説明

【課題】化粧鏡等における、鏡で反射して見える像の色みについて直接人から見られる場合の色みを忠実に再現しようとするアプローチに対して発想の転換をし、青みを減らして暗く、赤みを増やして明るくするようなナチュラルな配色を強調し、対象をカジュアルでロマンチックな、軽やかで、柔らかく、暖かい印象を与えるような、より好ましい色みで映し出す鏡を提供する。
【解決手段】透明板と、当該透明板に形成された、光を反射する反射膜を備えさせ、白色の基準物におけるL表色系で表される色度座標値(L,a,b)、及び当該基準物を映し出した前記反射膜からの反射光における色度座標値(L,a,b)に係るΔa=a−a,Δb=b−b,ΔL=L−L,ΔEab=(ΔL*2+Δa*2+Δb*21/2に関し、Δa>0且つΔEab≦10の関係を成り立たせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手鏡や姿見、ショーウィンドウ内の陳列ケース棚のミラー、照明器具のリフレクター板等の鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鏡は、ガラスにアルミニウムや銀の蒸着膜等の反射膜を付与して形成されるところ、裏面鏡における通常のガラスや反射膜では、ガラスの鉄分による600nm(ナノメートル)以上の長波長側での吸収域の発生や、可視領域の短波長側で反射率が低下する銀の反射特性等により、入射光に対し鏡で反射した像が青みを帯びたり、直接目視した対象の色に対し鏡に映った対象の色が変化する(歪められる)こととなる。
【0003】
この色みを帯びる現象に対し、色みの変化を無くし、反射光の色みをニュートラルにするというアプローチをとるものとして、下記特許文献1,2に記載の化粧用鏡が知られている。これらの鏡では、ガラスや反射膜の成分を調整したり、可視領域の中央部の波長域を僅かに吸収する着色膜を設けたりすることで、可視領域における反射率分布がフラットになるようにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3732490号公報
【特許文献2】特開2000−270983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの化粧用鏡では、可視領域における分光反射率分布がフラットになり、何れの波長においても同様な反射率となることで、直接目視した場合と同様の色みで対象が映されることとなって、直接見られる場合と同様の色みを鏡で見られるというメリットを生ずるものの、顔色が悪い場合にもそのままの色みで顔を映すこととなり、体調が優れない者にとって顔を背けたくなるようなデメリットを有するものとなっている。又、特に血管の色みが出やすい色白の人たちの場合、映し出された顔等が、全体的に青みを帯びて見える場合がある。更に、蛍光灯や白色LED等の光源は、元の光源特性に赤系の色みが少ないため、青みを帯びたり、緑みを帯びたりする傾向がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、化粧鏡等における、鏡で反射して見える像の色みについて直接人から見られる場合の色みを忠実に再現しようとする特許文献1,2のようなアプローチに対して発想の転換をし、青みを減らして暗く、赤みを増やして明るくするようなナチュラルな配色を強調し、対象をカジュアルでロマンチックな、軽やかで、柔らかく、暖かい印象を与えるような、より好ましい色みで映し出す鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1,2に記載の発明は、透明板と、当該透明板に形成された、光を反射する反射膜を備えており、白色の基準物におけるL表色系で表される色度座標値(L,a,b)、及び当該基準物を映し出した前記反射膜からの反射光における色度座標値(L,a,b)に係るΔa=a−a,Δb=b−b,ΔL=L−L,ΔEab=(ΔL*2+Δa*2+Δb*21/2に関し、Δa>0且つΔEab≦10の関係を成り立たせたり、更にΔa>|Δb|の関係も成り立たせたりすることを特徴とするものである。なお、各色度座標値は、CIE1976に基づくものであり、Lは明度を表し、a,bは色度(クロマティクネス指数)を表す。
【0008】
請求項3〜5に記載の発明は、上記目的に加え、当該ΔL,Δa,Δbの範囲内となる構成をシンプルに得る目的を達成するため、上記発明にあって、前記ΔL,Δa,Δbの少なくとも何れかを調整する調整膜を備えさせたり、その調整膜を、可視領域における長波長側の光の反射率を増すように形成された、低屈折率層と高屈折率層を含む光学多層膜としたり、その調整膜及び/又は前記透明板を、可視領域における短波長側の光の一部を吸収する色素が導入された着色膜及び/又は着色板としたりすることを特徴とするものである。
【0009】
