説明

関節リウマチの存在の評価方法およびその方法に用いられるバイオマーカーセット

【課題】新規バイオマーカーセットを用いる、関節リウマチの存在の評価方法を提供する。
【解決手段】被験者から得た生体試料における、SLC16A4である第1バイオマーカーの発現量に関する情報と、SLCO2B1、PTPRM、SHBおよびATP9Aからなる群より選択される少なくとも1つの第2バイオマーカーの発現量に関する情報を取得する工程と、取得した前記第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報に基づいて、前記被験者における関節リウマチの存在を評価する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節リウマチの存在の評価方法およびその方法に用いられるバイオマーカーセットに関する。
【背景技術】
【0002】
慢性関節リウマチ(rheumatoid arthritis:以下、「RA」という)は、関節炎を主な臨床症状とする全身性の炎症性自己免疫疾患である。RAでは、関節痛のみならず、軟骨および骨の破壊も引き起こされる。これに伴って関節構造が変化して、関節の可動域が制限されるので、RA患者の生活の質(Quality of Life)は著しく低下する。また、RA患者の生命予後は、健常人に比べて約10年短いとの報告もなされている。
【0003】
RAにおける関節破壊は、発症後2年以内に急速に進行することが知られている。他方、この時期は、抗リウマチ薬による治療感受性が高いので、寛解導入のために治療を最も必要とする時期(治療機会の窓:window of opportunity)とされている。したがって、RAの診療においては、早期の正確な診断と積極的治療の速やかな実行が重要である。
【0004】
従来、RAは、関節痛などの自覚症状、関節の腫脹の程度、骨X線所見などに基づく身体所見により診断されていた。しかしながら、このような身体所見による方法では、診察する医師の経験と技量によって診断結果にばらつきが生じる。また、診断に長い時間を要するという課題がある。
より客観的な方法としては、リウマトイド因子(rheumatoid factor:以下、「RF」という)および抗環状シトルリン化ペプチド抗体(anti-cyclic citrullinated peptide antibody:以下、「抗CCP抗体」という)などの自己抗体についての血清学的検査に基づく方法が挙げられる。これらの検査所見は、米国リウマチ学会(American College of Rheumatology:ACR)および欧州リウマチ学会(European League Against Rheumatism:EULAR)により提唱されたACR/EULAR診断基準にも用いられている。
【0005】
RFはIgGに対する自己抗体であり、RA患者においては約80%で陽性を示す。しかし、RFはRA患者の約20%で陰性を示し、健常人でも陽性を示す場合があるので、RF単独では健常人とRA患者とを高精度に区別することはできない。
抗CCP抗体は、環状シトルリン化ペプチドを抗原として用いて測定される自己抗体であり、RAに対する感度および特異度がRFよりも高いとされている。したがって、抗CCP抗体は、RAの早期診断および予後予測因子として注目され、国内外でRAの診断に利用されている。
しかしながら、臨床上有用とされている抗CCP抗体を検査した場合でも、その検査方法や用いた抗原の種類によって感度にばらつきが生じることが報告されている(非特許文献1)。感度が40〜60%であった事例も多くあり、抗CCP抗体の検査も十分に精度が高いとはいえない。
【0006】
そこで、自己抗体以外のバイオマーカーの発現に基づいて、RAを含む自己免疫疾患を検出する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、自己免疫疾患を検出するためのバイオマーカーとして、全身性エリテマトーデス(SLE)患者において最も低発現の遺伝子であるSLC16A4(solute carrier family 16, member 4)を含む35遺伝子が開示されている。特許文献2には、関節リウマチにおいて高発現する遺伝子として、SLCO2B1(solute carrier organic anion transporter family, member 2B1)を含む約70遺伝子が開示されている。特許文献3には、SLE、血清反応陰性関節炎(SA)、骨関節炎(OA)、RAなどの関節炎疾患の間で発現に差が認められた遺伝子として、PTPRM(protein tyrosine phosphatase, receptor type, M)を含む2059遺伝子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2006−503587号公報
【特許文献2】US2007/0292881公報
【特許文献2】US2010/0273671公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】三森経世, "Other autoantibodies in rheumatoid arthritis (anti-citrullinated proteins and anti-calpastatin antibodies)", Nippon Rinsho, Vol.66, Suppl 5, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のとおり、RAの診療においては、治療機会の窓(window of opportunity)を逃さないようにRAを正確に診断することが求められる。そのため、より高精度なRAの診断に有用な新規バイオマーカーセットや、そのようなマーカーセットを用いたRAの評価方法のさらなる開発が望まれている。
そこで、本発明は、RA患者と健常者とを高精度に区別できる新規バイオマーカーセットを見出し、その新規マーカーセットを用いて関節リウマチの存在を評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、RAを含む自己免疫疾患の原因であると考えられているIL-17産生ヘルパーT(Th17)細胞に着目し、健常な成人の末梢血から分取したTh17細胞において特異的に発現する遺伝子をこれまでに同定している(国際出願PCT/JP2010/062807)。今回、本発明者らは、それらの遺伝子の中からRA患者に高発現している9遺伝子を抽出し、健常人とRA患者とを高精度に区別可能な遺伝子の組み合わせを見出して、本発明を完成した。
