説明

防犯用警報装置

【課題】被害者であるユーザが身動きのとれないような状況下にあっても適切に警報が発動される防犯用警報装置を提供する。
【解決手段】ユーザは、防犯用警報装置100を、衣服400(例えば、袖)の中の前腕部など、第三者から見えない位置に装着する。送信部110の送信電極部及び受信部120の受信電極部がユーザの皮膚300に電気的に接触する。第三者がユーザの腕などを掴むなど、身体的な接触をした場合、受信部120が受信する受信信号の受信強度(受信信号の電圧/送信信号の電圧)が通常より大きくなる。そのため受信強度をモニタして、予測値に許容値を加えた上限閾値よりも所定時間以上大きい場合に第三者から身体的接触があったことを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第三者からの身体的な接触を感知する防犯用警報装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、「連れ去り」、「痴漢」、「つきまとい」、「ひったくり」といった幼児、女性、高齢者など体力面で劣る者を狙った犯罪に対して、発生を防止したり被害を最小に抑えたりするため、携帯型の警報装置が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1記載の発明は、ストラップ型の小型防犯用ブザーを携帯電話などに装着する装置であり、見知らぬ第三者から犯罪の被害を受けそうになるなどの緊急時には、ユーザが防犯用ブザーのストラップ部分を引くことで内部のスイッチが入り、警報音が発生する構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−172015号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、かかる従来の技術では、ユーザが自らの意思で防犯用ブザーのストラップ部分を引く動作をする必要があるため、実際の犯罪の場面では警報が発動されにくいという問題があった。
【0006】
すなわちユーザは、第三者から「連れ去り」や「痴漢」といった犯罪行為を受けそうになった場合、恐怖のため極度に緊張・狼狽した状態となるのが通常である。このような状況下では、ユーザにとって、防犯ブザーを取り出してそのストラップ部分を引くという動作さえも困難となる。そのため、ユーザが犯罪に直面しているにも関わらず、警報が発動されないという事態が起きてしまう可能性があった。
【0007】
そこで、本発明は上記の問題を鑑み、被害者であるユーザが身動きのとれないような状況下にあっても適切に警報が発動される防犯用警報装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた本発明の請求項1記載の防犯用警報装置は、送信手段、受信手段、モニタ手段、判定手段及び出力手段を備える。送信手段は、ユーザの皮膚に電気的に接触する送信側接触面からユーザの身体に電気信号を送信し、受信手段は、送信手段により送信された電気信号をユーザの皮膚と電気的に接触する受信側接触面からユーザの身体を介して受信する。また、モニタ手段は、受信手段により受信された電気信号の受信強度をモニタし、判定手段は、モニタ手段によりモニタされる受信強度を基にユーザに対して第三者から身体的な接触があったことを判定し、出力手段は、判定手段により第三者から身体的な接触があったことが判定された場合に防犯用の警報を出力する処理を行う。
【0009】
ここにいう電気的に接触とは、必ずしも物理的な接触を必要とするものではなく、接触面とユーザの皮膚とが離れていたり、繊維(衣服)などが挟まれたりしていたりしても電気信号(電流)が流れる状態にあればよい。
【0010】
また、ここにいう受信強度とは、受信された電気信号の電圧、電流、電力など強さを表す値であり、これは送信手段が送信する電気信号との比較値(比、差など)であってもよい。
【0011】
ここで本発明の前提となる作用について説明する。すなわち第三者からの身体的接触が、送信側接触面から受信側接触面への電流経路以外の部分(外側)にあった場合、受信強度が通常よりも大きくなる。すなわちこの場合、第三者からの身体的な接触により、第三者の分の接地面積が大きくなるなどの理由により、身体を流れる電気信号が安定し、そのため受信強度が大きくなることが実験から判明している。
【0012】
また一方、第三者からの身体的接触が、送信側接触面から受信側接触面への電流経路上(内側)にあった場合、受信強度が通常よりも小さくなる。すなわちこの場合、第三者の接触によりいわゆる電気信号の吸い取り現象が起こるとされており、身体の表面を流れる電気信号が減少し、そのため受信強度は小さくなることが実験から判明している。
【0013】
