説明

長寿命となるケミカルフィルタユニット

【課題】フィルタユニットの特性として、吸着材を内包する、フィルタパネルを通過するガスの面速度が偏り、面速度の大きい吸着材が早く劣化して、フィルタユニットとしての寿命を早めている。
【解決手段】各フィルタパネルに、フィルタユニットのガス出口(下流方向)にかけて大となる連続した通気抵抗をかけることで、フィルタパネル全体で均一の面風速となり、フィルタユニットとしての寿命をのばすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造施設や原子力施設、医療施設などで発生する有害ガスを捕集するケミカルフィルタユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気中のガス状放射性物質、酸性ガス、塩基性ガス、有機ガス等を吸着する吸着材には、活性炭、イオン交換樹脂、ゼオライト等が用いられ、例えば鋼板、SUS板、樹脂板からなる箱型フレーム内ガスケットを介して上下2枚の平行なパンチング板を設けて、その中に充填される(たとえば、特許文献1)。この吸着層をフィルタパネルと呼ぶ。活性炭素繊維を吸着材とする場合、その特徴から吸着材を不織布等で挟んでヒダ折りし、フィルタ層(フィルタパネル)としている(たとえば、特許文献2)。
【0003】
ガスの吸着能力は、どの吸着材においてもガスと吸着材との接触時間が重要なファクターとなる。面速度が早く接触時間が短いと、吸着効率が落ちたり、吸着材が早くガスを吸着し、劣化して寿命が短くなる。
【0004】
フィルタユニットは一般に、フィルタパネルを上下、コの字状に配置したり(たとえば非特許文献1)、V字状に配置する(特許文献1)。また、活性炭素繊維を吸着材とする場合では、ジグザグ状に折り畳んだフィルタをひとつのフィルタパネルとして、上下、もしくは片方だけに配置する場合がある(特許文献3)。
【0005】
しかし、フィルタユニットの特性として、フィルタパネルを通過する面速度は偏り、1枚のフィルタパネルの中で、面速度の大きい場所と小さい場所が存在する。すると、面速度の大きな場所が早く劣化するため、結果として、そのフィルタユニットとしての寿命は、早く劣化した場所の寿命に依存する事となる。
【0006】
その対策のひとつとして、一部のフィルタユニットでは、フィルタパネルを回転もしくは反転させて寿命を延ばす工夫がされている。(特許文献4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−313144号広報
【0008】
【特許文献2】特開2004−205490号公報
【0009】
【特許文献3】特開2007−057285号公報
【0010】
【特許文献4】特開2000−296308号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】実願昭60−038246号(実開昭61−155017号)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【00012】
フィルタパネルをコの字状に設置した場合、ガスがフィルタユニット内部からフィルタパネルを通して上下に流れる場合も、逆にフィルタパネル上下からユニット内部を通して流れる場合も(非特許文献1参照)、フィルタパネルのガス出口(下流)側の部分の面風速が極端に早くなり、フィルタユニットの寿命が短縮される。
【0013】
また、フィルタパネルをV字状に配置した場合も同様に、フィルタパネルのガス出口(下流)側の部分の面風速が早くなり、フィルタユニットの寿命が短縮される。(特許文献4参照)
【0014】
コの字状、V字状を複数組み合わせたフィルタパネルの場合も同様である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決する為に鋭意研究、検討した結果得られたものである。ガスが流れるフィルタパネルの出口にかけて大となる通気抵抗をかけ、その通気抵抗によりフィルタパネル全体の面速度を一定にする。通気抵抗を変化させる方法として、フィルタパネルのパンチングプレートの穴の口径を変化させる。もしくは、穴の密度を変化させるなどで可能である。また、不織布、織物等を用いて、かさ密度や厚さを変化させる事でも実施できる。変化させる部材料として、金属、布、紙、樹脂等が望ましい。変化させる為の部材料の設置位置は、フィルタパネルの表面もしくは、フィルタパネル吸着層の内部でも良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、各フィルタパネルを通過するガスの面速度は、全面でほぼ一定となり、フィルタユニットの寿命の延長が図られ、ランニングコストの低減が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】フィルタパネルをコの字状に配置した従来のフィルタユニット(カット図)
【図2】本発明で、[図1]に通気抵抗部材を付けたフィルタユニット例(カット図)
【図3】本発明で、フィルタパネルをV字状に組み合わせた従来のフィルタユニットに、通気抵抗を付けたフィルタユニットの例である(カット図)
【図4】吸着材に活性炭素繊維を使った、従来のフィルタユニット(カット図)
【図5】本発明で、[図4]に通気抵抗を付けたフィルタユニットの例(カット図)
【図6】本発明で、[図4]の吸着材である活性炭素繊維を挟んでいる、カバー材に通気抵抗を付けた例である
【図7】通気抵抗部材を付けない場合の、シミュレーション結果
【図8】[図7]に通気抵抗部材を付けた場合の、シミュレーション結果
