説明

防獣柵用ネットとその製法及び流通態様

【課題】近年深刻さを増す農作物への歩行性野性獣に対する防獣柵は普及がなかなか進んでいない。その理由である、コスト、施工性、耐久性、有効性における欠格を解決し、防獣効果を高める。
【解決手段】リブラス型エキスパンドメタルにおいて、該連続方向に対して略直角に所定長さで切断加工を施すことで全体として矩形をなすとともに、並行するリブの切断端面が該連続方向に沿って交互にずれるよう、全体の切断端面がW字状をなすよう形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山間部の農産地で近年深刻さを増している農作物への獣害防止のうち、主に歩行性野性獣に対し有効な防護柵に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農産地では最近、山間部の人口減少や山林荒廃が原因で、野性獣が都市近郊の里山にまで出没する機会が増えている。農作物への獣害は近年深刻さを増しているにもかかわらず、十分な対策が講じられていないのが現状である。なかでも歩行性野性獣による被害は深刻で、地域によって異なるが、イノシシ、タヌキ、アライグマ、ヌートリア、シカ、リス、サルなどの被害例が多い。
【0003】
これまでも様々な防獣柵が新規に考案され、また他用途品が流用されてきたが、被害防止に十分に有効なものが少なく普及は進んでいない。普及が進まない理由としては主に、コスト、施工性、耐久性、有効性の面での欠格が指摘されている。
【0004】
従来の防獣柵の代表例を表1に示すが、それぞれ前記に述べた欠格性を有している。
【0005】
【表1】

