説明

鏝塗材

【課題】土、砂、木粉系軽量骨材を用いた場合における鏝へのべとつきを無くして、鏝切れ良くし、鏝塗り作業性を著しく改善できる上、手間を要する日本壁特有の糊さし土物砂壁を容易に再現できる、鏝塗り作業性が良好でかつ仕上げ時の鏝押さえが容易にできる鏝塗材の提供。
【解決手段】土、砂および木粉から選ばれる少なくとも1種の基材100質量部に対し、有効成分としてカラギーナンの六員環ガラクトース骨格に硫酸エステル基ならびに水酸基がエカトリアル配座した粉末状のカラギーナンの1種または2種以上を0.1〜10質量部の割合で配合した鏝塗材を用い、水練して壁面に鏝塗りすることにより課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、土砂系鏝塗り用塗材の作業性の改善に関するものであり、塗材塗布時の鏝切れを改良し、鏝押え仕上げを容易にするものである。
【背景技術】
【0002】
従来用いられている糊材は、角又、ふのり、銀杏草などの天然海草によるものと、近年ではCMC(カルボキシメチルセルロース)、MC(メチルセルロース)、HEC(ヒドロキシエチルセルロース)などの化学合成糊材が中心である。
【0003】
これらの糊材を用いた場合、角又、ふのり、銀杏草などの天然海草によるものは、作業性が良好で鏝切れも良いなどの利点があるが、天然海草の収穫にはじまり、煮沸による糊材抽出など手間と時間とコストが掛かるため、一般的な建設工事では使用し難いものであった。
また、天然海草には強烈な臭気があることからも、作業者から敬遠される要因となっている。
【0004】
特許文献1には、天然海草から抽出したカラギーナンを消石灰に配合した塗材組成物が開示されているが、土砂系鏝塗り用塗材については示されていない。
【0005】
一方、CMC、MC、HECなどの化学合成糊材は、大量且つ安価に供給が可能なことから、建築資材の糊材として多用されている。しかし、合成糊材特有のべとつきがあり、鏝塗材に配合した場合、作業性から捉えれば天然海草に劣るものである。
そのため、特許文献2に示されるように、化学糊材を使用した場合には、鏝切れの改良を行う目的から、ベントナイト、セピオライトなどの鉱物系増粘材を添加している。
しかしながら、鉱物系増粘材を添加すると、乾燥後の塗布面にクラックの発生が弊害として発生するものであった。
【特許文献1】特開2004−123472号公報
【特許文献2】特許第3007034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、土砂系鏝塗り用塗材として、天然海草から抽出される糊材を用いた際の作業性と、化学合成糊材を用いた際のコスト低減を両立した鏝塗材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、このような事情に鑑み種々の試験を繰り返した結果、土砂系鏝塗り用塗材に特定の天然海草から抽出される糊材を配合したことにより、所期の目的を達成することを認め本発明を完遂するに至った。
【0008】
即ち請求項1に係る鏝塗材は、土、砂および木粉から選ばれる少なくとも1種の基材100質量部に対し、有効成分としてカラギーナンの六員環ガラクトース骨格に硫酸エステル基ならびに水酸基がエカトリアル配座した粉末状のカラギーナンの1種または2種以上を0.1〜10質量部の割合で配合したことを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に係る鏝塗材は、土、砂および木粉から選ばれる少なくとも1種の基材100質量部に対し、合成樹脂を樹脂固形分1〜15質量部、カラギーナンの六員環ガラクトース骨格に硫酸エステル基ならびに水酸基がエカトリアル配座した粉末状のカラギーナンの1種または2種以上を0.1〜10質量部の割合で配合したことを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に係る鏝塗材は、土、砂および木粉から選ばれる少なくとも1種の基材100質量部に対し、CMC、MC、HECから選ばれる少なくとも1種の化学合成糊材を0.1〜5質量部、カラギーナンの六員環ガラクトース骨格に硫酸エステル基ならびに水酸基がエカトリアル配座した粉末状のカラギーナンの1種または2種以上を0.1〜3質量部の割合で配合したことを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に係る鏝塗材は、土、砂および木粉から選ばれる少なくとも1種の基材100質量部に対し、合成樹脂を樹脂固形分1〜15質量部、CMC、MC、HECから選ばれる少なくとも1種の化学合成糊材を0.1〜5質量部、カラギーナンの六員環ガラクトース骨格に硫酸エステル基ならびに水酸基がエカトリアル配座した粉末状のカラギーナンの1種または2種以上を0.1〜3質量部の割合で配合したことを特徴とするものである。
【0012】
