説明

鎮痒剤

【課題】 安全性が高く、皮膚疾患に伴う痒みを緩和、軽減する効果に優れる鎮痒剤を提供すること。
【解決手段】スギの精油を有効成分とする鎮痒剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、痒みを抑制する効果に優れた鎮痒剤に関し、より詳細には、アトピー性皮膚炎や老人性皮膚掻痒症などの皮膚疾患に伴う痒みを有効に緩和、軽減し得る安全性の高い鎮痒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
痒みは、多くの皮膚疾患において重要な症状の一つであるが、非常に不快な感覚であり、掻破行動を誘発して、皮膚のバリアを破壊し、刺激物質の経皮的浸入を助長して皮膚症状を憎悪させる。したがって、痒みを制御することは、皮膚症状の悪化を防ぎ、皮膚疾患の患者の苦痛を軽減する上で極めて重要である。
【0003】
痒みを伴う皮膚疾患として、例えばアトピー性皮膚炎、老人性皮膚掻痒症、湿疹、乾燥肌、蕁麻疹、皮膚掻痒症、虫さされ等が知られており、特に、アトピー性皮膚炎は激しい痒みを伴い、憎悪・寛解を繰り返しながら慢性化することが多い。アトピー性皮膚炎の治療には、主に外用剤としてステロイド剤やタクロリムスが使用されているが、ステロイド剤には、皮膚萎縮、紫斑、毛細血管拡張などの副作用の問題があるため、その使用は望ましいものではない。タクロリムスについても、その安全性に対する懸念が指摘されている。
【0004】
一方、後継者不足等により、山林の手入れが行き届かなくなり、その荒廃が大きな問題とされている。スギやヒノキなどの山林を維持するためには、間伐や枝打ち等を行う必要があるが、間伐材や、枝打ちで落とされた枝葉について経済的な価値がないため、手入れがおろそかになり荒廃が進んでいるのが現状である。
【0005】
そこで、間伐材などを加工して有用資源化することが検討されているが、コスト等の問題から実用化には課題も多く、特に枝葉の部分についてはこれまで有効な利用方法が知られておらず、ほとんど廃棄されているのが実状であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、スギの枝葉や材を利用して、皮膚疾患等に伴う痒みを効果的に抑制することができ、長期間にわたって、反復・休止を繰り返しながら使用しても、リバウンドや副作用等の問題のない安全性の高い鎮痒剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、スギから得られた精油が優れた鎮痒作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、スギの精油を有効成分とする鎮痒剤である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の鎮痒剤は、皮膚疾患等に伴う痒みを有効に緩和、抑制し、掻破行動による皮膚症状の悪化を防ぎ、患者の苦痛を軽減することができる。また、安全性も高く、長期にわたって使用しても副作用等の問題の少ないものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
試験例1において、痒みの指標として用いたフェイススケールである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の鎮痒剤は、スギの精油を有効成分とするものである。
【0012】
本発明で用いられるスギは、日本固有の日本柳杉(Cryptomeria japonica)である。
【0013】
スギの部位としては特に限定されず、葉、枝、材部、樹皮等のいずれの部位も使用することができる。例えば、枝打ち等で得られた枝葉や間伐材を用いることができ、これにより、資源の有効利用化が図れ、また経済性の面でも有利となる。これらはそのまま用いても良いが、粉砕機等により粉砕して大きさ5〜10cm程度のペレット状とすることが好ましい。
【0014】
スギの採取時期は特に限定されないが、スギが花粉を付けていない時期に採取することが好ましい。スギは、通常2〜4月に開花するが、雄花から放出される花粉が枝葉などに付着していると、精油を抽出する際にアレルギーの抗原が含まれる場合がある。このような抗原を含む精油を、例えば、アレルギー性疾患に伴う痒みを軽減するために適用した場合、患者に悪影響を及ぼすおそれがある。また、スギは、生育する地層や地上・地下水脈に、空中散布された農薬やゴルフ場の除草剤などの化学物質が混入しない場所で採取されたものであることが望ましい。
【0015】
採取したスギの枝葉や材部等は、必要により流水で洗浄し、屋内の風通しの良い場所に保管される。精油成分が揮発したり、発酵する場合があるため、長期間の保管は好ましくなく、採取後3日以内には精油の抽出処理を行うことが望ましい。
