説明

長さ調整装置及び長さ調整装置付き衣服

【課題】身体を周回する周回部の周方向の長さを調整し、調整された周回部をこの長さのまま維持する長さ調整装置及びこれを備えた衣服を提供する。
【解決手段】身体を周回する周回部を周方向に分離して複数の周回片し、周回片は、身頃に配設された第1の周回片本体と、第1の周回片本体の先端に設けられ、周回片に設けた開口部に進退可能に挿入される挿入部を有し、挿入部は、弾性部材を介して周回片に対し周回方向に接続され、周回片は、身頃に配設され且つ挿入部が進退可能に挿入される開口部を有する第2の周回片本体と、開口部から周回片に向けて延出し、第1の周回片本体と重なり合う延出部を有し、第1の周回片本体の延出部と対向可能な位置に第1の係合部を配設し、延出部は、挿入部が開口部に挿入された際に、第1の周回片本体と対向する位置に、第1の係合部と係合して弾性部材の伸縮を阻止する第2の係合部が形成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用者の身体を周回する周回部の身体周方向の長さを、着用者のサイズに応じて調整する長さ調整装置、及びこの長さ調整装置を備えた衣服に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、着用者のウエストサイズに合わせてベルト部のサイズを自動調節できるズボン、スカート、ワンピース等のウエスト調節機能付衣服が種々紹介されている。例えば、ズボン等のポケットまたはタック部分でベルト部を複数、例えば、前後に分割し、分割した一方のベルト部(第1のベルト部)を他方のベルト部(第2のベルト部)の内側(裏側)に重ねて配置すると共に、その内側で第1のベルト部を第2のベルト部に弾性材により連結することで、ズボン等のベルト部を着用者のウエストに合わせて伸縮させるウエスト調節機能付衣服が紹介されている。(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0003】
また、衣服の脇ポケットにおいて、前布と補助布を相対移動自在に重ね、前布上端に前ベルトを、補助布上端に後ベルトを縫い付けて前ベルトの挿入端部を後ベルトの開口端縁から出し入れ自在とし、前ベルト及び後ベルトを弾性部材により弾性的に接続したウエスト調節機能付衣服も紹介されている。このウエスト調節機能付衣服は、衣服のベルト部が着用者のウエストに合わせて伸縮し、前記ベルト部のウエストサイズを自動的に増減調節できることに加え、前記開口端縁をベルト通しの長さ方向と傾斜する方向に形成し、ベルト通しにより被覆することにより、開口端縁がベルト通しによりほぼ完全に被覆され、外部から見えることがなく、その見栄えを良好とすることができる。(例えば、特許文献5参照)。
【特許文献1】特開平7−324205号公報
【特許文献2】特開平8−3803号公報
【特許文献3】特開平8−3804号公報
【特許文献4】特開平8−113805号公報
【特許文献5】特開2000−192304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2に記載されたウエスト調節機能付衣服は、第1のベルト部を第2のベルト部に重ねるため、その重なり部分で外側に位置する第2のベルト部の開口部の開口端縁が切断線として露出する。したがって、ウエスト部の見栄えを良好とすることが要求されていた。
【0005】
そこで、特許文献3及び4に記載されたウエスト調節機能付衣服は、前記切断線をベルト通しにより被覆(正確には物理的に被覆できない)するかの如く隠すことで、この開口端縁の切断線部分が認識されないようにし、ウエスト部の見栄えを良好にしている。しかしながら、このウエスト調節機能付衣服は、ベルト通しの一端縁と前記開口部の開口端縁がほぼ重なった状態でしか、その開口部の開口端縁を被覆できず、開口部の開口端縁を完全に被覆し、外部から開口部の開口端縁を完全に見えないようにすることができない。特に、ベルト通しにより開口部の開口端縁を超えて被覆しようとしても、開口部の開口端縁を越え、相対変位する両者間に縫い付けを行うことになり、ベルト部のウエストサイズの自動調節が不可能となり、ベルト部のウエストサイズの自動調節が困難となる。
【0006】