本発明は、こうした特性を利用し、受信強度を基にユーザに対して第三者から身体的な接触があったことを判定する。なお、以上の技術に関しては、例えば、「蜂須賀啓介:“人体を伝送路とする通信方式に関する研究”、東京大学学位論文、p.106(2006)」に開示されている。
【0014】
かかる請求項1記載の防犯用警報装置によれば、ユーザの身体に電気信号を送信して受信される電気信号の受信強度を基に第三者から身体的接触があったことを判定するため、被害者であるユーザが身動きのとれないような状況下にあっても適切に警報が発動される。
【0015】
もっとも、外気の温度・湿度などの外的要因、及びその人の体質や体調などの人的要因により、例えば、汗をかいたり心拍数が変わったり体温が上昇したりすることもあり、身体表面の電流の流れにくさ(抵抗、インピーダンス)が変化することも考えられる。
【0016】
そこで、請求項2記載の発明は、請求項1記載の防犯用警報装置において、判定手段は、モニタ手段により現在までにモニタされた受信強度を基に現在の受信強度の予測値を算出しその算出された予測値とモニタ手段によりモニタされる現在の受信強度とを比較してユーザに対して第三者から身体的な接触があったことを判定する。
【0017】
かかる請求項2記載の防犯用警報装置によれば、現在までにモニタされた受信強度を基に現在の受信強度の予測値を算出するため、ユーザの身体表面の電流の流れにくさ(抵抗、インピーダンス)が変化したような場合、予測値もそのような変化に応じた値となり、単に現在の受信強度のみを基に判断した場合に比較して誤って第三者から接触があったと判定してしまうことが少なくなる。そのため、第三者から身体的な接触がある場合を的確に区別して判定できる。
【0018】
また請求項3記載の発明は、請求項2記載の防犯用警報装置において、判定手段は、自己回帰モデルにより現在の受信強度の予測値を算出する。
かかる請求項3記載の防犯用警報装置によれば、微小な変化や周期的な変化を反映させて予測できることで知られている自己回帰モデルを用いるため、例えば単に過去の値を平均するなどして予測値を出した場合に比較して、現在までにモニタされた受信強度を正確に反映させて現在の予測値を算出することが可能となる。
【0019】
ところで、ユーザは、送信側接触面と受信側接触面との両方を自己の身体に装着することになるが、その場合、送信側接触面と受信側接触面とを遠く離して装着しなければならないとすると、防犯用警報装置の取り扱いが煩雑になってしまう。
【0020】
そこで、請求項4記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の防犯用警報装置において、判定手段は、受信強度が上限閾値を上回る場合にユーザに対して第三者から身体的な接触があったことを判定する。
【0021】
かかる請求項4記載の防犯用警備装置によれば、前述のとおり、第三者からの身体的接触が、送信側接触面から受信側接触面への電流経路以外の部分(外側)にあった場合、受信強度が通常よりも大きくなるため、上限閾値との比較により第三者から身体的な接触があったと判定できる。
【0022】
そのため、送信側接触面と受信側接触面との間を短く設定することができるため、防犯用警報装置全体の構成をコンパクトなものとして実現することができ、取り扱いが煩雑にならなくて済む。
【0023】
もっとも、混雑した電車内など日常生活の中で極めて短時間の身体的な第三者との接触は起こりうることであり、これらに対して警報が発動されるのでは問題がある。
そこで、請求項5の発明は、請求項4記載の防犯用警報装置において、判定手段は、受信強度が上限閾値を上回る状態が所定時間継続した場合にユーザに対して第三者から身体的な接触があったことを判定する。
【0024】
かかる請求項5記載の防犯用警報装置によれば、受信強度が上限閾値を上回る状態が所定時間継続した場合にユーザに対して第三者から身体的な接触があったことを判定するため、単に上限閾値を超えた場合に第三者から身体的な接触があったと判定する構成と比較して、日常生活の中で第三者と短時間の身体的な接触があった場合に警報を発動してしまうようなことが少なくなる。
【0025】
また、送信側接触面及び受信側接触面をユーザの身体に装着する場合、例えば、送信側接触面及び受信側接触面の一方を既存の装具と併用するなど、両者を遠く離して装着することに特に問題がない場合も考えられる。
【0026】
そこで、請求項6記載の発明は、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の防犯用警報装置において、判定手段は、受信強度が下限閾値を下回る場合にユーザに対して第三者から身体的な接触があったことを判定する。
【0027】
