説明

鍛造による一体型ロバーバル機構の製造方法

【課題】 安価でかつ高性能な一体型ロバーバル機構の製造方法を得ること。
【解決手段】 上部副桿部2、上部副桿部2に対向位置する下部副桿部3、秤量物の荷重を受容する浮枠部4、この浮枠部4に対向する固定部5、これら上下の副桿部2、3、浮枠部4、固定部5に囲まれた空間部6を形成し、かつこの空間部6内において固定部5から浮枠部4に向かって展出する梁状部7を形成し、更にこの梁状部7と上部副桿部2との間、及び梁状部7と下部副桿部3との間にそれぞれ第1接合部8Aと第2接合部8Bを形成した形状の一体型ロバーバル機構の中間体1Aを形成する第1の工程と、この中間体1Aから第1接合部8Aと第2接合部8Bを除去しかつ上下の副桿部に対して薄肉部を形成することにより最終製品である一体型ロバーバル機構を形成する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子秤に用いられる部品の一つである一体型ロバーバル機構を鍛造により製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁平衡式の所謂電子天秤等を代表とする電子秤においては、秤量皿に載置された計測対象物の荷重を電磁機構部等の荷重計測部に対して伝達するための機構に対して、荷重の伝達を正確に行なうためにこの荷重伝達機構の作動を案内するロバーバル機構が設けられている。
【0003】
従来このロバーバル機構は上下の副桿と称する部材を始めとする各種部材と、これら各種部材を接続するための板バネ等の接続部材、これら各部材を固定するためのビス等、数十点からなる部材を組み立てることより構成されている。
【0004】
組立型のロバーバル機構では当然のことながら組立自体に手間がかかり、しかも機構として正確に作動させるために機構組立後に各部を微調整する必要がある。また微調整を行なっても、ビスの僅かな緩み等により経時的に性能が低下してしまう可能性がある。
上記の点に鑑み、機構としての成形の簡便化、経時的な性能低下を防止する観点からこのロバーバル機構を一つの金属ブロックから一体的に形成する方法が幾つか試みられ、現在ロバーバル機構を必要とする電子秤の一部に組み込まれ実用化されている。
【0005】
ここで、一体型のロバーバル機構の製造方法を直接開示している特許文献は発見されていないが、一体型ロバーバル機構に関する特許文献としては下記の文献がある。
【特許文献1】特開2000−283829
【特許文献2】特開2001−050826
【0006】
上記特許文献は何れも本願出願人が本願に先行して出願した文献であるが、このうち特に特許文献1にはアルミニウム系合金から成る一体型ロバーバル機構の形成方法の一例が示されている。
【0007】
一体型ロバーバル機構の形成に当たっては電子秤以外の各種装置の金属部品と同様、鋳造、切削加工等各種の方法が考えられる。このうち溶解したアルミニウムを圧力をかけて金型に押し込むことにより成形するアルミダイカストと通称される鋳造方法があるが、鋳造はそれ自体では金属組織が粗大でかつ巣と称される空隙部が金属組織内に発生し易く、部品全体の組成が不均一となってしまうという欠点がある。このため鋳造による一体型ロバーバル機構では、前記組成の不均一に加えて切削加工後にこの巣が表面化し荷重伝達機構としての機能が不安定になったり、表面化した巣の部分を中心としてクラックが発生、成長すること等により、部品としての性能及び耐久性が不十分となってしまい、結局鋳造による製造方法ではロバーバル機構としては実用性に乏しいものと言わざるを得ない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図7は上記特許文献1の実施例としての一体型ロバーバル機構の一例を示す。この一体型ロバーバル機構101は、秤量皿(図示せず)等と接続する部材を取り付ける荷重受容部101B、秤量装置本体に一体型ロバーバル機構101全体を固定する固定部101A、上部副桿部108A及び空間部SPを介してこの上部副桿部108Aに対向位置する下部副桿部(図では後述する梁状部103Aの影になり表示されていない)、当該空間部に対して固定部101A側から展出している梁状部103Aが一体的に形成されている。また上部副桿部108Aに対してはそれぞれ薄肉部101a、101bが形成され、かつ下部副桿部に対してもこれら薄肉部101a、101bと対向位置して形成されている。
【0009】