また、特許文献5に記載されたウエスト調節機能付衣服は、開口端縁がベルト通しによりほぼ完全に被覆され、外部から見えることがなく、その見栄えを良好とすることができるが、ベルト部のウエストサイズが常に自動的に増減調節されるため、当該ベルト部を着用者のウエストサイズに合わせた後、ベルト部をこの着用者のサイズに適した長さのまま固定することができなかった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、着用者の身体を周回する周回部の身体周方向の長さを調整可能であることは勿論のこと、着用者に適した長さに調整した当該周回部を、この長さのまま維持することが可能な長さ調整装置及びこの長さ調整装置を備えた衣服を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するため本発明は、衣服の身頃に配設され、当該衣服を着用する着用者の身体を周回する周回部の身体周方向の長さを調整する長さ調整装置であって、前記周回部を前記身体周方向の所定位置で複数に分離して複数の周回片とし、一方の周回片は、周回方向に沿った一方の縁部が前記身頃に配設されてなる第1の周回片本体と、当該第1の周回片本体の先端に設けられ、他方の周回片に設けた開口部に進退可能に挿入される挿入部と、を有し、前記挿入部は、弾性部材を介して他方の周回片に対し前記周回方向に接続されてなり、前記他方の周回片は、周回方向に沿った一方の縁部が前記身頃に配設されてなり且つ前記挿入部が進退可能に挿入される開口部を有する第2の周回片本体と、前記開口部の開口端縁の一部から前記一方の周回片に向けて延出し、前記挿入部が当該開口部に挿入された際に、前記第1の周回片本体と重なり合う延出部と、を有し、前記第1の周回片本体の前記延出部と対向可能な位置に第1の係合部を配設し、前記延出部は、前記挿入部が当該開口部に挿入された際に、前記第1の周回片本体と対向する位置に、前記第1の係合部と係合して前記弾性部材の伸縮を阻止する第2の係合部が形成されてなる長さ調整装置を提供するものである。
【0009】
この構成を備えた長さ調整装置は、着用者の身体を周回する周回部が、前記周方向の所定位置で分離された複数の周回片を有し、一方の周回片の挿入部が、弾性部材を介して他方の周回片に接続されているため、前記周回部は、前記弾性部材の付勢力に応じて、その周方向の長さを調整することができる。具体的には、前記弾性部材が弾性力に抗して伸びた際には、前記周回部の周回方向の長さが、弾性部材の延びた長さ分に応じて長くなり、弾性部材が弾性力によって縮んだ際には、当該周回部の周回方向の長さが、弾性部材の縮んだ長さ分に応じて短くなる。これにより、着用者の身体を周回する周回部の身体周方向の長さを、着用者のサイズ、あるいは着用者が望むサイズに合わせて簡単に調整することができる。
【0010】
さらに、第1の周回片本体に形成された第1の係合部と、他方の周回片の延出部に形成された第2の係合部とを係合させることで、前記弾性部材の伸縮を阻止することができるため、前記第1の係合部と第2の係合部とが係合した位置で、前記周回部の長さを固定することができる。したがって、前記弾性部材によって着用者に適した長さに調整された周回部を、この長さのまま維持することができる。
【0011】
前記第1の係合部及び前記第2の係合部としては、例えば、面ファスナを採用することができる。このように面ファスナを使用することで、前記利点に加え、第2の係合部と前記第1の係合部とが重ねられた際の厚さが厚くなることを防止することができると共に、係合及び係合解除を簡単に行うことができる。
【0012】
また、本発明にかかる長さ調整装置では、前記延出部は、前記周回部が着用者の身体に周回された際に、着用者側に配設されるよう構成することができる。このように構成することで、前記利点に加え、周回部の見栄えをより良好にすることができる。また、この構成の場合、前記第1の係合部をループ状の面ファスナから構成し、前記第2の係合部をフック状の面ファスナから構成することができる。このようにすることで、着用者が、身体と周回部との間に別の衣服等を着用していた場合であっても、ループ状の面ファスナ(第1の係合部)が着用者側に向くことになるため、第2の係合部(フック状の面ファスナ)が前記別の衣服等に引っ掛かることを防止することができる。したがって、前記別の衣服等に不具合を生じさせたり、着用感が悪くなる等の問題が生じることもない。
【0013】
そしてまた、本発明にかかる長さ調整装置では、前記挿入部は、前記周回方向に略略垂直な方向の長さが、当該挿入部の周回方向先端に向けて短くなるよう、当該周回方向に沿った両縁部のうち前記身頃側に配設される縁部をテーパ状に形成することができる。このように構成することで、前記挿入部は、前記開口部に先に挿入される先端の幅が、基端の幅よりも短くなるため、前記利点に加え、前記開口部に対する前記挿入部の挿入及び引出しをさらにスムーズに行うことができる。