かかる請求項6記載の防犯用警報装置によれば、前述のとおり、第三者からの身体的接触が、送信側接触面から受信側接触面への電流経路上(内側)にあった場合、受信強度が通常よりも小さくなるため、下限閾値との比較により第三者からの身体的な接触があったことを判定することが可能となる。
【0028】
また請求項7記載の発明は、請求項6記載の防犯用警報装置において、判定手段は、受信強度が下限閾値を下回る状態が所定時間継続した場合にユーザに対して第三者から身体的な接触があったことを判定する。
【0029】
かかる請求項7記載の防犯用警報装置によれば、請求項5記載の発明と同様の効果を得ることができる。
さらにユーザの皮膚との接触面(送信側接触面及び受信側接触面)としては、例えば、電極を利用するのが通常であるが、この電極はユーザの汗などが付着して腐食しやすいという問題がある。
【0030】
そこで、請求項8記載の発明は、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の防犯用警報装置において、送信側接触面及び受信側接触面の一方又は双方は、表面が誘電材料でコーティングされている。
【0031】
かかる請求項8記載の防犯用警報装置によれば、接触面の表面が誘電材料でコーティングされているため、電極が直接汗などに触れることがなく、腐食を防止することができる。
【0032】
もっとも、ユーザと第三者との接触は、ユーザにとって望まない場合だけではなく、ユーザが意図して第三者と触れる場合もある。そのような場合に警報を発動してしまうのでは問題がある。
【0033】
そこで、請求項9記載の発明は、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の防犯用警報装置において、出力手段による防犯用の警報を出力する処理をユーザの操作により中断可能なスイッチを備える。
【0034】
かかる請求項9記載の防犯用警報装置によれば、ユーザが意図して第三者と触れるような場合、スイッチを操作することにより警報の出力を中断できるので都合がよい。
さらに、仮に、第三者からの身体的な接触があったことを判定して警報音などを発生させたとしても、近隣に救助できる人がいない場合は犯罪を防止することができないおそれがある。
【0035】
そこで、請求項10記載の発明は、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の防犯用警報装置において、出力手段は、防犯用の警報を出力する処理として、外部のセンタに信号を送信する処理を行う。
【0036】
かかる請求項10記載の防犯用警報装置によれば、外部のセンタに信号が送信されるので、例えば警備会社の警備員が出動したりセンタからさらに警察に通報したりするなどといった迅速かつ的確な対応が可能となる。
【0037】
また仮に、センタに通報されるとしても、ユーザの位置がわからないのでは、対応に時間がかかってしまうおそれがある。
そこで、請求項11記載の発明は、請求項10記載の防犯用警報装置において、現在位置取得手段を備え、その現在位置取得手段がユーザの現在位置を取得する。そして、出力手段は、防犯用の警報を出力する処理として、現在位置取得手段により取得された現在位置とともに外部のセンタに信号を送信する処理を行う。
【0038】
かかる請求項11記載の防犯用警報装置によれば、通報と同時にユーザの現在位置を把握することができるため、迅速に対応をとることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1実施形態としての防犯用警報装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態としての防犯用警報装置を装着した様子を示す説明図である。
【図3】第1実施形態としての防犯用警報装置の制御部が実行する異常判定処理のフローチャートである。
【図4】送信電圧、受信電圧の大きさを説明する説明図である。
【図5】ユーザが犯罪に遭ったときの様子を示す説明図である。
【図6】第2実施形態としての防犯用警報装置の取り付け例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1 第1実施形態]
[1−1 構成]
図1は、本発明の第1実施形態としての防犯用警報装置100の構成を示すブロック図である。
【0041】
この防犯用警報装置100は、後述する図2に示すように、ユーザの身体(皮膚300)に装着して第三者からユーザに対する身体的な接触を電気信号により判定する小型の電子機器であり、送信部110及び受信部120の2つの別個の筐体を備えている。送信部110及び受信部120は通信線130により接続されている。なお、図2では、送信部110、受信部120及び通信線130は、実線で記載されており、ユーザの身体(皮膚300)から離れているように見えるが、実際は衣服400(例えば、袖)の内側に隠れており、送信部110及び受信部120はユーザの身体(皮膚300)に接触している。