請求項6に記載の発明は、上記目的に加え、更に光源の色合いを良好にする目的を達成するため、上記発明にあって、前記調整膜及び/又は前記反射膜は、光源の演色評価数に対する光源の像の演色評価数を向上するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、白色の入射像の色みに対する反射像の色みにつき、全体の色差ΔEabを10以下の変化量としながらΔa>0として赤みを帯びさせ、更にΔbの変化量(青み・黄みの変化量)よりも赤みの変化量を大きくする(Δa>|Δb|)。よって、鏡に映し出された像に関し、色艶を好ましいものとし、又暖色系の色相を使ったドミナントカラー配色で全体の統一感を与え、更に蛍光灯や白色LED照明下でも誘目性の高い色をナチュラルに強調した映像(反射像)を提供することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例及び比較例の可視領域における分光反射率分布を示すグラフである。
【図2】実施例及び比較例の可視領域における分光反射率分布を示すグラフである。
【図3】実施例及び比較例の可視領域における分光反射率分布を示すグラフである。
【図4】各種光源の可視領域における分光分布を示すグラフである。
【図5】実施例及び比較例の可視領域における分光反射率分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施の形態の例につき、適宜図面に基づいて説明する。なお、本発明の形態は、これらの例に限定されない。
【0013】
本発明に係る鏡は、一つの又は重ねられた複数の透明板と、これ(ら)に平行に付与させた一つ又は複数の調整膜及び一つの反射膜を備える。反射膜より入射光側(対象手前側)に調整膜を配置さえすれば、これらの順番(層構造)はどのようなものであっても良いが、十分な効果を発揮しながらシンプルな構成とする観点から、好ましくは透明板の裏面に調整膜及び反射膜が付着される構造とする。なお、反射膜(の一部)を覆う耐傷あるいは防腐用の保護膜を追加しても良く、調整膜を覆う透明な保護膜を追加しても良く、調整膜を省略しても良い。
【0014】
透明板は、透明であれば何れの材質でも用いることができ、若干の色みを持っていても良く、例えば青板ガラス・白板ガラス等の一般ガラスやBK7等の屈折率を規定した光学ガラス、あるいは透明樹脂等を用いる。樹脂として、例えばポリウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリ4−メチルペンテン−1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂、ポリイソシアネート化合物とポリチオール及び/又は含硫黄ポリオールとを付加重合して得られるポリウレタン樹脂、エピスルフィド基とポリチオール及び/又は含硫黄ポリオールとを付加重合して得られるエピスルフィド樹脂等が挙げられる。
【0015】
反射膜は、可視領域の全体に亘り反射率の高い膜であり、例えば、蒸着アルミニウム膜、あるいは蒸着銀膜、誘電体多層膜によるものが採用される。
【0016】
調整膜は、反射膜から反射した光について、入射光との比較で、可視領域の短波長側(青から緑側)を長波長側(黄から赤側)より相対的に低くした状態とする膜であり、光学多層膜、着色膜、あるいはこれらの組合せ等で形成される。
【0017】
光学多層膜は、高屈折率材料で形成された高屈折率層と、低屈折率材料で形成された低屈折率層を積層したものである。光学多層膜は、短波長帯(例えば400〜600nm帯)の全部又は一部の反射率を抑える低反射特性を付与し、及び/又は、長波長帯(例えば600〜700nm帯や550〜750nm帯)の全部又は一部の反射率を増す増反射特性を付与するように設計されている。
【0018】
光学多層膜の高屈折率層の屈折率の範囲として、1.6〜2.35を例示することができ、その材質として、例えば、金属酸化物を含有した有機珪素化合物、窒化珪素、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム、五酸化タンタル、五酸化ニオブ、二酸化ハフニウム、二酸化セリウム、酸化イットリウム、あるいはこれらの二種以上の混合物等を挙げることができるが、生産性や耐久性等の観点から二酸化チタンであることが好ましい。
【0019】
光学多層膜の低屈折率層の屈折率の範囲としては、上記高屈折率層よりも屈折率が低ければ良く、1.2〜1.8を例示することができ、その材質として、例えば、中空シリカを含有した有機珪素化合物、多孔質ゾル、二酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、弗化マグネシウムを挙げることができる。
【0020】
一方、着色膜は、一又は複数の色素を導入した一又は複数の層を有する膜である。色素導入膜においては、短波長帯(例えば550nm付近の前後各30nm幅や530〜600nm,あるいは450〜600nmの帯域)に吸収量の多い特性を有する色素を含ませている。なお、着色膜は、着色フィルムや着色板により形成することもできる。
【0021】
又、透明板において着色膜と同様に色素を導入し、透明板を着色板とすることで、調整膜(着色膜)無しで短波長帯の吸収を行うこともできる。なお、着色板と調整膜(光学多層膜及び/又は着色膜)を併用することもできる。
【0022】
このような調整膜や着色板により生成される、青みや緑みを減らして赤みや黄みを相対的に強調する状態は、次の〔1〕〜〔5〕で示される、L表色系における標準光下の白色の像(基準物)の色みに係る色度座標値(L,a,b)に対する鏡からの反射像の色みに係る色度座標値(L,a,b)の差であるΔa,Δb等が大きい状態に対応する。
