説明

長い可使時間を有する重合性システム

【課題】強度増強速度、硬化時間およびT剥離強度などの他の特性を維持しつつ、可使時間の増加した接着剤を提供する。
【解決手段】(a)有機ホウ素と、
(b)少なくとも1種の(メタ)アクリル系重合性モノマーと、
(c)所定の式で表される可使時間増量剤と、
を含む重合性システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に(メタ)アクリル系モノマー類の重合化を開始できるシステムに関する。具体的には、本発明は、重合性(メタ)アクリル系モノマー類への可使時間増量剤(work−life extending agent)の添加並びにそれにより作製された重合性システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
接着組成物を作製するために(メタ)アクリル系モノマー類の重合化を開始するシステムは、当業界に知られている。例えば、米国特許第5,106,928号、米国特許第5,286,821号および米国特許第5,310,835号には、(メタ)アクリル系接着剤組成物に有用であると報告されている2つの部分の開始剤システムを開示している。この2要素開始システムのうち、第1の要素には、安定な有機ホウ素アミン錯体を含み、また、第2の要素には、活性化剤を含む。前記活性化剤は、アミン基を除去することにより有機ホウ素化合物を遊離し、これによって、前記有機ホウ素化合物に重合過程を開始させる。
【0003】
錯体の前記有機ホウ素化合物は、一般式:
【化1】

(式中、R1、R2およびR3が、1個から10個の炭素原子を有するアルキル基またはフェニル基のいずれかである)
を有する。前記錯体に有用なアミン化合物としては、n−オクチルアミン、1,6−ジアミノヘキサン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレンジアミン、アンモニア、1,3−プロピレンジアミンおよび1,2−プロピレンジアミンが挙げられる。
【0004】
米国特許第5,286,821号には、有機ホウ素化合物を遊離するのに好適な活性化剤として、一般構造:
R−(CHO)x
(式中、Rは、1個から10個の炭素原子のアルキルまたは6個から10個の炭素原子を有するアリール基であり、xは1から2である)
を有するアルデヒド類が挙げられることを報告している。
【0005】
米国特許第5,310,835号はまた好適な活性化剤として、構造:
R−COOH
(式中のRが、H、アルキル、または1個から8個の炭素原子を有するアルケニルである)を有する有機酸を挙げられることを報告している。例としては、アクリル酸、メタクリル酸、安息香酸およびp−メトキシ安息香酸が挙げられる。
【0006】
フジサワ(Fujisawa)、イマイ(Imai)およびマシュハラ(Mashuhara)は、メタクリル酸メチルの重合化を開始するシステムを記載している。医科歯科大学(the Institute for Medical and Dental Engineering)報告書、3巻、64頁(1969)を参照されたい。このシステムは、トリアルキルボランアミン錯体、およびメタクリル酸またはn−ブタンスルホン酸の塩化物、塩化テレフタル酸、塩化ベンゾイル、塩化p−トルエンスルホン酸、塩化ベンゼンスルホン酸、塩化メタンスルホン酸、トルエンジイソシアン酸エステル、塩化アジピン酸、o−トリルイソシアン酸エステル、塩化アセチルおよび無水酢酸などの活性化剤を含む。この開始剤システムは、歯科適用に急速硬化樹脂を提供するのに有用であると報告されている。
【0007】
末端利用者の要件の要求が増すにつれて、接着剤組成物製剤は、接着組成物の塗布性能(例えば、可使時間、強度増強速度や硬化時間)および物性性能(例えば、T剥離強度)の双方を改善するように絶えず要求されている。製剤を変化させると、接着剤組成物の1つの物性を増強する一方で、接着剤組成物の第2の物性を減弱させる場合が多い。
【0008】
接着剤組成物に関する多くの産業界および消費者の適用において、可使時間の長さが大いに望まれている。可使時間とは、接着剤組成物の硬化開始後、接着剤組成物を、接合基材と接触させる(すなわち、接着終了)ために利用できる最大時間を云う。可使時間が切れた後に、基材を接着剤組成物と接触させると、基材間に形成される最大接着強度が減少する可能性がある。
【0009】
重合性システムの可使時間を増加させる幾つかの方法が報告されている。知られた1つの方法では、例えば、重合性システムにおける重合開始剤の量および/または重合剤の化学反応性を減少させることにより、重合性システムの硬化速度を遅延化して可使時間を増加させる。しかしながら、この方法は、典型的には全体的な硬化時間は延長できるが、重合性システムの強度増加速度を遅延化する可能性がある。
【0010】
重合性システムにある一定の重合性モノマー類を添加することもまた、可使時間を増加することが報告されている。米国特許第5,859、160号(ライエッテニィ(Righettini)ら)は、フリーラジカル硬化性化合物とフリーラジカル硬化性化合物とは、化学的に異なるビニル芳香族化合物を含む2要素の接着剤として有用なフリーラジカル硬化性組成物を報告している。ビニル芳香族化合物は、硬化終了および硬化後の硬化性組成物の性質に悪影響を与えることなくフリーラジカル組成物の硬化速度を減速するのに十分と報告されている量で存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、強度増強速度、硬化時間およびT剥離強度などの他の特性を維持しながら、可使時間の増加した接着剤の必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、有機ホウ素と、少なくとも1種の重合性モノマーと、可使時間増量剤とを含む重合性システムに関する。前記可使時間増量剤は、一般式:
【化2】

(式中、R40は、CH2=またはアルケニルであり、Z1およびZ2は、独立してO、N−R41またはSであり、R41、R42およびR43は、独立してH、アルキル、アリールまたはシクロアルキルであり、Z1およびZ2が、Oである場合、R42およびR43は、独立してアルキル、アリールまたはシクロアルキルである)
の1つによることができる。
【0013】
前記可使時間増量剤は、また一般式:
【化3】

(式中、R44は、CH2=またはアルケニルであり、Xは、SまたはN−R50であり、式中R50は水素、アルキル、アリールまたはシクロアルキルである)
によることができる。
【0014】
さらに、本発明の重合性システムはまた、アミン類、アミジン類、水酸化物、アルコキシド類およびその組合わせから選択される物質を含む錯化剤を含むことができる。このような場合、可使時間増量剤は、一般式:
【化4】

(式中、R44は、CH2=またはアルケニルであり、Xは、Oであり、錯化剤中のアミン基、アミジン基、水酸化物基、アルコキシド基に対する可使時間増量剤中の無水物基の比率は、3.0:1.0を超える)によることができる。
【0015】
前記可使時間増量剤はまた、一般式:
【化5】

(式中、R40は、CH2=またはアルケニルであり、R42は、Hまたはアルキルであり、R43は、Hであり、Z1およびZ2は、Oであり、並びに錯化剤中のアミン基、アミジン基、水酸化物基、アルコキシド基に対する可使時間増量剤中のアミン反応基、アミジン反応基、水酸化物反応基、アルコキシド反応基の比率は、3.0:1.0を超える)によることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、2要素重合性システム、特に(メタ)アクリル系接着剤に硬化する(すなわち、重合化する)重合性システムのために、特に可使時間の延長を提供するのに有用な重合性システムを提供する。
【0017】
本発明に用いられる重合化開始システムは、有機ホウ素を含む。前記有機ホウ素系開始剤が、例えばアミンと複合化される場合、脱錯化剤もまた必要であるが、これは重合化システムが硬化されるまで、有機ホウ素系開始剤から分離しておくことが好ましい。
【0018】
重合化開始システムは、便利で商業的に有用な1:10以下の全整数混合比で、2要素重合性システム用の重合性モノマー類と直接組み合わせることができる。幾つかの実施形態において、可使時間増量剤は、有機ホウ素系開始剤の可使時間増量剤としても、また脱錯化剤(例えば、無水イタコン酸)としても作用できる。このような実施形態では、可使時間増量剤は、重合性システムが硬化されるまで、有機ホウ素系開始剤から分離されていることが好ましい。
【0019】
本発明の開始剤システム、モノマーシステムおよび重合性システムの個々の成分を、以下に詳細に記載する。
【0020】
有機ホウ素:
有機ホウ素は、重合性モノマーのフリーラジカル共重合化を開始して、重合性システム、例えば(メタ)アクリル系接着剤として有用となり得るポリマーを形成する。有機ホウ素系開始剤は、次の一般式:
【化6】

