説明

防刃用衣料素材

【課題】高い突き刺し抵抗力を有し、防刃性と柔軟性に優れた防刃用衣料素材を提供するものである。
【解決手段】テキスタイルを芯材1とし、この芯材1を複数枚積層し、芯材1の繊維の太さの1〜2.5倍の太さで、引張強度が12g/d以上の縫合糸5で、積層した芯材の面方向に対し垂直方向から、ミシンで縫合密度60〜200本/cm で縫い合わせ、縫合糸が積層された芯材を垂直方向から、芯材の繊維間の交差点に絡み合って、高密度にパッキングされた状態をとることで、従来耐突き刺し性低下の原因となっている、突き刺し時の繊維組織のズレ、移動を抑制できることから高い突き刺し抵抗力を有する防刃用衣料素材6を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防刃用衣料素材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、身の回りに起こりうる様々な外界からの自然災害や、 社会的事件等の危険から身体を守る衣料用材料のニーズが広く切望されるようになってきた。特に刃物による切創や突き刺しに対して身体を守る防刃用衣料としては、金属、 やセラミック等の硬質の平板を組み込んだ衣料( 特許文献1)や、超高分子量ポリエチレン等などの高強力繊維からなる布帛または、防刃性能を上げるために樹脂含浸や硬質材料を併用した衣料などが提案されている。
【0003】
しかしながら、 硬質の平板を組み込んだ衣料は、衣料として着用する場合には非常に重く、しかも柔軟性に乏しく、その用途は限られたものとなる。また、 高強力繊維からなる布帛で縫製した衣類は、十分な防護性能を確保するためには、厚みを大きくするか、または樹脂含浸や硬質材料との併用をする必要があり、この結果、軽量性と柔軟性が損なわれる問題がある。
【0004】
また、高強力繊維からなる布帛の表面に高硬度セラミック粒子を固着して防護性を高めた防護衣料( 特許文献2)が開発され、これは積層数が減ることで軽量性と柔軟性を損なわない効果を有している。
【0005】
しかしながら、 この高硬度セラミック粒子を固着した防護衣料は、 刃物等による布帛表面の面方向の耐切創性に対しては実用上効果が期待できるが、布帛表面に対して垂直方向の耐突き刺し性に対しては防刃用衣料として実用上の効果が満足できる性能が得られていない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−119906
【特許文献2】特開2000−212808
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題を改善し、高い突き刺し抵抗力を有し、防刃性と柔軟性に優れた防刃用衣料素材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1記載の防刃用衣料素材は、テキスタイルまたは一方向引き揃え材を芯材とし、この芯材を複数枚積層し、芯材の繊維の太さの1〜2.5倍の太さで、引張強度が12g/d以上の縫合糸で、積層面方向に対し垂直方向から、縫合密度60〜200本/cm で縫い合わせたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明の請求項2記載の防刃用衣料素材は、テキスタイル(織物、編み物、不織布等)または一方向引き揃え材を芯材とし、この芯材を複数枚積層し、衣服パーツを、芯材の繊維の太さの1〜2.5倍の太さで、かつ引張強度が12g/d以上の縫合糸で、積層面方向に対し垂直方向から、縫合密度60〜200本/cmで必要とされる防刃性能に合わせて粗密に縫い合わせたことを特徴とするものである。
【0010】
本発明の請求項3記載の防刃用衣料素材は、請求項1または2において、芯材を、経糸に対して積層角度をずらせて複数枚積層したことを特徴とするものである。
【0011】
本発明の請求項4記載の防刃用衣料素材は、請求項1または2において、縫合糸を積層面方向に対してジグザク状に縫い合わせて、縫合パターン同士が互いに交差しながら縫合することで、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る請求項1記載の防刃用衣料素材によれば、芯材を複数枚積層し、繊維の太さと引張強度を規定した縫合糸で、縫合密度60〜200本/cm で縫い合わせることにより、縫合糸が積層された芯材を垂直方向から、芯材の繊維間の交差点に絡み合って、高密度にパッキングされた状態をとる。これにより従来耐突き刺し性低下の原因となっている、突き刺し時の繊維組織のズレ、移動を抑制できるので10kgf以上の突き刺し抵抗力を有する防刃用衣料素材を得ることができる。
