説明

防汚性被膜の形成方法及び防汚性部材

【課題】基材との密着性が高いと共に、繊維埃をはじめとする様々な汚れに対する防汚性能に優れた防汚性被膜の形成方法を提供する。
【解決手段】一次粒径が5nm以上20nm以下の無機微粒子が数珠状に連結した凝集体であって、粒径が80nm以上130nm以下の凝集体を含むコーティング組成物を基材に塗布して乾燥させた後、前記基材及び前記無機微粒子の表面の官能基と反応可能な基を有する化合物を蒸着させることを特徴とする防汚性被膜の形成方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚性被膜の形成方法及び防汚性部材に関し、特に、換気扇、空気調和機(加湿器、除湿機などを含む)、空気清浄機、冷蔵庫、扇風機などの各種機器に用いられる部材のための防汚性被膜の形成方法、及びこの防汚性被膜が表面に形成された防汚性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
室内外で使用される各種部材の表面には、粉塵、塵、油煙、煙草のヤニなどの様々な汚れが固着し易いため、これを抑制する方法が提案されている。その方法の1つとして、特定の組成を有するコーティング組成物を用いて被膜を形成する方法、例えば、少なくとも水を含むアルカリ性コロイダルシリカと、リン酸ナトリウム化合物或いはリン酸カリウム化合物の単体又は混合物と、ホウ酸とを含むコーティング組成物を用いて被膜を形成する方法(特許文献1参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−1684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1などに開示されている従来のコーティング組成物を用いて形成される被膜は、図4に示すように、空隙が少ない高密度被膜である。なお、図4において、1は基材、2は被膜、3は被膜を構成する無機微粒子(シリカなど)である。一般に、被膜と汚れとの間に働く分子間力は、被膜の密度が高いほど大きくなるが、従来のコーティング組成物を用いて形成される被膜のように密度が高いと、被膜と汚れとの間に働く分子間力が大きくなり、繊維埃などの特定の汚れに対する防汚性能が十分に得られない場合がある。ここで、「防汚性能」とは、汚れが付着し難い性能、及び付着した汚れが除去され易い性能を意味する。
一方、被膜と汚れとの間に働く分子間力を小さくするためには、空隙が多い低密度被膜を形成すればよいとも考えられるが、低密度被膜は、基材との密着性が乏しいと共にクラックなどの欠陥も生じ易く、適切な低密度被膜を基材に形成すること自体が困難である。また、基材に前処理などを行うことによって被膜と基材との間の密着性を向上させることも考えられるが、多段階の工程を設ける必要があるため、時間及びコストが増加してしまう。
【0005】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、基材との密着性が高いと共に、繊維埃をはじめとする様々な汚れに対する防汚性能に優れた防汚性被膜の形成方法を提供することを目的とする。
また、防汚性能及び耐久性に優れた防汚性被膜を有する防汚性部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記のような問題を解決すべく鋭意研究した結果、無機微粒子が数珠状に連結した所定の凝集体を含むコーティング組成物を基材に塗布して乾燥させた後、基材及び無機微粒子の表面の官能基と反応可能な基を有する化合物を蒸着させることで、被膜の空隙を多くしつつ、基材に対する被膜の密着性を高め得ることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、一次粒径が5nm以上20nm以下の無機微粒子が数珠状に連結した凝集体であって、粒径が80nm以上130nm以下の凝集体を含むコーティング組成物を基材に塗布して乾燥させた後、前記基材及び前記無機微粒子の表面の官能基と反応可能な基を有する化合物を蒸着させることを特徴とする防汚性被膜の形成方法である。
また、本発明は、基材と、前記基材上に形成された防汚性被膜とを有する防汚性部材であって、前記防汚性被膜は、一次粒径が5nm以上20nm以下の無機微粒子を含み、前記基材及び前記無機微粒子の表面の官能基と前記官能基と反応可能な基を有する化合物との反応生成物が前記表面の少なくとも一部に形成されており、且つ前記防汚性被膜の空隙率が30%以上80%以下であることを特徴とする防汚性部材である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基材との密着性が高いと共に、繊維埃をはじめとする様々な汚れに対する防汚性能に優れた防汚性被膜の形成方法を提供することができる。
また、本発明によれば、防汚性能及び耐久性に優れた防汚性被膜を有する防汚性部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】無機微粒子が数珠状に連結した凝集体の断面図である。