(式中、R1は、1個から約10個の炭素原子を有するアルキル基であり、R2およびR3は、同一であっても、または異なっていてもよく、1個から約10個の炭素原子を有するアルキル基およびフェニル含有基から独立して選択される)により表すことができる。R1、R2およびR3は、好ましくは、1個から約5個の炭素原子を有するアルキル基から独立して選択される。したがって、R1、R2およびR3は全て、異なっていても、またはR1、R2およびR3の2個以上が同一であってもよい。R1、R2およびR3は、付加しているホウ素原子(B)と一緒になって、開始剤を形成する。具体的な有機ホウ素開始剤としては、例えば、トリメチルボラン、トリエチルボラン、トリ−n−プロピルボラン、トリイソプロピルボラン、トリ−n−ブチルボラン、トリイソブチルボランおよびトリ−s−ブチルボランが挙げられる。
【0021】
好ましい有機ホウ素系開始剤は、錯化剤と錯体化し、次の一般式:
【化7】

(式中、R1、R2およびR3は、上記のとおりであり、Cxは、錯化剤である)
により表すことができる。
【0022】
錯化剤:
有用な錯化剤(Cx)としては、例えば、アミン類、アミジン類、水酸化物および/またはアルコキシド類が挙げられる。錯体中のホウ素原子に対する錯化剤(Cx)の比率は、「v」で表され、錯化剤とホウ素原子の効果的な比率を提供するように選択されることが好ましい。錯体中のホウ素原子に対する錯化剤の比率は、大まかに約1:1から4:1である。しかしながら、好ましくは、前記比率は、約1:1から2:1であり、より好ましくは、約1:1から1.5:1であり、最も好ましくは約1:1である。ホウ素原子に対する錯化剤の比率が1:1未満の場合は、発火傾向のある物質である遊離有機ホウ素が残る可能性がある。
【0023】
アミン系錯化剤:
アミン系錯化剤(Cx)は、異なるアミン類の混合など、少なくとも1個のアミノ基を有する多種多様な物質により提供できる。アミン系錯化剤はまた、ポリアミン類(すなわち、2個から4個のアミン基などの2個以上のアミン基を有する物質)であり得る。
【0024】
1つの実施形態において、アミン系錯化剤は構造:
【化8】

(式中、R4およびR5は、独立して水素、1個から10個の炭素原子を有するアルキル基、アミン基がアリール構造に直接付加していないアルキルアリール基、およびポリオキシアルキレン基からなる群から選択される)
で表されるものなどの第一級または第二級モノアミンであり得る。これらアミン類の具体例としては、アンモニア、エチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ベンジルアミンおよびポリオキシアルキレンモノアミン類(例えば、ハンツマン・ケミカル・カンパニー(Huntsman Chemical Company)のM715およびM2005などのジェファミンズ(JEFFAMINES))が挙げられる。
【0025】
他の実施形態において、アミンは、構造:
5HN−R6−NHR5
(式中、R5は、上記に定義されたとおりであり、R6は、アルキル、アリールまたはアルキルアリール基を含む二価の有機ラジカルである)
により記載されるものなどのポリアミンであり得る。これらの物質のうち、分枝または直鎖で、一般式:
【化9】

(式中、xは、1または1以上の整数であり、より好ましくは約2から12であり、R7は、水素またはアルキル基である)
を有するアルカンジアミン類が好ましい。アルカンジアミン類の特に好ましい例としては、1,2−エタンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミンおよびこれらの物質の異性体が挙げられる。アルカンジアミン類が好ましいが、トリエチレンテトラアミンおよびジエチレントリアミンなどの他のアルキルポリアミン類を使用できる。
【0026】
有用なポリアミン類は、ポリオキシアルキレンポリアミンによっても提供できる。本発明の錯体を作製するのに適切なポリオキシアルキレンポリアミン類は、以下の構造を有する。
2NR8(R9O)w─(R10O)x─(R9O)y─R8NH2
(すなわち、ポリオキシアルキレンジアミン類);または
[H2NR8─(R9O)wz─R11
式中、R8、R9およびR10は、1個から10個の炭素原子を有するアルキレン基であり、同一であっても、異なっていてもよい。R8は、好ましくは、エチレン、n−プロピレン、イソ−プロピレン、n−ブチレンまたはイソ−ブチレンなどの2個から4個の炭素原子を有するアルキレン基である。R9およびR10は、好ましくは、エチレン、n−プロピレンまたはイソ−プロピレンなどの2個または3個の炭素原子を有するアルキレン基である。R11は、ポリオキシアルキレンポリアミン(すなわち、水酸基が除去される場合に残る有機構造)を調製するのに用いられるポリオール残基である。R11は、分枝または直鎖であってもよく、また、置換されていても、または無置換であってもよい(置換基は、オキシアルキル化反応を妨害してはならないが)。
【0027】
w値は、1または1以上であり、より好ましくは、約1から150、最も好ましくは約1から20である。wが、2、3または4である構造はまた有用である。xとyの値は、双方とも0または0以上である。z値は、2より大きく、より好ましくは3または4である(ポリオキシアルキレントリアミン類およびテトラアミン類を、それぞれ提供するために)。w、x、yおよびzの値は、生じた錯体が室温(「室温」とは、ここでは約20℃から22℃の温度を称す)で液体で、その取扱いと混合が簡便となるように選択されることが好ましい。通常、ポリオキシアルキレンポリアミン類はそれ自体液体である。ポリオキシアルキレンポリアミン類は、約5,000未満の分子量を用いることができるが、約1,000以下の分子量がより好ましく、約140から1,000の分子量が最も好ましい。
【0028】
特に好ましいポリオキシアルキレンポリアミン類の例としては、ポリエチレンオキシドジアミン、ポリプロピレンオキシドジアミン、ポリプロピレンオキシドトリアミン、ジエチレングリコールジプロピルアミン、トリエチレングリコールジプロピルアミン、ポリテトラメチレンオキシドジアミン、ポリ(エチレンオキシド−コ−プロピレンオキシド)ジアミン、およびポリ(エチレンオキシド−コ−プロピレンオキシド)トリアミンが挙げられる。
【0029】
好適な商品的として入手できるポリオキシアルキレンポリアミン類の例としては、D,EDおよびEDRシリーズのジアミン類(例えば、D−400、D−2000、D−5000、ED−600、ED−900、ED−2001およびEDR−148)およびTシリーズトリアミン類(例えば、T−403)のようなハンツマン・ケミカル・カンパニー(Huntsman Chemical Company)の種々のジェファミンズ(JEFFAMINES))、並びにジクシー・ケミカル・カンパニー(Dixie Chemical Company)のDCA−221が挙げられる。
【0030】
その開示がここに引用文献として組み込まれている米国特許第5,616,796号(ポシウス(Pocius)ら)に報告されているように、ポリアミンはまた、末端第一級アミン物質(すなわち、2個の末端基が第一級アミンである)と、第一級アミンと反応性のある少なくとも2個の基を含有する1種以上の物質の縮合反応生成物を含むことができる。
【0031】
水酸化物/アルコキシド系錯化剤:
水酸化物および/またはアルコキシド系錯化剤(Cx)は、1999年11月4日に出願された米国特許出願第09/433、476号(モーレン(Moren))を有する同時係属出願に報告されており、その開示は、ここに引用文献として組み込まれている。好ましい水酸化物および/またはアルコキシド系錯化剤は、式:
(-)O−R15n(m+)
(式中、R15は、水素または有機基(例えば、アルキル基またはアルキレン基)から独立して選択され;
(m+)は、対カチオン(例えば、ナトリウム、カリウム、テトラアルキルアンモニウム、またはそれらの組合わせ)を表し;
nは、0より大きな整数であり;および
mは、0より大きな整数である)
により表すことができる。
【0032】
アミジン系錯化剤:
アミジン系錯化剤は、式:
【化10】