【0011】
よって、本発明は、被験者から得た生体試料における、SLC16A4である第1バイオマーカーの発現量に関する情報と、SLCO2B1、PTPRM、SHB(Src homology 2 domain containing adaptor protein B)およびATP9A(ATPase, class II, type 9A)からなる群より選択される少なくとも1つの第2バイオマーカーの発現量に関する情報を取得する工程と、
取得した前記第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報に基づいて、前記被験者における関節リウマチの存在を評価する工程と
を含む、関節リウマチの存在の評価方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記の第1バイオマーカーと第2バイオマーカーとを含む、生体における関節リウマチの存在を評価するためのバイオマーカーセットを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のバイオマーカーセットおよび関節リウマチの存在を評価する方法によれば、被験者における関節リウマチの存在を高精度に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】健常者群とRA患者群との間で有意に変動する遺伝子として同定された9遺伝子について、健常者群およびRA患者群の発現レベルを示す散布図である。
【図2】本発明のバイオマーカーセットについて、健常者群およびRA患者群の予測値を示す散布図である。
【図3】本発明のバイオマーカーセットについて、健常者群および抗CCP抗体陰性RA患者群の予測値を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[1.関節リウマチの存在の評価方法]
本発明のRAの存在の評価方法(以下、単に「評価方法」ともいう)では、まず、被験者から得た生体試料における、SLC16A4である第1バイオマーカーの発現量に関する情報と、SLCO2B1、PTPRM、SHBおよびATP9Aからなる群より選択される少なくとも1つの第2バイオマーカーの発現量に関する情報を取得する。
【0016】
本発明の実施形態において、被験者は特に限定されず、例えば健常者、RAの罹患が疑われる者およびRA患者などが挙げられる。
本発明の実施形態において、生体試料は、被験者から採取され、細胞、核酸、タンパク質などの生物学的材料が含まれる試料であれば特に限定されないが、好ましくは細胞を含む試料である。生体試料として具体的には、血液、関節液、脳脊髄液、胸水、腹水、リンパ液、手術または生検により採取した組織および細胞などが挙げられる。それらの中でも、血液中の細胞を含む試料が好ましい。
【0017】
後述するように、本発明の実施形態において、第1および第2バイオマーカーはポリヌクレオチドマーカーであってもよいし、ポリペプチドマーカーであってもよい。したがって、ポリヌクレオチドマーカーとしての第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報を取得する場合は、上記の生体試料から核酸を抽出する。生体試料からの核酸の抽出は、当該技術において公知の方法により行うことができる。例えば、生体試料と、細胞や組織を可溶化する界面活性剤(例えばコール酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウムなど)を含む処理液とを混合し、得られた混合液に物理的処理(撹拌、ホモジナイズ、超音波破砕など)を施して、生体試料に含まれる核酸を該混合液中に遊離させることによって行うことができる。この場合、該混合液を遠心分離して細胞破片を沈殿させた後、核酸を含む上清を回収し、この上清を生体試料として用いることが好ましい。さらに、得られた上清を、公知の方法により精製してもよい。生体試料からの核酸の抽出および精製は、市販のキットを用いて行うこともできる。
【0018】
ポリペプチドマーカーとしての第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報を取得する場合は、上記の生体試料からタンパク質を抽出する。生体試料からのタンパク質の抽出は、当該技術において公知の方法により行うことができる。例えば、生体試料に含まれる細胞を超音波により破砕するか、または生体試料と細胞可溶化液とを混合し、得られた混合液に物理的処理(撹拌、ホモジナイズ、超音波破砕など)を施して、生体試料に含まれるタンパク質を該混合液中に遊離させることによって行うことができる。この場合、該混合液を遠心分離して細胞破片を沈殿させた後、タンパク質を含む上清を回収し、この上清を生体試料として用いることが好ましい。
【0019】
上記の第1および第2バイオマーカーの塩基配列およびアミノ酸配列は、UniGeneなどの米国生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information:NCBI)により提供されているデータベースから知ることができる。各バイオマーカーのアクセッション番号を、以下の表1に示す。なお、これらのアクセッション番号は、2011年1月19日時点での最新の番号である。
【0020】
【表1】

【0021】
本発明の実施形態においては、第1および第2バイオマーカーはポリヌクレオチドマーカーであってもよいし、ポリペプチドマーカーであってもよい。
したがって、第1バイオマーカーは、SLC16A4で表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはその変異型もしくは断片であるか、あるいはSLC16A4で表される遺伝子によりコードされるタンパク質またはその機能的に同等な変異型もしくは断片である。
