鍵盤楽器
【課題】演奏者による押鍵操作によって振動体を振動させて発音する鍵盤楽器において、同一の鍵を繰り返し押鍵したときのノイズの発生を抑制した鍵盤楽器を提供する。
【解決手段】1つの鍵11に対して、鍵11の鍵音高に対応した周波数で振動する2つの振動板12a,12bを設ける。振動板12a,12bは、共鳴体28に片持ち梁状に組み付けられる。鍵11の後方に、1回の押離鍵操作により90度回転する回転式弾き部27を設ける。回転式弾き部27の外周に、それぞれ振動板12a,12bを弾くための弾き爪27a2,27d2を設ける。弾き爪27a2と弾き爪27d2とは周方向に90度ずれている。弾き爪27a2,27d2は、押鍵操作ごとに交互に振動板12a,12bを弾く。
【解決手段】1つの鍵11に対して、鍵11の鍵音高に対応した周波数で振動する2つの振動板12a,12bを設ける。振動板12a,12bは、共鳴体28に片持ち梁状に組み付けられる。鍵11の後方に、1回の押離鍵操作により90度回転する回転式弾き部27を設ける。回転式弾き部27の外周に、それぞれ振動板12a,12bを弾くための弾き爪27a2,27d2を設ける。弾き爪27a2と弾き爪27d2とは周方向に90度ずれている。弾き爪27a2,27d2は、押鍵操作ごとに交互に振動板12a,12bを弾く。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押鍵によって片持ち振動板を振動させて演奏する鍵盤楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば下記特許文献1に示されているように、演奏者による鍵の押鍵操作により、振動体である片持ち振動板を弾いて発音する鍵盤楽器は知られている。この鍵盤楽器においては、鍵の鍵音高に対応した周波数で振動する片持ち振動板が各鍵ごとに1つずつ設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−206028号公報
【発明の概要】
【0004】
上記従来の鍵盤楽器においては、同一の鍵が繰り返し押鍵されると、押鍵操作により弾かれた片持ち振動板の振動が十分に減衰しないうちに、再びその片持ち振動板が弾かれることがある。このとき、片持ち振動板を弾くための弾き部材が振動中の片持ち振動板に接触してノイズが発生するという問題があった。とくに、低音部においては、片持ち振動板の振動の減衰時間が長い。そのため、低音部の同一の鍵を繰り返し押鍵したとき、その繰返し速度が速いとノイズが発生し易かった。
【0005】
本発明は上記問題に対処するためになされたもので、その目的は、演奏者による押鍵操作によって振動体を振動させて発音する鍵盤楽器において、同一の鍵を繰り返し押鍵したときのノイズの発生を抑制した鍵盤楽器を提供することにある。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、押鍵操作される複数の鍵(11)と、複数の鍵にそれぞれ対応して設けられ、各鍵の音高に対応した周波数で振動して発音する振動体(12a,12b,12c)をそれぞれ有する複数の振動部(12)と、複数の鍵にそれぞれ対応して設けられ、各鍵の押鍵操作に連動して、各振動部の振動体をそれぞれ励振する複数の励振部(21,27,30,32,36,41)とを備えた鍵盤楽器において、複数の振動部のうちの少なくとも一部の振動部に、同一の周波数でそれぞれ振動する複数の振動体(12a,12b,12c)を設け、かつ前記少なくとも一部の振動部に対応した一部の励振部(21,27,36,41)は、前記同一の周波数でそれぞれ振動する複数の振動体のうちで、前回の押鍵操作に連動して励振した振動体とは異なる振動体を励振するようにしたことにある。
【0007】
上記のように構成した本発明の特徴によれば、複数の振動部のうちの少なくとも一部の振動部に、同一の周波数でそれぞれ振動する複数の振動体を設け、励振部は、前記同一の周波数でそれぞれ振動する複数の振動体のうちで、前回の押鍵操作に連動して励振した振動体とは異なる振動体を励振する。したがって、同一の周波数でそれぞれ振動する複数の振動体に関しては、同一の鍵が繰り返し押鍵されても、連続して励振されることがなくなる。その結果、振動体の振動による音の減衰時間の長いことに起因したノイズの発生が問題となる場合でも、振動が十分に減衰した後に、振動体が励振されるようすることができ、同一の鍵の繰り返し押鍵によるノイズの発生の問題を解消できる。
【0008】
また、本発明の他の特徴は、振動体(12a,12b,12c)を片持ち振動板で構成し、励振部(21,27,30,32,36,41)は、片持ち振動板を弾く弾き部材(27a,27d,32b,41a,41c,41e)を有し、かつ前記少なくとも一部の振動部に対応した一部の励振部(21,27,36,41)は、前記同一の周波数でそれぞれ振動する複数の片持ち振動板をそれぞれ弾く複数の弾き部材(27a,27d,41a,41c,41e)を有することにある。
【0009】
弾き部材が片持ち振動板を弾くと、弾き部材も振動することがある。しかし、前記本発明の他の特徴によれば、前記少なくとも一部の振動部に対応した一部の励振部に関しては、前回の押鍵操作において片持ち振動板を弾いた弾き部材とは異なる弾き部材が、前回の押鍵操作において弾いた片持ち振動板とは異なる片持ち振動板を弾くことになる。すなわち、十分に振動が減衰した弾き部材で、十分に振動が減衰した片持ち振動板を弾くことができるので、上述したノイズの発生をより効果的に抑制することができる。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、各弾き部材(27a,27d,32b,41a,41c,41e)は、回転可能に支持された本体(27a1,27d1,32b1,41a1,41c1,41e1)及び本体に設けられて片持ち振動板を弾くための1つ又は複数の弾き爪(27a2,27d2,32b2,41a2,41c2,41e2)からなり、励振部(21,27,30,32,36,41)は、鍵の押鍵操作時に弾き部材を所定方向へ所定角度回転させ、鍵の離鍵操作時に弾き部材を前記所定方向と同じ方向へ所定角度回転させるアーム(21,30,36)を有することにある。
【0011】
前記本発明の他の特徴によれば、弾き部材は、鍵の押鍵操作時に所定方向へ所定角度回転し、鍵の離鍵操作時に前記所定方向と同じ方向へ所定角度回転する。したがって、弾き部材は、離鍵操作により、片持ち振動板を弾いた弾き爪を片持ち振動板から遠ざけるように回転するので、離鍵操作時に弾き爪が片持ち振動板に接触しない。これにより、離鍵操作時に片持ち振動板の振動を抑制して音を減衰させることが無く、ノイズを発生させることも無い。なお、この場合、弾き部材として、同一形状の部品(例えば、外周に突起状の爪を有する円板状の部品)を複数個用意しておき、これらの部品を、それぞれの弾き爪が周方向にずれるようにして軸に連結するとよい。これによれば、部品の種類を削減できる。
【0012】
また、本発明の他の特徴は、前記少なくとも一部の振動部に対応した一部の励振部(21,27,36,41)における複数の弾き部材(27a,27d,41a,41c,41e)は、共通の回転軸(27e,41f)に連結されており、前記少なくとも一部の振動部に対応した一部の励振部は、押鍵操作に連動して、複数の弾き部材に挟まれる位置にて共通の回転軸を回転駆動するようにしたことにある。
【0013】
弾き爪が片持ち振動板に当接して片持ち振動板を変形させているときには、回転軸に付与される回転力と、弾き爪に付与される力に起因して、回転軸が若干捩れて変形する。この捩れ変形量は、回転力の付与される回転軸の位置と弾き爪との距離が大きいほど大きくなる。しかし、前記本発明の他の特徴によれば、押鍵操作に連動して、回転軸は、複数の弾き部材に挟まれる位置にて回転駆動される。したがって、2つの弾き部材のうちの1つの弾き部材に対して他の弾き部材とは反対側位置にて回転軸を駆動する場合に比べて、回転軸の駆動位置と各弾き部材すなわち弾き爪との回転軸方向の距離の差を小さくすることができる。その結果、回転軸の捩れ変形による、押鍵操作ごとの発音時の押鍵深さ(離鍵状態からの鍵の変位)の差を小さくすることができる。
【0014】
また、本発明の他の特徴は、前記少なくとも一部の振動部は、低音部の鍵に対応した振動部であることにある。
【0015】
中音部及び高音部については、片持ち振動板の振動の減衰時間が低音部に比べて短いので、中音部及び高音部の鍵を繰り返し押鍵しても、ノイズが全く発生しないか、ノイズが発生したとしても小さく演奏上問題とならない。したがって、低音部についてのみ、各鍵ごとに複数の片持ち振動板を設け、中音部及び高音部については、上記従来の鍵盤楽器と同様に、各鍵ごとに1つの片持ち振動板を設けるようにすれば、演奏上問題となるノイズを抑制しつつ、鍵盤楽器を軽量化できるとともに、鍵盤楽器の製造コストを低減できる。
【0016】
なお、前記括弧内の符号は、本発明の理解を容易にするために、後述する実施形態との対応関係を示すものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1及び第2実施形態に係る鍵盤楽器の外観を示す平面図である。
【図2A】本発明の第1実施形態に係り、低音部の振動板及び共鳴体の構成を示す平面図である。
【図2B】本発明の第1及び第2実施形態に係り、中音部及び高音部の振動板及び共鳴体の構成を示す平面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器を縦断して、低音部の1つの鍵について示す右側面である。
【図4】図3のアームの右側面図である。
【図5】図3のアームの平面図である。
【図6A】図3の鍵盤楽器の後部を拡大して示す右側面図である。
【図6B】図3の鍵盤楽器の後部を拡大して示す平面図である。
【図7A】図3の回転式弾き部の正面図である。
【図7B】図3の回転式弾き部の右側面図である。
【図7C】図3の回転式弾き部の左側面図である。
【図8A】図3の回転式弾き部の第1及び第4円板の正面図である。
【図8B】図3の回転式弾き部の第1及び第4円板の右側面図である。
【図9】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器を縦断して、中音部又は高音部の1つの鍵について示す右側面である。
【図10】図9のアームの平面図である。
【図11A】図9の鍵盤楽器の後部を拡大して示す右側面図である。
【図11B】図9の鍵盤楽器の後部を拡大して示す平面図である。
【図12A】図9の回転式弾き部の正面図である。
【図12B】図9の回転式弾き部の右側面図である。
【図12C】図9の回転式弾き部の左側面図である。
【図13A】図9の回転式弾き部の第2円板の正面図である。
【図13B】図9の回転式弾き部の第2円板の右側面図である。
【図14A】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器の離鍵状態における第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す右側面図である。
【図14B】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器の離鍵状態における第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す左側面図である。
【図15A】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器の押鍵途中の第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す右側面図である。
【図15B】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器の押鍵途中の第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す左側面図である。
【図16A】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器の押鍵終了時の第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す右側面図である。
【図16B】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器の押鍵終了時の第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す左側面図である。
【図17A】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器の離鍵途中の第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す右側面図である。
【図17B】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器の離鍵途中の第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す左側面図である。
【図18】本発明の第2実施形態に係り、低音部の振動板及び共鳴体の構成を示す平面図である。
【図19】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器を縦断して、低音部の1つの鍵について示す右側面である。