【0014】
また、前記挿入部の周回方向に沿った両縁部のうち前記身頃側に配設される縁部をテーパ状に形成した構成の場合、前記挿入部のテーパ状を有する縁部の基端と、前記身頃との境界位置に切欠きを形成することができる。この位置に切欠きを形成することで、前記利点に加え、前記弾性部材が伸びて、前記挿入部が前記開口部から外部に出現した(抜き出された)際に、挿入部の基端側が不自然にだぶついて、一方の周回片と他方の周回片との間に隙間が生じることを防止することができる。したがって、周回部の見栄えをより一層良好にすることができる。
【0015】
さらにまた、前記挿入部は、前記周回方向に略略垂直な方向の長さが、当該挿入部の周回方向先端に向けて短くなるよう、前記周回方向に沿った両縁部がテーパ状に形成することもできる。このように構成することで、前記開口部に対する前記挿入部の挿入及び引出しを、より一層スムーズに行うことができる。
【0016】
そしてまた、本発明にかかる長さ調整装置では、生地を重ね合わせて袋状にした襠部をさらに有し、前記襠部は、前記重ね合わせた一方の生地によって画定される開口端部の少なくとも一部が、前記第1の周回片本体の、前記挿入部が当該開口部に挿入された際に、前記延出部と重なり合う領域に取付けられると共に、前記重ね合わせた他方の生地によって画定される開口端部の少なくとも一部が、前記延出部に取付けられてなり、且つ、当該周回方向の長さが、前記周回部から遠ざかる方向に向けて短くなるよう、前記周回方向に略垂直な方向に沿った両縁部のうち当該延出部の先端側の縁部がテーパ状に形成された構成を備えることができる。このように構成することで、前記利点に加え、前記弾性部材が伸びて、前記挿入部が前記開口部から外部に出現した(引出された)際に、一方の周回片と他方の周回片との間に隙間(開口)が生じることを防止することができると共に、襠部に無駄な皺等が形成されることを防止することができる。このため、見栄えをより一層良好にすると共に、良好な着用感を得ることができる。
【0017】
そしてまた、本発明にかかる長さ調整装置は、前記周回部を、着用者のウエストを周回するベルト部から構成し、このベルト部を前記身頃の脇線位置近傍で分離した構成とすることもできる。この構成の場合、前記開口部の開口端縁を前記脇線位置に配置することができる。
【0018】
また、本発明にかかる長さ調整装置は、前記一方の周回片が前身頃側に配設されると共に、前記他方の周回片が後身頃側に配設されてなる構成を有することができる。そして、この構成の場合、前記ベルト部に、前記開口部の開口端縁と、ベルト通しの前身頃側端縁とが一致するように当該ベルト通しを配設することができる。このように構成することで、ベルト部の見栄えをより良好にすることができる。
【0019】
さらにまた、本発明は、着用者が装着する衣服の身頃に、前述した長さ調整装置を取付けてなる長さ調整装置付き衣服を提供するものである。
【0020】
この構成を備えた衣服は、前述した長さ調整装置を備えているため、衣服の周回部の身体周方向の長さを調整可能であると共に、着用者に適した長さに調整した当該周回部を、この長さのまま維持することができる。
【0021】
なお、周回部としては、着用者の身体を周回する部分であれば、特に限定されるものではないが、例えば、パンツ、スカート、キュロット、上衣等のベルト部や、袖口、足口等が挙げられる。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかる長さ調整装置は、一方の周回片の挿入部が、弾性部材を介して他方の周回片に接続されているため、前記弾性部材の伸縮に応じて、前記周回部の身体周方向の長さを、着用者のサイズ、あるいは着用者の望むサイズに合わせて簡単に調整することができる。また、第1の係合部と第2の係合部とを係合させることで、前記周回部の長さを固定することができるため、前記弾性部材によって着用者に適した長さに調整した周回部をこの長さのまま維持することができる。この結果、周回部を常に最適な状態で着用者の身体に装着させることができる。
【0023】
