説明

鎮痒物質のスクリーニング方法及び評価方法

【課題】簡便で、短時間に行うことができ、かつ、再現性のよい鎮痒物質を見出すためのスクリーニング方法、及び鎮痒物質の鎮痒効果を評価する方法を提供する。
【解決手段】(1)掻き行動を惹起するために、掻痒惹起物質を実験動物に塗布することを特徴とする、鎮痒物質を見出すためのスクリーニング方法、又は、鎮痒効果を評価する方法、(2)以下の工程を含む、鎮痒物質を見出すためのスクリーニング方法、又は、鎮痒物質の鎮痒効果を評価する方法(a)掻痒惹起物質を実験動物に塗布する工程、(b)被験物質を実験動物に投与する工程、及び(c)掻痒惹起物質を実験動物に塗布することにより惹起される掻き行動が、被験物質の投与の有無でどのように変化するかを調べる工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鎮痒物質を見出すためのスクリーニング方法、及び鎮痒物質の鎮痒効果の評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、掻痒惹起物質であるcompound48/80をマウスに皮下投与することによって惹起される掻き行動を指標に、経口剤の鎮痒効果を評価することが報告されている(例えば、非特許文献1、2参照。)。しかしながら、この方法での掻き回数は30分間で約60〜90回であり、しかもそのばらつきが大きいため、鎮痒効果の評価が困難である。また、この方法で用いる皮下投与は全身投与の一態様であるが、痒みは皮膚表面に生じるものであり、鎮痒効果を評価する方法としては最適であるとは言い難い。さらに、皮下投与を行う前には投与部位を剃毛する必要があるので、実験操作が煩雑となる。
【0003】
上記とは投与方法等が若干異なるが、掻痒惹起物質であるヒスタミン、compound48/80をマウスに皮内投与することにより惹起される掻き行動を指標に、外用剤の鎮痒効果を評価することが報告されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この方法での掻き回数は30分間で約70〜110回(ヒスタミン)又は約80〜130回(compound48/80)であり、しかもそのばらつきも大きいため、鎮痒効果の評価が困難である。また、この方法では、用いる動物を前日にエーテル麻酔のもと剃毛処理した後、掻痒惹起物質を皮内投与する必要があるため、短時間で行うことができず、皮内投与にも高度の技術を要し、実験操作も煩雑となる。
【0004】
また、掻痒惹起物質であるセロトニンをマウスに皮内投与することにより惹起される掻き行動を指標に、外用剤の鎮痒効果を評価することが報告されている(例えば、特許文献2参照。)。しかしながら、この方法による掻き回数は30分間で約110〜170回であり、やはりそのばらつきも大きいため、鎮痒効果の評価が困難である。また、この方法では、被験物質の24時間クローズドパッチを行い、その後セロトニンを皮内注射することにより惹起される掻き行動を調べており、短時間で行うことができず、また、皮内投与にも高度の技術を要する。さらに、皮内投与を行う前には投与部位を剃毛する必要があり、実験操作も煩雑となる。
【特許文献1】特開2001−324495号公報
【特許文献2】特開平8−217677号公報
【非特許文献1】Kuraishi Y,et al, Eur.J.Pharmacol., 275, 229−233(1995)
【非特許文献2】Ishiguro K, et al, Journal of Natural Products, 61(9),1126−1129(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、簡便で、短時間に行うことができ、かつ、再現性のよい鎮痒物質を見出すためのスクリーニング方法、及び鎮痒物質の鎮痒効果を評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、掻痒惹起物質を実験動物に塗布するだけで掻き行動が惹起されることを見出し、かかる知見に基づいて更なる研究を重ねた結果、上記目的を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
本発明としては、例えば、下記のものを挙げることができる。
(1)掻き行動を惹起するために、掻痒惹起物質を実験動物に塗布することを特徴とする、鎮痒物質を見出すためのスクリーニング方法
