説明

関節疾患及び関節損傷を治療する関節内補充法

関節内補充薬用のヒドロゲルを作製する方法であって、アルギネートの溶液を準備する工程と、60kD未満のMwを有するキトサンを含む溶液を準備する工程と、前記アルギネートの溶液と前記キトサンの溶液とを混合する工程であって、混合溶液が0.5%(w/v)〜0.7%(w/v)のキトサン及び1%(w/v)〜1.4%(w/v)のアルギネートを含み、前記混合溶液の液滴をCa2+カチオン又はSr2+カチオンを含む溶液に導入する工程と、前記カチオンを含む溶液から重合したビーズを単離する工程とを含む、関節内補充薬用のヒドロゲルを作製する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キトサンとアルギネートとの混合物を含む球状ヒドロゲルビーズを作製する方法に関する。
【0002】
本発明は、関節障害、特に変形性関節症を治療するための新規の補充法及び組成物にも関する。
【背景技術】
【0003】
変形性関節症(OA)は痛みを伴う進行性変性障害であり、関節内の軟骨の破壊、関節中に存在する滑液の劣化、及び結果として生じる骨硬化を特徴とする。
【0004】
変形性関節症は年齢とともに増加し、60歳以上での確率は60%を超える。
【0005】
現在、OAに伴う機械的な痛みを緩和する(remediate)ための現行療法は一般に、鎮痛薬若しくは抗炎症剤の投与による治療的療法、又は部分的若しくは完全な関節の置換による外科的療法のいずれかである。代替的なアプローチは、摩擦及び痛みを軽減する生体適合性の粘性(例えばヒアルロン酸)潤滑剤を関節内に注射する関節内補充療法である。
【0006】
関節内補充療法は、関節を潤滑化し保護する滑液を補充するために用いられる。実際には、OA患者では、滑液はヒアルロナン(又はヒアルロン酸HAの塩)の濃度及び分子量(Mw)の低下によって修正されている。
【0007】
高分子量のHA製剤を含む関節内注射液が現在利用可能であり、膝、股関節(hip)、母指手根中手関節又は足首を治療するために使用されている。これらの製剤は、1回(Durolane(商標)、Q-Med AB、ウプサラ、スウェーデン)、3回(Synvisc(商標)、高分子量架橋HA、Orthovisc(商標))〜5回(Hyalgan(商標)、Supartz(商標))の関節内(IA)注射(その関節に応じて、1回の注射につき5mg/ml〜20mg/mlのHAを含有する注射液1ml〜3ml)を必要とする。
【0008】
【表1】

【0009】
HA製剤は、例えばHA源(動物由来又は細菌性)、HAの濃度及びMw、並びにもしあれば用いられる化学的架橋の種類及び程度を含む多数の特徴に違いがある。通常、大半の注射用HA製剤は、一度注射すると、数時間〜数日の滞留半減期を有する。
【0010】
幾つかの研究によって上述の製品の有効性が比較され、痛みの顕著な減少及び膝OA患者の機能改善について異なった結論が出されている。一方では、プラセボ注射と比較して良くても僅かな効果しかないと結論付けられている。他方では、上記の製品のうち1つを毎週3回〜5回注射することによってOA患者の痛み及び機能状態が大幅に改善されること、並びに改善の始まりが3週間〜4週間遅れたが、効果が少なくとも6ヶ月間、治療中止後まで持続し得ることが観察されている。他方では、OA症状に対する有益な効果が膝OAだけでなく足首OA又は母指手根中手関節OAについても観察され、同時に副作用も観察されている。
【0011】
さらに、臨床効果は1週目と迅速な場合があり、6ヶ月以上持続し得るが、いずれの場合も、主に大半のHA製剤の短い滞留半減期のために、変形性関節症の痛みに対する長期にわたる(6ヶ月〜1年の)効果には複数回の注射が不可欠である。
【0012】
最後に、特許文献1は、不溶性のコアセルベートを生じない、アルギネートとキトサンとの混合物の多糖類組成物による関節内補充療法を記載している。コアセルベートは、ヒアルロン酸(ポリアニオン)又はアルギネート等の他の多糖類との相溶性を困難にする、キトサンのポリカチオン性に起因する。特許文献1によると、キトサン及びアルギネート等の多糖類の沈殿/コアセルベーションは、注射用組成物としてのその調合を妨げる。