〔1〕Δa=a−a
〔2〕Δb=b−b
〔3〕ΔL=L−L
〔4〕ΔEab=(ΔL*2+Δa*2+Δb*21/2
〔5〕Δa>0
【0023】
表色系(国際照明委員会CIE1976)では、Lは明度(明るさ)、a,bは色度(クロマティクネス指数)で表される色度座標である。L,a,bの計算で使用するX,Y,ZはXYZ表色系による三刺激値であり、それぞれが光の3原色である赤・緑・青の比率を表す。a,b平面において、aの正方向は赤色方向を示し、aの負方向は緑色方向を示し、bの正方向は黄色方向を示し、bの負方向は青色方向を示す。又、L,a,b平面の3次元色空間において、中心からの距離は彩度を示す。
【0024】
そして、上記〔4〕は、3次元色空間における2点の色座標間の距離を示し、当該2点の色座標における色の変化量の差(色差)を表すものである。この色差を下記〔6〕のように10以下とすると、上記〔5〕により基準物に対し反射像に与える赤みを多すぎないものとすることができ、反射像(人肌・植物・食品・衣服・家具等の像)における赤みの付与を大袈裟でない自然なものとすることができる。
〔6〕ΔEab≦10
【0025】
又、Δbの増減により反射像の色みが基準物の色みに対して青みや黄みがかる場合、下記〔7〕で示すようにΔbの絶対値|Δb|よりΔaの増加量を大きくして、反射像に赤みを付与する度合を青みや黄みがかる度合より大きくすることで、やはり反射像における色艶の良さを自然に与えることが可能となる。
〔7〕Δa>|Δb
【0026】
なお、標準光の一例としてのD65光源は、CIEやJISで定められる標準のイルミナント光であり、紫外域を含む昼光で可視領域がほぼフラットな分光分布をしており、照らされる物体色の測定用光源として一般に用いられ、色温度は6504K(ケルビン)である。又、標準光の別の例としてのA光源は、CIEやJIS Z 8720:2000で定められた、色温度2854Kの標準イルミナント光であり、例えばガス入りタングステン白熱電球である。そして、ここでのΔEabは、D65光源を基準光として照らされた基準物を直接測定した場合と、基準物からの光の鏡による反射像を測定した場合の色座標における距離であり、又A光源を基準光として同様に求めた色座標における距離である。
【0027】
更に、基準物は白色であればどのようなものでも採用でき、例えばD65光源の下でX=60〜75,Y=65〜75,Z=65〜95、あるいは明度L=80〜90,a=−10〜+10,b=−10〜+10の範囲内のものを用いることができる。
【0028】
一方、L表色系における色みとは別の観点である黄色度YI等の調整から、鏡における自然な色艶の付与を行うこともできる。
【0029】
YI値は、下記〔8〕に示すとおりであり、マイナスの場合青みが強くなり、プラスの場合黄・赤みが強くなるものであって、XYZ表色系に係る標準光における試料の三刺激値であるX,Y,Zを用いて表される。XYZ表色系は、CIE(国際照明委員会)において標準表色系として採用されており、光の三原色である赤・緑・青あるいはそれらの加法混色に基づく系である。XYZ表色系における刺激値X,Y,Zを求める測色器は公知であり、被測定光の分光エネルギーに刺激値X,Y,Zに関するそれぞれの等色関数を波長毎に乗じつつ可視領域の全波長にわたり積算することで刺激値X,Y,Zが求められる。
〔8〕YI=100(1.2769X−1.059Z)/Y
【0030】
そして、標準光下の白色の対象物(基準物)のYI値YIsと、上述の調整膜あるいは着色板を有する鏡で反射した基準物の反射像のYI値YImの差ΔYI=YIm−YIsは、対象物の色艶を自然に良好に映すという観点から、+0.5〜+10とすることが好ましい。
【実施例】
【0031】
次に、本発明の実施例、及び比較例を示す。但し、実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0032】
本発明の実施例あるいは比較例として、下記[表1],[表2]に示すような、各種の光学多層膜を付与したものや、各種の着色膜を付与したもの等を作成し、分光光度計で可視領域の5度正反射率を測定した。又、本発明の実施例あるいは比較例として、下記[表3],[表4]に示すような、各種の光学多層膜を仮想的に付与したものや、各種の仮想的な色素を導入した着色膜(着色板)を付与したもの等をシミュレーションし、同様に算出した。なお、何れにおいても、白色の基準物として[表1]や[表3]の「基準物」の欄に示すものを用いた。又、ここでは2度視野の等色関数を用いて計算し、特に色みの差が重要であるため、明るさの指標であるY(L)は一定値(ΔL=0)となるように設定した。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
≪光学多層膜(1)≫