(2)掻痒惹起物質を実験動物に塗布することにより惹起される掻き行動が、被験物質の投与の有無でどのように変化するかを調べることを含む、上記(1)のスクリーニング方法
(3)掻き行動が惹起された実験動物が、掻痒惹起物質の塗布部位付近を前肢又は後肢を使ってストロークする回数(掻き回数)を測定することを含む、上記(1)のスクリーニング方法
(4)以下の工程を含む、鎮痒物質を見出すためのスクリーニング方法
(a)掻痒惹起物質を実験動物に塗布する工程、
(b)被験物質を実験動物に投与する工程、及び
(c)掻痒惹起物質を実験動物に塗布することにより惹起される掻き行動が、被験物質の投与の有無でどのように変化するかを調べる工程
(5)掻き行動が惹起された実験動物が、掻痒惹起物質の塗布部位付近を前肢又は後肢を使ってストロークする回数(掻き回数)を測定する工程を含む、上記(4)のスクリーニング方法
(6)掻き行動を惹起するために、掻痒惹起物質を実験動物に塗布することを特徴とする、鎮痒物質の鎮痒効果を評価する方法
(7)掻痒惹起物質を実験動物に塗布することにより惹起される掻き行動が、鎮痒物質の投与の有無でどのように変化するかを調べることを含む、上記(6)の評価方法
(8)掻き行動が惹起された実験動物が、掻痒惹起物質の塗布部位付近を前肢又は後肢を使ってストロークする回数(掻き回数)を測定することを含む、上記(6)記載の評価方法
(9)以下の工程を含む、鎮痒物質の鎮痒効果を評価する方法
(a)掻痒惹起物質を実験動物に塗布する工程、
(b)鎮痒物質を実験動物に投与する工程、及び
(c)掻痒惹起物質を実験動物に塗布することにより惹起される掻き行動が、鎮痒物質の投与の有無でどのように変化するかを調べる工程
(10)掻き行動が惹起された実験動物が、掻痒惹起物質の塗布部位付近を前肢又は後肢を使ってストロークする回数(掻き回数)を測定する工程を含む、上記(9)記載の評価方法
【0008】
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明において「掻き行動」とは、実験動物が掻痒惹起物質の塗布部位付近を前肢又は後肢を使って引っ掻く行動のことをいう。かかる掻き行動の程度は、例えば、実験動物が前肢若しくは後肢を使ってストロークする回数(掻き回数)を測定したり、実験動物が前肢若しくは後肢を使って掻く範囲(面積)を測定したり、又は、掻いている延べ時間を測定することにより評価することができる。これらの評価手法の中で、前肢又は後肢を使ってストロークする回数(掻き回数)を測定して掻き行動の程度を評価するのが好ましい。
【0010】
本発明において「掻痒惹起物質」とは、痒みを惹き起こすことができる物質をいい、例えば、セロトニン又はその塩、ヒスタミン、compound40/80を挙げることができる。本発明で用いうる掻痒惹起物質は、これらに制限されないが、特にセロトニン又はその塩(例えば、セロトニン塩酸塩)が好ましい。
【0011】
本発明で用いうる実験動物は、本発明を実施しうる動物であれば特に制限されない。具体例としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ及びサルを挙げることができる。なかでもマウス、ラット及びモルモットが好ましく、小型で、取り扱い易く安価なマウスがより好ましい。マウスの中でも特に、ddY系マウス、C57BL/6J系マウス、ICR系マウスが好ましい。
【0012】
掻痒惹起物質の「塗布部位」は特に制限されないが、ストロークする回数(掻き回数)を測定する場合には、実験動物の前肢又は後肢が届く部位であって、実験動物の頭頸部が届かない部位が好ましく、頚背部がより好ましい。
【0013】
「掻痒惹起物質を実験動物に塗布」する方法としては、有効に塗布しうる方法であれば特に制限されないが、例えば、掻痒惹起物質をそのまま塗布する方法、適当な溶媒に掻痒惹起物質を溶解又は懸濁した液を適当な器具(例、ピペット)を使って塗布(滴下)する方法、掻痒惹起物質を含有するローション剤や軟膏剤を塗布する方法を挙げることができる。これらの塗布方法の中で、適当な溶媒に掻痒惹起物質を溶解又は懸濁した液を適当な器具(例、ピペット)を使って塗布(滴下)する方法が好ましい。
掻痒惹起物質を溶解又は懸濁させる溶媒としては特に制限されないが、掻痒惹起物質を溶解させるものであって、皮膚に対して刺激性が低いものが好ましく、例えば、エタノールや水(精製水、蒸留水、生理的食塩水、水道水、等)を挙げることができる。