請求項5に係る鏝塗材は、請求項1乃至4の何れか一つに記載の鏝塗材において、基材として土を配合し、土の全部または一部にけいそう土および/またはゼオライトを配合したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1に係る鏝塗材は、土、砂および木粉から選ばれる少なくとも1種の基材100質量部に対し、有効成分としてカラギーナンの六員環ガラクトース骨格に硫酸エステル基ならびに水酸基がエカトリアル配座した粉末状のカラギーナンの1種または2種以上を0.1〜10質量部の割合で配合したことを特徴とするものであり、
カラギーナンの配合量が0.1質量部を下回ると、鏝塗材に保水性が無くパサパサとした状態となり、鏝滑りが悪くなり、逆にカラギーナンの配合量が10質量部を超えると、粘りが強く鏝切れが悪くなるが、カラギーナンの配合量を前記範囲内にすることにより、鏝塗り作業性が良好で、かつ仕上げ時の鏝押さえが容易にでき、土、砂、木粉系軽量骨材を用いた場合における鏝へのべとつきを無くして鏝切れ良くし、鏝塗り作業性を著しく改善できる上、手間を要する日本壁特有の糊さし土物砂壁を容易に再現できるという顕著な効果を奏する。
【0014】
本発明の請求項2に係る鏝塗材は、土、砂および木粉から選ばれる少なくとも1種の基材100質量部に対し、合成樹脂を樹脂固形分1〜15質量部、カラギーナンの六員環ガラクトース骨格に硫酸エステル基ならびに水酸基がエカトリアル配座した粉末状のカラギーナンの1種または2種以上を0.1〜10質量部の割合で配合したことを特徴とするものであり、
合成樹脂の配合量をその樹脂固形分として1〜15質量部の割合とすることで、幅広い下地に対し、安定的に接着性を確保できるようになる上、カラギーナンの配合量が0.1質量部を下回ると、鏝塗材に保水性が無くパサパサとした状態となり、鏝滑りが悪くなり、逆にカラギーナンの配合量が10質量部を超えると、粘りが強く鏝切れが悪くなるが、カラギーナンの配合量が前記範囲内であると、鏝塗り作業性が良好で、かつ仕上げ時の鏝押さえが容易にでき、土、砂、木粉系軽量骨材を用いた場合における鏝へのべとつきを無くして鏝切れ良くし、鏝塗り作業性を著しく改善できる上、手間を要する日本壁特有の糊さし土物砂壁を容易に再現できるという顕著な効果を奏する。
【0015】
本発明の請求項3に係る鏝塗材は、土、砂および木粉から選ばれる少なくとも1種の基材100質量部に対し、CMC、MC、HECから選ばれる少なくとも1種の化学合成糊材を0.1〜5質量部、カラギーナンの六員環ガラクトース骨格に硫酸エステル基ならびに水酸基がエカトリアル配座した粉末状のカラギーナンの1種または2種以上を0.1〜3質量部の割合で配合したことを特徴とするものであり、
化学合成糊材の配合量が、0.1質量部を下回ると、カラギーナンの配合量を減らすことができず、コスト削減に寄与することができず、逆に化学合成糊材の配合量が5質量部を超えると、化学合成糊材特有のべとつきが生じ、鏝塗作業性が悪化するが、化学合成糊材の配合量を前記範囲内とすると、カラギーナンの配合量を0.1〜3質量部の範囲内に減らすことが可能性となり、コスト削減可能になる上、鏝塗り作業性が良好で、かつ、仕上げ時の鏝押さえが容易にでき、土、砂、木粉系軽量骨材を用いた場合における鏝へのべとつきを無くして鏝切れ良くし、鏝塗り作業性を著しく改善できる上、手間を要する日本壁特有の糊さし土物砂壁を容易に再現できるという顕著な効果を奏する。
【0016】
本発明の請求項4に係る鏝塗材は、土、砂および木粉から選ばれる少なくとも1種の基材100質量部に対し、合成樹脂を樹脂固形分1〜15質量部、CMC、MC、HECから選ばれる少なくとも1種の化学合成糊材を0.1〜5質量部、カラギーナンの六員環ガラクトース骨格に硫酸エステル基ならびに水酸基がエカトリアル配座した粉末状のカラギーナンの1種または2種以上を0.1〜3質量部の割合で配合したことを特徴とするものであり、
合成樹脂の配合量をその樹脂固形分として1〜15質量部の割合とすることで、幅広い下地に対し、安定的に接着性を確保することができるようになり、化学合成糊材の配合量が、0.1質量部を下回ると、カラギーナンの配合量を減らすことができず、コスト削減に寄与することができず、逆に化学合成糊材の配合量が5質量部を超えると、化学合成糊材特有のべとつきが生じ、鏝塗作業性が悪化するが、合成樹脂の配合量と化学合成糊材の配合量を前記範囲内とすると、カラギーナンの配合量を0.1〜3質量部の範囲内に減らすことが可能性となり、コスト削減可能になる上、鏝塗り作業性が良好で、かつ、仕上げ時の鏝押さえが容易にでき、土、砂、木粉系軽量骨材を用いた場合における鏝へのべとつきを無くして鏝切れ良くし、鏝塗り作業性を著しく改善できる上、手間を要する日本壁特有の糊さし土物砂壁を容易に再現できるという顕著な効果を奏する。
【0017】
本発明の請求項5に係る鏝塗材は、請求項1乃至4の何れか一つに記載の鏝塗材において、基材として土を配合し、土の全部または一部にけいそう土および/またはゼオライトを配合したことを特徴とするものであり、乾燥後の塗面に吸放湿作用を付与できるというさらなる顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
