様である。なお、本実施形態では、説明のために、下面のうち、風上側の下面を、右側上フランジ風上側下面221と記載し、風下側の下面を、右側上フランジ風下側下面222と記載する。
【0045】
右側ウェブ24の表面における6箇所の部位は、左側ウェブ14と同様、右側ウェブ24の側面を軸方向に沿って三等分して設定するとともに、これらの三等分した側面を、それぞれ、風上側及び風下側毎に設定する。右側ウェブ24の表面を、6箇所の部位に区分した理由は、左側ウェブ14の表面を、6箇所の部位に区分した理由と同様である。なお、本実施形態では、説明のために、三等分した側面のうち、風上側の側面を、それぞれ、上側の右側ウェブ風上側上側面241a、中間の右側ウェブ風上側中側面241b、下側の右側ウェブ風上側下側面241cと記載する。また、風下側の側面を、それぞれ、上側の右側ウェブ風下側上側面242a、中間の右側ウェブ風下側中側面242b、下側の右側ウェブ風下側下側面242cと記載する。
【0046】
右側下フランジ26の表面における4箇所の部位は、左側下フランジ16と同様、右側ウェブ24の下端部から、水平方向へ突出している部分の、それぞれの上面及び下面とする。右側下フランジ26の表面を、4箇所の部位に区分した理由は、左側下フランジ16の表面を、4箇所の部位に区分した理由と同様である。なお、本実施形態では、説明のために、上面のうち、風上側の上面を、右側下フランジ風上側上面261aと記載し、風下側の上面を、右側下フランジ風下側上面262aと記載する。また、下面のうち、風上側の下面を、右側下フランジ風上側下面261bと記載し、風下側の下面を、右側下フランジ風下側下面262bと記載する。
そして、上述したように、左主桁10及び右主桁20の表面について、それぞれ、設定した24箇所の部位毎に、錆の形成に影響する影響因子を係数化する。
【0047】
本実施形態では、錆の形成に影響する影響因子を、飛来塩分雰囲気係数、表面塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数とする。これらの係数は、設定した24箇所の部位毎に、0〜1.0の範囲内に設定された、0.1刻みの簡単な係数として決定し、それらの決定した係数を部位毎に乗算することにより、左主桁10及び右主桁20に形成されると予測される錆の性状を、左主桁10及び右主桁20の表面における複数の部位毎に評価する。
【0048】
以下、上記の各係数について説明する。
まず、飛来塩分雰囲気係数について説明する。
飛来塩分雰囲気係数は、風によって海から運ばれてくる飛来塩分が、鋼製橋梁1の近傍、すなわち、左主桁10及び右主桁20の近傍において、空間的にどのように分布しているかを表す係数であり、左主桁10及び右主桁20の近傍における風速分布の影響を受ける。
なお、この風速分布は、左主桁10及び右主桁20の近傍において、風の流れと構造の連成作用である、衝突、剥離、再付着等、複雑な現象が生じた結果、形成される流れの場として決まる。さらに、時間の経過につれて流れの様相が変化する複雑な乱流現象が、左主桁10及び右主桁20の近傍において生じているため、この乱流現象も、風速分布の形成に関与する。
【0049】
飛来塩分雰囲気係数を決定する際には、例えば、JISZ2382に規定されている試験方法である、ドライガーゼ法を用いる。
ドライガーゼ法は、鋼製橋梁1が建設される場所において、図2に示すように、左主桁10及び右主桁20の表面に、それぞれ、ガーゼ40を配置し、予め設定した24箇所の部位毎に、塩分濃度を評価する方法である。なお、図2は、ドライガーゼ法による塩分濃度分布の測定を示す図である。また、図2中では、9箇所のみにガーゼ40を配置した状態を示しているが、実際の測定においては、予め設定した複数箇所の部位毎に、それぞれ、ガーゼ40を配置する。
【0050】
この場合、ガーゼ40は、左主桁10及び右主桁20の表面に設置するのではなく、左主桁10及び右主桁20の表面から数cm程度浮かせて設置する。ガーゼ40は空気を透過するため、ガーゼ40に残留した塩分が、その場における塩分濃度であると評価し、係数化することによって、飛来塩分雰囲気係数を決定する。
飛来塩分雰囲気係数を決定する際にドライガーゼ法を用いる理由としては、塩分雰囲気係数が、風の流れによって決まる塩分濃度の分布であるため、例えば、図3に示すように、数値解析により塩分濃度の分布を評価する方法では、精度の高い評価が困難となるためである。なお、図3は、数値解析により塩分濃度の分布を評価する例を示す図である。
【0051】
なお、塩分濃度の分布は、一般的には、図3に示すような分布になると推測される。
具体的には、風上側の主桁、すなわち、左主桁10の風上側の面では、風の流れが直接当たる面であるため、塩分濃度が高く、左主桁10の風下側の面では、塩分濃度がやや低くなると推測される。また、風下側の主桁、すなわち、右主桁20の風上側の面では、塩分濃度がやや高く、右主桁20の風下側の面では、風の流れの背後であり、塩分が回り難いため、塩分濃度が低くなると推測される。
【0052】
したがって、塩分濃度は、左主桁10の風上側の面が最も高く、右主桁20の風上側の面、左主桁10の風下側の面、右主桁20の風下側の面の順に、低くなると推測される。
ここで、左主桁10の風下側の面における塩分濃度が、やや低くなると推測され、右主桁20の風上側の面における塩分濃度が、やや高くなると推測される理由としては、以下の理由が考えられる。
【0053】
左主桁10の風下側の面における塩分濃度は、直接風の当たる左主桁10の風上側の面における塩分濃度よりは低いが、図3に示されるように、左主桁10の下端から剥離した流れが、右主桁20の風上側の面近くに流れ込む可能性があり、その際、風に含まれる塩の粒子が、右主桁20の風上側の面に衝突すると考えられるためである。
そして、風に含まれる塩の粒子が右主桁20の風上側の面に衝突した後、風の流れは左主桁10の風下側の面に戻ってくるため、その途中で塩分が表面に付着して減少し、左主桁10の風下側の面における塩分濃度は、右主桁20の風上側の面よりは低くなると考えられるためである。
【0054】
次に、表面塩分付着係数について説明する。
表面塩分付着係数は、鋼製橋梁1の近傍に雰囲気として存在する飛来塩分の、左主桁10及び右主桁20の表面への付着し易さを表す係数であり、左主桁10及び右主桁20の部位毎における表面の粗度(凹凸具合)、汚れ具合、濡れ具合、左主桁10及び右主桁20の表面近傍における風速、すなわち、風に含まれている塩の粒子の速度と方向等の影響を受ける。
【0055】
ここで、飛来塩分雰囲気係数は、あくまで空間的な塩分濃度の分布であり、左主桁10及び右主桁20の表面に付着する塩分が、必ずしも塩分濃度の分布に1対1で対応するわけではない。
このため、表面塩分付着係数を決定する際には、例えば、汚れが溜まり易い、左主桁10の風下側の面及び右主桁20の風上側の面を高く、また、雨風が当たりやすく、汚れが流されやすい、左主桁10の風上側の面及び右主桁20の風下側の面を低く設定する。
【0056】
次に、水洗損失係数について説明する。
水洗損失係数は、降雨による雨洗等により、左主桁10及び右主桁20の表面に付着した塩分が、左主桁10及び右主桁20の表面から、どの程度減少するかを表す係数である。
降雨による雨洗は、左主桁10及び右主桁20に対する雨のかかり具合、すなわち、雨と風の影響を受ける、すなわち、雨は、落下時に風の影響を受け、強風であればあるほど、横殴りの雨になり、左主桁10及び右主桁20へ当たる。
【0057】
例えば、図4に示すように、一般的な構成の鋼製橋梁1では、床版30の両端側が、左主桁10及び右主桁20の外側へ張り出しており、左主桁10及び右主桁20に対して、傘の役割を果たしている。このため、床版30の、左主桁10及び右主桁20の外側への張り出し具合が、左主桁10及び右主桁20に対する雨のかかり具合に大きく影響する。なお、図4は、鋼製橋梁1に雨がかかるイメージを示す図である。また、図4中では、左主桁10及び右主桁20にかかる雨に対して、符号Rを付して示している。
【0058】
したがって、左主桁10の風上側の面及び右主桁20の風下側の面のうち、床版30が張り出している部分に近い左主桁10及び右主桁20の上側部分(図4中において、「X」と示す範囲)には、雨がかかりにくい。また、左主桁10と右主桁20との間に形成される空間(以下、「桁間空間」と記載する)には、雨がかかることはない。すなわち、雨がかかるのは、左主桁10の風上側の面及び右主桁20の風下側の面であるとともに、床版30が傘として機能しない部分ということになる。また、風の影響を考慮すれば、図4に示す例のように、卓越風向が海風であるとすれば、風下側からの降雨による雨洗の方が弱いということになる。
【0059】
したがって、水洗損失係数を決定する際には、左主桁10の風上側の面及び右主桁20の風下側の面における、雨がかかる部分に対し、風向風速計による風のデータや降雨時間等のデータを用いて、係数化することが好適である。
また、水洗損失係数は、雨による付着塩分の洗い流しと共に、結露によって生じる水滴流下による洗い流しを反映して、係数化してもよい。
この場合、結露によって生じる水滴流下による洗い流しは、桁間空間における湿度の影響を受けるため、例えば、図5に示すような、左主桁10及び右主桁20の部位毎に、温度計及び湿度計を配置して、桁間空間における湿度を測定し、係数化に用いる。なお、図5は、左主桁10及び右主桁20の部位毎に、相対湿度を測定する方法を示す図である。また、図5中では、温度計及び湿度計から構成される測定機器に対し、符号50を付して示している。