符号107は荷重伝達用の部材であるビームであって、一端は支点ばね取り付け部107aとなり、支点ばね108Aの一端が支点ばね取り付け部107aに接続し、かつ他端はビーム103A端部と接続し、ビーム107はこの支点ばね108Aを支点として揺動可能に構成される。また図示しない他のばね部材の一端がスベーサを介してビーム107側に取り付けられ、かつこのばね部材の他端は前記荷重受容部101B側に固定されている。一体型ロバーバル機構101は荷重受容部101B側に計測対象の荷重が付加されると、前記薄肉部を中心として変形し、その変形はこのばね部材を介してビーム107に伝達され、ビーム107は前記スペーサの幅と、支点ばね取り付け部から荷重計測機構の接続部との距離の比を梃子比として揺動し、伝達軸107bの端部が接続する荷重計測機構に計測対象の荷重を伝達するよう構成されている。
【0010】
上記のような構成を有する一体型ロバーバル機構に関して、特許文献1にはワイヤカット放電加工により、アルミニウム系合金の金属ブロックから当該一体型ロバーバル機構を製造方法する方法が紹介されている。ワイヤカット放電加工は微細な加工が行なえるため、高精度の一体型ロバーバル機構を製造することが可能であるが、加工に当たってはカット速度が毎分5mm程度と遅いため生産性が著しく低いこと、高価な放電加工装置を使用すること、加工作業自体に高度な精度が要求されること等により、製造された部品単価が非常に高価となり、最終製品としての電子秤の価格を大幅に押し上げることになってしまい、この製造方法も生産性、実用性に欠けるものである。
【0011】
また、金属ブロックを切削して一体型ロバーバル機構を形成する方法もあるが、切削作業に高度の熟練を必要とし、かつロバーバル機構の空間部を形成するための切削作業に手間がかかるため、やはり生産性は高いものではなかった。結局一体型ロバーバル機構は性能は良好でかつ安定しているものの、生産性の低さ等の理由により高価となり低価格機種への採用が進まない原因となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記一体型ロバーバル機構の製造方法に関するものであり、ロバーバル機構として構成される素材たる中間体の形状を工夫することにより、従来の製造方法では考慮されていなかった鍛造により一体型ロバーバル機構を形成することを可能にした、一体型ロバーバル機構の製造方法であることを特徴する。
【0013】
即ち本発明は一体型ロバーバル機構を鍛造によって形成する方法であって、より具体的には、鍛造方式としては型鍛造を用い、例えば上部副桿部と下部副桿部との間の空間に突出位置している梁状部において上部副桿部と梁状部とを連設する第1の接合部が形成され、かつ下部副桿部と梁状部とを連設する第2の接合部が形成された一体型ロバーバル機構の中間体を鍛造により構成し、型鍛造終了後にこの中間体の前記第1及び第2の接合部を除去して最終製品としての一体型ロバーバル機構を形成することを特徴とする一体型ロバーバル機構の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0014】
一体型ロバーバル機構の製造工程は型鍛造(冷間型鍛造、温間型鍛造或いは熱間型鍛造)により中間体を形成する工程と、この中間体から接合部を除去する工程のみであるため製造工程が簡略化され、かつ型鍛造自体は予め設定された温度とプレス圧力により自動的に実行されるが、製品の製造自体には特別な熟練は必要とせず、一体型ロバーバル機構を安価に大量生産することが可能となる。
【0015】
また、鍛造製品である一体型ロバーバル機構は鍛流線(実施例で説明する)が製品形状に沿って形成されること、及び金属組織が緻密となるため機構として変形応力に対する反応が均一であって、安価であるにも係わらずロバーバル機構としての性能を向上させることが可能となる。
【実施例1】
【0016】
まず、本実施例で示す「鍛造」とは冷間鍛造、温間鍛造或いは熱間鍛造の全てを含む語として使用する。
また、現時点において鍛造で生産される部品の形状は軸対象の形状のものが殆どであるが、ロバーバル機構の形状はこのような部品形状に比較して非常に異端であり、このような形状の部品を鍛造すること、特に中間体の形状を工夫することによりこのような異端な形状の部品を鍛造により製造することを可能にすることに本発明の特徴がある。
【0017】
図6は材料の各種成形方法による材料の構造を示している。(A)は型を用いた鍛造(例えば熱間型鍛造)による成形品を、(B)は鍛造したブロックから削り出しによる成形品を、(C)は鋳造により成形した成形品をそれぞれ示す。(A)の型鍛造の場合には製品輪郭に従う結晶組織の流れが形成され、それが材料内部の鍛流線を形成する。この鍛流線に沿う方向に沿って材料強度が保持される。つまり材料全体の強度が均質となるため、成形品各部の変形はその肉厚(材料の断面積)に正確に比例させることができる。本発明はこの型鍛造を用いる一体型ロバーバル機構の形成方法である。
【0018】
