説明

防汚塗料

【課題】船の運航経済に著しく悪影響を与える船底汚損の原因となる船底への貝類等の生物付着を防止すると共に腐食を防止することを目的とする。
【解決手段】 防汚塗料は、電荷移動錯体(CT錯体)を公知の船底塗料に添加し、該塗料を船底に塗布することにより貝類等の生物付着を防止するとともに、腐食をも同時に防止することを特徴とする。電荷移動錯体の含有量は、たとえば、塗料固形分に対して、1%から50%である。電荷移動錯体の粒径は、50nmから20μm等である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚塗料にに関し、より具体的には鋼船、FRP船、木船等の各種材料からなる船舶の船底、水中構造物、養殖用網を含む各種魚網、浮標、工業用水系設備等への海中生物の付着、あるいは海藻類の付着を防止することができ、生物付着防止塗料として好適に用いられる防汚塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船舶や水中構造物、魚網等にフジツボ、イガイ、藻類等の海洋生物の付着による腐食防止や船舶の航行速度の低下防止を目的として、ロジンや有機スズを含有する防汚塗料が塗装されている。
また養殖用網においても各種生物の付着による魚介類の死滅防止を目的として同様にロジンや有機スズを含有する防汚塗料が塗装されている。
【0003】
船底も含め海面に沈んでいるすべての部分に付着する藻や貝類等は、まるで絨毯のように船底などにつくため、航行する船舶の大きな抵抗力となり、いろいろな悪影響がでている。例えば、全く付着物のない船が80%の出力で10ノットで航行できるとする。この船に付着物が多く付くと同じ80%の出力で5〜6ノットしか出なくなる。そのため出力を上げて航行しを傷めたりしてしまうことになる。実際、船舶にとって付着物は、航行するのに大きな抵抗力となるため、1.エンジンの負荷の増大2.燃料費の増大3.船体自体を傷める、一方、海水で駆動部分の冷却などを行っているプラントでは、配管に海洋生物が付着することにより取水量が低下し、冷却効率低下による駆動機関の焼き付きなどが問題となっている。この為海洋生物の付着を防止する為の塗料として以下の(1)〜(3)のものが使用されている。
【0004】
(1)加水分解型塗料(自己研磨型塗料):この塗料は、溶解マトリックス形と言われる塗料で、その塗料がpH8.0〜8.2の弱アルカリ性の海水に接触すると、一定速度で加水分解が起こり、表面の樹脂が溶解して新しい塗膜表面が形成され、この塗膜表面から溶出する銅イオンの殺菌力が海洋生物の付着を防いでいる。要するに、防汚剤を含有する塗料の膜を何層にも積み重ねてその1枚1枚を剥がしながら海洋生物の付着を防止すると言うものである。
【0005】
(2)水和溶解形塗料(水和分解形塗料あるいは水和崩壊形塗料):この塗料は、上記した加水分解形塗料と同様に溶解マトリックス形の塗料であるが、ポリマー、亜酸化銅、松から採取されるロジンを主成分としている点に特徴がある。ロジンは、分子量300程度のアビエチン酸とその異性体で構成されている天然オリゴマーで、海水に対する微溶解性および親和性は古くから知られている。この塗料の塗膜が海水に接触すると、ロジンの微溶解性により塗料の表面がわずかに溶解し、亜酸化銅などの薬剤が塗膜表面に現れる。要するに、この塗料の塗膜表面は常にヌルヌルしており、上記薬剤の効果と海洋生物が付着し難い表面状態との相乗効果により海洋生物の付着を防いでいる。
【0006】
(3)抽出形塗料:この塗料は、不溶性マトリックス形と言われる塗料であり、亜酸化銅、ロジン、疎水性合成樹脂を主成分としており、塗料自体の溶解はなく、防汚剤のみがマトリックスから海水中に溶出する。前述した溶解マトリックス型の塗料に比較して、薬剤の含有量が多く、塗膜硬度が高い点に特徴がある。
【0007】
しかし、これらの塗料で使用されている重金属塩(亜酸化銅など)が海中に溶出して海洋生物に悪影響を与える可能性を否定できず、環境に悪影響を及ぼさない塗料に対するニーズが高い。
【0008】
下記特許文献1および2には、いずれも船舶に海洋生物が付着するのを防止するための船舶用塗料に添加剤とその添加剤を含む塗料が開示されている。
【0009】
これらのうち、前者は、常時マイナスイオンを放出する所定粒径のモナズ石粉体と電気石との混合物を塗料樹脂に添加して塗料とするものである(特許文献1参照)。
【0010】
後者は、バストネス石、モナズ石及び中国複雑鉱から選択される少なくとも一種、電気石及びジルコン石を塗料樹脂に添加して塗料とするものである(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000-198965号公報
【特許文献2】特開2002-80315号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
背景技術で述べたように、船底用塗料の多くは銅イオンの殺菌力を利用しており、海水温度や海域の環境、船の運行条件等によっては海洋生物の付着防止にある程度の効果を発揮しているが、フジツボ類、貝類、海藻類等の海洋生物の付着防止効果をさらに改善することが望まれている。
【0012】