【0060】
次に、部位毎湿度係数について説明する。
部位毎湿度係数は、絶対湿度と温度から決定される相対湿度が、経年的にどのように分布するかを表す係数であり、桁間空間の下方に川や池等が存在する環境では、桁間空間における水分は多くなるため、絶対湿度及び相対湿度は、共に高くなる。
また、絶対湿度が一定である場合であっても、左主桁10及び右主桁20の表面における温度分布が異なる場合は、相対湿度は部位毎に異なる。
【0061】
錆の形成は、相対湿度に影響されるため、部位毎湿度係数を決定する際には、例えば、図5に示すような、左主桁10及び右主桁20の部位毎に、温度計及び湿度計を配置して、左主桁10及び右主桁20の部位毎に、相対湿度を測定する方法を用いる。
また、図5に示すような方法の他に、桁間空間の下方に川面等の水面が接近している場合は、蒸発して浮上した水分が桁間空間内に溜まりやすくなり、桁間空間における湿度が高くなると考えられるため、これに基づいて、部位毎湿度係数を決定する方法も考えられる。
なお、濡れ時間(錆の生成に必要な一定湿度以上の継続時間)は、気象官署で測定されることが多いため、その濡れ時間は部位にかかわらず一定とし、局所的な湿度の違いを、この部位毎湿度係数が表すものとする。
【0062】
次に、図1から図5に基づき、図6及び図7を参照しつつ、本実施形態の錆形成影響因子評価方法を用いて、鋼製橋梁1に形成されると予測される錆の性状を評価する際の、作用・効果等を説明する。
図6は、本実施形態の錆形成影響因子評価方法と、従来の錆形成影響因子評価方法との相違を比較する図であり、図6(a)が、従来の錆形成影響因子評価方法の手順を表す図、図6(b)が本実施形態の錆形成影響因子評価方法の手順を表す図である。
図6(a)に示すように、従来の錆形成影響因子評価方法では、鋼製橋梁1が建設される場所の飛来塩分量と、湿度及び温度に基づいて、鋼製橋梁1全体に対して、100年後に形成されると予測される錆の性状を算出している。
【0063】
なお、従来の錆形成影響因子評価方法では、一例として、100年後に形成されると予測される錆の性状を、鋼製橋梁1全体に形成されると予測される錆の厚さとし、ここで算出される錆の厚さを、1.0mmと評価する。また、100年後に形成されると予測される錆の厚さの限界値を、0.5mmと設定する。
したがって、従来の錆形成影響因子評価方法では、100年後に形成されると予測される錆の厚さが1.0mmと予測された場合、鋼製橋梁1全体に対して、100年後に形成されると予測される錆の厚さが1.0mmであると判断する。
【0064】
このため、上記のように、100年後に形成されると予測される錆の厚さの限界値を0.5mmと設定した場合、対象とする鋼製橋梁1に対して、耐候性鋼を無塗装の状態で用いることはできず、塗装した状態の耐候性鋼または普通鋼や、Ni系高耐候性鋼を用いる必要があると判断する。
一方、図6(b)に示すように、本実施形態の錆形成影響因子評価方法では、まず、従来の錆形成影響因子評価方法と同様に、鋼製橋梁1が建設される場所の飛来塩分量と、湿度及び温度に基づいて、鋼製橋梁1全体に対して、100年後に形成されると予測される錆の性状を算出する。ここで、鋼製橋梁1の建設される場所の飛来塩分量は、例えば、この場所が大規模な山の背後に位置している場合等は、地形の影響を考慮して評価することが好適である。
【0065】
なお、本実施形態の錆形成影響因子評価方法では、一例として、従来の錆形成影響因子評価方法と同様、100年後に形成されると予測される錆の性状を、鋼製橋梁1全体に形成されると予測される錆の厚さとし、ここで算出される錆の厚さを、1.0mmと評価する。また、100年後に形成されると予測される錆の厚さの限界値を、0.5mmと設定する。
そして、予め設定した24箇所の部位毎に、0〜1.0の範囲内に設定された、飛来塩分雰囲気係数、表面塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数を決定し、24箇所の部位毎に、これらの係数と、100年後に形成されると予測される錆の性状を、それぞれ、乗算することにより、部位毎において、最終的に形成されると予測される錆の性状を評価する。
【0066】
以下、飛来塩分雰囲気係数、表面塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数を決定する手順の具体例を説明する。
図7は、部位毎に決定された、飛来塩分雰囲気係数、表面塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数と、部位毎の最終的な錆の性状を示す図であり、図7(a)〜(d)に各係数を示し、図7(e)に、部位毎において、最終的に形成されると予測される錆の性状を示す。
飛来塩分雰囲気係数は、鋼製橋梁1が建設される場所において、左主桁10及び右主桁20の表面に対し、予め設定した24箇所の部位毎に、それぞれ、ガーゼ40を配置し、ガーゼ40に残留した塩分に基づいて、部位毎の塩分濃度を係数化して決定する(図2参照)。
【0067】
このようにして決定した部位毎の飛来塩分雰囲気係数を、図7(a)に示す。
図7(a)中に示すように、飛来塩分雰囲気係数は、上フランジ下面、ウェブ及び下フランジ上面に関しては、左主桁10の風上側の面が最も高く、右主桁20の風上側の面、左主桁10の風下側の面、右主桁20の風下側の面の順に低くなる。
ここで、左主桁10の風下側の面に関しては、上フランジ下面がウェブ及び下フランジ上面よりも高く、右主桁20の風上側の面に関しては、上フランジ下面から、ウェブ、下フランジ上面の順に高くなる。これは、左主桁10の下端から剥離した流れが、右主桁20の風上側の面に衝突した後、この流れが、塩分を表面で奪われながら、左主桁10の風下側の面に戻ってくると考えられるためである(図3参照)。
【0068】
また、下フランジ下面に関しては、左主桁10の風下側の面及び右主桁20の風上側の面が、左主桁10の風上側の面及び右主桁20の風下側の面よりも高くなる。ここで、左主桁10の風上側の面は、風上であるため、右主桁20の風下側の面よりも高くなる。
表面塩分付着係数を決定する際には、汚れが溜まり易い、左主桁10の風下側の面及び右主桁20の風上側の面が高く、また、雨風が当たりやすく、汚れが流されやすい、左主桁10の風上側の面及び右主桁20の風下側の面が低くなるように設定して係数化する。
【0069】
このようにして決定した部位毎の表面塩分付着係数を、図7(b)に示す。
図7(b)中に示すように、表面塩分付着係数は、上フランジ下面、ウェブ及び下フランジ上面に関しては、左主桁10の風下側の面及び右主桁20の風上側の面を高く、左主桁10の風上側の面及び右主桁20の風下側の面を低くする。また、全4箇所の下フランジ下面に関しては、雨風の当たりやすさや、汚れの流されやすさがほとんど同じであると考えられるため、全て同じ値とする。
水洗損失係数を決定する際には、左主桁10の風上側の面及び右主桁20の風下側の面における、雨がかかる部分に対し、風向風速計による風のデータや降雨時間等のデータを用いて、係数化し、さらに、結露によって生じる水滴流下による洗い流しを反映して、係数化する。
【0070】
このようにして決定した部位毎の水洗損失係数を、図7(c)に示す。
図7(c)中に示すように、水洗損失係数は、全4箇所の上フランジ下面に関しては、雨がかからないため、全て1.0とする。
また、ウェブ及び下フランジ上面に関しては、左主桁10の風下側の面及び右主桁20の風上側の面を高く、左主桁10の風上側の面及び右主桁20の風下側の面を低くする。
【0071】
ここで、左主桁10の風上側の面及び右主桁20の風下側の面に関しては、上方であるほど雨がかかりにくいため、下方となるにつれて低い係数とする。また、左主桁10の風上側の面は、右主桁20の風下側の面よりも風および雨が当たるため、ウェブ及び下フランジ上面に関しては、右主桁20の風下側の面よりも低い係数とする。
また、全4箇所の下フランジ下面に関しては、降雨や結露により、ウェブを流下した水滴が滞り易いため、この係数も高めに決定する。
部位毎湿度係数を決定する際には、左主桁10及び右主桁20の部位毎に、温度計及び湿度計を配置し、左主桁10及び右主桁20の部位毎に、相対湿度を測定(図5参照)し、この測定結果に基づいて係数化する。
【0072】
このようにして決定した部位毎の部位毎湿度係数を、図7(d)に示す。
図7(d)中に示すように、部位毎湿度係数は、上フランジ下面、ウェブ及び下フランジ上面に関しては、左主桁10の風下側の面及び右主桁20の風上側の面を高く、左主桁10の風上側の面及び右主桁20の風下側の面を低くする。
すなわち、湿度(水分)がたまり易い桁内を高く、風が当たり、水分が滞留しない桁外を低く設定する。
【0073】
上記の手順によって決定された、複数の部位毎における、飛来塩分雰囲気係数、表面塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数のデータは、それぞれ、例えば、汎用のコンピュータや、記録用紙等によって、部位毎に記録して蓄積しておく。
そして、上述したように、24箇所の部位毎に、飛来塩分雰囲気係数、表面塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数を、それぞれ、決定した後、図7(e)に示すように、各部位毎に各係数を乗算して、部位毎における、最終的に形成されると予測される錆の性状を評価する。
