説明

長繊維強化複合樹脂組成物およびその成形品

【課題】高弾性および高靭性で且つ表面平滑性に優れた長繊維強化複合樹脂成形品、およびそれを得るための樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】オレフィン系樹脂、炭素繊維および有機長繊維を含有する長繊維強化複合樹脂組成物であって、該複合樹脂組成物全体に対して、炭素繊維の含有量が5〜15質量%であり、有機長繊維の含有量が5〜8質量%であり、炭素繊維の含有量と有機長繊維の含有量との合計が10〜20質量%であることを特徴とする長繊維強化複合樹脂組成物、およびその成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維強化複合樹脂組成物およびその成形品に関し、より詳しくは、オレフィン系樹脂、炭素繊維および有機長繊維を含有する長繊維強化複合樹脂組成物およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系樹脂は、汎用性が高く、安価で且つ機械特性に優れるため、自動車用内装・外装部品など幅広い分野で用いられている。従来、このようなオレフィン系樹脂においては、成形品の強度や弾性率などを向上させるために、ガラス繊維が配合されていた。しかしながら、オレフィン系樹脂にガラス繊維を配合すると、成形品の表面平滑性が低下し、外観不良が生じるため、ガラス繊維強化オレフィン系樹脂を高品質な成形品に適用することは困難であった。さらに、靭性(引張破断伸び、曲げたわみ量)や耐衝撃性も十分に高いものではなかった。
【0003】
また、オレフィン系樹脂に炭素繊維を配合すると、成形品の強度や弾性率が向上することも知られている。しかしながら、炭素繊維を配合したオレフィン系樹脂成形品も、靭性(引張破断伸び、曲げたわみ量)や耐衝撃性が十分に高いものではなかった。
【0004】
そこで、成形品の耐衝撃性を向上させるために、オレフィン系樹脂に、ポリアミド繊維やポリエステル繊維などの有機長繊維と炭素繊維とを配合することが提案されている(特開2009−13331号公報(特許文献1))。しかしながら、特許文献1に記載の長繊維強化複合樹脂成形品のうち、引張破断伸びや耐衝撃性が高いものについては、曲げ弾性率が十分に高いものではなく、他方、曲げ弾性率が高いものについては、引張破断伸びや耐衝撃性が十分に高いものではなく、さらに、外観も劣るものであった。すなわち、高弾性および高靭性で且つ表面平滑性に優れた長繊維強化複合樹脂成形品は未だ得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−13331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高弾性および高靭性で且つ表面平滑性に優れた長繊維強化複合樹脂成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、オレフィン系樹脂に炭素繊維と有機長繊維とを配合する場合において、炭素繊維の配合量を所定の範囲にすることによって、有機長繊維の配合量を低下させても、成形品の高弾性(曲げ弾性率が4000MPa以上)および高靭性(曲げたわみ量が9mm以上)を維持することができ、さらに、有機長繊維の配合量の減少により炭素繊維と有機長繊維の総配合量が低下することによって、成形品の表面平滑性が向上(表面粗さRaが0.1μm以下)することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の長繊維強化複合樹脂組成物は、オレフィン系樹脂、炭素繊維および有機長繊維を含有する長繊維強化複合樹脂組成物であって、該複合樹脂組成物全体に対して、炭素繊維の含有量が5〜15質量%であり、有機長繊維の含有量が5〜8質量%であり、炭素繊維の含有量と有機長繊維の含有量との合計が10〜20質量%であることを特徴とするものである。また、本発明の長繊維強化複合樹脂成形品は、前記本発明の長繊維強化複合樹脂組成物を成形(好ましくは射出成形)してなるものであることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の長繊維強化複合樹脂組成物およびその成形品において、前記有機長繊維としては、アラミド繊維およびビニロン繊維からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、前記オレフィン系樹脂としてはプロピレン系樹脂が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高弾性および高靭性で且つ表面平滑性に優れた長繊維強化複合樹脂成形品を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例および比較例で作製した長繊維強化複合樹脂成形品の炭素繊維および有機長繊維の含有量と各種物性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0013】
