説明

防弾用装具

【課題】身体の運動性を確保した上で、着用者の下面ないしは側面側からの銃弾、爆発による弾片から着用者の下腹部ないしは鼠径部を有効に防護できるようにした。
【解決手段】二重布製の着衣前部12及び着衣後部14からなるパンツ形着衣10と、前記着衣10の二重内部に着脱可能に挿通され、かつ身体屈伸部位を区画線として複数分割された状態で着衣全体を覆う複数の可撓性防弾パネル片42,44,46とを備え、着衣前部12の中央における局所開口部は、スライドファスナ54を介して開閉可能に閉止されているとともに、その前面には着衣前部12の上縁をヒンジとし、かつ前記防弾パネル片を内蔵する二重の局部保護体30によって開閉可能に覆わしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治安維持活動や防災活動に使用される防弾用装具に関し、特に着用者の下腹部ないし鼠径部を主として防護する装具に関する。
【背景技術】
【0002】
治安維持活動や、防災活動などにおいて、活動にたずさわる隊員の身の安全を図るための装具として、防弾チョッキが知られている。この防弾チョッキは、銃弾や弾片があたった際の身の保全を図るもので、致命的損傷部位となる身体前後部の胸部を覆うものである。
【0003】
また、この種の防弾チョッキでは、従来は図5に示すように、防弾チョッキ1の下部に前垂状の下腹部用防弾帯2を取付けたものもある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、該種防弾帯2を付加した防弾チョッキ1では、着用者の下面側や側面から飛んでくる銃弾の弾片や、爆発物の破片などに対しては下腹部や股の付け根部にあたる鼠径部を完全防護することが出来ず、あたった部位によっては致命的な損傷を負うおそれがあった。
【0005】
また、前記防弾帯2は、単にチョッキ1の下部に垂下状態に延長しているだけで、特に固定もされていないため、身体活動に支障が生じやすかった。
【0006】
本発明は、以上の課題を解決するものであって、その目的は身体の運動性を確保した上で、着用者の下面ないしは側面側からの銃弾、あるいは爆発物による弾片や破片から着用者の下腹部ないしは鼠径部を有効に防護できるようにした防弾用装具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明の防弾用装具は、二重布製の着衣前部12及び着衣後部14からなるパンツ形着衣10と、前記着衣10の二重内部に着脱可能に挿通され、かつ身体屈伸部位を区画線として複数分割された状態で着衣全体を覆う複数の可撓性防弾パネル片42,44,46とを備えたことを特徴としている。前記着衣10は、体側部両側で前後2分割され、かつ両体側部を紐部材20によって連結した二重布製の着衣前部12及び着衣後部14からなる構成とすることができる。
【0008】
また、本発明は、前記着衣10の裏地にスリットを形成し、該スリットを通じて前記可撓性防弾パネル片を二重織状内部に形成された複数のポケット部60aに挿通するものであることを特徴としている。
【0009】
さらに本発明は、前記各防弾パネル片は、面ファスナ28を介して前記ポケット部60a内部に着脱可能に貼付け固定されるものであることを特徴としている。
【0010】
さらにまた本発明は、前記着衣前部12の中央における局所開口部は、スライドファスナ54を介して開閉可能に閉止されているとともに、その前面には着衣前部12の上縁をヒンジとし、かつ前記防弾パネル片を内蔵する二重の局部保護体30によって開閉可能に覆われるとともに、前記局部保護体30の装着状態で、局部保護体30及び着衣前部12にそれぞれ取付けられたバックル36及びバックル受け32を介して前記着衣前部12に密着状態に固定されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、パンツ状着衣の二重織内部には身体屈伸位置を区画線として各防弾パネル片を分割配置されているため、防弾パネル片自体の可撓性に加え、区画線を節として身体が自由に屈伸できるため、着用者の運動性を妨げることがない。また着衣の全体に防弾パネル片が配置されているため、特に着用者の下面ないしは側面からの弾丸や弾片に対する防護性が増すものとなる。
【0012】
また、使用後は防弾パネル片をスリットから引抜いて、着衣のみを洗濯すればよいため、衛生的である。
【0013】
さらに、防弾パネル片の挿通状態では面ファスナによりそれぞれの正規位置に固定されるため、内部での移動がなく、ずれによる区画線のずれやこれに伴う脆弱部位が生ずることを未然に防止できる。
【0014】
またさらに、局部保護体は、通常状態ではバックルで着衣に固定されているため、着用者の運動の妨げとならず、また着用者が小用を催した場合に、バックルを外せば簡単に保護体を明けることができるため、小用に手間取ることがない。さらに、局部保護体と着衣前部との二重の可撓性防弾パネルにより、人体の要部を保護しており、防護性が一層向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の最良の実施形態につき、添付図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明に係る防弾用着衣、及び図2は同着衣に組付けられる防弾パネル片を示している。