【0006】
またこれらの改善策として、様々な先行技術としての新規提案がなされているが、いずれも前記欠格性を十分に解消できるに至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−272354号公報
【特許文献2】特開2002−315496号公報
【特許文献3】特開2003−199479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする問題点は、従来利用され、また新規提案されている防獣柵の普及において障害となる性能の欠格性、すなわちコスト、施工性、耐久性、有効性のいずれをも実現する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題の解決を可能とするため提案するもので、以下に本発明の構成ごとの特徴とともにその作用を説明する。
【0010】
請求項1によれば、薄板を連続方向に対して一定の角度をなす1本または断続的な複数本の斜向スリット加工列を、該連続方向に対して略直角方向に複数施した連続してなるスリット加工板に対し、隣り合う該斜向スリット加工列の間において断面がV字形またはU字形で該連続方向に沿う複数のリブ成形を施し、最終的に該連続方向に対し略直角方向の力を加えて該スリット加工部分を広げる展開加工を施して網体とするリブラス型エキスパンドメタルにおいて、該連続方向に対して略直角に所定長さで切断加工を施すことで全体として矩形をなすとともに、並行するリブの切断端面が該連続方向に沿って交互にずれるよう、全体の切断端面がW字状をなすよう形成したことを特徴とする防獣柵用ネットを構成する。
【0011】
この構成により、次のような作用をなす。
第1に、エキスパンドメタルの特徴であるスリット加工断面のエッジには微細なバリが生じるため、野性獣が網目開口部に鼻や足などを入れて破ろうとしたり、または口でかみ切ろうとした際、痛みを感じやすく突破意欲の減退につながるなど動物の忌避効果が高い。
第2に、W字状をなす切断端面により、野性獣が乗り越えやもぐり込みを図ろうとした場合でも、体に引っかかったり場合によっては傷を負うなどの危険を感じさせ、同じく突破意欲の減退につながるなど動物の忌避効果(忍び返し効果)が高い。
第3に、W字状をなす切断端面により、ネットどうしを連続して張設する際の重ねしろを少なくでき、資材費の節約につながる。
【0012】
また請求項2によれば、隣り合う該斜向スリット加工列が、該連続方向を中心に互いに対称となる略V字形に形成されるよう施し、かつ該展開加工を施す前に、該切断加工を施すことで得られる請求項1の防獣柵用ネットの製造方法を構成する。
【0013】
この構成により、隣り合う斜向スリット加工列が対称角をなすことで、展開加工する際に隣り合うスリット加工列は逆方向の回転作用が働く。すなわちスリット加工列どうしの間の薄板、すなわち一つのスリット加工列の両側にあるリブは、展開時に薄板の連続方向に対し交互にずれる作用が働く。これらの作用を切断加工後に施すことにより、連続方向に略直角に形成された切断端面が、展開加工時に自然にW字状をなす。
【0014】
また請求項3によれば、該切断加工を施した後に流通運搬し、利用者が使用に供する施工地またはその近くにおいて、該展開加工を施すことを特徴とする請求項2の方法によって製造される防獣柵用ネットの流通態様を構成する。
【0015】
この構成により、かさばらない展開加工前のリブ形成後のスリット加工板の状態で流通運搬でき、運送、荷役、保管の経費が削減できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の防獣柵用ネットとその製法及び流通態様は、従来利用され、また新規提案されている防獣柵用ネットの欠格性に対し、表2に示すようにコスト、施工性、耐久性、有効性のいずれをも高める効果を有する。
【0017】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の防獣柵用ネットの加工途中と展開後の平面図と断面図である。
【図2】本発明実施例の防獣柵用ネットの一施工例である。
【図3】本発明実施例の防獣柵用ネットの一施工例である。
【図4】本発明実施例の防獣柵用ネットの一施工例である。
【図5】本発明実施例の防獣柵用ネット(別例)における破断強度計算用の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0019】
本実施例は、本発明における防獣柵用ネットの実施態様を示す。
図1は、防獣用ネットの態様の一例である。連続した薄板の原板2に対し(a)はスリット加工を施した状態、(b)(c)(d)(e)はリブ成形を施し、連続方向Aに略直角に切断加工を施した状態、(f)は展開加工を施した状態である。リブ成形加工と切断加工は前後を選ばない。また(b)(c)(d)(e)は、リブ成形の仕方を変えた2種類の態様を示す。(b)(d)は略U字状のリブを同一方向に成形したもので全体に平板状をなす。(c)(e)は略V字状のリブを交互に別方向に成形したもので断面が全体にW字状をなす。ここで(d)は態様(b)の(d)(d)断面を示し、(e)は態様(c)の(e)(e)断面を示す。
【0020】
(a)(b)(c)が示すようにスリット加工は、連続方向Aに対し、一定の角度を持った斜向のスリット23が断続的に形成されている。スリット加工は、一般的にはプレス金型など上刃と下刃が擦れ合う際の剪断により行うが、断面がV字状の圧刻刃を平面に押し当てる圧刻でも可能である。いずれもスリット加工断面にバリが生じ、展開した後の網目13に野性獣が鼻を突っ込んだり、口でかみ切ろうとした際に痛みを感じさせることができ、突破意欲を減退させることで忌避効果を得ることができる。
【0021】