土、砂および木粉から選ばれる少なくとも1種の基材は、種々のものを単独あるいは組み合わせて使用できる。
土としては、けいそう土、ゼオライト、セピオライト、珪石粉、クレー、炭酸カルシウムなどが使用される。これら土の粒径は、0.1mm以下である。0.1mmを超えた土を配合すると、塗膜表面がザラザラとした仕上りとなり、塗り壁独特の滑らかな塗膜を形成することが出来ず、多彩な模様付けを行うことが出来ない。
【0019】
砂としては、珪砂、寒水石、川砂、海砂などが使用される。これら砂の粒径は、2mm以下、好ましくは1mm以下である。2mmを超えた砂を配合すると、塗膜表面がザラザラとした仕上りとなり、塗り壁独特の滑らかな塗膜を形成することが出来ず、多彩な模様付けを行うことが出来ない。
【0020】
木粉としては、桧、松、栂などの粉砕品が使用される。これら木粉の粒径は0.3〜1.5mmである。基材に木粉を配合することにより、鏝塗材を軽量化することができるので、天井への塗布に好適である。また、鏝滑りが良くなり、鏝塗り作業性を改善することができる。
【0021】
本発明で用いられる六員環ガラクトース骨格に硫酸エステル基(−OSO3-)ならびに水酸基(−OH)がエカトリアル配座したカラギーナンとしては、ラムダ(λ)カラギーナン、ミュー(μ)カラギーナン、ニュー(ν)カラギーナン、クサイ(ξ)カラギーナン、パイ(π)カラギーナン、またはシータ(θ)カラギーナンが挙げられる。
【0022】
カラギーナンは紅藻類などの天然海藻から抽出し、精製したガラクト硫酸エステルを主成分とする分子量105程度の水溶性天然多糖類である。その分子構造の違いから、カッパ(κ)カラギーナン、イオタ(ι)カラギーナン、ラムダ(λ)カラギーナン、ミュー(μ)カラギーナン、ニュー(ν)カラギーナン、クサイ(ξ)カラギーナン、パイ(π)カラギーナンが知られている。
その他、天然には存在しないがラムダ(λ)カラギーナンをアルカリ処理等して得られる、シータ(θ)カラギーナンがある。カッパ(κ)カラギーナン、イオタ(ι)カラギーナン、ラムダ(λ)カラギーナンは量的に多く存在するので商業上重要であるがその他は存在が知られている程度である。
これら8種類のカラギーナンの構造式を下記の化1(國崎直道・佐野征男著:株式会社幸書房発行「食品多糖類−乳化・増粘・ゲル化の知識」2001年11月25日初版第1刷:第100頁より引用)に示す。
【0023】
【化1】

【0024】
カラギーナンの構造は、β−D−ガラクトースと、α−D−ガラクトースのβ−1,4結合とα―1,3結合が交互に繰り返されたものである。各タイプの構造上の違いは、ガラクトース骨格の六員環構造と、ガラクトース骨格に存在する硫酸エステル基(−OSO3 - )ならびに水酸基(−OH)の立体配座の違いによって分類される。
【0025】
カラギーナン構造中のガラクトース骨格が取り得る六員環構造にはイス(Chair)型(C型と略称)、ボート(Boat)型(B型と略称)、ツイストボート(Twist−boat、またはSkew−boat)型(S型と略称)、半イス(Half−chair)型(H型と略称)があるが、全てのカラギーナンはC型である。これを図示すると下記の化2(國崎直道・佐野征男著:株式会社幸書房発行「食品多糖類−乳化・増粘・ゲル化の知識」2001年11月25日初版第1刷:第105頁より引用)の通りである。
【0026】
【化2】

【0027】
C型には化3(國崎直道・佐野征男著:株式会社幸書房発行「食品多糖類−乳化・増粘・ゲル化の知識」2001年11月25日初版第1刷:第105頁より引用)に示すように、2つの異なるC1型(またはC−1位とC−4位の炭素原子の上下を表し、41 型と表記)、1C型(またはC−1位とC−4位の炭素原子の上下を表し、41 型と表記)が存在する。
【0028】
【化3】

【0029】
カラギーナンは、β−D−ガラクトースと、α−D−ガラクトースの六員環構造が、C1型とC1型で結合およびC1型と1C型で結合したものである。
【0030】
ガラクトース骨格に存在する硫酸エステル基(−OSO3-)ならびに水酸基(−OH)の立体配座にはエカトリアル配座(equatorial conformation)とアキシアル配座(axial conformaton)があり、エカトリアル配座とは硫酸エステル基(−OSO3-)、水酸基(−OH)が、ガラクトース六員環骨格の同一平面上の水平方向に突き出ていることを言い、これをエカトリアル(equatorial;“赤道方向の”意)配座と言う。また、アキシアル配座とはこれらの官能基が、ガラクトース六員環骨格の上下方向に突き出ていることを言い、これをアキシアル(axial;“軸方向の”意)配座と言う。
【0031】
カッパ(κ)カラギーナン、イオタ(ι)カラギーナンの水溶液は金属イオンによりゲル化するが、ラムダ(λ)カラギーナン、ミュー(μ)カラギーナン、ニュー(ν)カラギーナン、クサイ(ξ)カラギーナン、パイ(π)カラギーナン、シータ(θ)カラギーナンはゲル化せず、増粘性を示す。両者の違いはガラクトース骨格に存在する硫酸エステル基(−OSO3-)ならびに水酸基(−OH)の立体配座に起因する。また、全てのタイプのカラギーナンは全pH領域で負の電荷を有するので、金属イオンとは静電的相互作用を示す。