【0074】
各係数を乗算した結果を、図7(e)に示す。
上述したように、各係数は、0〜1.0の範囲内で決定されるため、図7(e)中に示すように、最終的に形成されると予測される錆の性状も、24箇所の部位毎に、0〜1.0の範囲内で決定される。このため、この部位毎の係数(以下、「部位係数」と記載する)に基づいて、左主桁10及び右主桁20に形成されると予測される錆の性状を、左主桁10及び右主桁20の部位毎に評価することが可能となる。
【0075】
具体的には、鋼製橋梁1全体に対して、100年後に形成されると予測される錆の性状に対して、部位係数を乗算することにより、部位毎において、100年後に形成されると予測される錆の性状、すなわち、部位毎において、100年後に形成されると予測される錆の厚さを算出することが可能となる。
ここで、本実施形態の錆形成影響因子評価方法では、鋼製橋梁1全体に対して、100年後に形成されると予測される錆の厚さを1.0mmと設定しているため、この設定した錆の厚さ1.0mmに対して、部位係数を乗算することにより、部位毎において、100年後に形成されると予測される錆の厚さが算出される。
【0076】
例えば、図7(e)中に示されているように、左側上フランジ風上側下面121における部位係数は0.3である。このため、この部位係数0.3を、鋼製橋梁1全体に対して100年後に形成されると予測される錆の厚さ1.0mmに対して乗算することにより、左側上フランジ風上側下面121において、100年後に形成されると予測される錆の厚さが、0.3mmであると算出される。
ここで、本実施形態の錆形成影響因子評価方法では、100年後に形成されると予測される錆の厚さの限界値を0.5mmと設定している。このため、100年後に形成されると予測される錆の厚さを0.5mm以下とするためには、鋼製橋梁1全体を無塗装の耐候性鋼を用いて形成するとともに、100年後に形成されると予測される錆の厚さが、0.5mmを超えていると算出される部位にのみ、防食塗料等の塗装を行えばよい。
【0077】
具体的には、図7(e)中に示されているように、全24箇所の部位のうち、右主桁20の風上側の面における、右側上フランジ風上側下面221、右側ウェブ風上側上側面241a〜241c、右側下フランジ風上側上面261aの5箇所にのみ、防食塗料等の塗装を行うことにより、鋼製橋梁1全体に対して、100年後に形成されると予測される錆の厚さを、0.5mm以下とすることが可能となる。
【0078】
一般的に、鋼製橋梁1の建設に関しては、初期コストにおいて塗装費が20%程度を占めているが、100年のライフサイクルコストでは、20〜30年に1回の割合で、鋼製橋梁1全体の塗装を塗り替える必要がある。その場合、100年のライフサイクルコストで判断すれば、塗装費が50%程度を占める可能性もある。
したがって、耐候性鋼を無塗装の状態で用いる場合は、ライフサイクルコストの観点でコスト面のメリットが大きく、部分的に塗装が必要である場合であっても、塗り替え作業に係る人件費等のコストを低減することが可能となる。また、塗り替え作業期間を短縮することが可能となるため、鋼製橋梁1全体に対する塗り替え作業を行う場合と比較して、コストを低減することが可能となる。
【0079】
なお、例えば、鋼製橋梁1が建設される環境が、最終的に形成されると予測される錆の性状の評価を、既に行った環境と近似している場合には、既に蓄積されている各部位毎における各係数を参照することにより、複数の影響因子を、より精密に係数化することが可能となる。具体的には、既に評価を行った環境と近似した環境下において、各係数を決定し、この決定した各係数を、蓄積されたデータ各係数に基づいて補正することにより、各部位毎における部位係数を、より精密に算出することが可能となる。
【0080】
したがって、本実施形態の鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法であれば、錆の形成への影響が互いに異なる複数の影響因子を、それぞれ、左主桁10及び右主桁20の表面において区分された複数の部位毎に係数化している。
そして、各係数を左主桁10及び右主桁20の部位毎に乗算することにより、左主桁10及び右主桁20に形成されると予測される錆の性状を、左主桁10及び右主桁20の部位毎に評価している。
【0081】
このため、鋼製橋梁1を建設する前に、左主桁10及び右主桁20に形成されると予測される錆の性状を、左主桁10及び右主桁20の部位毎に、定量的に評価することが可能となる。
その結果、左主桁10及び右主桁20の形成に用いる鋼種の選択を、それぞれ、左主桁10及び右主桁20の部位毎に適用する判断が可能となる。したがって、高価なNi系高耐候性鋼等は限られた部位への適用とし、それ以外の部分には、より安価な耐候性鋼や普通鋼を適用するという経済的な設計が可能となるため、鋼製橋梁1の製造コスト及びライフサイクルコストを低減することが可能となる。
【0082】
また、左主桁10及び右主桁20を普通鋼や耐候性鋼を用いて形成する際に、左主桁10及び右主桁20の部位毎に塗装して適用する判断が可能となる。したがって、腐食が激しいと予測される部位には部分塗装を施す等、将来的には維持管理に貢献する対策を行うことが可能となり、鋼製橋梁1の製造コスト及びライフサイクルコストを低減することが可能となる。
【0083】
また、本実施形態の鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法であれば、複数の影響因子による錆の形成への影響度合いが、左主桁10及び右主桁20の表面において異なる場合には、複数の影響因子による錆の形成への影響度合いに応じて、左主桁10及び右主桁20の表面を複数の部位に区分している。
このため、左主桁10及び右主桁20の表面を複数の部位に区分する際に、左主桁10及び右主桁20の表面において異なる錆の形成への影響度合いが反映され、左主桁10及び右主桁20の表面に形成されると予測される錆の性状を、複数の部位毎に、定量的に精度良く評価することが可能となる。
【0084】
その結果、左主桁10及び右主桁20の形成に用いる鋼種の選択を、それぞれ、左主桁10及び右主桁20の部位毎に適用する判断や、左主桁10及び右主桁20の部位毎に塗装して適用する判断を、精度良く行うことが可能となる。
さらに、本実施形態の鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法であれば、錆の形成への影響が互いに異なる複数の影響因子を、それぞれ、飛来塩分雰囲気係数、表面塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数としている。
【0085】
このため、鋼製橋梁1の近傍環境と、左主桁10及び右主桁20の表面における塩分の状態に基づいて、左主桁10及び右主桁20に形成されると予測される錆の性状を評価することが可能となるため、錆の性状を精度良く評価することが可能となる。
その結果、左主桁10及び右主桁20の形成に用いる鋼種の選択を、それぞれ、左主桁10及び右主桁20の部位毎に適用する判断や、左主桁10及び右主桁20の部位毎に塗装して適用する判断を、精度良く行うことが可能となる。
【0086】
また、本実施形態の鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法であれば、部位毎に係数化した複数の影響因子を、左主桁10及び右主桁20の部位毎にデータとして記録し、蓄積している。
このため、蓄積した部位毎の複数の影響因子の係数に基づいて、形成される錆の性状を評価する対象となる左主桁10及び右主桁20の、部位毎に決定された各係数を補正することが可能となり、左主桁10及び右主桁20に形成される錆の性状を、左主桁10及び右主桁20の部位毎に評価することが可能となる。
【0087】
その結果、部位係数を、より精密に算出することが可能となるため、左主桁10及び右主桁20に形成されると予測される錆の性状を、精度良く評価することが可能となる。
また、本実施形態の鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法であれば、飛来塩分雰囲気係数、表面塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数の各係数を、設定した複数箇所の部位毎に、0〜1.0の範囲内に設定された、0.1刻みの簡単な係数として決定している。
【0088】
その結果、左主桁10及び右主桁20に、最終的に形成されると予測される錆の性状を、0〜1.0の範囲内に設定された、0.1刻みの簡単な数値によって表すことが可能となるため、例えば、錆の厚さを、簡単な演算により、明確な数値によって表すことが可能となる。この場合、例えば、顧客に対して、鋼製橋梁1の構造や施工方法の説明を行う際等に、手間をかけることなく、簡易な手順によって、明確な数値を提示することが可能となる。
【0089】
なお、本実施形態の鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法では、鋼製橋梁1が建設される場所の飛来塩分量と、湿度及び温度に基づいて、鋼製橋梁1全体に対して、100年後に形成されると予測される錆の性状を算出し、この算出した錆の性状を各係数と乗算することにより、部位毎において、最終的に形成されると予測される錆の性状を評価したが、これに限定されるものではない。すなわち、鋼製橋梁1が建設される場所の飛来塩分量と、湿度及び温度を用いることなく、部位毎に決定された各係数を乗算することにより、部位毎において、最終的に形成されると予測される錆の性状を評価してもよい。この場合、最終的に形成されると予測される錆の性状は、例えば、最終的に形成されると予測される錆の厚さの分布を示す。