【0013】
特許文献1では、少なくとも40%という高い誘導体化度を有するキトサンとアルギネートとの水性混合物を含む組成物が、したがって不溶性のコアセルベートを生じることなく高度に粘性であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開第2007/135114号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
力学的歪みに対して軟骨を保護し、複数回の注射を必要とすることなくOA患者に効果的な症状緩和をもたらす新規の関節内補充薬製品を開発すること、及び副作用を回避することが引き続き必要とされている。
【0016】
本発明者らは今回、アルギネートと、低分子量であり、コアセルベートであるキトサンとを含む均質なヒドロゲルマトリックスを作製する新規の方法を見出した。この新規の方法によって得ることのできる生じたアルギネート/キトサンビーズは、関節内補充に使用しても依然として驚くべきことに均質かつ安定なままである。
【0017】
本発明者らは今回、滑液の粘性を増大させることなく関節内で長期の滞留時間(少なくとも2週間)を有するキトサン/アルギネートビーズの単回関節内補充のための新規の方法及び組成物を見出した。
【0018】
上述の概要及び以下の説明は特許請求される発明を限定するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一態様は、ヒドロゲルマトリックスを作製する方法であって、
アルギネートの溶液を準備する工程と、
60kD未満のMwを有するキトサンを含む溶液を準備する工程と、
前記アルギネートの溶液と前記キトサンの溶液とを混合する工程であって、混合溶液が0.5%(w/v)〜0.7%(w/v)のキトサン及び1%(w/v)〜1.4%(w/v)のアルギネートを含み、
前記混合溶液の液滴をCa2+カチオン又はSr2+カチオンを含む溶液に導入する工程と、
前記カチオンを含む溶液からゲル化ビーズを単離する工程と
を含む、ヒドロゲルマトリックスを作製する方法に関する。
【0020】
本発明の方法の或る特定の実施の形態では、混合溶液の液滴をSr2+イオンの溶液に導入する。
【0021】
本方法の特定の実施の形態では、混合溶液は0.6%のキトサンを含み、かつ/又は1.2%のアルギネートを含む。
【0022】
本発明の方法の特定の実施の形態では、混合溶液中のアルギネートとキトサンとの比率が1.4〜2.8、又は1.75〜2.25、又は約2である。
【0023】
本発明の方法の特定の実施の形態では、キトサンが35kD〜45kDのMwを有し、かつ/又は動物起源若しくは好ましくは植物起源である。
【0024】
本発明の方法の他の特定の実施の形態では、方法はビーズを感熱性ヒドロゲル中に混合する工程を更に含む。ここで、ビーズとヒドロゲルとの比率は例えば5/1〜1/1、又は4/1〜2/1である。
【0025】
本発明の方法の他の特定の実施の形態では、ビーズの形成を、液滴を針に通して直径0.01mm〜5mmのビーズを得ることによって行う。
【0026】
本発明の別の態様は、球状ヒドロゲルビーズであって、キトサンとアルギネートとの均質混合物を含み、上記に記載のような方法によって得ることができる、球状ヒドロゲルビーズに言及する。
【0027】
本発明の別の態様は、直径0.01mm〜5mmの球状ヒドロゲルビーズであって、キトサンとアルギネートとの均質混合物を含み、該ビーズが1%〜1.4%のアルギネート及び0.5%〜0.7%のキトサンを含む、例えば該ビーズが1.2%のアルギネートを含む、又は例えば該ビーズが0.6%のキトサンを含むことを特徴とする、直径0.01mm〜5mmの球状ヒドロゲルビーズに言及する。
【0028】
本発明のビーズの特定の実施の形態では、アルギネート/キトサンの比率は1.4〜2.8、好ましくは1.75〜2.25、最も好ましくは1.8〜2.2である。
【0029】
本発明のビーズの他の特定の実施の形態では、キトサンが35kD〜45kDのMwを有し、かつ/又は動物起源若しくは植物起源である。
【0030】