先ず、本発明の長繊維強化複合樹脂組成物について説明する。本発明の長繊維強化複合樹脂組成物は、オレフィン系樹脂、炭素繊維および有機長繊維を含有するものである。
【0014】
本発明に用いられるオレフィン系樹脂としては特に制限はなく、例えば、エチレンの単独重合体、エチレンを主成分とする他のオレフィン(例えば、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン)との共重合体などのエチレン系樹脂(エチレン単位50モル%以上(好ましくは60モル%以上));プロピレンの単独共重合体、プロピレンを主成分とする他のオレフィン(例えば、エチレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン)との共重合体などのプロピレン系樹脂(プロピレン単位50モル%以上(好ましくは60モル%以上))といった各種オレフィン系樹脂が挙げられる。このようなオレフィン系樹脂は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、前記共重合体は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。このようなオレフィン系樹脂の中でも、耐熱性、耐薬品性に優れているという観点から、プロピレン系樹脂が好ましく、プロピレン−エチレン共重合体がより好ましい。
【0015】
本発明において、オレフィン系樹脂のメルトフローレート(MFR、JIS K7210に準拠して230℃、21.2N荷重で測定)としては、0.1〜200g/10分が好ましく、10〜120g/10分がより好ましい。MFRが前記下限未満になると、繊維の破損や分散性の低下が起こる傾向にあり、さらに、樹脂組成物の流動性が低下して成形品の表面平滑性が低下する傾向にある。他方、MFRが前記上限を超えると、成形品の機械強度が低下する傾向にある。
【0016】
本発明に用いられる炭素繊維としては、PAN系、ピッチ系のいずれのものでもよい。また、収束剤が付与されているものも、付与されていないものも使用することができる。本発明において、炭素繊維の平均繊維径としては、13μm以下が好ましい。炭素繊維の平均繊維径が前記上限を超えると、成形品の表面平滑性が低下する傾向にある。なお、平均繊維径の下限としては特に制限はないが、5μm以上が好ましい。また、炭素繊維の平均繊維長としては、成形品の弾性(曲げ弾性率、引張弾性率)が向上する長さであれば特に制限はないが、取扱い易さの観点から3〜8mmが好ましい。さらに、炭素繊維の引張弾性率としては、100GPa以上が好ましい。炭素繊維の引張弾性率が前記下限未満になると、成形品の高弾性率化に必要な炭素繊維の配合量が増加する傾向にある。
【0017】
本発明に用いられる有機長繊維としては、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維(PBO繊維)ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)、ポリエチレンナフタレート繊維(PEN繊維)、ポリアミド繊維などが挙げられる。このような有機長繊維は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。このような有機長繊維の中でも、成形品の靭性(引張破断伸び、曲げたわみ量)が向上するという観点から、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリアリレート繊維が好ましく、アラミド繊維、ビニロン繊維がより好ましい。
【0018】
本発明において、有機長繊維の単繊維の平均直径としては5〜30μmが好ましい。有機長繊維の単繊維の平均直径が前記下限未満になると、成形時に曲がりやすくなり、有機長繊維による補強効果が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、成形品の表面平滑性が低下する傾向にある。また、有機長繊維の平均繊維長としては3〜10mmが好ましく、4〜8mmがより好ましい。有機長繊維の平均繊維長が前記下限未満になると、成形品の耐衝撃性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、成形品を得ることが困難となる傾向にある。