【0090】
また、本実施形態の鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法では、左主桁10及び右主桁20の表面を複数の部位に設定する際に、軸を水平方向に向けて配置されている上フランジ及び下フランジに対しては、表面を区分する方向を水平方向とし、軸を上下方向に向けて配置されているウェブに対しては、表面を区分する方向を上下方向としているが、これに限定されるものではない。
【0091】
すなわち、例えば、複数の影響因子による錆の形成への影響度合いが、上述の方向とは異なると考えられる場合には、上フランジ及び下フランジに対して、表面を区分する方向を、水平方向とするとともに、左主桁10及び右主桁20の長さ方向としてもよく、また、上フランジ及び下フランジに対して、表面を区分する方向を、左主桁10及び右主桁20の長さ方向のみとしてもよい。同様に、ウェブに対して、表面を区分する方向を上下方向とするとともに、左主桁10及び右主桁20の長さ方向としてもよく、また、ウェブに対して、表面を区分する方向を、左主桁10及び右主桁20の長さ方向のみとしてもよい。なお、左主桁10及び右主桁20の長さ方向とは、例えば、図1においては、紙面に対して直交する方向である。
【0092】
さらに、本実施形態の鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法では、錆の形成への影響が互いに異なる複数の影響因子を、それぞれ、飛来塩分雰囲気係数、表面塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数としているが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、これらの四種類の係数のうち、少なくとも二種類の係数を決定し、決定した各係数を乗算してもよい。また、例えば、上述した四種類の係数に加え、さらに、錆の形成への影響が四種類の係数と異なる影響因子を、係数として用いてもよい。
【0093】
また、本実施形態の鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法では、係数化した複数の影響因子を、左主桁10及び右主桁20の部位毎にデータとして記録し、蓄積しているが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、データを蓄積した鋼製橋梁と異なる鋼製橋梁に対して、その鋼製橋梁の表面に形成されると予測される錆の性状を部位毎に評価する度に、その都度、複数の影響因子を係数化してもよい。
【0094】
また、本実施形態の鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法では、飛来塩分雰囲気係数、表面塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数の各係数を、設定した複数箇所の部位毎に、0〜1.0の範囲内に設定された、0.1刻みの簡単な係数として決定しているが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、各係数を、0〜1.0を超える範囲内に設定してもよく、0.1よりも詳細な刻み、または、0.1よりも大きい刻みの係数として決定してもよい。
【0095】
次に、本発明の第二実施形態について図面を参照しつつ説明する。
本実施形態の錆形成影響因子評価方法は、錆の形成に影響する影響因子を除き、上述した第一実施形態の錆形成影響因子評価方法と同様であるため、以下の説明は、異なる部分を中心に記載する。
まず、図8から図13を参照して、本実施形態の錆形成影響因子評価方法の具体例を説明する。
本実施形態では、錆の形成に影響する影響因子を、飛来塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数とする。これらの係数は、上述した第一実施形態と同様、設定した24箇所の橋梁側部位毎に、0〜1.0の範囲内に設定された、0.1刻みの簡単な係数として決定する。そして、それらの決定した係数を橋梁側部位毎に乗算することにより、左主桁10及び右主桁20に形成されると予測される錆の性状を、左主桁10及び右主桁20の表面における複数の橋梁側部位毎に評価する。
【0096】
以下、上記の各係数について説明する。
まず、飛来塩分付着係数について説明する。
飛来塩分付着係数は、海から風により飛来して左主桁10及び右主桁20の表面に付着すると予測される飛来塩分の、左主桁10及び右主桁20の表面における分布を表す係数である。
この飛来塩分付着係数は、左主桁10及び右主桁20の近傍における風速分布の影響、すなわち、風に含まれている塩の粒子の速度と方向等の影響を受ける。
すなわち、左主桁10及び右主桁20の近傍における風速分布と、風に含まれている塩の粒子の速度と方向等を再現すれば、実際の鋼製橋梁1を用いなくとも決定することが可能である。このため、本実施形態では、鋼製橋梁の表面に付着すると予測される飛来塩分の分布を、以下に説明する塩分付着分布評価方法によって評価し、この評価結果に基づいて、飛来塩分付着係数を決定する。
【0097】
以下、図8から図11を参照しつつ、塩分付着分布評価方法によって、飛来塩分付着係数を決定する際の手順について説明する。
図8は、塩分付着分布評価方法を行う設備の説明図である。
図8中に示すように、塩分付着分布評価方法には、内部に橋梁模型Mを配置した風洞Tを用いる。
【0098】
風洞T内には、上流側から下流側へ向けて、任意の風速に調整した風を流す。なお、図8中では、橋梁模型Mを基準にして、橋梁模型Mの左側を上流側とし、橋梁模型Mの右側を下流側とする。
橋梁模型Mは、鋼製橋梁1を模して形成した縮尺模型であり、その縮尺は風洞Tの形状等によって設定する。すなわち、橋梁模型Mは、鋼製橋梁1と同様に、左主桁と右主桁から構成されており、床版を支持する2主桁橋を構成している。なお、図8中及び以下の説明では、橋梁模型Mを構成する左主桁を、左模型主桁60と記載し、橋梁模型Mを構成する右主桁を、右模型主桁70と記載する。同様に、左模型主桁60及び右模型主桁70によって支持される床版を、模型床版80と記載する。
【0099】
左模型主桁60は、例えば、木材等によって形成されており、左主桁10と同様に、左側上フランジと、左側ウェブと、左側下フランジを有している。なお、図8中及び以下の説明では、左模型主桁60が有する左側上フランジを左側上模型フランジ62、左側ウェブを左側模型ウェブ64、左側下フランジを左側下模型フランジ66と記載する。左側上模型フランジ62、左側模型ウェブ64、左側下模型フランジ66の構成は、左主桁10が有する左側上フランジ、左側ウェブ、左側下フランジの構成と同様であるため、その説明は省略する。
【0100】
左模型主桁60の表面、具体的には、左側上模型フランジ62、左側模型ウェブ64、左側下模型フランジ66の表面には、それぞれ、接触した模擬粒子Fを保持する粒子保持手段(図示せず)を配置している。模擬粒子Fに関する説明は、後述する。
粒子保持手段は、例えば、橋梁模型Mの表面と対向する対向面と反対側の粒子保持面に、接触した模擬粒子Fを保持可能な粘着力の粘着層が形成されている、両面粘着テープを用いる。この両面粘着テープは、後述する12箇所の模型側部位と対応する位置に、それぞれ配置する。すなわち、左側上模型フランジ62、左側模型ウェブ64、左側下模型フランジ66の表面には、合計12枚の両面粘着テープを配置する。なお、粒子保持手段としては、前記のような両面粘着テープに代えて、橋梁模型Mの表面に、接触した模擬粒子Fを保持可能な粘着力を有する接着剤を塗布してもよい。
【0101】
また、左模型主桁60の表面、具体的には、左側上模型フランジ62、左側模型ウェブ64、左側下模型フランジ66の表面は、左主桁10と同様、12箇所の模型側部位に区分する。すなわち、左模型主桁60の表面を、左主桁10の橋梁側部位の区分に対応する、複数の模型側部位に区分する。
なお、図8中及び以下の説明では、左側上模型フランジ62に対し、風上側の下面を、左側上模型フランジ風上側下面621と記載し、風下側の下面を、左側上模型フランジ風下側下面622と記載する。同様に、左側模型ウェブ64に対し、風上側の側面を、それぞれ、上側の左側模型ウェブ風上側上側面641a、中間の左側模型ウェブ風上側中側面641b、下側の左側模型ウェブ風上側下側面641cと記載する。また、風下側の側面を、それぞれ、上側の左側模型ウェブ風下側上側面642a、中間の左側模型ウェブ風下側中側面642b、下側の左側模型ウェブ風下側下側面642cと記載する。さらに、左側下模型フランジ66に対し、風上側の上面を、左側下模型フランジ風上側上面661aと記載し、風下側の上面を、左側下模型フランジ風下側上面662aと記載する。また、下面のうち、風上側の下面を、左側下模型フランジ風上側下面661bと記載し、風下側の下面を、左側下模型フランジ風下側下面662bと記載する。
【0102】