また同様に、斜向のスリット23はリブ形成を行うためのリブ部21を中心に対称角をなすよう形成する。この構造により切断加工を施した後、スリット部22を展開方向Bに力を加えて広げる際に、リブ11を中心に両側のつなぎ(スタランド)14が対称に回転するため、隣り合うリブ11はこの作用により連続方向Aにズレが生じる。この結果、展開前の切断端面24は自然と、(f)のようにW字状の切断端面15をなすことになる。
【0022】
全体の断面形状は用途、目的により、図1(d)、(e)いずれの断面形状でも構わない。いずれにしても、展開前の状態(b)(c)(d)(e)で流通させれば、かさばらず運送、荷役、および保管の費用を抑制でき、流通コストを抑えられる利点がある。最終的に(f)の状態にするのは、流通業者や施工者など、施行地に近い場所で行うことが望ましい。
【0023】
次に、図2〜4に施工方法の一例を示す。図2はリブ11を地面53に平行に配設した場合の立面図、図3はリブ11を地面53と交差する方向に配設した場合の斜視図、図4は天辺および底辺を折り返したあおりおよび据え張りをした場合の立断面図である。
【0024】
図2の施工例の場合、適当な間隔で設置した支柱51に防獣柵用ネット1を張設する方法をとる。防獣柵用ネット1はリブ11が地面に並行するよう配設しているため、支柱51のほか横桟は特に必要がない。飛び越えや地面からのもぐり込み能力のない害獣対策の場合や、防獣柵用ネット1を何段も積み重ねて大きな壁体を構成する場合などに適している。もちろん、図4に示すように天辺のあおりや、底辺の据え張りを行うことも可能である。
【0025】
この場合、防獣柵用ネット1どうしの接続部は、W字状の切断端面15を重ね合わせて一体性を確保するが、その際、突出したリブ11どうしを重ねるようにすると、一体性を損なわずに重ね合わせの面積を減らすことが可能となり材料ロスが少なくて済む。図2のように、重ね合わせ部分16には支柱51を設けるとなお一体性が高まる。
【0026】
図3の施工例の場合、支柱51とともに横桟52を設け、防獣柵用ネット1はリブ11が地面53と交差する方向に配設する。図2に比べると横桟52が余分に必要になるが、切断端面15のリブ11が忍び返しの効果をもたらし、防獣の有効性が高まる。天辺においては一定以上の高さを確保すれば飛び越えやよじ登りを防止する効果が大きい。また底辺においては地面53からももぐり込みを防止する効果が大きい。図3のように、底辺においてはリブ11を含むW字状の突出部分など一部を地中に埋設すると、なお効果が大きい。もちろん、図4に示すように天辺のあおりや、底辺の据え張りを行うことも可能である。
【0027】
また、実施にあたっては、使用する原材料である薄板の材質および板厚、スリットの角度、間隔、1列のスリットの数などで決まる網目13の大きさや構成および配列数、網目を形成するつなぎ(スタランド)14の幅、リブ部21の幅、リブ11のピッチや断面形状および向きなどを、用途や目的に応じて最適なものを選択するとよい。いずれにしても、必要な強度や剛性を確保しつつ、展開性のよい(小さい力で展開できる)条件を選ぶとよい。
【0028】
例えば、次のような範囲のものが現実的なものとして提案できる。
まず薄板の材質は、亜鉛メッキ鋼板がよい。比較的廉価で、メッキ層の亜鉛が母材の鉄よりイオン化しやすく、スリット加工断面にむき出しになった母材がさびるのを遅行させる効果があり耐久性の面で有利である。
【0029】
また薄板の板厚は、0.5〜0.8ミリメートルの範囲で選択するとよい。比較的軽量で、かつ強度や剛性を確保することが可能である。薄い材料では、特に剛性の確保がしにくくなるが、リブの間隔や断面形状を工夫することである程度の性能を確保可能である。
【0030】
斜向スリットの角度は、長手方向Aに対し2〜10度の範囲で選択するとよい。角度が小さいと網目の展開面積は大きくできるが、つなぎ(スタランド)14の幅が小さくなる。角度が大きいとその逆になる。つなぎ(スタランド)14の幅が2〜4ミリメートルの範囲になるよう、また網目が正方形に近い平行四辺形になるよう選択するとよい。軽量性を維持しつつ適度の破断強度を確保することができる。もちろん板厚との関係で調整する必要がある。
【0031】
網目13の大きさは一辺が50〜200ミリメートルの範囲で選択するとよい。対策対象の野性獣にもよるが、小動物への対策が必要な場合は小さくし、大型動物のみの場合は大きめにして重量や材料費を抑えるとよい。イノシシなどは突破を図る前に必ず鼻を網目13に突っ込み様子を伺う習性があるといわれる。子供のイノシシでは100ミリ前後の大きさが適している。シカは食いちぎって突破しようとする習性があるが、その際に鼻を網目13に突っ込む必要がある。いずれであっても、つなぎ(スタランド)14の幅とともに、網目13の大きさを、適正なものに選択すればよい。
【0032】
リブ11どうしの間の網目13の数は2〜6の範囲で選択するとよい。薄板の板厚、つなぎ(スタランド)14の幅により、必要な強度および剛性を確保する条件を選ぶ。またリブ11の断面形状の選択も同様の考えで決めればよい。
【0033】
ここで本発明の防獣用ネットの実施態様のうち、重量に関して一例を示して推定してみることにする。前記のように、薄板の材質が亜鉛メッキ鋼板の母材である冷間圧延鋼板とし、板厚を0.5〜0.8ミリメートル、つなぎ(スタランド)の幅を2〜4ミリメートル、リブ間の網目の数を2〜6、網目の一辺の寸法を50〜200ミリメートル、リブに必要な材料幅を10〜30ミリメートルで選択したと想定する。重量については数式1で計算でき、また計算結果は表3の通りとなる。これによれば、1平方メートル当たり0.072〜2.39kgfの範囲となり軽量化できることが分かる。もちろん用途に応じて様々な条件が選択可能である。
【0034】
【数1】