【図2】実施の形態1の防汚性被膜の形成方法で用いられるコーティング組成物から形成される被膜の断面図である。
【図3】実施の形態1の防汚性被膜の拡大断面図である。
【図4】従来の防汚性被膜の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
本実施の形態の防汚性被膜の形成方法は、所定のコーティング組成物を基材に塗布して乾燥させた後、基材及び無機微粒子の表面の官能基と反応可能な基を有する化合物を蒸着させることを特徴とする。
本実施の形態の防汚性被膜の形成方法に用いられるコーティング組成物は、無機微粒子(一次粒子)が数珠状に連結した凝集体(以下、単に凝集体と言うこともある)を含む。ここで、無機微粒子が数珠状に連結した凝集体とは、図1に示すように、数珠のように複数個の無機微粒子が結合したものを意味する。なお、図1では、無機微粒子が一部連結していないが、無機微粒子が全て連結して環を形成していてもよい。このような凝集体は、当該技術分野において周知であり、例えば、無機微粒子がシリカ微粒子である場合、数珠状(パールネックレス状)シリカとして日産化学工業株式会社から販売されている。
【0011】
無機微粒子としては、特に限定されず、例えば、ケイ素、マグネシウム、アルミニウム、チタン、セリウム、スズ、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、アンチモンなどの元素の微粒子、又はこれらの元素の酸化物(例えば、シリカ、アルミナ、チタニアなど)や窒化物の微粒子が挙げられる。これらの無機微粒子は、単独又は2種以上を混合して用いることができる。また、これらの無機微粒子の中でも、無機微粒子はシリカ微粒子であることが好ましい。その理由は、シリカ微粒子はバインダーとしての作用効果を有すると共に、シリカ微粒子の屈折率が、チタニア微粒子やアルミナ微粒子などの他の無機微粒子の屈折率に比べて、基材として一般に用いられるプラスチックやガラスなどの屈折率に近い値を有しているためである。基材と被膜との屈折率が同程度であれば、それらの界面や表面の光反射によって、白くなったり、ぎらついたりすることも少なく、基材の色調を損ない難い。
【0012】
また、被膜の形成を容易にするために、必要に応じて、シリカやアルミナなどの金属酸化物のゾル、ナトリウムシリケートやリチウムシリケートなどの各種シリケート、金属アルキレート、リン酸アルミやρ−アルミナなどの一般的なバインダーをコーティング組成物に添加してもよい。
【0013】
無機微粒子の一次粒径は、5nm以上20nm以下である。ここで、無機微粒子の一次粒径とは、無機微粒子の動的光散乱法による一次粒径、すなわち、動的光散乱式の粒度分布計を用いて無機微粒子の一次粒子の平均粒径を測定したときの値を意味する。無機微粒子の一次粒径が5nm未満であると、コーティング組成物中で凝集体の凝集が生じ易くなり、コーティング組成物の安定性が損なわれる。特に、無機微粒子としてシリカ微粒子を用いる場合、コーティング組成物中で平衡して溶存するシリカ成分の割合が高くなるため、シリカ微粒子同士の凝集が起こり易い。加えて、形成される防汚性被膜の基材に対する密着性や防汚性能も十分に得られない。一方、無機微粒子の一次粒径が20nmを超えると、形成される防汚性被膜の基材に対する密着性が十分に得られなかったり、クラックなどの欠陥も生じ易い。特に、無機微粒子としてシリカ微粒子を用いる場合、一次粒径が大きくなるほどバインダーとしての作用効果も得られ難くなる。
【0014】
凝集体の粒径は、80nm以上130nm以下である。ここで、凝集体の粒径とは、凝集体の動的光散乱法による粒径、すなわち、動的光散乱式の粒度分布計を用いて凝集体の平均粒径を測定したときの値を意味する。
凝集体の粒径が80nm未満であると、形成される防汚性被膜中に十分な空隙が形成されず、所望の防汚性能が得られない。一方、凝集体の粒径が130nmを超えると、形成される防汚性被膜の透明性が損なわれると共に、汚れが捕捉され易くなり、所望の防汚性能が得られない。加えて、基材に対する防汚性被膜の密着性も十分ではなく、クラックなどの欠陥も生じ易い。
【0015】
上記のような特徴を有する凝集体は、特開平1−317115号公報や特開平7−118008号公報に記載されているような公知の方法に従って調製することができるが、市販されているものを用いることも可能である。
【0016】
コーティング組成物中の凝集体の含有量は、特に限定されず、コーティング組成物に用いる成分に応じて適宜調整すればよい。コーティング組成物中の凝集体の含有量は、好ましくは0.5質量%以上20質量%以下、より好ましくは1質量%以上15質量%以下である。凝集体の含有量が0.5質量%未満であると、形成される被膜が薄くなり過ぎたり、均一な被膜が形成されないことがある。一方、凝集体の含有量が20質量%を超えると、形成される被膜が厚くなり過ぎ、クラックなどの欠陥が生じることがある。
【0017】
コーティング組成物は、溶媒として水性媒体を含むことができる。水性媒体としては、特に限定されないが、水であることが好ましい。また、水の他にも、コーティング組成物の安定性、塗布性及び乾燥性などを調整する観点から、水及び水と相溶する極性溶剤の混合物を用いることもできる。