【図20A】図19のアームの右側面図である。
【図20B】図19のアームの平面図である。
【図21A】図19の鍵盤楽器の後部を拡大して示す右側面図である。
【図21B】図19の鍵盤楽器の後部を拡大して示す平面図である。
【図22A】図19の回転式弾き部の正面図である。
【図22B】図19の回転式弾き部の右側面図である。
【図22C】図19の回転式弾き部の左側面図である。
【図23A】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の離鍵状態における第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す右側面図である。
【図23B】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の離鍵状態における第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す左側面図である。
【図24A】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の押鍵途中の第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す右側面図である。
【図24B】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の押鍵途中の第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す左側面図である。
【図25A】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の押鍵終了時の第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す右側面図である。
【図25B】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の押鍵終了時の第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す左側面図である。
【図26A】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の離鍵途中の第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す右側面図である。
【図26B】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の離鍵途中の第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
a.第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態についての全体概略を説明する。鍵盤楽器10は、演奏者によって押離鍵操作される複数の鍵11を有する。また、鍵盤楽器10は、鍵11ごとに、振動して発音する振動部12を有するが、鍵域によって振動部12の構成が異なる。すなわち、低音部(例えば、最低音を含む1オクターブ)については、図2Aに示すように、振動部12は、鍵音高に対応した同一の周波数で振動して同一音高の音をそれぞれ発する2枚の振動板12a,12bからなり、押鍵操作ごとに振動板12a,12bが交互に弾かれて発音する。一方、中音部及び高音部(すなわち、低音部以外の鍵域)については、図2Bに示すように、振動部12は、鍵音高に対応した周波数で振動して音を発する1枚の振動板12aからなり、押鍵操作ごとに振動板12aが弾かれて発音する。これらの振動板12a,12bが、本発明の振動体を構成する。
【0019】
次に、鍵盤楽器10の低音部の構成について説明する。図3に示すように、低音部の鍵11は合成樹脂によって長尺状に形成されている。そして、鍵11は、フレームFRに設けられた鍵支持部13により支持されており、中間部の回転中心14を中心として、前端部が上下方向に揺動可能となっている。なお、フレームFRとは、この鍵盤楽器の種々の部品を支持するための構造体及びこの鍵盤楽器のハウジング自体を意味する。鍵11の前部下方には、ばね16が設けられている。ばね16の下端はフレームFRに固定され、その上端は、鍵11の前部下面に当接している。ばね16は、鍵11の前部を上方へ付勢する。また、鍵11の前部下方には、ゴム、フェルトなどの衝撃吸収材によって構成された長尺状の下限ストッパ17が横方向(鍵11の並び方向)に延設されてフレームFRに固定されている。この下限ストッパ17は、鍵11の前部の下方への変位を規制する。また、鍵11の後部下方には、下限ストッパ17と同様の上限ストッパ18が横方向に延設されてフレームFRに固定されている。この上限ストッパ18は鍵11の前部の上方への変位を規制する。
【0020】
鍵11の後部上面には、下部が円柱状に形成され、上部が半球状に形成された突起状のキャプスタン19が組み付けられている。キャプスタン19の上端には、アーム21の前端部の下面が当接している。アーム21は、図4及び図5に示すように、基部22、第1駆動部23及び第2駆動部24から構成される。基部22は、合成樹脂製で、下面の中間部から前方の部分が僅かに下方へ湾曲している。一方、基部22の上面は、中間部から前方へ向かうに従って低くなる急傾斜の斜面を形成している。また、基部22の後部の両側面から横方向へ円柱状の回転軸22aが延設されている。
【0021】
第1駆動部23及び第2駆動部24は金属製で円弧状に屈曲した屈曲部を有するように成形された板状部材である。各屈曲部の先端面は平面になっている。第1駆動部23は基部22の後端部の高音部側(演奏者から見て右側)の面上に、その屈曲部が上方から下方に向かうように組み付けられる。第2駆動部24は、基部22の低音部側(演奏者から見て左側)の面上に、その屈曲部が下方から上方へ向かうように組み付けられる。第1駆動部23及び第2駆動部24は、それぞれ屈曲部が基部22の後端から後方へ張出しており、横方向に若干ずれて位置している。
【0022】
アーム21は、図6A及び図6Bに示すように、フレームFRに固定されたアーム支持部材25に設けられた貫通孔25aに回転軸22aを回転可能に貫通させることにより、アーム支持部材25に回転可能に支持されている。基部22の下方には、ゴム、フェルトなどの衝撃吸収材によって構成された長尺状のアームストッパ26が横方向に延設されて、フレームFRに固定されている。離鍵状態においては、アーム21は、基部22の自重により図6Aにて反時計回りに回転し、アームストッパ26に当接して静止している。アーム21の後方には、回転式弾き部27が、アーム支持部材25に回転可能に支持されている。
【0023】
回転式弾き部27は、金属製で、図7A乃至図7Cに示すように、第1乃至第4円板27a,27b,27c,27d及び回転軸27eを有する。第1乃至第4円板27a,27b,27c,27dは、高音部側から低音部側へ向かってこの順に等間隔に配置されるように、それぞれの内周端が回転軸27eの外周面に固定されている。回転式弾き部27は、アーム支持部材25に設けられた貫通孔25bに回転軸27eを回転可能に貫通させることにより、アーム支持部材25に回転可能に支持されている。なお、図7Aは回転式弾き部27の正面図である。また、図7Bは回転式弾き部27の右側面図であり、図7Cは回転式弾き部27の左側面図である。各円板の構成を明瞭に示すために、図7Bにおいては第3円板27cを省略し、図7Cにおいては第2円板27bを省略している。
【0024】
第1円板27aは、図8A及び図8Bに示すように、円板状の本体27a1及び2つの弾き爪27a2,27a2から構成される。弾き爪27a2,27a2は、突起状であり、本体27a1の外周に周方向に180度ずらして等間隔に設けられている。また、第4円板27dの構成は、第1円板27aと同一である。すなわち、第4円板27dは、円板状の本体27d1及び2つの弾き爪27d2,27d2から構成される。第1円板27a及び第4円板27dは、弾き爪27a2,27d2の位置が周方向に90度ずれた状態で回転軸27eに固定されている。弾き爪27a2,27d2は、回転式弾き部27の回転により、それぞれ振動板12a,12bを弾く。弾き爪27a2,27d2の振動板12a,12bと当接する面は円弧状の曲面となっている。これらの第1及び第4円板27a,27dは、本発明の弾き部材を構成する。
【0025】
第2円板27bは、円板状の本体27b1及び4つの第1被駆動爪27b2から構成される。第1被駆動爪27b2は本体27b1の外周に周方向に90度ずつずらして等間隔に設けられている。第1被駆動爪27b2は、突起状で、アーム21の第1駆動部23の先端面と当接する平面部と、第1駆動部23の屈曲部と当接する円弧状の曲面部とを有する。また、第3円板27cも、第2円板27bと同様に、円板状の本体27c1及び4つの第2被駆動爪27c2から構成される。第2被駆動爪27c2も、突起状で、アーム21の第2駆動部24の先端面と当接する平面部と、第2駆動部24の屈曲部と当接する円弧状の曲面部とを有する。ただし、第2円板27b及び第3円板27cは、各被駆動爪27b2,27c2の周方向の位置が45度ずれた状態で回転軸27eに固定されている。また、第1円板27aの弾き爪27a2と第4円板27dの弾き爪27d2とを合計した弾き爪27a2,27d2の総数は、第2円板27bの第1被駆動爪27b2の総数に等しいとともに、第3円板27cの第2被駆動爪27c2の総数にも等しい。そして、第1円板27a及び第4円板27dと、第2円板27bとは、弾き爪27a2,27d2と第1被駆動爪27b2の周方向の位置が45度ずれた状態で回転軸27eに固定されている。第1円板27a及び第4円板27dと、第3円板27cとは、弾き爪27a2,27d2と第2被駆動爪27c2の周方向の位置が一致した状態で回転軸27eに固定されている。このように構成したアーム21及び回転式弾き部27が、本発明の励振部を構成する。
【0026】
回転式弾き部27の後方には、2つの振動板12a,12bが設けられている。振動板12a,12bは金属などの板状弾性部材で長尺状に形成される。振動板12a,12bの一端は、図2Aに示すように、鍵盤楽器10の後部にて横方向に延設された平板状の共鳴体28の上面に固定される。そして、その他端は共鳴体28から前方へ張り出している。すなわち、振動板12a,12bは片持ち梁状に支持されており、横方向に等間隔に並設されている。振動板12a,12bの固有振動周波数は、鍵11の音高に対応した周波数と同一である。したがって、振動板12a,12bの幅、厚み及び長さは同一である。共鳴体28は支持部材29を介してフレームFRに固定される。なお、この鍵盤楽器10を構成するすべての振動板12に対して1つの共鳴体28を設けてもよいし、所定の音域(例えば1オクターブ)ごと又は鍵11ごとに共鳴体28を設けてもよい。
【0027】
次に、中音部及び高音部の構成について説明する。この場合も、図9に示すように、鍵11は上記低音部と同様に支持され、下限ストッパ17及び上限ストッパ18によって鍵11の揺動範囲が規定されている。また、鍵11の後部上面にはキャプスタン19が組み付けられ、キャプスタン19の上端には、アーム30の前端部の下面が当接している。アーム30は、アーム21とほぼ同様の構成である。すなわち、アーム30は、図10に示すように、基部31、第1駆動部23及び第2駆動部24からなり、基部31は、基部22の回転軸22aと同様の回転軸31aを有する。また、第1駆動部23と第2駆動部24の横方向の間隔がアーム21に比べて大きくなるように、基部31の前端部が基部22よりも厚くなっている。そして、図11A及び図11Bに示すように、アーム30は、アーム支持部材25に設けられた貫通孔25aに回転軸31aを回転可能に貫通させることにより、アーム支持部材25に回転可能に支持されている。アーム30の後方には、回転式弾き部32が、アーム支持部材25に回転可能に支持されている。
【0028】
回転式弾き部32は、金属製で、図12A乃至図12Cに示すように、第1乃至第3円板32a,32b,32c及び回転軸32dを有する。第1乃至第3円板32a,32b,32cは、高音部側から低音部側へ向かってこの順に等間隔に配置されるように、それぞれの内周端が回転軸32dに固定されている。回転式弾き部32は、アーム支持部材25に設けられた貫通孔25bに回転軸32dを回転可能に貫通させることにより、アーム支持部材25に回転可能に支持されている。なお、図12Aは回転式弾き部32の正面図である。また、図12Bは回転式弾き部32の右側面図であり、図12Cは回転式弾き部32の左側面図である。各円板の構成を明瞭に示すために、図12Bにおいては第3円板32cを省略し、図12Cにおいては第1円板32aを省略している。
【0029】
第1円板32aは、円板状の本体32a1及び4つの第1被駆動爪32a2から構成される。第1被駆動爪32a2は本体32a1の外周に周方向に90度ずつずらして等間隔に設けられている。第1被駆動爪32a2は、突起状で、アーム30の第1駆動部23の先端面と当接する平面部と、第1駆動部23の屈曲部と当接する円弧状の曲面部とを有する。また、第3円板32cも、第1円板32aと同様に、円板状の32c1及び4つの第2被駆動爪32c2から構成される。第2被駆動爪32c2も、突起状で、アーム30の第2駆動部24の先端面と当接する平面部と、第2駆動部24の屈曲部と当接する円弧状の曲面部とを有する。ただし、第1円板32a及び第3円板32cは、各被駆動爪32a2,32c2の位置が周方向に45度ずれた状態で回転軸32dに固定されている。