(式中、R16は、水素または有機基、好ましくは水素またはアルキル基またはアルキレン基であり;
17およびR18は、独立して一価の有機基または環式構造の部分であり;w、xおよびyは、整数を含み、好ましくは、wは、1であり、xは、約3以下である)
により表すことができる。
【0033】
特に好ましいアミジン錯化剤は、N,N,N’,N’−テトラメチルグアニジン;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン;1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネ−5−エン;2−メチルイミダゾール;2−メチルイミダゾリン;および4−(N,N−ジメチルアミノ)−ピリジンからなる群から選択されるものを含む。
【0034】
有機ホウ素錯体は、知られた方法を用いて容易に調製できる。典型的には、錯化剤を、不活性雰囲気下で(例えば、100ppm未満の酸素を有する環境まで窒素で掃流されたグロ−ブボックス)ゆっくりと攪拌して有機ホウ素と配合する。カップリング剤が、予め計量されたフラスコに、有機ホウ素を等圧の滴下ロートから加えることができる。発熱が見られることが多いので、混合液の冷却を推奨する。有機ホウ素の添加を加減して、発熱を制御することができる。成分が、高い蒸気圧を有する場合、約70℃から80℃未満の反応温度を維持することが望ましい。一旦、物質をよく混合したら、錯体を室温まで冷却する。特別の保存条件を必要としないが、錯体をキャップ付容器中、冷暗所で保管することが好ましい。錯体を液化させて窒素で掃流できる保存容器への移動を容易にするために、外側を窒素雰囲気下、大量の錯体結晶を油浴で加熱できる(例えば、約55℃まで)。
【0035】
有機ホウ素を、所望の末端利用のために十分な分子量のアクリルポリマーを獲得するため、(メタ)アクリルモノマーの重合化を容易に生じさせるのに十分量の有効量で使用する。有機ホウ素の量が少なすぎると、重合化が不完全となる可能性があり、または接着剤の場合、生じた組成物が、接着不良となる可能性がある。一方、有機ホウ素の量が多すぎると、余りにも重合化が急速に進行しすぎて効果的な混合および生じた組成物が使用できない。
【0036】
大量の有機ホウ素は、本発明の重合性システムにより形成された結合を弱める可能性がある。有用な重合化速度は、組成物を基材に塗布する方法にある程度依存する。したがって、より速い重合化速度は、組成物をハンドアプリケータで塗布するか、または組成物を手動で混合するよりも、むしろ工業用高速自動接着アプリケータの使用により適合できる。
【0037】
これらのパラメータ内で、有機ホウ素の有効量は、好ましくは0.003重量%から1.5重量%のホウ素、より好ましくは約0.008重量%から0.5重量%のホウ素、最も好ましくは約0.01重量%から0.3重量%のホウ素を提供する量である。組成物中のホウ素の重量%は、組成物、より少量の増量剤、非反応性希釈剤、およびその他の非反応性物質の全体重量を基準とする。組成物中のホウ素の重量%は、次式:
【数1】

により計算できる。
【0038】
脱錯化剤:
錯体化有機ホウ素開始剤が、本発明の重合性システム中の有機ホウ素開始剤として使用される場合、重合性システムは、さらにモノマーシステム中に脱錯化剤を含む。明細書中で用いられる用語の「脱錯化剤」とは、錯化剤から開始剤(例えば、有機ホウ素)を遊離できる化合物を称し、それによって重合性システムの重合性モノマーの開始を可能にする。脱錯化剤は、「活性化剤」または「遊離剤」と称してもよく、これらの用語を、ここでは同義語として用いることができる。
【0039】
有機ホウ素を、アミンと錯体化する場合、適切な脱錯化剤は、アミン反応性化合物である。前記アミン反応性化合物は、アミンと反応させることにより有機ホウ素を遊離し、それによって、アミンと化学的付加をしている有機ホウ素を除去する。多種多様な物質を、種々の物質の組合わせを含むアミン反応性化合物を提供するために使用できる。望ましいアミン反応性化合物は、容易に使用できて、周囲条件で硬化できる接着剤などの組成物を提供するために室温(約20℃から22℃)でまたは室温以下でアミンとの反応生成物を容易に形成できる物質である。有用なアミン反応性化合物の一般的な種類としては、酸類、無水物類およびアルデヒド類が挙げられる。ジイソシアン酸イソホロン、ジイソシアン酸トルエンおよび塩化メタクリロイルなどのイソシアン酸エステル類、酸クロリド類、塩化スルホニル類などもまた使用できる。
【0040】
アミン基の塩形成により有機ホウ素を遊離できる任意の酸を使用できる。有用な酸としては、ルイス酸(例えば、SnCl4、TiCl4など)およびブレンステッド酸(例えば、カルボン酸類、HCl、H2SO4、H3PO4、ホスホン酸、ホスフィン酸、ケイ酸など)が挙げられる。有用なカルボン酸類としては、一般式R20−COOHを有するものが挙げられ、式中、R20は、水素、1個から8個、好ましくは1個から4個の炭素原子のアルキル基、または6個から10個、好ましくは6個から8個の炭素原子のアリール基である。アルキル基は、直鎖を含んでも、または分枝状であってもよい。それらは飽和であっても、または不飽和であってもよい。アリール基は、アルキル、アルコキシまたはハロゲン部分などの置換基を含有することができる。この種の例証となる酸には、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸、安息香酸およびp−メトキシ安息香酸が挙げられる。
【0041】
臭気の少ない重合性システムを提供することが望ましい場合、多数の炭素原子を有するアルケニル基が推奨される。この場合、R20は、少なくとも9個の炭素原子、より好ましくは、少なくとも約11個の炭素原子、最も好ましくは少なくとも約15個の炭素原子の直鎖または分枝鎖、飽和または不飽和アルケニル基であり得る。
【0042】
アミン反応性化合物として有用な他のカルボン酸類としては、モノ、ジ、トリ(など)−カルボン酸類およびそれらの部分的エステル化誘導体(例えば、イタコン酸およびイタコンモノ(ブチル)エステル)が挙げられる。このような化合物は、以下の一般構造:
【化11】

により表すことができる。
【0043】
21は、水素、一価の有機基(好ましくは、約18個以下の原子、より好ましくは約8個以下の原子を有する)または多価有機基(好ましくは、約30個以下の原子、より好ましくは約10個以下の原子を有する)である。R22は、多価有機基(好ましくは、約8個以下の原子、より好ましくは約4個以下の原子を有する)である。R23は、水素または一価の有機基(好ましくは、約18個以下の原子、より好ましくは約8個以下の原子を有する)である。「m」の整数値は、0、1または2であり、「n」の整数値は、1に等しいか1以上、好ましくは1から4、より好ましくは1または2である。
【0044】
より好ましくは、mは以下の一般構造:
【化12】

(式中、R21、R22およびnは、前に定義されたとおりである)
によって表されるカルボン酸類を得るために0である。
【0045】
21、R22およびR23と関連して称される「有機基」は、脂肪族基(飽和または不飽和、直鎖または分枝状であってもよい)、脂環式基、芳香族基、または酸素含有複素環式基、窒素含有複素環式基または硫黄含有複素環式基であり得る。R21が水素、mがゼロ、nが1である場合、生じる化合物がジカルボン酸であり、その有用な例としては、イタコン酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸およびテレフタル酸が挙げられる。R21が脂肪族基、nが1、mがゼロである場合、生じる化合物はカルボン酸エステル類であり、その有用な例としては、ビスマレイン酸1,2−エチレン、ビスマレイン酸1,2−プロピレン、ビスマレイン酸2,2’−ジエチレングリコール、ビスマレイン酸2,2’−ジプロピレングリコール、およびトリスマレイン酸トリメチロールプロパンが挙げられる。
【0046】
また、少なくとも1個の無水物基を有する物質が、アミン反応性化合物として好ましく、このような物質は以下の構造:
【化13】