【0014】
本発明において「鎮痒物質」とは、例えば、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、乾癬、白癬、乾皮症、尋常性白斑、虫排泄・分泌物が原因となる局所性皮膚掻痒症、結節性痒疹、腎透析、糖尿病、血液疾患、肝疾患、腎疾患、内分泌・代謝異常、内臓悪性腫瘍、甲状腺機能亢進症、自己免疫疾患、多発性硬化症、神経疾患、精神神経症、アレルギー性結膜炎、春季カタル、アトピー性角結膜炎又は嗜好品・薬剤の過度の使用などに伴っておこる、痒みを抑えることができる物質をいう。
【0015】
「被験物質を実験動物に投与」する方法、「鎮痒物質を実験動物に投与」する方法は、実験動物に被験物質又は鎮痒物質を投与できる方法であれば特に制限されず、例えば、点眼投与、経皮投与、経口投与、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、又は皮内投与による方法を挙げることができる。具体的には、被験物質又は鎮痒物質を適当な溶媒に溶解又は懸濁した液を点眼する方法、被験物質又は鎮痒物質をそのまま塗布する方法、適当な溶媒に掻痒惹起物質を溶解又は懸濁した液を適当な器具(例、ピペット)を使って塗布(滴下)する方法、被験物質又は鎮痒物質を含有するローション剤や軟膏剤を塗布する方法、被験物質若しくは鎮痒物質をそのまま又はこれらを含有する薬剤を口から与える方法、被験物質又は鎮痒物質を適当な溶媒に溶解又は懸濁した液を静脈内、腹腔内、皮下、又は皮内に注射する方法を挙げることができる。これらの投与方法の中で、経皮投与、経口投与による方法が好ましく、経皮投与の中でも塗布による方法が好ましい。塗布による方法の場合、掻痒惹起物質を塗布する方法と同じ方法で塗布することが好ましい。
被験物質又は鎮痒物質を溶解又は懸濁させる溶媒は、特に制限されないが、掻痒惹起物質を溶解又は懸濁させた溶媒と同じものが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係るスクリーニング方法又は評価方法は、掻痒惹起物質を実験動物に塗布することにより惹起される掻き行動を指標として行われる。具体的には、例えば、以下の(a)〜(d)の工程を含むスクリーニング方法又は評価方法を挙げることができる。
(a)セロトニン又はその塩を含むエタノール溶液をマウスの頚背部に塗布する工程、
(b)該塗布部位に被験物質を含むエタノール溶液を塗布する工程又はコントロールの場合には被験物質を含まないエタノールを塗布する工程、
(c)マウスが、セロトニン又はその塩を含むエタノール溶液の塗布部位付近を前肢又は後肢を使ってストロークする回数(掻き回数)を測定する工程、及び
(d)被験物質又は鎮痒物質を含むエタノール溶液を塗布したマウスの掻き回数と、被験物質も鎮痒物質も含まないエタノールを塗布したマウスの掻き回数とを比較する工程
【0017】
掻痒惹起物質の塗布量は、用いる掻痒惹起物質の種類、実験動物の種類や週齢、被験物質又は鎮痒物質の投与量や種類などにより異なるが、1μL/匹〜1000μL/匹が好ましく、10μL/匹〜300μL/匹がより好ましい。さらに好ましくは100μL/匹である。
【0018】
被験物質又は鎮痒物質の投与量は、用いる被験物質又は鎮痒物質が示す鎮痒作用の程度やその投与方法、実験動物の種類や週齢、掻痒惹起物質の種類や塗布量などにより異なるが、例えば、被験物質又は鎮痒物質をエタノールに溶解して塗布により投与する場合は、1μL/匹〜1000μL/匹が好ましく、10μL/匹〜300μL/匹がより好ましい。さらに好ましくは100μL/匹である。また、被験物質又は鎮痒物質を経口投与する場合は、0.01mg/kg〜100mg/kgが好ましく、0.3mg/kg〜30mg/kgがより好ましい。さらに好ましくは10mg/kgである。
【0019】
掻痒惹起物質の塗布と被験物質又は鎮痒物質の投与の投与順及びその時間差は、掻痒惹起物質の種類、塗布量や塗布方法、被験物質又は鎮痒物質の種類、投与量や投与方法、実験動物の種類等により異なるが、例えば、被験物質又は鎮痒物質を塗布により投与する場合には、掻痒惹起物質の塗布直後に被験物質若しくは鎮痒物質を塗布するか、又は、逆に被験物質若しくは鎮痒物質の塗布直後に掻痒惹起物質を塗布するのが好ましい。また、被験物質又は鎮痒物質を経口投与する場合には、掻痒惹起物質を塗布する10分〜1時間前に被験物質又は鎮痒物質を経口投与するのが好ましく、20分〜40分前に被験物質又は鎮痒物質を経口投与するのがより好ましい。