また、本発明にかかる長さ調整装置付き衣服は、衣服の周回部の身体周方向の長さを調整可能であると共に、着用者に適した長さに調整した当該周回部を、この長さのまま維持することができる。この結果、周回部を常に最適な状態で着用者の身体に装着させることができると共に、衣服が身体からずれたりする等の不具合が生じることを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の好適な実施の形態にかかる長さ調整装置及びこの長さ調整装置を備えた衣服について図面を参照して説明する。なお、以下に記載される実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態にのみ限定するものではない。したがって、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態にかかる長さ調整装置を備えた衣服の全体を示す側面図、図2は、図1に示す衣服のベルト部付近を示す斜視図、図3は、図1に示す衣服の前身頃に配設された周回部の先端付近を示す平面図であって、裏側から見た状態を示す図、図4は、図1に示す衣服の後身頃に配設された周回部の先端付近を示す平面図であって、表側から見た状態を示す図、図5は、本実施の形態にかかる長さ調整装置の構成要素である袋状の襠部の斜視図、図6は、図5に示す袋状の襠部を展開した状態を示す平面図、図7は、本実施の形態にかかる長さ調整装置を分解した状態の要部を示す分解図、図8は、本実施の形態にかかる長さ調整装置の要部を示す平面部であって、表側から見た状態を示す図、図9は、図2に示すIX−IX線に沿った断面を模式的に示す図、図10は、図2に示すX−X線に沿った断面を模式的に示す図、図11は、本実施の形態にかかる長さ調整装置の構成要素である弾性部材が通常の状態の場合と、伸びた状態の場合とを比較して模式的に示す断面図である。なお、前述した各図では、説明を判りやすくするため、各部材の厚さやサイズ、拡大・縮小率等は、実際のものとは一致させずに記載した部分がある。
【0026】
なお、本実施の形態では、衣服としてパンツを適用した場合について説明する。また、本実施の形態では、このパンツを着用者が着用した際に、着用者の身体側となる面を「裏面」として記載する。
【0027】
図1〜図11に示すように、本実施の形態にかかる長さ調整装置は、左前身頃10Lに配設された周回片20Lと、右前身頃10Rに配設された周回片20Rと、後身頃10Bに配設された周回片20Bを備えており、周回片20Lと、周回片20Rと、周回片20Bとを接続することで、着用者の胴回りを周回するベルト部20を構成している。
【0028】
周回片20Lは、左前身頃10Lの胴回り部に沿って配設される第1の周回片本体21と、第1の周回片本体21の、パンツ100の脇線101側に配設される先端(以下、単に「先端」という)に設けられた挿入部23と、挿入部23の先端に設けられた弾性部材25を有している。
【0029】
第1の周回片本体21は、帯状(ベルト状)を有し、胴回り方向に沿った一方の縁部27が、左前身頃10Lの胴回り部に沿って配設されている。第1の周回片本体21の裏面であって、挿入部23側の端部には、ループ状の面ファスナ26が取付けられている。また、第1の周回片本体21の挿入部23が配設されている側とは反対側の端部は、ベルト部20の前開き部分を構成している。
【0030】
挿入部23は、胴回り方向に略略垂直な方向の長さが、挿入部23の先端に向けて徐々に短くなるよう、当該周回方向に沿った両縁部31及び32が、テーパ状に形成されている。この挿入部23は、第1の周回片本体21側の端(以下、「基端」という)の一部が、左前身頃10Lの脇線部11Lに沿って、パンツ100の裾側に向けて延出している。また、挿入部23のパンツ100の裾側に配置された縁部31基端と、左前身頃10Lとの境界位置(脇線部11Lの上端)には、切欠き33が形成されている。
【0031】
弾性部材25は、例えば、平ゴム等から形成されており、その先端が、後に詳述する第2の周回片本体51に固定されている。
【0032】
なお、周回片20Rは、周回片20Lと左右対称の形状を有しているため、その詳細な説明は、省略する。
【0033】
周回片20Bは、後身頃10Bの胴回り部に沿って配設される第2の周回片本体51と、第2の周回片本体51の胴回り方向両端に各々配設される延出部53を有している。
【0034】