本発明は、アルギネートと60kD未満のMwを有するキトサンとの均質混合物を含む、直径0.01mm〜5mmの球状ヒドロゲルビーズを含む関節内補充薬であって、該ビーズが1%〜1.4%のアルギネート及び0.5%〜0.7%のキトサンを含むことを特徴とする、直径0.01mm〜5mmの球状ヒドロゲルビーズを含む関節内補充薬にも関する。
【0031】
関節内補充薬は、例えば多糖類ヒドロゲル、特にキトサンヒドロゲルのような粘性熱ゲル化ゲルを更に含み得る。
【0032】
多糖類とは、グルクロン酸及びN−アセチルグルコサミンから構成される繰り返し二糖単位を有するとして知られるヒアルロン酸、アルギネート並びにキトサン等の生体高分子を意味する。
【0033】
キトサンは、キチン及び甲殻類の外骨格の主要構成成分の化学的脱アセチル化によってだけでなく、キノコの細胞壁(mushrooms wall)からも得られる、天然に広く入手可能な多糖類である。キトサンは、D−グルコサミン単位及びN−アセチル−D−グルコサミン単位から構成される。
【0034】
関節内補充薬は、非ステロイド性抗炎症薬、麻酔薬、オピオイド鎮痛薬、コルチコステロイド、抗悪性腫瘍薬、モノクローナル抗体、キメラモノクローナル抗体、ビタミン、ミネラル、栄養補助成分からなる群から選択される成分も含み得る。
【0035】
関節内補充薬は、例えば、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)、例えばジクロフェナク(商標)、イブプロフェン(商標)、ピロキシカム(商標);麻酔薬、例えばリドカイン(商標)及びブピバカイン(商標);オピオイド鎮痛薬、例えばコデイン及びモルヒネ;コルチコステロイド、例えばデキサメタゾン及びプレドニゾン;抗悪性腫瘍剤、例えばメトトレキサート(商標);抗ウイルス剤、例えばアシクロビル(商標)及びビダラビン(商標);モノクローナル抗体、例えばHumira(商標)及びキメラモノクローナル抗体、例えばインフリキシマブ(商標)を含む更なる活性成分又は不活性成分を含有していてもよい。関節内注射用補充薬は、細胞、タンパク質、DNA、ミネラル、例えばセレン、ストロンチウム、ビタミン、例えばトコフェロール、栄養補助成分、例えばクルクミン、又は他の望ましい生物活性物質等の成分を含有していてもよい。
【0036】
本発明は、被験体の関節障害を治療し、関節損傷又は関節疾患(変形性関節症及び外傷性軟骨病変を含む)に伴う痛み及び不快感を軽減する補充法にも関する。
【0037】
かかる関節疾患の例としては、変形性関節症(一次性(特発性)又は二次性)、関節リウマチ、関節損傷(例えば外傷性の又は反復運動による損傷)、軟骨病理(例えば軟骨石灰化症、軟骨軟化症)、敗血症性関節炎が挙げられる。本発明は、かかる疾患に伴う痛みを軽減して、骨及び軟骨の病変部を修復し、疾患の進行を遅らせる方法を更に提供する。
【0038】
関節障害を治療する補充法は、本発明に従って調製される関節内補充薬を投与することを含む。
【0039】
補充法は、治療効果をもたらすのに十分な量の補充薬の単回又は複数回の関節内注射又は埋め込みを含み得る。
【0040】
関節内注射又は埋め込みは、例えば関節鏡検査によって又は注射器等の注射器具を用いて、ヒト又は非ヒト哺乳動物の骨及び/又は軟骨の欠損部において直接行われる。
【0041】
投与部位の例としては、膝、肩、足首、顎関節(temporomandibular)及び手根中手関節、肘、股関節、手首、椎間板が挙げられる。
【0042】
本発明は、1回量の補充薬を有する予充填された単回使用注射器を含む補充デバイスを更に提供する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の方法に従って得られたビーズを示す図である。
【図2】アルギネートビーズの断面を示す図である(A)。キトサン/アルギネートビーズ(キトサン:濃灰色の柱状構造;アルギネート:薄灰色の背景)の断面を示す図である(B)。
【図3】キトサンヒドロゲル中に組み込まれたキトサン/アルギネートビーズを低倍率で示す図である。