【0042】
なお本実施形態では送信部110及び受信部120を2つの別個の筐体としたが、これら送信部110及び受信部120は1つの筐体内に収められていてもよい。
また送信部110及び受信部120をユーザの身体(皮膚300)に装着するには、表面に剥貼可能な粘着剤を付着させたテープを用いることができる。なお装着方法としては、ベルトを用いて固定することもできる。
【0043】
送信部110は、送信電極部111、信号発生部112、増幅部113を備える。
送信電極部111は、ユーザの皮膚300に電気的に接触し、ユーザの身体表面に微弱な電流を送信するための電極である。ユーザの皮膚300に良好に電気信号を送り込むため、銅電極にて構成されており、またこの銅電極は、長時間の皮膚との接触による腐食・劣化を防止するため、表面に誘電材料によるコーティング(本実施形態ではグラスコーティング)が施されている。この送信電極部111を介してユーザの身体表面に微弱な電流(数10〜数100μA程度)が送信される。
【0044】
なお本実施形態では、電極表面にグラスコーティングを施した構成としたが、電極にコーティングする誘電材料は例えば樹脂などであってもよい。
信号発生部112は、特定周波数の正弦波を発生する発振器(図示せず)を内部に備える電気回路である。この信号発生部112で発生させた電気信号は、増幅部113に送られる。
【0045】
増幅部113は、電気信号を増幅する周知の増幅回路である。信号発生部112で発生させた電気信号を増幅するが、この増幅された電気信号は送信電極部111を介してユーザの身体表面に送られる。また、増幅部113で増幅された電気信号はユーザの身体を介してだけでなく、通信線130を介しても受信部120に送られる。
【0046】
一方、受信部120は、受信電極部121、制御部122、記憶部123、警報部124を備える。
受信電極部121は、ユーザの皮膚300に電気的に接触し、送信部110からユーザの身体表面に流された微弱な電流を受信するための電極である。銅電極にて構成されており、グラスコーティングされていることは、送信電極部111と同じである。
【0047】
制御部122は、制御回路であり、ユーザに対して第三者から身体的な接触があったか否かを判定する異常判定処理(後述する図3に示す)を実行する。この異常判定処理は、詳細は後述するが、通信線130を介して送られる送信信号及び受信電極部121を介して受信する受信信号を入力して、これら両信号の電圧比(受信信号の電圧/送信信号の電圧)を算出し、この算出した電圧比を現在の受信強度とする。そしてこの現在の受信強度が、現在までにモニタした受信強度から求めた現在の受信強度の予測値を大きく超える場合(上限閾値を超える場合)に第三者から身体的な接触があったと判定するものである。
【0048】
なお本実施形態では、制御部122により実行される異常判定処理は、ソフトウエアにより実現されるものとしたが、この点は、ハードウエアにより実現してもよい。
記憶部123は、データを記憶するための周知の読出し/書込み可能な記憶装置であり、本実施形態では、特に、現在までの受信強度の履歴などが記憶される。
【0049】
警報部124は、小型スピーカ、GPS受信機及び通信回路など(いずれも図示せず)を内部に備える電子回路であり、制御部122によりユーザに対して第三者から身体的な接触があったと判定された場合に、ユーザの危機的状況を周囲に喚起する警告音を発生させる。またこの場合、携帯電話の無線通信網に接続できる通信回路を通じてユーザに危険が迫っていることを知らせる信号を、GPS受信機で得られるユーザの現在位置とともに警備会社のセンタに送信する。
【0050】
なおこの警報部124は閃光装置を備える構成として、第三者から身体的な接触があったと判定された場合に、接触を試みた第三者をひるませることを目的に、閃光装置による閃光を放射するようにしてもよい。
【0051】
また、防犯用警報装置100は、送信部110及び受信部120の内部に電源として電池(図示せず)が備えられており、ユーザにより電源スイッチ(図示せず)がオンにされることにより、各構成要素に電源が供給される。
【0052】
なお、電源としては、送信部110又は受信部120の一方のみに電池を備えて、電池を備えた送信部110又は受信部120の一方から、電池を備えない他方へ電源を供給するため電源線で接続してもよい。
【0053】
さらに、送信部110には、電気信号を介してデータを送信するために信号を変調する変調回路(図示せず)、受信部120には、送信部110から送信され、ユーザの身体表面に流された電気信号を復調するための復調回路(図示せず)を備えることもできる。
