説明

関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測方法、及び薬効予測装置

【課題】関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の有効性を、確実性が高く、かつ、簡便に予測すること、及び前記薬を投与した後における関節リウマチの活動性を予測することができ、また、前記薬がより確実に効く症例に薬を投与することで無駄な副作用を回避することができる関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測方法、及び薬効予測装置の提供。
【解決手段】本発明の関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測方法は、被検体由来の試料中のADAMTS4の含有量を測定する工程と、
前記ADAMTS4の含有量を指標として、関節リウマチに対して可溶性TNFα/LTαレセプター薬が有効か否かを評価する工程と、
を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体由来の試料中のADAMTS4の含有量を指標とした、関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測方法、及び薬効予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、関節リウマチ寛解目的にTNFα(tumor necrosis factor α)を標的にした生物学的製剤が使用されるようになり、その有効性が認められるようになってきた。エタネルセプト(Eternercept(ETN))は、ヒトIgGのFc部分とII型TNF受容体との融合タンパク質から成る生物学的製剤である。前記TNFは、α型、及びβ型の2つの型が存在し、エタネルセプトは、前記TNFα、及びTNFβ(LTα)の両方を標的とする。エタネルセプトは、関節リウマチの活動性を抑えることがDAS(Disease activity score)28と呼ばれる臨床的指標を用いて既に知られており、更に、関節リウマチに伴う骨破壊も抑制することが報告されている。
【0003】
しかし、このように顕著な有効性を持ち合わせているにもかかわらず、エタネルセプト無効の関節リウマチ症例も存在する。更に、エタネルセプトにはニューモシスティス肺炎や、肺結核などの感染症を惹起しやすい副作用もあるため、投与前にエタネルセプトの有効性を予測することで、より確実に効く症例にエタネルセプトを投与することができ、無駄な副作用を回避することもできうる。
【0004】
エタネルセプトのような生物学的製剤の有効性予測因子を同定する試みはこれまでにも報告が認められる(非特許文献1参照)。それらは、エタネルセプト有効例と無効例との間で比較した後ろ向き試験により、有効例と関連する遺伝子発現をアルゴリズムで解析したものが多く、前向き試験などで確認し得た確実なエタネルセプト有効性予測因子は、まだ同定されていない。
【0005】
ADAMTS(a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs)4は、ADAMTSファミリーに属する軟骨破壊に関与するアグリカナーゼであることが知られている。
しかしながら、ADAMTS4の含有量と、関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の有効性との相関については知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Koczan D, et al., Arthritis Res Ther 2008; 10(3): R50
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の有効性を、確実性が高く、かつ、簡便に予測すること、及び前記薬を投与した後における関節リウマチの活動性を予測することができ、また、前記薬がより確実に効く症例に薬を投与することで無駄な副作用を回避することができる関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測方法、及び薬効予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。即ち、エタネルセプト投与前の関節リウマチ患者の末梢血中のADAMTS4の含有量が少ないほど、エタネルセプトが有効であるという知見である。エタネルセプト投与前の血中のADAMTS4の含有量によって、エタネルセプトの有効性を予測できないかを前向き試験により行った報告は従来には無く、前記知見は、本発明者らによる新たな知見である。
なお、後ろ向き試験とは、過去と現在のデータを扱う試験であり、前向き試験とは、これから生じる現象を観察する試験である。後ろ向き試験では既に判明している事項を扱うので研究者によるバイアスが入りやすいのに対して、前向き試験では結果がわかっていないために、バイアスがかかりにくく、より信頼のおける結果が得られる点で優れている。
【0009】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 被検体由来の試料中のADAMTS4の含有量を測定する工程と、
前記ADAMTS4の含有量を指標として、関節リウマチに対して可溶性TNFα/LTαレセプター薬が有効か否かを評価する工程と、
を含むことを特徴とする関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測方法である。
<2> 可溶性TNFα/LTαレセプター薬が、エタネルセプト(Eternercept(ETN))である前記<1>に記載の関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測方法である。
<3> 被検体由来の試料中のADAMTS4の含有量が、ADAMTS4のmRNAの発現量である前記<1>から<2>のいずれかに記載の関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測方法である。
<4> ADAMTS4のmRNAの発現量をリアルタイムPCR法で測定する前記<3>に記載の関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測方法である。
<5> 被検体由来の試料中のADAMTS4の含有量を測定する手段と、
前記ADAMTS4の含有量を指標として、関節リウマチに対して可溶性TNFα/LTαレセプター薬が有効か否かを評価する手段と、
を含むことを特徴とする関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測装置である。
<6> 可溶性TNFα/LTαレセプター薬が、エタネルセプト(Eternercept(ETN))である前記<5>に記載の関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測装置である。