または
【化14】

のうちの1つを有することが好ましい。
【0047】
24およびR25は、独立して脂肪族(飽和または不飽和、直鎖または分枝状であってもよい)、脂環式または芳香族であり得る有機基である。好ましい脂肪族基は、1個から17個の炭素原子、より好ましくは、2個から9個の炭素原子を含む。好ましい芳香族基としては、1個から4個の炭素原子の脂肪族基で置換できるベンゼンが挙げられる。
【0048】
26は、例えば、5員環または6員環を形成するために、無水物と環式構造を完成する二価の有機基である。R26は、脂肪族基、脂環式基または芳香族基、好ましくは、1個から12個の炭素原子、より好ましくは、1個から4個の炭素原子を含む脂肪族基で置換できる。R26はまた、任意のヘテロ原子が、無水物官能基に隣接しないという条件で、酸素または窒素のようなヘテロ原子を含有することができる。R26はまた、脂環式または芳香族融合環構造の部分であり得、場合によっては、そのいずれも脂肪族基で置換できる。無水物官能基アミン反応性化合物中のフリーラジカル的重合性基の存在は、同じものを(メタ)アクリル系モノマー類と重合化させることができる。無水物の有用な例としては、無水プロピオン酸、無水メタクリル酸、無水クロトン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水トリメチル酢酸、無水ヘキサン酸、無水ヘプタン酸、無水デカン酸、無水ラウリン酸、無水ステアリン酸、無水オレイン酸、無水安息香酸、無水コハク酸、無水メチルコハク酸、無水イソブテニルコハク酸、無水2,2−ジメチルコハク酸、無水イタコン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水2,3−ジメチルマレイン酸、無水2−オクテン−1−イルコハク酸、無水2−ドデセン−1−イルコハク酸、無水グルタル酸、無水3−メチルグルタル酸、無水3,3−ジメチルグルタル酸、無水3−エチル−3−メチルグルタル酸、無水2−フェニルグルタル酸、無水ジグリコール酸、エチレンジアミンテトラ酢酸二無水物、およびポリ(スチレン−コ−マレイン酸無水物)、無水シクロヘキサンジカルボン酸、無水シス−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、無水ヘキサヒドロ−4−メチルフタル酸、無水シス−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、無水メチル−5−ノルボルネン−エンド−2,3−ジカルボン酸、無水エキソ−3,6−エポキシ−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸、無水3,3−テトラメチレングルタル酸、無水フタル酸、無水4−メチルフタル酸、無水1,8−ナフタレン酸、無水ジフェン酸および無水ホモフタル酸が挙げられる。
【0049】
アミン反応性化合物として有用なアルヒド類は、式:
27−(CHO)x
(式中、R27は、1個から10個の炭素原子(好ましくは、1個から4個)のアルキル基、または6個から10個の炭素原子(好ましくは、6個から8個)を有するアリール基のような一価の有機基であり、xは1または2(好ましくは1)である)
を有する。この式において、アルキル基は、直鎖または分枝鎖であってもよく、ハロゲン、ヒドロキシおよびアルコキシなどの置換基を含むことができる。アリール基は、ハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシ、アルキルおよびニトロなどの置換基を含むことができる。好ましいR27基は、アリールである。この種の化合物の例証例としては、ベンズアルデヒド、o−、m−およびp−ニトロベンズアルデヒド、2,4−ジクロロベンズアルデヒド、p−トリルアルデヒドおよび3−メトキシ−4ヒドロキシベンズアルデヒドが挙げられる。アセタール類などのブロック化アルデヒド類もまた、本発明に使用できる。
【0050】
脱錯化剤を有効量で使用する(すなわち、最終の重合化組成物の望ましい性質に実質的に悪影響を与えることなしに、その錯化剤から開始剤を遊離させることにより重合化を促進するための有効な量)。通常の当業者に認識されるように、脱錯化剤が多すぎると、重合化の進行が余りにも急速に起こり、接着剤の場合、生じた物質は、低エネルギー表面に対して不十分な接着性を示す可能性がある。しかしながら、脱錯化剤の使用が少なすぎると重合化速度は遅くなりすぎ、生じたポリマー類は、ある一定の塗布にとって十分な分子量となり得ない。他には速すぎる場合は、脱錯化剤の減量が、重合化速度を遅くするのに役立たせることができる。斯様に、これらのパラメータ内での脱錯化剤は、典型的には、錯化剤におけるアミン基、アミジン基、水酸化物基もしくはアルコキシド基に対する、脱錯化剤におけるアミン反応性基、アミジン反応性基、水酸化物反応性基、アルコキシド反応性基の比率が、0.5:1.0から3.0:1.0の範囲であるような量で提供される。より良好な性能のために、好ましくは、錯化剤におけるアミン基、アミジン基、水酸化物基およびアルコキシド基に対する、脱錯化剤におけるアミン反応性基、アミジン反応性基、水酸化物反応性基、アルコキシド反応性基の比率は、0.5:1.0から1.0:1.0の範囲にあり、好ましくは約1.0:1.0である。
【0051】
ビニル芳香族化合物:
幾つかの実施形態において、本発明の重合性システムは、さらにビニル芳香族化合物を含む。好ましいビニル芳香族化合物は、2000年3月15日に出願された米国特許出願第09/525,368号を有する同時係属出願に報告されている。「ビニル芳香族化合物」とは、一般式(1)または一般式(2)またはその混合物:
【化15】

による有機化合物を称す。
【0052】
式(1)において、nは、1または1以上、好ましくは2以上の値を有する整数を表す。式(1)および式(2)において、Arは、好ましくは6〜10個の炭素原子を有する置換アリール基を表す。Arの例としては、式(1)に関して式C65-x-yまたは式(2)に関してC66-x-yを有する置換ベンゼン基、または式(1)に関して式C107-x-yまたは式(2)に関してC108-x-yを有する置換ナフタレン基が挙げられる。最も好ましくは、Arは置換ベンゼン基である。
【0053】
式(1)と(2)のビニル芳香族化合物において、−CR31=CR3233基は、重合性システムの重合性モノマーとの反応性を有する不飽和部位(すなわち、2重結合)を提供する。すなわち、ビニル芳香族化合物は、重合性モノマーと共重合化し、重合性モノマーに化学的に付加する。式(1)と(2)において、1または1以上の値を有する整数を表す下付文字xは、ビニル芳香族化合物の各Ar基に結合した不飽和部分の数を表す。式(1)の好適な実施形態において、xは1である。
【0054】
式(1)と(2)において、R31、R32およびR33は、独立して水素、アルキル、アリールおよびハロゲンからなる群から選択される。好ましくは、R31は、水素およびメチルからなる群から選択され、R32およびR33は水素である。ゲル化を避けるために、R31=Hを有する式(1)と(2)のビニル芳香族化合物は、本発明の2要素重合性システムにおいて有機ホウ素(例えば、要素Bにのみ包含される)と分離して包装されることが一般に好ましい。
【0055】
式(1)と(2)において、R34は、アリール基Arに結合した非水素置換基を表す。下付文字yは、アリール基Arに結合した個々の置換基数を表す0以上の値を有する整数である。yが1に等しいかまたは1以上の場合、各置換基R34は、独立してアルキル、アルコキシ、アルカノイル、アルカノイルオキシ、アリールオキシ、アロイル、アロイルオキシおよびハロゲンからなる群から選択できる。好ましくは、yは、式(1)において0に等しい。
【0056】
式(1)において、Xは、二価の有機結合基または共有結合のいずれかを表す。好適な実施形態において、Xは、ウレタンまたは尿素官能基を含む二価の有機結合基である。より好適な実施形態において、Xは:
【化16】

または
【化17】

(式中、R35およびR36は、1〜10個の炭素原子を有する二価の有機結合基である)
である。存在すれば、R35およびR36が存在する場合、それらは式(1)のアリール基(Ar)に結合する。
【0057】
式(1)において、R30は、有機基、好ましくは、オリゴマーまたはポリマーの有機基を表す。R30−Xnの分子量は、100以上であり、より好ましくは200以上、最も好ましくは500以上である。ポリマー有機基の代表例としては、炭化水素系ポリマー類(例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレンおよびポリメチルペンテン)、炭素鎖ポリマー類(例えば、塩化ポリビニル、塩化ポリビニリデン、およびポリアクリロニトリル)、ヘテロ鎖ポリマー類(例えば、ポリエーテル類、ポリアミド類、ポリエステル類、ポリウレタン類、ポリスルフィド類、ポリスルホン、およびポリイミド)が挙げられる。適切なポリマー有機基は、ホモポリマー類またはコポリマー類、例えば、コポリマー類およびターポリマー類であってもよく、構造的に交互、ランダム、ブロックまたはグラフトであり得る。好ましい有機基R30としては、約300〜1,000(グラム/モル)の範囲の分子量を有するポリエステル類(例えば、ポリカプロラクトン)および約500〜3,000(グラム/モル)の範囲の分子量を有するポリエーテル類、が挙げられる。
【0058】
式(1)の好ましい単官能基ビニル芳香族化合物は、下記の一般式(1A)に表され、式中、式(1)に関連して、Arはベンゼン環であり、yは0であり、R31はメチルであり、R32およびR33は水素であり、xは1であり、nは1である。一般にベンゼン環への接着構造が示され、オルト、メタまたはパラであり得る。
【化18】