【0030】
また、第2円板32bは、図13A及び図13Bに示すように、円板状の本体32b1及び4つの弾き爪32b2から構成される。弾き爪32b2は、本体32b1の外周に周方向に90度ずつずらして等間隔に設けられている。弾き爪32b2は、突起状であり、回転式弾き部32の回転により、振動板12aを弾く。弾き爪32b2の振動板12aと当接する面は円弧状の曲面となっている。この第2円板32bが、本発明の弾き部材を構成する。なお、第2円板32bの弾き爪32b2の総数は、第1円板32aの第1被駆動爪32a2の総数に等しいとともに、第3円板32cの第2被駆動爪32c2の総数にも等しい。そして、第1円板32a及び第2円板32bは、第1被駆動爪32a2と弾き爪32b2の周方向の位置が45度ずれた状態で回転軸32dに固定されている。第2円板32b及び第3円板32cは、弾き爪32b2と第2被駆動爪32c2の周方向の位置が一致した状態で回転軸32dに固定されている。回転式弾き部32の後方には、図2Bに示すように、振動板12aが低音部と同様に設けられている。
【0031】
次に、上記のように構成した鍵盤楽器10の低音部の鍵11を押離鍵操作したときの動作について説明する。図14A乃至図17Aは、回転式弾き部27の周辺を拡大して高音部側から見た図であり、図14B乃至図17Bは、回転式弾き部27の周辺を拡大して、低音部側から見た図である。また、第1駆動部23と第1被駆動爪27b2との位置関係、及び第2駆動部24と第2被駆動爪27c2との位置関係を明瞭に示すため、図14A乃至図17Aにおいては、第3円板27cを省略し、図14B乃至図17Bにおいては、第2円板27bを省略している。
【0032】
離鍵状態においては、ばね16によって、鍵11の前部が上方へ付勢されて、図3において時計回りに回転し、鍵11の後部下面が上限ストッパ18に当接して、図3の状態となっている。このとき、アーム21の第1駆動部23は、図14Aに示すように、回転式弾き部27の第1被駆動爪27b2から離れている。一方、図14Bに示すように、アーム21の第2駆動部24の先端面は、回転式弾き部27の第2被駆動爪27c2の平面部に当接している。さらに、第2駆動部24と第2被駆動爪27c2の円弧状の曲面同士が当接している。したがって、この状態では、回転式弾き部27は第2駆動部24によって固定された状態になり、回転不可能となっている。
【0033】
一方、ばね16の付勢力に対抗して鍵11を押すと、鍵11は回転中心14を中心として、図3にて反時計回りに回転し始める。すると、鍵11の後部が上方に変位し、キャプスタン19に当接しているアーム21の前部を上方へ変位させる。これにより、アーム21は回転軸22a回りに、図3にて時計回りに回転する。さらに深く押鍵されると、図15Aに示すように、第1駆動部23の先端面が第1被駆動爪27b2の平面部に当接して、回転式弾き部27を図15Aにて時計回りに回転させようとする。このとき、図15Bに示すように第2被駆動爪27c2は、第2駆動部24から解放されているので、回転式弾き部27は回転可能となっている。したがって、回転式弾き部27が回転し、弾き爪27a2,27d2がそれぞれ振動板12a,12bに近づいていく。そして、弾き爪27a2は振動板12aの自由端に当接して、振動板12aの自由端側を下方へ押し曲げる。このとき、弾き爪27d2は、弾き爪27a2に対して周方向に90度ずれているので、振動板12bから離れている。
【0034】
回転式弾き部27がさらに回転すると、図16A及び図16Bに示すように、弾き爪27a2は振動板12aを乗り越える。すなわち、弾き爪27a2が振動板12aを弾く。そして、振動板12aが振動し、その振動が共鳴体28により増幅され、鍵音高に対応する楽器音が発音される。そして、鍵11の前部下面が下限ストッパ17に当接すると、鍵11の揺動は停止し、回転式弾き部27の回転も停止する。この状態では、図16Bに示すように、アーム21の第2駆動部24は、回転式弾き部27の第2被駆動爪27c2から離れている。一方、図16Aに示すように、アーム21の第1駆動部23及び回転式弾き部27の第1被駆動爪27b2の円弧状の曲面同士が当接するので、回転式弾き部27は回転不可能になっている。
【0035】
離鍵時には、ばね16の付勢力によって鍵11の前部が上方へ押し上げられる。これにより、鍵11は回転中心14を中心として、図3において時計回りに回転し始める。鍵11の後端部は下方へ変位し、アーム21は自重により回転軸22a回りに、図3にて反時計回りに回転する。すると、図17Bに示すように、第2駆動部24の先端面が第2被駆動爪27c2の平面部に当接して、回転式弾き部27を押鍵時と同じ方向(図17Aにて時計回り、すなわち図17Bにおいて反時計回り)へ回転させようとする。このとき、図17Aに示すように、第1被駆動爪27b2は第1駆動部23から解放されているので、回転式弾き部27は回転可能となっている。したがって、回転式弾き部27の回転により、押鍵によって振動板12aを弾いた弾き爪27a2が、振動板12aから遠ざかる。鍵11の後部下面が上限ストッパ18に当接すると、鍵11の前部の上方への変位が規制され、鍵11は元の位置(図3)へ復帰する。
【0036】
回転式弾き部27は、上記1回の押離鍵操作において、90度回転している。そして、次の押離鍵操作(2回目の押離鍵操作)においても、上記と同様に、第1駆動部23及び第2駆動部24がそれぞれ第1被駆動爪27b2及び第2被駆動爪27c2に係合して、回転式弾き部27が90度回転する。ただし、この2回目の押離鍵操作においては、弾き爪27a2は振動板12aを弾かず、弾き爪27d2が振動板12bを弾いて発音する。そして、2回目の離鍵操作の後、回転式弾き部材27が元の状態(図3)に復帰する。
【0037】
次に、上記のように構成した鍵盤楽器10の中音部及び高音部の鍵11を押離鍵操作したときの動作について説明する。この動作は、上記低音部の動作とほぼ同様である。図9の状態から、鍵11を押鍵すると、第1駆動部23が、第1被駆動爪32a2に係合して回転式弾き部32を図9において時計回りに回転させ、弾き爪32b2が振動板12を弾く。そして、鍵11を離鍵すると、第2駆動部24が第2被駆動爪32c2に係合して、回転式弾き部32をさらに回転させた後、回転式弾き部32が元の状態(図9)に復帰する。すなわち、1回の押離鍵操作により、回転式弾き部32が90度回転する。弾き爪32b2は、第2円板32bの周方向に90度ずつずれて設けられているので、振動板12aは押鍵操作ごとに弾かれる。
【0038】
上記のように構成した鍵盤楽器10においては、低音部の振動板12a,12bが押鍵操作ごとに交互に弾かれる。そのため、同一の鍵11を繰り返し押離鍵しても、振動板12a(又は振動板12b)が弾かれてから、再びその振動板12a(又は振動板12b)が弾かれるまでに振動が減衰する。さらに、振動板12a,12bにそれぞれ対応させて弾き爪27a2,27d2を設けた。そのため、振動板12a,12bを弾いたときに弾き爪27a2,27d2に発生する振動も、再び振動板12a,12bを弾くときまでに減衰する。したがって、低音部の同一の鍵11を繰り返し押離鍵したときのノイズの発生を抑制することができる。
【0039】
また、低音部の振動板の振動に比べて、中音部及び高音部の振動板の振動の減衰時間は短かく、同一の鍵11を連続して繰り返し押離鍵しても演奏上問題となるノイズが発生し難い。そのため、中音部及び高音部においては、振動板12aが押鍵操作ごとに弾かれて発音するようにした。これにより、中音部及び高音部の構成を低音部よりも簡単にすることができ、鍵盤楽器10を軽量化できるとともに、鍵盤楽器10の製造コストを低減することができる。
【0040】
また、鍵11の押鍵操作時におけるアーム21の第1駆動部23による第2円板27bの回転駆動、及び鍵11の離鍵操作時におけるアーム21の第2駆動部24による第3円板27cの回転駆動により、弾き部材としての第1及び第4円板27a,27dは、押鍵操作時に所定方向へ所定角度回転し、離鍵操作時に前記所定方向と同じ方向へ前記所定角度だけ回転する。したがって、第1及び第4円板27a,27dは、離鍵操作により、振動板12a,12bを弾いた弾き爪27a2,27d2を振動板12a,12bから遠ざけるように回転するので、離鍵操作時に弾き爪27a2,27d2が振動板12a,12bに接触しない。これにより、離鍵操作時に振動板12a,12bの振動を抑制して音を減衰させることが無く、ノイズを発生させることも無い。
【0041】
また、第2円板27bを第1円板27aと第4円板27dとの間に設けた。そのため、第1被駆動爪27b2と弾き爪27a2との回転軸方向の距離と、第1被駆動爪27b2と弾き爪27d2との回転軸方向の距離の差が小さくなる。したがって、弾き爪27a2が振動板12aを下方へ押し曲げているときに回転軸27eが捩れることによる、第1被駆動爪27b2と弾き爪27a2の周方向のずれ量と、弾き爪27d2が振動板12bを下方へ押し曲げているときに回転軸27eが捩れることによる、第1被駆動爪27b2と弾き爪27d2の周方向のずれ量との差が小さくなる。すなわち、弾き爪27a2が振動板12aを弾くときの押鍵深さと、弾き爪27d2が振動板12bを弾くときの押鍵深さとの差を小さくすることができるので、本実施形態に係る鍵盤楽器が演奏し易くなる。なお、第2円板27bを第1円板27aと第4円板27dの中央に位置させれば、弾き爪27a2が振動板12aを弾くときの押鍵深さと、弾き爪27d2が振動板12bを弾くときの押鍵深さを完全一致させることができて、本実施形態に係る鍵盤楽器がより演奏し易くなる。
【0042】
b.第2実施形態
以下、本発明の第2実施形態についての全体概略を説明する。鍵盤楽器10Aは、鍵盤楽器10と同様に複数の鍵11及び複数の振動部12を有する。しかし、この鍵盤楽器10Aにおいては、図18に示すように、低音部の各振動部12は、鍵音高に対応した同一の周波数で振動して同一音高の音をぞれぞれ発する3枚の振動板12a,12b,12cからなり、振動板12a,12b,12cのうちの1つの振動板が、この順に押鍵操作ごとに弾かれて発音する。一方、中音部及び高音部の構成は、鍵盤楽器10と同様である。
【0043】
次に、鍵盤楽器10Aの低音部の構成について説明する。図19に示すように、鍵11は、鍵盤楽器10と同様に支持され、下限ストッパ17及び上限ストッパ18によって揺動範囲が規定される。鍵11の後部上面には、キャプスタン19が組み付けられていて、アーム36の前端部の下面が当接している。アーム36は、アーム30とほぼ同様の構成である。すなわち、アーム36は、図20A及び図20Bに示すように、基部37、第1駆動部38及び第2駆動部39から構成される。基部37は、基部31と同様に構成され、回転軸31aと同様の回転軸37aを有する。第1駆動部38及び第2駆動部39は、アーム30の第1駆動部23及び第2駆動部24よりも、先端部が細長くなっている。
【0044】
アーム36は、図21A及び図21Bに示すように、フレームFRに固定されたアーム支持部材25に設けられた貫通孔25aに回転軸37aを貫通させることにより、アーム支持部材25に回転可能に支持されている。アーム36の後方には、回転式弾き部41が、アーム支持部材25に回転可能に支持されている。
【0045】
回転式弾き部41は、金属製で、図22A乃至図22Cに示すように、第1乃至第5円板41a,41b,41c,41d,41e及び回転軸41fを有する。第1乃至第5円板41a,41b,41c,41d,41eは、高音部側から低音部側へ向かってこの順に等間隔に配置されるように、それぞれの内周端が回転軸41fに固定されている。回転式弾き部41は、アーム支持部材25に設けられた貫通孔25bに回転軸41fを回転可能に貫通させることにより、アーム支持部材25に回転可能に支持されている。なお、図22Aは回転式弾き部41の正面図である。また、図22Bは回転式弾き部41の右側面図であり、図22Cは回転式弾き部41の左側面図である。各円板の構成を明瞭に示すために、図22Bにおいては第4円板41dを省略し、図22Cにおいては第2円板41bを省略している。
【0046】
第1円板41aは、第1円板27aと同様に、円板状の本体41a1及び2つの弾き爪41a2,41a2から構成される。弾き爪41a2,41a2は、突起状であり、本体41a1の外周に周方向に180度ずらして等間隔に設けられている。また、第3円板41c及び第5円板41eの構成は、第1円板41aと同一である。すなわち、第3円板41cは、円板状の本体41c1及び2つの弾き爪41c2,41c2から構成され、第5円板41eは、円板状の本体41e1及び2つの弾き爪41e2,41e2から構成される。第1円板41a、第3円板41c及び第5円板41eは、弾き爪41a2,41c2,41e2の位置が周方向に互いに60度ずつずれた状態で回転軸41fに固定されている。弾き爪41a2,41c2,41e2は、回転式弾き部41の回転により、それぞれ振動板12a,12b,12cを弾く。弾き爪41a2,41c2,41e2の振動板12a,12b,12cと当接する面は円弧状の曲面となっている。これらの第1、第3及び第5円板41a,41c,41eが本発明の弾き部材を構成する。
【0047】