水としては、特に限定されないが、水に含まれるミネラル分の量が多い場合には、凝集体の凝集が生じることがある。そのため、脱イオン水を用いることが好ましい。ただし、凝集体の凝集が生じない場合には、水道水などの使用も可能である。
水にミネラル分が含まれる場合、凝集体の分散安定性の観点から、カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの2価以上のイオン性不純物が少ない方が好ましい。具体的には、これらのイオン性不純物の濃度が、好ましくは200ppm以下、より好ましくは50ppm以下である。これらのイオン性不純物の濃度が200ppmを超えると、凝集体が凝集して沈殿したり、形成される防汚性被膜の基材に対する密着性や透明性が低下することがある。
【0018】
極性溶剤としては、例えば、エタノール、メタノール、2−プロパノール、ブタノールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、ジアセトンアルコールなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸セロソルブ、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチルなどのエステル類;メチルセロソルブ、セロソルブ、ブチルセロソルブ、ジオキサンなどのエーテル類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールなどのグリコールエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのグリコールエステル類が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0019】
コーティング組成物中の水性媒体の含有量は、特に限定されず、コーティング組成物に使用する成分の種類などにあわせて適宜調整すればよいが、一般に30質量%以上99.5質量%以下である。
【0020】
また、コーティング組成物は、コーティング組成物の濡れ性や基材に対する防汚性被膜の密着性を向上させる観点から、界面活性剤や有機溶剤などの添加物を含むことができる。
界面活性剤としては、特に限定されず、周知のアニオン系又はノニオン系の界面活性剤を用いることができる。その中でも、ポリオキシプロピレン−ポリオキシエチレンブロックポリマーやポリカルボン酸型アニオン系界面活性剤のような起泡性の低い界面活性剤が使用し易いので好ましい。また、有機溶剤も特に限定されず、上記で例示した極性溶剤などを用いることができる。
コーティング組成物中のこれらの添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に限定されず、選択した成分にあわせて適宜調整すればよい。
【0021】
コーティング組成物は、上記のような成分を用い、公知の方法に従って製造することができる。例えば、ホモジナイザーなどの混合装置を用いて凝集体や任意の添加剤を水性媒体に分散させればよい。
このようにして調製されるコーティング組成物は、基材に塗布して乾燥させると、空隙が多い被膜を与えることができる。しかしながら、より安定して空隙が多い被膜を形成する観点からは、コーティング組成物を基材に塗布する前に、上記のようにして調製されたコーティング組成物に不活性ガスを吹き込みバブリングすることによって、コーティング組成物中に気泡を包含させることが好ましい。
不活性ガスとしては、コーティング組成物中の成分と反応しないものであれば特に限定されず、例えば、窒素ガスやアルゴンガスなどが挙げられる。その中でも、コストや使用し易さなどを考慮すると、窒素ガスを用いることが好ましい。
【0022】
コーティング組成物に不活性ガスを吹き込みバブリングする場合、その条件は流量や時間などによって異なるが、コーティング組成物1Lあたり、不活性ガスを0.25L/分以上1.5L/分以下の流量で10分以上1時間以下吹き込むことが好ましい。不活性ガスの流量が0.25L/分未満、又は吹き込み時間が10分未満であると、コーティング組成物中に気泡を十分に包含させることができないことがある。一方、不活性ガスの流量が1.5L/分超過、又は吹き込み時間が1時間超過であると、それに見合う効果が得られないことが多く、コスト増大に繋がる。
【0023】
本実施の形態の防汚性被膜の形成方法では、まず、上記のコーティング組成物を基材に塗布して乾燥させる。
コーティング組成物を基材に塗布する方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。公知の塗布方法としては、浸漬、刷毛塗り、かけ塗り、スプレーなどが挙げられるが、その中でも浸漬が好ましい。その理由は、様々な基材の表面を均一に塗布し易いからである。