【0059】
式(1A)の単官能基ビニル芳香族化合物の代表例としては:
【化19】

(式中、mは、典型的には約0から50の範囲であり;nは、典型的には約0から48の範囲である)
が挙げられる。1つの実施形態において、例えば、mは6に等しく、nは38に等しい。
【0060】
式(1)の好ましい二官能基ビニル芳香族化合物は、下記の一般式(1B)に表され、式(1)に関連して、Arはベンゼン環であり、yは0であり、R31はメチルであり、R32およびR33は水素であり、xは1であり、nは2である。一般にベンゼン環に対する接着構造が示され、各々の環上に独立してオルト、メタまたはパラであり得る。
【化20】

【0061】
式(1B)の二官能基ビニル芳香族化合物の代表例としては:
【化21】

(式中、mは、典型的には約0から50の範囲であり;nは、典型的には約0から50の範囲である);
【化22】

(式中、nは、典型的には約0から140の範囲であり;R37はメチルまたは水素である)
が挙げられる。
【0062】
式(1)の好ましい三官能基ビニル芳香族化合物は、下記の一般式(1C)に表され、式(1)に関連して、Arはベンゼン環であり、yは0であり、R31はメチルであり、R32およびR33は水素であり、xは1であり、nは3である。一般にベンゼン環に対する接着構造が示され、各々の環上に独立してオルト、メタまたはパラであり得る。
【化23】

(1C)
【0063】
式(1C)の三官能基ビニル芳香族化合物の代表例としては:
【化24】

(式中、n+mは、典型的には約5から85の範囲である);
【化25】

(式中、n+mは、典型的には約2から18の範囲である)
が挙げられる。
【0064】
一般式(1)の有用なビニル芳香族化合物は、例えば、イソシアン酸3−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジル(ニュージャージー州ウェストピーターソン、サイテック・インダストリーズ(Cytec Industries)より「TMI」という商標で商品として入手できる)と、単官能基または多官能基反応性水素化合物、好ましくは、単官能基または多官能基アミン、アルコールまたはその組合わせとを反応させることにより調製できる。特に好ましい単官能基または多官能基アミン類としては、「ジェファミン(JEFFAMINE)」(テキサス州ヒュ−ストン、ハンツマン・ケミカル・カンパニー(Huntsman Chemical Co.)より)、例えば、「ジェファミン(JEFFAMINE)ED600」(報告された分子量600を有するジアミン末端ポリエーテル)、「ジェファミン(JEFFAMINE)D400」(報告された分子量400を有するジアミン末端ポリエーテル)、「ジェファミン(JEFFAMINE)D2000」(報告された分子量2,000を有するジアミン末端ポリエーテル)、「ジェファミン(JEFFAMINE)T3000」(報告された分子量3,000を有するトリアミン末端ポリエーテル)、および「ジェファミン(JEFFAMINE)M2005」(報告された分子量2,000を有するモノアミン末端ポリエーテル)の商標で商品として入手できるアミン末端ポリエーテル類が挙げられる。好適なアルコール含有化合物としては、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリカプロラクトントリオールおよびジエチレングリコールが挙げられる。
【0065】
式(2)のビニル芳香族化合物の代表例としては、
【化26】

が挙げられる。
【0066】
重合性モノマー:
本発明の重合性システムは、少なくとも1種の重合性モノマーを含む。概して本発明の重合性システムにおける重合性モノマーは、フリーラジカル重合ができる少なくとも1種のエチレン様不飽和モノマーを含む。エチレン様不飽和含有の多くの化合物を、重合性システムに使用することができる。前記重合性モノマーは、重合性システムの特性決定を補助する。モノマーに依っては、前記重合性システムは、接着剤、被覆剤、感圧性接着剤または密封剤であり得る。組成物は、好ましくは、少なくとも1種の(メタ)アクリル系モノマー(アクリル系およびメタクリル系の双方を称す)、最も好ましくは、少なくとも1種のメタクリル系モノマーを含む。エステル類および/またはアミド類を含むなどの(メタ)アクリル酸誘導体が特に好ましい。例えば、一価アルコール類、特に(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸エチルヘキシルなどの1個から12個の炭素原子を有するアルカノール類の(メタ)アクリルエステル類;(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルおよび(メタ)アクリル酸2−エトキシエチルなどのさらにヘテロ原子を含む一価アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ペンタプロピレングリコールおよびポリプロピレングリコールなどの多価アルコール類の(メタ)アクリル酸エステル類;エトキシル化またはプロポキシル化ジフェニロールプロパンおよびヒドロキシ末端ポリウレタン類、およびそれらの混合物の全てが好適である。1つの実施形態において、重合性モノマーは、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリルおよび(メタ)アクリル酸エチルヘキシルの混合物を含む。多価アルコール類の(メタ)アクリル酸エステル類を、以後、オリゴマー(メタ)アクリル酸エステル類と称す。
【0067】
酢酸ビニル;塩化ビニル、フッ化ビニルおよび臭化ビニルなどのハロゲン化ビニルなどの重合性モノマー類はまた基本的に好適である。しかしながら、これらの化合物は一般に、重合性システムにおいて補助的な量でのみ使用される。
【0068】
さらに好適な重合性ポリマー類は、アクリルアミド;N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド;N−エチル(メタ)アクリルアミド;N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド;N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド;N−ブチル(メタ)アクリルアミド;N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド;N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド;N−フェニル(メタ)アクリルアミド;N−((メタ)アクリロイル)モルホリン;N−((メタ)アクリロイル)ピペリジン;N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)(メタ)アクリルアミド;N−1,1,3,3−テトラメチルブチル(メタ)アクリルアミド;メチレン−ビス−(メタ)アクリルアミド;テトラメチレン−ビス−(メタ)アクリルアミド;トリメチルヘキサメチレン−ビス−(メタ)アクリルアミド;トリ(メタ)アクリロイルジエチレントリアミン;および類似の化合物などの(メタ)アクリル酸のアミド誘導体である。好ましい酸アミド類としては、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド;N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド;N−ブチル(メタ)アクリルアミド;N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド;N−((メタ)アクリロイル)モルホリン;およびN−((メタ)アクリロイル)ピペリジンが挙げられる。
【0069】
一般に、分子中に1個または2個のオレフィン性二重結合、好ましくは1個のオレフィン性二重結合を有するモノマー類が重要視される。より高度に不飽和化された成分をさらに使用することを除外しないが、それらの存在は、可使時間および/または物理的性能に悪影響を及ぼす可能性があることを心に留めておく必要がある。
【0070】
可使時間増量剤:
本発明の重合性システムは、可使時間増量剤を含む。可使時間増量剤は、独立して次の構造およびその組合わせから選択される:
【化27】

【0071】
式中のR40は、CH2=またはアルケニルである。明細書中で用いられる用語「アルケニル」とは、1個から12個の炭素および少なくとも1個の炭素−炭素二重結合を有する直鎖または分枝状炭化水素基をいう。一般に、炭素−炭素二重結合は、アルファ炭素(すなわち、カルボニル基に隣接する炭素原子)の2個の炭素内に由来する。適切なアルケニル類の例としては、ビニル、アリル、イソブテニル、2−オクテン−1−イル、2−ドデセン−1−イルが挙げられる。Z1およびZ2は、独立してO、SまたはN−R41から選択される。R41、R42およびR43は、独立して水素、アリール、アルキルまたはシクロアルキルから選択される。用語「アルキル」とは、他に特定しない限り、1個から12個の炭素原子を有する直鎖または分枝状炭化水素基を意味し、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、s−ブチル、イソブチル、t−ブチル、アリル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、ウンデシル、およびドデシルが挙げられる。用語「シクロアルキル」とは、他に特定しない限り、3個から12個の炭素原子を含む飽和炭化水素環、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルおよびアダマンチルを意味する。アリールは、融合していても非融合であってもよい。適切なアリール類の例としては、フェニル、ビフェニルおよびナフチルが挙げられる。
【0072】
可使時間増量剤はまた、次の構造であり得る。
【化28】

