説明

防苔性を有する焼成体及びその製造方法

【課題】 防苔、防黴特性を焼成体中に一様に分布させ、焼成体が摩耗していっても防苔、防黴特性が一様に分布し持続するれんが、ブロック等の焼成体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 配合原料中に、酸化硼素(B)を0.1重量%〜10重量%を含有する防苔性を有する焼成体。また、粘土基材に硼酸(HBO)又は酸化硼素(B)を焼成体中の酸化硼素(B)含有量が0.1重量%〜10重量%となるように配合した原料を混合した後、水を加えて混練し、成形した後乾燥し、該乾燥された成形体を800℃〜1300℃の温度域で1時間〜30時間焼成する防苔性を有する焼成体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苔、黴、藻類などの微生物の付着、生育を防止することができるとともに、その表層部が摩耗した後も前記効果を持続し得る防苔性を有する焼成体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
舗道などに用いられるれんがやブロック等は、成形、敷設施工後に苔、黴などが付着、生育し、美観を損なうのみならず舗道を人が歩く際、滑りやすく危険である問題がある。
【0003】
また、各種建築、土木用材料についても苔や黴の発生は長期使用に際しての美観、耐久性を損なう原因となっている。たとえば、建築物の壁構築に用いられる壁パネル材料等は、長期使用の過程でその表面に異物および水分が付着し微生物汚染が発生する。特に、当該材料が多孔質材料である場合には、材料表面のみならず材料内部にまで微生物汚染が進行する。
【0004】
建築、土木用材料等の表面を処理して抗菌性を付与することにより苔や黴の発生を防止する試みが数多くなされているが、清掃等による表面層喪失や紫外線等による抗菌性能の低下という問題を解決するには至っていない。
【0005】
このような問題を解決すべく、基材(粘土、長石、珪石)にコレマナイト(2CaO・3B・5HO)を添加した成形体を350℃〜1150℃の温度域で焼成した焼結体が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−187273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に開示の先行技術によるときは、結晶性のコレマナイト粒子が混在および/または点在して焼結体中に賦存するB成分に偏りがあり、焼結体に一様に防苔性を付与し難くまた、焼結体が摩耗した後にも防苔性を持続し難い問題がある。
【0007】
本発明は、防苔、防黴特性を焼成体中に一様に分布させ、焼成体が摩耗していっても防苔、防黴特性が一様に分布し、持続するれんが、ブロック等の焼成体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための請求項1に記載の発明は、配合原料中、酸化硼素(B)を0.1重量%〜10重量%含有する防苔性を有する焼成体である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、粘土基材に硼酸(HBO)又は酸化硼素(B)を焼成体中の酸化硼素(B)含有量が0.1重量%〜10重量%となるように配合した原料を混合した後、水を加えて混練し、成形した後乾燥し、該乾燥された成形体を800℃〜1300℃の温度域で1時間〜30時間焼成することを特徴とする防苔性を有する焼成体の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、コレマナイト(2CaO・3B・5HO)のようなアルカリ土類金属を含まないから、酸化硼素(B)がガラス形成酸化物(網目形成酸化物)として作用するとともに焼成体中に一様に分布し、防苔性、防黴性、防藻性を一様に賦存させ得る。而して、焼成体がれんが、ブロックであって舗道として使用され、摩耗、減量していっても防苔性、防黴性が低下することなく長年に亘って特性を持続、発揮することができる。
【0011】
このように本発明にあっては、酸化硼素(B)が、れんが、ブロック等の焼成体の粒子相互を結合させるバインダとしてまた、防苔、防黴特性の要素として機能する効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明にあっては、れんが、ブロック等を得るときの基材として、Si、Alを主体としてMg、Fe、アルカリ土類金属、アルカリ金属等を含む珪酸塩鉱物である粘土を用いる。この基材に焼成体中の酸化硼素(B)含有量が0.1重量%〜10重量%となるように、硼酸(HBO)又は酸化硼素(B)を添加、混合し、これに水を加えて混練、成形した後、トンネル窯の放熱を利用する炉上乾燥等によって1日〜7日間の乾燥を行い、然る後、トンネル窯、電気炉等で800℃〜1300℃の温度域で1時間〜30時間の焼成を行って焼成(焼結)体を得る。
【実施例1】
【0013】
以下、本発明をその好ましい一実施例に則して詳細に説明する。表1に示す組成を有するPW(pearl white)粘土を基材とし、硼酸(HBO)を、質量で、30%、20%、10%、5%、2%、0%配合したものと、酸化硼素(B)を、質量で、10%、5%、2%配合したものを磨りつぶしてアルミナ坩堝に入れ、電気炉中、1180℃で60分間加熱し、電気炉中で放冷した。
【0014】
【表1】