【0054】
図2は、ユーザがこの防犯用警報装置100を装着した様子を示している。ユーザは、この防犯用警報装置100を、例えば衣服400(例えば、袖)の中の上腕部など、第三者から見えない位置に装着する。この場合、送信部110の送信電極部111及び受信部120の受信電極部121をユーザの皮膚300に装着するが、その際、防犯用警報装置100は、衣服400に完全に隠れるため、外部からはユーザが防犯用警報装置100を装着していることを確認することはできない。
[1−2 処理]
図3は、防犯用警報装置100の制御部122が実行する異常判定処理を示すフローチャートである。ユーザが防犯用警報装置100を身体に装着して、電源スイッチを入れると、制御部122は、この異常判定処理を開始する。
【0055】
まずS210で現在の受信強度X(t)を算出して、S211に進む。
図4は、受信強度X(t)を算出する前提となる送信電圧VT及び受信電圧VRの時間経過に伴う変動を示す説明図である。図4(a)は、制御部122が通信線130を介して受信する送信信号の電圧変化であり、正弦波の最小値と最大値との幅が送信電圧VTとして表される。図4(b)は、制御部122が受信電極部121を介して受信する受信信号の電圧変化であり、正弦波の最小値と最大値との幅が受信電圧VRとして表される。
【0056】
現在の受信強度X(t)は、送信電圧VT及び受信電圧VRから以下の式(1)により算出される。
X(t)=VR/ VT …式(1)
なお、桁数が大きくなることから便宜上入力と出力との電圧比を表すデシベル値として表現される。
【0057】
次に、S220では、現在の受信強度X(t)と後述する予測値XP(t)との誤差(差の絶対値)を求め、その誤差が所定時間T以上許容値th以内か否かを判定する。この誤差が所定時間T以上許容値th以内であれば(S211:YES)、S212に進み、所定時間T以上許容値th以内でなければ(S211:NO)、S213に進む。
【0058】
ここで現在の受信強度の予測値XP(t)は、現在までの受信強度X(t)の履歴から、現在の受信強度がどの程度であるかを周知の自己相関モデルを用いて算出した値であり、次の式(2)により算出される。
【0059】
【数1】

この予測値XP(t)は、現在までのp個分の受信強度を線形和したものであり、anは後述するS213により算出される予測係数である。なお、ここではアルゴリズムの便宜上、anの符号がマイナスとされることから、線形和にマイナスを付している。
【0060】
また許容値thとしては、予測値との誤差(差の絶対値)が異常であると判定できる程度の値(例えば、5デシベル)に設定される。実験では、例えば、正常時−51デシベル程度であったものが、第三者からの身体的な接触により−38デシベル程度になる場合が計測されており、この場合であれば異常と判定される。なお、この許容値thは、ユーザの操作により変更可能として、調節できる態様にしてもよい。
【0061】
第1実施形態では防犯用警報装置100の2つの電極部111及び121の外側(送信電極部111から受信電極部121への電流経路以外の部分)に第三者からの接触がある場合を予定しており、この場合、受信強度が通常よりも大きくなり、第三者から身体的な接触があったと判定できる。すなわちこの場合、第三者からの身体的な接触により、第三者の分の接地面積が大きくなるなどの理由により、身体を流れる電気信号が安定し、そのため受信強度が大きくなることが実験から判明しており、この特性を利用したものである。
【0062】
そこで、現在の受信強度X(t)が、予測値XP(t)に許容値thを加えた値(上限閾値)を所定時間T以上超える場合に、第三者から身体的な接触があったと判定することになる。
ただし本実施形態には差の絶対値を用いるため、受信強度が正常値よりも大きくなる場合も、正常値より小さくなる場合も次の式(3)をみたすか否かにより判定(不等式をみたす場合に正常と判定)することになる。
【0063】
【数2】

この式(3)をみたさない場合、所定時間Tの経過を計測することになるが、その所定時間Tの経過を計測している間、予測値XP(t)はその所定時間Tの計測が開始された時点の値で固定される。すなわち、現在の受信強度X(t)が、予測値XP(t)に許容値thを加えた値(上限閾値)を超えたと判定された場合、予測係数anが所定時間Tの計測経過とともに更新されることはなく、固定された予測値XP(t)とその間も更新される現在の受信強度X(t)とを基にして式(3)による判定がなされることになる。
【0064】
ここで所定時間Tは、第三者からの身体的な接触が確実になされていることを判定するための時間であり、例えば、3〜5秒に設定することができる。なお、この所定時間Tは、ユーザの操作により変更可能として、調節できる態様にしてもよい。