また、第2バイオマーカーは、SLCO2B1、PTPRM、SHBおよびATP9Aからなる群より選択される少なくとも1つで表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはその変異型もしくは断片であるか、あるいはSLCO2B1、PTPRM、SHBおよびATP9Aからなる群より選択される少なくとも1つで表される遺伝子によりコードされるタンパク質またはその機能的に同等な変異型もしくは断片である。
なお、本明細書において、ポリヌクレオチドは、DNAまたはRNAのいずれであってもよく、上記の遺伝子そのもの(DNA)、mRNA、cDNAまたはcRNAのいずれであってもよい。
【0022】
本発明の実施形態においては、第2バイオマーカーは、少なくともSLCO2B1で表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはその変異型もしくは断片を含むか、あるいは少なくともSLCO2B1で表される遺伝子によりコードされるタンパク質またはその機能的に同等な変異型もしくは断片を含むことが好ましい。
【0023】
本明細書において、ポリヌクレオチドの変異型とは、上記の遺伝子によりコードされるタンパク質の機能を変化させないような変異が導入されたポリヌクレオチドを意味する。このような変異は、上記の遺伝子の塩基配列における1もしくは複数のヌクレオチドの欠失または置換、あるいは1もしくは複数のヌクレオチドの付加を含む。変異型の塩基配列は、本来の遺伝子の塩基配列と、少なくとも80%以上、好ましくは少なくとも85%以上、より好ましくは少なくとも90%以上、特に好ましくは少なくとも95%以上の配列同一性を有する。
【0024】
本明細書において、タンパク質の機能的に同等な変異型とは、上記のタンパク質の機能を変化させないような変異が導入されたタンパク質を意味する。このような変異は、上記のタンパク質のアミノ酸配列における1もしくは複数のアミノ酸の欠失または置換、あるいは1もしくは複数のアミノ酸の付加を含む。タンパク質の機能的に同等な変異型のアミノ酸配列は、本来のタンパク質のアミノ酸配列と、少なくとも80%以上、好ましくは少なくとも85%以上、より好ましくは少なくとも90%以上、特に好ましくは少なくとも95%以上の配列同一性を有する。
なお、本明細書において、塩基配列およびアミノ酸配列の配列同一性は、BLASTN、BLASTP、BLASTXまたはTBLASTN(例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.govから利用可能)を標準設定で用いて算出されるものを意味する。
【0025】
本明細書において、ポリヌクレオチドの断片とは、上記のバイオマーカーの塩基配列の一部を連続して有し、後述するバイオマーカーの発現量に関する情報を取得するためのプローブと特異的にハイブリダイズできる長さのポリヌクレオチドを意味する。
本明細書において、タンパク質の断片とは、上記のバイオマーカーのアミノ酸配列の一部を連続して有し、後述するバイオマーカーの発現量に関する情報を取得するための抗体または核酸アプタマーにより特異的に認識される長さのポリペプチドを意味する。
【0026】
本明細書において、バイオマーカーの発現量に関する情報とは、当該技術において公知の方法により、生体試料から取得される各バイオマーカーの発現量を示すデータであれば特に制限されない。
第1および第2バイオマーカーがポリヌクレオチドマーカーの場合、これらのバイオマーカーの発現量に関する情報は、例えば、PCR法、RT-PCR法、リアルタイムPCR法、LAMP(Loop-mediated isothermal amplification)法などの核酸増幅法、サザンハイブリダイゼーション、ノザンハイブリダイゼーションなどのハイブリダイゼーション法、マイクロアレイ法などの当該技術において公知の方法により取得できる、核酸(DNA、mRNA、cDNAまたはcRNA)の定量値が挙げられる。
第1および第2バイオマーカーがポリペプチドマーカーの場合、これらのバイオマーカーの発現量に関する情報は、後述するバイオマーカーの発現量に関する情報を取得するための抗体または核酸アプタマーを用いて、例えば免疫沈降法、ウェスタンブロット法、ELISA法、フローサイトメトリー法などの当該技術において公知の方法により取得できる、タンパク質の定量値が挙げられる。
【0027】
本発明の実施形態においては、ポリヌクレオチドマーカーとしての第1および第2バイオマーカーに特異的にハイブリダイズできる分子を、第1および第2イオマーカーの発現量に関する情報を取得するためのプローブとして用いることができる(以下、該プローブを「発現量取得用プローブ」ともいう)。発現量取得用プローブは、ポリヌクレオチドマーカーとしての第1および第2バイオマーカーに特異的にハイブリダイズできる核酸プローブおよびペプチドプローブのいずれであってもよい。そのようなプローブとしては、核酸プローブが好ましく、特にDNAプローブが好ましい。
【0028】
本明細書において、「特異的にハイブリダイズできる」とは、上記のプローブが、ストリンジェントな条件下でポリヌクレオチドマーカーとしての第1および第2バイオマーカーにハイブリダイズできることを意味する。
本明細書において、ストリンジェントな条件とは、上記のプローブが標的ポリヌクレオチドに、該標的ポリヌクレオチド以外のポリヌクレオチドよりも検出可能に大きい程度(例えば、バックグラウンドの少なくとも2倍を超える)でハイブリダイズできる条件である。
なお、ストリンジェントな条件は、通常、配列依存性であり、そして種々の環境において異なる。一般的に、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度およびpHでの特定の配列の熱的融点(thermal melting point:Tm)よりも、約5℃低くなるように選択される。このTmは、(規定されたイオン強度、pHおよび核酸組成の下で)上記の標的核酸分子の塩基配列に相補的なプローブの50%が平衡してハイブリダイズする温度である。
【0029】