【0016】
図1において、防弾用着衣10は、ズボンなどの上に重ね着されるボクサーパンツ形をなすもので、内股部分で縫合により一体化され、かつ両体側部で前後2分割された二重織乃至二重重ね合わせによる二重の着衣前部12及び着衣後部14と、着衣前後部12,14の両体側部に沿って縫合された連結帯6と、連結帯16に多数設けたハトメ18を通して着衣前後部12,14の体側部を編みひも状に縫合することによってパンツ形に結合するための紐部材20と、着衣前後部12、14の上縁にそれぞれ一体に縫合された腰帯22,24とを備えている。
【0017】
前記着衣前部12の腰帯22は、互いに重合し、その重合部中央をホック26により取付・取外し可能に二分されているとともに、外側の重合部先端を内側の腰帯22に雌雄の面ファスナ28を介して着脱可能に固定されている。
【0018】
重合状態で外側となる腰帯22の下縁には、逆台形状の局所保護体30が縫合され、腰帯22の下部に垂下されている。
【0019】
局所保護体30は、着衣前後部12,14と同様に二重織状をなすものであって、その下部両側には図の一部に拡大して示すように、一対のバックル受け32が逢着により取付けられている一方で、このバックル受け32は、着衣前部12の下部両側に逢着された長さ調整用テープ34の先端に設けたバックル36に係脱可能に連結されるものであり、連結状態で、前記保護体30は着衣前部12の中央部前面に密着状態に固定される。
【0020】
また、着衣後部14の上縁に設けた腰帯24は、両体側部から延長され、この延長部24aを前部着衣前部12の腰帯22側に回し、前記と同じく雌雄の面ファスナ28によって腰帯24側に固定するようになっており、この延長部24aと前記紐部材20による締付け調整によって着衣10を着用者の体型にフィットさせるようになっている。
【0021】
なお、図1中符号38は、着衣後部14の腰テープ36の中央及び左右に形成された後部ベルト通し、40は着衣前部12の腰帯22の左右下縁に逢着された一対の前部ベルト通しであり、実際にベルトを通す際には、ベルトを後部ベルト通し38に通し、その後前部ベルト通し40を起してベルトに通すようになっている。
【0022】
図2において、前記着衣10に装着される防弾パネル片42、44、46は、ケブラーなどの高強度、高耐熱性高分子繊維からなる強度と伸びを有する所定厚みの織布の重ね合わせにより形成される可撓性防弾素材48を身体各部に合わせて切断したものを薄い布地50で包囲したものである。この防弾パネル片42、44、46は、前記保護体30の内部に装着される防弾パネル片42と、着衣前部12の身体屈伸位置を基準にその形状に応じて、腰部から太もも部分を覆う左右一対の前部防弾パネル片44、及び着衣後部14の内部に配置される左右一対の後部防弾パネル片46とに分割形成されている。
【0023】
そして、これら防弾パネル片42,44,46の表面には面ファスナ28が縫合され、着衣10及び局所保護体30の二重織内側に設けた後述する面ファスナに噛合することによって、着衣10及び保護体30の内部に固定されるようになっている。
【0024】
図3は、前記着衣前部12の局所保護体30を上部に折返した状態を示し、この状態で着衣前部12の中心位置にはスライドファスナ54が露出し、図の一部に拡大して示すように、このファスナ54に設けた上下一対のスライダー56の一方を移動することによって、着衣前部12の中央を開閉可能としている。従って着用者が小用を催した際には、バックル34を外して保護体30を上げ、ファスナ54を開口することで、ここから局部を取出して小用を行うことが可能となる。
【0025】
なお、図では保護体30全体を上に上げた状態を示しているが、ここまで行うことなく、一方のバックル34を外して保護体30を着衣前部12の中央位置からはずさせば、ファスナ54を明けることができる。
【0026】
また、前記保護体20を上部側に裏返した状態では、同図3に示すように、保護体30の裏面にはスリット60が露出する。
【0027】
スリット60は、二重織状の裏生地を一部重複した状態で開口させたもので、図の一部に断面して示すように、表地との間に形成される収納空間、すなわちポケット部60aへの差込口となるもので、通常このスリット60はこの近辺に設けた面ファスナ28同士の噛合により塞がれ、これをこじ開けることによりポケット部60a内への防弾パネル片42の抜差し動作が可能となる。
【0028】
なお、装着作業にあたっては、前記防弾パネル片42が保護体30に対して逆台形状となっているため、差込にくいものの、各部を可とう変形させつつ押込むことが出来、押込んだ状態では保護体30の外形に沿った平坦形状となる。また、装着状態では、裏生地側に縫合した面ファスナ28に防弾パネル片42側の面ファスナ28が噛合し、保護体28の内部に固定されるものとなる。
【0029】
同様にして、前部側防弾パネル片44は着衣前部12の裏面両側に形成されたスリットを通じてその二重織内部のポケット空間に挿通され、面ファスナ28を介してそれぞれの所定部位に固定される。また後部パネル片も着衣後部14の裏面両側に形成されたスリットを通じてその二重織内部のポケット空間家内に挿通され、面ファスナ28を介してそれぞれの所定部位に固定される。