【0065】
図5は、ユーザ(皮膚300)に対して第三者500から身体的な接触があった場合を示している。ここではユーザの上腕部の皮膚300に送信器110及び受信機120が装着されている。例えば、第三者500が「連れ去り」や「ひったくり」の目的でユーザの手首あたりを掴んだ場合(図5(a))又は第三者が「痴漢」や「つきまとい」の目的でユーザの手首あたりに接触した場合(図5(b))、現在の受信強度X(t)と予測値XP(t)との誤差は許容値thを超えることになり、第三者500から身体的な接触があったと判定する(S211:NO)。
【0066】
S212では、予測係数anを更新して、S210に戻る。なお通常の場合、S210〜S212の処理は所定の時間間隔(例えば20回〜30回/秒)に処理されるものとする。
【0067】
このS212では、次の式(4)により予測係数anを更新する。
a=R-1・r …式(4)
すなわち、自己相関関数の行列Rの逆行列R-1と自己相関関数のベクトルrとの積から更新後の予測係数anが算出される。自己相関関数のベクトルr、自己相関関数の行列R及び自己相関関数r(k)は、それぞれ以下の式(5)〜式(7)で表される。
【0068】
【数3】

ここで式(5)は、1ステップ前の受信強度X(t-1)から、pステップ前の受信強度X(t-p)の自己相関関数のベクトルrを表している。
【0069】
また式(6)は、同じく1ステップ前の受信強度X(t-1)から、pステップ前の受信強度X(t-p)の自己相関関数の行列Rを表している。
さらに式(7)は、自己相関関数r(k)であり、k=ステップ差、μ=X(1)〜X(t-p)までの平均値、σ=X(1)〜X(t-p)までの分散値をそれぞれ表している。
【0070】
以上から、以下の式(8)で表される予測係数につき、現在の予測係数anが算出され、更新される。
【0071】
【数4】

一方、S213では、警報を作動させて、この異常判定処理を終了する。具体的には、前述したとおり、ユーザの危機的状況を周囲に喚起する警告音を発生させるとともに、無線通信回路を通じてユーザに危険が迫っていることを知らせる信号を、ユーザの現在位置とともに警備会社のセンタに送信する。外部のセンタに信号がユーザの現在位置とともに送信されることにより、例えば警備会社の警備員が出動したり、センタからさらに警察に通報したりするなどして、迅速かつ的確に防犯を実現できる。
[1−3 効果]
以上説明したように、第1実施形態の防犯用警報装置100によれば、ユーザの身体を介して受信される電気信号の受信強度(受信電圧/送信電圧)を基に第三者から身体的接触があったか否かを判定するため(S211)、被害者であるユーザが身動きのとれないような状況下にあっても適切に警報が発動される(S213)。
【0072】
また外気の温度・湿度などの外的要因、及びその人の体質や体調などの人的要因により、例えば、汗をかいたり心拍数が変わったり体温が上昇したりすることもあり、身体表面の電流の流れにくさ(インピーダンス)が変化することも考えられるが、第1実施形態の防犯用警報装置100によれば、現在までにモニタされた受信強度X(t)から予測値XP(t)を算出するため(S210)、ユーザの身体表面の電流の流れにくさが変化したような場合でも予測値XP(t)もそのような変化に応じた値となり、誤って第三者から接触があったと判定してしまうことが少なくなる。その際、現在の受信強度の予測値は、自己回帰モデル(自己相関関数)を用いるため、現在までにモニタされた受信強度を正確に把握させて現在の予測値を算出することが可能となる。
【0073】
また単に予測値XP(t)を超えるだけでなく許容値thを加えた値を上限閾値とするので、このような上限閾値を設けなかった場合に比較して、誤って第三者から身体的接触があったと判定されてしまう場合は少なくなる。
【0074】
同様に、所定時間T以上上限閾値を超えていた場合に第三者から身体的接触があったと判定するため、単に上限閾値を超えていた場合に第三者から身体的接触があったと判定する場合に比較して誤って警報を発動してしまうことが少なくなる。そのため例えば、混雑した電車内など日常生活の中で第三者と極めて短時間の身体的な接触があった場合に誤って警報を発動してしまうようなことも少なくなる。
【0075】
さらに防犯用警報装置100によれば、第三者からの身体的接触が、送信電極部111から受信電極部121への電流経路以外の部分(外側)にあった場合でも判定できるため、送信電極部111と受信電極部121との間を短く設定することができ、防犯用警報装置100全体の構成をコンパクトなものとして実現することができ、取り扱いが煩雑にならなくて済む。
【0076】