<7> 被検体由来の試料中のADAMTS4の含有量が、ADAMTS4のmRNAの発現量である前記<5>から<6>のいずれかに記載の関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測装置である。
<8> ADAMTS4のmRNAの発現量をリアルタイムPCR法で測定する前記<7>に記載の関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の有効性を、確実性が高く、かつ、簡便に予測すること、及び前記薬を投与した後における関節リウマチの活動性を予測することができ、また、前記薬がより確実に効く症例に薬を投与することで無駄な副作用を回避することができる関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測方法、及び薬効予測装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、エタネルセプト投与前のADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が、0.4×1/25より小さい低値群、及び0.4×1/25以上である高値群における、エタネルセプト投与20週後のDAS28(20w)の値を示すグラフである。
【図2】図2は、エタネルセプト投与前のADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)と、エタネルセプト投与20週後のDAS28の変化率(ΔDAS28(20w))との相関を示すグラフである。
【図3】図3は、エタネルセプト投与前のADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が、0.6×1/25より小さい低値群、及び0.6×1/25以上である高値群における、エタネルセプト投与20週後のDAS28(20w)の値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測方法、及び薬効予測装置)
本発明の関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測方法は、被検体由来の試料中のADAMTS4の含有量を測定する工程(測定工程)と、前記ADAMTS4の含有量を指標として、関節リウマチに対して可溶性TNFα/LTαレセプター薬が有効か否かを評価する工程(評価工程)とを少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含んでいる。
本発明の関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測装置は、被検体由来の試料中のADAMTS4の含有量を測定する手段(測定手段)と、前記ADAMTS4の含有量を指標として、関節リウマチに対して可溶性TNFα/LTαレセプター薬が有効か否かを評価する手段(評価手段)とを少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の手段を含んでいる。
【0013】
<測定工程、及び測定手段>
前記測定工程は、被検体由来の試料中のADAMTS4の含有量を測定する工程である。
前記測定手段は、被検体由来の試料中のADAMTS4の含有量を測定する手段である。
【0014】
−被検体由来の試料−
前記被検体由来の試料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、末梢血、関節滑膜、関節液などが挙げられる。中でも、末梢血が、採取が簡便である点で、好ましい。
前記被検体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、ヒトなどが挙げられる。
【0015】
−ADAMTS4−
前記ADAMTS(a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs)4は、ADAMTSファミリーに属する軟骨破壊に関与するアグリカナーゼであることが知られている。
前記ADAMTS4遺伝子の塩基配列は、例えば、ヒトにおいて公知であり、その塩基配列はGenBank(NCBI)などの公共データベースを通じて容易に入手することができる。例えば、ヒトADAMTS4遺伝子の塩基配列は、NCBI accession number NM_005099で入手可能である。
【0016】
−含有量の測定−
前記被検体由来の試料中のADAMTS4の含有量の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、mRNAの発現量を測定する方法、タンパク質の発現量を測定する方法などが挙げられる。
【0017】
前記mRNAの発現量を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、PCR法、リアルタイムPCR法、DNAアレイ法、ノーザンブロット法などが挙げられる。
前記mRNAの発現量を測定する装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、PCR装置、リアルタイムPCR装置、DNAアレイ装置、ノーザンブロット装置などが挙げられる。前記装置は、前記測定手段として好適に使用することができる。
【0018】
前記リアルタイムPCR法の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、検量線を作成し、その検量線からサンプルの定量を行う方法(検量線法)が挙げられる。
前記検量線法に用いる鋳型DNAコントロールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、健常人から採取・精製した全cDNAや、ADAMTS4 cDNAを組み込んだプラスミドなどが挙げられる。
前記リアルタイムPCR法に用いるプライマーとしては、ADAMTS4を増幅することができるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記リアルタイムPCR法における内在性コントロールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、β−アクチン、GAPDH(glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase)などが挙げられる。
【0019】
<評価工程、及び評価手段>
前記評価工程は、前記ADAMTS4の含有量を指標として、関節リウマチに対して可溶性TNFα/LTαレセプター薬が有効か否かを評価する工程である。
前記評価手段は、前記ADAMTS4の含有量を指標として、関節リウマチに対して可溶性TNFα/LTαレセプター薬が有効か否かを評価する手段である。
【0020】
−可溶性TNFα/LTαレセプター薬−