(B)は一定方向に均質に形成されている鍛流線が切削により切断されるため成形品全体としての均質性は前記(A)の鍛造の成形品に比較してやや劣るものとなる。また(C)の鋳造品は鍛流線が無く粗い構成となり、然も鍛練されていないため一体型ロバーバル機構を構成する素材としては不適格である。
なお、図6は平成11年中小企業事業団発行の「鍛造加工技術・技能マニュアル」に記載のものを用いた。
【0019】
以下本発明の実施例を図面を参考に具体的に説明する。
部1乃至図4は本発明方法に係る冷間型鍛造、温間型鍛造或いは熱間型鍛造により形成された一体型ロバーバル機構の中間体の構成を示す。
【0020】
矢印1Aは一体型ロバーバル機構の中間体を示す。
2は一体型ロバーバル機構機構中間体1Aの上部副桿部、3はこの上部副桿部に対向位置する下部副桿部、4は計測対象である秤量物の荷重を受容する浮枠部、5は一体型ロバーバル機構1(1A)全体を電子秤の所定の位置に固定する固定部である。
【0021】
6はこれら上下の副桿部2、3、浮枠部4、固定部5に囲まれて中間体1A内に形成された空間部である。7は固定部5からこの空間部6に向かって展出している梁状部であって、幅広の第1梁状部7Aに対して一体型ロバーバル機構本体1と同じ幅の上部第2梁状部7B、第1梁状部7Aの裏面に形成された下部第2梁状部7Cとから成っている。
【0022】
8Aは前記上部副桿部2と梁状部7との間に形成された第1接合部、8Bは下部副桿部3と梁状部7との間に形成された第2接合部である。これら第1、第2の接合部は図2乃至図3に示されるように、上下の副桿部2、3の一側に連設されるよう構成され(特に図3及び図4参照)、従って空間6はこれら接合部8A、8Bにより区切られることなく連続している。
【0023】
この接合部8A、8Bは最終形態の一体型ロバーバル機構には不要のものであり、より具体的にはロバーバル機構における四辺形の変形動作を阻害しロバーバル機構としての機能を発揮させないものである。このような接合部8A、8Bを中間体1Aに於いて形成しているのは以下の理由による。
【0024】
接合部8A、8Bは中間体1Aに形成配置されたものであって、鍛造による中間体1A成形後の形状を安定させる効果と、最終的にロバーバル機構とするときに必要となる上部及び下部副桿の薄肉部の形成において、加工振動を抑える支持部材として機能する。補強材としてこ中間体1Aに形成配置されたものである。
【0025】
この接合部8A、8Bを設けることにより前記に加え、中間体1Aを形成する鍛造時に発生する変形応力に耐え、かつこの中間体1Aとしての一体型ロバーバル機構が収縮する際には、中間体1Aの特定の部分に変形応力が集中するのを防止して全体を均一に変形収縮させることが可能となる。接合部8A、8Bはこのような目的で形成されるものであるため、強度的には前述のように上下の副桿部2、3の一側に連設される構成で充分である。但し、熱間型成形に用いる型の形成をより単純化させるために前記接合部8A、8Bを一体型ロバーバル機構1の幅と同じに形成して空間部6をこの接合部8A、8Bで二つの空間に仕切るよう構成することももとより可能である。
【0026】
なお、上記の接合部8A、8Bに代えて、梁状部7とこの梁状部7に対向する浮枠部4との間に別の接合部10を形成した中間体1Aを形成しても、ほぼ同様の結果を得ることが可能であることを確認した。因に接合部8A、8Bに加えて接合部10を形成する方法も可能であるが、接合部8A、8Bのみ、及び接合部10のみの形成で目的は充分達成可能であるため、敢えて両者を併存させる技術的な必要性はあまり高くない。
【0027】
次に中間体1Aの形成が終了したならば、この中間体1Aの一部を加工して最終製品である一体型ロバーバル機構1Bを形成する。以下主として図4及び図5を用いて一体型ロバーバル機構製造の最終工程を説明する。
【0028】
先ず、図4に示す中間体1Aにおける接合部8A、8Bを切除することにより図5に示す最終製品1Bの梁状部7は上下の副桿部2、3に対して独立して空間部6に展出した構成となる。また接合部10が形成されている場合には当然のことながらこの接合部10を切除する。
【0029】
次に、上部副桿部2に対しては切削加工により薄肉部2a、2bが、また下部副桿部3に対しては薄肉部3a、3bが形成され、最終製品である一体型ロバーバル機構1Bが形成される。なお接合部8A、8B或いは接合部10の除去及び薄肉部2a、2b、3a、3bの形成は通常の工作機械により容易に実施可能である。
【0030】
上記の方法では薄肉部2a、2b、3a、3bは型鍛造終了後に切削等の方法により形成しているが、鍛造型の形状はやや複雑になるものの、この薄肉部も予め型鍛造で形成することも可能である。この場合、型鍛造終了時の状態で一体型ロバーバル機構として充分な性能を発揮すればこれを最終製品とし、若し必要とあればこの薄肉部を微小に切削して微調整することにより最終製品とする。