【0030】
なお、これら前後の防弾パネル片44,46の固定構造は前記局所保護体30に対する防弾パネル片42の取付構造と類似しているため、図示は省略するが、取付状態では面ファスナ28を介して着衣10の二重織状内部に強固に固定される。
【0031】
また、これら防弾パネル片44,46は、図2においては、展開形状に形成されているが、着衣前後部12、14に装着した状態ではその曲面に応じた形状に可撓変形し、それぞれの縁部を身体屈曲部位に沿った区画線として一部重畳した状態で取付けられ、前記局部保護体30の防弾パネル片42とともに、着衣10の内部を完全に覆うのである。
【0032】
そして、各防弾パネル片42,44,46は鼠径位置における屈伸部位で一部重畳した状態でほぼその外形線に沿って区画されるため、この部分が節となり、各防弾パネル片42,44,46の可撓性と相まって着用者の身体活動の自由度を得られることになるのである。
【0033】
図4は、一般的なズボン、70及びシャツ72を着た着用者[イ]がそれらズボン70及びシャツ72の上に、以上の各防弾パネル片42,44,46を内部に配置した防弾用着衣10とともに、防弾チョッキ1を着込んだ状態を示す。この場合には、通常の服飾に比べてやや着ぶくれ状態となることは避けられないが、腰帯22,24の取付位置調整や、紐部材20の緊縮調整及び腰帯22,24上に掛け回されたベルト74の締付けなどにより、着用者[イ]の体型に応じた体型となり、視覚的な違和感は生ずることがなく、運動性を確保できるとともに、胸部から鼠径部に至る身体全体を、爆破による弾片や銃弾から防護でき、着用者[イ]の安全性を確保できることになるのである。
【0034】
また、着用者[イ]の身体活動に伴う発汗作用により、防弾用着衣10には、汗などが多量にしみこむが、使用後に前記着衣10から防弾パネル片42,44,46を抜取れば、着衣10のみ繰返し洗濯することができるため、衛生状態を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る防弾用着衣の前後部を示す正面図及び背面図である。
【図2】防弾用着衣の各部に装着される防弾パネル片を示す展開図である。
【図3】着衣前部の上部に局部保護体を折返した状態の一部拡大部分を含む正面図及び同図のA−A線における部分断面図である。
【図4】同防弾用装具を防弾チョッキとともに着込んだ着用者を示す姿図である。
【図5】従来の下腹部用防弾帯を設けた防弾チョッキの正面図である。
【符号の説明】
【0036】
10 防弾用着衣
12 着衣前部
14 着衣後部
28 面ファスナ
30 局部保護体
32 バックル受け
36 バックル
42.44,46 防弾パネル片
54 スライドファスナ(局所開口部)
60a ポケット部(収納空間)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重の着衣前部及び着衣後部からなるパンツ形着衣と、前記着衣の二重内部に着脱可能に挿通され、かつ身体屈伸部位を区画線として複数分割された状態で着衣全体を覆う複数の可撓性防弾パネル片とを備えたことを特徴とする防弾用装具。
【請求項2】
前記着衣は、体側部両側で前後2分割され、かつ両体側部を紐部材によって連結した構造であることを特徴とする請求項1記載の防弾用装具。
【請求項3】
前記防弾パネル片は、高強度、高耐熱性高分子繊維織布の重ね合わせによる所定厚みの可撓性のあるシート状体であることを特徴とする請求項1又は2記載の防弾用装具。
【請求項4】
前記着衣の裏地にスリットを形成し、該スリットを通じて前記可撓性防弾パネル片を二重内部に形成された収納空間を構成する複数のポケット部に挿通するものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の防弾用装具。
【請求項5】
前記各防弾パネル片は、面ファスナを介して前記ポケット部内に着脱可能に貼付け固定されるものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の防弾用装具。
【請求項6】
前記着衣前部の中央における局所開口部は、スライドファスナを介して開閉可能に閉止されているとともに、その前面には着衣前部の上縁をヒンジとし、かつ前記防弾片を内蔵する二重織の局部保護帯によって開閉可能に覆われるとともに、前記局部保護帯の装着状態で、局部保護帯及び着衣前部にそれぞれ取付けられたバックル及び受け部材を介して前記着衣前部に密着状態に固定されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の防弾用装具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−198673(P2007−198673A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−17946(P2006−17946)
【出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(390014306)防衛省技術研究本部長 (169)
【Fターム(参考)】