【表3】

【0035】
また同様に、網目の突破に対する強度に関して一例を示して推定してみることにする。重量計算をした前記と同様の各条件範囲で選択したと想定する。まず網の食いちぎりに対する強度は、つなぎ(スタランド)1本の破断強度により、推定できる。薄板の板厚0.5〜0.8ミリメートル、つなぎ(スタランド)幅2〜4ミリメートルを掛け合わせた断面積は、最小値と最大値で1.0〜3.2平方ミリメートルとなる。従って、1本のつなぎの破断強度は冷間圧延鋼板(JIS規格によれば1平方ミリメートル当たり約28kgf)の場合、計算上28〜90kgf有することとなり、十分な強度を有しているといえる。
【0036】
また体当たり突破に対する強度の推定もしてみる。前記で示したもののうち比較不利な条件で考えると、最大の網目寸法は一辺が200ミリメートル、リブ間の網目の数が6とした場合になる。その条件下で、薄板の板厚0.5〜0.8ミリメートル、つなぎ(スタランド)の幅2〜4ミリメートルで想定する。強度については数式2で計算できるが、体当たりを受ける範囲を直径1メートルの円として計算してみると、この範囲の外周に交差するつなぎ(スタランド)の数は18になる(図4を参照)。これらを勘案した計算結果は表4の通りとなり、1個所で504〜1613kgfの破壊力が必要で、野性獣が体当たりをした際にも十分な強度がある。
【0037】
【数2】

【表4】

【0038】
防獣柵としての性能はこれらのほか、柵自体が押し倒されたりすることも考慮する必要がある。それには、防獣用ネットだけでなく、防獣柵用ネットを張設する際に使用する施工資材、例えば支柱や横桟、それを支える控え材など、柵全体の強度や剛性が必要なことは、当然である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は防獣柵に関する分野への利用について提案したが、一般の外構フェンス等、他の産業分野への応用の可能性もある。
【符号の説明】
【0040】
A 連続方向
B 展開方向
1 防獣柵用ネット
2、2’ 原板
3 圧切ロールユニット
4、4’ 成形ロールユニット
5 防獣柵
11 リブ
12 網目部
13 網目
14 つなぎ(スタランド)
15 切断端面
16 重ね合わせ部分
17 折り曲げ線
18 天辺の忍び返し部
19 底辺の据え張り部
21 リブ部
22 スリット部
23 斜向スリット 51 支柱
52 横桟
53 地面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板を連続方向に対して一定の角度をなす1本または断続的な複数本の斜向スリット加工列を、該連続方向に対して略直角方向に複数施した連続してなるスリット加工板に対し、隣り合う該斜向スリット加工列の間において断面がV字形またはU字形で該連続方向に沿う複数のリブ成形を施し、最終的に該連続方向に対し略直角方向の力を加えて該スリット加工部分を広げる展開加工を施して網体とするリブラス型エキスパンドメタルにおいて、該連続方向に対して略直角に所定長さで切断加工を施すことで全体として矩形をなすとともに、並行するリブの切断端面が該連続方向に沿って交互にずれるよう、全体の切断端面がW字状をなすよう形成したことを特徴とする防獣柵用ネット。
【請求項2】
請求項1において、隣り合う該斜向スリット加工列が、該連続方向を中心に互いに対称となる略V字形に形成されるよう施し、かつ該展開加工を施す前に、該切断加工を施すことで得られる請求項1の防獣柵用ネットの製造方法。
【請求項3】
該切断加工を施した後に流通運搬し、利用者が使用に供する施工地またはその近くにおいて、該展開加工を施すことを特徴とする請求項2の方法によって製造される防獣柵用ネットの流通態様。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−254733(P2011−254733A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130575(P2010−130575)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(592002558)
【Fターム(参考)】