説明

開放循環式冷却設備及び冷却水の水質改善方法

【課題】薬剤を使用せずに開放循環式冷却設備の冷却水の水質を改善する技術を提供する。
【解決手段】貯水槽を備えた開放式冷却塔と、熱交換器と、前記冷却塔と前記熱交換器との間に冷却水を循環させる配管とを有する冷却設備において、前記貯水槽に好気性微生物を担持した酸処理石炭から構成される生物学的処理材を備えてなる、開放循環式冷却設備。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開放循環式冷却設備及び該設備における冷却水の水質改善方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場や事業所で用いられる空調機、冷凍機や熱処理炉などの発熱する設備から循環して出てくる冷却水は、温められており、これを冷却する目的で、冷却塔が利用されている。その多くは開放型であり、冷却水と外気を直接接触させ、一部の水を蒸発させて気化熱を奪い、冷却水全体の温度を下げることを動作原理としている。
【0003】
冷却水が外気と触れるため、空中に漂う微生物の胞子や無機物の微粒子などを冷却水中に取り込んでしまう。これにより冷却水の配管や冷却塔内部に、微生物が繁茂したりスケールが固着したりする問題が発生する。
【0004】
この場合、熱交換の効率が悪くなったり、配管が詰まって冷却水が流れにくくなったりする。
【0005】
さらに、微生物の一種であるレジオネラ菌が繁茂する場合には、重篤な健康被害が発生する。
【0006】
このような問題を発生させないような水処理技術が求められている。
【0007】
これまでの技術では、殺菌剤を冷却塔に混入する、スケールを溶かすことができる化学薬品を散布するなどの方法が採られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−68961号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
薬剤を冷却水に作用させる場合、効果が長期間持続せず、薬品を冷却水に加え続ける必要があり、薬剤を混入した冷却水を廃棄するには産廃処理が必要になる問題を抱えていた。
【0010】
本発明は、薬剤を使用せずに開放循環式冷却設備の冷却水の水質を改善する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の開放循環式冷却設備及び該設備における冷却水の水質改善方法を提供するものである。
項1. 貯水槽を備えた開放式冷却塔と、熱交換器と、前記冷却塔と前記熱交換器との間に冷却水を循環させる配管とを有する冷却設備において、前記貯水槽に好気性微生物を担持した酸処理石炭から構成される生物学的処理材を備えてなる、開放循環式冷却設備。
項2. 前記生物学的処理材が、石炭を希塩酸で処理して酸処理石炭を得、次にリン酸マグネシウム溶液で処理し、乾燥後、微生物を担持して得られたものである、項1に記載の冷却設備。
項3. 前記微生物が、し尿中の未分解蛋白質,でん粉質などを分解する菌種、植物繊維質を分解するセルラ−ゼ酵素の多い菌種、空気中および水中の窒素を固定し肥料化を行う菌種、リグニンや石油,洗剤などを分解し堆肥化する菌種、および海洋性の好塩性酵母類より成る群から選択される、項1または2に記載の冷却設備。
項4. 前記微生物が、し尿中の未分解蛋白質,でん粉質などを分解する菌種、植物繊維質を分解するセルラ−ゼ酵素の多い菌種、空気中および水中の窒素を固定し肥料化を行う菌種、リグニンや石油,洗剤などを分解し堆肥化する菌種、および海洋性の好塩性酵母類を含む、項3に記載の冷却設備。
項5. 貯水槽を備えた開放式冷却塔と、熱交換器と、前記冷却塔と前記熱交換器との間に冷却水を循環させる循環配管とを有する冷却設備の前記貯水槽に、好気性微生物を担持した酸処理石炭から構成される生物学的処理材を設置する工程、前記配管内に冷却水を循環させる工程を有する、開放循環式冷却設備における冷却水の水質改善方法。
項6. 前記生物学的処理材が、石炭を希塩酸で処理して酸処理石炭を得、次にリン酸マグネシウム溶液で処理し、乾燥後、微生物を担持して得られたものである、項5に記載の水質改善方法。