【0020】
掻痒惹起物質を実験動物に塗布することにより惹起される掻き行動を測定する時間は、掻き回数を測定する場合には、掻痒惹起物質の塗布又は被験物質若しくは鎮痒物質の投与の直後から観察を開始し、続けて5分間〜60分間測定するのが好ましく、10分間〜30分間測定するのがより好ましい。
【実施例】
【0021】
以下に試験例及び実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0022】
試験例1
4−6週齢雄性ICR系マウス(日本エスエルシー株式会社)の頚背部に生理的食塩液に溶解させた掻痒惹起物質を塗布(100μL)、皮下投与(100μL)又は皮内投与(50μL)した場合に惹起される頚背部付近の掻き回数(前肢又は後肢をストロークする回数)を、掻痒惹起物質の塗布直後から30分間測定した。掻痒惹起物質として、塗布による投与の場合にはセロトニン塩酸塩(1重量%、ナカライテスク社製、以下セロトニンと称する)を、皮下投与の場合にはcompound48/80(ナカライテスク社製、5μg)を、皮内投与の場合にはcompound 48/80(20μg)、セロトニン(100nmol)、又はヒスタミン(100nmol)を、それぞれ用いた。その結果を図1に示す。
図1に示す通り、セロトニン塗布群における掻き回数が最も多く、平均245.8回(標準誤差18.4)であった。他の方法による掻き回数は平均76.7〜139.0回とセロトニン塗布群よりも少なく、試験系のバラツキを表す標準誤差も21.0〜27.1と大きいものであった。
この結果から、セロトニン塗布によって誘発される掻き行動は他の方法よりも掻き行動の多さ、標準誤差の小ささという点で優れており、掻き行動の抑制作用を評価する試験系としては最も優れていることは明らかである。
【0023】
試験例2
4−6週齢雄性ICR系マウスの頚背部に生理的食塩液に溶解させた0.1重量%セロトニン塩酸塩100μLを塗布した直後に、鎮痒物質として化合物A/4−[((1S,2R)−2−{[アミノ(イミノ)メチル]アミノ}シクロヘキシル)アミノ]−N−イソブチル−6−メチルキナゾリン−2−カルボキサミド 二塩酸塩を用い、そのエタノール溶液100μL(0.01重量%及び0.1重量%)を頚背部に塗布した。化合物Aを塗布した直後から15分間、マウスが頚背部付近を前肢又は後肢を使ってストロークする回数(掻き回数)を測定した。なお、化合物Aを含まないエタノールを100μl塗布したマウス群を対照とした。その結果を図2に示す。
図2に示す通り、対照群の掻き回数は平均222.3回(標準誤差35.0)であったが、鎮痒物質を塗布した場合は0.01重量%の場合には平均135.3回(標準誤差20.8)、0.1重量%の場合には平均82.0回(標準誤差12.7)と用量依存的に掻き行動の抑制が見られた。
図2中の「*」は、Dunnett検定による対照群との有意差レベルがP<0.05であることを意味し、「**」当該有意差レベルがP<0.01であることを意味する。
【0024】
試験例3
4−6週齢雄性ICR系マウスに、オピオイド拮抗薬(鎮痒物質)であるナルトレキソン30mg/kgを経口投与した。その30分後、マウスの頚背部に生理的食塩液に溶解させた1重量%セロトニン塩酸塩100μLを塗布し、惹起される頚背部付近の掻き回数(前肢又は後肢をストロークする回数)をセロトニン塗布直後から15分間測定した。なお、ナルトレキソンを含まない蒸留水を経口投与したマウス群を対照とした。その結果を図3に示す。
図3に示す通り、対照群の掻き回数は平均222.8回(標準誤差48.5)であったが、ナルトレキソンを投与した場合は平均145.7回(標準誤差21.0)と掻き行動の抑制が見られた。
なお、t検定の結果、対照群との有意差レベルはP=0.094であった。
ナルトレキソンは臨床において痒みを抑制すること(Lancet,1996,348(9041),1552−1554、Gastroenterology,1997,113(4),1264−1269、J.Am.Acad.Dermatol.,1999,41(4),533−539)やアトピー性皮膚炎に伴う痒み過敏を抑制する作用を有すること(Exp.Dermatol.,2002,11(5),448−455)が報告されている。