第2円板41bは、円板状の本体41b1及び6つの第1被駆動爪41b2から構成される。第1被駆動爪41b2は本体41b1の外周に周方向に60度ずつずらして等間隔に設けられている。第1被駆動爪41b2は、突起状で、アーム36の第1駆動部38の先端面と当接する平面部と、第1駆動部38の屈曲部と当接する円弧状の曲面部とを有する。また、第4円板41dも、第2円板41bと同様に、円板状の本体41d1及び6つの第2被駆動爪41d2から構成される。第2被駆動爪41d2も、突起状で、アーム36の第2駆動部39の先端面と当接する平面部と、第2駆動部39の屈曲部と当接する円弧状の曲面部とを有する。ただし、第4円板41d及び第2円板41bは、各被駆動爪41b2,41d2の周方向の位置が30度ずれた状態で回転軸41fに固定されている。また、第1円板41aの弾き爪41a2と、第3円板41cの弾き爪41c2と、第5円板41eの弾き爪41e2とを合計した弾き爪41a2,41c2,41e2の総数は、第2円板41bの第1被駆動爪41b2の総数に等しいとともに、第4円板41dの第2被駆動爪41d2の総数にそれぞれ等しい。そして、第1円板41a、第3円板41c及び第5円板41eと、第2円板41bとは、弾き爪41a2,41c2,41e2と第1被駆動爪41b2の周方向の位置が30度ずれた状態で回転軸41fに固定されている。第1円板41a、第3円板41c及び第5円板41eと、第4円板41dとは、弾き爪41a2,41c2,41e2と第2被駆動爪41d2の周方向の位置が一致した状態で回転軸41fに固定されている。回転式弾き部41の後方には、振動板12a,12b,12cが鍵盤楽器10と同様に設けられている。
【0048】
次に、上記のように構成した鍵盤楽器10Aの低音部の鍵11を押離鍵操作したときの動作について説明する。図23A乃至図26Aは、回転式弾き部41の周辺を拡大して高音部側から見た図であり、図23B乃至図26Bは、回転式弾き部41の周辺を拡大して、低音部側から見た図である。また、第1駆動部38と第1被駆動爪41b2の位置関係、及び第2駆動部39と第2被駆動爪41d2の位置関係を明瞭に示すため、図23A乃至図26Aにおいては、第4円板41dを省略し、図23B乃至図26Bにおいては、第2円板41bを省略している。
【0049】
離鍵時には、ばね16によって、鍵11の前部が上方へ付勢されて、図19において時計回りに回転し、鍵11の後部下面が上限ストッパ18に当接して、図19の状態となっている。このとき、アーム36の第1駆動部38は、図23Aに示すように、回転式弾き部41の第1被駆動爪41b2から離れている。一方、図23Bに示すように、アーム36の第2駆動部39の先端面は、回転式弾き部41の第2被駆動爪41d2の平面部に当接している。さらに、第2駆動部39と第2被駆動爪41d2の円弧状の曲面同士が当接している。従って、この状態では、回転式弾き部41は第2駆動部39によって固定された状態になり、回転不可能となっている。
【0050】
一方、ばね16の付勢力に対抗して鍵11を押すと、鍵11は回転中心14を中心として、図19にて反時計回りに回転し始める。すると、鍵11の後部が上方に変位し、キャプスタン19に当接しているアーム36の前部を上方へ変位させる。これにより、アーム36は回転軸37a回りに、図19にて時計回りに回転する。さらに深く押鍵されると、図24Aに示すように、第1駆動部38の先端面が第1被駆動爪41b2の平面部に当接して、回転式弾き部41を図24Aにて時計回りに回転させようとする。このとき、図24Bに示すように第2被駆動爪41d2は、第2駆動部39から解放されているので、回転式弾き部41は回転可能となっている。したがって、回転式弾き部41が回転し、弾き爪41a2,41c2,41e2がそれぞれ振動板12a,12b,12cに近づいていく。そして、弾き爪41a2が振動板12aの自由端に当接して、振動板12aの自由端側を下方へ押し曲げる。このとき、弾き爪41c2は、弾き爪41a2に対して周方向に30度ずれており、弾き爪41e2は、弾き爪41a2に対して周方向に60度ずれているので、弾き爪41c2,41e2は、振動板12b,12cから離れている。
【0051】
回転式弾き部41がさらに回転すると、図25A及び図25Bに示すように、弾き爪41a2は振動板12aを乗り越える。すなわち、弾き爪41a2が振動板12aを弾く。そして、振動板12aが振動し、その振動が共鳴体28により増幅され、鍵音高に対応する楽器音が発音される。そして、鍵11の前部下面が下限ストッパ17に当接すると、鍵11の揺動は停止し、回転式弾き部41の回転も停止する。この状態では、図25Bに示すように、アーム36の第2駆動部39は、回転式弾き部41の第2被駆動爪41d2から離れている。一方、図25Aに示すように、アーム36の第1駆動部38及び回転式弾き部41の第1被駆動爪41b2の円弧状の曲面同士が当接するので、回転式弾き部41は回転不可能になっている。
【0052】
離鍵時には、ばね16の付勢力によって鍵11の前部が上方へ押し上げられる。これにより、鍵11は回転中心14を中心として、図19において時計回りに回転し始める。鍵11の後端部は下方へ変位し、アーム36は自重により回転軸37a回りに、図19にて反時計回りに回転する。すると、図26Bに示すように、第2駆動部39の先端面が第2被駆動爪41d2に当接して、回転式弾き部27を押鍵時と同じ方向(図26Aにて時計回り、すなわち図26Bにおいて反時計回り)へ回転させようとする。このとき、図26Aに示すように、第1被駆動爪41b2は第1駆動部38から解放されているので、回転式弾き部41は回転可能となっている。したがって、回転式弾き部41の回転により、振動板12aを弾いた弾き爪41a2が、振動板12aから遠ざかる。鍵11の後部下面が上限ストッパ18に当接すると、鍵11の前部の上方への変位が規制され、鍵11は元の位置(図19)へ復帰する。
【0053】
回転式弾き部41は、上記1回の押離鍵操作において、60度回転している。そして、次の押離鍵操作(2回目の押離鍵操作)においても、上記と同様に、第1駆動部38及び第2駆動部39がそれぞれ第1被駆動爪41b2及び第2被駆動爪41d2に係合して、回転式弾き部41が60度回転する。ただし、この2回目の押離鍵操作においては、弾き爪41a2及び弾き爪41e2は振動板12a,12cを弾かず、弾き爪41c2が振動板12bを弾いて発音する。さらに次の押離鍵操作(3回目の押離鍵操作)においても、上記と同様に、回転式弾き部41が60度回転する。この3回目の押離鍵操作においては、弾き爪41a2及び弾き爪41c2は振動板12a,12bを弾かず、弾き爪41e2が振動板12cを弾いて発音する。そして、3回目の離鍵操作の後、回転式弾き部41が元の状態(図19)へ復帰する。
【0054】
上記のように構成すれば第1実施形態に係る鍵盤楽器10と同様の効果に加えて、次のような効果が得られる。上記のように、鍵盤楽器10の低音部については、押離鍵操作ごとに振動板12a,12bが交互に弾かれる。一方、鍵盤楽器10Aの低音部においては、振動板12a,12b,12cのうちの1つの振動板が、この順に押鍵操作ごとに弾かれる。したがって、鍵盤楽器10,10Aの低音部の鍵11を繰り返し押鍵するときの繰返し速度を同一としたとき、ある振動板が弾かれてから、再びその振動板が弾かれるまでの時間は鍵盤楽器10よりも鍵盤楽器10Aの方が長い。すなわち、鍵盤楽器10Aにおいては、ある振動板が弾かれてから、再びその振動板が弾かれるまでに、その振動が十分に減衰する。したがって、鍵盤楽器10Aにおいては、より効果的にノイズの発生を抑制することができる。言い換えれば、同一の鍵11を繰り返し押鍵するときの繰返し速度については、鍵盤楽器10よりも鍵盤楽器10Aの方がより速い繰返し速度に対応できる。
【0055】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記第1及び第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0056】
上記第1実施形態においては、低音部の1つの鍵11に対応した2つの振動板12a.12bに対して弾き部材としての第1円板27a及び第4円板27dをそれぞれ設けた。また、上記第2実施形態においては、低音部の1つの鍵11に対応した振動板12a.12b、12cに対して弾き部材としての第1円板41a、第3円板41c及び第4円板41eを設けた。しかし、これに代えて、1つの鍵11に対応した2つの振動板12a.12b又は3つの振動板12a.12b,12cを弾くために、弾き部材として1つの円板だけを設けて、鍵11の離鍵があるごとに、前記1つの円板の位置をずらして、押鍵ごとに異なる振動板を順次弾くようにしてもよい。
【0057】
上記第1実施形態においては、低音部における弾き部材としての第1円板27a及び第4円板27dに、それぞれ2つずつの弾き爪27a2,27d2を設けるとともに、中音部及び高音部における弾き部材としての第2円板32bに4つの弾き爪32b2を設けた。また、上記第2実施形態においては、低音部における弾き部材としての第1円板41a、第3円板41c及び第5円板41eに、それぞれ2つずつの弾き爪41a2,41c2,41e2を設けるようにした。しかし、これらに代えて、前記各円板27a,27d,32b,41a,41c,41eにそれぞれ、1つだけ弾き爪を設けたり、3つ以上の弾き爪を設けるようにしてもよい。この場合、第1及び第4円板27a,27dに設けられる複数の弾き爪間の角度をそれぞれ均等にする。そして、第2及び第3円板27c,27dとアーム21とによる、1押鍵ごとの第1及び第4円板27a,27dの回転角が前記複数の弾き爪間の角度となるようにする。また、第2円板32bに設けられる弾き爪に関しても、複数であれば、それらの間の角度をそれぞれ均等にする。そして、第1及び第3円板32a,32cとアーム30とによる、1押鍵ごとの第2円板32bの回転角が前記複数の弾き爪間の角度となるようにする。また、第1、第3及び第5円板41a,41c,41eに設けられる複数の弾き爪間の角度をそれぞれ均等にする。そして、第2及び第4円板41b,42dとアーム36とによる、1押鍵ごとの第1、第3及び第5円板41a,41c,41eの回転角を前記複数の弾き爪間の角度となるようにする。
【0058】
上記第1実施形態においては、低音部の1つの鍵11に対して2つの振動板12a,12bを設けた。また、上記第2実施形態においては、低音部の1つの鍵11に対して3つの振動板12a,12b、12cを設けた。しかし、これらに代えて、1つの鍵11に対してさらに多くの振動板を設けるようにしてもよい。また、中音部及び高音部においても、振動板12aの振動の減衰時間によりノイズの発生が問題となる場合には、中音部及び高音部においても複数の振動板を設けるようにしてもよい。さらに、高音部、中音部及び低音部の順に振動板の減衰時間が順次長くなるので、中音部における振動板の数を高音部に比べて多く、低音部における振動板の数を中音部に比べてさらに多くというように、音域に応じて振動板の数を順に変更するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
10,10A…鍵盤楽器、11…鍵、12a,12b,12c…振動板、21,36…アーム、23,38…第1駆動部、24,39…第2駆動部、27,41…回転式弾き部、27a,41a…第1円板、27a2,27d2,41a2,41c2,41e2…弾き爪、27b,41b…第2円板、27b2,41b2…第1被駆動爪、27c,41c……第3円板、27c2,41d2…第2被駆動爪、27d,41d…第4円板、28…共鳴体、41e…第5円板、FR…フレーム
【技術分野】
【0001】
本発明は、押鍵によって片持ち振動板を振動させて演奏する鍵盤楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば下記特許文献1に示されているように、演奏者による鍵の押鍵操作により、振動体である片持ち振動板を弾いて発音する鍵盤楽器は知られている。この鍵盤楽器においては、鍵の鍵音高に対応した周波数で振動する片持ち振動板が各鍵ごとに1つずつ設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−206028号公報
【発明の概要】
【0004】
上記従来の鍵盤楽器においては、同一の鍵が繰り返し押鍵されると、押鍵操作により弾かれた片持ち振動板の振動が十分に減衰しないうちに、再びその片持ち振動板が弾かれることがある。このとき、片持ち振動板を弾くための弾き部材が振動中の片持ち振動板に接触してノイズが発生するという問題があった。とくに、低音部においては、片持ち振動板の振動の減衰時間が長い。そのため、低音部の同一の鍵を繰り返し押鍵したとき、その繰返し速度が速いとノイズが発生し易かった。
【0005】
本発明は上記問題に対処するためになされたもので、その目的は、演奏者による押鍵操作によって振動体を振動させて発音する鍵盤楽器において、同一の鍵を繰り返し押鍵したときのノイズの発生を抑制した鍵盤楽器を提供することにある。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、押鍵操作される複数の鍵(11)と、複数の鍵にそれぞれ対応して設けられ、各鍵の音高に対応した周波数で振動して発音する振動体(12a,12b,12c)をそれぞれ有する複数の振動部(12)と、複数の鍵にそれぞれ対応して設けられ、各鍵の押鍵操作に連動して、各振動部の振動体をそれぞれ励振する複数の励振部(21,27,30,32,36,41)とを備えた鍵盤楽器において、複数の振動部のうちの少なくとも一部の振動部に、同一の周波数でそれぞれ振動する複数の振動体(12a,12b,12c)を設け、かつ前記少なくとも一部の振動部に対応した一部の励振部(21,27,36,41)は、前記同一の周波数でそれぞれ振動する複数の振動体のうちで、前回の押鍵操作に連動して励振した振動体とは異なる振動体を励振するようにしたことにある。