また、コーティング組成物を基材に塗布した後、気流を吹き付けたり、各種物理的手法を用いることによって余分なコーティング組成物を除去することが好ましい。その理由は、ムラが少ない被膜が得られ易いからである。例えば、塗布方法として浸漬を用いる場合には、コーティング組成物から基材をゆっくりと引き上げた後、基材を回転させることによって、余分なコーティング組成物を除去することができる。
【0024】
基材に塗布したコーティング組成物の乾燥は、特に限定されず、室温、加熱下のいずれで行ってもよいが、加熱下で乾燥させることが好ましい。その理由は、基材と被膜との密着性を向上させ得ると共に、乾燥工程を短縮し得るからである。
加熱温度としては、60℃以上90℃以下であることが好ましい。加熱温度が60℃未満であると、基材と被膜との密着性が十分に向上しないことがある。一方、加熱温度が90℃を超えると、基材が樹脂である場合には基材の変形などが生じてしまうことがあり、使用する基材の種類が制限されてしまう。
また、加熱下での乾燥には、温風、赤外線、加熱炉などの公知の手段を用いることができる。
【0025】
コーティング組成物が塗布される基材としては、特に限定されず、各種材料からなる基材を用いることができる。基材の例としては、アルミニウム基材やステンレス基材などの金属基材、ポリプロピレン基材、ポリスチレン基材、ABS樹脂基材などのプラスチック基材、ガラス基材などが挙げられる。
【0026】
上記のようにして形成される被膜の断面図を図2に示す。図2において、基材1上に形成される被膜2は、無機微粒子3から構成されており、無機微粒子3の間及び基材1と無機微粒子3との間に空隙4が形成されている。この被膜2は、密度が低く、従来の被膜に比べて空隙率が大きい。この被膜2の空隙率は、30%以上80%以下である。
ここで、被膜2の空隙率とは、被膜2の全体積に対する空隙部分の体積の比率を意味し、単位面積S(cm)あたりの質量をW(g)、被膜2の厚さをt(μm)及び密度をd(g/cm)とした場合、下記式により算出することができる。
空隙率(%)=(1−10・W/(S・t・d)))×100
また、空隙率の測定方法としては、特に限定されないが、例えば、BET吸着法や水銀ポロシメーターなどの市販の装置を用いて行うことができる。
被膜2の空隙率が30%未満であると、被膜2の密度が高すぎ、結果として防汚性被膜の密度も高くなり、所望の防汚性能を有する防汚性被膜が得られない。一方、被膜2の空隙率が80%を超えると、被膜2と基材1との密着性が十分でなく、後述の工程を経ても防汚性被膜と基材1との密着性を十分に高めることができない。
【0027】
また、被膜2の厚さは、用途に応じて適宜調整すればよく、特に限定されないが、好ましくは0.1μm以上0.5μm以下、より好ましくは0.1μm以上0.3μm以下である。被膜2の厚さが0.1μm未満であると、被膜2が薄くなり過ぎてしまい、均一な被膜2を得ることができないことがある。一方、被膜2の厚さが0.5μmを超えると、被膜2が厚くなり過ぎ、クラックなどの欠陥が生じることがある。その結果、この欠陥に汚れが捕捉され易くなり、所望の防汚性能を有する防汚性被膜が得られないことがある。
【0028】
次に、本実施の形態の防汚性被膜の形成方法では、上記のようにして形成される被膜2に、基材1及び無機微粒子3の表面の官能基と反応可能な基を有する化合物を蒸着させる。
上記のようにして形成される被膜2は空隙率が高いため、蒸着させる化合物は、被膜2の表面だけでなく空隙4を介して被膜2の内部にも侵入する。そして、この蒸着の結果、基材1及び無機微粒子3の表面の官能基と、基材1及び無機微粒子3の表面の官能基と反応可能な基を有する化合物とが反応し、図3に示すように、基材1及び無機微粒子3の表面に反応生成物5が形成される。そして、この反応生成物5が接着剤としての作用効果を奏することによって、基材1と無機微粒子3との間、及び無機微粒子3同士の間の結合力が高まり、結果として防汚性被膜と基材1との密着性を高めることが可能になる。なお、図3では、基材1及び無機微粒子3の表面全体に反応生成物5が形成されている例を示したが、防汚性被膜と基材1との密着性を高めることができれば、基材1及び無機微粒子3の表面の少なくとも一部に反応生成物5が形成されていてもよい。また、図3では、理解し易くするために、基材1及び無機微粒子3と区別して反応生成物5を示したが、実際には、基材1及び無機微粒子3と反応生成物5との境界はない。
【0029】
基材1の表面の官能基としては、基材1の種類にもよるが、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミド基、アルキル基などが挙げられる。また、無機微粒子3の表面の官能基としては、無機微粒子3の種類にもよるが、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基などが挙げられる。
【0030】
被膜2に蒸着させる化合物は、基材1及び無機微粒子3の表面の官能基と反応可能な基を有するものであれば特に限定されない。一般に、被膜2に蒸着させる化合物は、基材1及び無機微粒子3の表面の官能基の種類に応じて適宜選択する必要がある。
