説明

防汚性原着繊維

【課題】製品とした後に染色や防汚加工を行う必要がなく、土木資材や建築資材等の産業資材に十分使用可能な、高強度と防汚性を有する防汚性原着繊維を提供する。
【解決手段】芯成分が着色顔料を含有するポリエチレンテレフタレート、鞘成分がベンゾオキサゾール系の蛍光増白剤を含有するポリエチレンテレフタレートで構成された芯鞘型複合繊維であり、芯鞘質量比(芯:鞘)が1:1〜5:1、切断強度が5.5cN/dtex以上であることを特徴とする防汚性原着繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木や建設資材用途に使用する土木シートや各種のネット類に用いると好適な防汚性原着繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、土木や建設資材に使用する土木シートや各種ネット類の一部には防汚性を付与するため各種の加工が行われている。例えば、洗濯での汚れを落ちやすくする親水加工による吸水SR加工や、フッ素加工剤を塗布してコーティング加工し、汚れが付着しにくくするSG加工、或いは、SR加工とSG加工の両方の特徴を合わせたSGR加工が一般的である。
【0003】
しかしながら、このような加工は加工コストが高く、持続的な防汚性効果もないため、繊維自体に防汚性を付与する試みとして、特許文献1では、ポリエステル系繊維の製造時にベンゾオキサゾール系蛍光増白剤を0.01〜0.3質量%含有せしめた防汚性ポリエステル系合成繊維も提案されている。
【0004】
特許文献1で提案されている繊維は主に衣料用途に用いる白色の布帛を意識したものである。しかし、近年では、土木や建設資材に使用する土木シートやネット類は、黒や緑色等に着色されたものが常用化している。そして土木シートやネット類は大型のものであるため、大型の染色、防汚加工設備が必要となり加工コストが高くなる。そこで、製品とした後に染色や防汚加工を行う必要がなく、繊維の状態で着色され、防汚性が付与された防汚性原着繊維の要望が高まっている。
【特許文献1】特許第2763940号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決し、製品とした後に染色や防汚加工を行う必要がなく、土木資材や建築資材等の産業資材に十分使用可能な、高強度と防汚性を有する防汚性原着繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討した結果、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、芯成分が着色顔料を含有するポリエチレンテレフタレート、鞘成分がベンゾオキサゾール系の蛍光増白剤を含有するポリエチレンテレフタレートで構成された芯鞘型複合繊維であり、芯鞘質量比(芯:鞘)が1:1〜5:1、切断強度が5.5cN/dtex以上であることを特徴とする防汚性原着繊維を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の防汚性原着繊維は、芯鞘型の複合繊維とし、芯成分に着色顔料を含有することで着色が付与され、鞘成分にベンゾオキサゾール系の蛍光増白剤を含有することで防汚性が付与されるので、後加工により染色や防汚加工等を行う必要がなく、コスト面で有利である。そして、ポリエチレンテレフタレートからなるものであるため切断強度が高く、土木資材や建築資材等の産業資材に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明の防汚性原着繊維は、土木資材や建設資材用途に使用される防汚性の土木シートやネット類等に用いるため、着色と防汚性が付与されていることが必要であり、着色顔料を含有する芯成分と防汚剤としてベンゾオキサゾール系の蛍光増白剤を含有する鞘成分とからなる芯鞘構造を呈するものである。
【0011】
芯成分は、寸法安定性や耐候性に優れ、安価で汎用性のあるポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称す。)を主成分とするものである。芯成分のPETの極限粘度〔η〕は、0.8〜1.1が好ましい。極限粘度〔η〕が0.8より低くなると高強度の繊維が得られにくく、1.1より高くなると延伸性が劣るようになったりコスト面で不利となる。
【0012】
そして、染色を必要としないためには、芯成分のPETには着色顔料を含有させる必要がある。着色顔料としてはカーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化クロム、酸化鉄等の無機系顔料、フタロシアニン系、アゾ系、ペリノン系、ペリレン系、アントラキノン系等の有機系顔料等を用いることができる。
【0013】