[表1]の「基準物」以外の各欄に示すように、青板ガラスにアルミニウム膜を蒸着により付与した鏡(比較例1・多層膜無し)と、低屈折率層に120nm厚の二酸化珪素を用いると共に高屈折率層に100nm厚の二酸化チタンを用い、青板ガラスの裏面に高屈折率層・低屈折率層・反射膜(アルミニウム蒸着膜)の順で積層した、調整膜が2層構造である鏡(比較例2)と、調整膜を同様の材質・厚みである高屈折率層・低屈折率層・高屈折率層・低屈折率層の4層構造とした鏡(実施例1)と、調整膜を同様に6,8,12,20層構造とした鏡(実施例2,3,4,5)と、上記の2層構造の調整膜を白板ガラスに付与した鏡(実施例6)を作成した。
【0038】
なお、高屈折率層の厚みの好適な範囲として60〜110nmが挙げられ、低屈折率層の厚みの好適な範囲として80〜130nmが挙げられる。又、好適には、交互に配置された低屈折率層ないし高屈折率層にあって、金属反射膜側に低屈折率層を配置する。更に、光学多層膜は中屈折率層を含めた等価膜構成や密着層として添加しても良い。又同様にクロム(Cr)やニッケル(Ni)等の金属膜を2〜10nm程度に薄く添加して密着性や耐久性を向上させることができる。加えて、表面鏡の場合、中屈折率層や高屈折率層を最表層に配置すると環境耐久性が弱くなることに鑑み、低屈折率材料を塗布する等して保護層を形成して耐久性を向上することもできる。
【0039】
そして、[表1]の「基準物」(基準物からの光)の色座標(L,a,b)と、それぞれの鏡に映った基準物(鏡における基準物からの光の反射光)の色座標(L,a,b)や、これらの差である距離ΔEabをそれぞれ求め、鏡に映った基準物における色合いの自然な美観(血色や色艶の良好さ)の上昇の有無を目視により確認した。なお、「D65」の欄において、基準光D65下での各値を示し、「A」の欄において、別種の基準光であるA光源下での各値を示し、ΔEabは「ΔE」の欄で示す。
【0040】
すると、多層膜の無い比較例1では、ΔaがD65光源下でもA光源下でもマイナスとなり、赤みが減じられた状態となって、鏡に映る基準物や顔等の色艶が直視の場合より良好になることは無かった。又2層の比較例2では、Δaがプラスとなり赤みが増加しているが、Δbはマイナスとなり黄みが弱く(青みが強く)、赤みが青みに打ち消されてしまい(Δa<|Δb|)、赤みをほんのり付与して色艶を良くする効果が分かり難い。
【0041】
一方、4層の実施例1では、D65光源下でΔaが+4.97でプラスとなり、Δbは−0.03でマイナスとなって、赤みの変化量に対して黄みの変化量が小さく(|Δa|>|Δb|)、良好な色艶の付与された反射像が得られた。又A光源下ではΔaが+5.61,Δbが+0.55で共にプラスとなり、鏡に映る基準物や顔等の色艶がより良好な反射像として得られた。
【0042】
更に、6層の実施例2では、D65光源下でΔaが+3.82、Δbが+3.07となり、A光源下でΔaが+4.23、Δbが+2.75となって、双方共にプラスで同等の大きさを持ち、大きさの差異が少ないため、赤みの強調度合が比較的に少ないものの、反射率が増加するために鏡に映る基準物や顔等の色艶が鮮やかなものとなる。
【0043】
加えて、8〜20層の実施例3〜5では、D65光源下でΔaが順に+5.63,+5.11,+5.40、Δbが順に+0.24,+0.39,+1.76となり、双方ともプラスで、Δa>Δbとなり、これらの差も大きく、ΔEabが順に5.63,5.12,5.68で10以下である。又A光源下でもΔaが順に+6.92,+6.54,+7.33、Δbが順に+0.90,+0.93,+1.89となり、同様に双方ともプラスで、Δa>Δbとなり、ΔEab≦10となる。そして、何れの光源下でもこれらの条件を満たすことにより、光源の分光分布によらず、鏡に映る基準物や顔等の色艶が最も良好になっている。
【0044】
又、2層で白板ガラスの実施例6では、2層で青板ガラスの比較例2と異なり、D65光源においてΔbがマイナスであるものの、Δa>|Δb|であるため、鏡に映る基準物や顔等の色艶が改善されて比較的良好になっていた。なお、比較例1の結果や、Δa,Δb,ΔEabに関する別途実施したシミュレーションの結果から、Δaがマイナスとなり、又はΔaがプラスであってもΔa≦|Δb|となると、多くの者にとって鏡の映像の色艶が良いと感じることが殆ど無くなることが分かった。
【0045】
ここで、増反射膜としての光学多層膜の設計指針について述べると、高反射帯の幅(波長方向)は、低屈折率層と高屈折率層の屈折率差で調整し、反射率の高さは積層する膜総数で調整することができる。更に、12層以上の増反射膜は、600〜700nm帯の反射率がほぼ限界値であり頭打ちとなるため、12層以上の膜は実施例4,5と同様の挙動を示し、何れも良好な色艶の反射像が得られる。
【0046】
なお、[表1]にはΔYIもそれぞれ示されており、ΔYIが+0.5以上+10以下となる実施例1〜6において、自然な色艶の付与が行えているといえる。
【0047】
又、図1において、実施例1〜6・比較例1〜2の可視領域における分光反射率分布を示す。図1のAL(アルミニウム膜のみ,比較例1)やL2増反射(比較例2)では、可視領域の全体に亘り上下数ポイントの間に入るようなフラットな状態であるのに対し、L4増反射(実施例1)・L6増反射(実施例2)・L8増反射(実施例3)・L12増反射(実施例4)・L20増反射(実施例5)・L2増反射(白板ガラス)(実施例6)では、580nm付近より長波長側の反射率が、短波長側の反射率に比べ4〜10ポイント程度高くなっている。このような長波長側(600〜700nm帯)における反射率の若干の持ち上げ(あるいは短波長側における反射率の若干の抑制)が、対象の色艶を程良いものとしているといえる。