このような条件は、当該技術において公知のポリヌクレオチド同士のハイブリダイゼーション法、例えばPCR法、マイクロアレイ法、サザンブロット法などにおいて、ポリヌクレオチド同士のハイブリダイゼーションに用いられる条件であってよい。具体的には、pH 7.0〜9.0で塩濃度が約1.5 M Naイオンより低い、より具体的には、約0.01〜1.0 M Naイオン濃度(または他の塩)であり、少なくとも約30℃の条件が挙げられる。例えば、マイクロアレイ法におけるストリンジェントな条件は、37℃で50%ホルムアミド、1M NaCl、1% SDS中でのハイブリダイゼーション、および60〜65℃での0.1×SSC中での洗浄を含む。また、PCR法におけるストリンジェントな条件は、pH 7.0〜9.0、0.01〜0.1 MのTris HCl、0.05〜0.15 M Kイオン濃度(または他の塩)、少なくとも約55℃の条件が挙げられる。
【0030】
上記の発現量取得用プローブの塩基配列は、当該技術常識ならびに第1および第2バイオマーカーの塩基配列に基づいて、該マーカーに特異的にハイブリダイズできるように、当業者が適宜決定できる。そのような配列は、例えば、一般に利用可能なプライマー設計ソフトウェア(例えばPrimer3(http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3/primer3.cgiから利用可能)やDNASIS Pro(日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社))を用いて決定できる。
また、発現量取得用プローブは、当該技術において公知のポリヌクレオチドの合成方法により作製できる。発現量取得用プローブの長さは、通常5〜50ヌクレオチド、好ましくは10〜40ヌクレオチドである。
【0031】
上記の発現量取得用プローブは、1種のみを用いるか、または複数種を組み合わせて用いることができる。例えば、当該技術において公知の方法を用いて該プローブ1種以上を基板上に固定化することにより、第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報を取得するためのマイクロアレイを作製できる。
上記の発現量取得用プローブは、例えば、核酸増幅法により第1および第2バイオマーカーを増幅するための2種以上のプライマーのセットとすることができる。
【0032】
本発明の実施形態において、ポリペプチドマーカーとしての第1および第2バイオマーカーに特異的に結合できる分子を、該バイオマーカーの発現量に関する情報を取得するために用いることができる。このような分子は、第1および第2バイオマーカーに特異的に結合できる抗体およびアプタマーなどのいずれであってもよいが、好ましくは抗体である(以下、該抗体を「発現量取得用抗体」ともいう)。
【0033】
上記の発現量取得用抗体は、例えば、次のような当該技術において公知の手順により作製できる。第1および第2バイオマーカーである遺伝子の塩基配列またはタンパク質のアミノ酸配列に基づいて、各バイオマーカーのアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするDNA分子を適切な発現ベクターに組み込む。得られた発現ベクターを適切な宿主細胞に導入し、得られた形質転換細胞を培養して、目的のタンパク質を得る。得られたタンパク質を精製して免疫原とし、該免疫原と所望によりアジュバントとを用いて、適切な哺乳動物、例えばラット、マウスなどを免疫する。免疫された動物の脾臓細胞などから、目的の免疫原に対する抗体を産生する抗体産生細胞をスクリーニングにより選択する。得られた抗体産生細胞を、ミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを得て、これをスクリーニングすることにより、上記の遺伝子によりコードされるタンパク質に特異的結合性を有する抗体を産生する抗体産生ハイブリドーマを得ることができる。得られた抗体産生ハイブリドーマを培養することにより、発現量取得用抗体を得ることができる。
【0034】
第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報を取得するために用いることができアプタマー(以下、該アプタマーを「発現量取得用アプタマー」ともいう)は、例えば、次のような当該技術において公知の手順により作製できる。ランダムな核酸の塩基配列を有する核酸ライブラリーを公知の手法により作製し、これを試験管内進化法(SELEX法)などに付すことより標的のタンパク質(ポリペプチドとしての第1および第2バイオマーカー)に特異的に結合できるアプタマーを選択できる。
【0035】
上記の発現量取得用プローブ、抗体およびアプタマーは、当該技術において通常用いられる標識物質により標識されていてもよい。標識されたプローブ、抗体およびアプタマーを用いることにより、第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報を簡便に取得することができる。そのような標識物質は、32P、35S、3Hおよび125Iなどの放射性同位体、フルオレセイン、Alexa Fluor(登録商標)などの蛍光物質、アルカリホスファターゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼなどの酵素、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジンなどの当該技術において通常用いられる標識物質であり得る。
【0036】
本発明の実施形態においては、第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報を核酸増幅法によって取得する場合、該情報としては、例えば、増幅後の反応液の光学的測定値(蛍光強度、濁度、吸光度など)が挙げられる。さらに、第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報には、核酸増幅法において上記の光学的測定値が所定の基準値に達したときのサイクル数(または時間)、該光学的測定値の変化量が所定の基準値に達したときのサイクル数(または時間)、該光学的測定値(またはサイクル数)と検量線とから取得されるmRNAの定量値なども含まれる。
なお、所定の基準値は、上記のデータの種類に応じて適宜設定することができる。例えば、該データがサイクル数である場合、所定の基準値として、核酸増幅反応が対数増殖を示すときの蛍光強度の変化量を設定できる。
【0037】