着色顔料をPETに含有させる方法としては、芯成分と同じPETに20〜30質量%の着色顔料を練り込んだマスターチップを作製し、紡糸時に芯成分に用いるPETと任意の含有濃度になるように計量混合機等を使用してドライブレンドして練り込む方法が好ましい。
【0014】
芯成分における着色顔料の含有量(芯成分中の含有量)は、0.3〜1.0質量%が好ましく、含有濃度が0.3質量%未満であると色目がうすくなり、1.0質量%を超えると延伸性が劣るようになったり、強度が劣るようになる。
【0015】
また、芯成分には着色顔料の他に、本来の性能を損なわない程度に各種添加剤や第三成分が含有又は共重合されていてもよい。
【0016】
次に、鞘成分は芯成分と同様にPETを主成分とするものである。極限粘度〔η〕も芯成分と同様に0.8〜1.1が好ましく、極限粘度〔η〕が0.8より低くなると高強度の繊維が得られにくく、1.1より高くなると延伸性が劣るようになったり、コスト面で不利益となる。
【0017】
鞘成分には、防汚性を付与するためにベンゾオキサゾール系蛍光増白剤を含有させる必要がある。ベンゾオキサゾール系の蛍光増白剤としてはクリアラント社製ホスタルックスKSやイーストマンケミカルジャパン社製のイーストブライトオプテイカルブライトナーOB−1を用いることができる。
【0018】
また、鞘成分におけるベンゾオキサゾール系蛍光増白剤の含有量(鞘成分中の含有量)は0.1〜0.5質量%が好ましく、含有量がこの範囲より少ないと防汚性が劣り、超えると鞘成分の黄変により芯成分に含有する着色顔料による原着色が得られなくなったり、コスト面で不利となり好ましくない。
【0019】
また、鞘成分へのベンゾオキサゾール系蛍光増白剤の練り込み方法は粉末の状態で鞘成分のPETとドライブレンドして用いることもできるが、均一な濃度に練り込むためには、芯成分に着色顔料を添加するのと同様にマスターチップ化することが好ましい。
【0020】
鞘成分には本来の性能を損なわない程度であれば、微量の着色顔料や各種添加剤、さらには第3成分が共重合されていてもよい。
【0021】
本発明の防汚性原着繊維を芯鞘構造とする理由は以下のとおりである。単一型の繊維に原着色を得るために必要な着色顔料と、防汚効果を得るために必要なベンゾオキサゾール系蛍光増白剤を一緒に含有させると防汚性効果が小さくなる。要因として、着色顔料とベンゾオキサゾール系蛍光増白剤が繊維表面に混在するため着色顔料によりベンゾオキサゾール系蛍光増白剤による防汚効果が阻害されるものと推察される。
【0022】
次に、本発明の防汚性原着繊維の芯鞘複合比は1:1〜5:1であり、中でも2:1〜4:1であることが好ましい。芯成分がこの範囲より大きくなると複合形態が単糸間で不均一になりやすく、延伸性が劣るようになる。一方、芯成分がこの範囲より小さくなると着色顔料による着色が不十分なものとなる。
【0023】
さらに、本発明の防汚性原着繊維の切断強度は、5.5cN/dtex以上であり、中でも6.0〜7.5cN/dtex程度であることが好ましい。切断強度が5.5cN/dtex未満であると産業資材用に使用するには用途が限られるようになる。
【0024】
本発明の防汚性原着繊維をこのような強度のものとするには、以下に記載するような製造方法を採用することにより可能である。そして、延伸性を考慮すると、切断強度を7.5cN/dtex以下とすることが好ましい。
【0025】
本発明の防汚性原着繊維は、主に土木や建設資材用途に用いるため、総繊度は500〜2000dtexとすることが好ましく、単糸繊度は延伸性が良好となる5〜30dtexとすることが好ましい。また、繊維の断面形状は、芯部、鞘部ともに異形のものでもよいが、延伸性に優れ、高強度が得やすいものとして円形断面形状でかつ芯部と鞘部が同心のものが好ましい。
【0026】
次に、本発明の防汚性原着繊維の製造方法について説明する。まず、芯成分と鞘成分のチップをそれぞれ供給して常用の複合紡糸装置を用いて溶融紡糸する。そして、未延伸糸を一旦巻き取り、その後、延伸を行う二工程法でもよいが、一旦巻き取らずに連続して延伸を行うスピンドロー法が生産性やコスト面において好ましい。延伸方法は加熱ローラを用いて行うローラ延伸又はローラ間にスチーム熱処理装置を設けて行う方法を採用することができる。巻き取り速度は2000〜4000m/分程度が好ましく、巻き取り速度がこの範囲より遅いと生産性が劣り、速いと高強度が得られ難くなったり延伸性が劣るようになる。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例における各物性値は、次の方法で測定した。
(a)ポリエステルの極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒とし、濃度0.5g/dl、温度20℃で測定した。
(b)切断強度、伸度
JISL−1013の引張強さ及び伸び率の標準時試験に従い、島津製作所製オートグラフDSS−500を用い、つかみ間隔25cm、引っ張り速度30cm/分で測定した。