例えば、無機微粒子3としてシリカ微粒子を用いる場合、被膜2に蒸着させる化合物として、シラザン基やシラノール基からなる群から選択される少なくとも1つの基を含有する化合物を用いることが好ましい。これらの化合物を蒸着させた場合、防汚性被膜の表面を撥水化させることもできる。そのため、例えば、防汚性被膜が風雨に晒されても、長期に渡って防汚性被膜の耐久性を確保することが可能となる。
【0031】
シラザン基を含有する化合物としては、ヘキサメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、オクタメチルトリシラザン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、テトラエチルテトラメチルシクロテトラシラザン、テトラフェニルジメチルジシラザンなどが挙げられる。また、シラノール基を含有する化合物としては、アルコキシシラノール、アルコキシアルキルシラノール、アルコキシシランジオールが挙げられる。アルコキシシラノール、アルコキシアルキルシラノール及びアルコキシシランジオールは、2〜5の炭素数を有することが好ましい。これらの化合物は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
上記の化合物の蒸着方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。
例えば、上記の化合物をガラス容器内に入れ、当該化合物1Lあたり、キャリアガスとして不活性ガスを0.5L/分以上2.0L/分以下の流量で供給することによって当該化合物を気化し、それを不活性ガスと共に被膜2と接触させればよい。ここで、不活性ガスとしては、上記の化合物と反応しないものであれば特に限定されず、例えば、窒素ガスやアルゴンガスなどが挙げられる。また、当該化合物と被膜2との接触時間は、10分以上30分以下であることが好ましい。この接触時間が10分未満であると、反応が十分に進行せずに、防汚性被膜と基材1との密着性の向上効果が十分でないことがある。一方、この接触時間が30分を超えると、空隙4内に多くの化合物が堆積し、被膜2中の空隙4を充填してしまうことがある。その結果、所望の防汚性能を有する防汚性被膜が得られない。
また、化合物を被膜2と接触させた後は、加熱乾燥させることが好ましい。加熱温度としては、60℃以上90℃以下であることが好ましい。加熱温度が60℃未満であると、反応が完結していないことがあり、防汚性被膜と基材1との密着性の向上効果が十分でないことがある。一方、加熱温度が90℃を超えると、基材1が樹脂である場合には基材1の変形などが生じてしまうことがあり、使用する基材1の種類が制限されてしまう。
【0033】
上記の方法以外にも、蒸着装置を用いる蒸着法により、化合物の蒸着を行うことも可能である。蒸着法としては、プラズマ化学気相蒸着法、熱化学気相蒸着法、光化学気相蒸着法などの化学気相蒸着法(CVD)が挙げられる。
例えば、プラズマ化学気相蒸着法を用いて被膜2に化合物の蒸着を行う場合、化合物の原料ガス及びキャリアガスを原料ガスとしてチャンバー内に導入し、チャンバー内の圧力を10〜200mTorr程度の圧力に保持しつつ、チャンバー内に設置した電極に直流電圧又は交流電圧を印加することでグロー放電プラズマを生成させ、そのプラズマの活性により原料ガス中の化合物を被膜2や基材1と反応させればよい。また、光化学気相蒸着法を用いて被膜2に化合物の蒸着を行う場合、一定圧力に保持したチャンバー内に原料ガスを導入し、チャンバー壁面に取り付けられた光透性の窓からレーザー光や紫外光を照射することによって、原料ガスにエネルギーを付与して原料ガス中の化合物を被膜2や基材1と反応させればよい。
【0034】
このようにして形成される防汚性被膜は、空隙が多いながらも、基材1に対する密着性に優れている。この防汚性被膜の空隙率は、30%以上80%以下である。
ここで、防汚性被膜の空隙率とは、防汚性被膜の全体積に対する空隙部分の体積の比率を意味し、単位面積S(cm)あたりの質量をW(g)、防汚性被膜の厚さをt(μm)及び密度をd(g/cm)とした場合、下記式により算出することができる。
空隙率(%)=(1−10・W/(S・t・d)))×100
また、空隙率の測定方法としては、特に限定されないが、例えば、BET吸着法や水銀ポロシメーターなどの市販の装置を用いて行うことができる。
防汚性被膜の空隙率が、化合物の蒸着前の被膜2の空隙率と同程度になる理由は、基材1及び無機微粒子3の表面の官能基と化合物とを反応させる程度に蒸着させているに過ぎないためである。防汚性被膜の空隙率が30%未満であると、所望の防汚性能を有する防汚性被膜が得られない。一方、防汚性被膜の空隙率が80%を超えると、防汚性被膜と基材との密着性を十分に高めることができない。
【0035】
本実施の形態の形成方法によれば、基材1との密着性が高く、また、防汚性被膜の空隙4を多くすることができるため、繊維埃をはじめとする様々な汚れに対する防汚性能に優れた防汚性被膜を形成することができる。
【0036】
実施の形態2.