【0048】
≪着色膜(1)≫
[表2]の各欄に示すように、色素SOT−PINKを透明樹脂バインダーに混入してスピンコーターによりコートし、青板ガラスのAL反射膜の反対側の面に色素導入膜として形成した鏡(実施例7)と、色素をDPPレッド,SOT−Violetとして同様に色素導入膜を形成した鏡(比較例3,4)と、着色板(カメラ用色温度変更フィルターMC−82A)にAL反射膜を塗布した裏面鏡(比較例5)と、R15と同じ分光反射特性となる誘電体多層膜(R15膜)を有するように形成した鏡(比較例6)と、このR15膜及びMC−82Aを組み合わせた鏡(実施例8)と、銀(Ag)引きで作製した青板ガラス,白板ガラスを用いた、反射膜が銀である鏡(比較例7,8)と、青板ガラスに反射膜として金(Au)を用いた鏡(比較例9)を作成した。なお、R15は、特殊演色評価数の基準色のうち日本人女性の肌色用として定められたものである。又、実施例8は、MC−82Aを2枚貼り合わせ、その外側にR15膜を蒸着加工したものである。
【0049】
SOT−PINKを導入した実施例7では、D65光源下でΔaが+6.03,Δbが−4.79,ΔEabが7.70であり、A光源下でΔaが+4.80,Δbが−2.72,ΔEabが5.52となって白色が鏡においてほんのり赤みを帯びて見える。一方、DPPレッドを導入した比較例3では、D65光源下でΔaが+16.73,Δbが−2.91,ΔEabが16.98であり、A光源下でΔaが+16.81,Δbが+0.43,ΔEabが16.82となり、赤みが強調されすぎと感じる者が存在する状態である。なお、この実施例7・比較例3の結果や、ΔEabに関する別途実施したシミュレーションの結果から、ΔEabが10を超えると、赤みが強調されすぎて色艶が濃すぎるようになり、多くの者にとって色目の変化が大きすぎて不自然に見えるようになることが分かった。又、比較例3について、比較例1のAL単層の鏡と比較すると、赤みの変化方向が+18ポイントで、黄みの変化方向が+1.0〜+2.5ポイントであることから、色みの改善方向は正しいといえ、DPPレッドの濃度を比較例3から約半分に減らすと、色みの変化度合がその分減り、ΔEabが10以下となって赤みが程良く付与される。
【0050】
SOT−Violetを導入した比較例4では、D65光源下でΔaが−0.52,Δbが−10.11であり、A光源下でΔaが−0.72,Δbが−7.72となって色の変化方向が青側・緑側となり、特に青みが強すぎる状態となる。同様に比較例5でもD65光源下でΔaが−3.64,Δbが−12.21であり、A光源下でΔaが−9.61,Δbが−9.30となって色の変化方向が青側・緑側となり、特に青みが強すぎる状態となる。又、R15膜の比較例6では、D65光源下でΔaが+12.95,Δbが+19.53であり、A光源下でΔaが+22.30,Δbが+14.90となって赤みや黄みが強調されすぎる状態となる。
【0051】
一方、比較例5,6を組み合わせた実施例8では、D65光源下でΔaが+1.81,Δbが−3.11であり、A光源下でΔaが+3.23,Δbが−2.04となり、A光源下においてΔa>|Δb|となって、赤みが強すぎたR15膜(比較例6)と青みが強すぎた着色膜(比較例5)が打ち消しあって若干赤みを帯びたバランス点で色艶の良好な鏡を得ることができた。
【0052】
なお、[表2]にはΔYIもそれぞれ示されており、ΔYIが+0.5以上+10以下となる実施例7(A光源),比較例3(D65光源),実施例8(A光源),実施例9(双方)において、自然な色艶の付与が行えているといえる。
【0053】
又、図2において、実施例7〜8・比較例3〜6の可視領域における反射率分布を示す。DPPレッド(比較例3)では、430〜580nm帯の反射率が落ち込んでおり、SOT−Violet(比較例4)では、430〜650nm帯の反射率が落ち込んでおり、MC−82A(比較例5)では、410nm付近をピークとして反射率が下がっており、R15膜(比較例6)では、580nmより短波長側の反射率が長波長側のものと比べて大きく落ち込んでいる。
【0054】
一方、SOT−PINK(実施例7)では、短波長側と長波長側で同程度(85%程度)の反射率となっているものの、550nm付近と可視領域の両端付近で反射率が10ポイント前後落ちており、R15膜+2枚のMC−82A(実施例8)では、約470〜490,530〜600nmの短波長帯で反射率が20%を割っており、短波長帯における反射率の若干の抑制により映像の色艶を赤みがかった程良いものとしている。
【0055】
≪調整膜無し≫
一方、白板ガラスに銀引きした鏡である実施例9では、D65光源下でΔaが−0.21,Δbが+0.90であり、A光源下でΔaが+0.10,Δbが+0.58となって、A光源下でΔa>0且つΔEab≦10となり、色みの改善が行えている。他方、通常の銀引き鏡である青板ガラスを用いた比較例7では、D65光源下でΔaが−1.54,Δbが+0.76であり、A光源下でΔaが−1.46,Δbが+0.28となって、その反射像が緑みや黄みの付与を受けることになり、自然な赤みの付与ができない。