第2の周回片本体51は、帯状(ベルト状)を有し、胴回り方向に沿った一方の縁部57が、後身頃10Bの胴回り部に沿って配設されている。この第2の周回片本体51の周回片20Lに接続される側の端部には、周回片20Lの挿入部23が胴回り方向に進退可能に挿入される開口部55が形成されている。また、第2の周回片本体51の周回片20Rに接続される側の端部には、周回片20Rの挿入部23が胴回り方向に進退可能に挿入される開口部55が形成されている。これらの開口部55の開口端縁56は、パンツ100の左右の脇線101の位置に各々配置されている。そして、開口端縁56は、パンツ100のポケットの入口110と対向した位置にあり、ポケットへの挿入方向と、開口部55への挿入方向が互いに反対方向となっているため、ポケットに手を入れる際に、間違って開口部55に手を入れてしまうことを回避することができる。また、第2の周回片本体51の胴回り方向両端部には、ベルト通し70が、開口部55の開口端縁56と、ベルト通し70の前身頃側端縁とが一致するように配設されている。
【0035】
延出部53は、挿入部23が開口部55に挿入された際に、着用者側に位置して第1の周回片本体21と重なり合うよう、開口部55の開口端縁56の、着用者側に配設される領域から胴回り方向に延出している。この延出部53の表面の先端部には、挿入部23が開口部55に挿入された際に、第1の周回片本体21に取付けられているループ状の面ファスナ26と着脱可能に係合するフック状の面ファスナ66が取付けられている。
【0036】
また、第1の周回片本体21の縁部27の、挿入部23が開口部55に挿入された際に延出部53と重なり合う領域と、延出部53の周回方向に沿ったパンツ100の裾側の縁部59には、特に図7に示すように、生地を重ね合わせて袋状にした襠部80の開口端部の取付領域81及び82が各々取付けられている。この襠部80は、略扇状の生地(図6参照)の略中央部を折り目86として、左右の辺84及び85を縫合することで、図5及び図7に示すような略円錐状の袋状に形成されている。襠部80の開口端部のうち、縁部27及び59に取付けられていない非取付領域83は、弾性部材25が伸びて、第1の周回片本体21が第2の周回片本体51から離れようとした際の動きを許容する遊び領域となっている。また、この襠部80は、縁部27及び59に取付けられた際に、図2に示すように、重ねられて縫合された左右の辺84及び85が、パンツ100の脇線101部分で、左前身頃10L(右前身頃10R)と後身頃10Bと共に縫合されて固定される。これによって、襠部80の折り目86部分は、襠部80の周回方向の長さが、パンツ100の裾側に行くに従って短くなるようテーパ状を呈することになる。
【0037】
次に、本実施の形態にかかる長さ調整装置が配設されたパンツ100の具体的動作を、着用者がパンツ100を着用する際の動作を例にとって説明する。
【0038】
通常の状態では、弾性部材25は伸長しておらず、図1、図2、図8及び図10に示すように、挿入部23は、開口部55内に位置しており、この状態がパンツ100のベルト部20の最小サイズとなっている。
【0039】
着用者がパンツを穿き、前開き部分を閉めるために、ベルト部20の周回方向の長さを長くするには、先ず、ループ状の面ファスナ26とフック状の面ファスナ66との係合を解除し、左右に配設されている第1の周回片本体21を前開き部分の両側を近づけるように引っ張ると、周回片20Lの弾性部材25及び周回片20Rの弾性部材25が、図11(1)に示す状態(長さL1:通常状態)から図11(2)に示す状態(長さL1+L2)に各々伸び、ベルト部の周回方向の全体の長さは、2つの弾性部材25が伸びた分(長さL2×2)通常状態よりも長くなる。ここで、着用者側には、ループ状の面ファスナ26が向くことになるため、フック状の面ファスナ66が、着用者の衣服等に引っ掛かることを防止することができる。
【0040】
この時、挿入部23は、開口部55に対し後退して外部に引出されるが、この時、挿入部23の縁部31及び32は、前述したテーパ状となっているため、挿入部23を開口部55からスムーズに引出すことができる。また、挿入部23の縁部31の基端と、左前身頃10L(右前身頃10R)との境界位置に、切欠き33が形成されているため、弾性部材25が伸びることによって、周回片20Bに対し、周回片20L(周回片20R)が離れる方向に移動した際に、挿入部23の基端側が不自然にだぶつくことを抑制し、挿入部23の縁部31と、開口部55の開口端縁56との間に形成される隙間が形成されることを防止することができる。さらにまた、延出部53と第1の周回片本体21との間には、襠部80が配設されているため、弾性部材25が伸びることによって、周回片20Bに対し、周回片20L(周回片20R)が離れる方向に移動しても、周回片20Bと周回片20L(周回片20R)との間に隙間(開口)が形成されることがなく、見栄えを良好に維持することができる。また、襠部80は、折り目86がテーパ状となっているため、邪魔にならず、襠部80に無駄な皺等が形成されることを防止することができ、見栄えをより一層良好にすると共に、良好な着用感を得ることができる。そしてまた、開口部55の開口端縁56と、ベルト通し70の前身頃側端縁とが一致しているため、ベルト部20の見栄えをより良好にすることもできる。