右模型主桁70は、左模型主桁60と同様、例えば、木材等によって形成されており、右主桁20と同様に、右側上フランジと、右側ウェブと、右側下フランジを有している。なお、図8中及び以下の説明では、右模型主桁70が有する右側上フランジを右側上模型フランジ72、右側ウェブを右側模型ウェブ74、右側下フランジを右側下模型フランジ76と記載する。右側上模型フランジ72、右側模型ウェブ74、右側下模型フランジ76の構成は、右主桁20が有する右側上フランジ、右側ウェブ、右側下フランジの構成と同様であるため、その説明は省略する。
【0103】
右模型主桁70の表面、具体的には、右側上模型フランジ72、右側模型ウェブ74、右側下模型フランジ76の表面には、それぞれ、左模型主桁60と同様に、粒子保持手段を配置している。右模型主桁70においても、左模型主桁60と同様に、12箇所の模型側部位と対応する位置、すなわち、右側上模型フランジ72、右側模型ウェブ74、右側下模型フランジ76の表面に、合計12枚の両面粘着テープを配置する。
【0104】
なお、図8中及び以下の説明では、右側上模型フランジ72に対し、風上側の下面を、右側上模型フランジ風上側下面721と記載し、風下側の下面を、右側上模型フランジ風下側下面722と記載する。同様に、右側模型ウェブ74に対し、風上側の側面を、それぞれ、上側の右側模型ウェブ風上側上側面741a、中間の右側模型ウェブ風上側中側面741b、下側の右側模型ウェブ風上側下側面741cと記載する。また、風下側の側面を、それぞれ、上側の右側模型ウェブ風下側上側面742a、中間の右側模型ウェブ風下側中側面742b、下側の右側模型ウェブ風下側下側面742cと記載する。さらに、右側下模型フランジ76に対し、風上側の上面を、右側下模型フランジ風上側上面761aと記載し、風下側の上面を、右側下模型フランジ風下側上面762aと記載する。また、下面のうち、風上側の下面を、右側下模型フランジ風上側下面761bと記載し、風下側の下面を、右側下模型フランジ風下側下面762bと記載する。
【0105】
模型床版80の構成も、左模型主桁60及び右模型主桁70と同様、床版30の構成と同様であるため、その説明は省略する。
また、風洞T内には、風洞T内の橋梁模型Mよりも上流側の空間を、上下方向に沿って複数の区画に分割する複数の仕切板52を配置している。各仕切板52は、例えば、分割した区画の開口面積が互いに等しくなる位置に配置する等、分割した区画における風速が、互いに等しくなるように配置されている。
【0106】
各仕切板52の上面には、それぞれ、飛来塩分を模した模擬粒子Fを等量配置している。
模擬粒子Fは、例えば、球形または略球形に形成したフェノールの粒子を用い、その直径を、飛来塩分の粒子とほぼ同径の10μm程度としている。
模擬粒子Fの重量は、風洞T内で風が吹いている状態において、模擬粒子Fが、その粒子の比重、粒径に応じて飛散し、風洞T内の空間を漂う状態となる重量とする。これは、風洞実験で微粒子を扱う際の空力的に満足する条件である、微粒子が風洞T内の空間を風に沿って流れている条件を満足するために必須である。
【0107】
本実施形態のように、微粒子、すなわち模擬粒子Fの直径が10μm程度である場合、模擬粒子Fの空気抵抗は、ストークス則(流体力が相対流速の1乗に比例する法則)に従い、重力よりも空気の粘性抵抗が支配的になる。これにより、模擬粒子Fの最終的な落下速度である終端速度は、数cm/sec程度となる。これは、直径10μm程度の模擬粒子Fが、直径10μm以下のミスト等と同様、浮遊粒子状物質として空中に漂うことに起因する。
【0108】
上記のような構成の設備を用いて塩分付着分布評価方法を行い、飛来塩分付着係数を決定する際には、まず、風洞T内に橋梁模型Mを配置し、各仕切板52の上面に、それぞれ、等量の模擬粒子Fを配置する。次に、任意の風速に調整した風を、上流側から下流側へ向けて流すことにより、各模擬粒子Fを、橋梁模型Mよりも上流側から風洞T内に飛散させて、橋梁模型Mの表面に付着させる。
そして、橋梁模型Mの表面に付着、具体的には粒子保持手段が保持した模擬粒子Fの量及び位置に基づいて、鋼製橋梁1の表面に付着すると予測される飛来塩分の分布を評価し、この評価結果を係数化して、飛来塩分付着係数を決定する。
【0109】
次に、図9から図11を参照して、風洞実験における留意点について説明する。
風洞実験における留意点のうち、特に重要なものとしては、以下の二点がある。
(1)模擬粒子Fに作用する流体力が、重力よりも十分に大きい
(2)模擬粒子Fに作用する流体力が、遠心力よりも十分に大きい
まず、上記(1)について、図9を用いて説明する。
図9は、模擬粒子Fの重力条件を示す図である。
模擬粒子Fに作用する流体力が、重力Gよりも十分に大きい場合、図9中に示すように、流速によって空気抵抗に対する抗力(流体力)Dを与えられた模擬粒子Fに対する、重力Gによる沈降が抑制される。これにより、風洞T内において、風によって運ばれる模擬粒子Fは、風洞T内の空間を漂うこととなる。
これに対し、模擬粒子Fに作用する抗力Dが、重力Gよりも十分に大きくない場合、模擬粒子Fは重力Gによる沈降によって風洞T内の空間を下降し続けることとなり、風により飛来する飛来塩分の移動状態を再現することが困難となる。
【0110】
次に、上記(2)について、図10を用いて説明する。
図10は、模擬粒子Fの遠心力条件を示す図である。
模擬粒子Fに作用する流体力が、遠心力よりも十分に大きい場合、図10中に示すように、流速によって空気抵抗に対する抗力(流体力)Dを与えられた模擬粒子Fに対する、遠心力Cによる影響が低減される。これにより、風洞T内において、風の流れが湾曲する位置では、風の風速ベクトルに沿って模擬粒子Fも湾曲して移動することとなる。
【0111】
これに対し、模擬粒子Fに作用する抗力Dが、遠心力Cよりも十分に大きくない場合、風の流れが湾曲する位置において、模擬粒子Fが風に沿って曲がり切れず、風の流れが湾曲に対する接線方向へ移動してしまうこととなる。また、わずかな吹き上げがある位置でも、模擬粒子Fが風の風速ベクトルに沿って上昇することが困難となる。これにより、左主桁10と右主桁20との間に形成される空間(以下、「桁内空間90」と記載する)に、飛来塩分が移動する状態を再現することが困難となるため、風により飛来する飛来塩分の移動状態を再現することが困難となる。
【0112】
したがって、上記(1)及び(2)を満足することにより、風洞T内の空間における模擬粒子Fの移動状態を、図11中に示されるように、風により飛来する飛来塩分の移動状態に近似させることが可能となる。すなわち、風洞実験において、風により飛来する飛来塩分の移動状態を再現することが可能となる。なお、図11は、橋梁模型Mの周囲における、風の流れと模擬粒子Fの運動との関係を示す図である。
【0113】
次に、上述した塩分付着分布評価方法を用いて、飛来塩分付着係数を決定する理由について説明する。
上述したような、橋梁模型Mを用いた風洞実験において、鋼製橋梁1の建設予定地におけるレイノルズ数と、風洞T内におけるレイノルズ数とを相似させることは、以下に示す理由により、一般的には非常に困難である。
【0114】
鋼製橋梁1の建設予定地におけるレイノルズ数と、風洞T内におけるレイノルズ数とを相似させようとする場合、例えば、橋梁模型Mの縮尺が1/100である場合には、風洞T内の風速を、鋼製橋梁1の建設予定地における風速の100倍程度とする必要がある。したがって、鋼製橋梁1の建設予定地における風速が、現実的な値である10m/s程度である場合であっても、風洞T内の風速は、1000m/s程度とする必要がある。これは、音速の約三倍であり、風洞T内の風速としては、実現することは非常に困難である。これにより、鋼製橋梁1の建設予定地におけるレイノルズ数と、風洞T内におけるレイノルズ数とを相似させることは、非常に困難である。
【0115】
しかしながら、鋼製橋梁1の建設予定地におけるレイノルズ数と、風洞T内におけるレイノルズ数が相似していなくとも、鋼製橋梁1の周囲における風の流れと、橋梁模型Mの周囲における風の流れとは、以下に示す理由により、概ね相似している。
すなわち、飛来塩分付着係数を決定する対象となる物体が、円柱や楕円形等、流線型(あるいは曲線的)に近い物体の場合では、模擬粒子Fの抗力係数がレイノルズ数により大きく変化する。これは、流線型(あるいは曲線的)に近い物体に対する流れの剥離点位置が、レイノルズ数に応じて変化するためである。
【0116】
これに対し、本実施形態のように、飛来塩分付着係数を決定する対象となる物体が、角柱等、角部を有する尖った物体の場合では、この物体に対する流れの剥離点位置が角部に固定されるため、レイノルズ数に応じた変化は生じない。なお、剥離点位置の例としては、図11中に示すように、左側下模型フランジ66の風上側の先端部や、模型床版80の風上側の端部がある。また、図11中では、剥離点位置を、符号「P」を付して示している。
【0117】
ここで、鋼製橋梁1を構成する左主桁10及び右主桁20と、左主桁10及び右主桁20に支持される床版30は、角部を有する尖った物体である。また、橋梁模型Mを構成する左模型主桁60及び右模型主桁70と、左模型主桁60及び右模型主桁70に支持される模型床版80も同様に、角部を有する尖った物体である。
上記により、鋼製橋梁1の建設予定地におけるレイノルズ数と、風洞T内におけるレイノルズ数が相似していなくとも、鋼製橋梁1の周囲における風の流れと、橋梁模型Mの周囲における風の流れとが、概ね相似していることが証明される。
【0118】