【図4】0.6%キトサン/1.2%アルギネートビーズ(マッシュルーム(A. bisporus)キトサン(40kD))を含む感熱性キトサンヒドロゲルの埋め込みを示す図である。
【図5】埋め込みの15日後の埋め込み物の組織学的評価を示す図である。A:軟骨下骨;B:細胞が定着したヒドロゲル;C:細胞が定着したキトサン/アルギネートビーズ;D:キトサンの小腔(lacunae)中に組み込まれた細胞。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の一態様は、ヒドロゲルマトリックスを作製する方法に関する。この方法は、
アルギネートの溶液を準備する工程と、
60kD未満のMwを有するキトサンの溶液を準備する工程と、
前記アルギネートの溶液と前記キトサンの溶液とを混合する工程であって、混合溶液が0.5%(w/v)〜0.7%(w/v)のキトサン及び1%〜1.4%のアルギネートを含み、
前記混合溶液の液滴をCa2+カチオン又はSr2+カチオンを含む溶液に導入する工程と、
前記カチオンを含む溶液からゲル化ビーズを単離する工程と
を含む。
【0045】
本方法によって得られるヒドロゲルは、アルギン酸カルシウム及びキトサンの均質なマトリックスをもたらす。
【0046】
本発明において得られるマトリックスは、或る成分のコアを有し、それが別の成分の層で被覆されている従来技術のマトリックスとは異なる。
【0047】
本発明において得られるマトリックスは、マトリックスの空隙率を、或る特定の程度の空隙率を得るために初めに凍結乾燥されるマトリックスと比較して、より正確に規定することができるという利点を有する。
【0048】
本発明において得られるマトリックスは、アルギネートマトリックス中に均質な網状構造を自発的に形成する低分子量のキトサン(特に15kDA〜50kDA)によって構成されるという利点を有する。
【0049】
実施例の項で示されるように、ヒドロゲルを調製するために使用されるアルギネート及びキトサンを、殺菌効果を有する強アルカリ性又は強酸性の緩衝液に溶解させる。これは本発明の更なる利点である。
【0050】
本発明に従う方法では、アルギネート溶液とキトサン溶液とを混合して、種々の濃度を有するビーズを得ることができる。本発明の特定の実施形態は、カルシウムイオン又はストロンチウムイオンによるゲル化の前の組成が、0.4%(w/v)、0.45%(w/v)、0.5%(w/v)、0.55%(w/v)、0.60%(w/v)、0.65%(w/v)、0.70%(w/v)、0.75%(w/v)又は0.80%(w/v)のキトサンと、それとは独立して0.9%(w/v)、0.95%(w/v)、0.1%(w/v)、0.105%(w/v)、0.11%(w/v)、0.115%(w/v)、0.12%(w/v)、0.125%(w/v)、0.13%(w/v)、0.135%(w/v)、0.14%(w/v)、0.145%(w/v)又は1.5%(w/v)のアルギネートとを含むビーズに関する。特定の実施形態では、キトサンの濃度は0.5%〜0.7%又は0.55%〜0.65%の範囲である。他の特定の実施形態では、アルギネートの濃度は1.%〜1.4%又は1.25%〜1.35%の範囲である。ヒドロゲルの特定の実施形態は、約0.6%のキトサンと約1.2%のアルギネートとを含む。
【0051】
本発明の方法及び組成物の更なる実施形態は、混合溶液中のアルギネートとキトサンとの比率が1.4〜2.8、より具体的には1.5〜2.7、より具体的には1.6〜2.6、又は1.75〜2.25であるヒドロゲル組成物及びそれから得られるビーズに関する。この比率の具体的な値は約1.9、1.95、2.0、2.05及び1である。
【0052】
本発明の方法では、ビーズの平均サイズを、カルシウム溶液又はストロンチウム溶液に導入する液滴を形成するために使用される針の直径を調節することによって適合させ、経験的に決定することができる。ここでは直径0.01mm〜5mmのビーズが想定される。これらの寸法は、取り扱いの容易さと、ビーズ中への栄養素(nutrients)の拡散との折り合いをつける。
【0053】