第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報をマイクロアレイ法によって取得する場合、該情報としては、例えば、マイクロアレイ上の核酸プローブと、上記の各遺伝子のmRNAまたは該mRNAに由来する核酸(cDNA、cRNAなど)との特異的ハイブリダイゼーションに由来するシグナル強度(蛍光強度、発色強度、電流量の変化など)が挙げられる。さらに、第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報には、該シグナル強度と検量線とから取得されるmRNAの定量値も含まれる。
【0038】
本発明の好ましい実施形態においては、第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報は、第1および第2バイオマーカーのmRNAの定量値を数学的に組み合わせて得られる、RAの罹患状態と相関を示す数値である。RAの罹患状態と相関を示す数値としては、例えば、第1および第2バイオマーカーのmRNAの定量値を多変量解析することにより取得される値が挙げられる。なお、このような多変量解析は当該技術において公知であり、例えば多重ロジスティック回帰分析などが挙げられる。また、多変量解析は、STAT Flex ver.6(株式会社アーテック)などの市販のソフトウェアを用いてコンピュータに実行させることができる。
したがって、本発明の好ましい実施形態は、取得した第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報(例えばmRNAの定量値)から多変量解析により値を取得する工程をさらに含む。この場合、取得した値に基づいて被験者における関節リウマチの存在を評価する。多変量解析により取得される値としては、例えば、多重ロジスティック回帰分析により得ることができる予測値が挙げられる。
【0039】
本発明の評価方法では、生体試料から取得した第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報に基づいて、被験者におけるRAの存在を評価する。
本明細書において、「被験者における関節リウマチの存在を評価する」とは、被験者がRAに罹患しているか否かを判定すること、および、該被験者がRAに罹患している場合はその症状の程度(疾患活動性)を定量化することを意味する。
【0040】
また、被験者がRAに対する治療を受けている場合、その疾患活動性が改善されているか又は進行しているかを判定すること、すなわち、該被験者のRA治療効果のモニタリングをすることも本発明の範囲に含まれる。
したがって、本発明の別の実施形態は、RAに対する治療を受けている被験者から得た生体試料における、SLC16A4である第1バイオマーカーの発現量に関する情報と、SLCO2B1、PTPRM、SHBおよびATP9Aからなる群より選択される少なくとも1つの第2バイオマーカーの発現量に関する情報を取得する工程と、取得した前記第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報に基づいて、上記の被験者における関節リウマチの治療効果をモニターする工程とを含む、関節リウマチのモニタリング方法である。
【0041】
上記の実施形態においては、取得した第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報(例えばmRNAの定量値)から多重ロジスティック回帰分析などの多変量解析により値を取得する工程をさらに含んでいてもよい。その場合、取得した値に基づいて、上記の被験者における関節リウマチの治療効果をモニターする。
【0042】
上記のとおり、第1バイオマーカーであるSLC16A4と第2バイオマーカーであるSLCO2B1、PTPRM、SHBおよびATP9Aの各遺伝子は、RA患者に高発現していることが本発明者らにより見出されている。したがって、第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報がいずれも高発現であることを示しているか否かを判断することにより、被験者におけるRAの存在が評価される。
例えば、第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報がmRNAまたはタンパク質の定量値である場合、該定量値が大きいときに、被験者がRAに罹患していると判定するか又はRAの疾患活動性が亢進していることをモニターすることができる。反対に、上記の定量値が小さいときに、被験者がRAに罹患していないと判定するか又はRAの疾患活動性が緩和していることをモニターすることができる。さらに、上記の定量値に基づいて、被験者のRAの疾患活動性を示す数値指標(例えば、ロジスティック回帰分析などの多変量解析により取得される、RAの罹患状態と相関を示す数値)を取得して、症状の程度を定量化することもできる。
【0043】
このような測定値自体によるRAの存在の評価は、データの蓄積により経験的に行うことができる。しかし、抗CCP抗体の検査で陰性と判定されたがRAの罹患が疑われる被験者などの場合では、より高い精度の評価が求められることがある。その場合、第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報がいずれも高発現であることを示しているか否かは、発現量に関する情報とその情報の種類に応じたカットオフ値とを比較し、その比較結果から決定することが好ましい。
例えば、第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報がmRNAの定量値である場合、第1および第2バイオマーカーの両方の定量値が所定のカットオフ値以上のときに、取得した第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報がいずれも高発現を示していると決定できる。この場合、本発明の評価方法により、被験者がRAに罹患していると判定するか又はRAの疾患活動性が亢進していることをモニターすることができる。