【0007】
上記のように構成した本発明の特徴によれば、複数の振動部のうちの少なくとも一部の振動部に、同一の周波数でそれぞれ振動する複数の振動体を設け、励振部は、前記同一の周波数でそれぞれ振動する複数の振動体のうちで、前回の押鍵操作に連動して励振した振動体とは異なる振動体を励振する。したがって、同一の周波数でそれぞれ振動する複数の振動体に関しては、同一の鍵が繰り返し押鍵されても、連続して励振されることがなくなる。その結果、振動体の振動による音の減衰時間の長いことに起因したノイズの発生が問題となる場合でも、振動が十分に減衰した後に、振動体が励振されるようすることができ、同一の鍵の繰り返し押鍵によるノイズの発生の問題を解消できる。
【0008】
また、本発明の他の特徴は、振動体(12a,12b,12c)を片持ち振動板で構成し、励振部(21,27,30,32,36,41)は、片持ち振動板を弾く弾き部材(27a,27d,32b,41a,41c,41e)を有し、かつ前記少なくとも一部の振動部に対応した一部の励振部(21,27,36,41)は、前記同一の周波数でそれぞれ振動する複数の片持ち振動板をそれぞれ弾く複数の弾き部材(27a,27d,41a,41c,41e)を有することにある。
【0009】
弾き部材が片持ち振動板を弾くと、弾き部材も振動することがある。しかし、前記本発明の他の特徴によれば、前記少なくとも一部の振動部に対応した一部の励振部に関しては、前回の押鍵操作において片持ち振動板を弾いた弾き部材とは異なる弾き部材が、前回の押鍵操作において弾いた片持ち振動板とは異なる片持ち振動板を弾くことになる。すなわち、十分に振動が減衰した弾き部材で、十分に振動が減衰した片持ち振動板を弾くことができるので、上述したノイズの発生をより効果的に抑制することができる。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、各弾き部材(27a,27d,32b,41a,41c,41e)は、回転可能に支持された本体(27a1,27d1,32b1,41a1,41c1,41e1)及び本体に設けられて片持ち振動板を弾くための1つ又は複数の弾き爪(27a2,27d2,32b2,41a2,41c2,41e2)からなり、励振部(21,27,30,32,36,41)は、鍵の押鍵操作時に弾き部材を所定方向へ所定角度回転させ、鍵の離鍵操作時に弾き部材を前記所定方向と同じ方向へ所定角度回転させるアーム(21,30,36)を有することにある。
【0011】
前記本発明の他の特徴によれば、弾き部材は、鍵の押鍵操作時に所定方向へ所定角度回転し、鍵の離鍵操作時に前記所定方向と同じ方向へ所定角度回転する。したがって、弾き部材は、離鍵操作により、片持ち振動板を弾いた弾き爪を片持ち振動板から遠ざけるように回転するので、離鍵操作時に弾き爪が片持ち振動板に接触しない。これにより、離鍵操作時に片持ち振動板の振動を抑制して音を減衰させることが無く、ノイズを発生させることも無い。なお、この場合、弾き部材として、同一形状の部品(例えば、外周に突起状の爪を有する円板状の部品)を複数個用意しておき、これらの部品を、それぞれの弾き爪が周方向にずれるようにして軸に連結するとよい。これによれば、部品の種類を削減できる。
【0012】
また、本発明の他の特徴は、前記少なくとも一部の振動部に対応した一部の励振部(21,27,36,41)における複数の弾き部材(27a,27d,41a,41c,41e)は、共通の回転軸(27e,41f)に連結されており、前記少なくとも一部の振動部に対応した一部の励振部は、押鍵操作に連動して、複数の弾き部材に挟まれる位置にて共通の回転軸を回転駆動するようにしたことにある。
【0013】
弾き爪が片持ち振動板に当接して片持ち振動板を変形させているときには、回転軸に付与される回転力と、弾き爪に付与される力に起因して、回転軸が若干捩れて変形する。この捩れ変形量は、回転力の付与される回転軸の位置と弾き爪との距離が大きいほど大きくなる。しかし、前記本発明の他の特徴によれば、押鍵操作に連動して、回転軸は、複数の弾き部材に挟まれる位置にて回転駆動される。したがって、2つの弾き部材のうちの1つの弾き部材に対して他の弾き部材とは反対側位置にて回転軸を駆動する場合に比べて、回転軸の駆動位置と各弾き部材すなわち弾き爪との回転軸方向の距離の差を小さくすることができる。その結果、回転軸の捩れ変形による、押鍵操作ごとの発音時の押鍵深さ(離鍵状態からの鍵の変位)の差を小さくすることができる。
【0014】
また、本発明の他の特徴は、前記少なくとも一部の振動部は、低音部の鍵に対応した振動部であることにある。
【0015】
中音部及び高音部については、片持ち振動板の振動の減衰時間が低音部に比べて短いので、中音部及び高音部の鍵を繰り返し押鍵しても、ノイズが全く発生しないか、ノイズが発生したとしても小さく演奏上問題とならない。したがって、低音部についてのみ、各鍵ごとに複数の片持ち振動板を設け、中音部及び高音部については、上記従来の鍵盤楽器と同様に、各鍵ごとに1つの片持ち振動板を設けるようにすれば、演奏上問題となるノイズを抑制しつつ、鍵盤楽器を軽量化できるとともに、鍵盤楽器の製造コストを低減できる。
【0016】
なお、前記括弧内の符号は、本発明の理解を容易にするために、後述する実施形態との対応関係を示すものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1及び第2実施形態に係る鍵盤楽器の外観を示す平面図である。
【図2A】本発明の第1実施形態に係り、低音部の振動板及び共鳴体の構成を示す平面図である。
【図2B】本発明の第1及び第2実施形態に係り、中音部及び高音部の振動板及び共鳴体の構成を示す平面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器を縦断して、低音部の1つの鍵について示す右側面である。
【図4】図3のアームの右側面図である。
【図5】図3のアームの平面図である。
【図6A】図3の鍵盤楽器の後部を拡大して示す右側面図である。
【図6B】図3の鍵盤楽器の後部を拡大して示す平面図である。
【図7A】図3の回転式弾き部の正面図である。
【図7B】図3の回転式弾き部の右側面図である。
【図7C】図3の回転式弾き部の左側面図である。
【図8A】図3の回転式弾き部の第1及び第4円板の正面図である。
【図8B】図3の回転式弾き部の第1及び第4円板の右側面図である。
【図9】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器を縦断して、中音部又は高音部の1つの鍵について示す右側面である。
【図10】図9のアームの平面図である。
【図11A】図9の鍵盤楽器の後部を拡大して示す右側面図である。
【図11B】図9の鍵盤楽器の後部を拡大して示す平面図である。
【図12A】図9の回転式弾き部の正面図である。
【図12B】図9の回転式弾き部の右側面図である。
【図12C】図9の回転式弾き部の左側面図である。
【図13A】図9の回転式弾き部の第2円板の正面図である。
【図13B】図9の回転式弾き部の第2円板の右側面図である。
【図14A】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器の離鍵状態における第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す右側面図である。
【図14B】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器の離鍵状態における第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す左側面図である。
【図15A】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器の押鍵途中の第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す右側面図である。
【図15B】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器の押鍵途中の第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す左側面図である。
【図16A】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器の押鍵終了時の第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す右側面図である。
【図16B】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器の押鍵終了時の第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す左側面図である。
【図17A】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器の離鍵途中の第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す右側面図である。
【図17B】本発明の第1実施形態に係る鍵盤楽器の離鍵途中の第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す左側面図である。
【図18】本発明の第2実施形態に係り、低音部の振動板及び共鳴体の構成を示す平面図である。
【図19】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器を縦断して、低音部の1つの鍵について示す右側面である。
【図20A】図19のアームの右側面図である。
【図20B】図19のアームの平面図である。
【図21A】図19の鍵盤楽器の後部を拡大して示す右側面図である。
【図21B】図19の鍵盤楽器の後部を拡大して示す平面図である。
【図22A】図19の回転式弾き部の正面図である。
【図22B】図19の回転式弾き部の右側面図である。
【図22C】図19の回転式弾き部の左側面図である。
【図23A】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の離鍵状態における第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す右側面図である。
【図23B】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の離鍵状態における第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す左側面図である。
【図24A】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の押鍵途中の第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す右側面図である。
【図24B】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の押鍵途中の第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す左側面図である。
【図25A】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の押鍵終了時の第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す右側面図である。
【図25B】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の押鍵終了時の第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す左側面図である。
【図26A】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の離鍵途中の第1駆動部と第1被駆動爪の位置関係を示す右側面図である。
【図26B】本発明の第2実施形態に係る鍵盤楽器の離鍵途中の第2駆動部と第2被駆動爪の位置関係を示す左側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
a.第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態についての全体概略を説明する。鍵盤楽器10は、演奏者によって押離鍵操作される複数の鍵11を有する。また、鍵盤楽器10は、鍵11ごとに、振動して発音する振動部12を有するが、鍵域によって振動部12の構成が異なる。すなわち、低音部(例えば、最低音を含む1オクターブ)については、図2Aに示すように、振動部12は、鍵音高に対応した同一の周波数で振動して同一音高の音をそれぞれ発する2枚の振動板12a,12bからなり、押鍵操作ごとに振動板12a,12bが交互に弾かれて発音する。一方、中音部及び高音部(すなわち、低音部以外の鍵域)については、図2Bに示すように、振動部12は、鍵音高に対応した周波数で振動して音を発する1枚の振動板12aからなり、押鍵操作ごとに振動板12aが弾かれて発音する。これらの振動板12a,12bが、本発明の振動体を構成する。