本発明によるキトサンは、甲殻類(エビの殻)又はイカ等の種々の動物源から単離することができる。代替的には、キトサンは植物起源、より具体的には、ケカビ(Mucoralean)株、ムコール・ラセモサス(Mucor racemosus)及びクニンガメラ・エレガンス(Cunninghamella elegans)、ゴングロネラ・ブトレリ(Gongronella butleri)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、リゾプス・オリーゼ(Rhizopus oryzae)、シイタケ(Lentinus edodes)、ヒマラヤヒラタケ(Pleurotus sajor-caju)、チゴサッカロミセス・ルーキシィ(Zygosaccharomyces rouxii)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)又はマッシュルーム(Agaricus bisporus)等の真菌起源であってもよい。
【0054】
キトサンは更に、様々な分子量で存在する。ここで、キトサンの鎖長はヒドロゲルの三次元構造に関与し得る。本発明において使用される典型的なキトサンは、15kD〜50kD、より具体的には35kD〜45kDの平均分子量を有し得る。
【0055】
上記に記載のようなビーズを製造する方法は、キトサンとアルギネートとの均質混合物を含む球状ヒドロゲルビーズの形成をもたらす。
【0056】
特定の実施形態では、補充薬はビーズと粘性ゲルとによって形成される二相性補充薬材料として調合される。この補充薬はポリマーマトリックス(「ゲル」)と、キトサン及びアルギネートを含む球状三次元ビーズとを含む。
【0057】
これにより、埋め込みの際に宿主の組織又は器官における最適な空間分布を確実にする、埋め込み型又は注射用のゲルを調合することが可能となる。本明細書において、本発明の方法によって調製されるビーズとともに補充薬に通常使用されるゲルは、感熱性ゲルである。これらのゲルは常温で(患者への導入に使用される器具内で)液体のままであるが、約37℃の体内に導入されると固体となる。このin situゲル化によってビーズがその空間分布に維持される。in vitro試験により、37℃に加熱した際にビーズがかかるヒドロゲル中に均質に分布することが実証された。感熱性ヒドロゲルの例としては、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAAm)が挙げられる。その具体的な種類はキトサンである。
【0058】
理論に束縛されるものではないが、マイクロビーズ内のキトサンの網状構造によって、アルギネートのみから作られたビーズよりも圧縮されにくく、圧力に対する抵抗性が高いというような特定の機械的特性がビーズに与えられると考えられる。本発明のマトリックスは、アルギネートゲル内に相互接続したキトサン柱状構造をもたらし、pHが中性の水性媒体をもたらすことによって細胞培養に適した環境を生じる。
【0059】
かかる柱状構造は、アルギネートと混合すると、かご状構造、網状構造又は柱状構造を構築するコアセルベートを形成する不溶性キトサンによって得られる。柱状構造の厚さ及び長さは多様であり、ビーズに表現型安定化、変形能、弾性及び圧縮率等の特定の生物学的特性及び機械的特性を与える。
【実施例】
【0060】
実施例1.アルギネート/キトサンビーズの調製
キトサン(最終0.6%)とアルギネート(最終1.2%)との均質混合物からビーズを調製する。この2つの溶液は混合前に別個に調製する。アルギネート及びキトサンの溶液は以下のように調製する:0.16M NaOH中の2.4%(W/v)アルギネート溶液及び1.666M HAc中の1.333%(w/v)キトサン溶液を調製する。10容量のアルギネート溶液に、1容量の1M Hepes(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸)溶液を添加する。均質化の後、9容量のキトサン溶液を規則的に激しく混合しながら徐々に添加する。このキトサン/アルギネート溶液をゆっくりと25ゲージ針に通して102mM CaCl2溶液(Sigma-Aldrich、ボルネム、ベルギー)中に滴加する。即座のゲル化の後、ビーズを更に10分間このCaCl2溶液中でゲル化させる。顕微鏡スケールでは、キトサン(エオシンによって赤色に染色される)は、様々な厚さ及び長さの柱状構造又は繊維構造から構成されるかご状構造を形成する(図2及び図3を参照されたい)。ここで、その隙間はアルギネート(紫色にヘマトキシリン染色される)によって満たされる。