反対に、第1および第2バイオマーカーの両方の定量値が所定のカットオフ値よりも小さいとき、取得した第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報がいずれも高発現を示していないと決定できる。この場合、本発明の評価方法により、被験者がRAに罹患していないと判定するか又はRAの疾患活動性が緩和していることをモニターすることができる。
【0044】
本発明の評価方法に用いられる「所定のカットオフ値」は、上記の発現量に関するデータの種類に応じて適宜設定することができる。すなわち、該カットオフ値は、RA患者と健常者とを明確に区別できる、特定の発現量を示す値として経験的に設定することができる。例えば、第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報がmRNAの定量値である場合、RA患者から得た生体試料および健常者から得た生体試料のそれぞれについてmRNAの定量値を取得し、RA患者と健常者を明確に区別できるmRNA量を所定のカットオフ値として設定することができる。
【0045】
本発明の好ましい実施形態においては、第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報(例えばmRNAの定量値)から多重ロジスティック回帰分析により取得した予測値(p)が所定のカットオフ値以上である場合に、被験者がRAに罹患していると判定するか又はRAの疾患活動性が亢進していることをモニターする。反対に、上記の予測値(p)が所定のカットオフ値より小さい場合に、被験者がRAに罹患していないと判定するか又はRAの疾患活動性が緩和していることをモニターする。
なお、この実施形態における所定のカットオフ値は、例えばSTAT Flex ver.6(株式会社アーテック)のような市販のソフトウェアを用いて算出され、Youden indexにより決定できる。
【0046】
[2.関節リウマチの存在を評価するためのバイオマーカーセット]
本発明の関節リウマチの存在を評価するためのバイオマーカーセット(以下、単に「バイオマーカーセット」ともいう)は、SLC16A4で表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはその変異型もしくは断片である第1バイオマーカーと、SLCO2B1、PTPRM、SHBおよびATP9Aからなる群より選択される少なくとも1つで表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはその変異型もしくは断片である第2バイオマーカーとを含むことを特徴とする。
【0047】
また、本発明のバイオマーカーセットはポリペプチドマーカーのセットであってもよい。したがって、本発明の別の実施形態において、バイオマーカーセットは、SLC16A4で表される遺伝子によりコードされるタンパク質またはその機能的に同等な変異型もしくは断片である第1バイオマーカーと、SLCO2B1、PTPRM、SHBおよびATP9Aからなる群より選択される少なくとも1つで表される遺伝子によりコードされるタンパク質またはその機能的に同等な変異型もしくは断片である第2バイオマーカーとを含むことを特徴とする。
【0048】
本発明のバイオマーカーセットは、上記の本発明の評価方法に好適に用いられ、RA患者と健常者を高精度に区別することができる。
【実施例】
【0049】
本発明を、実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)RAの存在を評価するためのバイオマーカーセットの同定
1.健常人および関節リウマチ患者の末梢血からのCD4陽性細胞の単離
健常な成人(n=20)およびRA患者(n=33)から末梢血を採血管NP-HE0557(ニプロ社)に採取した。なお、RA患者群の特徴は次のとおりである:女性24検体、男性9検体、年齢30〜80才(平均56.9才)、DAS(Disease Activity Score)28は1.8〜5.2(平均3.2)。
これらの抹消血に抗CD4抗体を結合させた磁気ビーズ(以下、「抗CD4抗体ビーズ」という:Miltenyi Biotec社)を添加して、CD4陽性細胞を単離した。なお、この操作は、抗CD4抗体ビーズの添付文書の記載に従って行った。得られたCD4陽性細胞を、次のトータルRNA抽出工程まで−80℃にて凍結保存した。
【0051】
2.トータルRNAの抽出
RNeasy Plus MiniキットおよびRNeasy microキット(QIAGEN社)を用いて、上記の工程1.で得たCD4陽性細胞からトータルRNAを抽出した。なお、具体的な操作は、各キットの添付文書の記載に従って行った。
【0052】
3.マイクロアレイ発現解析
Two-Cycle Target Labeling and Control Reagents(Affymetrix社)を用いて、上記の工程2.で抽出した各細胞のトータルRNA(10〜100 ng)をcDNAに逆転写し、さらにビオチン化cRNAへの転写反応を行った。次いで、増幅したビオチン化cRNA(20μg)を断片化した。なお、具体的な操作は、キットに添付の説明書の記載に従って行った。
上記で得られた各細胞由来のビオチン化cRNA(15μg)を検体として、それぞれGeneChip Hunman Genome U-133 Plus 2.0 Array(Affymetrix社)に添加し、GeneChip Hybridization Oven 640(Affymetrix社)に移して、45℃、60 rpmの条件下で16時間ハイブリダイゼーションを行った。
ハイブリダイゼーション終了後、上記のマイクロアレイを、GeneChip Fluidic Station 450(Affymetrix社)を用いて洗浄および蛍光標識を行い、該マイクロアレイを、GeneChip Scanner 3000 7G(Affymetrix社)を用いてスキャンし、蛍光強度データを取得した。
【0053】
4.健常者群とRA患者群との間で有意に変動するTh17特異的遺伝子の選択
上記の工程3.で得られた各遺伝子のmRNA発現量を示す蛍光強度を、ハウスキーピング遺伝子であるGAPDH遺伝子のmRNA発現量を示す蛍光強度で除する補正を行って、各遺伝子の発現量に関する情報(以下、「発現レベル」という)を得た。そして、これらの発現レベルのうち、本発明者らがTh17細胞検出用マーカーとしてこれまでに見出した、Th17細胞に特異的に発現する遺伝子(142遺伝子)について、健常者群とRA患者群との間で比較した。なお、Th17細胞に特異的に発現する遺伝子は、他のTh細胞(Th1、Th2、Treg細胞など)での発現量に比べて、約3倍以上発現することが本発明者らにより確認されている(国際出願PCT/JP2010/062807)。