そして、鋼製橋梁1の周囲における風の流れと、橋梁模型Mの周囲における風の流れとが、概ね相似している状態では、風の流れの時間的変化、すなわち、流速場における平均値からの変動成分の分布を満足することとなる。これは、公知の乱流モデル理論では、「乱流エネルギーの生産≒乱流エネルギーの分布」の関係が成立するとともに、乱流エネルギーの生産は、流速場から決まるせん断ひずみ(∂Ui/∂Xj+∂Uj/∂Xi)に比例するためである。なお、Ui,Ujは流速テンソルであり、Xi,Xjは座標テンソルである。
【0119】
したがって、鋼製橋梁1の周囲における風の流れと、橋梁模型Mの周囲における風の流が、互いの平均流速場が相似している場合には、乱流エネルギーの分布、すなわち、風の乱れの分布も相似している。
ここで、風の流れの変動成分は、橋梁模型Mの表面に対する模擬粒子Fの付着状態を検出するために、重要な要素である。これは、流速場における風の流れが定常状態、すなわち、風の流れに乱れが無い状態では、上記(1)及び(2)を満足する場合に、模擬粒子Fが風の風速ベクトルに沿って移動するだけとなるため、模擬粒子Fは、橋梁模型Mの表面に殆ど付着しない。
【0120】
これに対し、流速場における風の流れが乱れている状態で、上記(1)及び(2)を満足する場合には、平均流速からの変動成分が、平均流速場からの揺らぎとなって、模擬粒子Fを橋梁模型Mの表面に衝突させるため、模擬粒子Fが橋梁模型Mの表面に付着する。
以上の理由により、上述した塩分付着分布評価方法を用いて、飛来塩分付着係数を決定することが、鋼製橋梁の表面に付着すると予測される飛来塩分を、実用的な評価精度で評価するために好適である。
【0121】
なお、上述のように、飛来塩分付着係数を決定するに当たり、塩分付着分布評価方法を用いる実施形態について説明したが、第一実施形態で説明した飛来塩分雰囲気係数と表面塩分付着係数をそれぞれ個別に決定し、これらの係数を乗算することにより、両係数の積として飛来塩分付着係数を決定するようにしてもよい。
水洗損失係数及び部位毎湿度係数については、上述した第一実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0122】
次に、図1及び図8から図11に基づき、図12及び図13を参照しつつ、本実施形態の錆形成影響因子評価方法を用いて、鋼製橋梁1に形成されると予測される錆の性状を評価する際の、作用・効果等を説明する。
図12は、本実施形態の錆形成影響因子評価方法と、従来の錆形成影響因子評価方法との相違を比較する図であり、図12(a)が、従来の錆形成影響因子評価方法の手順を表す図、図12(b)が本実施形態の錆形成影響因子評価方法の手順を表す図である。
図12(a)に示す従来の錆形成影響因子評価方法に関しては、上述した第一実施形態と同様であるため、その説明を省略する。
【0123】
一方、図12(b)に示すように、本実施形態の錆形成影響因子評価方法では、まず、鋼製橋梁1全体に対して、100年後に形成されると予測される錆の性状を算出する。この性状を算出する方法は、上述した第一実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
次に、予め設定した24箇所の橋梁側部位毎に、0〜1.0の範囲内に設定された、飛来塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数を決定する。そして、24箇所の橋梁側部位毎に、これらの係数と、100年後に形成されると予測される錆の性状を、それぞれ、乗算することにより、橋梁側部位毎において、最終的に形成されると予測される錆の性状を評価する。
【0124】
以下、飛来塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数を決定する手順の具体例を説明する。
図13は、橋梁側部位毎に決定された、飛来塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数と、橋梁側部位毎の最終的な錆の性状を示す図であり、図13(a)〜(c)に各係数を示す。また、図13(d)に、橋梁側部位毎において、最終的に形成されると予測される錆の性状である、「最終錆性状」を示す。
飛来塩分付着係数は、上述した塩分付着分布評価方法を用いて決定する(図8から図11参照)。
【0125】
すなわち、橋梁模型Mを配置した風洞T内の空間内に、橋梁模型Mよりも上流側から模擬粒子Fを飛散させる。そして、橋梁模型Mの表面、具体的には、24箇所の模型側部位にそれぞれ付着した模擬粒子Fの量に基づいて、橋梁側部位毎に付着すると予測される飛来塩分の分布を評価し、この評価結果に基づいて、飛来塩分付着係数を決定する。
このようにして決定した橋梁側部位毎の飛来塩分付着係数を、図13(a)に示す。
図13(a)中に示すように、飛来塩分付着係数は、上フランジ下面、ウェブ、下フランジ上面及び下フランジ下面において、それぞれ、異なった値となる。以下に、上フランジ下面、ウェブ、下フランジ上面及び下フランジ下面における飛来塩分付着係数について、具体的に説明する。
【0126】
左主桁10の風上側の面においては、上フランジ下面、ウェブ、下フランジ上面及び下フランジ下面の全てにおいて、同一値となっている。
左主桁10の風下側の面においては、下フランジ下面が、左主桁10の風上側の面における下フランジ下面と同一値となっており、上フランジ下面、ウェブ及び下フランジ上面よりも高い値となっている。また、上フランジ下面、ウェブ及び下フランジ上面が、左主桁10の風上側の面における同部位と比較して、低い値となっている。また、上フランジ下面が、ウェブ及び下フランジ上面と比較して、高い値となっている。
【0127】
右主桁20の風上側の面においては、下フランジ下面が、左主桁10の風上側の面及び左主桁10の風下側の面における下フランジ下面と同一値となっており、ウェブ及び下フランジ上面よりも高い値となっている。また、上フランジ下面が、下フランジ下面と同一値となっている。また、上フランジ下面、ウェブ、下フランジ上面の順に高い値となっている。
【0128】
右主桁20の風下側の面においては、上フランジ下面、ウェブ及び下フランジが、同一値となっている。また、上面下フランジ下面が、上フランジ下面、ウェブ及び下フランジよりも低い値となっている。右主桁20の風下側の面全体としては、左主桁10の風上側の面、左主桁10の風下側の面及び右主桁20の風上側の面における同部位と比較して、低い値となっている。
【0129】
水洗損失係数を決定する際には、上述した第一実施形態と同様の方法を用いて係数化する。なお、図13(b)に示すように、橋梁側部位毎に係数化した水洗損失係数は、上述した第一実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
部位毎湿度係数を決定する際には、水洗損失係数と同様、上述した第一実施形態と同様の方法を用いて係数化する。なお、図13(c)に示すように、橋梁側部位毎に係数化した部位毎湿度係数は、上述した第一実施形態と同様であるため、その説明は省略する。
【0130】
上記の手順によって決定された、複数の橋梁側部位毎における、飛来塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数のデータは、それぞれ、例えば、汎用のコンピュータや、記録用紙等によって、橋梁側部位毎に記録して蓄積しておく。
そして、上述したように、24箇所の橋梁側部位毎に、飛来塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数を、それぞれ、決定した後、図13(d)に示すように、橋梁側部位毎に各係数を乗算する。これにより、橋梁側部位毎における、最終的に形成されると予測される錆の性状を評価する。
【0131】
各係数を乗算した結果を、図13(d)に示す。
上述したように、各係数は、0〜1.0の範囲内で決定されるため、図13(d)中に示すように、最終的に形成されると予測される錆の性状も、24箇所の橋梁側部位毎に、0〜1.0の範囲内で決定される。このため、この橋梁側部位毎の係数(以下、「橋梁側部位係数」と記載する)に基づいて、左主桁10及び右主桁20に形成されると予測される錆の性状を、左主桁10及び右主桁20の橋梁側部位毎に評価することが可能となる。
【0132】
なお、図13(d)中に示すように、橋梁側部位係数に基づいて左主桁10及び右主桁20に形成されると予測される錆の性状は、上述した第一実施形態における、部位係数に基づいて左主桁10及び右主桁20に形成されると予測される錆の性状と同様であるため、その説明は省略する。
したがって、本実施形態の錆形成影響因子評価方法であれば、上述した塩分付着分布評価方法を用いて、飛来塩分付着係数を決定している。このため、重量に関する制約が無く、また、弾性支持機構等が不要な橋梁模型Mを用いて、鋼製橋梁1の表面に付着すると予測される飛来塩分の分布を評価することが可能となる。
【0133】
このため、鋼製橋梁1の表面に付着すると予測される飛来塩分の分布を、数値流体解析を用いた場合と比較して、簡便な方法、且つ実用的な評価精度及び評価期間で評価することが可能となる。
その結果、鋼製橋梁1を建設する前に、左主桁10及び右主桁20に形成されると予測される錆の性状を、数値流体解析を用いた場合と比較して、低コスト、高精度及び短期間で評価することが可能となる。
【0134】
また、本実施形態の錆形成影響因子評価方法であれば、塩分付着分布評価方法に用いる橋梁模型Mの表面に、表面に付着した模擬粒子Fを保持する粒子保持手段を配置している。