【0019】
本発明の長繊維強化複合樹脂組成物は、炭素繊維および有機長繊維をそれぞれ所定の含有量で含有し、且つこれらの含有量の合計が所定の範囲にあるものである。前記炭素繊維の含有量は、本発明の長繊維強化複合樹脂組成物全体に対して、5〜15質量%である。炭素繊維の含有量が前記下限未満になると、成形品の弾性(曲げ弾性率、引張弾性率)が低下し、他方、前記上限を超えると、成形品の靭性(引張破断伸び、曲げたわみ量)および耐衝撃性が低下する。また、成形品の弾性、靭性および耐衝撃性が向上するという観点から、炭素繊維の含有量としては6〜13質量%が好ましく、7〜12質量%がより好ましい。
【0020】
また、本発明にかかる有機長繊維の含有量は、5〜8質量%である。有機長繊維の含有量が前記下限未満になると、成形品の靭性(引張破断伸び、曲げたわみ量)、強度(曲げ強度、引張破断強度)および耐衝撃性が低下し、他方、前記上限を超えると、成形品に反りなどの変形が生じやすくなる。
【0021】
さらに、本発明の長繊維強化複合樹脂組成物においては、前記炭素繊維の含有量と前記有機長繊維の含有量との合計が10〜20質量%である。これらの含有量の合計が前記下限未満になると、成形品の強度(曲げ強度、引張破断強度)が低下し、他方、前記上限を超えると、表面粗さが増大する。また、成形品の強度が高くなり、且つ表面粗さが小さくなるという観点から、炭素繊維の含有量と有機長繊維の含有量との合計としては12〜18が好ましい。
【0022】
本発明の長繊維強化複合樹脂組成物においては、オレフィン系樹脂、炭素繊維および有機長繊維の他、必要に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤などの公知の各種添加剤や他の熱可塑性樹脂などを配合してもよい。
【0023】
このような長繊維強化複合樹脂組成物の製造方法としては特に制限はなく、例えば、オレフィン樹脂、炭素繊維および有機長繊維を、所望の含有量となるように一括で混合する方法;オレフィン樹脂と炭素繊維とを含有するマスターバッチおよびオレフィン樹脂と有機長繊維とを含有するマスターバッチをそれぞれ調製し、これらのマスターバッチと、必要に応じてオレフィン樹脂とを、炭素繊維および有機長繊維が所望の含有量となるように混合する方法などが挙げられる。前記混合方法としては特に制限はなく、湿式混合、乾式混合、溶融混合などの公知の混合方法を採用することができる。
【0024】
次に、本発明の長繊維強化複合樹脂成形品について説明する。本発明の長繊維強化複合樹脂成形品は、前記本発明の長繊維強化複合樹脂組成物を成形してなるものであり、好ましくは射出成形してなる射出成形品である。このような長繊維強化複合樹脂成形品の成形条件としては特に制限はなく、従来のオレフィン系樹脂成形品の成形条件を採用することができる。
【0025】
本発明の長繊維強化複合樹脂成形品は、高弾性および高靭性で且つ表面平滑性に優れたものである。具体的には、3点曲げ試験(支点間距離60mm、試験速度2mm/min、25℃)により測定される曲げ弾性率が4000MPa以上、曲げたわみ量が9mm以上(好ましくは10mm以上)であり、表面粗さが0.1μm以下である。
【0026】
さらに、本発明の長繊維強化複合樹脂成形品においては、3点曲げ試験(支点間距離60mm、試験速度2mm/min、25℃)により測定される最大曲げ強度が53MPa以上であることが好ましい。また、引張試験(つかみ間距離115mm、試験速度10mm/min、25℃)により測定される引張弾性率が2200MPa以上(より好ましくは2500MPa以上)であることが好ましく、引張破断強度が32MPa以上であることが好ましく、引張破断伸びが6%以上であることが好ましい。さらに、シャルピー衝撃強さ(25℃)が8kJ/m以上であることが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
プロピレン・エチレンブロック共重合体(日本ポリプロ(株)製「ノバテックPP BC05B」、メルトフローレート50g/10分(230℃、21.2N荷重)、以下、「PP・PE共重合体」と略す)80質量部と炭素繊維(三菱樹脂(株)製「ダイアリードK6371T」、平均繊維径11μm、平均繊維長6mm、引張弾性率640GPa)20質量部とを混合し、二軸押出機を用いて樹脂温度200℃で押出してストランドを作製し、得られたストランドを20mmの長さに切断して炭素繊維含有マスターバッチペレット(炭素繊維含有量20質量%)を作製した。