【0019】
次に、鍵盤楽器10の低音部の構成について説明する。図3に示すように、低音部の鍵11は合成樹脂によって長尺状に形成されている。そして、鍵11は、フレームFRに設けられた鍵支持部13により支持されており、中間部の回転中心14を中心として、前端部が上下方向に揺動可能となっている。なお、フレームFRとは、この鍵盤楽器の種々の部品を支持するための構造体及びこの鍵盤楽器のハウジング自体を意味する。鍵11の前部下方には、ばね16が設けられている。ばね16の下端はフレームFRに固定され、その上端は、鍵11の前部下面に当接している。ばね16は、鍵11の前部を上方へ付勢する。また、鍵11の前部下方には、ゴム、フェルトなどの衝撃吸収材によって構成された長尺状の下限ストッパ17が横方向(鍵11の並び方向)に延設されてフレームFRに固定されている。この下限ストッパ17は、鍵11の前部の下方への変位を規制する。また、鍵11の後部下方には、下限ストッパ17と同様の上限ストッパ18が横方向に延設されてフレームFRに固定されている。この上限ストッパ18は鍵11の前部の上方への変位を規制する。
【0020】
鍵11の後部上面には、下部が円柱状に形成され、上部が半球状に形成された突起状のキャプスタン19が組み付けられている。キャプスタン19の上端には、アーム21の前端部の下面が当接している。アーム21は、図4及び図5に示すように、基部22、第1駆動部23及び第2駆動部24から構成される。基部22は、合成樹脂製で、下面の中間部から前方の部分が僅かに下方へ湾曲している。一方、基部22の上面は、中間部から前方へ向かうに従って低くなる急傾斜の斜面を形成している。また、基部22の後部の両側面から横方向へ円柱状の回転軸22aが延設されている。
【0021】
第1駆動部23及び第2駆動部24は金属製で円弧状に屈曲した屈曲部を有するように成形された板状部材である。各屈曲部の先端面は平面になっている。第1駆動部23は基部22の後端部の高音部側(演奏者から見て右側)の面上に、その屈曲部が上方から下方に向かうように組み付けられる。第2駆動部24は、基部22の低音部側(演奏者から見て左側)の面上に、その屈曲部が下方から上方へ向かうように組み付けられる。第1駆動部23及び第2駆動部24は、それぞれ屈曲部が基部22の後端から後方へ張出しており、横方向に若干ずれて位置している。
【0022】
アーム21は、図6A及び図6Bに示すように、フレームFRに固定されたアーム支持部材25に設けられた貫通孔25aに回転軸22aを回転可能に貫通させることにより、アーム支持部材25に回転可能に支持されている。基部22の下方には、ゴム、フェルトなどの衝撃吸収材によって構成された長尺状のアームストッパ26が横方向に延設されて、フレームFRに固定されている。離鍵状態においては、アーム21は、基部22の自重により図6Aにて反時計回りに回転し、アームストッパ26に当接して静止している。アーム21の後方には、回転式弾き部27が、アーム支持部材25に回転可能に支持されている。
【0023】
回転式弾き部27は、金属製で、図7A乃至図7Cに示すように、第1乃至第4円板27a,27b,27c,27d及び回転軸27eを有する。第1乃至第4円板27a,27b,27c,27dは、高音部側から低音部側へ向かってこの順に等間隔に配置されるように、それぞれの内周端が回転軸27eの外周面に固定されている。回転式弾き部27は、アーム支持部材25に設けられた貫通孔25bに回転軸27eを回転可能に貫通させることにより、アーム支持部材25に回転可能に支持されている。なお、図7Aは回転式弾き部27の正面図である。また、図7Bは回転式弾き部27の右側面図であり、図7Cは回転式弾き部27の左側面図である。各円板の構成を明瞭に示すために、図7Bにおいては第3円板27cを省略し、図7Cにおいては第2円板27bを省略している。
【0024】
第1円板27aは、図8A及び図8Bに示すように、円板状の本体27a1及び2つの弾き爪27a2,27a2から構成される。弾き爪27a2,27a2は、突起状であり、本体27a1の外周に周方向に180度ずらして等間隔に設けられている。また、第4円板27dの構成は、第1円板27aと同一である。すなわち、第4円板27dは、円板状の本体27d1及び2つの弾き爪27d2,27d2から構成される。第1円板27a及び第4円板27dは、弾き爪27a2,27d2の位置が周方向に90度ずれた状態で回転軸27eに固定されている。弾き爪27a2,27d2は、回転式弾き部27の回転により、それぞれ振動板12a,12bを弾く。弾き爪27a2,27d2の振動板12a,12bと当接する面は円弧状の曲面となっている。これらの第1及び第4円板27a,27dは、本発明の弾き部材を構成する。
【0025】
第2円板27bは、円板状の本体27b1及び4つの第1被駆動爪27b2から構成される。第1被駆動爪27b2は本体27b1の外周に周方向に90度ずつずらして等間隔に設けられている。第1被駆動爪27b2は、突起状で、アーム21の第1駆動部23の先端面と当接する平面部と、第1駆動部23の屈曲部と当接する円弧状の曲面部とを有する。また、第3円板27cも、第2円板27bと同様に、円板状の本体27c1及び4つの第2被駆動爪27c2から構成される。第2被駆動爪27c2も、突起状で、アーム21の第2駆動部24の先端面と当接する平面部と、第2駆動部24の屈曲部と当接する円弧状の曲面部とを有する。ただし、第2円板27b及び第3円板27cは、各被駆動爪27b2,27c2の周方向の位置が45度ずれた状態で回転軸27eに固定されている。また、第1円板27aの弾き爪27a2と第4円板27dの弾き爪27d2とを合計した弾き爪27a2,27d2の総数は、第2円板27bの第1被駆動爪27b2の総数に等しいとともに、第3円板27cの第2被駆動爪27c2の総数にも等しい。そして、第1円板27a及び第4円板27dと、第2円板27bとは、弾き爪27a2,27d2と第1被駆動爪27b2の周方向の位置が45度ずれた状態で回転軸27eに固定されている。第1円板27a及び第4円板27dと、第3円板27cとは、弾き爪27a2,27d2と第2被駆動爪27c2の周方向の位置が一致した状態で回転軸27eに固定されている。このように構成したアーム21及び回転式弾き部27が、本発明の励振部を構成する。
【0026】
回転式弾き部27の後方には、2つの振動板12a,12bが設けられている。振動板12a,12bは金属などの板状弾性部材で長尺状に形成される。振動板12a,12bの一端は、図2Aに示すように、鍵盤楽器10の後部にて横方向に延設された平板状の共鳴体28の上面に固定される。そして、その他端は共鳴体28から前方へ張り出している。すなわち、振動板12a,12bは片持ち梁状に支持されており、横方向に等間隔に並設されている。振動板12a,12bの固有振動周波数は、鍵11の音高に対応した周波数と同一である。したがって、振動板12a,12bの幅、厚み及び長さは同一である。共鳴体28は支持部材29を介してフレームFRに固定される。なお、この鍵盤楽器10を構成するすべての振動板12に対して1つの共鳴体28を設けてもよいし、所定の音域(例えば1オクターブ)ごと又は鍵11ごとに共鳴体28を設けてもよい。
【0027】
次に、中音部及び高音部の構成について説明する。この場合も、図9に示すように、鍵11は上記低音部と同様に支持され、下限ストッパ17及び上限ストッパ18によって鍵11の揺動範囲が規定されている。また、鍵11の後部上面にはキャプスタン19が組み付けられ、キャプスタン19の上端には、アーム30の前端部の下面が当接している。アーム30は、アーム21とほぼ同様の構成である。すなわち、アーム30は、図10に示すように、基部31、第1駆動部23及び第2駆動部24からなり、基部31は、基部22の回転軸22aと同様の回転軸31aを有する。また、第1駆動部23と第2駆動部24の横方向の間隔がアーム21に比べて大きくなるように、基部31の前端部が基部22よりも厚くなっている。そして、図11A及び図11Bに示すように、アーム30は、アーム支持部材25に設けられた貫通孔25aに回転軸31aを回転可能に貫通させることにより、アーム支持部材25に回転可能に支持されている。アーム30の後方には、回転式弾き部32が、アーム支持部材25に回転可能に支持されている。
【0028】
回転式弾き部32は、金属製で、図12A乃至図12Cに示すように、第1乃至第3円板32a,32b,32c及び回転軸32dを有する。第1乃至第3円板32a,32b,32cは、高音部側から低音部側へ向かってこの順に等間隔に配置されるように、それぞれの内周端が回転軸32dに固定されている。回転式弾き部32は、アーム支持部材25に設けられた貫通孔25bに回転軸32dを回転可能に貫通させることにより、アーム支持部材25に回転可能に支持されている。なお、図12Aは回転式弾き部32の正面図である。また、図12Bは回転式弾き部32の右側面図であり、図12Cは回転式弾き部32の左側面図である。各円板の構成を明瞭に示すために、図12Bにおいては第3円板32cを省略し、図12Cにおいては第1円板32aを省略している。
【0029】
第1円板32aは、円板状の本体32a1及び4つの第1被駆動爪32a2から構成される。第1被駆動爪32a2は本体32a1の外周に周方向に90度ずつずらして等間隔に設けられている。第1被駆動爪32a2は、突起状で、アーム30の第1駆動部23の先端面と当接する平面部と、第1駆動部23の屈曲部と当接する円弧状の曲面部とを有する。また、第3円板32cも、第1円板32aと同様に、円板状の32c1及び4つの第2被駆動爪32c2から構成される。第2被駆動爪32c2も、突起状で、アーム30の第2駆動部24の先端面と当接する平面部と、第2駆動部24の屈曲部と当接する円弧状の曲面部とを有する。ただし、第1円板32a及び第3円板32cは、各被駆動爪32a2,32c2の位置が周方向に45度ずれた状態で回転軸32dに固定されている。
【0030】
また、第2円板32bは、図13A及び図13Bに示すように、円板状の本体32b1及び4つの弾き爪32b2から構成される。弾き爪32b2は、本体32b1の外周に周方向に90度ずつずらして等間隔に設けられている。弾き爪32b2は、突起状であり、回転式弾き部32の回転により、振動板12aを弾く。弾き爪32b2の振動板12aと当接する面は円弧状の曲面となっている。この第2円板32bが、本発明の弾き部材を構成する。なお、第2円板32bの弾き爪32b2の総数は、第1円板32aの第1被駆動爪32a2の総数に等しいとともに、第3円板32cの第2被駆動爪32c2の総数にも等しい。そして、第1円板32a及び第2円板32bは、第1被駆動爪32a2と弾き爪32b2の周方向の位置が45度ずれた状態で回転軸32dに固定されている。第2円板32b及び第3円板32cは、弾き爪32b2と第2被駆動爪32c2の周方向の位置が一致した状態で回転軸32dに固定されている。回転式弾き部32の後方には、図2Bに示すように、振動板12aが低音部と同様に設けられている。
【0031】
次に、上記のように構成した鍵盤楽器10の低音部の鍵11を押離鍵操作したときの動作について説明する。図14A乃至図17Aは、回転式弾き部27の周辺を拡大して高音部側から見た図であり、図14B乃至図17Bは、回転式弾き部27の周辺を拡大して、低音部側から見た図である。また、第1駆動部23と第1被駆動爪27b2との位置関係、及び第2駆動部24と第2被駆動爪27c2との位置関係を明瞭に示すため、図14A乃至図17Aにおいては、第3円板27cを省略し、図14B乃至図17Bにおいては、第2円板27bを省略している。
【0032】
離鍵状態においては、ばね16によって、鍵11の前部が上方へ付勢されて、図3において時計回りに回転し、鍵11の後部下面が上限ストッパ18に当接して、図3の状態となっている。このとき、アーム21の第1駆動部23は、図14Aに示すように、回転式弾き部27の第1被駆動爪27b2から離れている。一方、図14Bに示すように、アーム21の第2駆動部24の先端面は、回転式弾き部27の第2被駆動爪27c2の平面部に当接している。さらに、第2駆動部24と第2被駆動爪27c2の円弧状の曲面同士が当接している。したがって、この状態では、回転式弾き部27は第2駆動部24によって固定された状態になり、回転不可能となっている。
【0033】
一方、ばね16の付勢力に対抗して鍵11を押すと、鍵11は回転中心14を中心として、図3にて反時計回りに回転し始める。すると、鍵11の後部が上方に変位し、キャプスタン19に当接しているアーム21の前部を上方へ変位させる。これにより、アーム21は回転軸22a回りに、図3にて時計回りに回転する。さらに深く押鍵されると、図15Aに示すように、第1駆動部23の先端面が第1被駆動爪27b2の平面部に当接して、回転式弾き部27を図15Aにて時計回りに回転させようとする。このとき、図15Bに示すように第2被駆動爪27c2は、第2駆動部24から解放されているので、回転式弾き部27は回転可能となっている。したがって、回転式弾き部27が回転し、弾き爪27a2,27d2がそれぞれ振動板12a,12bに近づいていく。そして、弾き爪27a2は振動板12aの自由端に当接して、振動板12aの自由端側を下方へ押し曲げる。このとき、弾き爪27d2は、弾き爪27a2に対して周方向に90度ずれているので、振動板12bから離れている。
【0034】