項7. 前記微生物が、し尿中の未分解蛋白質,でん粉質などを分解する菌種、植物繊維質を分解するセルラ−ゼ酵素の多い菌種、空気中および水中の窒素を固定し肥料化を行う菌種、リグニンや石油,洗剤などを分解し堆肥化する菌種、および海洋性の好塩性酵母類より成る群から選択される、項5または6に記載の水質改善方法。
項8. 前記微生物が、し尿中の未分解蛋白質,でん粉質などを分解する菌種、植物繊維質を分解するセルラ−ゼ酵素の多い菌種、空気中および水中の窒素を固定し肥料化を行う菌種、リグニンや石油,洗剤などを分解し堆肥化する菌種、および海洋性の好塩性酵母類を含む、項7に記載の水質改善方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、貯水槽に好気性微生物を担持した酸処理石炭から構成される生物学的処理材を備えているので、循環水中の有機物を該処理材が消費し、微生物や藻類の繁殖を抑制できる。さらに、該処理材は循環水中のイオン状シリカ、カルシウム硬度を含む全硬度、硫酸イオン、塩化物イオンなどの濃度を低減させることができ、これにより循環配管などに付着したスケール中の無機物を徐々に循環水中に溶出させることができ、さらに水循環を続けることでスケールを剥離、除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の開放循環式冷却設備の概略系統図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0015】
図1は、冷却塔1、貯水槽2、生物学的処理材3、循環ポンプ4、熱交換器5、循環配管を備えた本発明の開放循環式冷却設備の概略系統図である。
【0016】
冷却塔1で冷却された水は、貯水槽2から配管及びポンプ4を介して熱交換器5に供給される。熱交換器5で熱交換することにより温度が上昇した温水は、配管を通って冷却塔1に戻される。そして、該冷却塔1の上部においてその一部が蒸発し、蒸発潜熱により冷却される。貯水槽2の水が少なくなった場合には、補給用配管(図示せず)から水が供給される。
【0017】
前記貯水槽2には、水質を改善して藻類や微生物の繁殖を抑制し、スケールを除去するための生物学的処理材3が備えられている。生物学的処理材3は、排水処理に適した好気性微生物を酸処理石炭に担持させることにより調製することができる。
【0018】
石炭としては、特に限定されないが、低品位石炭で十分である。石炭の酸処理により活性化され、表面に微細な穴を開けることができ、この穴に好気性微生物が担持される。溶存酸素量を上げるよう曝気して好気性微生物を活性化させるとバイオフィルムが酸処理石炭の表面に形成される。これにより安定な微生物による水処理が可能になる。好気性微生物としては、(1)し尿中の未分解蛋白質,でん粉質などを分解する菌種、(2)植物繊維質を分解するセルラ−ゼ酵素の多い菌種、(3)空気中および水中の窒素を固定し肥料化を行う菌種、(4)リグニンや石油,洗剤などを分解し堆肥化する菌種、および(5)海洋性の好塩性酵母類などが挙げられる。これらは、その適用対象によっては、単一種でもよいが、通常、2種以上の微生物が吸着,培養され、好ましくは、それらのすべてを同時に混合培養し、担持された処理材が好ましい。
【0019】
それら(1)〜(5)の菌種は、すべて公知の微生物である。(1)のし尿中の未分解蛋白質,でん粉質などを分解する菌種は、例えばアスペルギルス属(Aspergillus sp.),ムコ−ル属(Mucor sp.)およびバチルス ズブチルス(Bac. subtilus)に属する微生物類であり、(2)の植物繊維質を分解するセルラ−ゼ酵素を多く含む菌種としては、例えばトリコデルマ菌(Trichoderma sp.)が挙げられる。上記(3)の空気中および水中の窒素を固定し肥料化を行う菌種としては、例えばバチルス アステロスポオラス(Bac.asterosporus)およびクロストリイデウム パストリアヌム(Clostridium pastorianum)が挙げられる。
【0020】