前記可溶性TNFα(tumor necrosis factor α)/LTα(Lymphotoxin α)レセプター薬としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、完全ヒト型可溶性TNFα/LTαレセプター薬であるエタネルセプト(Eternercept(ETN))が好適に挙げられる。
【0021】
−指標−
前記指標としては、ADAMTS4の含有量を使用する。
【0022】
−評価−
前記関節リウマチに対して可溶性TNFα/LTαレセプター薬が有効か否かを評価する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ADAMTS4の含有量が、関節リウマチ患者の中で低い場合には、関節リウマチに対して可溶性TNFα/LTαレセプター薬が有効であると評価することができる。
具体例としては、前記指標として、ADAMTS4を用いた場合(詳細は、後述する実施例1参照)、ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が、0.4×1/25より小さい場合に、関節リウマチに対して可溶性TNFα/LTαレセプター薬が有効であると評価することができる。
前記評価を行う装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電子計算機(コンピュータ)などが挙げられる。前記装置は、前記評価手段として好適に使用することができる。
【0023】
また、前記評価においては、可溶性TNFα/LTαレセプター薬投与後のDAS28を予測することも可能である。
前記DAS28とは、Disease Activity Scoreの略で、関節リウマチの疾患活動性をスコア化しようということでヨーロッパリウマチ学会(EULAR)が定めたものであり、Fransen J, et al., Clin Exp Rheumatol 2005; 23(Suppl.39): S93−S99に記載されている。
前記可溶性TNFα/LTαレセプター薬投与後のDAS28を予測する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、関節リウマチ患者の末梢血中のADAMTS4 mRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)を、後述する実施例1で示すグラフ(図2参照)に当てはめ、DAS28が、可溶性TNFα/LTαレセプター薬投与前から低下する割合を算出し、可溶性TNFα/LTαレセプター薬投与後のDAS28を予測することができる。
【0024】
<その他の工程、及びその他の手段>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ADAMTS4と、他の遺伝子とを組み合わせて評価する工程などが挙げられる。
前記その他の手段としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ADAMTS4と、他の遺伝子と組み合わせて評価する手段などが挙げられる。
【0025】
−他の遺伝子−
前記他の遺伝子としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ADAMTS4以外のアグリカナーゼをコードする遺伝子、関節リウマチに特異的に発現する遺伝子などが挙げられる。
【実施例】
【0026】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0027】
(実施例1:ADAMTS4の含有量を指標とした、関節リウマチに対するエタネルセプトの有効性予測)
平成19年10月から平成20年4月までに埼玉医科大学総合医療センター・リウマチ膠原病内科外来を受診した関節リウマチ患者のうち、エタネルセプトを投与された患者15例を対象とした。
【0028】
<測定工程>
末梢血中のADAMTS4のmRNAの発現量の測定
エタネルセプト投与前の関節リウマチ患者の末梢血2.5mLを採取し、PAXgene RNA採血管(登録商標、日本ベクトン・ディッキンソン社製)に刺入後、PAXgene Blood RNA Kit(登録商標、PreAnalytiX社製)を用いて全RNAを抽出した。前記全RNAを、逆転写酵素を用いて全cDNAに変換した。前記全cDNAを鋳型DNAとして、Taqman (登録商標) Gene Expression Assay (Applied Biosystems社製)を用いて、ADAMTS4のmRNAの発現量をリアルタイムPCR法で測定した。なお、プライマー、及びプローブは、プライマー・プローブセット(TaqMan Gene (登録商標) Expression Assay (Hs00192708_m1, Applied Biosystems社製)を使用した。
上記により得られたADAMTS4のmRNAの含有量は、β−actin(内在性コントロール)のmRNAとの相対量で定量化を行った。
なお、β−actinのプライマー、及びプローブは、プライマー・プローブセット(Pre−Developed TaqMan (登録商標) Assay Reagents(Human ACTB, NM_001101, Applied Biosystems社製)を使用した。
【0029】
<評価工程>
関節リウマチ患者の関節リウマチ活動性は、エタネルセプト投与前、及び投与20週後のDAS28[DAS28(0w)、DAS28(20w)]で評価した。
エタネルセプトが有効か否かは、DAS28(20w)を用いたEULAR改善基準によって、反応性良好(good response)、中等度反応(moderate response)、反応なし(no response)とした。
なお、EULAR改善基準とは、ヨーロッパリウマチ学会(EULAR)が定めたものであり、Fransen J, et al., Clin Exp Rheumatol 2005; 23(Suppl.39): S93−S99に記載されている。
【0030】
投与20週後におけるEULAR改善基準に基づくエタネルセプトの有効性は、反応性良好が6例、中等度反応が6例、反応なしが3例であった。また、寛解例(DAS28(20w)<2.6)は、5例であった。
【0031】
−低値群と高値群との比較−
上記エタネルセプト投与関節リウマチ患者15例につき、健常人より抽出の全cDNAを鋳型DNAコントロールとして用いた検量線法によるリアルタイムPCR法で、エタネルセプト投与前のADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)を定量した。前記ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が0.4×1/25より小さい場合を低値群(Low)、0.4×1/25以上の場合を高値群(High) として群分けし、DAS28(20w)を比較した結果、低値群では、DAS28(20w)が有意に低かった(図1参照)。
【0032】
−−R群とNR群との比較−−
前記低値群(Low)、及び前記高値群(High)について、更にR群(中等度反応+反応性良好)と、NR群(反応なし)とした場合の分類を表1に示す。
【表1】