【0061】
実施例2.感熱性ヒドロゲル中でのビーズの調合
ビーズを植物性(マッシュルーム)キトサンヒドロゲル(Kitozyme、アルール、ベルギー)と混合する。この工程はヒドロゲルのゲル化を回避するために27℃未満で行う。3/1(v/v)というビーズ/ヒドロゲルの比率を用いた。
【0062】
実施例3.動物モデルにおける埋め込み
実施例2に記載のゲルを、関節の軟骨下骨及び軟骨が欠損したウサギに埋め込んだ(図4)。
【0063】
15日間の埋め込みの後に、埋め込み物を評価した(図5)。病変部は埋め込み物で満たされたままである。ビーズ及び粘性ヒドロゲルは、損傷関節への注射の少なくとも2週間後、一定に保たれたままであり、安全性プロファイルを維持している。
【0064】
さらに、埋め込み物に下層の骨髄に由来する細胞が定着していることが観察される。細胞は固定された感熱性キトサンヒドロゲル(B)及びキトサン/アルギネートビーズ(C)(キトサン柱状構造はDで示される)内に見られた。この試験により、この二相性埋め込み物を容易に処理及び移植することができることが確認される。埋め込み物の生分解性によって埋め込み後の漸進的な(progressive)吸収が確実となる。
【0065】
実施例4.ビーズ形成におけるキトサン分子量の影響
種々の分子量の天然キトサンを本発明に従うプロセスに使用した。混合溶液(軟骨細胞を含む)のpH及び粘性等の種々の物理的パラメーターを測定した。得られるヒドロゲルのオスモル濃度は当該技術分野で既知の技法に従って測定する。
【0066】
【表2】

【0067】
混合ビーズは55kDa未満の天然キトサンを用いて作製することができると結論付けた。例えば、91kDAでは、ビーズを本発明に記載のプロセスを用いて作製することができず、アルギネート1.2%及びキトサン0.6%の比率ではキトサン溶液は粘性が高すぎる。したがって、キトサンの分子量の選択は本発明において不可欠な要素である。
【0068】
実施例5:針を用いてヒト被験体又は動物の関節を治療する補充法
針を使用して、関節内補充薬を送達した。関節内投与のために、1ml当たり1000個〜20000個のビーズ(0.1μm〜0.5μm)という密度で、1回の注射につきおよそ1ml〜2mlの容量で補充薬を滑液腔内に送達する。例えば、10000個のビーズ(0.2μm)を含有する1mlの生理的液体(physiological liquid)を、微細(例えば14ゲージ〜22ゲージ、好ましくは18ゲージ〜22ゲージ)針を用いて膝関節に注射する。
【0069】
実施例6:トロカールを用いてヒト被験体又は動物の関節を治療する補充法
トロカールを使用して、補充薬を小〜中程度の軟骨欠損部(1cm2未満)に送達した。埋め込みのために、補充薬を5個〜50個のビーズ(直径1mm〜5mm)という密度でトロカールを通して軟骨内に送達する。例えば、4個のビーズ(直径1mm)を直径0.5cm、深さ1mmの外傷性軟骨病変部に埋め込む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節内補充薬用のヒドロゲルを作製する方法であって、
アルギネートの溶液を準備する工程と、
60kD未満のMwを有するキトサンを含む溶液を準備する工程と、
前記アルギネートの溶液と前記キトサンの溶液とを混合する工程であって、混合溶液が0.5%(w/v)〜0.7%(w/v)のキトサン及び1%(w/v)〜1.4%(w/v)のアルギネートを含み、
前記混合溶液の液滴をCa2+カチオン又はSr2+カチオンを含む溶液に導入する工程と、
前記カチオンを含む溶液からゲル化ビーズを単離する工程と
を含む、関節内補充薬用のヒドロゲルを作製する方法。
【請求項2】