【0041】
以上の動作によって、ベルト部20の周回方向の長さを調整しながら、パンツ100の前開き部分を閉めた後、この状態で互いに対向配置されているループ状の面ファスナ26とフック状の面ファスナ66とを係合させる。このようにすることで、弾性部材25が伸縮することが阻止され、ベルト部20は、最適な長さで維持される。その後、必要に応じて、ベルト通し70にベルトを通す。
【0042】
なお、本実施の形態では、弾性部材25の伸縮を阻止するために、ループ状の面ファスナ26とフック状の面ファスナ66とを係合させる場合について説明したが、これに限らず、弾性部材25の伸縮を阻止するために使用する係合部は、例えば、アジャスタ機能付きのフックや各種金具、紐、紐と金具(例えば、Dかん)との組合せ等、任意に選択することができる。
【0043】
また、本実施の形態では、挿入部23の縁部31及び32をテーパ状に形成した場合について説明したが、これに限らず、縁部31及び32のいずれか一方をテーパ状にしてもよい。また、必ずしもテーパ状にしなくてもよい。
【0044】
そしてまた、本実施の形態では、テーパ形状を有する襠部80を配設した場合について説明したが、これに限らず、襠部の形状は、所望により任意により決定することができる。
【0045】
また、本実施の形態では、ベルト部20にベルト通し70を配設した場合について説明したが、これに限らず、ベルト通し70は必ずしも配設しなくてもよく、配設する場合には、その配設位置も任意に決定することができる。
【0046】
さらにまた、本実施の形態では、衣服としてパンツ100を例に取り、パンツ100のベルト部20の周回方向の長さを調整する場合について説明したが、衣服は、例えば、パンツ、スカート、キュロット、上衣等、特に限定されるものではなく、長さの調整を行う部位もベルト部の他、袖口や足口等、所望により決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態にかかる長さ調整装置を備えた衣服の全体を示す側面図である。
【図2】図1に示す衣服のベルト部付近を示す斜視図である。
【図3】図1に示す衣服の前身頃に配設された周回部の先端付近を示す平面図であって、裏側から見た状態を示す図である。
【図4】図1に示す衣服の後身頃に配設された周回部の先端付近を示す平面図であって、表側から見た状態を示す図である。
【図5】本実施の形態にかかる長さ調整装置の構成要素である袋状の襠部の斜視図である。
【図6】図5に示す袋状の襠部を展開した状態を示す平面図である。
【図7】本実施の形態にかかる長さ調整装置を分解した状態の要部を示す分解図である。
【図8】本実施の形態にかかる長さ調整装置の要部を示す平面部であって、表側から見た状態を示す図である。
【図9】図2に示すIX−IX線に沿った断面を模式的に示す図である。
【図10】図2に示すX−X線に沿った断面を模式的に示す図である。
【図11】本実施の形態にかかる長さ調整装置の構成要素である弾性部材が通常の状態の場合と、伸びた状態の場合とを比較して模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0048】
10B 後身頃
10L 左前身頃
10R 右前身頃
11L 脇線部
20 ベルト部
20B 周回片
20L 周回片
20R 周回片
21 第1の周回片本体
23 挿入部
25 弾性部材
26 ループ状の面ファスナ
51 第2の周回片本体
53 延出部
55 開口部
56 開口端縁
66 フック状の面ファスナ
80 襠部
100 パンツ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衣服の身頃に配設され、当該衣服を着用する着用者の身体を周回する周回部の身体周方向の長さを調整する長さ調整装置であって、
前記周回部を前記身体周方向の所定位置で複数に分離して複数の周回片とし、