【0056】
更に、青板ガラスに金を蒸着して金の反射膜を付与した比較例8では、D65光源下でΔaが+2.16,Δbが+44.32,ΔEabが44.37であり、A光源下でΔaが+9.76,Δbが+31.24,ΔEabが32.73となって、色差が大きく反射像の色みが大きく変化し、又Δa<Δbとなって赤みの付与よりも黄みの付与が目立ち、不自然に黄みがかった映像となる。なお、比較例1も調整膜無しの鏡である。
【0057】
又、図2において、実施例9・比較例8の可視領域における分光反射率分布を示す。Au(比較例8)では、530nmより短波長側の反射率が長波長側のものと比べて大きく落ち込んでいるのに対し、Ag(白板ガラス)(実施例9)では、480nmより短波長側の反射率が僅かに落ち込む他は反射率が高いまま維持されるものとなっている。
【0058】
≪各種光源色の変化(1)≫
鏡の像の色艶の良し悪しを数値化するため、上述の実施例1〜9・比較例1〜8(比較例7を除く)における、各種光源色を鏡に映した場合における光源特性の変化(光源色と鏡で反射した光源色との比較)を測定した。その結果を、次の[表5]に示す。
【0059】
【表5】

【0060】
光源色としては、上述のA光源やD65光源に加え、F7光源(演色A昼色光に係る蛍光ランプ、広帯域昼光・色温度6500K)、F11光源(3波長形白光に係る蛍光ランプ、狭帯域白色光・色温度4000K)、とある白色LED光源(LED1)、及びLED1と色温度(色み)等の特性の異なる白色LED光源(LED2)を試した。なお、各光源の分光分布を図4に示す。図4の縦軸は光の相対強度である。又、[表5]の「Ra」は演色評価数の基準色No.1〜8(R1〜8)の平均値を示し、「R13」は特殊演色評価数の基準色No.13(西洋人の肌色)の演色評価数を示し、「R15」は特殊演色評価数の基準色No.15(日本人女性の肌色)の演色評価数を示す。
【0061】
演色評価数は基準光で照らした基準色と試料光で照らした基準色の色の再現性を表し、100に近ければその基準色の色再現が近づき、色みが良くなることを表す。なお、A光源及びD65光源は演色評価数が100の光源であるため、これらの光源に係る演色評価数は必ず100を下回るところ、演色評価数が減少することは色みの悪化に必ずしも対応しない。
【0062】
又、色温度は、その光源の色みを黒体輻射からの光としてみたときの黒体の温度を表すものであり、光源の色の指標とされる。色温度が下がれば黄み・赤みが強くなり、色温度が上がれば青みが強くなる。なお、4000K以下の色温度の光源は、基準光として昼光で比較ができないため、A光源で比較して演色評価数を計算した。
【0063】
[表5]によれば、実施例1〜7の鏡では、今日普及しつつある白色LED(LED1:昼白色,LED2:電球色)照明下においても、Ra・R13・R15の演色評価数が改善されており(光源色の演色評価数と比較して各実施例の膜で反射した光源色の演色評価数が向上しており)、色温度が全体的に若干低く変化していることから、黄み・赤みが程良く強調されているといえ、よって光の色を補正して、色再現を改善し、顔や物体等の色艶を良好に映し出すことができていることが見た目のみならず数値からも分かる。
【0064】
なお、演色評価数の5ポイント以上の改善があったものは、具体的には、実施例1のF7のR13・R15,F11のRa・R13・R15,LED1のR15,LED2のRa・R15、実施例2のF7のR15,F11のRa・R13・R15、実施例3のF7のR13・R15,F11のRa・R13・R15,LED1のRa・R13・R15,LED2のRa・R13・R15、実施例4,5のF7のR13・R15,F11のRa・R13・R15,LED1のR13・R15,LED2のRa・R13・R15、実施例6のF11のRa・R15、実施例7のF7のR13・R15,F11のRa・R13・R15,LED1のR13・R15,LED2のR15、比較例3のF11のRa・R15,LED1のRa・R13・R15,LED2のRa・R13・R15、比較例4のF11のRa,LED2のRa・R13・R15、比較例5のF11のRa・R13・R15,LED2のRa・R13・R15、比較例6のF11のRa・R15,LED1のRa・R13・R15,LED2のRa・R13・R15、実施例8のF7のR13・R15,F11のRa・R15,LED1のR13・R15,LED2のRa・R13・R15、実施例9のF11のRa、比較例8のF11のRa・R13・R15,LED1のR15,LED2のRa・R15である。
【0065】
一方、演色評価数の20ポイント以上の低下があったものは、具体的には、比較例3のA光源のR15,D65光源のR13・R15、比較例5のA光源のR15、比較例6のA光源のRa・R13・R15,D65光源のRa・R13・R15,F7のRa・R15、比較例8のD65光源のRa・R13・R15,F7のRa・R15である。
【0066】
≪光学多層膜(2)≫