前記混合溶液が0.6%のキトサンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記混合溶液が1.2%のアルギネートを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記混合溶液中のアルギネート及びキトサンが1.75〜2.25の比率で存在する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記キトサンが35kD〜45kDのMwを有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記液滴を針に通して直径0.01mm〜5mmのビーズを得る、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記キトサンが動物起源又は植物起源である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
直径0.01mm〜5mmの球状ヒドロゲルビーズであって、アルギネートと60kD未満のMwを有するキトサンとの均質混合物を含み、該ビーズが1%〜1.4%のアルギネート及び0.5%〜0.7%のキトサンを含むことを特徴とする、直径0.01mm〜5mmの球状ヒドロゲルビーズ。
【請求項9】
1.2%のアルギネートを含む、請求項8に記載のビーズ。
【請求項10】
0.6%のキトサンを含む、請求項8又は9に記載のビーズ。
【請求項11】
前記キトサンが35kD〜45kDのMwを有する、請求項8〜10のいずれか一項に記載のビーズ。
【請求項12】
関節内補充のための請求項8〜11のいずれか一項に記載のビーズの使用。
【請求項13】
アルギネートと60kD未満のMwを有するキトサンとの均質混合物を含む、直径0.01mm〜5mmの球状ヒドロゲルビーズを含む関節内補充薬であって、該ビーズが1%〜1.4%のアルギネート及び0.5%〜0.7%のキトサンを含むことを特徴とする、直径0.01mm〜5mmの球状ヒドロゲルビーズを含む関節内補充薬。
【請求項14】
粘性熱ゲル化ゲル、好ましくはキトサンヒドロゲルを更に含む、請求項13に記載の関節内補充薬。
【請求項15】
前記キトサンが動物起源又は好ましくは植物起源である、請求項13又は14に記載の関節内補充薬。
【請求項16】
非ステロイド性抗炎症薬、麻酔薬、オピオイド鎮痛薬、コルチコステロイド、抗悪性腫瘍薬、モノクローナル抗体、キメラモノクローナル抗体、ビタミン、ミネラル、栄養補助成分からなる群から選択される成分を更に含む、請求項13〜15のいずれか一項に記載の関節内補充薬。
【請求項17】
ヒト被験体又は動物の関節を治療する補充法であって、請求項8〜11のいずれか一項に記載のヒドロゲルビーズの単回又は複数回の関節内投与を含む、ヒト被験体又は動物の関節を治療する補充法。
【請求項18】
請求項8〜11のいずれか一項に記載のヒドロゲルビーズを含有する補充デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−520258(P2013−520258A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554283(P2012−554283)
【出願日】平成23年2月11日(2011.2.11)
【国際出願番号】PCT/EP2011/052020
【国際公開番号】WO2011/104133
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(500029925)ユニベルシテ・ド・リエージュ (18)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LIEGE
【住所又は居所原語表記】Avenue Pre−Aily,4,B−4031 Angleur,Belgium
【出願人】(512222253)キットザイム・ソシエテ・アノニム (1)
【氏名又は名称原語表記】KITOZYME S.A.
【住所又は居所原語表記】Parc Industriel des Hauts−Sarts zone 2,Rue Haute Claire,4,B−4040 Herstal
【Fターム(参考)】