また、鉄や鋼材料を使用した船舶においては、海水が接触する船底に海水による酸化防止の為の防錆塗料が、2〜4回程度重ね塗りされるが、フジツボ類、貝類、海藻類等の海洋生物の付着を防止する為に有機スズ重合体が塗料に添加されている。有機スズ重合体は、生理活性の高い材料であるため、魚の奇形が発生する等の他の海洋生物に対する悪影響が問題になっている。この為、1980年代後半から有機スズ重合体の使用は自主規制となっている。また、ロンドンの国際海事機関(IMO)本部において1999年6月28日〜7月2日に実施された協議では、有機スズ含有塗料の使用に関して2003年に船舶への塗装禁止、2008年に全面使用禁止とすることが合意された。しかしながら、現在のところ、それに代わって海洋生物の付着を効果的に防止できる塗料はなく、その開発は急務とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、前記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、海洋環境に悪影響を及ぼすことなく、優れた防汚性能を有する防汚塗料を提供することにある。
【0014】
請求項1記載の防汚塗料は、電荷移動錯体を含有することを特徴としている。
【0015】
請求項2記載の防汚塗料は、上記の構成に加えて、電荷移動錯体の含有量が塗料固形分に対して、1%から50%であることを特徴としている。
【0016】
請求項3記載の防汚塗料は、上記の構成に加えて、電荷移動錯体の粒径が50nmから20μmであることを特徴としている。
【0017】
本発明の防汚塗料は、電荷移動錯体(CT錯体)(特許第3514702号参照)とベース塗料樹脂から構成される。すなわち、電荷移動錯体の抗菌、撥水、發油およびマイナスイオン発生効果により、フジツボ類、貝類、海藻類等の海洋生物の付着を防止することが出来る。
【0018】
本発明の防汚塗料に含まれる電荷移動錯体の一次粒子径は20μm以下が好ましく、さらに好ましくは10μm以下であり、特に好ましくは50nm〜5μmである。
【0019】
本発明の防汚塗料に含まれる電荷移動錯体の塗料樹脂に対する含有量は0.5〜50重量%であり、好ましくは1〜30重量%であり、特に好ましくは3〜25重量%である。
【0020】
本発明の防汚塗料に用いられる塗料樹脂の種類としては、アルキド樹脂系、アミノアルキド樹脂系、ビニル樹脂系、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、ウレタン樹脂系、不飽和ポリエステル樹脂系、塩化ゴム系、シリコン系が挙げられる。
【0021】
これらのうち、好ましくはビニル樹脂系、アクリル樹脂系、エポキシ樹脂系、塩化ゴム系及びシリコン系である。
【発明の効果】
【0022】
上記のように、本発明法によれば船底塗料にCT錯体に添加することにより、船底にフジツボや貝類等の生物が付着するのを防止することができると共に、腐食も防止され、その有効期間も従来の2〜3倍以上となる。従って、本発明法は船の運航経済上コストの低廉化に著しく寄与するものである。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0024】
市販のCT錯体(販売元:ビジョン開発株式会社)の粉末をビニール樹脂系塗料(塩化ビニール・10%酢酸ビニール共重合体)に対し3%、5%、10%の添加率となるように調製した塗料を、ベンガラと亜鉛華を主成分とした塗料を塗布した鋼板製試験片上に塗布し、汚れ試験片を各3枚づつ作成した。また比較のため、CT錯体を入れていない上記ビニール樹脂系塗料を用いて同様に汚れ比較試験片を作成した。
【0025】
上記の各試験片及び比較試験片を試験用筏に吊下げ、ある海岸の海水中に浸漬して浸漬開始日から10日間毎にその試験片の表面を目視観察した。その結果、CT錯体を含有していない試験片には1ヵ月で生物が付着し始め、2ヵ月後には比較試験片全面に生物が付着した。
【0026】
一方、CT錯体を使用した試験片は添加率の影響がほとんど見られず、3ヵ月までは生物付着が全く認められず、4ヵ月目頃から生物付着が若干認められ、5ヵ月目頃から試験片全面に生物付着が認められた。
【0027】
通常、同一条件の試験片を国内各地で同時に試験することが必要で、一度付着した生物の剥離減少等もあるので、2年間位の長期試験が必要であるとも言われているが、上記のように本発明法によれば従来法に比較して少なくとも2〜3倍以上の効果有効期間が認められた。
【0028】
以上は、鋼船について説明したが、本発明が木造船についても適用できることは勿論である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
電荷移動錯体を含有する防汚塗料。
【請求項2】
電荷移動錯体の含有量が塗料固形分に対して、1%から50%である請求項1記載の防汚塗料。
【請求項3】
電荷移動錯体の粒径が50nmから20μmである請求項1または2記載の防汚塗料。







































【公開番号】特開2006−111827(P2006−111827A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303465(P2004−303465)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】