【0032】
すなわちカッパ(κ)カラギーナン、イオタ(ι)カラギーナン水溶液のゲル化はカラギーナン構造中の硫酸エステル基(−OSO3-)と金属イオンとの架橋反応によるものである。代表してカッパ(κ)カラギーナンの構造式を化4(國崎直道・佐野征男著:株式会社幸書房発行「食品多糖類−乳化・増粘・ゲル化の知識」2001年11月25日初版第1刷:第106頁より引用)に示す。
式中の左側がβ−D−ガラクトースユニットで六員環構造がC1型(41 型)、官能基の立体配座がエカトリアル配座である。また、右側がα−D−ガラクトースユニットで六員環構造が1C型(41 型)、官能基の立体配座がアキシアル配座である。カッパ(κ)カラギーナンはβ−D−ガラクトースユニットおよびα−D−ガラクトースユニットがβ−1,4結合、α−1,3結合し、高分子体を構成する。
【0033】
【化4】

【0034】
カッパ(κ)カラギーナンでは右側のα−D−ガラクトースユニットに配座するC−2位の水酸基(−OH基)はアキシアル配座で六員環ガラクトース骨格の上下方向に突き出ている。このため分子間の相互作用が強く、カッパ(κ)カラギーナンの高分子鎖は互いに絡み合うことで安定化し、らせん構造を形成する。したがって、水溶液は金属イオンが存在するとカッパ(κ)カラギーナンの高分子鎖が会合し、架橋して三次元網目構造の構築によりゲル化する。
【0035】
一方、ラムダ(λ)カラギーナン、ミュー(μ)カラギーナン、ニュー(ν)カラギーナン、クサイ(ξ)カラギーナン、パイ(π)カラギーナンの各ガラクトース骨格の六員環構造はC1型(41 型)のみで構成され、官能基の立体配座はエカトリアル配座である。代表してラムダ(λ)カラギーナンの構造式を化5(國崎直道・佐野征男著:株式会社幸書房発行「食品多糖類−乳化・増粘・ゲル化の知識」2001年11月25日初版第1刷:第103頁より引用)に示す。
式中の左側がβ−D−ガラクトースユニット、右側がα−D−ガラクトースユニットでいずれもガラクトース骨格の六員環構造はβ−D−ガラクトースユニット、α−D−ガラクトースユニットともC1型のみ(41 型)で、官能基の立体配座はエカトリアル配座である。
ラムダ(λ)カラギーナンのβ−D−ガラクトースユニットはC−2位に硫酸エステル基(−OSO3-)、C−4位、C―6位に水酸基(−OH基)を、α−D−ガラクトースユニットはC−2位、C−6位に硫酸エステル基、C−3位に水酸基を有するが、いずれも立体配座はエカトリアル配座である。
すなわち、ガラクトース六員環骨格にエカトリアル配座した硫酸エステル基、水酸基は六員環の同一平面上の水平方向に突き出ており、相互に反発し合い安定化しているため、分子間の相互作用が弱く、らせん構造は形成しない。よって水溶液は金属イオンとの架橋反応を生じず、ゲル化しないで増粘性を示す。
他のミュー(μ)カラギーナン、ニュー(ν)カラギーナン、クサイ(ξ)カラギーナン、パイ(π)カラギーナンについても同様な理由により、水溶液は金属イオンによりゲル化しない。
【0036】
【化5】

【0037】
次にシータ(θ)カラギーナンの構造式を化6(國崎直道・佐野征男著:株式会社幸書房発行「食品多糖類−乳化・増粘・ゲル化の知識」2001年11月25日初版第1刷:第103頁より引用)に示す。
シータ(θ)カラギーナンは、カッパ(κ)カラギーナン、イオタ(ι)カラギーナンと同様に式中の左側が、β−D−ガラクトースユニットで六員環構造がC1型(41 型)、右側が、α−D−ガラクトースユニットで六員環構造が1C型(41 型)であるが、官能基の立体配座はいずれも、エカトリアル配座である。
すなわち、シータ(θ)カラギーナンの、β−D−ガラクトースユニットは、C−2位に硫酸エステル基、C−4位、C―6位に水酸基が、α−D−ガラクトースユニットは、C−2位に硫酸エステル基を有するが、いずれも立体配座はエカトリアル配座である。
すなわち、ガラクトース六員環骨格に、エカトリアル配座した硫酸エステル基、水酸基は六員環の同一平面上の水平方向に突き出ており、相互に反発し合い安定化しているため、分子間の相互作用が弱く、らせん構造は形成しない。よって水溶液は金属イオンとの架橋反応を生じず、ゲル化しないで増粘性を示す。
【0038】
【化6】

【0039】
カラギーナンは、紅藻類のなかでも特にツノマタ属(例えばChondrus crispus, Chondrus ocellatus)、キリンサイ属(例えばGigartina stellata, Gigartina acicularis, Gigartina pistillata, Gigartina radula)、スギノリ属(例えばEucheuma spinosum, Eucheuma cottoni)、クロハギンナンソウ属(例えばIridaea)、イバラノリ属(例えば、Hypnea musciformis)、サイミ属(例えばAhnfeltia concinna)、オキツノリ属に豊富に含まれていることが知られている。
【0040】