【0025】
試験例4
4−6週齢雄性ICR系マウスに、オピオイドκ受容体作動薬(鎮痒物質)であるTRK−820(ナルフラフィン)を経口投与した。その30分後、マウスの頚背部に生理的食塩液に溶解させた0.1重量%セロトニン塩酸塩100μLを塗布し、惹起される頚背部付近の掻き回数(前肢又は後肢をストロークする回数)をセロトニン塗布直後から15分間測定した。なお、TRK−820を含まない蒸留水を経口投与したマウス群を対照とした。その結果を図4に示す。
図4に示す通り、対照群の掻き回数は平均144.0回(標準誤差19.9)であったが、TRK−820を30μg/kg投与した場合には平均118.3回(標準誤差27.8)、100μg/kg投与した場合には平均51.8回(標準誤差8.4)、300μg/kg投与した場合には平均7.8回(標準誤差7.0)と、用量依存的に掻き行動の抑制が見られた。
TRK−820は現在、抗掻痒剤として開発中の化合物で、臨床試験において腎透析による痒みを抑制することが報告されている(Eur.J.Pharmacol.,2002,453,259−264、J.Am.Soc.Nephrol.,2005,16,3742−3747)。
図4中の「**」は、Dunnett検定による対照群との有意差レベルがP<0.01であることを意味する。
【0026】
上記の通り、本発明によれば、短時間で頻繁な掻き行動が惹起され、掻き回数を行った延べ時間のばらつきも少ない。また、本発明によれば、掻痒惹起物質を塗布することにより掻き行動を惹起させるが、掻痒惹起物質を皮下投与や皮内投与する従前の方法において必要な投与部位の剃毛の必要もなく、実験操作が容易である。また、注射を行う必要がないため、注射針による刺激もなく、精確に鎮痒効果を評価することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、従来法に比べて、簡便に精度よく鎮痒物質をスクリーニングすることができ、また、鎮痒物質の鎮痒効果を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、異なる方法で掻痒惹起物質を投与した場合の掻き回数を表す。縦軸は30分間の掻き回数(平均値±標準誤差)を示す。黒カラムはセロトニンを塗布した結果を、白カラムは、左から順にcompound48/80の皮下投与、compound48/80の皮内投与、セトロニンの皮内投与、ヒスタミンの皮内投与の結果をそれぞれ示す。
【図2】図2は、化合物Aを塗布した場合の掻き回数を表す。縦軸は15分間の掻き回数(平均値±標準誤差)を示す。白カラムは溶媒を塗布(対照)した結果を、黒カラムは化合物Aを塗布した結果をそれぞれ示す。
【図3】図3は、ナルトレキソンを経口投与した場合の掻き回数を表す。縦軸は15分間の掻き回数(平均値±標準誤差)を示す。白カラムは溶媒を経口投与(対照)した結果を、黒カラムはナルトレキソンを経口投与した結果をそれぞれ示す。
【図4】図4は、TRK−820を経口投与した場合の掻き回数を表す。縦軸は15分間の掻き回数(平均値±標準誤差)を示す。白カラムは溶媒を経口投与(対照)した結果を、黒カラムはTRK−820を経口投与した結果をそれぞれ示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
掻き行動を惹起するために、掻痒惹起物質を実験動物に塗布することを特徴とする、鎮痒物質を見出すためのスクリーニング方法。
【請求項2】
掻痒惹起物質を実験動物に塗布することにより惹起される掻き行動が、被験物質の投与の有無でどのように変化するかを調べることを含む、請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
掻き行動が惹起された実験動物が、掻痒惹起物質の塗布部位付近を前肢又は後肢を使ってストロークする回数(掻き回数)を測定することを含む、請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
以下の工程を含む、鎮痒物質を見出すためのスクリーニング方法。
(a)掻痒惹起物質を実験動物に塗布する工程、
(b)被験物質を実験動物に投与する工程、及び
(c)掻痒惹起物質を実験動物に塗布することにより惹起される掻き行動が、被験物質の投与の有無でどのように変化するかを調べる工程。