【0033】
表1の分類をもとに、感度、特異度、陽性予測率、及び陰性予測率を以下の式で算出した。結果を表2に示す。
感度(Sensitivity)(%)=A/(A+C)×100
特異度(Specificity)(%)=D/(D+B)×100
陽性予測率(PPV)(%)=A/(B+A)×100
陰性予測率(NPV)(%)=D/(D+C)×100
なお、上記式中A〜Dは、以下のとおりである。
A:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が低値群であり、R群に分類された症例
B:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が低値群であり、NR群に分類された症例
C:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が高値群であり、R群に分類された症例
D:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が高値群であり、NR群に分類された症例
【0034】
【表2】

表2の結果から、エタネルセプト投与前のADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が低値群の場合に、R群となることを予測する陽性予測率(PPV)は、100%と高く、エタネルセプト投与前のADAMTS4の含有量を指標として、関節リウマチに対するエタネルセプトの薬効を予測することができることが示された。
【0035】
−−GR群とNGR群との比較−−
前記低値群(Low)、及び前記高値群(High)について、更にGR群(反応性良好)と、NGR群(反応なし+中等度反応)とした場合の分類を表3に示す。
【表3】

【0036】
表3の分類をもとに、感度、特異度、陽性予測率、及び陰性予測率を以下の式で算出した。結果を表4に示す。
感度(Sensitivity)(%)=E/(E+G)×100
特異度(Specificity)(%)=H/(H+F)×100
陽性予測率(PPV)(%)=E/(F+E)×100
陰性予測率(NPV)(%)=H/(H+G)×100
なお、上記式中E〜Hは、以下のとおりである。
E:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が低値群であり、GR群に分類された症例
F:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が低値群であり、NGR群に分類された症例
G:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が高値群であり、GR群に分類された症例
H:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が高値群であり、NGR群に分類された症例
【0037】
【表4】

表4の結果から、エタネルセプト投与前のADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が低値群の場合に、GR群となることを予測する陽性予測率(PPV)は、100%と高く、エタネルセプト投与前のADAMTS4の含有量を指標として、関節リウマチに対するエタネルセプトの薬効を予測することができることが示された。
【0038】
−−Re群とNre群との比較−−
前記低値群(Low)、及び前記高値群(High)について、更にRe(remission:寛解)群と、Nre(non−remission:非寛解)群とした場合の分類を表5に示す。
【表5】