これら海藻中のカラギーナンの種類や含有量は採取地、時期により変動するが、例えばツノマタ属のChondrus crispusでは、カッパ(κ)カラギーナンが12〜33%、ラムダ(λ)カラギーナンが7〜21%、他に少量のミュー(μ)カラギーナン、イオタ(ι)カラギーナン、ニュー(ν)カラギーナン、キリンサイ属のGigartina stellataではカッパ(κ)カラギーナンが15%前後、ラムダ(λ)カラギーナンが12%前後、他に少量のミュー(μ)カラギーナン、イオタ(ι)カラギーナン、ニュー(ν)カラギーナン、Gigartina acicularisではカッパ(κ)カラギーナンが4%前後、ラムダ(λ)カラギーナンが30%前後、他にミュー(μ)カラギーナン、Gigartina pistillataではカッパ(κ)カラギーナンが8%前後、ラムダ(λ)カラギーナンが30%前後、他にミュー(μ)カラギーナンGigartina radulaではカッパ(κ)カラギーナンが28%前後、ラムダ(λ)カラギーナンが8%前後、他にミュー(μ)カラギーナン、スギノリ属のEucheuma spinosumではイオタ(ι)カラギーナンを主とし、少量のニュー(ν)カラギーナン、Eucheuma cottoniではカッパ(κ)カラギーナン、ミュー(μ)カラギーナンを主とすることが報告されており、天然海藻には種々のタイプのカラギーナンを含み、水を加え混練物とした場合金属イオンを生成する土、砂および木粉を含む左官材料の糊として好ましくないゲル化能を有するカラギーナン(カッパ及びイオタ)を含んでいることが分かる。
【0041】
一般的なカラギーナンの製造方法は上記海藻を洗浄した後、熱湯に浸して抽出を行う。このとき抽出効率を高めるためアルカリを添加し、ろ過助剤等の使用によりろ過し、カラギーナン溶液を得る。
溶液を濃縮後、アルコールを添加するアルコール沈殿法か、カリウムイオンのような金属イオンを添加する加圧脱水法(ゲルプレス法)により、ゲル化した不溶解分とを分離することでゲル化するカッパ(κ)カラギーナン、イオタ(ι)カラギーナンとゲル化しないラムダ(λ)カラギーナン、ミュー(μ)カラギーナン、ニュー(ν)カラギーナン、クサイ(ξ)カラギーナン、パイ(π)カラギーナンに分離される。
食品用途にはこれを粉末化したものが目的に応じて使用される。シータ(θ)カラギーナンはラムダ(λ)カラギーナンをアルカリ処理等して得られる。
【0042】
食品用途には特に食用糊の原料として重要であり、煮こごりやスープなどの料理用として、またハム、ソーセージ、アイスクリーム、プリン、ヨーグルト、マーガリン、ジャム、缶詰などの食品工業用乳化剤・安定化剤として極めて広い用途を有しており、その歴史も長い。
【0043】
本発明で使用される、カラギーナンとしては金属イオンによりゲル化しないラムダ(λ)カラギーナン、ミュー(μ)カラギーナン、ニュー(ν)カラギーナン、クサイ(ξ)カラギーナン、パイ(π)カラギーナン、シータ(θ)カラギーナンが選ばれ、前述の一般的な製造方法によって得られるものを使用すればよく、食品用あるいは工業用であることを問わない。また、ラムダ(λ)カラギーナン、ミュー(μ)カラギーナン、ニュー(ν)カラギーナン、クサイ(ξ)カラギーナン、パイ(π)カラギーナン、シータ(θ)カラギーナンの単独または2種以上混合したものを使用しても同様な効果をもたらす。なかでもラムダ(λ)カラギーナンは量的に多く存在し、商業上の取引も盛んであることから、これを使用することが好ましい。
【0044】
カラギーナンは基材100質量部に対し、0.1〜10質量部の割合で配合される。カラギーナンの配合量が0.1質量部を下回ると、鏝塗材に保水性が無くパサパサとした状態となり、鏝滑りが悪くなる。逆に、カラギーナンの配合量が10質量部を超えると、粘りが強く鏝切れが悪くなる。
【0045】
本発明の実施において、カラギーナンと併用して使用される合成樹脂は、酢酸ビニル樹脂系(エチレン−酢酸ビニル共重合体、酢ビ−塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル−ベオバ共重合体など)、アクリル樹脂系(アクリル−スチレン共重合体、アクリル−エチレン−酢酸ビニル共重合体など)、ベオバ樹脂系、などが挙げられ、これらは粉末あるいは樹脂固形分を40〜50%の範囲としたエマルションとして使用される。
またその配合量は、基材100質量部に対して、樹脂固形分として1〜15質量部の割合で配合することで、幅広い下地に対し、安定的に接着性を確保することができるようになる。
合成樹脂の配合量が1質量部を下回ると、その添加効果は明確なものとならない。逆に、合成樹脂の配合量が15質量部を超えると、鏝塗作業における材料の鏝離れが悪くなり作業性が悪化する。
【0046】
本発明の実施において、カラギーナンと併用して使用される化学合成糊材は、CMC、MC、HECから選ばれる少なくとも1種の化学合成糊材が使用される。化学合成糊材は、基材100質量部に対し0.1〜5質量部の割合で配合される。