一方の周回片は、周回方向に沿った一方の縁部が前記身頃に配設されてなる第1の周回片本体と、当該第1の周回片本体の先端に設けられ、他方の周回片に設けた開口部に進退可能に挿入される挿入部と、を有し、
前記挿入部は、弾性部材を介して他方の周回片に対し前記周回方向に接続されてなり、
前記他方の周回片は、周回方向に沿った一方の縁部が前記身頃に配設されてなり且つ前記挿入部が進退可能に挿入される開口部を有する第2の周回片本体と、前記開口部の開口端縁の一部から前記一方の周回片に向けて延出し、前記挿入部が当該開口部に挿入された際に、前記第1の周回片本体と重なり合う延出部と、を有し、
前記第1の周回片本体の前記延出部と対向可能な位置に第1の係合部を配設し、
前記延出部は、前記挿入部が当該開口部に挿入された際に、前記第1の周回片本体と対向する位置に、前記第1の係合部と係合して前記弾性部材の伸縮を阻止する第2の係合部が形成されてなる長さ調整装置。
【請求項2】
前記第1の係合部及び前記第2の係合部が面ファスナからなる請求項1記載の長さ調整装置。
【請求項3】
前記延出部は、前記周回部が着用者の身体に周回された際に、着用者側に配設されてなる請求項1または請求項2記載の長さ調整装置。
【請求項4】
前記第1の係合部は、ループ状の面ファスナからなり、前記第2の係合部は、フック状の面ファスナからなる請求項3記載の長さ調整装置。
【請求項5】
前記挿入部は、前記周回方向に略略垂直な方向の長さが、当該挿入部の周回方向先端に向けて短くなるよう、当該周回方向に沿った両縁部のうち前記身頃側に配設される縁部がテーパ状に形成されてなる請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の長さ調整装置。
【請求項6】
前記挿入部のテーパ状を有する縁部の基端と、前記身頃との境界位置に、切欠きが形成されてなる請求項5記載の長さ調整装置。
【請求項7】
前記挿入部は、前記周回方向に略略垂直な方向の長さが、当該挿入部の周回方向先端に向けて短くなるよう、前記周回方向に沿った両縁部がテーパ状に形成されてなる請求項5または請求項6記載の長さ調整装置。
【請求項8】
生地を重ね合わせて袋状にした襠部をさらに有し、
前記襠部は、前記重ね合わせた一方の生地によって画定される開口端部の少なくとも一部が、前記第1の周回片本体の、前記挿入部が当該開口部に挿入された際に、前記延出部と重なり合う領域に取付けられると共に、前記重ね合わせた他方の生地によって画定される開口端部の少なくとも一部が、前記延出部に取付けられてなり、且つ、当該周回方向の長さが、前記周回部から遠ざかる方向に向けて短くなるよう、前記周回方向に略垂直な方向に沿った両縁部のうち当該延出部の先端側の縁部がテーパ状に形成されてなる前記請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の長さ調整装置。
【請求項9】
前記周回部は、着用者のウエストを周回するベルト部であり、当該ベルト部は、前記身頃の脇線位置近傍で分離されてなる請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の長さ調整装置。
【請求項10】
前記開口部の開口端縁が前記脇線位置に配置されてなる請求項9記載の長さ調整装置。
【請求項11】
前記一方の周回片が前身頃側に配設されると共に、前記他方の周回片が後身頃側に配設されてなる請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の長さ調整装置。
【請求項12】
前記ベルト部に、前記開口部の開口端縁と、ベルト通しの前身頃側端縁とが一致するように当該ベルト通しが配設されてなる請求項11記載の長さ調整装置。
【請求項13】
着用者が装着する衣服の身頃に、請求項1ないし請求項12のいずれか一項に記載の長さ調整装置を取付けてなる長さ調整装置付き衣服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−297647(P2008−297647A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−142414(P2007−142414)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【出願人】(391008146)株式会社モンベル (19)
【Fターム(参考)】