[表3]の「基準物」・「AL単層」・「L20増反射」は[表1]と同様であり、「L20増反射(−50nm)」は、L20増反射(実施例5)の分光分布が短波長側に50nm分だけずれるように、各層の厚み以外実施例5と同様の20層の光学多層膜付きの鏡を仮想的に設計したものであり、「L20増反射(−100nm)」等についても同様である。「L20増反射(−50nm)」から順に、実施例10・比較例9,10,11・実施例12となる。
【0067】
比較例9では、D65光源下でΔaが−7.41,Δbが+6.56であり、A光源下でΔaが−6.83,Δbが+3.84となり、黄み・緑みの付与が強く赤みの付与が弱いため、良好な色艶付与の効果が出ない。比較例10では、D65光源下でΔaが−5.60,Δbが−1.59であり、A光源下でΔaが−4.67,Δbが−5.60となって、寒色を帯びた像となる。比較例11では、D65光源下でΔaが+3.60,Δbが−8.00であり、A光源下でΔaが+0.87,Δbが−5.21となって、赤みより青みの強い(Δb<0,Δa<|Δb|)寒色を帯びた像となる。
【0068】
一方、実施例10では、D65光源下でΔaが+4.02,Δbが+5.00であり、A光源下でΔaが+4.39,Δbが+4.27となって、赤みと黄みの変化が強く変化量は同等であるため、鏡に映る基準物や顔等の色艶につき、他と比べると改善度合が若干弱いものの、比較的良好に改善されている。実施例11では、D65光源下でΔaが+0.77,Δbが+0.17,ΔEabが0.79であり、A光源下でΔaが+1.35,Δbが+0.25,ΔEabが1.37となって、双方の光源において自然な赤みの付与がなされる。
【0069】
なお、[表3]にはΔYIもそれぞれ示されており、ΔYIが+0.5以上+10以下となる実施例10(双方),実施例11(D65光源),実施例12(双方)において、自然な色艶の付与が行えているといえる。
【0070】
又、図3において、これらの分光反射率分布を示す。実施例10では、550〜650nmにおいて100%に近い高反射率帯をもち、これより短波長側の平均的反射率と長波長側の平均的反射率が同程度となっている。実施例11では、500〜600nmにおいて100%に近い高反射率帯をもち、これより短波長側の平均的反射率より長波長側の反射率の方が若干大きくなっている。実施例12では、実施例5の分光分布を50nm分長波長側にずらしており、640〜750nmにおいて100%に近い高反射率帯をもち、長波長側の反射率が短波長側に比べて大きくなっている。このことから、550〜750nmの帯域で増反射となる黄・赤系の反射膜が有効であることが分かった。
【0071】
≪着色膜(2)≫
[表4]の各欄に示すように、仮想的な色素(ノッチ1〜6)を導入した調整膜を含む実施例7等と同様な鏡をシミュレーションにより考察した。ノッチ1〜6の特性は、図5に示すように、図3の増反射膜とは逆の分光反射率分布を持つ特性で、約100nmの波長幅で光を吸収する吸収帯を持つ色素につき、その吸収帯の波長軸における位置をノッチ毎に50nmずつずらしたものとなっている。そして、これらの鏡は、順に比較例12,13・実施例12,13・比較例14,15である。
【0072】
比較例12〜15では、順にD65光源下でΔaが−5.22,−3.89,−3.18,−0.83、Δbが−1.76,−5.36,+8.08,−0.18であり、A光源下でΔaが−7.00,−4.54,−0.73,−1.45、Δbが−1.94,−4.62,+5.31,−0.26となって、比較例12,13,15において青白い映像となり、比較例14において黄みが強く赤みのない映像となる。
【0073】
一方、実施例12では、D65光源下でΔaが+7.94,Δbが−7.15,ΔEabが10.68であり、A光源下でΔaが+7.08,Δbが−4.16,ΔEabが8.21となって、D65光源下で赤みが強いものの、青みも同様に強く紫みを帯び、A光源下で赤みが青みより強く赤紫側の色みを帯び、色艶の比較邸良好な映像が得られる。又、実施例13では、D65光源下でΔaが+5.85,Δbが+1.87,ΔEabが6.14であり、A光源下でΔaが+4.94,Δbが+2.66,ΔEabが5.62となって、双方の光源下で映像が自然な赤みを帯びる。このことから、450〜600nmの帯域で吸収を持つ黄・赤系の着色膜,色素導入膜,着色板が有効であることが分かった。
【0074】
なお、[表4]にはΔYIもそれぞれ示されており、ΔYIが+0.5以上+10以下となる実施例12(A光源),実施例13(双方),比較例14(A光源)において、自然な色艶の付与が行えているとみることもできる。
【0075】
≪各種光源色の変化(2)≫
上述の実施例10〜13・比較例9〜15における、上記[表5]と同様の、各種光源色を鏡に映した場合における光源特性の変化(光源色と鏡で反射した光源色との比較)を、次の[表6]に示す。
【0076】
【表6】

【0077】
[表6]によれば、実施例10〜13の鏡においても、Ra・R13・R15の演色評価数が改善されると共に、色温度が全体的に低く変化しており、白色LED照明下ですら顔や物体等の色艶を良好に映し、白色LED照明の青白さを自然に軽減した状態の像とすることができているといえる。
【0078】