【産業上の利用可能性】
【0031】
上記実施例では一体型ロバーバル機構の製造方法を例に説明したが、この構成とほぼ同様の構成のまま、上下の副桿部2、3に対してストレンゲージを設けてロードセル秤の起歪体として利用することも可能である。この場合にはストレンゲージの貼り付け面を平面とするため、各副桿部2、3の薄肉部形成用の凹所は空間6側に形成することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】一体型ロバーバル機構の中間体の側面図である。
【図2】図1のA−A線による断面図である。
【図3】(A)は図1のB−B線による断面図、(B)は図1のC−C線による断面図である。
【図4】一体型ロバーバル機構の中間体の斜視図であって、(A)は浮き枠部を手前にした斜視図、(B)は固定部を手前にした斜視図である。
【図5】最終製品の一体型ロバーバル機構の斜視図であって、(A)は浮き枠部を手前にした斜視図、(B)は固定部を手前にした斜視図である。
【図6】(A)乃至(C)は各種の方法により成形された製品の材料の構成状態を示す概念図であって、(A)は鍛造によるもの、(B)は切削によるもの、(C)は鋳造によるものをそれぞれ示す。
【図7】一体型ロバーバル機構の構成状態の一例を示す一体型ロバーバル機構の斜視図である。
【符号の説明】
【0033】
1A (一体型ロバーバル機構の)中間体
1B 最終製品としての一体型ロバーバル機構
2 上部副桿部
2a、2b (上部副桿部2の)薄肉部
3 下部副桿部
3a、3b (下部副桿部3の)薄肉部
4 浮枠部
5 固定部
6 空間部
7 梁状部
7A (梁状部7の)第1梁状部
7B (梁状部7の)上部第2梁状部
7C (梁状部7の)下部第2梁状部
8A、8B 接合部
10 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各部を一体的に形成した一体型ロバーバル機構の製造方法であって、上部副桿部、上部副桿部に対向位置する下部副桿部、秤量物の荷重を受容する浮枠部、この浮枠部に対向する固定部、これら上下の副桿部、浮枠部、固定部に囲まれた空間部を一体的に形成し、かつこの空間部内において固定部から浮枠部に向かって展出する梁状部を形成し、更にこの梁状部と上部副桿部との間、及び梁状部と下部副桿部との間にそれぞれ第1接合部と第2接合部を形成した形状の一体型ロバーバル機構の中間体を、鍛造により形成する第1の工程と、この中間体から第1接合部と第2接合部を除去して最終製品である一体型ロバーバル機構を形成する第2の工程とを有することを特徴とする鍛造による一体型ロバーバル機構の製造方法。
【請求項2】
各部を一体的に形成した一体型ロバーバル機構の製造方法であって、上部副桿部、上部副桿部に対向位置する下部副桿部、秤量物の荷重を受容する浮枠部、この浮枠部に対向する固定部、これら上下の副桿部、浮枠部、固定部に囲まれた空間部を一体的に形成し、かつこの空間部内において固定部から浮枠部に向かって展出する梁状部を形成し、更にこの梁状部と浮枠部との間に接合部を形成した形状の一体型ロバーバル機構の中間体を、鍛造により形成する第1の工程と、この中間体から当該接合部を除去して最終製品である一体型ロバーバル機構を形成する第2の工程とを有することを特徴とする鍛造による一体型ロバーバル機構の製造方法。
【請求項3】
前記第1接合部と第2接合部のうち少なくとも一つは上下の副桿部の幅方向の一側に形成されていることを特徴とする請求項1記載の鍛造による一体型ロバーバル機構の製造方法。
【請求項4】
前記鍛造は型を用いた冷間型鍛造又は温間型鍛造或いは熱間型鍛造であることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の鍛造による一体型ロバーバル機構の製造方法。
【請求項5】
ロバーバル機構の変形を行なう薄肉部を中間体に対して予め形成しておくことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の鍛造による一体型ロバーバル機構の製造方法。
【請求項6】
中間体形成後にロバーバル機構の変形を行なう薄肉部を形成することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の鍛造による一体型ロバーバル機構の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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