【0016】
精油は、上記スギの葉、枝、材部等を、常圧水蒸気蒸留法、減圧水蒸気蒸留法、加圧水蒸気蒸留法、亜臨界抽出法、超臨界抽出法、電子線加熱抽出法等の従来公知の精油採取方法に付すことにより得ることができる。このうち、常圧水蒸気蒸留法、減圧水蒸気蒸留法、加圧水蒸気蒸留法などの水蒸気蒸留法が好適に利用される。常圧水蒸気蒸留法および減圧水蒸気蒸留法は、熱による蒸留成分の変性が少なく、加圧水蒸気蒸溜法は収率が高いという利点がある。水蒸気蒸留は常法に従って行えばよく、例えば、常圧水蒸気蒸溜法は温度80℃〜100℃、圧力0.1MPa、加圧水蒸気蒸溜法は温度110℃〜190℃、圧力最大1MPa程度の条件で蒸留し、発生した気体を冷却して得られた蒸留成分のうち、油性成分を採取することにより精油が得られる。
【0017】
本発明の鎮痒剤におけるスギの精油の含有量は、通常5〜80mL/100g程度である。
【0018】
本発明の鎮痒剤は、有効成分であるスギの精油に通常化粧料や医薬品等に使用される担体を組み合わせ、常法にしたがって製剤化することにより得られる。担体としては、スクワラン、スイート・アーモンドオイル(Prunus amygdalus)、アプリコット・カーネルオイル(Prunus armeniaca)、アボガドオイル(Persea americana)、イブニング・プリムローズオイル(月見草油,Oenothera biennis)、カレンデュラオイル(Calendula officinalis)、ココナツオイル(Cocus nucifera)、グレープシード・オイル(Vitis vinifera)、サンフラワーオイル(Helianthus annuuss)、セントジョーンズワートオイル(Hypericum perforatum)、ピーチカーネルオイル(Prunus persica)、ヘーゼルナッツオイル(Corylus avellana)、ホホバオイル(Simmondsia chinensis)、ポリジオイル(ポラージオイル,Borago officinalis)、マカデミアンナッツオイル(Macadamia integrifolia)、ローズヒップオイル(Rosa rubiginosa)、ウィートジャームオイル(小麦胚芽油,Triticum vulgare)、カメリアオイル(椿油,Camellia oleifera)、ごま油(Sesamum orientale)、オリーブオイル(Olea europaea)等の油性基剤を例示することができる。これらのうち、皮膚への浸透性が高いこと等から、マカデミアンナッツオイル、アロエオイル、カメリアオイル等が好ましく用いられる。また、水など水性溶媒を担体とし、これにひまし油系分散剤など公知の分散剤によりスギ精油を分散させた懸濁液とすることも可能である。さらに公知のマイクロカプセル化技術により、スギの精油を内包したマイクロカプセルとし、適当な担体に分散させてもよい。マイクロカプセル化することにより、鎮痒効果の持続性が向上するため好ましい。すなわち、適用後一定時間経過すると、有効成分であるスギの精油が経皮吸収され、また揮発して鎮痒作用が低下するが、適用部分を指などで摩擦すると、マイクロカプセルが崩壊し、スギ精油が放出されて鎮痒効果が再び発揮される。このように、鎮痒効果が持続して得られるため、適用回数を減らすことができ、患者の負担を軽減することが可能となる。本発明の鎮痒剤には、さらに、通常化粧料や医薬品等に使用される成分を必要に応じ配合することができ、このような任意成分としては、例えば、カプサイシン、メントール等が例示できる。
【0019】
また本発明の鎮痒剤の形態としては、特に限定されるものではないが、乳液、オイルローション、化粧水、クリーム、スプレー、軟膏、スティック、オイルデフューザー(蒸散器)用オイルなどが例示でき、このような形態の化粧料や外用医薬品等とすることができる。
【実施例】
【0020】
次に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に何ら制約されるものではない。
【0021】
実 施 例 1
スギ葉精油の調製:
花粉の付いていない9〜10月にスギの葉を採取した。スギ葉を粉砕機((株)フジテックス社製、TIGER SHRED WOODS)でペレット状に粉砕し、流水で洗浄した。粉砕したスギの葉180kgを、水蒸気蒸留装置((株)庄内鉄工社製、Y−045)に投入し、100℃、0.1MPaで3.5時間蒸留して精油を得た。得られた精油の量は1200mLであり、投入原料に対する精油の割合は、0.58%であった。得られた精油の組成について、ガスクロマトグラフにより分析した。結果を表1のようになった。
【0022】
【表1】