このため、橋梁模型Mの表面に付着した模擬粒子Fが、風等によって橋梁模型Mの表面から剥離することを抑制可能となる。
【0135】
その結果、橋梁模型Mの表面に付着した模擬粒子Fの量及び位置の変化を抑制することが可能となり、鋼製橋梁1の表面に付着すると予測される飛来塩分の分布に関する評価精度が低下することを抑制可能となる。
さらに、本実施形態の錆形成影響因子評価方法であれば、塩分付着分布評価方法に用いる風洞T内の橋梁模型Mよりも上流側の空間を、複数の仕切板52を用いて上下方向へ分割し、これら複数の空間内に配置した模擬粒子Fを、橋梁模型Mよりも上流側から風洞T内に飛散させている。
【0136】
このため、複数の空間内から、それぞれ、等量の模擬粒子Fを、橋梁模型Mよりも上流側から、橋梁模型Mへ向けて一様に飛散させることが可能となる。
その結果、橋梁模型Mに対する模擬粒子Fの飛散状態を、鋼製橋梁1に対する飛来塩分の飛散状態に近似させることが可能となるため、鋼製橋梁1の表面に付着すると予測される飛来塩分の分布に対する評価精度が低下することを抑制可能となる。
【0137】
また、本実施形態の錆形成影響因子評価方法であれば、塩分付着分布評価方法に用いる橋梁模型Mの表面を、橋梁側部位の区分に対応する複数の模型側部位に区分している。そして、複数の模型側部位に付着した模擬粒子Fの量及び位置に基づいて、鋼製橋梁1の表面に付着すると予測される飛来塩分の分布を、複数の橋梁側部位毎に評価している。
したがって、複数の模型側部位に付着した模擬粒子Fの量及び位置が異なる場合は、複数の影響因子による錆の形成への影響度合いが、鋼製橋梁1の表面において異なる場合となる。これにより、複数の模型側部位に付着した模擬粒子Fの量及び位置に基づき、複数の影響因子による錆の形成への影響度合いを求め、この影響度合いに応じて、鋼製橋梁1の表面を複数の部位に区分することとなる。
【0138】
このため、鋼製橋梁1を建設する前に、鋼製橋梁1の表面に付着すると予測される飛来塩分の分布を、複数の橋梁側部位毎に、定量的に評価することが可能となる。
その結果、左主桁10及び右主桁20の形成に用いる鋼種の選択を、それぞれ、左主桁10及び右主桁20の橋梁側部位毎に適用する判断が可能となる。したがって、高価なNi系高耐候性鋼等は限られた橋梁側部位への適用とし、それ以外の部分には、より安価な耐候性鋼や普通鋼を適用するという経済的な設計が可能となるため、鋼製橋梁1の製造コスト及びライフサイクルコストを低減することが可能となる。
【0139】
また、左主桁10及び右主桁20を普通鋼や耐候性鋼を用いて形成する際に、左主桁10及び右主桁20の橋梁側部位毎に塗装して適用する判断が可能となる。したがって、腐食が激しいと予測される橋梁側部位には部分塗装を施す等、将来的には維持管理に貢献する対策を行うことが可能となり、鋼製橋梁1の製造コスト及びライフサイクルコストを低減することが可能となる。
【0140】
また、本実施形態の錆形成影響因子評価方法であれば、錆の形成への影響が互いに異なる複数の影響因子を、それぞれ、飛来塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数としている。
このため、鋼製橋梁1の近傍環境と、左主桁10及び右主桁20の表面における塩分の状態に基づいて、左主桁10及び右主桁20に形成されると予測される錆の性状を評価することが可能となるため、錆の性状を精度良く評価することが可能となる。
【0141】
その結果、左主桁10及び右主桁20の形成に用いる鋼種の選択を、それぞれ、左主桁10及び右主桁20の橋梁側部位毎に適用する判断や、左主桁10及び右主桁20の橋梁側部位毎に塗装して適用する判断を、精度良く行うことが可能となる。
なお、本実施形態の錆形成影響因子評価方法では、塩分付着分布評価方法に用いる橋梁模型Mの表面を、橋梁側部位の区分に対応する複数の模型側部位に区分しているが、これに限定されるものではない。すなわち、橋梁模型Mの表面に付着した模擬粒子Fの量及び位置に基づいて、橋梁模型Mの表面を複数の模型側部位に区分し、鋼製橋梁1の表面を、模型側部位の区分に対応する複数の橋梁側部位に区分してもよい。
【0142】
また、本実施形態の錆形成影響因子評価方法では、錆の形成への影響が互いに異なる複数の影響因子を、それぞれ、飛来塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数としているが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、これらの三種類の係数のうち、飛来塩分付着係数と、水洗損失係数及び部位毎湿度係数のうち少なくとも一方の係数を決定し、決定した各係数を乗算してもよい。また、例えば、上述した三種類の係数に加え、さらに、錆の形成への影響が三種類の係数と異なる影響因子を、係数として用いてもよい。
【0143】
さらに、本実施形態の錆形成影響因子評価方法では、橋梁模型Mの表面に、表面に付着した模擬粒子Fを保持する粒子保持手段を配置しているが、これに限定されるものではない。すなわち、橋梁模型Mの表面に粒子保持手段を配置していない構成としてもよい。この場合、例えば、静電気等によって、橋梁模型Mの表面に付着した模擬粒子Fを保持することが考えられる。もっとも、本実施形態の錆形成影響因子評価方法のように、橋梁模型Mの表面粒子保持手段を配置することが、橋梁模型Mの表面に付着した模擬粒子Fが、風等によって橋梁模型Mの表面から剥離することを、確実に抑制可能となるため、好適である。
【0144】
また、本実施形態の錆形成影響因子評価方法では、橋梁模型Mを、鋼製橋梁1を模して形成した縮尺模型としたが、これに限定されるものではなく、橋梁模型Mを、鋼製橋梁1以上の大きさに形成された模型としてもよい。もっとも、本実施形態の錆形成影響因子評価方法のように、橋梁模型Mを、鋼製橋梁1を模して形成した縮尺模型とすることが、左主桁10及び右主桁20に形成されると予測される錆の性状を、低コスト及び短期間で評価することが可能となるため、好適である。
【0145】
次に、本発明の第三実施形態について図面を参照しつつ説明する。
本実施形態の構成は、塩分付着分布評価方法を行う設備の構成を除き、上述した第二実施形態と同様であるため、その他の構成に関する記載は省略する。
図14及び図15は、塩分付着分布評価方法を行う設備の説明図である。
図14中に示すように、本実施形態の塩分付着分布評価方法には、上述した第二実施形態と同様、内部に橋梁模型Mを配置した風洞Tを用いる。
【0146】
橋梁模型Mの構成は、上述した第二実施形態と同様であるため、説明を省略する。
風洞T内には、風洞T内の橋梁模型Mよりも上流側に、風洞T内へ模擬粒子Fを放出する模擬粒子放出手段100を配置している。
模擬粒子放出手段100は、図外の模擬粒子拡散室と連通するダクト102を備えている。
ダクト102は、橋梁模型Mへ向けて開口した模擬粒子放出部104を備えている。
【0147】
図15は、模擬粒子拡散室106の構成を示す図である。
図15中に示すように、模擬粒子拡散室106は、内部に空間を有する箱体であり、その内部空間が、ダクト102を介して模擬粒子放出手段100と連通する。
模擬粒子拡散室106の内部には、ノズル支持部108によって支持されるノズル110と、模擬粒子Fを配置している。
【0148】
ノズル支持部108は、モータ等のアクチュエータ(図示せず)を備えており、ノズル110を任意の方向へ向けて移動させる機能を有している。ノズル支持部108によるノズル110の移動状態は、模擬粒子拡散室106の内部において、模擬粒子Fが浮遊しながら均等に拡散するように制御する。
ノズル110は、模擬粒子拡散室106の外部に配置されたコンプレッサー112と接続しており、コンプレッサー112が発生した圧縮空気を、模擬粒子拡散室106の内部に噴出する。
その他の構成は、上述した第二実施形態と同様である。
【0149】
次に、図14及び図15を参照しつつ、本実施形態の錆形成影響因子評価方法を用いて、鋼製橋梁1に形成されると予測される錆の性状を評価する際の、作用・効果等を説明する。なお、本実施形態の錆形成影響因子評価方法は、塩分付着分布評価方法を除き、上述した第二実施形態と同様であるため、塩分付着分布評価方法以外の説明は省略する。
上記のような構成の設備を用いて塩分付着分布評価方法を行い、飛来塩分付着係数を決定する際には、風洞T内に橋梁模型Mを配置するとともに、模擬粒子拡散室106の内部に模擬粒子Fを配置する。そして、コンプレッサー112が発生した圧縮空気を、ノズル110から噴出して模擬粒子拡散室106の内部に放出する。これにより、模擬粒子拡散室106の内部に配置した模擬粒子Fを、模擬粒子拡散室106の内部において浮遊させながら均等に拡散させる。
【0150】
次に、浮遊させながら均等に拡散させた模擬粒子Fを、ダクト102を介して模擬粒子放出部104から放出し、橋梁模型Mよりも上流側から風洞内に放出する。これにより、模擬粒子Fを、橋梁模型Mよりも上流側から風洞T内に飛散させて、橋梁模型Mの表面に付着させる。
そして、橋梁模型Mの表面に付着した模擬粒子Fの量及び位置に基づいて、鋼製橋梁1の表面に付着すると予測される飛来塩分の分布を評価し、この評価結果を係数化して、飛来塩分付着係数を決定する。
【0151】
したがって、本実施形態の錆形成影響因子評価方法であれば、模擬粒子拡散室106の内部において浮遊させながら均等に拡散させた模擬粒子Fを、ダクト102を介して模擬粒子放出部104から放出し、橋梁模型Mよりも上流側から風洞T内に放出する。