また、ユーザの皮膚と接触する送信電極部111及び受信電極部121の表面がグラスコーティングされているため、電極が直接汗などに触れることがなく、腐食を防止することができる。
【0077】
さらに、ユーザが意図して第三者と触れる場合は電源スイッチを操作して、防犯用の警報を出力する処理を中断できるため都合がよい。
また防犯用警報装置100によれば、外部のセンタに信号がユーザの現在位置とともに送信されるので(S213)、例えば警備会社の警備員が出動したり、センタからさらに警察に通報したりするなどして、迅速かつ的確に防犯を実現できる。
[1−4 特許請求の範囲との対応]
なお、第1実施形態の送信部110が送信手段、受信部120が受信手段、制御部122が実行するS210がモニタ手段、制御部122が実行するS211が判定手段、制御部122が実行するS213が出力手段にそれぞれ相当する。
[2 第2実施形態]
次に、第2実施形態としての防犯用警報装置について説明する。第2実施形態としての防犯用警報装置は第1実施形態として説明した防犯用警報装置100と基本的構成及び処理は同一であるため、第1実施形態で用いた符号と同一のものを用い、異なる箇所のみを説明する。
【0078】
第2実施形態の防犯用警報装置100では、送信部110の送信電極部111及び受信部120の受信電極部121を離して装着することも可能なように通信線130が十分に長く構成されている。これら電極部111及び121の間に第三者からの身体的接触があることを予定している点が第1実施形態の場合と異なる。
【0079】
図6は、第2実施形態としての防犯用警報装置をユーザの身体に装着する場合を示す説明図である。図6(a)に示すように例えば、送信部110及び受信部120をそれぞれ左右の肩から腕の部分に装着したり、図6(b)に示すように、両足の大腿部に装着したりすることが考えられる。他にも、送信部110及び受信部120の一方を右足、他方を左腕、又はその逆で、一方を左足、他方を右腕といったような身体の部分に装着してもよい。
【0080】
第2実施形態の場合も、第1実施形態で示した異常判定処理(図3)と同様の処理になるが、S211について許容値thの設定は第1実施形態の場合と同じである必要はない。
すなわち第2実施形態では、防犯用警報装置100の2つの電極部111及び121の内側(送信電極部111から受信電極部121への電流経路上)に第三者からの接触がある場合を予定しており、この場合、第三者からの接触により電気信号の吸い取り現象が起きるため、受信強度が通常よりも小さくなる。つまり現在の受信強度X(t)が、予測値XP(t)から許容値thを引いた値(下限閾値)を所定時間T以上下回る場合に、第三者から身体的な接触があったと判定することになる。
【0081】
もっとも前述したとおり、差の絶対値を用いるため、受信強度が通常よりも小さくなる場合も、通常より大きくなる場合(第1実施形態)と同じ判定をすることになる。
この場合、許容値thとしては、予測値との誤差(差の絶対値)が異常であると判定できる基準となる値(例えば、5デシベル)を設定する。例えば実験では、正常時−51デシベル程度であったものが、第三者からの身体的な接触により−57デシベル程度になる場合が計測されており、この場合は異常と判定される。
【0082】
第2実施形態は、例えば、送信電極部111及び受信電極部121の一方を既存の装具と併用するなど、両者を離して装着することに特に問題がない場合に有効である。
[3 他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0083】
例えば、受信強度について、実施形態では、送信側と受信側との電圧をモニタするものとしたが、これに代えて、電流や電力をモニタするものでもよい。また両者の比をモニタするのではなく、両者の差をモニタしてもよい。さらに通常の値がある程度予測できるのであれば、送信信号を考慮せず受信信号のみをモニタしてもよい。
【0084】
また変調・復調回路を用いて、送信部110及び受信部120の間で、例えば、ユーザを特定できる識別情報を送受信して、例えば、複数の人体通信を利用する場合などに他の電気信号を誤って受信したりしないようにするなど、身体を通じた通信のセキュリティを確保することができる。
【0085】
さらに本実施形態では、現在までの受信強度から現在の受信強度を予測するモデルとして自己回帰モデルを用いたが、これは、カルマンフィルタなどによる予測モデルを用いてもよい。
【0086】
また本実施形態ではユーザは電源スイッチにより異常判定処理を中断できる構成としたが、この点は、電源スイッチの他に一時的に処理を中断するためのスイッチが備えられていてもよい。
【0087】
さらにユーザの現在位置を取得する態様としては、GPSの他、携帯電話向けの通信回線に用いられる基地局から位置情報を取得するようにしてもよい。