【請求項5】
掻き行動が惹起された実験動物が、掻痒惹起物質の塗布部位付近を前肢又は後肢を使ってストロークする回数(掻き回数)を測定する工程を含む、請求項4記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
掻痒惹起物質がセロトニン又はその塩である、請求項1〜5のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
実験動物がマウス、ラット又はモルモットである、請求項1〜5のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
マウスがICR系マウスである、請求項7記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
掻痒惹起物質の塗布部位が実験動物の頚背部である、請求項1〜5のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
以下の工程を含む、請求項1〜5又は9のいずれかに記載のスクリーニング方法。
(a)セロトニン又はその塩を含むエタノール溶液をマウスの頚背部に塗布する工程、
(b)該塗布部位に被験物質を含むエタノール溶液を塗布する工程又はコントロールの場合には被験物質を含まないエタノールを塗布する工程、
(c)マウスが、セロトニン又はその塩を含むエタノール溶液の塗布部位付近を前肢又は後肢を使ってストロークする回数(掻き回数)を測定する工程、及び
(d)被験物質を含むエタノール溶液を塗布したマウスの掻き回数と、被験物質を含まないエタノールを塗布したマウスの掻き回数とを比較する工程。
【請求項11】
掻き行動を惹起するために、掻痒惹起物質を実験動物に塗布することを特徴とする、鎮痒物質の鎮痒効果を評価する方法。
【請求項12】
掻痒惹起物質を実験動物に塗布することにより惹起される掻き行動が、鎮痒物質の投与の有無でどのように変化するかを調べることを含む、請求項11記載の評価方法。
【請求項13】
掻き行動が惹起された実験動物が、掻痒惹起物質の塗布部位付近を前肢又は後肢を使ってストロークする回数(掻き回数)を測定することを含む、請求項11記載の評価方法。
【請求項14】
以下の工程を含む、鎮痒物質の鎮痒効果を評価する方法。
(a)掻痒惹起物質を実験動物に塗布する工程、
(b)鎮痒物質を実験動物に投与する工程、及び
(c)掻痒惹起物質を実験動物に塗布することにより惹起される掻き行動が、鎮痒物質の投与の有無でどのように変化するかを調べる工程
【請求項15】
掻き行動が惹起された実験動物が、掻痒惹起物質の塗布部位付近を前肢又は後肢を使ってストロークする回数(掻き回数)を測定する工程を含む、請求項14記載の評価方法。
【請求項16】
掻痒惹起物質がセロトニン又はその塩である、請求項11〜15のいずれかに記載の評価方法。
【請求項17】
実験動物がマウス、ラット又はモルモットである、請求項11〜15のいずれかに記載の評価方法。
【請求項18】
マウスがICR系マウスである、請求項17記載の評価方法。
【請求項19】
掻痒惹起物質の塗布部位が実験動物の頚背部である、請求項11〜15のいずれかに記載の評価方法。
【請求項20】
以下の工程を含む、請求項11〜15又は19記載の評価方法。
(a)セロトニン又はその塩を含むエタノール溶液をマウスの頚背部に塗布する工程、
(b)該塗布部位に被験物質を含むエタノール溶液を塗布する工程又はコントロールの場合には被験物質を含まないエタノールを塗布する工程、
(c)マウスが、セロトニン又はその塩を含むエタノール溶液の塗布部位付近を前肢又は後肢を使ってストロークする回数(掻き回数)を測定する工程、及び
(d)鎮痒物質を含むエタノール溶液を塗布したマウスの掻き回数と、鎮痒物質を含まないエタノールを塗布したマウスの掻き回数とを比較する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−261849(P2008−261849A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70596(P2008−70596)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000004156)日本新薬株式会社 (46)
【Fターム(参考)】