このため、模擬粒子拡散室106の内部において浮遊させながら均等に拡散させた模擬粒子Fを、風洞T内において、橋梁模型Mよりも上流側から、橋梁模型Mへ向けて一様に飛散させることが可能となる。
【0152】
その結果、橋梁模型Mに対する模擬粒子Fの飛散状態を、鋼製橋梁1に対する飛来塩分の飛散状態に近似させることが可能となるため、鋼製橋梁1の表面に付着すると予測される飛来塩分の分布に対する評価精度が低下することを抑制可能となる。
その他の作用・効果は、上述した第二実施形態と同様である。
【実施例】
【0153】
以下、図16及び図17を参照して、従来方法を用い、実際の鋼製橋梁の表面に付着した飛来塩分の分布を検出した結果と、上述した第二実施形態の塩分付着分布評価方法を用いて、鋼製橋梁の表面に付着すると予測される飛来塩分の分布を評価した結果とを比較する。
従来方法としては、例えば、JISZ2382に規定されている試験方法である、ドライガーゼ法を用いた。
【0154】
図16は、ドライガーゼ法を示す図である。
図16中に示すように、ドライガーゼ法は、左主桁10及び右主桁20の表面において、予め設定した部位毎にガーゼを配置し、ガーゼに付着した塩分の値(mg/dm/day)を検出する方法である。図16中には、ガーゼに付着した塩分の値を、検出した8箇所において示している。
【0155】
本発明の塩分付着分布評価方法としては、図14に示したような設備を用いて、鋼製橋梁の表面に付着すると予測される飛来塩分の分布を評価した。その結果を、図17に示す。なお、図17は、本発明の塩分付着分布評価方法を用いて検出した、左模型主桁60及び右模型主桁70の表面に付着した模擬粒子Fの量及び位置を示す図である。
図16中に示されるように、実際の鋼製橋梁1を用いて検出した塩分の値は、左主桁10の風下側の面と、右主桁20の風上側の面において、下方から上方となるにつれて増加する。
【0156】
一方、図17中に示されるように、本発明の塩分付着分布評価方法を用いて検出した模擬粒子Fの量は、左模型主桁60の風下側の面と、右模型主桁70の風上側の面において、下方から上方となるにつれて増加する。
したがって、本発明の塩分付着分布評価方法を用いて検出した模擬粒子Fの量及び位置が、実際の鋼製橋梁1を用いて検出した塩分の値と近似した傾向を示すことが確認され、本発明の塩分付着分布評価方法の有効性が実証された。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】本発明の錆形成影響因子評価方法を用いて、形成が予測される錆の性状を評価する対象となる、鋼製橋梁の構成を示す図である。
【図2】ドライガーゼ法による塩分濃度分布の測定を示す図である。
【図3】数値解析により塩分濃度の分布を評価する例を示す図である。
【図4】鋼製橋梁に雨がかかるイメージを示す図である。
【図5】鋼製橋梁の部位毎に、相対湿度を測定する方法を示す図である。
【図6】本発明の錆形成影響因子評価方法と、従来の錆形成影響因子評価方法との相違を比較する図であり、(a)は従来の錆形成影響因子評価方法の手順を表す図、(b)は本発明の錆形成影響因子評価方法の手順を表す図である。
【図7】部位毎に決定された各係数と、部位毎の最終的な錆の性状を示す図であり、(a)〜(d)は、各係数を示す図、(e)は、部位毎において、最終的に形成されると予測される錆の性状を示す図である。
【図8】本発明の第二実施形態において、塩分付着分布評価方法を行う設備の説明図である。
【図9】模擬粒子の重力条件を示す図である。
【図10】模擬粒子の遠心力条件を示す図である。
【図11】橋梁模型の周囲における、風の流れと模擬粒子の運動との関係を示す図である。
【図12】本発明の第二実施形態の錆形成影響因子評価方法と、従来の錆形成影響因子評価方法との相違を比較する図である。
【図13】橋梁側部位毎に決定された、飛来塩分付着係数、水洗損失係数、部位毎湿度係数と、橋梁側部位毎の最終的な錆の性状を示す図である。
【図14】本発明の第三実施形態において、塩分付着分布評価方法を行う設備の説明図である。
【図15】模擬粒子拡散室の構成を示す図である。
【図16】ドライガーゼ法を示す図である。
【図17】本発明の塩分付着分布評価方法を用いて検出した、左模型主桁及び右模型主桁の表面に付着した模擬粒子の量及び位置を示す図である。
【図18】耐候性鋼橋の部位毎における飛来塩分量を無次元塩分濃度で示した予測例を示す特性図である。
【符号の説明】
【0158】
1 鋼製橋梁
10 左主桁
12 左側上フランジ
14 左側ウェブ
16 左側下フランジ
20 右主桁
22 右側上フランジ
24 右側ウェブ
26 右側下フランジ
30 床版
40 ガーゼ
50 測定機器
52 仕切板
60 左模型主桁
62 左側上模型フランジ
64 左側模型ウェブ
66 左側下模型フランジ
70 右模型主桁
72 右側上模型フランジ
74 右側模型ウェブ
76 右側下模型フランジ
80 模型床版
90 桁内空間
100 模擬粒子放出手段
102 ダクト
104 模擬粒子放出部
106 模擬粒子拡散室
108 ノズル支持部
110 ノズル
112 コンプレッサー
R 雨
M 橋梁模型
T 風洞
F 模擬粒子
P 剥離点位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に錆の形成が予測される鋼製橋梁に対し、前記錆の形成に影響する影響因子に基づいて、形成が予測される錆の性状を評価する鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法であって、
前記鋼製橋梁の表面を、複数の部位に区分し、
前記影響因子を、前記錆の形成への影響が互いに異なる複数の影響因子とし、
前記複数の部位毎に、前記複数の影響因子を、それぞれ、前記錆の形成への影響度合いを反映する数値として係数化し、
前記係数化した複数の影響因子を、それぞれ、前記複数の部位毎に乗算することにより、前記鋼製橋梁の表面に形成されると予測される前記錆の性状を前記複数の部位毎に評価することを特徴とする鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法。
【請求項2】
前記複数の影響因子による前記錆の形成への影響度合いが、前記鋼製橋梁の表面において異なる場合には、前記複数の影響因子による前記錆の形成への影響度合いに応じて、前記鋼製橋梁の表面を複数の部位に区分することを特徴とする請求項1に記載した鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法。
【請求項3】
前記複数の影響因子は、以下の(a)〜(d)のうち少なくとも二つであることを特徴とする請求項1または2に記載した鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法。
(a)前記鋼製橋梁の近傍における飛来塩分の空間的な分布を表す飛来塩分雰囲気係数
(b)前記鋼製橋梁の近傍に雰囲気として存在する飛来塩分の鋼製橋梁の表面への付着し易さを表す表面塩分付着係数
(c)前記鋼製橋梁の表面に付着した塩分が、水分による洗浄によって鋼製橋梁の表面から減少する減少度合いを表す水洗損失係数
(d)絶対湿度と温度から決定される相対湿度の、前記鋼製橋梁の近傍における経年的な分布を表す部位毎湿度係数
【請求項4】
前記複数の影響因子は、以下の(e)に加え、(f)及び(g)のうち少なくとも一方であることを特徴とする請求項1または2に記載した鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法。
(e)前記鋼製橋梁の表面に付着すると予測される飛来塩分の、前記鋼製橋梁の表面における分布を表す飛来塩分付着係数
(f)前記鋼製橋梁の表面に付着した塩分が、水分による洗浄によって鋼製橋梁の表面から減少する減少度合いを表す水洗損失係数
(g)絶対湿度と温度から決定される相対湿度の、前記鋼製橋梁の近傍における経年的な分布を表す部位毎湿度係数
【請求項5】
前記鋼製橋梁を模した橋梁模型を風洞内に配置して、
前記飛来塩分を模した模擬粒子を、前記橋梁模型よりも上流側から前記風洞内で飛散させ、
前記橋梁模型の表面に付着した前記模擬粒子の量及び位置に基づいて、前記飛来塩分付着係数を決定することを特徴とする請求項4に記載した鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法。
【請求項6】
請求項1から5のうちいずれか1項に記載した鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法を用いて前記鋼製橋梁の表面に形成されると予測される前記錆の性状を前記複数の部位毎に評価する際に、前記係数化した複数の影響因子を前記複数の部位毎にデータとして蓄積し、
前記データを蓄積した鋼製橋梁と異なる鋼製橋梁に対して、その鋼製橋梁の表面に形成されると予測される前記錆の性状を前記複数の部位毎に評価する際に、前記蓄積したデータに基づいて、前記錆の形成への影響度合いを反映する数値を補正することを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項に記載した鋼製橋梁の錆形成影響因子評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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