本実施の形態の防汚性部材は、基材上に形成される防汚性被膜が、所定の無機微粒子を含み、基材及び無機微粒子の表面の官能基と当該官能基と反応可能な基を有する化合物との反応生成物が表面の少なくとも一部に形成されており、且つ防汚性被膜の空隙率が30%以上80%以下であることを特徴とする。この防汚性部材は、実施の形態1の防汚性被膜の形成方法により製造することができる。なお、この防汚性部材の主な構成は、実施の形態1において説明した通りであり、同一部分は説明を省略する。
【0037】
本実施の形態の防汚性部材が用いられる例としては、空気調和機に用いられる各種部品(例えば、熱交換器のアルミフィンや、ファン、フラップ、ベーン、風路材などを構成するプラスチック部材など)、換気扇や扇風機に用いられる各種部品、エレベータ、冷蔵庫、太陽電池などの電気機器に用いられる各種部品が挙げられる。特に、空気調和機に用いられる各種部品として本実施の形態の防汚性部材を用いた場合、防汚性能に優れているため、清潔な状態を常に保つことができると共にメンテナンスも容易になる。同様に、換気扇や扇風機に用いられる羽根体として本実施の形態の防汚性部材を用いた場合も、防汚性能に優れているため、清潔な状態を常に保つことができると共にメンテナンスも容易になる。
【0038】
本実施の形態の防汚性部材は、基材との密着性が高いと共に、繊維埃をはじめとする様々な汚れに対する防汚性能に優れた防汚性被膜を備えているので、耐久性及び防汚性能に優れている。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例により本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
動的光散乱法による一次粒径が13nmのシリカ微粒子が数珠状に連結した凝集体(動的光散乱法による粒径115nm)を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)と脱イオン水とを攪拌混合することによってコーティング組成物を調製した。このコーティング組成物では、シリカ微粒子の含有量を20質量%とした。
次に、このコーティング組成物をステンレス基材(100mm×30mm×1mm)に塗布する前に、このコーティング組成物1Lに、窒素ガスを0.5L/分の流量で30分間吹き込みバブリングした。
次に、バブリングを行ったコーティング組成物中にステンレス基材を浸漬し、コーティング組成物からステンレス基材をゆっくりと引き上げた後、ステンレス基材を回転させることによって、余分なコーティング組成物を除去した。その後、コーティング組成物を塗布した基材を65℃で乾燥させた。形成された被膜の厚さは0.4μmであった。
次に、500mLのガラス容器内に上記のステンレス基材を配置した。他方、液体状のエトキシシラノール1Lに窒素ガスを0.8L/分の流量で供給してエトキシシラノールを気化させた。この気化したエトキシシラノールを上記のステンレス基材が配置されたガラス容器中にチューブを用いて流入させながら1時間放置した。その後、得られたステンレス基材を80℃の恒温槽中で30分間放置した。
【0041】
(実施例2)
動的光散乱法による一次粒径が13nmのシリカ微粒子が数珠状に連結した凝集体(動的光散乱法による粒径115nm)を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)の代わりに、動的光散乱法による一次粒径が10nmのシリカ微粒子が数珠状に連結した凝集体(動的光散乱法による粒径90nm)を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)を用いたこと、及び液体状のエトキシシラノールの代わりに、液体状のヘキサメチルジシラザンを用いたこと以外は、実施例1と同様にした。
【0042】
(実施例3)
動的光散乱法による一次粒径が10nmのシリカ微粒子が数珠状に連結した凝集体(動的光散乱法による粒径90nm)を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)の代わりに、動的光散乱法による一次粒径が12nmのシリカ微粒子が数珠状に連結した凝集体(動的光散乱法による粒径110nm)を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)を用いたこと、及びコーティング組成物中のシリカ微粒子の含有量を25質量%としたこと以外は、実施例2と同様にした。
【0043】
(実施例4)
動的光散乱法による一次粒径が10nmのシリカ微粒子が数珠状に連結した凝集体(動的光散乱法による粒径90nm)を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)の代わりに、動的光散乱法による一次粒径が11nmのシリカ微粒子が数珠状に連結した凝集体(動的光散乱法による粒径95nm)を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)を用いたこと、及びコーティング組成物中のシリカ微粒子の含有量を0.2質量%としたこと以外は、実施例2と同様にした。
【0044】
(実施例5)
動的光散乱法による一次粒径が10nmのシリカ微粒子が数珠状に連結した凝集体(動的光散乱法による粒径90nm)を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)の代わりに、動的光散乱法による一次粒径が9nmのシリカ微粒子が数珠状に連結した凝集体(動的光散乱法による粒径82nm)を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)を用いたこと以外は、実施例2と同様にした。
【0045】
(実施例6)
動的光散乱法による一次粒径が10nmのシリカ微粒子が数珠状に連結した凝集体(動的光散乱法による粒径90nm)を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)の代わりに、動的光散乱法による一次粒径が14nmのシリカ微粒子が数珠状に連結した凝集体(動的光散乱法による粒径130nm)を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)を用いたこと以外は、実施例2と同様にした。