【0013】
また請求項2記載の防刃用衣料素材によれば、防刃性を要求される部分だけに積層した芯材が高密度にパッキングされた状態で縫い合わされると共に、引張強度の大きい縫合糸が面方向および垂直方向に芯材を保持することで高密度に配置されているので、全体として軽量で柔軟性のある防刃用衣料が得られる。
【0014】
また請求項3記載の防刃用衣料素材によれば、芯材を、経糸に対して積層角度をずらせて複数枚積層したので、防刃性に異方性がなく、面方向全体に均一な柔軟性が得られる。
【0015】
また請求項4記載の防刃用衣料素材によれば、縫合糸を積層面方向に対してジグザク状に縫い合わせて、縫合パターン同士が互いに交差しながら縫合されているので、縫合糸が積層された芯材を垂直方向から、芯材の繊維間の交差点に絡み合って、高密度にパッキングされた状態をとる。これにより従来耐突き刺し性低下の原因となっている、突き刺し時の繊維組織のズレ、移動を抑制でき、また面方向に対して均一な柔軟性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の芯材1として用いるテキスタイルとしては、図1に示すように織物2や編物、不織物、レース等があり、また一方向引き揃え材(UD材)を使用することができる。また芯材1は図3に示すように複数枚積層するが、この場合、経糸3に対して積層角度をずらせて複数枚積層しても良い。この積層角度は15°〜75°の範囲で、ずらせながら重ねて積層すると、面方向全体に均一な柔軟性が得られる。
【0017】
また積層した芯材1を図4に示すようにミシンで積層面方向に対し垂直方向から縫合糸5で縫合する。ミシンによる縫合は、図2に示すように波形の上糸5Aと下糸5Bが引っ掛った状態で縫い合わされる。この縫合糸5の太さは、芯材1となるテキスタイルや一方向引き揃え材を構成する繊維、すなわち経糸3と緯糸4の太さの1〜2.5倍の太さで、且つ引張強度が12g/d以上のものを用いる。
【0018】
この場合、縫合糸5の太さが繊維の太さの1倍未満であると、十分な防刃性能を得るためには、単位面積あたりの縫合数を上げる必要があり作業効率が低下する。また縫合糸5の太さが繊維の太さの2.5倍を越えると芯材1の地糸が破れて、縫合糸5を保持する芯材1としての機能と縫合後の十分な防刃性能が得られなくなるので上記範囲が望ましい。また縫合糸5の引張強度が12g/d未満であると、刃物による面方向にスライドする切れや垂直方向の突き刺しに対して防刃性が低下する。
【0019】
また積層した芯材1にミシンで縫合する、縫合密度は60〜200本/cm の範囲が望ましく、この範囲で10Kgf以上の突き刺し抵抗力を得ることができる。この場合、縫合密度は60本/cm 未満では突き刺し抵抗力が小さく、また200本/cm を超えると、ミシンでの縫合が機械的に困難になる。また縫合方法としては、直線縫いでも良いが、図5に示すように積層面方向に対してジグザク状に縫い合わせて、縫合パターン同士が互いに交差しながら縫合すると、縫合糸が積層された芯材を垂直方向から、芯材の繊維間の交差点に絡み合って、高密度にパッキングされた状態をとり、突き刺し時の繊維組織のズレ、移動を抑制し防刃性が向上すると共に、面方向に対して均一な柔軟性が得られる。
【0020】
このように、芯材1を複数枚積層し、繊維の太さの1〜2.5倍の太さで、引張強度が12g/d以上の縫合糸で、積層面方向に対し垂直方向から、縫合密度60〜200本/cm で縫い合わせることにより、縫合糸5が芯材1の経糸3と緯糸4との交差点、若しくは不織物の場合には繊維同士が絡み合った芯材1に対して、引張強度の大きい縫合糸5が面方向および垂直方向の芯材1を高密度に保持、配置することにより、両者が高密度にパッキングされた状態となるため突き刺し時の繊維組織のズレ、移動が抑制されて防刃性が向上することから10Kgf以上の突き刺し抵抗力を有する防刃用衣料素材6を得ることができる。
【0021】