【0023】
実 施 例 2
スギ材精油の調製(1):
スギ材(製材)を粉砕機((株)フジテックス社製、TIGER SHRED WOODS)でペレット状に粉砕し、流水で洗浄した。粉砕したスギ材66.3kgを、水蒸気蒸留装置(ドリュアス社製)に投入し、174℃、0.7MPaで2.5時間蒸留して精油を得た。得られた精油の量は795.6mLであり、投入原料に対する精油の割合は、1.04%であった。得られた精油の組成について、ガスクロマトグラフにより分析した。結果を表2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
実 施 例 3
スギ材精油の調製(2):
スギ材のおが屑や製材の残渣220kgを水蒸気蒸溜装置((株)庄内鉄工製、Y−045)に投入し、100℃、0.1MPaで3時間蒸溜して精油を得た。得られた精油の量は508mlであった。投入材料に対する精油の割合は、0.2%であった。
【0026】
実 施 例 4
鎮痒剤の調製(1):
下記処方のオイルローションを常法により製造した。
(成 分) (質量%)
実施例1のスギ葉精油 10
マカデミアンナッツ油 90
【0027】
実 施 例 5
鎮痒剤の調製(2):
下記処方のオイルローションを常法により製造した。
(成 分) (質量%)
実施例2のスギ材精油 10
マカデミアンナッツ油 90
【0028】
試 験 例 1
アトピー性皮膚炎患者263名を対象として臨床試験を行った。実施例4で調製したオイルローションを患部に塗布してパッティングしてもらい、患者の痒みの体感を図1に示すフェイススケールを指標として下記6段階で評価した。結果を表3に示す。
【0029】
0:まったく「かゆみ」が抑制されない
1:ごく僅か「かゆみ」が抑制される
2:少し「かゆみ」が抑制される
3:「かゆみ」が抑制される
4:非常に「かゆみ」が抑制される
5:完全に「かゆみ」が抑制される
【0030】
【表3】

【0031】
一般に、患者はフェイススケールが3〜5であると、継続して使用したいと考える傾向にあるため、治験者数の78.71%に有意な痒み抑制効果があると判断された。
【0032】
試 験 例 2
アトピー性皮膚炎患者44名を対象として、実施例5で調製したスギ材精油含有オイルローションを用いて試験例1と同様にして臨床試験を行った。結果を表4に示す。
【0033】
【表4】

【0034】
この結果より、治験者数の72.73%に有意な痒み抑制効果があると判断された。
【0035】
実 施 例 6
スギ葉精油マイクロカプセル含有クリームの調製:
壁物質としてゼラチンを使用して、コアセルベーション法によって実施例1で得られたスギ葉精油のマイクロカプセル化を行った。ゼラチンを乳化分散した分散相にスギ葉精油を滴状に分散させ、この乳化分散液を攪拌しながらカプセル膜を形成させた。カプセル膜の形成は、温度40〜50℃、時間10〜30分で行った。次に、硬化剤を加えて膜を安定させて、マイクロカプセルを製造した。このマイクロカプセルをグリセリンなどの基剤に混合、分散させることによって、スギ葉精油マイクロカプセル含有クリームを調製した。
【0036】
このクリームを肌に適用した後、一定時間経過するとスギ葉精油の芳香が弱まり、鎮痒作用も低下するが、さらに指で適用部分を摩擦するとマイクロカプセルが崩壊し、再び芳香が強くなるとともに、鎮痒作用が持続して発揮された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、安全性が高く、種々の皮膚疾患による痒みを有効に緩和、軽減し得る鎮痒剤を得ることができる。また、従来ほとんど廃棄されていたスギの枝葉等を有効利用することができ、本発明は資源のリサイクル等においても有用なものである。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スギの精油を有効成分とする鎮痒剤。
【請求項2】
精油が、スギを水蒸気蒸留して得られたものである請求項1記載の鎮痒剤。
【請求項3】
スギが、花粉の付かない時期に採取されたものである請求項1または2に記載の鎮痒剤。
【請求項4】
アトピー性皮膚炎に伴う痒みを軽減するものである請求項1ないし3のいずれかの項記載の鎮痒剤。

【公開番号】特開2011−219423(P2011−219423A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91335(P2010−91335)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(599043828)有限会社サクセス (1)
【Fターム(参考)】