【0046】
(実施例7)
動的光散乱法による一次粒径が13nmのシリカ微粒子が数珠状に連結した凝集体(動的光散乱法による粒径120nm)を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)と脱イオン水とを攪拌混合することによってコーティング組成物を調製した。このコーティング組成物では、シリカ微粒子の含有量を20質量%とした。
次に、このコーティング組成物をステンレス基材(100mm×30mm×1mm)に塗布する前に、このコーティング組成物1Lに、窒素ガスを0.5L/分の流量で30分間吹き込みバブリングした。
次に、バブリングを行ったコーティング組成物中にステンレス基材を浸漬し、コーティング組成物からステンレス基材をゆっくりと引き上げた後、ステンレス基材を回転させることによって、余分なコーティング組成物を除去した。その後、コーティング組成物を塗布した基材を65℃で乾燥させた。形成された被膜の厚さは0.4μmであった。
【0047】
次に、上記のステンレス基材を平行平板型プラズマCVD装置(アネルバ株式会社製PE401)のチャンバー内の下部電極(アース電極)上に配置した。次に、プラズマCVD装置のチャンバー内を、油回転ポンプ及び油拡散ポンプにより、到達真空度0.1mTorrまで減圧した。次に、ヘキサメチルジシラザンを100℃に加熱した気化器を用いて気化して原料ガスとし、2sccm(気体状態)の流量に制御しながらチャンバーに供給した。また、原料ガスと共にキャリアガスとして窒素ガスを60sccmの流量でチャンバーに供給した。次に、200W、13.56MHzの電力を上部電極とアース電極との間に印加することによりプラズマを生成させ、チャンバー内の圧力を50mTorrに保持しながら5分間蒸着させた。なお、蒸着の際、ステンレス基材を水冷することによって室温に保持した。
【0048】
(実施例8)
動的光散乱法による一次粒径が13nmのシリカ微粒子が数珠状に連結した凝集体(動的光散乱法による粒径120nm)を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)と脱イオン水とを攪拌混合することによってコーティング組成物を調製した。このコーティング組成物では、シリカ微粒子の含有量を20質量%とした。
次に、このコーティング組成物中にステンレス基材を浸漬し、コーティング組成物からステンレス基材をゆっくりと引き上げた後、ステンレス基材を回転させることによって、余分なコーティング組成物を除去した。その後、コーティング組成物を塗布した基材を65℃で乾燥させた。形成された被膜の厚さは0.3μmであった。
次に、500mLのガラス容器内に上記のステンレス基材を配置した。他方、液体状のヘキサメチルジシラザン1Lに窒素ガスを0.8L/分の流量で供給してヘキサメチルジシラザンを気化させた。この気化したヘキサメチルジシラザンを上記のステンレス基材が配置されたガラス容器中にチューブを用いて流入させながら1時間放置した。その後、得られたステンレス基材を80℃の恒温槽中で30分間放置した。
【0049】
(比較例1)
動的光散乱法による一次粒径が10nmのシリカ微粒子が数珠状に連結した凝集体(動的光散乱法による粒径90nm)を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)の代わりに、動的光散乱法による一次粒径が10nmのシリカ微粒子を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)を用いたこと以外は、実施例2と同様にした。
【0050】
(比較例2)
動的光散乱法による一次粒径が10nmのシリカ微粒子が数珠状に連結した凝集体(動的光散乱法による粒径90nm)を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)の代わりに、動的光散乱法による一次粒径が8nmのシリカ微粒子が数珠状に連結した凝集体(動的光散乱法による粒径70nm)を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)を用いたこと以外は、実施例2と同様にした。
【0051】
(比較例3)
動的光散乱法による一次粒径が10nmのシリカ微粒子が数珠状に連結した凝集体(動的光散乱法による粒径90nm)を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)の代わりに、動的光散乱法による一次粒径が20nmのシリカ微粒子が数珠状に連結した凝集体(動的光散乱法による粒径180nm)を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)を用いたこと、及びコーティング組成物中のシリカ微粒子の含有量を30質量%としたこと以外は、実施例2と同様にした。
【0052】
(比較例4)
動的光散乱法による一次粒径が11nmのシリカ微粒子が数珠状に連結した凝集体(動的光散乱法による粒径95nm)を含むコロイダルシリカ(日産化学株式会社製)と脱イオン水とを攪拌混合することによってコーティング組成物を調製した。このコーティング組成物では、シリカ微粒子の含有量を25質量%とした。
次に、このコーティング組成物をステンレス基材(100mm×30mm×1mm)に塗布する前に、このコーティング組成物1Lに、窒素ガスを0.5L/分の流量で30分間吹き込みバブリングした。
次に、バブリングを行ったコーティング組成物中にステンレス基材を浸漬し、コーティング組成物からステンレス基材をゆっくりと引き上げた後、ステンレス基材を回転させることによって、余分なコーティング組成物を除去した。その後、コーティング組成物を塗布した基材を65℃で乾燥させた。形成された被膜の厚さは0.1μmであった。
【0053】
実施例1〜8及び比較例1〜4の各条件と、実施例1〜8及び比較例1〜4で形成された被膜の空隙率の結果を表1に示す。なお、被膜の空隙率は、BET法(窒素吸着法)を用いて測定した。