【0039】
表5の分類をもとに、感度、特異度、陽性予測率、及び陰性予測率を以下の式で算出した。結果を表6に示す。
感度(Sensitivity)(%)=I/(I+K)×100
特異度(Specificity)(%)=L/(L+J)×100
陽性予測率(PPV)(%)=I/(J+I)×100
陰性予測率(NPV)(%)=L/(L+K)×100
なお、上記式中I〜Lは、以下のとおりである。
I:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が低値群であり、Re群に分類された症例
J:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が低値群であり、Nre群に分類された症例
K:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が高値群であり、Re群に分類された症例
L:ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が高値群であり、Nre群に分類された症例
【0040】
【表6】

【0041】
表6の結果から、エタネルセプト投与前のADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が低値群の場合に、寛解(Re群となる)を予測する陽性予測率(PPV)は、100%と高かった。また、エタネルセプト投与前のADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)が高値群の場合に、寛解を否定する陰性予測率(NPV)も83.3%と高かった。そのため、エタネルセプト投与前のADAMTS4の含有量を指標として、寛解をも予測することができることが示された。
【0042】
−エタネルセプト投与後のDAS28の予測−
エタネルセプト投与前の末梢血中のADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)と、エタネルセプト投与前のDAS28(0w)と比較したエタネルセプト投与20週後のDAS28(20w)の変化率(ΔDAS28(20w))との相関を検討した結果を図2に示す。
図2に示されるように、エタネルセプト投与前のADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)と、エタネルセプト投与前のDAS28(0w)と比較したエタネルセプト投与20週後のDAS28(20w)の変化率(ΔDAS28(20w))との間に負の相関(r=−0.486)が認められた。
このことは即ち、被検体由来の試料中のエタネルセプト投与前のADAMTS4の含有量が少ないほど、関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬が有効であること、及び被検体由来の試料中のエタネルセプト投与前のADAMTS4の含有量によって、可溶性TNFα/LTαレセプター薬投与後におけるDAS28を予測できることを示している。
【0043】
(参考実験1:ADAMTS5の含有量を指標とした、関節リウマチに対するエタネルセプトの有効性予測)
ADAMTS(a disintegrin and metalloproteinase with thrombospondin motifs)5は、前記実施例1に記載のADAMTS4と同様に、ADAMTSファミリーに属する軟骨破壊に関与するアグリカナーゼであることが知られている。
前記ADAMTS5遺伝子の塩基配列は、ヒトにおいて公知であり、その塩基配列は、NCBI accession number NM_007038で入手可能ある。
参考実験1の対象としては、前記実施例1と同様の患者15例を対象とした。
【0044】
<測定工程>
末梢血中のADAMTS5のmRNAの発現量の測定
ADAMTS5のmRNAの調製方法、測定方法、及び定量方法は、リアルタイムPCR法に用いたプライマー・プローブセットを、ADAMTS5のプライマー・プローブセット(TaqMan Gene (登録商標) Expression Assay (Hs00199841_m1, Applied Biosystems社製))に変えた以外は、前記実施例1と同様である。
【0045】
<評価工程>
関節リウマチ患者の関節リウマチ活動性は、エタネルセプト投与前、及び投与20週後のDAS28[DAS28(0w)、DAS28(20w)]で評価した。
エタネルセプトが有効か否かは、DAS28(20w)を用いたEULAR改善基準によって、反応性良好(good response)、中等度反応(moderate response)、反応なし(no response)とした。
【0046】
投与20週後におけるEULAR改善基準に基づくエタネルセプトの有効性は、反応性良好が6例、中等度反応が6例、反応なしが3例であった。また、寛解例(DAS28(20w)<2.6)は、5例であった。
【0047】
−低値群と高値群との比較−
上記エタネルセプト投与関節リウマチ患者15例につき、健常人より抽出の全cDNAを鋳型DNAコントロールとして用いた検量線法によるリアルタイムPCR法で、エタネルセプト投与前のADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)を定量した。前記ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が0.6×1/25より小さい場合を低値群(Low)、0.6×1/25以上の場合を高値群(High) として群分けし、DAS28(20w)を比較した結果、低値群と高値群とでは、DAS28(20w)に差は認められなかった(図3参照)。
【0048】
−−R群とNR群との比較−−
前記低値群(Low)、及び前記高値群(High)について、更にR群(中等度反応+反応性良好)と、NR群(反応なし)とした場合の分類を表7に示す。
【表7】