【0073】
式中XはO、SまたはN−R50である。R44は、上記に定義されているとおりCH2=またはアルケニルである。R50は、上記に定義されたとおり、水素、アリール、アルキルまたはシクロアルキルである。
【0074】
好適な可使時間増量剤の例としては、イタコン酸、コハク酸イソブテニル、コハク酸アリル、コハク酸2−オクテン−1−イル、コハク酸2−ドデセン−1−イル、それらの誘導体または閉環誘導体およびそれらの組合わせが挙げられる。誘導体および閉環誘導体としては、無水物、モノ(アルキル)エステル類、ジ(アルキル)エステル類、イミド類、チオイミド類、アミドエステル類、アミド酸類またはこれら任意のジアミド類およびそれらの組合わせが挙げられる。
【0075】
ある一定の実施形態において、可使時間増量剤は、イタコン酸、イタコン酸誘導体またはその組合わせから選択される。イタコン酸誘導体の例としては、無水イタコン酸、イタコン酸モノ(アルキル)、イタコン酸ジ(アルキル)、イタコン酸イミド、イタコン酸ジイミド、イタコン酸アミド酸、イタコン酸アミドエステル、イタコン酸チオイミド、イタコン酸チオール酸、イタコン酸モノ(アルキル)チオールエステル、イタコン酸ジ(アルキル)チオールエステルおよびそれらの組合わせなどのイタコン酸無水物、エステル類、ジエステル類、アミドエステル類、アミド類、ジアミド類、イミド類およびチオイミド類が挙げられる。エステル類のアルキル基は、任意のアルキル基、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチルなどであってもよい。
【0076】
前記可使時間増量剤は、実質的に重合化組成物(例えば、接着剤)の最終特性に悪影響を与えずに可使時間を増強する有効量で使用されるが、意図される使用法に依る。一般に、前記可使時間増量剤は、全体のビニル当量に対する可使時間増量剤におけるビニル当量が約0.03から約0.25である比率を提供するために存在する。明細書中で用いられる用語「ビニル当量」とは、可使時間増量剤のR40またはR44における、または組成物における重合性二重結合数を意味する。1つの具体的実施形態では、少なくとも2.5重量パーセントのイタコン酸(ジ)ブチルエステル、例えば、約5重量パーセントと約10重量パーセントの間のイタコン酸(ジ)ブチルエステルを有し、具体的実施形態において、約0.052から約0.107の比率に対応する約8重量パーセントのイタコン酸(ジ)ブチルエステルを有する。また、脱錯化剤として用いることができる具体的な可使時間増量剤は、錯化剤におけるアミン基、アミジン基、水酸化物基およびアルコキシド基に対する、可使時間増量剤におけるアミン反応性基、アミジン反応性基、水酸化物反応性基、アルコキシド反応性基の比率が、3.0:1.0を超えるような量で存在できる。
【0077】
本発明の重合性システムは、可使時間増量剤なしの重合性システムよりも長い開放時間(open time)で、少なくとも85%以上、より好ましくは、90%以上、最も好ましくは、95%以上の重なり剪断強度を保持する(可使時間試験法を参照)。
【0078】
好適な可使時間増量剤の具体的な実施形態としては:
【化29】

(式中、R40は、CH2=またはアルケニルであり、Z1およびZ2は、独立してO、N−R41またはSであり、R41、R42およびR43は、独立してH、アルキル、アリールまたはシクロアルキルであり、Z1およびZ2が、Oであるという条件で、R42およびR43は、独立してアルキル、アリールまたはシクロアルキルである);
【化30】

(式中、R40は、CH2=またはアルケニルであり、Z1およびZ2は、独立してN−R41またはSであり、R41、R42およびR43は、独立してH、アルキル、アリールまたはシクロアルキルである);
【化31】

(式中、R40は、CH2=またはアルケニルであり、R42は、Hまたはアルキルであり、R43は、Hであり、Z1およびZ2は、Oであり、錯化剤中のアミン基、アミジン基、水酸化物基またはアルコキシド基に対する、可使時間増量剤中のアミン反応性基、アミジン反応性基、水酸化物反応性基またはアルコキシド反応性基の比率が3.0:1.0を超える);
【化32】

(式中、R40は、CH2=またはアルケニルであり、Z1は、O、N−R41またはSであり、R41は、H、アルキル、アリールまたはシクロアルキルであり、R42は、Hまたはアルキルであり、およびR43はHであり、並びに錯化剤中のアミン基、アミジン基、水酸化物基またはアルコキシド基に対する、可使時間増量剤中のアミン反応性基、アミジン反応性基、水酸化物反応性基またはアルコキシド反応性基の比率が3.0:1.0を超える);
【化33】

(式中、R44は、CH2=またはアルケニルであり、Xは、SまたはN−R50であり、式中R50が水素、アルキル、アリールまたはシクロアルキルである);および
【化34】