【図9】[図8]に付けた通気抵抗部材の、抵抗関数を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。[図1]にはフィルタパネルをコの字型に配置した従来のフィルタユニットを示している。フィルタユニット上部には、パンチングプレート2と2aに挟まれた空間に、吸着材3が充填されており1枚のフィルタパネル(上フィルタパネル)を構成している。同様にパンチングプレート2bと2cに挟まれた空間に吸着材3cが充填され、フィルタパネル(下フィルタパネル)を構成する。上下2つのフィルタパネルの間には空洞部があり、上下2つのフィルタパネルにより浄化された汚染ガスは、この空洞部を通ってガス流出口5から浄化ガスとなって排出される。フィルタユニットは、この上下2枚のフィルタパネルとフィルタパネルを支え、フィルタパネル以外から汚染ガスが流入しないように密閉溶接された枠体1と、フィルタユニットとフィルタユニットを取り付ける、フィルタボックスに密着させる為のフェースプレート6、ガスケット7で構成される
【0019】
上下フィルタパネルから吸い込まれた汚染ガスは、空洞部を通ってガス流出口から排出されるが、空洞部奥とガス流出口5付近の空洞部で圧力差が生じ、ガス流出口5付近のフィルタパネルの面速度が早くなり、面速度に偏りが生じる。
【0020】
[図2]では、汚染ガスが上下フィルタパネルに入り込むそれぞれの面に、面速度が早くなるガス流出口5付近で大となる通気抵抗を持つ、通気抵抗部材8を貼り付けた例である。なお、フィルタパネル幅方向の面速度の偏りは小さく、無視できる。
【0021】
[図3]には、V字状フィルタパネルを複数組み合わせたフィルタユニットを示している。[図1]と同様に、2枚のパンチングプレート2に挟まれた中に吸着材が充填され、1つのフィルタパネルを構成している。フィルタパネルの片側を他のフィルタパネルと付け合わせることによりV字状フィルタパネルを構成し、複数組み合わせる事でフィルタユニットが構成される。このように、V字状フィルタパネルを組み合わせることにより、ガス処理風量の効率化を図っている。[図3]では、そのそれぞれのフィルタパネル内側のパンチングプレートにガス出口(下流)方向に大となる通気抵抗を持つ、通気抵抗部材8を貼り付けた例である。
【0022】
[図4]には、吸着材に活性炭素繊維を用いたフィルタユニットを示している。図上部から吸い込まれた汚染ガスは、ヒダ折りされた活性炭素繊維層(フィルタパネル)を通り、フィルタユニット内部の空洞部を通って図右側のガス流出口から排出される。この場合も[図1]と同様にガス流出口付近で面速度が大きくなる為、[図5]では、ガス流出口付近で大となる通気抵抗を持つ通気抵抗部材8をフィルタパネル片面に貼り付けている。
【0023】
[図6]には、[図4]に示す活性炭素繊維層(フィルタパネル)の一部を拡大して示している。フィルタパネルは、活性炭素繊維から成る吸着材3を不織布でできたカバー材で挟み込み、セパレータを介してヒダ折りにされている。図では、吸着材3を挟み込むカバー材のかさ密度を変え、ガス流出口付近で大となる通気抵抗を持つ通気抵抗部材8を用いている例である。
【0024】
以下、実施例をもって説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
例として、フィルタパネルをコの字状に配置したフィルタユニットに、右方向から流れてくるガスが、フィルタパネル上下から入って浄化され、フィルタユニット内部の空洞を通して左側に流れ出る(吸い出される)場合のシミュレーション結果を示す。
色の違いは、上部フィルタパネル表面の面速度の分布を示している。
フィルタユニット上下に取付けたフィルタパネルのサイズは、0.58×0.67×0.16m。ガス処理風量は、9.4m/分、シミュレーション解析プログラムは、e−flow/WindPerfectを用いた。
【0026】
[図7]に通気抵抗をかけない場合の結果を示す。ガスはフィルタパネル表面、ガス出口(下流)付近で面速度が最大0.3m/secとなり、一方、上流右方向では、0.1m/sec以下と面速度に大きな偏りができる。これは、吸い込みにより空洞内に圧力変化が生じ、空洞内圧力の低い空洞出口付近のフィルタパネルから、多くのガスが引き込まれ、面速度に偏りを生じさせているからである。
【0027】
次に、[図9]に示す2次関数で近似される通気抵抗を、フィルタユニット長さ方向出口にかけて大となるように、フィルタパネル上下に与えた場合のガスの面速分布を[図8]に示す。フィルタパネルの上部表面、全面に渡って、均一の面速度が得られ、改善されている。
【符号の説明】
【0028】
1 :枠体
2 :パンチングプレート
2a:パンチングプレート(上フィルタパネル空洞部側)
2b:パンチングプレート(下フィルタパネル空洞部側)
2c:パンチングプレート(下フィルタパネル外側)
3 :吸着材
3a:吸着材(下フィルタパネル内)
4 :ハンドル
5 :ガス流出口
6 :フェースプレート
7 :ガスケット
8 :通気抵抗部材
8a:通気抵抗部材(下フィルタパネル外側)
9 :セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタユニットのガス出口(下流方向)にかけて大となる通気抵抗部材を持つ、フィルタパネルを構成部品とする特徴を持つ、ケミカルフィルタユニット
【請求項2】
フィルタパネルに、穴の大きさを変化させたパンチングプレートを持つ事を特徴とするケミカルフィルタユニット
【請求項3】
フィルタパネルに、開ける穴の密度を変化させたパンチングプレートを持つ事を特徴とするケミカルフィルタユニット
【請求項4】
フィルタパネルに、かさ密度を変化させた不織布、もしくは織物を持つ事を特徴とするケミカルフィルタユニット
【請求項5】
フィルタパネルに、厚さを変化させた不織布、もしくは織物を持つ事を特徴とするケミカルフィルタユニット
【請求項6】
請求項2〜5で、通気抵抗部材を、構成するフィルタパネルの表面、もしくは、フィルタパネルの内部に持つ事を特徴とするケミカルフィルタユニット

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−212680(P2011−212680A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2011−151253(P2011−151253)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(511165946)
【Fターム(参考)】