【0049】
表7の分類をもとに、感度、特異度、陽性予測率、及び陰性予測率を以下の式で算出した。結果を表8に示す。
感度(Sensitivity)(%)=M/(M+O)×100
特異度(Specificity)(%)=P/(P+N)×100
陽性予測率(PPV)(%)=M/(N+M)×100
陰性予測率(NPV)(%)=P/(P+O)×100
なお、上記式中M〜Pは、以下のとおりである。
M:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が低値群であり、R群に分類された症例
N:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が低値群であり、NR群に分類された症例
O:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が高値群であり、R群に分類された症例
P:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が高値群であり、NR群に分類された症例
【0050】
【表8】

表8の結果から、エタネルセプト投与前のADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が低値群の場合に、R群となることを予測する陽性予測率(PPV)は、77.8%と低く、エタネルセプト投与前のADAMTS5の含有量を指標として、関節リウマチに対するエタネルセプトの薬効を予測することは適切ではないことが示された。
【0051】
−−GR群とNGR群との比較−−
前記低値群(Low)、及び前記高値群(High)について、更にGR群(反応性良好)と、NGR群(反応なし+中等度反応)とした場合の分類を表9に示す。
【表9】

【0052】
表9の分類をもとに、感度、特異度、陽性予測率、及び陰性予測率を以下の式で算出した。結果を表10に示す。
感度(Sensitivity)(%)=Q/(Q+S)×100
特異度(Specificity)(%)=T/(T+R)×100
陽性予測率(PPV)(%)=Q/(R+Q)×100
陰性予測率(NPV)(%)=T/(T+S)×100
なお、上記式中Q〜Tは、以下のとおりである。
Q:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が低値群であり、GR群に分類された症例
R:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が低値群であり、NGR群に分類された症例
S:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が高値群であり、GR群に分類された症例
T:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が高値群であり、NGR群に分類された症例
【0053】
【表10】

【0054】
表10の結果から、エタネルセプト投与前のADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が低値群の場合に、GR群となることを予測する陽性予測率(PPV)は、33.3%と低く、エタネルセプト投与前のADAMTS5の含有量を指標として、関節リウマチに対するエタネルセプトの薬効を予測することは適切ではないことが示された。
【0055】
−−Re群とNre群との比較−−
前記低値群(Low)、及び前記高値群(High)について、更にRe(remission:寛解)群と、Nre(non−remission:非寛解)群とした場合の分類を表11に示す。
【表11】

【0056】
表11の分類をもとに、感度、特異度、陽性予測率、及び陰性予測率を以下の式で算出した。結果を表12に示す。
感度(Sensitivity)(%)=U/(U+W)×100
特異度(Specificity)(%)=X/(X+V)×100
陽性予測率(PPV)(%)=U/(V+U)×100
陰性予測率(NPV)(%)=X/(X+W)×100
なお、上記式中U〜Xは、以下のとおりである。
U:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が低値群であり、Re群に分類された症例
V:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が低値群であり、Nre群に分類された症例
W:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が高値群であり、Re群に分類された症例
X:ADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が高値群であり、Nre群に分類された症例
【0057】
【表12】