化学合成糊材の配合量が、0.1質量部を下回ると、カラギーナンの配合量を減らすことができず、コスト削減に寄与することができない。逆に、化学合成糊材の配合量が5質量部を超えると、合成糊材特有のべとつきが生じ、鏝塗作業性が悪化する。
【0047】
カラギーナンと化学合成糊材を併用する場合、化学合成糊材100質量部に対してカラギーナンを10〜100質量部の割合で配合する。カラギーナンの配合量が10質量部を下回ると、鏝塗材がべとつき、鏝塗り作業性が改善されない。逆に、カラギーナンの配合量が100質量部を超えると、鏝塗り作業性の改善にあまり大きな変化は無く、徒にコストアップを招くことになる。
【0048】
本発明の実施において、土の全部または一部にけいそう土および/またはゼオライトを配合したことにより、乾燥後の塗面に吸放湿作用を付与することができる。
【0049】
本発明の実施において、すさを添加することにより、より一層鏝塗り作業性を改善することができる。すさとしては、藁、麻、パルプ、合成繊維(アクリル、レーヨン、ビニロン)、炭素繊維などが使用される。すさを配合することにより、鏝塗り作業性改善の他、塗面の強度アップ並びにひび割れを防止することができる。
すさは、基材100質量部に対し、1〜15質量部の割合で配合される。1質量部を下回ると、すさを配合したことによる作用が発現できず、逆に15質量部を超えると、すさを配合したことによる効果に変化は見られず、塗面の風合を損ねる。
【0050】
本発明の実施において、鏝塗材を調製する際、鏝塗材100質量部に対し、水が15〜400質量部の割合で添加される。水の添加量は塗布作業性に影響を与えない範囲で、極力抑えるべきであり、この範囲を超えると、塗膜の乾燥に長時間を要し、塗膜の痩せを抑えることができない。
【0051】
本発明の壁面用塗材は、基材、カラギーナン、粉末合成樹脂、化学合成糊料、木粉、すさなどをリボンブレンダーあるいは高速流動式撹拌機を用いてドライ混合し、使用する際にこれに水と必要に応じて合成樹脂エマルションバインダーを加えて均一に混練して調製される。なお、色出しのために使用する顔料などを計量して添加しても構わない。
【0052】
本発明の実施に当り、必要に応じて顔料、防錆剤、防腐剤、消泡剤、保水剤、アク・シミ止め剤、鏝滑剤等を本発明の効果に影響を与えない範囲で、適宜添加することができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
〔実施例1〕
粒径が0.05mm〜0.1mmのクレー、800gと、粒径が0.5mm〜1mmの珪砂、3200gを混合して基材を作製した。基材4000gに対し、ラムダ(λ)カラギーナンを50gの割合で添加し、リボンブレンダーに投入して、2分間撹拌混合し均一組成物として取り出し、鏝塗材4050gを調製した。鏝塗材4050gに対し、水3000gを加え、撹拌混合機を用いて均一に水練りして、壁面用塗材を調製した。この壁面用塗材を金鏝を用いて石膏プラスター下地の壁面に塗布したところ、鏝切れ、鏝押えなどの塗り及び仕上げ作業性は良好であった。
【0055】
〔比較例1〕
実施例1におけるラムダ(λ)カラギーナン50gの代わりにカッパ(κ)カラギーナン50gを用いた以外は、実施例1と同様の方法により混合して壁面用塗材を調製した。この壁面用塗材を金鏝を用いて石膏プラスター下地の壁面に塗布したところ、壁面用塗材がゼリー状に固まっており、鏝塗りできる状態ではなかった。
【0056】
〔実施例2〕
粒径が0.05mm〜0.1mmのクレー、800gと、粒径が0.5mm〜1mmの珪砂、3200gを混合して基材を作製した。基材4000gに対し、ラムダ(λ)カラギーナンを50g、パルプ100gの割合で添加し、リボンブレンダーに投入して、2分間撹拌混合し均一組成物として取り出し、鏝塗材4150gを調製した。鏝塗材4150gに対し、水3500gを加え、撹拌混合機を用いて均一に水練りして、壁面用塗材を調製した。この壁面用塗材を金鏝を用いて石膏プラスター下地の壁面に塗布し、チクソ性、鏝切れ、鏝押えの3項目について評価した結果は表1に示したとおりであった。
なお、チクソ性とは水を加え混練物とした際に鏝塗材が静置しているときは高粘度で、鏝塗り作業の際には鏝によりせん断力を与えられ低粘度に変化し鏝塗り作業をしやすくする特性を表す。
さらに、日本工業規格JIS A 6909(建築用仕上塗材)の試験方法に基づき、壁面用塗材の接着強度を測定したところ、その結果は表1に示したとおりであった。
【0057】
〔比較例2〕
実施例2における、ラムダ(λ)カラギーナン50gの代わりにCMC50gを用いた以外は、実施例2と同様の方法により混合して壁面用塗材を調製した。この壁面用塗材を金鏝を用いて石膏プラスター下地の壁面に塗布し、チクソ性、鏝切れ、鏝押えの3項目について評価した結果、並びに接着強度は表1に示したとおりであった。
【0058】
〔比較例3〕
実施例2における、ラムダ(λ)カラギーナン50gの代わりにMC50gを用いた以外は、実施例2と同様の方法により混合して壁面用塗材を調製した。この壁面用塗材を金鏝を用いて石膏プラスター下地の壁面に塗布し、チクソ性、鏝切れ、鏝押えの3項目について評価した結果、並びに接着強度は表1に示したとおりであった。