RA患者群の33検体から、コンピュータープログラムを用いた無作為抽出により20検体を選択し、選択された20検体において健常者群20検体よりも発現レベルが有意に増加している遺伝子を抽出した。ここで、発現レベルが有意に増加している遺伝子とは、健常者群とRA患者群についてのMann-Whitney検定により「p値<0.05」を示し、かつ「(RA患者群の発現量レベルの平均)/(健常者群の発現量レベルの平均)」の値が2以上である遺伝子である。なお、無作為抽出およびMann-Whitney検定はSTAT Flex ver.6(株式会社アーテック)を用いて行った。
上記のRA患者群の無作為抽出および発現レベルが有意に増加している遺伝子の抽出をそれぞれ6回繰り返し、6回全ての試行において発現レベルが有意に増加している9遺伝子を健常者群とRA患者群との間で有意に変動するTh17細胞特異的遺伝子として同定した。これらの9遺伝子について、健常者群およびRA患者群での発現レベルを図1に示す。図1において、○は健常者を、●はRA患者を示す。また、各バイオマーカーの名称の下の括弧内に記載される番号は、Hunman Genome U-133 Plus 2.0 Array(Affymetrix社)に搭載されるプローブセットのID番号である。
図1より、上記の9遺伝子はRA患者群において高発現の傾向を示すものの、いずれも単独では健常者と区別できないRA患者の検体が多く見られる。ゆえに、上記の9遺伝子は、いずれも単独では健常者とRA患者とを高精度に区別可能なバイオマーカーとして用いることは困難であることが分かる。
【0054】
5.RAの存在を評価するためのバイオマーカーセットの同定
上記の9遺伝子から健常者とRA患者とを高精度に区別可能なバイオマーカーの組み合わせを見出すことを目的として、以下の手順でバイオマーカーセットを選択した。
健常者群(n=20)およびRA患者群(n=33)をあわせた検体群(n=53)から、非復元抽出により無作為に検体数がn=18、n=18、n=17となる3組の検体セットを作成した。次に、3組の検体セットのうち、2組をトレーニングセットとし、残り1組をテストセットとしたトレーニング・テストセットを作成した。これを3回繰り返し、最終的に組み合わせが異なる3組のテスト・トレーニングセットを作成した。
上記の工程4.で得られた9遺伝子から、考えられる全ての遺伝子の組み合わせについて、多重ロジスティック回帰分析を行った。3組のトレーニング・テストセットそれぞれにおいて多重ロジスティック回帰分析を行い、健常人とRA患者とを判別できる5つの回帰モデルを抽出した。抽出された回帰モデルの予測値(p)の算出式(回帰式)と各モデルに含まれる遺伝子の組み合わせを、以下の表2に示す。式中の[SLC16A4]、[SLCO2B1]、[PTPRM]、[ATP9A]、[SHB]は、上記の工程4.で得られた各遺伝子の発現レベルの値である。なお、非復元抽出および多重ロジスティック回帰分析はSTAT Flex ver.6(株式会社アーテック)を用いて行い、回帰式の各係数は、健常者群とRA患者群をあわせた全検体(n=53)のデータを用いて算出した。
【0055】
【表2】

【0056】
6.各バイオマーカーセットにおける健常者とRA患者との判別能の比較
RA患者群(n=33)および健常者群(n=20)の各検体の発現レベルから、上記の工程5.の5つの回帰モデルを用いて、各検体の予測値(p)を算出した。なお、予測値は上記表2に記載の式から算出した。
次いで、算出した各検体の予測値に基づいてROC曲線(Receiver Operatorating Characteristic curve:受信者動作特性曲線)を作成し、Youden indexを用いて各回帰モデルにおけるカットオフ値を同定した。算出した予測値がカットオフ値以上の場合は陽性、カットオフ値未満の場合は陰性と判定し、この判定結果に基づいて感度および特異度を算出した。
なお、ROC曲線の作成、カットオフ値の算出ならびに感度および特異度の算出はSTAT Flex ver.6(株式会社アーテック)を用いて行った。
各回帰モデルの感度および特異度ならびにカットオフ値を、表3に示す。また、各回帰モデルについて、健常者群およびRA患者群の各検体の予測値を図2に示す。図2において、○は健常者を、●はRA患者を示す。また、図2の各散布図において、カットオフ値を示した。
【0057】
【表3】

【0058】
図2より、上記のバイオマーカーセットを用いる本発明の評価方法は、健常者とRA患者とを高感度および高特異度で区別できることが分かる。また、表3より、本発明の評価方法においては、いずれのバイオマーカーセットを用いても80%以上の感度および特異度で、RA患者を健常者と区別して検出することができることがわかる。
図2の各散布図においては、予測値がカットオフ値を下回ったRA患者の検体がいくつか存在した。5つの回帰モデルのいずれかにおいて予測値がカットオフ値を下回った検体(8検体)について、それらのRA患者の疾患活動性(DAS28)を表4に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
表4より、カットオフ値を下回った8検体のうち7検体で、DAS28が低値または寛解レベルの値を示した。このことから、カットオフ値を下回ったRA患者のほとんどは、RAの疾患活動性が低いことが分かる。これらのRA患者はいずれも治療を受けていることから、治療が奏効したことによりRAの疾患活動性が低下し、それに応じて予測値も低い値を示したと考えられる。よって、上記のバイオマーカーセットを用いる本発明の評価方法は、RAに対する治療により症状が緩和している患者を健常者と同程度として認識することが示唆された。すなわち、本発明の評価方法は、治療効果や疾患活動性のモニタリングに適用できることが示唆された。
【0061】
(実施例2)健常者と抗CCP抗体陰性RA患者との判別分析