更に本発明は、複数枚積層した芯材の、見頃、 袖、 ポケット、 衿、 ラペル、 前立て等の衣服パーツに対して、芯材の繊維の太さの1〜2.5倍の太さで、かつ引張強度が12g/d以上の縫合糸で、積層面方向に対し垂直方向から、縫合密度60〜200本/cm で縫い合わせた防刃用衣料素材についても適用することができる。さらに、衣服パーツの内部において、縫合密度を粗密に調整することで、必要とされる防刃性を、自在に形成することができることから、全体として軽量で柔軟性のある防刃用衣料が得られる。
【実施例】
【0022】
以下本発明の実施例について説明する。経糸3として超高分子量ポリエチレン糸(商標名ダイニーマ 東洋紡社製)200d,20本/cm、緯糸4として超高分子量ポリエチレン糸(商標名ダイニーマ 東洋紡績社製)400d,20本/cmの平織りの織物2を用い、これを5枚積層した。また縫合糸5としてパラ系アラミド繊維(商標名テクノーラ 帝人社製)400d/1×2の引張強度26.3g/dを用いた。また縫合密度Mは16本/cm 、45本/cm 、67本/cm 、90本/cm 、111本/cm 、125本/cm 、167本/cm で、積層面方向に対してジグザク状に縫い合わせて、縫合パターン同士を互いに交差させながら縫合した。この条件で縫合した防刃用衣料素材6について、アイスピックを用いた突き刺し抵抗力を測定((株)島津製作所 万能抗張力試験機AGS−10KNG 移動速度10cm/min ミシン針#22)し、その結果を図6のグラフに示した。
【0023】
図6のグラフから縫合密度は60本/cm以上で、突き刺し抵抗力10Kgf以上得られることが確認できた。また縫合密度が167本/cm の防刃用衣料素材6について、突き刺し抵抗力は26Kgfでその厚みを測定したところ2mmであり、その単位厚み当りの突き刺し抵抗力は13Kgf/mmであった。これに対して、従来のステンレス板を組込んだ防刃用衣料素材と、高強力繊維からなる布帛の表面に高硬度セラミック粒子を固着した防刃用衣料素材についても突き刺し抵抗力と厚み、および単位厚み当りの突き刺し抵抗力を比較し、その結果を表1に示した。
【0024】
【表1】



【0025】
上表の結果から、従来技術1のステンレス板を組込んだ防刃用衣料素材の突き刺し抵抗力は高いが、衣料として着用する場合には非常に重く、しかも柔軟性がない。また従来技術2のセラミック粒子を固着した防刃用衣料素材は、突き刺し抵抗力が小さく、厚くなる問題がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(A)は本発明の芯材となる織物の平面図、(B)はその断面図である。
【図2】ミシンにより縫合する状態を示す説明図である。
【図3】芯材となる織物を複数枚積層した状態を示す断面図である。
【図4】織物を複数枚積層して縫合糸で高密度に縫い合わせた防刃用衣料素材の断面図である。
【図5】複数枚積層した織物を縫合糸でジグザク状に縫い合わせている状態を示す平面図である。
【図6】縫合密度と突き刺し抵抗力の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0027】
1 芯材
2 織物
3 経糸
4 緯糸
5 縫合糸
5A 上糸
5B 下糸
6 防刃用衣料素材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テキスタイルまたは一方向引き揃え材を芯材とし、この芯材を複数枚積層し、芯材の繊維の太さの1〜2.5倍の太さで、引張強度が12g/d以上の縫合糸で、積層面方向に対し垂直方向から、縫合密度60〜200本/cm で縫い合わせたことを特徴とする防刃用衣料素材。
【請求項2】
テキスタイルまたは一方向引き揃え材を芯材とし、この芯材を複数枚積層し、衣服パーツの防刃性が要求される部分に対して、芯材の繊維の太さの1〜2.5倍の太さで、引張強度が26.3g/d以上の縫合糸で、積層面方向に対し垂直方向から、縫合密度60〜200本/cm で縫い合わせたことを特徴とする防刃用衣料素材。
【請求項3】
芯材を、経糸に対して積層角度をずらせて複数枚積層したことを特徴とする請求項1または2記載の防刃用衣料素材。
【請求項4】
縫合糸を積層面方向に対してジグザク状に縫い合わせて、縫合パターン同士が互いに交差しながら縫合されていることを特徴とする請求項1または2記載の防刃用衣料素材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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