【0059】
〔比較例4〕
実施例2における、ラムダ(λ)カラギーナン50gの代わりにHEC50gを用いた以外は、実施例2と同様の方法により混合して壁面用塗材を調製した。この壁面用塗材を金鏝を用いて石膏プラスター下地の壁面に塗布し、チクソ性、鏝切れ、鏝押えの3項目について評価した結果、並びに接着強度は表1に示したとおりであった。
【0060】
【表1】

【0061】
〔実施例3〕
粒径が0.05mm〜0.1mmのクレー、800gと、粒径が0.5〜1mmの珪砂、3200gを混合して基材を作製した。基材4000gに対し、ラムダ(λ)カラギーナンを50g、パルプ100g、合成樹脂としてアクリル系の粉末(樹脂固形分95%)200gを添加し、リボンブレンダーに投入して、2分間撹拌混合し均一組成物として取り出し、鏝塗材4350gを調製した。
鏝塗材4350gに対し、水3700gを加え、撹拌混合機を用いて均一に水練りして、壁面用塗材を調製した。この壁面用塗材を金鏝を用いて石膏プラスター下地の壁面に塗布し、チクソ性、鏝切れ、鏝押えの3項目について評価した結果は表2に示したとおりであった。
【0062】
〔比較例5〕
実施例3における、ラムダ(λ)カラギーナン50gの代わりにCMC50gを用いた以外は、実施例3と同様の方法により混合して壁面用塗材を調製した。この壁面用塗材を金鏝を用いて石膏プラスター下地の壁面に塗布し、チクソ性、鏝切れ、鏝押えの3項目について評価した結果は表2に示したとおりであった。
【0063】
〔比較例6〕
実施例3における、ラムダ(λ)カラギーナン50gの代わりにMC50gを用いた以外は、実施例3と同様の方法により混合して壁面用塗材を調製した。この壁面用塗材を金鏝を用いて石膏プラスター下地の壁面に塗布し、チクソ性、鏝切れ、鏝押えの3項目について評価した結果は表2に示したとおりであった。
【0064】
〔比較例7〕
実施例3における、ラムダ(λ)カラギーナン50gの代わりにHEC50gを用いた以外は、実施例3と同様の方法により混合して壁面用塗材を調製した。この壁面用塗材を金鏝を用いて石膏プラスター下地の壁面に塗布し、チクソ性、鏝切れ、鏝押えの3項目について評価した結果は表2に示したとおりであった。
【0065】
【表2】

【0066】
〔実施例4〕
粒径が0.05mm〜0.1mmのクレー400gと、粒径が0.5mm〜1mmの木粉500gを混合して基材を作成した。基材900gに対し、ラムダ(λ)カラギーナンを50g、合成樹脂としてアクリル系の粉末(樹脂固形分95%)100gを添加し、リボンブレンダーに投入して、2分間撹拌混合し均一組成物として取り出し、鏝塗材1050gを調製した。
鏝塗材1050gに対し、水3800gを加え、撹拌混合機を用いて均一に水練りして、壁面用塗材を調製した。この壁面用塗材を金鏝を用いて石膏プラスター下地の壁面に塗布し、チクソ性、鏝切れ、鏝押えの3項目について評価した結果は表3に示したとおりであった。
【0067】
〔比較例8〕
実施例4における、ラムダ(λ)カラギーナン50gの代わりにCMC50gを用いた以外は、実施例4と同様の方法により混合して壁面用塗材を調製した。この壁面用塗材を金鏝を用いて石膏プラスター下地の壁面に塗布し、チクソ性、鏝切れ、鏝押えの3項目について評価した結果は表3に示したとおりであった。
【0068】
【表3】

【0069】
〔実施例5〕
粒径が0.05mm〜0.1mmのクレー、1000gと、粒径が0.05mm〜0.1mmのけいそう土500gと、粒径が0.5〜1mmの珪砂、2500gを混合して基材を作製した。基材4000gに対し、ラムダ(λ)カラギーナンを50g、合成樹脂としてアクリル系の粉末(樹脂固形分95%)200gを添加し、リボンブレンダーに投入して、2分間撹拌混合し均一組成物として取り出し、鏝塗材4250gを調製した。
鏝塗材4250gに対し、水2500gを加え、撹拌混合機を用いて均一に水練りして、壁面用塗材を調製した。この壁面用塗材を金鏝を用いて石膏プラスター下地の壁面に塗布し、チクソ性、鏝切れ、鏝押えの3項目について評価した結果は表4に示したとおりであった。
【0070】
〔比較例9〕
実施例5における、ラムダ(λ)カラギーナン50gの代わりにCMC50gを用いた以外は、実施例5と同様の方法により混合して壁面用塗材を調製した。この壁面用塗材を金鏝を用いて石膏プラスター下地の壁面に塗布し、チクソ性、鏝切れ、鏝押えの3項目について評価した結果は表4に示したとおりであった。
【0071】
【表4】

【0072】
〔実施例6〕
粒径が0.05mm〜0.1mmのクレー800gと、粒径が0.5mm〜1mmの珪砂3200gを混合して基材を作製した。基材4000gに対し、ラムダ(λ)カラギーナンを10g、化学合成糊料としてCMCを30gを添加し、リボンブレンダーに投入して、2分間撹拌混合し均一組成物として取り出し、鏝塗材4040gを調製した。鏝塗材4040gに対し、水2800gを加え、撹拌混合機を用いて均一に水練りして、壁面用塗材を調製した。この壁面用塗材を金鏝を用いて石膏プラスター下地の壁面に塗布したところ、鏝切れ、鏝押えなどの塗り及び仕上げ作業性は良好であった。