回転式弾き部27がさらに回転すると、図16A及び図16Bに示すように、弾き爪27a2は振動板12aを乗り越える。すなわち、弾き爪27a2が振動板12aを弾く。そして、振動板12aが振動し、その振動が共鳴体28により増幅され、鍵音高に対応する楽器音が発音される。そして、鍵11の前部下面が下限ストッパ17に当接すると、鍵11の揺動は停止し、回転式弾き部27の回転も停止する。この状態では、図16Bに示すように、アーム21の第2駆動部24は、回転式弾き部27の第2被駆動爪27c2から離れている。一方、図16Aに示すように、アーム21の第1駆動部23及び回転式弾き部27の第1被駆動爪27b2の円弧状の曲面同士が当接するので、回転式弾き部27は回転不可能になっている。
【0035】
離鍵時には、ばね16の付勢力によって鍵11の前部が上方へ押し上げられる。これにより、鍵11は回転中心14を中心として、図3において時計回りに回転し始める。鍵11の後端部は下方へ変位し、アーム21は自重により回転軸22a回りに、図3にて反時計回りに回転する。すると、図17Bに示すように、第2駆動部24の先端面が第2被駆動爪27c2の平面部に当接して、回転式弾き部27を押鍵時と同じ方向(図17Aにて時計回り、すなわち図17Bにおいて反時計回り)へ回転させようとする。このとき、図17Aに示すように、第1被駆動爪27b2は第1駆動部23から解放されているので、回転式弾き部27は回転可能となっている。したがって、回転式弾き部27の回転により、押鍵によって振動板12aを弾いた弾き爪27a2が、振動板12aから遠ざかる。鍵11の後部下面が上限ストッパ18に当接すると、鍵11の前部の上方への変位が規制され、鍵11は元の位置(図3)へ復帰する。
【0036】
回転式弾き部27は、上記1回の押離鍵操作において、90度回転している。そして、次の押離鍵操作(2回目の押離鍵操作)においても、上記と同様に、第1駆動部23及び第2駆動部24がそれぞれ第1被駆動爪27b2及び第2被駆動爪27c2に係合して、回転式弾き部27が90度回転する。ただし、この2回目の押離鍵操作においては、弾き爪27a2は振動板12aを弾かず、弾き爪27d2が振動板12bを弾いて発音する。そして、2回目の離鍵操作の後、回転式弾き部材27が元の状態(図3)に復帰する。
【0037】
次に、上記のように構成した鍵盤楽器10の中音部及び高音部の鍵11を押離鍵操作したときの動作について説明する。この動作は、上記低音部の動作とほぼ同様である。図9の状態から、鍵11を押鍵すると、第1駆動部23が、第1被駆動爪32a2に係合して回転式弾き部32を図9において時計回りに回転させ、弾き爪32b2が振動板12を弾く。そして、鍵11を離鍵すると、第2駆動部24が第2被駆動爪32c2に係合して、回転式弾き部32をさらに回転させた後、回転式弾き部32が元の状態(図9)に復帰する。すなわち、1回の押離鍵操作により、回転式弾き部32が90度回転する。弾き爪32b2は、第2円板32bの周方向に90度ずつずれて設けられているので、振動板12aは押鍵操作ごとに弾かれる。
【0038】
上記のように構成した鍵盤楽器10においては、低音部の振動板12a,12bが押鍵操作ごとに交互に弾かれる。そのため、同一の鍵11を繰り返し押離鍵しても、振動板12a(又は振動板12b)が弾かれてから、再びその振動板12a(又は振動板12b)が弾かれるまでに振動が減衰する。さらに、振動板12a,12bにそれぞれ対応させて弾き爪27a2,27d2を設けた。そのため、振動板12a,12bを弾いたときに弾き爪27a2,27d2に発生する振動も、再び振動板12a,12bを弾くときまでに減衰する。したがって、低音部の同一の鍵11を繰り返し押離鍵したときのノイズの発生を抑制することができる。
【0039】
また、低音部の振動板の振動に比べて、中音部及び高音部の振動板の振動の減衰時間は短かく、同一の鍵11を連続して繰り返し押離鍵しても演奏上問題となるノイズが発生し難い。そのため、中音部及び高音部においては、振動板12aが押鍵操作ごとに弾かれて発音するようにした。これにより、中音部及び高音部の構成を低音部よりも簡単にすることができ、鍵盤楽器10を軽量化できるとともに、鍵盤楽器10の製造コストを低減することができる。
【0040】
また、鍵11の押鍵操作時におけるアーム21の第1駆動部23による第2円板27bの回転駆動、及び鍵11の離鍵操作時におけるアーム21の第2駆動部24による第3円板27cの回転駆動により、弾き部材としての第1及び第4円板27a,27dは、押鍵操作時に所定方向へ所定角度回転し、離鍵操作時に前記所定方向と同じ方向へ前記所定角度だけ回転する。したがって、第1及び第4円板27a,27dは、離鍵操作により、振動板12a,12bを弾いた弾き爪27a2,27d2を振動板12a,12bから遠ざけるように回転するので、離鍵操作時に弾き爪27a2,27d2が振動板12a,12bに接触しない。これにより、離鍵操作時に振動板12a,12bの振動を抑制して音を減衰させることが無く、ノイズを発生させることも無い。
【0041】
また、第2円板27bを第1円板27aと第4円板27dとの間に設けた。そのため、第1被駆動爪27b2と弾き爪27a2との回転軸方向の距離と、第1被駆動爪27b2と弾き爪27d2との回転軸方向の距離の差が小さくなる。したがって、弾き爪27a2が振動板12aを下方へ押し曲げているときに回転軸27eが捩れることによる、第1被駆動爪27b2と弾き爪27a2の周方向のずれ量と、弾き爪27d2が振動板12bを下方へ押し曲げているときに回転軸27eが捩れることによる、第1被駆動爪27b2と弾き爪27d2の周方向のずれ量との差が小さくなる。すなわち、弾き爪27a2が振動板12aを弾くときの押鍵深さと、弾き爪27d2が振動板12bを弾くときの押鍵深さとの差を小さくすることができるので、本実施形態に係る鍵盤楽器が演奏し易くなる。なお、第2円板27bを第1円板27aと第4円板27dの中央に位置させれば、弾き爪27a2が振動板12aを弾くときの押鍵深さと、弾き爪27d2が振動板12bを弾くときの押鍵深さを完全一致させることができて、本実施形態に係る鍵盤楽器がより演奏し易くなる。
【0042】
b.第2実施形態
以下、本発明の第2実施形態についての全体概略を説明する。鍵盤楽器10Aは、鍵盤楽器10と同様に複数の鍵11及び複数の振動部12を有する。しかし、この鍵盤楽器10Aにおいては、図18に示すように、低音部の各振動部12は、鍵音高に対応した同一の周波数で振動して同一音高の音をぞれぞれ発する3枚の振動板12a,12b,12cからなり、振動板12a,12b,12cのうちの1つの振動板が、この順に押鍵操作ごとに弾かれて発音する。一方、中音部及び高音部の構成は、鍵盤楽器10と同様である。
【0043】
次に、鍵盤楽器10Aの低音部の構成について説明する。図19に示すように、鍵11は、鍵盤楽器10と同様に支持され、下限ストッパ17及び上限ストッパ18によって揺動範囲が規定される。鍵11の後部上面には、キャプスタン19が組み付けられていて、アーム36の前端部の下面が当接している。アーム36は、アーム30とほぼ同様の構成である。すなわち、アーム36は、図20A及び図20Bに示すように、基部37、第1駆動部38及び第2駆動部39から構成される。基部37は、基部31と同様に構成され、回転軸31aと同様の回転軸37aを有する。第1駆動部38及び第2駆動部39は、アーム30の第1駆動部23及び第2駆動部24よりも、先端部が細長くなっている。
【0044】
アーム36は、図21A及び図21Bに示すように、フレームFRに固定されたアーム支持部材25に設けられた貫通孔25aに回転軸37aを貫通させることにより、アーム支持部材25に回転可能に支持されている。アーム36の後方には、回転式弾き部41が、アーム支持部材25に回転可能に支持されている。
【0045】
回転式弾き部41は、金属製で、図22A乃至図22Cに示すように、第1乃至第5円板41a,41b,41c,41d,41e及び回転軸41fを有する。第1乃至第5円板41a,41b,41c,41d,41eは、高音部側から低音部側へ向かってこの順に等間隔に配置されるように、それぞれの内周端が回転軸41fに固定されている。回転式弾き部41は、アーム支持部材25に設けられた貫通孔25bに回転軸41fを回転可能に貫通させることにより、アーム支持部材25に回転可能に支持されている。なお、図22Aは回転式弾き部41の正面図である。また、図22Bは回転式弾き部41の右側面図であり、図22Cは回転式弾き部41の左側面図である。各円板の構成を明瞭に示すために、図22Bにおいては第4円板41dを省略し、図22Cにおいては第2円板41bを省略している。
【0046】
第1円板41aは、第1円板27aと同様に、円板状の本体41a1及び2つの弾き爪41a2,41a2から構成される。弾き爪41a2,41a2は、突起状であり、本体41a1の外周に周方向に180度ずらして等間隔に設けられている。また、第3円板41c及び第5円板41eの構成は、第1円板41aと同一である。すなわち、第3円板41cは、円板状の本体41c1及び2つの弾き爪41c2,41c2から構成され、第5円板41eは、円板状の本体41e1及び2つの弾き爪41e2,41e2から構成される。第1円板41a、第3円板41c及び第5円板41eは、弾き爪41a2,41c2,41e2の位置が周方向に互いに60度ずつずれた状態で回転軸41fに固定されている。弾き爪41a2,41c2,41e2は、回転式弾き部41の回転により、それぞれ振動板12a,12b,12cを弾く。弾き爪41a2,41c2,41e2の振動板12a,12b,12cと当接する面は円弧状の曲面となっている。これらの第1、第3及び第5円板41a,41c,41eが本発明の弾き部材を構成する。
【0047】
第2円板41bは、円板状の本体41b1及び6つの第1被駆動爪41b2から構成される。第1被駆動爪41b2は本体41b1の外周に周方向に60度ずつずらして等間隔に設けられている。第1被駆動爪41b2は、突起状で、アーム36の第1駆動部38の先端面と当接する平面部と、第1駆動部38の屈曲部と当接する円弧状の曲面部とを有する。また、第4円板41dも、第2円板41bと同様に、円板状の本体41d1及び6つの第2被駆動爪41d2から構成される。第2被駆動爪41d2も、突起状で、アーム36の第2駆動部39の先端面と当接する平面部と、第2駆動部39の屈曲部と当接する円弧状の曲面部とを有する。ただし、第4円板41d及び第2円板41bは、各被駆動爪41b2,41d2の周方向の位置が30度ずれた状態で回転軸41fに固定されている。また、第1円板41aの弾き爪41a2と、第3円板41cの弾き爪41c2と、第5円板41eの弾き爪41e2とを合計した弾き爪41a2,41c2,41e2の総数は、第2円板41bの第1被駆動爪41b2の総数に等しいとともに、第4円板41dの第2被駆動爪41d2の総数にそれぞれ等しい。そして、第1円板41a、第3円板41c及び第5円板41eと、第2円板41bとは、弾き爪41a2,41c2,41e2と第1被駆動爪41b2の周方向の位置が30度ずれた状態で回転軸41fに固定されている。第1円板41a、第3円板41c及び第5円板41eと、第4円板41dとは、弾き爪41a2,41c2,41e2と第2被駆動爪41d2の周方向の位置が一致した状態で回転軸41fに固定されている。回転式弾き部41の後方には、振動板12a,12b,12cが鍵盤楽器10と同様に設けられている。
【0048】
次に、上記のように構成した鍵盤楽器10Aの低音部の鍵11を押離鍵操作したときの動作について説明する。図23A乃至図26Aは、回転式弾き部41の周辺を拡大して高音部側から見た図であり、図23B乃至図26Bは、回転式弾き部41の周辺を拡大して、低音部側から見た図である。また、第1駆動部38と第1被駆動爪41b2の位置関係、及び第2駆動部39と第2被駆動爪41d2の位置関係を明瞭に示すため、図23A乃至図26Aにおいては、第4円板41dを省略し、図23B乃至図26Bにおいては、第2円板41bを省略している。
【0049】
離鍵時には、ばね16によって、鍵11の前部が上方へ付勢されて、図19において時計回りに回転し、鍵11の後部下面が上限ストッパ18に当接して、図19の状態となっている。このとき、アーム36の第1駆動部38は、図23Aに示すように、回転式弾き部41の第1被駆動爪41b2から離れている。一方、図23Bに示すように、アーム36の第2駆動部39の先端面は、回転式弾き部41の第2被駆動爪41d2の平面部に当接している。さらに、第2駆動部39と第2被駆動爪41d2の円弧状の曲面同士が当接している。従って、この状態では、回転式弾き部41は第2駆動部39によって固定された状態になり、回転不可能となっている。
【0050】
一方、ばね16の付勢力に対抗して鍵11を押すと、鍵11は回転中心14を中心として、図19にて反時計回りに回転し始める。すると、鍵11の後部が上方に変位し、キャプスタン19に当接しているアーム36の前部を上方へ変位させる。これにより、アーム36は回転軸37a回りに、図19にて時計回りに回転する。さらに深く押鍵されると、図24Aに示すように、第1駆動部38の先端面が第1被駆動爪41b2の平面部に当接して、回転式弾き部41を図24Aにて時計回りに回転させようとする。このとき、図24Bに示すように第2被駆動爪41d2は、第2駆動部39から解放されているので、回転式弾き部41は回転可能となっている。したがって、回転式弾き部41が回転し、弾き爪41a2,41c2,41e2がそれぞれ振動板12a,12b,12cに近づいていく。そして、弾き爪41a2が振動板12aの自由端に当接して、振動板12aの自由端側を下方へ押し曲げる。このとき、弾き爪41c2は、弾き爪41a2に対して周方向に30度ずれており、弾き爪41e2は、弾き爪41a2に対して周方向に60度ずれているので、弾き爪41c2,41e2は、振動板12b,12cから離れている。