さらに、上記(4)のリグニンや石油,洗剤などを分解し堆肥化する菌種としては、フザリウム属(Fusarium sp.)およびスフェロチリス ナタンス(Sphaerotilus natans)が挙げられ、(5)の海洋性の好塩性酵母類には、カンジダ ロドハロフィラ(Candida rhodohalophila)が包含される。
【0021】
本発明で使用する生物学的処理材は、酸処理され水洗,乾燥された石炭粉末または所定の形状の成形材に好気性微生物を吸着させ、適切な湿度と温度条件下に培養して増殖した多量の微生物を担持させることにより容易に製造することができる。このようにして調製された処理材は、通常、室温条件の冷暗所に保存され、必要に応じて選択使用される。
【0022】
石炭の酸処理は例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、過塩素酸などの無機酸を用いて好ましく実施される。このような酸処理としては、特に限定されないが、例えば6N塩酸などの希塩酸による処理が挙げられる。具体的には希塩酸を入れた容器に石炭を投入し、6時間室温で放置し、石炭を引き上げる。水洗して塩酸を落とした後、1Nのリン酸マグネシウム溶液に石炭を投入し、10分後に引き上げ、200℃の乾燥炉で1時間放置することで酸処理を行うことができる。このようにして酸処理された石炭に対し、微生物の担持を行い、本発明の生物学的処理材を得ることができる。
【0023】
微生物を担持した酸処理石炭は、ネットなどの水が出入りできる袋ないし容器に入れ、この袋ないし容器(例えばネット)を冷却塔の下の貯水槽に敷設するのが好ましい。その後は、通常の運転を行うと、酸処理石炭に担持された微生物が、まず、有機物を分解し、循環水中のBODやCOD、リンなどの値が低下する。それに伴い貯水槽などに溜まったヘドロなどが減少する。
【0024】
循環水中の有機物濃度が減少すると、微生物は、水中のシリカとカルシウムを取り込み、酸処理石炭の表面に沈着させる。その結果、冷却水は軟水化する。軟水化した水が冷却水として循環すると、冷却塔や循環配管、貯水槽の内部に付着していたスケールが溶け出す。これにより冷却塔、貯水槽もしくは循環配管内部のスケール、ヘドロが減少し、熱効率が向上する。
【0025】
生物学的処理材を貯水槽に配設した場合、その上を遮光シートで覆うことが好ましい。これは藻の発生を抑えるためである。
【0026】
生物学的処理材は、粉末状でもよいが、ネットなどの容器内で浮遊しないために粒状あるいは成形体であってもよい。粉末状、粒状ないし成形体の処理材の大きさは、特に限定されないが、例えば0.1mm〜10cm程度、好ましくは1mm〜8cm程度、より好ましくは5mm〜5cm程度、特に1cm〜3cm程度である。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。
実施例1
好気性微生物を担持した、1〜3cm程度の大きさの粒状の酸処理石炭(商品名:TECO炭、製造元:アルバックテクノ株式会社)をネットに合計44kg入れ、冷却塔の下の貯水槽に設置した。貯水槽は遮光して藻の発生を抑制した。酸処理石炭を収容したネットは、石炭を内部に保持でき、かつ、冷却水は自由に出入りできる程度の大きさの編み目を有していた、冷却水は、生物学的処理材(好気性微生物を担持した酸処理石炭)に接触しながら循環した。
【0028】
ネットに収容した好気性微生物を担持した酸処理石炭を貯水槽に設置し、1ヶ月後、2ヶ月後、6ヶ月後の循環水中のイオン状シリカ、カルシウム硬度、全硬度、硫酸イオン、塩化物イオンの濃度を測定した。また、循環水の電気伝導度を測定した。
【0029】
これらの測定法を以下に記載し、測定結果を以下の表1に示す。
(1)イオン状シリカの測定 − モリブデン青吸光光度法
(2)カルシウム硬度の測定法 − フタレインコンプレクソン法
(3)全硬度の測定法 − フタレインコンプレクソン法
(4)硫酸イオン濃度の測定法 − イオンクロマトグラフ法
(5)塩化物イオン濃度の測定法 − 塩化銀比濁法
(6)電気伝導度の測定法 − 交流2極法
【0030】
【表1】

【0031】