【0029】
また、前記PP・PE共重合体80質量部とアラミド繊維(帝人テクノプロダクツ(株)製「テクノーラT322EH」、単繊維の平均直径12μm、平均繊維長6mm)20質量部とを混合し、上記と同様にしてアラミド繊維含有マスターバッチペレット(有機長繊維含有量20質量%)を作製した。
【0030】
これらの繊維含有マスターバッチペレットおよび前記PP・PE共重合体を、ポリプロピレン系樹脂の含有量が86質量%、炭素繊維の含有量が7.5質量%、有機長繊維の含有量が6.5質量%となるように乾式混合して長繊維強化複合樹脂組成物を得た。この長繊維強化複合樹脂組成物を、樹脂温度240℃、金型温度110℃で射出成形して、ISO規格のタイプAのダンベル試験片(平行部分の幅10mm、平行部分の長さ80mm、厚さ4mm)を作製した。
【0031】
(実施例2)
ポリプロピレン系樹脂、炭素繊維および有機長繊維の配合比を表1に示す割合に変更した以外は、実施例1と同様にして長繊維強化複合樹脂組成物を調製した。この長繊維強化複合樹脂組成物を用いた以外は実施例1と同様に射出成形によりISO規格のタイプAのダンベル試験片を作製した。
【0032】
(実施例3〜5)
アラミド繊維の代わりにビニロン繊維(ユニチカ(株)製「ビストロン1100T−500F」、単繊維の平均直径20μm、平均繊維長6mm)を用いた以外は実施例1と同様にしてビニロン繊維含有マスターバッチペレット(有機長繊維含有量20質量%)を作製した。
【0033】
アラミド繊維含有マスターバッチペレットの代わりにビニロン繊維含有マスターバッチペレットを用い、ポリプロピレン系樹脂、炭素繊維および有機長繊維の配合比を表1に示す割合に変更した以外は、実施例1と同様にして長繊維強化複合樹脂組成物を調製した。この長繊維強化複合樹脂組成物を用い、樹脂温度を190℃に変更した以外は実施例1と同様に射出成形によりISO規格のタイプAのダンベル試験片を作製した。
【0034】
(比較例1)
前記長繊維強化複合樹脂組成物の代わりに前記PP・PE共重合体のみを用いた以外は実施例1と同様に射出成形によりISO規格のタイプAのダンベル試験片を作製した。
【0035】
(比較例2)
前記PP・PE共重合体およびガラス長繊維強化ポリプロピレン系樹脂(日本ポリプロ(株)製「ファンクスターLR25Z」、ガラス長繊維含有量50質量%、平均繊維長8mm)を、ポリプロピレン系樹脂の含有量が80質量%、ガラス長繊維の含有量が20質量%となるように乾式混合して長繊維強化複合樹脂組成物を得た。この長繊維強化複合樹脂組成物を用いた以外は実施例1と同様に射出成形によりISO規格のタイプAのダンベル試験片を作製した。
【0036】
(比較例3〜5)
前記長繊維強化複合樹脂組成物の代わりに、実施例1で作製した炭素繊維含有マスターバッチペレット(炭素繊維含有量20質量%)もしくはアラミド繊維含有マスターバッチペレット(有機長繊維含有量20質量%)、または実施例3で作製したビニロン繊維含有マスターバッチペレット(有機長繊維含有量20質量%)を用いた以外は実施例1と同様に射出成形によりISO規格のタイプAのダンベル試験片を作製した。なお、比較例5においては樹脂温度を190℃に変更して射出成形した。
【0037】
(比較例6〜12)
ポリプロピレン系樹脂、炭素繊維および有機長繊維の配合比を表3に示す割合に変更した以外は、実施例1〜5と同様にして長繊維強化複合樹脂組成物を調製した。この長繊維強化複合樹脂組成物を用いた以外は実施例1と同様に射出成形によりISO規格のタイプAのダンベル試験片を作製した。
【0038】
実施例および比較例で作製したダンベル試験片を用いて、以下の方法により各種物性を測定した。その結果を表1〜3に示す。
【0039】
<曲げ特性>
作製した前記ダンベル試験片からタイプBの短冊形試験片(幅10mm、長さ80mm、厚さ4mm)を切り出し、この短冊形試験片を用いて、支点間距離60mm、試験速度2mm/min、温度25℃で3点曲げ試験を行い、曲げ弾性率、曲げたわみ量および最大曲げ強度を測定した。
【0040】
<引張特性>
前記ダンベル試験片を用いて、つかみ間距離115mm、試験速度10mm/min、温度25℃で引張試験を行い、引張弾性率、引張破断強度および引張破断伸びを測定した。
【0041】
<衝撃特性>
前記短冊形試験片の中央部に2mmのノッチを付け(残り幅8mm)、試験温度25℃でシャルピー衝撃試験を行い、衝撃強さを測定した。
【0042】
<表面特性>