(式中、R44は、CH2=またはアルケニルであり、Xは、Oであり、並びに錯化剤中のアミン基、アミジン基、水酸化物基またはアルコキシド基に対する、可使時間増量剤中の無水物基の比率が3.0:1.0を超える)
が挙げられる。
【0079】
添加物:
本発明の重合性システムは、さらに任意の添加剤を含んでもよい。1つの添加剤は、一般に重合性モノマーの全質量を基準として、約50質量%までの量で組み入れることのできる中位(すなわち、約40,000)の分子量のメタクリル酸ポリブチルなどの増粘剤である。増粘剤は、生成する重合性システムの粘度をより容易に適用される粘性のシロップ様の稠度へと増加させるために使用できる。
【0080】
他の添加剤は弾性物質である。これらの物質は、それを用いて生成される重合性システムの破壊靭性を改善でき、例えば硬く、降伏強さの大きな物質(例えば、他の屈曲性重合基剤などの物質のようには容易にエネルギーを機械的に吸収することない金属基材)を結合する場合に有益であり得る。このような添加剤は、一般に重合性システムの全重量を基準として、約50質量%までの量で組み入れることができる。
【0081】
コア・シェルポリマーもまた、重合性システムの伸展性および流動性を変えるために添加できる。これらの特性増強は、シリンジタイプのアプリケータからの施工に際して、重合性システムが望ましくない「糸」を残したり、または垂直表面に施された後の垂れ下がり、または落下の傾向を減少することによって顕現できる。したがって、垂れ下がりー落下抵抗性の改善を達成するためには、重合性システムの全重量を基準としてコア・シェルポリマー添加剤の約20質量パーセントを超える使用が望ましいと考えられる。コア・シェルポリマーはまた、それを用いて生成される重合性システムの破壊靭性を改善でき、例えば硬く、降伏強さの大きな物質(例えば、他の屈曲性の重合基剤などの物質のようには容易にエネルギーを機械的に吸収することない金属基材)を結合する場合に有益であり得る。
【0082】
反応性希釈剤もまた、本発明の重合性システムに添加できる。好適な反応性希釈剤としては、米国特許出願第09/272,152号(モーレン(Moren))に報告されている1,4−ジオキソ−2−ブテン官能基化合物および米国特許第5,935,711号(ポシウス(Pocius)ら)に報告されているアジリジン官能基化合物が挙げられ、それらの開示がここに参照として組み込まれている。ある特定の実施形態において、希釈剤は、テキサス州ヒューストンのハンツマン・ケミカル・カンパニー(Huntsman Chemical Co.)より入手できる、表示分子量2,000のポリオキシプロピレンジアミンである商標ジェファミン(JEFFAMINE)D−2000として販売されているものなどのジアミンである。
【0083】
ヒドロキノンモノメチルエーテルなどの少量の阻害剤が、例えば、保存中における重合性モノマーの分解防止または減少のために、重合性システム内に使用できる。阻害剤は、重合化速度または阻害剤を用いて作製されたポリマーの最終特性に実質的な影響を与えない量で添加できる。したがって、阻害剤は、一般に重合性システム内の重合性モノマーの全質量を基準として、約100から10,000ppmの量において有用である。
【0084】
添加剤として他に可能なものとしては、非反応性着色剤、充填剤(例えば、カーボンブラック、中空ガラス/セラミックビーズ、シリカ、二酸化チタン、固形ガラス/セラミック球、電気および/または熱伝導粒子、帯電防止化合物およびチョーク)などが挙げられる。種々の任意の添加剤が任意の量で、しかし、一般的には重合工程または添加剤を用いて作製されるポリマーの所望の性質に有意な悪影響を及ぼさない量で使用される。
【0085】
本発明の重合性システムは、従来は複雑な表面調製法、例えばプライミング(priming)の使用なしでは非常に結合の難しかった低表面エネルギーのプラスチックまたは高分子基材を接着結合するために特に有用である。低表面エネルギー基材とは、45mJ/m2未満、より典型的には40mJ/m2未満または35mJ/m2未満の表面エネルギーを有する物質を意味する。そのような物質の中には、表面エネルギーが20mJ/m2未満であるポリエチレン、ポリプロピレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、およびポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標)(TEFLON(登録商標)))などのフッ化ポリマー類が含まれる。(「表面エネルギー」という表現は、他の表現では「臨界湿潤張力」と同義語で用いられることが多い)。本発明の組成物を用いて有益に結合できるその他のやや表面エネルギーの高いポリマーとしては、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートおよび塩化ポリビニルが挙げられる。
【0086】
本発明の重合性システムは、2要素製剤として容易に提供できる。(メタ)アクリル系モノマーは、このような物質を用いて作業する際に通常なされるように混合する。本発明の重合性システムは、2要素が重合性システムを基材に適用する前に混合される2要素製剤で提供されることが好ましい。この方法において、重合性システムの硬化(すなわち重合化)が望まれるまで、重合性モノマーは有機ホウ素開始剤から分離できる。したがって、2要素重合性システムの第1の要素、すなわち「要素A」は、有機ホウ素開始剤(好ましくは、錯体有機ホウ素開始剤)を含み、さらに任意の添加剤、例えば反応性希釈剤または可塑剤を含むことができる。2要素重合性システムの第2の要素、すなわち「要素B」は、少なくとも1種の重合性モノマーを含み、さらに要素Aにおける有機ホウ素開始剤が錯体(例えば、有機ホウ素アミン錯体)である場合は、脱錯化剤を含む。要素Bはさらに任意の添加剤、例えばミクロ球またはコア・シェルポリマーを含む。一般に、本発明の重合性システムにおいて、例えば可使時間増量剤が脱錯化剤としても働く場合、可使時間増量剤は要素Bに含まれる。
【0087】
商業的および工業的環境において、最も容易に使用される本発明のもののような2要素重合性システムに関しては、2要素が結合する比率は便利な整数である必要がある。このことにより、従来の商業的に利用できるディスペンサを用いて前記重合性システムの適用が促進される。このようなディスペンサは、米国特許第4,538,920号および米国特許第5,082,147号に示されており、商標「ミックスパック(MIXPAC)」としてコンプロテック・インク(ConProTec Inc.)セーレム、ニューハンプシャー州(Salem,NH)から入手でき、デュアルシリンジタイプのアプリケータとして記載されることもある。
【0088】
典型的に、これらのディスペンサは、並べて配置された一対の管状容器を用い、各々の管が前記重合システムの2要素のうち、1つを受けるように意図されている。2要素の混合を促進するための静電ミキサーも含有できる共通の中空伸長混合室へと管の内容物を出すために、2つのプランジャは各管に1つずつあり、同時に前進する(例えば、手動で、または手動のラチェット装置により)。混合された重合性システムは、混合室から基材へと押出される。管が空になると、新しい管と取り替えることができ、塗布工程が続けられる。
【0089】
重合性システムの2要素が組み合される比率は、管の直径によって調節される(各プランジャは、一定の直径の管内部で受けられる大きさにされており、プランジャは、同じ速さで管内へ進められる)。種々の異なった2要素重合性システムとの使用のために、単独ディスペンサが意図されることが多く、プランジャは、重合性システムの2要素を好都合な混合比で送達する大きさにされている。要素A対要素Bの通常の混合比の幾つかとしては、1:1、1:2、1:4および1:10がある。
【0090】
重合性システムの2要素が、端数の混合比(例えば、3.5:100)で組み合わされると、最後の使用者は恐らく前記重合システムの2要素の重量を手で測定することになろう。したがって、最良の商業的および工業的有用性のために、また現在利用できる施工装置による使用を容易にするため、重合性システムの2要素は、1:10以下、より好ましくは1:4、1:3、1:2または1:1などの通常の整数混合比で組み合わせることが可能である必要がある。本発明の重合性システムは、2要素接着剤用の従来の商業的に入手可能な施工装置との使用に便利である。
【0091】
一旦、2要素が組み合わされたら、前記重合性システムは、好ましくは重合性システムの可使時間に等しいか、それ未満の時間内で使用されるべきである。前記重合性システムは基材の1つまたは双方に塗布され、その後基材は、過剰の組成物を結合境界線外へ押出す圧力で共に結合される。このことはまた、空気に晒されて硬化が進み過ぎてしまった可能性のある重合性システムを除外するという利点をも有する。一般に、組成物が基材に塗布された後まもなく、好ましくは、重合性システムの可使時間に等しい時間、またはそれ未満の時間内に結合がなされる必要がある。典型的な結合境界線の厚さは約0.1mmから0.3mmであるが、隙間充填を要する場合は1.0mmを超えてもよい。結合工程は室温で容易に実施できるが、重合度を改善するためには、温度を約40℃未満、好ましくは30℃未満、最も好ましくは25℃未満に維持することが好ましい。最大強度は、周囲条件下、約24時間で達成される。所望の場合、上昇温度における硬化後を用いてもよい。
本発明は、以下の非限定例を参照することによって、より十分に理解されよう。
【実施例】
【0092】
試験法
可使時間
使用される試験標本は、4.0インチ×1.0インチ×0.125インチ(10.2cm×2.5cm×0.025cm)の表示寸法を有すること以外、ASTMD−1002に記載されるものと同様であった。被験物は、受け取り時に使用された高密度ポリエチレン(HDPE、ミネソタ州ミネアポリス、キャディラック・プラスチックス・カンパニー(Cadillac Plastics Co.)より入手できる)であった。重合性システムの約0.125インチ(0.32cm)厚さのビードは、デュアル・シリンジ・アプリケータを用いて、試験クーポンの表面上(一端から幅、約0.25インチ(0.6センチメートル)にわたって)に室温で押出した。実施例に報告されたとおりの種々の時間を経過させた後、ビード付クーポンを、0.5インチx1.0インチ(1.3cmx2.5cm)の測定重なり面積が形成されるように第1のクーポンに配置される第2の試験クーポンと合わせた。2枚のクーポンを共に固定し、試験前に最低24時間室温で(72〜75°F(22〜24℃))硬化させた。重なり剪断強度を、MTSシンテック(Sintech)引張試験機(モデル5/GL、ノースカロライナ州リサーチ・トライアングル・パーク(Research Triangle Park, NC)、MTSシステムズ・コーポレーション(MTS Systems Corporation)部門のシンテック(Sintech)より入手できる)を用いて、0.5インチ/分(1.3cm/分)のクロスヘッド・スピードを用いて室温で測定した。平均値を得るために3つのサンプルを用いて評価した。最大の重なり剪断値をポンドで記録し、ポンド/平方インチ(psi)およびメガパスカル(MPa)に変換した。破断モードも記録した。破断モードは、以下のとおり指定した。SYは、基材たわみが観察されたことを示し;CFは、粘着破断モードを示し;AFは、接着破断モードを示し、これは、2枚の試験クーポンが共に接合する前に曝露接着剤組成物の「スキニング(skinning)」が生じたサンプルに観察され;MMは、粘着破断モードとランダムな接着破断モードの両方が観察された破断の混合モードを示す。これらのうちで、基材たわみおよび粘着破断は、基材引張強度よりも強い結合、またはそれぞれの接着剤の内部強度よりも強い結合を示すことから望ましい。接着破断モードと混合モード破断は、接着層と基材との間で弱い結合力を示すことから望ましくない。
【0093】
【表1】