表12の結果から、エタネルセプト投与前のADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が低値群の場合に、寛解(Re群となる)を予測する陽性予測率(PPV)は、22.2%と低かった。また、エタネルセプト投与前のADAMTS5のmRNAの発現量(ADAMTS5/β−アクチン)が高値群の場合に、寛解を否定する陰性予測率(NPV)も50.0%と低かった。そのため、エタネルセプト投与前のADAMTS5の含有量を指標として、寛解を予測することは適切ではないことが示された。
【0058】
(比較例1:既報告との比較)
エタネルセプトの有効性について、マイクロアレイ法とクラスター分析とを用いて予測したKoczanらの報告(Koczan D, et al., Arthritis Res Ther 2008; 10(3): R50)と、本発明とを比較した(表13参照)。
前記報告は、エタネルセプト投与前と、エタネルセプト投与3ヶ月後との2ポイントにおけるDAS28を、マイクロアレイとアルゴリズムとを用いて解析する後ろ向き試験であり、その減少量(ΔDAS)が1.2未満を有効と定義した場合の陽性予測率(PPV)は、89%(7転写物)、95%(10転写物)であった。
一方、上述した実施例1は、エタネルセプト投与前のワンポイントにおけるDAS28を解析する前向き試験であり、前記Koczanらの報告と同じ定義で陽性予測率を算出すると、100%と高かった。更に、DAS28が2.6未満を寛解と定義した場合の陽性予測率(PPV)は100%、陰性予測率(NPV)は83.3%と高かった。
上述した実施例1は、エタネルセプト投与前の血中ADAMTS4のmRNAの発現量(ADAMTS4/β−アクチン)によって、エタネルセプト投与20週後におけるエタネルセプトの有効性、及び寛解を定量化して推測できる点で優れている。
【表13】

【0059】
前記実施例1の結果から、ADAMTS4の含有量を指標として、関節リウマチに対するエタネルセプトの薬効を予測することができるだけでなく、エタネルセプト投与による寛解をも予測可能であることが示された。
また、前記参考実験1の結果から、同じADAMTSファミリーに属する遺伝子であるADAMTS5の含有量を指標としては、エタネルセプトの薬効、及び寛解を予測することができないことが示された。
前記実施例1、前記参考実験1、及び前記比較例1の結果から、本発明の薬効予測方法は、エタネルセプト投与前のワンポイントにおけるADAMTS4という単一遺伝子のみであってもエタネルセプト投与による寛解を含めた有効性を予測できる点で他の方法よりも優れている。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測方法は、前記薬投与前のワンポイントにおけるADAMTS4の含有量によって、確実性が高く、かつ、簡便に予測すること、及び前記薬を投与した後における関節リウマチの活動性を予測することができ、また、前記薬がより確実に効く症例に薬を投与することで無駄な副作用を回避することができるので、医学的診断、及び治療の分野において、好適に利用できる。
本発明の関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測装置は、前記薬投与前のワンポイントにおけるADAMTS4の含有量によって、確実性が高く、かつ、簡便に予測すること、及び前記薬を投与した後における関節リウマチの活動性を予測することができ、また、前記薬がより確実に効く症例に薬を投与することで無駄な副作用を回避することができるので、医学的診断、及び治療の分野において、好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体由来の試料中のADAMTS4の含有量を測定する工程と、
前記ADAMTS4の含有量を指標として、関節リウマチに対して可溶性TNFα/LTαレセプター薬が有効か否かを評価する工程と、
を含むことを特徴とする関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測方法。
【請求項2】
可溶性TNFα/LTαレセプター薬が、エタネルセプト(Eternercept(ETN))である請求項1に記載の関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測方法。
【請求項3】
被検体由来の試料中のADAMTS4の含有量が、ADAMTS4のmRNAの発現量である請求項1から2のいずれかに記載の関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測方法。
【請求項4】
ADAMTS4のmRNAの発現量をリアルタイムPCR法で測定する請求項3に記載の関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測方法。
【請求項5】
被検体由来の試料中のADAMTS4の含有量を測定する手段と、
前記ADAMTS4の含有量を指標として、関節リウマチに対して可溶性TNFα/LTαレセプター薬が有効か否かを評価する手段と、
を含むことを特徴とする関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測装置。
【請求項6】
可溶性TNFα/LTαレセプター薬が、エタネルセプト(Eternercept(ETN))である請求項5に記載の関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測装置。
【請求項7】
被検体由来の試料中のADAMTS4の含有量が、ADAMTS4のmRNAの発現量である請求項5から6のいずれかに記載の関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測装置。
【請求項8】
ADAMTS4のmRNAの発現量をリアルタイムPCR法で測定する請求項7に記載の関節リウマチに対する可溶性TNFα/LTαレセプター薬の薬効予測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−172307(P2010−172307A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20915(P2009−20915)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(504013775)学校法人 埼玉医科大学 (39)
【Fターム(参考)】