説明

防水性セメント混和材及びセメント組成物

【課題】セメントコンクリートの防水性が向上する防水性セメント混和材及びセメント組成物を提供する。
【解決手段】(1)炭酸化混和材と撥水剤とを含有してなる防水性セメント混和材、(2)炭酸化混和材が、γ−2CaO・SiOを含有する(1)の防水性セメント混和材、(3)炭酸化混和材が、ブレーン比表面積値2000cm/g以上である(2)の防水性セメント混和材、(4)セメントと、(1)〜(3)のいずれかの防水性セメント混和材とを含有してなるセメント組成物を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、土木分野、建築分野に使用するセメントコンクリートの防水性を促進するセメント混和材及びセメント組成物に関する。
なお、本発明でいうセメントコンクリートとはモルタル、コンクリートを総称するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、セメントコンクリートの防水性を促進させる方法としては、水/セメント比をできる限り小さくするため、JIS A 6204「コンクリート用化学混和剤」で規定されているように、減水剤や高性能減水剤を使用することが一般的に普及している。
【0003】
一方、水/セメント比の低減によらず、例えば、カルシウムサルホアルミネート化合物と活性シリカ質物質を含有してなる混和材、カルシウムサルホアルミネート類と潜在水硬性物質とを有効成分とする防水材を使用してセメントコンクリートの防水性を高める方法が提案されている(特許文献1、2参照)。また、撥水剤を充填材(骨材)に被覆すること(特許文献3参照)や、撥水剤をセメントコンクリート硬化体の表面に塗布することが行われている(特許文献4参照)。しかしながら、撥水剤をセメントに混合することは行われていない。また、ひび割れの自己治癒能力を有する材料としてγ型二珪酸カルシウムが知られている(特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−88451号公報
【特許文献2】特許第2899066号公報
【特許文献3】特開平1−317140号公報
【特許文献4】特開平2004−231488号公報
【特許文献5】特許第4057970号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、コンクリートの防水性を増進させるセメント混和材及びセメント組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、(1)炭酸化混和材と撥水剤とを含有してなる防水性セメント混和材、(2)炭酸化混和材が、γ型2CaO・SiOを含有する(1)の防水性セメント混和材、(3)炭酸化混和材が、ブレーン比表面積値2000cm/g以上である(2)の防水性セメント混和材、(4)セメントと、(1)〜(3)のいずれかの防水性セメント混和材とを含有してなるセメント組成物、である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の防水性セメント混和材及びセメント組成物を使用することにより、反応がほぼ終了する長期材齢でひび割れが発生し漏水した場合にもセメントコンクリートの防水性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】コンクリート試験体の断面図
【図2】コンクリート試験体の側面図
【図3】断面側配筋図
【図4】側面側配筋図
【図5】割裂試験体の断面図
【図6】割裂試験体の側面図(図1〜6の数値の単位はmm)
【符号の説明】
【0009】
1:コンクリート試験体
2:注水孔(水圧0.2kg/cm
3:フープ鉄筋(φ6mm)
4:ストレート鉄筋(φ6mm)
5:割裂時のひび割れ位置
6:ひび割れにより注水した時の透水位置
7:割裂時の載荷点
8:ひび割れの止水面
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における部や%は特に限定のない限り質量基準である。
【0011】
本発明で使用する炭酸化混和材とは、CaO原料とSiO原料とを混合して熱処理して得られる、γ−2CaO・SiO(γ−CSと略記)を含有するものである。熱処理温度は特に限定されないが、通常1,200〜1,800℃程度である。冷却方法も特に限定されるものではない。急冷することは好ましくないが、特別な冷却条件が必要というわけではなく、自然放冷で十分である。
γ−CSの含有量は防水性を発現するためには55%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。不純物の存在も特に限定されるものではなく、β−2CaO・SiO(β−CSと略記)、トライカルシウムシリケートの3CaO・SiO(CSと略記)、ランキナイトの3CaO・2SiO(Cと略記)及び/又はワラストナイトのCaO・SiO(CSと略記)等が混在していても良い。
γ−CSを含有する炭酸化混和材のブレーン比表面積値(以下、ブレーン値という)は2000cm/g以上であることが好ましく、4000〜8000cm/gがより好ましい。ブレーン値が8000cm/gを超えると粉砕動力が必要であり不経済である。2000cm/g未満では防水性の増進が期待できない場合がある。
【0012】
本発明で使用される撥水剤は、粉体を包み込み撥水するものであれば使用可能であり特に限定されるものではないが、例えば、流動パラフィン、スクワラン、パラフィン、ワセリン等炭化水素類、ミツロウ、ホホバ油、カルナバロウ等のロウ類、トリイソステアリン酸グリセリル、トリオクタン酸グリセリル、等のトリグリセリド、ミリスチン酸イソセチル、パルミチン酸セチル等エステル油、セタノール、ステアリルアルコール等の高級アルコール類、オリーブ油、ヒマシ油等の植物油類、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ミリスチン酸、イソステアリン酸等脂肪酸類が挙げられる。その中で特に脂肪酸類を用いることが好ましい。撥水性による保護被膜は粉体を包み込むことによって練り混ぜ時に水との接触を防止し、これにより反応を抑制する。この保護被膜は、ひび割れ部分を長時間通る水により破壊され、粉体粒子の表面が露出し、反応が開始する。
【0013】
本発明の防水性セメント混和材中の各成分の使用量は、特に限定されるものではないが、防水性増進の観点から、撥水剤の使用量は炭酸化混和材100部に対して0.5〜8部が好ましく、1〜5部がより好ましい。0.5部未満では十分な防水性の増進が得られない場合があり、7部を超えても防水性の増進が期待できない場合がある。
【0014】
本発明の防水性セメント混和材の使用量は、防水性増進の観点から、セメントと防水性セメント混和材とからなるセメント組成物100部中、5〜35部が好ましく、15〜25部がより好ましい。5部未満では防水性の増進が得られない場合があり、35部を超えても防水性の増進が期待できない。
【0015】
本発明で使用するセメントは、特に限定されるものではなく、通常のセメントが使用可能であり、具体的には、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、又はシリカを混合した各種混合セメントや、石灰石粉末や高炉徐冷スラグ微粉末を混合したフィラーセメント、廃棄物利用型セメント、いわゆるエコセメント等が挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上が併用可能である。
【0016】
本発明では、本発明のセメント、防水性セメント混和材の他に、砂、砂利等の骨材、さらに、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE剤、増粘剤等のうちの一種又は二種以上を本発明の目的を阻害しない範囲で併用することが可能である。
【0017】
本発明の防水性セメント混和材の成分は、混合又は混合粉砕される。混合装置としては、既存のいかなる撹拌装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、V型ミキサ、ヘンシェルミキサ、及びナウタミキサ等が使用可能である。
また、セメント組成物の混合装置としては、既存のいかなる撹拌装置も使用可能であり、例えば、強制二軸ミキサ、傾胴ミキサ、オムニミキサ等が使用可能である。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【0019】
<使用材料>
撥水剤A:ステアリン酸カルシウム(試薬)
撥水剤B:ステアリン酸ナトリウム(試薬)
炭酸化混和材:γ−CS(90%)、β−CS(5%)、C(3%)、ブレーン値4080cm/g
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品、比重3.16
細骨材:新潟県姫川産天然砂、密度2.62
粗骨材:新潟県姫川産砕石、最大寸法20mm、密度2.64
減水剤:スーパー300K−102(グレースケミカルズ社製)
【0020】
「実験例1」
撥水剤A、Bと炭酸化混和材を表1に示す配合で混合して調製した防水性セメント混和材を、セメントと防水性セメント混和材とからなるセメント組成物100部中、防水性セメント混和材を15部配合してセメント組成物を調製した。コンクリート中の各種材料の単位量をセメント組成物330kg/m、砂816kg/m、砂利969kg/m、水176kg/m、減水剤2.64kg/mとした。作製したコンクリートは材齢6ヶ月間20℃水中で養生を行い、その後に透水試験を実施した。透水試験は、試験開始直後から24時間後迄の透水量と、試験開始後91日目から24時間後迄の透水量を測定した。
結果を表1に併記する。
【0021】
<コンクリートの作製と透水試験の方法>
(1)練混ぜ装置は、50リットル二軸強制ミキサを使用。
(2)材料投入は、砂、砂利、セメント、セメント混和材を同時に投入し、空練り30秒を行い、その後、水、減水剤を投入し、90秒練り混ぜる。
(3)試験体作製は、φ150mm×300mm型枠を使用し中央部にφ2cmの鋼棒をセットし、硬化後に抜き取る(図1、2)。
(4)型詰はテーブルバイブレーターを用いて1層詰めを行う。
(5)試験体寸法は図3、4に示す鉄筋を配筋したφ150mm×150mm(図1、2)とする。
(6)透水試験は、図1、2に示すコンクリート試験体を図5の載荷点7に示す割裂試験(JIS A 1113に準じた)の要領で試験体に図5、6に示す5の位置にひび割れ幅0.2mmを発生させる。
(7)ひび割れ幅はπ型ゲージを使用し調整した。円周側のひび割れ(図6の6)から透水するように試験体端部上下のひび割れ(図5の5)と図6の8の片方の穴(図2の8)は接着剤を使用し塞ぐ。
(8)20kPa(0.2kg/cm)の水圧をかけて透水量を測定する。
(9)透水試験開始後91日目から24時間後迄のコンクリートの透水量(A)を透水試験開始直後から24時間後迄のコンクリートの透水量(B)で除した数値を漏水率とする。
漏水率(%)=(A)/(B)×100
【0022】
【表1】