【0051】
回転式弾き部41がさらに回転すると、図25A及び図25Bに示すように、弾き爪41a2は振動板12aを乗り越える。すなわち、弾き爪41a2が振動板12aを弾く。そして、振動板12aが振動し、その振動が共鳴体28により増幅され、鍵音高に対応する楽器音が発音される。そして、鍵11の前部下面が下限ストッパ17に当接すると、鍵11の揺動は停止し、回転式弾き部41の回転も停止する。この状態では、図25Bに示すように、アーム36の第2駆動部39は、回転式弾き部41の第2被駆動爪41d2から離れている。一方、図25Aに示すように、アーム36の第1駆動部38及び回転式弾き部41の第1被駆動爪41b2の円弧状の曲面同士が当接するので、回転式弾き部41は回転不可能になっている。
【0052】
離鍵時には、ばね16の付勢力によって鍵11の前部が上方へ押し上げられる。これにより、鍵11は回転中心14を中心として、図19において時計回りに回転し始める。鍵11の後端部は下方へ変位し、アーム36は自重により回転軸37a回りに、図19にて反時計回りに回転する。すると、図26Bに示すように、第2駆動部39の先端面が第2被駆動爪41d2に当接して、回転式弾き部27を押鍵時と同じ方向(図26Aにて時計回り、すなわち図26Bにおいて反時計回り)へ回転させようとする。このとき、図26Aに示すように、第1被駆動爪41b2は第1駆動部38から解放されているので、回転式弾き部41は回転可能となっている。したがって、回転式弾き部41の回転により、振動板12aを弾いた弾き爪41a2が、振動板12aから遠ざかる。鍵11の後部下面が上限ストッパ18に当接すると、鍵11の前部の上方への変位が規制され、鍵11は元の位置(図19)へ復帰する。
【0053】
回転式弾き部41は、上記1回の押離鍵操作において、60度回転している。そして、次の押離鍵操作(2回目の押離鍵操作)においても、上記と同様に、第1駆動部38及び第2駆動部39がそれぞれ第1被駆動爪41b2及び第2被駆動爪41d2に係合して、回転式弾き部41が60度回転する。ただし、この2回目の押離鍵操作においては、弾き爪41a2及び弾き爪41e2は振動板12a,12cを弾かず、弾き爪41c2が振動板12bを弾いて発音する。さらに次の押離鍵操作(3回目の押離鍵操作)においても、上記と同様に、回転式弾き部41が60度回転する。この3回目の押離鍵操作においては、弾き爪41a2及び弾き爪41c2は振動板12a,12bを弾かず、弾き爪41e2が振動板12cを弾いて発音する。そして、3回目の離鍵操作の後、回転式弾き部41が元の状態(図19)へ復帰する。
【0054】
上記のように構成すれば第1実施形態に係る鍵盤楽器10と同様の効果に加えて、次のような効果が得られる。上記のように、鍵盤楽器10の低音部については、押離鍵操作ごとに振動板12a,12bが交互に弾かれる。一方、鍵盤楽器10Aの低音部においては、振動板12a,12b,12cのうちの1つの振動板が、この順に押鍵操作ごとに弾かれる。したがって、鍵盤楽器10,10Aの低音部の鍵11を繰り返し押鍵するときの繰返し速度を同一としたとき、ある振動板が弾かれてから、再びその振動板が弾かれるまでの時間は鍵盤楽器10よりも鍵盤楽器10Aの方が長い。すなわち、鍵盤楽器10Aにおいては、ある振動板が弾かれてから、再びその振動板が弾かれるまでに、その振動が十分に減衰する。したがって、鍵盤楽器10Aにおいては、より効果的にノイズの発生を抑制することができる。言い換えれば、同一の鍵11を繰り返し押鍵するときの繰返し速度については、鍵盤楽器10よりも鍵盤楽器10Aの方がより速い繰返し速度に対応できる。
【0055】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記第1及び第2実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0056】
上記第1実施形態においては、低音部の1つの鍵11に対応した2つの振動板12a.12bに対して弾き部材としての第1円板27a及び第4円板27dをそれぞれ設けた。また、上記第2実施形態においては、低音部の1つの鍵11に対応した振動板12a.12b、12cに対して弾き部材としての第1円板41a、第3円板41c及び第4円板41eを設けた。しかし、これに代えて、1つの鍵11に対応した2つの振動板12a.12b又は3つの振動板12a.12b,12cを弾くために、弾き部材として1つの円板だけを設けて、鍵11の離鍵があるごとに、前記1つの円板の位置をずらして、押鍵ごとに異なる振動板を順次弾くようにしてもよい。
【0057】
上記第1実施形態においては、低音部における弾き部材としての第1円板27a及び第4円板27dに、それぞれ2つずつの弾き爪27a2,27d2を設けるとともに、中音部及び高音部における弾き部材としての第2円板32bに4つの弾き爪32b2を設けた。また、上記第2実施形態においては、低音部における弾き部材としての第1円板41a、第3円板41c及び第5円板41eに、それぞれ2つずつの弾き爪41a2,41c2,41e2を設けるようにした。しかし、これらに代えて、前記各円板27a,27d,32b,41a,41c,41eにそれぞれ、1つだけ弾き爪を設けたり、3つ以上の弾き爪を設けるようにしてもよい。この場合、第1及び第4円板27a,27dに設けられる複数の弾き爪間の角度をそれぞれ均等にする。そして、第2及び第3円板27c,27dとアーム21とによる、1押鍵ごとの第1及び第4円板27a,27dの回転角が前記複数の弾き爪間の角度となるようにする。また、第2円板32bに設けられる弾き爪に関しても、複数であれば、それらの間の角度をそれぞれ均等にする。そして、第1及び第3円板32a,32cとアーム30とによる、1押鍵ごとの第2円板32bの回転角が前記複数の弾き爪間の角度となるようにする。また、第1、第3及び第5円板41a,41c,41eに設けられる複数の弾き爪間の角度をそれぞれ均等にする。そして、第2及び第4円板41b,42dとアーム36とによる、1押鍵ごとの第1、第3及び第5円板41a,41c,41eの回転角を前記複数の弾き爪間の角度となるようにする。
【0058】
上記第1実施形態においては、低音部の1つの鍵11に対して2つの振動板12a,12bを設けた。また、上記第2実施形態においては、低音部の1つの鍵11に対して3つの振動板12a,12b、12cを設けた。しかし、これらに代えて、1つの鍵11に対してさらに多くの振動板を設けるようにしてもよい。また、中音部及び高音部においても、振動板12aの振動の減衰時間によりノイズの発生が問題となる場合には、中音部及び高音部においても複数の振動板を設けるようにしてもよい。さらに、高音部、中音部及び低音部の順に振動板の減衰時間が順次長くなるので、中音部における振動板の数を高音部に比べて多く、低音部における振動板の数を中音部に比べてさらに多くというように、音域に応じて振動板の数を順に変更するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0059】
10,10A…鍵盤楽器、11…鍵、12a,12b,12c…振動板、21,36…アーム、23,38…第1駆動部、24,39…第2駆動部、27,41…回転式弾き部、27a,41a…第1円板、27a2,27d2,41a2,41c2,41e2…弾き爪、27b,41b…第2円板、27b2,41b2…第1被駆動爪、27c,41c……第3円板、27c2,41d2…第2被駆動爪、27d,41d…第4円板、28…共鳴体、41e…第5円板、FR…フレーム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
押鍵操作される複数の鍵と、
前記複数の鍵にそれぞれ対応して設けられ、各鍵の音高に対応した周波数で振動して発音する振動体をそれぞれ有する複数の振動部と、
前記複数の鍵にそれぞれ対応して設けられ、各鍵の押鍵操作に連動して前記各振動部の振動体をそれぞれ励振する複数の励振部とを備えた鍵盤楽器において、
前記複数の振動部のうちの少なくとも一部の振動部に、同一の周波数でそれぞれ振動する複数の振動体を設け、かつ
前記少なくとも一部の振動部に対応した一部の励振部は、前記同一の周波数でそれぞれ振動する複数の振動体のうちで、前回の押鍵操作に連動して励振した振動体とは異なる振動体を励振するようにしたことを特徴とする鍵盤楽器。
【請求項2】
請求項1に記載の鍵盤楽器において、
前記振動体を片持ち振動板で構成し、
前記励振部は、前記片持ち振動板を弾く弾き部材を有し、かつ
前記少なくとも一部の振動部に対応した一部の励振部は、前記同一の周波数でそれぞれ振動する複数の片持ち振動板をそれぞれ弾く複数の弾き部材を有することを特徴とする鍵盤楽器。
【請求項3】
請求項2に記載の鍵盤楽器において、
前記各弾き部材は、回転可能に支持された本体及び前記本体に設けられて前記片持ち振動板を弾くための1つ又は複数の弾き爪からなり、
前記励振部は、前記鍵の押鍵操作時に前記弾き部材を所定方向へ所定角度回転させ、前記鍵の離鍵操作時に前記弾き部材を前記所定方向と同じ方向へ所定角度回転させるアームを有することを特徴とする鍵盤楽器。
【請求項4】
請求項3に記載の鍵盤楽器において、
前記少なくとも一部の振動部に対応した一部の励振部における複数の弾き部材は、共通の回転軸に連結されており、
前記少なくとも一部の振動部に対応した一部の励振部は、前記押鍵操作に連動して、前記複数の弾き部材に挟まれる位置にて前記共通の回転軸を回転駆動するようにしたことを特徴とする鍵盤楽器。
【請求項5】
前記少なくとも一部の振動部は、低音部の鍵に対応した振動部であることを特徴とする請求項1乃至4に記載の鍵盤楽器。
【請求項1】
押鍵操作される複数の鍵と、
前記複数の鍵にそれぞれ対応して設けられ、各鍵の音高に対応した周波数で振動して発音する振動体をそれぞれ有する複数の振動部と、
前記複数の鍵にそれぞれ対応して設けられ、各鍵の押鍵操作に連動して前記各振動部の振動体をそれぞれ励振する複数の励振部とを備えた鍵盤楽器において、
前記複数の振動部のうちの少なくとも一部の振動部に、同一の周波数でそれぞれ振動する複数の振動体を設け、かつ
前記少なくとも一部の振動部に対応した一部の励振部は、前記同一の周波数でそれぞれ振動する複数の振動体のうちで、前回の押鍵操作に連動して励振した振動体とは異なる振動体を励振するようにしたことを特徴とする鍵盤楽器。
【請求項2】
請求項1に記載の鍵盤楽器において、
前記振動体を片持ち振動板で構成し、
前記励振部は、前記片持ち振動板を弾く弾き部材を有し、かつ
前記少なくとも一部の振動部に対応した一部の励振部は、前記同一の周波数でそれぞれ振動する複数の片持ち振動板をそれぞれ弾く複数の弾き部材を有することを特徴とする鍵盤楽器。
【請求項3】
請求項2に記載の鍵盤楽器において、
前記各弾き部材は、回転可能に支持された本体及び前記本体に設けられて前記片持ち振動板を弾くための1つ又は複数の弾き爪からなり、
前記励振部は、前記鍵の押鍵操作時に前記弾き部材を所定方向へ所定角度回転させ、前記鍵の離鍵操作時に前記弾き部材を前記所定方向と同じ方向へ所定角度回転させるアームを有することを特徴とする鍵盤楽器。
【請求項4】
請求項3に記載の鍵盤楽器において、
前記少なくとも一部の振動部に対応した一部の励振部における複数の弾き部材は、共通の回転軸に連結されており、
前記少なくとも一部の振動部に対応した一部の励振部は、前記押鍵操作に連動して、前記複数の弾き部材に挟まれる位置にて前記共通の回転軸を回転駆動するようにしたことを特徴とする鍵盤楽器。
【請求項5】
前記少なくとも一部の振動部は、低音部の鍵に対応した振動部であることを特徴とする請求項1乃至4に記載の鍵盤楽器。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図15A】
【図15B】
【図16A】
【図16B】
【図17A】
【図17B】
【図18】
【図19】
【図20A】
【図20B】
【図21A】
【図21B】
【図22A】
【図22B】
【図22C】
【図23A】
【図23B】
【図24A】
【図24B】
【図25A】
【図25B】
【図26A】
【図26B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図15A】
【図15B】
【図16A】
【図16B】
【図17A】
【図17B】
【図18】
【図19】
【図20A】
【図20B】
【図21A】
【図21B】
【図22A】
【図22B】
【図22C】
【図23A】
【図23B】
【図24A】
【図24B】
【図25A】
【図25B】
【図26A】
【図26B】
【公開番号】特開2011−75755(P2011−75755A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226155(P2009−226155)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
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