(c)防汚性の評価
JISL−1919:2006に従い、人工汚染物質は粉体汚染物質−2を用いA−2法の汚れにくさ試験を行い、目視で判定し次の方法で比較評価した。なお、試験片は繊維を筒編みし、長さ8cmの筒編地を洗剤を使用せずに洗濯機で一度水洗し、油剤を除去して風乾したものを用いた。
○・・・汚れが少ない
△・・・汚れがやや多い
×・・・汚れが多い
(d)繊維の色目
繊維を筒編みして目視で色の濃淡を評価した。
○・・・濃
×・・・淡
【0028】
実施例1
芯成分として極限粘度〔η〕1.0のPETと、極限粘度〔η〕0.7のPETに着色顔料として酸化チタンを20質量%練り込んだマスターチップとを、芯成分中の酸化チタン含有量が0.5質量%になるように計量混合機でドライブレンドして用いた。
次に鞘成分として極限粘度〔η〕1.0のPETと、極限粘度〔η〕0.7のPETに蛍光増白剤としてイーストマンケミカルジャパン社製、「イーストブライト」オプティカルブライトナーOB−1を20質量%練り込んだマスターチップとを、鞘成分中の蛍光増白剤含有量が0.2質量%になるように計量混合機でドライブレンドして用いた。
常用の複合溶融紡糸装置に孔径が0.5mm、ホール数が96個の芯鞘型複合紡糸口金を装着し、口金温度300℃、芯鞘質量比を2:1にして紡出した。紡糸口金直下に設けた温度400℃、長さ30cmの加熱筒内を通過させた後、長さ150cmの横型冷却装置で温度15℃、速度0.6m/秒の冷却風で冷却した。続いて油剤を付与して非加熱の第1ローラに引き取り、引き続いて非加熱の第2ローラで1.01倍の引き揃えを行った後、温度400℃、圧力0.6Mpaのスチームを糸条に吹き付けながら、表面温度200℃の第3ローラで5.1倍の延伸を行った。その後、表面温度140℃の第4ローラで2%の弛緩熱処理を行い、速度3000m/分のワインダーに巻き取り、円形断面形状(芯部と鞘部が同心円に配置された)の1110dtex/96フィラメントの防汚性原着繊維を得た。
【0029】
実施例2
芯成分に含有させる着色顔料をカーボンブラックに変更した以外は実施例1と同様に行った。
【0030】
実施例3
鞘成分中の蛍光増白剤の含有量を0.4質量%に変更した以外は実施例1と同様に行った。
【0031】
実施例4
芯鞘質量比を4:1に変更した以外は実施例1と同様に行った。
【0032】
比較例1
芯鞘質量比を1:2に変更した以外は実施例1と同様に行った。
【0033】
比較例2
芯鞘質量比を7:1に変更した以外は実施例1と同様に行った。
【0034】
比較例3
常用の溶融紡糸装置に単一型の溶融紡糸口金を装着し、極限粘度〔η〕1.0のPETに着色顔料として酸化チタンを0.5質量%、ベンゾオキサゾール系蛍光増白剤として実施例1と同様のものを0.2質量%含有させて単一型の繊維とした以外は実施例1と同様に行った。
【0035】
比較例4
着色顔料をカーボンブラックに変更した以外は比較例3と同様に行った。
【0036】
比較例5
繊維中に着色顔料(酸化チタン)のみを含有させた以外は比較例3と同様に行った。
【0037】
比較例6
繊維中に着色顔料(カーボンブラック)のみを含有させた以外は比較例4と同様に行った。
【0038】
実施例1〜4、比較例1〜6で得られた繊維の物性及び防汚性の評価結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1から明らかなように、実施例1〜4で得られた繊維は、延伸性よく得ることができ、切断強度が高く、防汚性、色目ともに優れていた。 一方、比較例1で得られた繊維は、着色顔料を含有する芯成分の割合が少ないため、色目がうすく用途が限られるようになった。また、比較例2では鞘成分の割合を少なくしたため、均一な複合形態が得られず、延伸時に糸切れが多発して繊維を得ることができなかった。比較例3〜4で得られた繊維は単一型の繊維にしたために、比較例5〜6で得られた繊維は単一型の繊維であり、かつベンゾオキサゾール系蛍光増白剤を含有していないために、いずれも防汚性に劣っていた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分が着色顔料を含有するポリエチレンテレフタレート、鞘成分がベンゾオキサゾール系の蛍光増白剤を含有するポリエチレンテレフタレートで構成された芯鞘型複合繊維であり、芯鞘質量比(芯:鞘)が1:1〜5:1、切断強度が5.5cN/dtex以上であることを特徴とする防汚性原着繊維。

【公開番号】特開2008−223172(P2008−223172A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63529(P2007−63529)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】