【0023】
「実験例2」
炭酸化混和材と撥水剤からなる防水性セメント混和材の配合は実験No.1-6と同様にし、表2に示す炭酸化混和材のブレーン値を調製した防水性セメント混和材を使用したこと以外は実験例1と同様に実施した。結果を表2に併記する。
【0024】
【表2】

【0025】
「実験例3」
炭酸化混和材と撥水剤の防水性セメント混和材の配合は実験No.1-6と同様にし、表3に示すようにγ−CSの含有量を調製した炭酸化混和材を使用したこと以外は実験例1と同様に実施した。結果を表3に併記する。
【0026】
【表3】

【0027】
「実験例4」
炭酸化混和材と撥水剤からなる防水性セメント混和材の配合は実験No.1-6と同様にし、表4に示すように防水性セメント混和材の添加量を調製したこと以外は実験例1と同様に実施した。結果を表4に併記する。
【0028】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の防水性セメント混和材及びセメント組成物を使用することにより、セメントコンクリートの防水性が著しく向上するので、土木、建築分野において幅広く適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸化混和材と撥水剤とを含有してなる防水性セメント混和材。
【請求項2】
炭酸化混和材が、γ−2CaO・SiOを含有する請求項1に記載の防水性セメント混和材。
【請求項3】
炭酸化混和材が、ブレーン比表面積値2000cm/g以上である請求項2に記載の防水性セメント混和材。
【請求項4】
セメントと、請求項1〜3のいずれか1項に記載の防水性セメント混和材とを含有してなるセメント組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−111640(P2012−111640A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259155(P2010−259155)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】