また携帯電話に内蔵される制御回路やGPS機器と一部の構成を兼ねる形にしてもよいし、ネットワークと接続して、警備会社などのセンタにデータを送信する形にしてもよい。
【0088】
また日常生活で身体に付けることが予定される眼鏡、財布、衣服、ボタン、靴などに電極を設けることもできる。
【符号の説明】
【0089】
100…防犯用警報装置、110…送信部、111…送信電極部、112…信号発生部、113…増幅部、120…受信部、121…受信電極部、122…制御部、123…記憶部、124…警報部、130…通信線、300…皮膚、400…衣服

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの皮膚に電気的に接触する送信側接触面から前記ユーザの身体に電気信号を送信する送信手段と、
前記送信手段により送信された電気信号を前記ユーザの皮膚と電気的に接触する受信側接触面から前記ユーザの身体を介して受信する受信手段と、
前記受信手段により受信された電気信号の受信強度をモニタするモニタ手段と、
前記モニタ手段によりモニタされる受信強度を基に前記ユーザに対して第三者から身体的な接触があったことを判定する判定手段と、
前記判定手段により第三者から身体的な接触があったことが判定された場合に防犯用の警報を出力する処理を行う出力手段と
を備えたことを特徴とする防犯用警報装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記モニタ手段により現在までにモニタされた受信強度を基に現在の受信強度の予測値を算出しその算出された予測値と前記モニタ手段によりモニタされる現在の受信強度とを比較して前記ユーザに対して第三者から身体的な接触があったことを判定すること
を特徴とする請求項1記載の防犯用警報装置。
【請求項3】
前記判定手段は、自己回帰モデルにより現在の受信強度の予測値を算出すること
を特徴とする請求項2記載の防犯用警報装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記受信強度が上限閾値を上回る場合にユーザに対して第三者から身体的な接触があったことを判定すること
を特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の防犯用警報装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記受信強度が前記上限閾値を上回る状態が所定時間継続した場合にユーザに対して第三者から身体的な接触があったことを判定すること
を特徴とする請求項4記載の防犯用警報装置。
【請求項6】
前記判定手段は、前記受信強度が下限閾値を下回る場合にユーザに対して第三者から身体的な接触があったことを判定すること
を特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の防犯用警報装置。
【請求項7】
前記判定手段は、前記受信強度が前記下限閾値を下回る状態が所定時間継続した場合にユーザに対して第三者から身体的な接触があったことを判定すること
を特徴とする請求項6記載の防犯用警報装置。
【請求項8】
前記送信側接触面及び前記受信側接触面の一方又は双方は、表面が誘電材料でコーティングされていること
を特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の防犯用警報装置。
【請求項9】
前記出力手段による防犯用の警報を出力する処理をユーザの操作により中断可能なスイッチを備えること
を特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の防犯用警報装置。
【請求項10】
前記出力手段は、前記防犯用の警報を出力する処理として、外部のセンタに信号を送信する処理を行うこと
を特徴とすることを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の防犯用警報装置。
【請求項11】
前記ユーザの現在位置を取得する現在位置取得手段を備え、
前記出力手段は、前記防犯用の警報を出力する処理として、前記現在位置取得手段により取得された現在位置とともに前記外部のセンタに信号を送信する処理を行うこと
を特徴とする請求項10記載の防犯用警報装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−48749(P2011−48749A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−198227(P2009−198227)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】