なお、演色評価数の5ポイント以上の改善があったものは、具体的には、実施例10のF7のR15,F11のRa・R13・R15、比較例9のF11のR13・R15、比較例10のF11のR15、実施例11のF11のRa・R15、比較例12,13のF11のRa・R13・R15,LED2のRa・R13・R15、実施例12のF7のRa・R13・R15,F11のRa・R15,LED1のR13・R15,LED2のRa・R13・R15、実施例13のF11のRa・R15、比較例14のF11のRaである。
【0079】
一方、演色評価数が20ポイント以上低下したものはないが、蛍光灯やLEDで10ポイント以上の低下があったものは、具体的には、比較例9のF7のR15,LED2のR15、比較例12のF7のR15である。
【0080】
≪検討≫
実施例1〜13・比較例1〜15を始めとする種々の鏡を作成し、映像の色艶を見たところ、次のことが判明した。即ち、D65光源やA光源等の標準光の下でのΔaがマイナスであると、像を直視した場合と比べて艶の良好化が図れないか、白く寒々しく見えることとなる。一方、ΔEab(全体の色みの変化量)が10を超えると、映像の赤みが強すぎ、あるいは直視した像と鏡の像との色合いの差が大きくなって、赤みの付与がわざとらしく大袈裟になる。赤みを強くする(Δa>0)と色艶が良く、暖かみを感じることが多いが、黄み(Δb>0)も同じ暖色系の色であるため、程良い黄みの付与は、明るさや幸福感、ナチュラルな印象を与えたり、注意喚起等の誘目性が高い。又Δa>0且つΔb<0の場合、赤みと青みが強くなるため紫みの色合いとなり(Δa>|Δb|で赤紫となり)、神秘的で優雅な感じを与えることができるし、ドミナント効果により全体的な統一感やなじみ感を与えることができる。
【0081】
そして、標準光源下でのΔEabを0.5以上10以下とすると、映像に対して自然で好ましい赤みの付与を行うことができ、肌を美肌として映したり、顔を美しく健康的に映したり、食品や室内を活気のある色合いで映したりする等、鏡の像の色艶を良好なものとすることができるし、白色LEDのような赤みの弱い白色照明下でも自然な像を提供することができる。
【0082】
≪ΔYIの観点からみた発明の例示≫
なお、上述のように黄色度の差ΔYIを基準として色艶の自然な付与の有無をみることも可能であり、このような観点からの発明の例を以下に示しておく。
【0083】
[1]透明板と、
当該透明板に形成された、光を反射する反射膜
を備えており、
白色の基準物における下記式で表される黄色度YIsと、当該基準物を映し出した鏡からの反射光における下記式で表される黄色度YImとの差であるΔYI=YIm−YIsが、+0.5以上+10以下である
ことを特徴とする鏡。
黄色度YI=100(1.2769X−1.059Z)/Y
X,Y,Z:XYZ表色系における三刺激値
【0084】
[2]更に、前記黄色度YImを調整する調整膜を備えている
ことを特徴とする[1]に記載の鏡。
【0085】
[3]前記調整膜は、可視領域における長波長側の光の反射率を増すように形成された、低屈折率層と高屈折率層を含む光学多層膜である
ことを特徴とする[2]に記載の鏡。
【0086】
[4]前記調整膜及び/又は前記透明板は、可視領域における短波長側の光の一部を吸収する色素が導入された着色膜及び/又は着色板である
ことを特徴とする[1]〜[3]の何れかに記載の鏡。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明板と、
当該透明板に形成された、光を反射する反射膜
を備えており、
白色の基準物におけるL表色系で表される色度座標値(L,a,b)、及び当該基準物を映し出した前記反射膜からの反射光における色度座標値(L,a,b)に係る下記〔1〕〜〔4〕の値に関し、下記〔5〕〜〔6〕の関係が全て成り立つ
ことを特徴とする鏡。
〔1〕Δa=a−a
〔2〕Δb=b−b
〔3〕ΔL=L−L
〔4〕ΔEab=(ΔL*2+Δa*2+Δb*21/2
〔5〕Δa>0
〔6〕ΔEab≦10
【請求項2】
下記〔7〕の関係も成り立つ
ことを特徴とする請求項1に記載の鏡。
〔7〕Δa>|Δb
【請求項3】
更に、前記ΔL,Δa,Δbの少なくとも何れかを調整する調整膜を備えている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鏡。
【請求項4】
前記調整膜は、可視領域における長波長側の光の反射率を増すように形成された、低屈折率層と高屈折率層を含む光学多層膜である
ことを特徴とする請求項3に記載の鏡。
【請求項5】
前記調整膜及び/又は前記透明板は、可視領域における短波長側の光の一部を吸収する色素が導入された着色膜及び/又は着色板である
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れかに記載の鏡。
【請求項6】
前記調整膜及び/又は前記反射膜は、光源の演色評価数に対する光源の像の演色評価数を向上するものである
ことを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れかに記載の鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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