【0015】
硼酸(HBO)を加熱し300℃に達すると、酸化硼素(B)となる。硼酸(HBO)が脱水するときの水分(HO)および粘土原料中の水分(HO)によって発泡を生じ、焼成体に孔を形成する。酸化硼素(B)が10質量%を超える硼酸(HBO)の添加は、得られる焼成体にガラスが溶けた形状をもたらし、れんがとなり難い。一方、酸化硼素(B)が0.1質量%に満たない硼酸(HBO)の添加は、焼成体に満足すべき防苔性をもたらさない。この実施例においては、配合原料中、2質量%の硼酸(HBO)を添加して得られた焼成体が、れんが形状、防苔性、耐水性、耐酸性に優れていた。
【0016】
表1に示す組成を有するPW(pearl white)粘土を基材とし、酸化硼素(B)を添加した場合、配合原料中2質量%でも発泡が見られた。
【0017】
配合原料中、2質量%の硼酸(HBO)を添加して得られた焼成体について、耐水性、耐酸性、および苔の生成、付着試験を行った。耐水性は、試料を純水(25℃)中に浸漬し、50日間に亘るれんが(焼成体)の溶出減量によって測定した。耐酸性は、HNO+HSO(モル比1:1、pH=3.5)の水溶液(25℃)中に試料を浸漬し、50日間に亘るれんが(焼成体)の溶出減量によって測定した。また、防苔性は、1cmの試料をれんが(焼成体)から切り出し、シャーレの中で予め苔を繁殖させておいた水中に試料を浸漬し、水の蒸発減量がある場合は、苔が繁殖している水を補充して試料が水面上に出ることがないようにして、50日間に亘る苔の生成、付着状況を観察した。
【0018】
耐水性、耐酸性の試験結果を、図1および図2に示す。配合原料中、2質量%の硼酸(HBO)を添加して得られた焼成体が、形状が良好であるとともに、耐水性、耐酸性にも優れている。また、防苔性は、50日間後の苔の付着状況は、配合原料中、2質量%の硼酸(HBO)を添加して得られた焼成体が、苔の付着が殆どなかった。
【実施例2】
【0019】
表1に示すR(red)ベースの粘土を基材とし、配合原料中、硼酸(HBO)を10質量%、5質量%、および2質量%添加したもの10gに水1.8mlを加え、よく混練してから成形した。Rベースの粘土を用いる場合、混練後乾燥してから加熱しないと焼結が困難であるので、室温で24時間および48時間の乾燥を行った。乾燥後の成形体を坩堝に入れて蓋をして密封し、電気炉中、1050℃で1時間の加熱を行い、その後電気炉中で放冷した。
【0020】
配合原料中、硼酸(HBO)を5質量%および2質量%添加し、混練後、室温で24時間の乾燥を行って得られた焼成体について、実施例1におけると同様の方法で、耐水性、耐酸性、および防苔性の試験を行った。耐水性および耐酸性試験の結果を、図3および図4に示す。
【0021】
図3および図4から明らかなように、Rベース粘土を基材とする場合には、硼酸(HBO)を5質量%添加して水を加え混練、成形し、室温で24時間乾燥後坩堝に入れて蓋をして密封し、電気炉中、1050℃で1時間の加熱を行い、その後電気炉中で放冷して得られた焼成体が、耐水性、耐酸性に優れている。また、防苔性についても、Rベース粘土を基材とし、硼酸(HBO)を5質量%添加して得られた焼成体が優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施例に係る防苔性を有する焼成体の耐水性試験結果を示すグラフ
【図2】本発明の一実施例に係る防苔性を有する焼成体の耐酸性試験結果を示すグラフ
【図3】本発明の他の実施例に係る防苔性を有する焼成体の耐水性試験結果を示すグラフ
【図4】本発明の他の実施例に係る防苔性を有する焼成体の耐酸性試験結果を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配合原料中、酸化硼素(B)を0.1重量%〜10重量%を含有することを特徴とする防苔性を有する焼成体。
【請求項2】
粘土基材に硼酸(HBO)又は酸化硼素(B)を焼成体中の酸化硼素(B)含有量が0.1重量%〜10重量%となるように配合した原料を混合した後、水を加えて混練し、成形した後乾燥し、該乾燥された成形体を800℃〜1300℃の温度域で1時間〜30時間焼成することを特徴とする防苔性を有する焼成体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−143791(P2010−143791A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323122(P2008−323122)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(802000031)財団法人北九州産業学術推進機構 (187)
【Fターム(参考)】