本発明の評価方法により、RAに罹患しているが抗CCP抗体の検査では陰性とされたRA患者(以下、「抗CCP抗体陰性RA患者」という)を健常者と区別できるか否かを検討した。
健常者群(n=20)および抗CCP抗体陰性RA患者群(n=10)の各検体の発現レベルから、実施例1で同定した回帰モデル(2)(バイオマーカーの組み合わせ:SLC16A4、SLCO2B1)を用いて、各検体それぞれの予測値(p)を算出した。なお、予測値は実施例1の表2に記載の式を用いて算出した。
次いで、ROC曲線を作成し、Youden indexを用いて各回帰モデルにおけるカットオフ値を同定した。算出した予測値がカットオフ値以上の場合は陽性、カットオフ値未満の場合は陰性と判定し、この判定結果に基づいて感度および特異度を算出した。なお、ROC曲線の作成、カットオフ値の算出、ならびに感度および特異度の算出はSTAT Flex ver.6(株式会社アーテック)を用いて行った。
本実施例で得られた感度、特異度およびカットオフ値を、表5に示す。また、本実施例で得られた健常者群および抗CCP抗体陰性RA患者群での予測値を図3に示す。図3において、○は健常者を、●はRA患者を示す。また、図3の各散布図において、カットオフ値を示した。
【0062】
【表5】

【0063】
図3より、本発明の評価方法は、従来の抗CCP抗体での検査では陰性と判定されるRA患者についても高感度および高特異度で健常者と区別できることが分かる。このことから、本発明の評価方法は、従来のRAの診断および検査方法とあわせて用いることにより、より正確にRAを診断できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から得た生体試料における、SLC16A4である第1バイオマーカーの発現量に関する情報と、SLCO2B1、PTPRM、SHBおよびATP9Aからなる群より選択される少なくとも1つの第2バイオマーカーの発現量に関する情報を取得する工程と、
取得した前記第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報に基づいて、前記被験者における関節リウマチの存在を評価する工程と
を含む、関節リウマチの存在の評価方法。
【請求項2】
前記第1バイオマーカーが、SLC16A4で表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはその変異型もしくは断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2バイオマーカーが、SLCO2B1、PTPRM、SHBおよびATP9Aからなる群より選択される少なくとも1つで表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはその変異型もしくは断片である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2バイオマーカーが、少なくともSLCO2B1で表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはその変異型もしくは断片を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1バイオマーカーが、SLC16A4で表される遺伝子によりコードされるタンパク質またはその機能的に同等な変異型もしくは断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第2バイオマーカーが、SLCO2B1、PTPRM、SHBおよびATP9Aからなる群より選択される少なくとも1つで表される遺伝子によりコードされるタンパク質またはその機能的に同等な変異型もしくは断片である、請求項1または5に記載の方法。
【請求項7】
前記第2バイオマーカーが、少なくともSLCO2B1で表される遺伝子によりコードされるタンパク質またはその機能的に同等な変異型もしくは断片を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記生体試料が細胞を含む試料である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記細胞が血液中の細胞である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
SLC16A4で表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはその変異型もしくは断片である第1バイオマーカーと、
SLCO2B1、PTPRM、SHBおよびATP9Aからなる群より選択される少なくとも1つで表される遺伝子の塩基配列を有するポリヌクレオチドまたはその変異型もしくは断片である第2バイオマーカーと
を含む、関節リウマチの存在を評価するためのバイオマーカーセット。
【請求項11】
SLC16A4で表される遺伝子によりコードされるタンパク質またはその機能的に同等な変異型もしくは断片である第1バイオマーカーと、
SLCO2B1、PTPRM、SHBおよびATP9Aからなる群より選択される少なくとも1つで表される遺伝子によりコードされるタンパク質またはその機能的に同等な変異型もしくは断片である第2バイオマーカーと
を含む、関節リウマチの存在を評価するためのバイオマーカーセット。
【請求項12】
関節リウマチに対する治療を受けている被験者から得た生体試料における、SLC16A4である第1バイオマーカーの発現量に関する情報と、SLCO2B1、PTPRM、SHBおよびATP9Aからなる群より選択される少なくとも1つの第2バイオマーカーの発現量に関する情報を取得する工程と、
取得した前記第1および第2バイオマーカーの発現量に関する情報に基づいて、前記被験者における関節リウマチの治療効果をモニターする工程と
を含む、関節リウマチのモニタリング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−152198(P2012−152198A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16739(P2011−16739)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】