【0073】
〔実施例7〕
粒径が0.05mm〜0.1mmのクレー800gと、粒径が0.5mm〜1mmの珪砂3200gを混合して基材を作製した。基材4000gに対し、ラムダ(λ)カラギーナンを10g、化学合成糊料としてCMCを30g、合成樹脂としてアクリル系の粉末(樹脂固形分95%)200gを添加し、リボンブレンダーに投入して、2分間撹拌混合し均一組成物として取り出し、鏝塗材4240gを調製した。鏝塗材4240gに対し、水3000gを加え、撹拌混合機を用いて均一に水練りして、壁面用塗材を調製した。この壁面用塗材を金鏝を用いて石膏プラスター下地の壁面に塗布したところ、鏝切れ、鏝押えなどの塗り及び仕上げ作業性は良好であった。
【0074】
〔実施例8〕
粒径が0.05mm〜0.1mmのクレー180gと、粒径が0.05mm〜0.1mmのゼオライト300gと、粒径が0.5mm〜1mmの木粉270gを混合して基材を作成した。基材750gに対し、パルプ100g、ラムダ(λ)カラギーナン50gを添加し、リボンブレンダーに投入して、2分間撹拌混合し均一組成物として取り出し、鏝塗材900gを調製した。鏝塗材900gに対し、水2200gを加え、撹拌混合機を用いて均一に水練りして、壁面用塗材を調製した。この壁面用塗材を金鏝を用いて石膏プラスター下地の壁面に塗布し、チクソ性、鏝切れ、鏝押えの3項目について評価した結果は表5に示したとおりであった。
【0075】
【表5】

【0076】
〔実施例9〕
粒径が0.05mm〜0.1mmのクレー500gと、粒径が0.5mm〜1mmの木粉350gを混合して基材を作成した。基材850gに対し、パルプ150g、粘度及びチクソ性を考慮して配合したMC24gとHEC16gの配合品40g、ラムダ(λ)カラギーナン10gを添加し、リボンブレンダーに投入して、2分間撹拌混合し均一組成物として取り出し、鏝塗材1050gを調製した。鏝塗材1050gに対し、水3000gを加え、撹拌混合機を用いて均一に水練りして、壁面用塗材を調製した。この壁面用塗材を金鏝を用いて石膏プラスター下地の壁面に塗布し、チクソ性、鏝切れ、鏝押えの3項目について評価した結果は表6に示したとおりであった。
【0077】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の鏝塗材は、鏝塗り作業性が良好でかつ仕上げ時の鏝押さえが容易にできる鏝塗材であって、土、砂、木粉系軽量骨材を用いた場合における鏝へのべとつきを無くして、鏝切れ良くし、鏝塗り作業性を著しく改善できる上、手間を要する日本壁特有の糊さし土物砂壁を容易に再現できるという顕著な効果を奏するので、産業上の利用価値は甚だ大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土、砂および木粉から選ばれる少なくとも1種の基材100質量部に対し、有効成分としてカラギーナンの六員環ガラクトース骨格に硫酸エステル基ならびに水酸基がエカトリアル配座した粉末状のカラギーナンの1種または2種以上を0.1〜10質量部の割合で配合したことを特徴とする鏝塗材。
【請求項2】
土、砂および木粉から選ばれる少なくとも1種の基材100質量部に対し、合成樹脂を樹脂固形分1〜15質量部、カラギーナンの六員環ガラクトース骨格に硫酸エステル基ならびに水酸基がエカトリアル配座した粉末状のカラギーナンの1種または2種以上を0.1〜10質量部の割合で配合したことを特徴とする鏝塗材。
【請求項3】
土、砂および木粉から選ばれる少なくとも1種の基材100質量部に対し、CMC、MC、HECから選ばれる少なくとも1種の化学合成糊材を0.1〜5質量部、カラギーナンの六員環ガラクトース骨格に硫酸エステル基ならびに水酸基がエカトリアル配座した粉末状のカラギーナンの1種または2種以上を0.1〜3質量部の割合で配合したことを特徴とする鏝塗材。
【請求項4】
土、砂および木粉から選ばれる少なくとも1種の基材100質量部に対し、合成樹脂を樹脂固形分1〜15質量部、CMC、MC、HECから選ばれる少なくとも1種の化学合成糊材を0.1〜5質量部、カラギーナンの六員環ガラクトース骨格に硫酸エステル基ならびに水酸基がエカトリアル配座した粉末状のカラギーナンの1種または2種以上を0.1〜3質量部の割合で配合したことを特徴とする鏝塗材。
【請求項5】
基材として土を配合し、土の全部または一部にけいそう土および/またはゼオライトを配合したことを特徴と請求項1乃至4の何れか一つに記載の鏝塗材。

【公開番号】特開2009−190919(P2009−190919A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32056(P2008−32056)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(000203047)村樫石灰工業株式会社 (12)
【出願人】(000180302)四国化成工業株式会社 (167)
【Fターム(参考)】