【0054】
【表1】

【0055】
次に、実施例1〜8及び比較例1〜4で形成された被膜について、防汚性能、耐久性及び水の接触角を測定した。
被膜の防汚性能は、繊維埃及び関東ロームの混合粉塵の被膜に対する付着性を次のようにして評価した。まず、混合粉塵をエアーにより被膜に吹き付けた後、被膜に付着した混合粉塵をメンディングテープ(住友スリーエム株式会社製)により採取した。次に、これを分光光度計(島津製作所株式会社製UV−3100PC)を用いて吸光度(波長550nm)を測定した。そして、測定された吸光度の値を以下のように5段階評価した。
1:吸光度が0.1未満のもの
2:吸光度が0.1以上0.2未満のもの
3:吸光度が0.2以上0.3未満のもの
4:吸光度が0.3以上0.4未満のもの
5:吸光度が0.4以上のもの
【0056】
被膜の耐久性は、次のようにして評価した。折り畳んで水で湿らせたガーゼを、5cm角の押し付け面で被膜に押し付け、100g重/cmの加重をかけながら10cmの往復運動を行った。この評価において、被膜が剥離し始めるまでの往復回数を耐久性の強さの指標とした。
水の接触角は、接触角計DM301(協和界面科学株式会社製)を用いて測定した。
防汚性能、耐久性及び水の接触角の評価結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2の結果に示されているように、実施例1〜8で形成された被膜はいずれも、防汚性能及び耐久性が良好であった。その中でも、実施例2及び7で形成された膜は、防汚性能及び耐久性が最も高かった。また、実施例1〜8で形成された被膜は、水の接触角も高く、撥水性が良好であった。
これに対して比較例1で形成された被膜は、防汚性能が十分でなかった。これは、球状シリカを用いたために、被膜の空隙率が小さくなり過ぎてしまい、シリカ微粒子と汚れとの分子間力が高くなったことに起因すると考えられる。
また、比較例2で形成された被膜は、耐久性が十分でなかった。これは、粒径が小さ過ぎる数珠状シリカを用いたために、被膜の空隙率が高くなり過ぎてしまい、被膜とステンレス基材との密着性が低下したことに起因すると考えられる。
また、比較例3で形成された被膜は、防汚性能が十分でなかった。これは、粒径が大きすぎる数珠状シリカを用いたために、被膜の空隙率が小さくなり過ぎてしまい、シリカ微粒子と汚れとの分子間力が高くなったことに起因すると考えられる。
また、比較例4で形成された被膜は、耐久性が十分でなかった。これは、低密度の被膜を単に形成しただけであり、シリカ微粒子とステンレス基材との密着性を向上させるための処理を行わなかったことに起因すると考えられる。
【0059】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、基材との密着性が高いと共に、繊維埃をはじめとする様々な汚れに対する防汚性能に優れた防汚性被膜の形成方法を提供することができる。また、本発明によれば、防汚性能及び耐久性に優れた防汚性被膜を有する防汚性部材を提供することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 基材、2 被膜、3 無機微粒子、4 空隙、5 反応生成物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒径が5nm以上20nm以下の無機微粒子が数珠状に連結した凝集体であって、粒径が80nm以上130nm以下の凝集体を含むコーティング組成物を基材に塗布して乾燥させた後、前記基材及び前記無機微粒子の表面の官能基と反応可能な基を有する化合物を蒸着させることを特徴とする防汚性被膜の形成方法。
【請求項2】
前記無機微粒子はシリカ微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の防汚性被膜の形成方法。
【請求項3】
前記基材及び前記無機微粒子の表面の官能基と反応可能な基を有する化合物は、シラザン基及びシラノール基からなる群から選択される少なくとも1つの基を含有する化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の防汚性被膜の形成方法。
【請求項4】
前記コーティング組成物中の前記凝集体の含有量は、0.5質量%以上20質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の防汚性被膜の形成方法。
【請求項5】
前記コーティング組成物を基材に塗布する前に、前記コーティング組成物に不活性ガスを吹き込みバブリングすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の防汚性被膜の形成方法。
【請求項6】
前記蒸着は、化学気相蒸着法により行われることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の防汚性被膜の形成方法。
【請求項7】
基材と、前記基材上に形成された防汚性被膜とを有する防汚性部材であって、
前記防汚性被膜は、一次粒径が5nm以上20nm以下の無機微粒子を含み、前記基材及び前記無機微粒子の表面の官能基と前記官能基と反応可能な基を有する化合物との反応生成物が前記表面の少なくとも一部に形成されており、且つ前記防汚性被膜の空隙率が30%以上80%以下であることを特徴とする防汚性部材。
【請求項8】
前記無機微粒子はシリカ微粒子であることを特徴とする請求項7に記載の防汚性部材。
【請求項9】
前記基材及び前記無機微粒子の表面の官能基と反応可能な基を有する化合物は、シラザン基及びシラノール基からなる群から選択される少なくとも1つの基を含有する化合物であることを特徴とする請求項7又は8に記載の防汚性部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−66223(P2012−66223A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215408(P2010−215408)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】