前記ダンベル試験片の表面粗さRaを、接触式表面粗さ計を用いて測定した。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
表1〜3に示した結果から明らかなように、ポリプロピレン系樹脂に炭素繊維と有機長繊維を所定量配合した場合(実施例1〜5)には、ポリプロピレン系樹脂のみの場合(比較例1)に比べて、曲げ特性、引張特性および衝撃特性が向上した。また、ポリプロピレン系樹脂にガラス長繊維のみを配合した場合(比較例2)に比べて、曲げたわみ量および引張破断伸びが向上した。さらに、炭素繊維のみを配合した場合(比較例3)に比べて、曲げたわみ量、最大曲げ強度、引張破断伸びおよびシャルピー衝撃強さが向上した。また、有機長繊維のみを配合した場合(比較例4〜5)に比べて、曲げ弾性率および引張弾性率が向上した。
【0047】
また、炭素繊維と有機長繊維とを併用した場合(実施例1〜5および比較例6〜12)について、炭素繊維含有量に対して有機長繊維含有量をプロットしたところ、図1に示すように、炭素繊維含有量と有機長繊維含有量の合計が所定の範囲内にあり、且つ炭素繊維と有機長繊維の含有量がともに所定の範囲内にある場合(実施例1〜5)には、曲げ弾性率が高く(4000MPa以上)、曲げたわみ量が大きく(9mm以上)、表面平滑性に優れた(Ra≦0.10μm)成形品が得られた。これに対して、炭素繊維含有量と有機長繊維含有量の合計が過少になった場合(比較例6〜7)には、曲げ弾性率が低下し、炭素繊維含有量と有機長繊維含有量の合計が過剰になった場合(比較例9、12)には、成形品の表面平滑性が低下した。また、炭素繊維含有量と有機長繊維含有量の合計が所定の範囲内にあっても、有機長繊維の含有量が過剰になった場合(比較例8、10)には、曲げ弾性率が低下し、有機長繊維の含有量が過少になった場合(比較例11)には、曲げたわみ量が減少した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
以上説明したように、本発明によれば、高弾性および高靭性で且つ表面平滑性に優れた長繊維強化複合樹脂成形品を得ることが可能となる。
【0049】
したがって、本発明の長繊維強化複合樹脂組成物を成形することにより、少量の樹脂で従来の樹脂成形品と同等の機械特性を有する長繊維強化複合樹脂成形品を得ることができる。その結果、本発明の長繊維強化複合樹脂成形品は、薄肉化、軽量化を図ることが可能となり、省資源化に繋がる部品として有用である。特に、自動車部品や航空機部品においては、自動車や航空機の燃費向上に繋がるものとして有用である。
【0050】
また、本発明の長繊維強化複合樹脂成形品は、表面平滑性にも優れていることから、自動車用部品など、塗装の有無に関わらず、外観品質が要求される部品にも適用できる点で有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン系樹脂、炭素繊維および有機長繊維を含有する長繊維強化複合樹脂組成物であって、該複合樹脂組成物全体に対して、炭素繊維の含有量が5〜15質量%であり、有機長繊維の含有量が5〜8質量%であり、炭素繊維の含有量と有機長繊維の含有量との合計が10〜20質量%であることを特徴とする長繊維強化複合樹脂組成物。
【請求項2】
前記有機長繊維が、アラミド繊維およびビニロン繊維からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の長繊維強化複合樹脂組成物。
【請求項3】
前記オレフィン系樹脂がプロピレン系樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載の長繊維強化複合樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の長繊維強化複合樹脂組成物を成形してなることを特徴とする長繊維強化複合樹脂成形品。
【請求項5】
前記成形が射出成形であることを特徴とする請求項4に記載の長繊維強化複合樹脂成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2013−14687(P2013−14687A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148344(P2011−148344)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000157083)トヨタ自動車東日本株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】