上記に示すように循環水中の無機物の量は本発明の生物学的処理材の設置後、大きく減少した。また、スケールは、各成分の循環水中の濃度の減少に伴い徐々に溶出して縮小し、これに伴いもろくなったスケールの一部が剥離した。また、BOD、CODなどの数値も大きく低下した。レジオネラ菌は生物学的処理材の設置前に陽性であったが、設置の4ヶ月後には陰性になったことを確認し、6ヶ月後には陰性を保っていた。
【0032】
生物学的処理材の設置前において、工場からの戻り水のの温度は35.4℃、冷却塔で冷やされた工場への送り水の温度は32.7℃であった。生物学的処理材の設置2ヶ月後には、送り水の温度が30.0℃まで低下し、冷却効率が向上した。これは藻の発生を抑制し、スケールが減少したことが理由と考えられた。
【0033】
本発明は、開放循環式冷却設備に生物学的処理材を設置することで、薬剤を使用することなくスケールの除去、藻・レジオネラ菌などの有害微生物の発生抑制などの効果があり、既存の開放循環式冷却設備に広く応用することが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 冷却塔
2 貯水槽
3 生物学的処理材
4 循環ポンプ
5 熱交換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯水槽を備えた開放式冷却塔と、熱交換器と、前記冷却塔と前記熱交換器との間に冷却水を循環させる配管とを有する冷却設備において、前記貯水槽に好気性微生物を担持した酸処理石炭から構成される生物学的処理材を備えてなる、開放循環式冷却設備。
【請求項2】
前記生物学的処理材が、石炭を希塩酸で処理して酸処理石炭を得、次にリン酸マグネシウム溶液で処理し、乾燥後、微生物を担持して得られたものである、請求項1に記載の冷却設備。
【請求項3】
前記微生物が、し尿中の未分解蛋白質,でん粉質などを分解する菌種、植物繊維質を分解するセルラ−ゼ酵素の多い菌種、空気中および水中の窒素を固定し肥料化を行う菌種、リグニンや石油,洗剤などを分解し堆肥化する菌種、および海洋性の好塩性酵母類より成る群から選択される、請求項1または2に記載の冷却設備。
【請求項4】
前記微生物が、し尿中の未分解蛋白質,でん粉質などを分解する菌種、植物繊維質を分解するセルラ−ゼ酵素の多い菌種、空気中および水中の窒素を固定し肥料化を行う菌種、リグニンや石油,洗剤などを分解し堆肥化する菌種、および海洋性の好塩性酵母類を含む、請求項3に記載の冷却設備。
【請求項5】
貯水槽を備えた開放式冷却塔と、熱交換器と、前記冷却塔と前記熱交換器との間に冷却水を循環させる循環配管とを有する冷却設備の前記貯水槽に、好気性微生物を担持した酸処理石炭から構成される生物学的処理材を設置する工程、前記配管内に冷却水を循環させる工程を有する、開放循環式冷却設備における冷却水の水質改善方法。
【請求項6】
前記生物学的処理材が、石炭を希塩酸で処理して酸処理石炭を得、次にリン酸マグネシウム溶液で処理し、乾燥後、微生物を担持して得られたものである、請求項5に記載の水質改善方法。
【請求項7】
前記微生物が、し尿中の未分解蛋白質,でん粉質などを分解する菌種、植物繊維質を分解するセルラ−ゼ酵素の多い菌種、空気中および水中の窒素を固定し肥料化を行う菌種、リグニンや石油,洗剤などを分解し堆肥化する菌種、および海洋性の好塩性酵母類より成る群から選択される、請求項5または6に記載の水質改善方法。
【請求項8】
前記微生物が、し尿中の未分解蛋白質,でん粉質などを分解する菌種、植物繊維質を分解するセルラ−ゼ酵素の多い菌種、空気中および水中の窒素を固定し肥料化を行う菌種、リグニンや石油,洗剤などを分解し堆肥化する菌種、および海洋性の好塩性酵母類を含む、請求項7に記載の水質改善方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−236153(P2012−236153A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107061(P2011−107061)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(598006336)アルバックテクノ株式会社 (10)
【出願人】(304012415)株式会社ピートラップ (3)
【Fターム(参考)】