【0094】
接着剤組成物の要素AおよびBの一般調製
全ての量は、他に特記していない限り、それぞれの要素(AまたはB)における重量部(pbw)で記載される。
【0095】
要素A(開始剤側)
デシケータ(デシカントしない)内に入れて、ビーカの中間付近に固定されたフォーム・カラーを付けて保持された600ミリリットル(mL)のステンレススチール製ビーカ内で、サンプルを200グラムスケールで調製した。前記デシケータを、シリコーンゴム・ガスケット、およびステンレススチール製シャフトが通されているアルミニウム合金カバープレートで固定した。前記シャフトは、2インチ(5.1センチメートル(cm))のステンレススチール製カウルス(Cowles)攪拌羽根を具備し、エアモータにより駆動した。
【0096】
A側の成分を全てを混合用ビーカに加えて、むらのない混合物が得られるまで、周囲温度で攪拌した。次いで混合物を、減圧下(88キロパスカル(kPa)と101.6キロパスカルとの間)で30分間脱気した。生じた要素Aの混合物を、次に円筒管に移し、保存し、使用するまで40°F(4℃)に維持した。
【0097】
要素B(モノマー側)
要素Aで記載されたものと同じ装置を用いて、サンプルを200グラムスケールで調製した。コア/シェルゴム材料を、(メタ)アクリル酸エステル系モノマー類に最初に分散させ、次いで無水コハク酸を添加した。これを、周囲温度で混合すると、約130°Fから140°F(54℃から60℃)に達する温度の発熱が観察された。均一の分散液が得られるまで攪拌を続けた。次に前記ビーカを、氷浴中に入れることにより混合物を100°F(38℃)まで冷却した。氷浴を除去後、残りの成分を加え、むらのない混合物が得られるまで混合した。次いで混合物を、減圧下(88キロパスカル(kPa)と101.6キロパスカルとの間)で30分間脱気した。生じた要素Bの混合物を、次に円筒管に移し、保存し、使用するまで40°F(4℃)に維持した。
【0098】
重合性システムの調製
要素Aおよび要素Bを、1:10容量比を有する35mL(全容量)のデュアルシリンジ・アプリケータ(ニューハンプシャー州サーレムのコンプロテック(ConProTec)よりミックスパックシステム(Mixpac System)50、キットNo.MP−050−10−09として入手できる)に移し、より少ない容量側に要素Aを入れた。それが満たされる間、各側からエアポケットを除去するように注意が払われた。2つの要素を、4インチ(10cm)の長さの17ステージ静止混合ノズル(ニューハンプシャー州サーレムのコンプロテック(ConProTec)よりパーツ4−0−17−5として入手できる)を通して同時押出しにより配合した。重合性システムを、ここに概説された試験法に従って重なり剪断強度と可使時間について評価した。
【0099】
実施例1〜6および比較例A〜C
実施例1〜6および比較例A〜Cの組成物を、「重合性システム要素AおよびBの一般調製」に記載された方法に従い、下表1Aおよび1Bに示された量を用いて調製した。これらは、「重合性システムの調製」に記載された重合性システムを提供するために用いられ、上記の「可使時間」の試験法を用いて評価された。試験結果が表2に示され、種々の利用時間後の重なり剪断強度が報告されている。比較例は、下表に「C.Ex.」として示す。
【0100】
【表2】

【0101】
【表3】

【0102】
【表4】

【0103】
実施例7および8、比較例DおよびE
実施例7および8、比較例DおよびEは、「重合性システム要素AおよびBの一般調製」に記載された方法に従い、下表3Aおよび3Bに示された量を用いて調製された。これらは、「重合性システムの調製」に記載された重合性システムを提供するために用いられ、上記の「重なり剪断強度」および「可使時間」の試験法を用いて評価された。試験結果が表4に示され、種々の利用時間後の重なり剪断強度が報告されている。
【0104】
【表5】

【0105】
【表6】

【0106】
【表7】

【0107】
実施例9および10、比較例FおよびG
実施例9および10、比較例FおよびGは、「重合性システム要素AおよびBの一般調製」に記載された方法に従い、下表5Aおよび5Bに示された量を用いて調製された。これらは、「重合性システムの調製」に記載された重合性システムを提供するために用いられ、上記の「重なり剪断強度」および「可使時間」の試験法を用いて評価された。試験結果が表6に示され、種々の利用時間後の重なり剪断強度が報告されている。
【0108】
【表8】

【0109】
【表9】

【0110】
【表10】

【0111】
比較例H〜K
実施例3および4を反復したが、以下の変更を施した。マレイン酸ジブチル(DBM)またはフマル酸ジブチル(DBF)のいずれかを、イタコン酸ジブチルの替りに用いた。比較例H〜Kの組成物は、下表7Aおよび7Bに示された量を用いて調製した。試験結果が表8に示され、種々の利用時間後の重なり剪断強度が報告されている。
【0112】
【表11】

【0113】
【表12】

【0114】
【表13】

【0115】
実施例11および12
実施例3および4を反復したが、以下の変更を施した。イタコン酸ジメチル(DMI)を、イタコン酸ジブチルの替りに用いた。実施例11および12の組成物は、下表9Aおよび9Bに示された量を用いて調製した。試験結果が表10に示され、種々の利用時間後の重なり剪断強度が報告されている。
【0116】
【表14】

【0117】
【表15】

【0118】
【表16】

【0119】
実施例13
実施例13の組成物は、「重合性システム要素AおよびBの一般調製」に記載された方法に従い、下表11Aおよび11Bに示された量を用いて調製された。これらの組成物は、「重合性システムの調製」に記載された重合性システムを提供するために用いられ、上記の「可使時間」の試験法を用いて評価された。試験結果が表12に示され、種々の利用時間後の重なり剪断強度が報告されている。
【0120】
【表17】

【0121】
【表18】

【0122】
【表19】

【0123】
実施例14〜17および比較例L
実施例14〜17および比較例Lは、「重合性システム要素AおよびBの一般調製」に記載された方法に従って、下表13Aおよび13Bに示された量を用いて調製された。5種の無水物成分を使用した。タイプ1は無水アリルコハク酸;タイプ2は、無水2−オクテン−1−イルコハク酸;タイプ3は、無水イソブテニルコハク酸;タイプ4は、無水イタコン酸;およびタイプ5は、無水コハク酸であった。これらの組成物は、「重合性システムの調製」に記載された重合性システムを提供するために用いられ、上記の「可使時間」の試験法を用いて評価された。試験結果が表14に示され、種々の利用時間後の重なり剪断強度が報告されている。
【0124】
【表20】

【0125】
【表21】

【0126】
【表22】

【0127】
表14は、本発明の実施例が、延長利用時間後に少なくとも85%以上の重なり剪断強度を保持し、粘着破断モードを維持し、および/または基材たわみ接着を生じていることを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)有機ホウ素と、
(b)少なくとも1種の(メタ)アクリル系重合性モノマーと、
(c)一般式:
【化1】

(式中、R40は、CH2=またはアルケニルであり、Z1およびZ2は、独立してO、N−R41またはSであり、R41、R42およびR43は、独立してH、アルキル、アリールまたはシクロアルキルであり、Z1およびZ2が、Oである場合、R42およびR43は、独立してアルキル、アリールまたはシクロアルキルである)
で表される可使時間増量剤と、
を含む重合性システム。
【請求項2】
(a)第一の要素が有機ホウ素を含み、
(b)第二の要素が少なくとも1種の(メタ)アクリル系重合性モノマーを含み、
第一の要素または第二の要素の少なくとも一方が可使時間増量剤をさらに含む、請求項1記載の重合性システム。
【請求項3】
(a)有機ホウ素と、
(b)少なくとも1種の(メタ)アクリル系重合性モノマーと、
(c)少なくとも2.5質量パーセントのイタコン酸、無水イタコン酸、イタコン酸モノ(アルキル)、イタコン酸ジ(アルキル)、イタコン酸イミド、イタコン酸ジアミド、イタコン酸アミド酸、イタコン酸アミドエステル、イタコン酸チオイミド、イタコン酸地オール酸、イタコン酸モノ(アルキル)チオールエステル、イタコン酸ジ(アルキル)チオールエステルまたはこれらの組み合わせ
を含む重合性システム。
【請求項4】
(a)有機ホウ素と、
(b)少なくとも1種の(メタ)アクリル系重合性モノマーと、
(c)一般式:
【化2】

(式中、R44は、CH2=またはアルケニルであり、XはSまたはN−R50であり、R50は、水素、アルキル、アリール、またはシクロアルキルである)で表される可使時間増量剤と、
を含む、重合性システム。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル系重合性モノマーが、一価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルまたは多価アルコールの(メタ)アクリル酸エステルである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の重合性システム。

【公開番号】特開2009−215567(P2009−215567A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156892(P2009−156892)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【分割の表示】特願2002−567989(P2002−567989)の分割
【原出願日】平成14年2月21日(2002.2.21)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】