説明

防虫染料

【課題】抗菌性のあるアルカロイド由来成分を有効成分とし、安全性が高く堅牢性に優れた防虫染料の提供。
【解決手段】一般式(I)又は一般式(II)


(I)


(II)(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8はおのおの独立してH、OH、メチル、メトキシ、アセトキシを示すか、もしくはメチレンジオキシを示す。また、Xはメチル、メトキシ又はトリフルオロメチルを示す。)で示される群から選ばれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性が付与されたアルカロイド誘導体又はそれらの塩を含有する防虫染料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
絹やウール等の衣類を害虫被害から保護するために、下記の3種の方法が知られている。
1)衣類に揮散性防虫成分を含む防虫剤を施用する。
2)衣類を構成する繊維に防虫成分を含有させる。
3)殺虫又は忌避性を有する染料を用いる。
これらのうち、1)の方法に用いる揮散性防虫成分としては、エムペントリン、プロフルトリン等があり、多くの防虫剤が実用化されている。また、2)の方法には、例えばシラフルオフェンが有用である(特許文献1)。
【0003】
一方、近年、消費者の自然志向や清潔志向の高まりを背景に天然繊維を天然素材で染めたり、天然素材を利用して抗菌防臭効果を持たせた衣類へのニーズもあり、例えば、オウレンから抽出したベルベリン(特許文献2)やクララの根から抽出したマトリン(特許文献3)を染色に用いた抗菌布が開示されている。しかしながら、これらには防虫効果がなく、前記3)の要求を満足させるものではなかった。
【0004】
ところで、本発明者らは、テルペンやアルカロイドなどの天然化学物質に由来する害虫防除剤の開発を試み、ケシ科植物であるタケニグサ(Macleaya cordata)等の抽出物についてその含有成分の研究を行った。その過程で、ある種のアルカロイド誘導体又は塩が、衛生害虫及び農業害虫防除剤として、特に蚊およびハエの幼虫に高い致死作用をもたらすことを見出し、既に特許を出願(特許文献4及び特許文献5)したが、前記3)の防虫染料用途を意図した開発はこれまで未検討であった。
【特許文献1】特許第2739223号公報
【特許文献2】特公平6−33259号公報
【特許文献3】特開平6−183926号公報
【特許文献4】特願2006−75502
【特許文献5】特願2006−211923
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、抗菌性が付与されたアルカロイド由来成分を有効成分とし、安全性が高く堅牢性に優れた防虫染料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、ケシ科植物であるタケニグサ(Macleaya cordata)等の抽出物について鋭意検討を行い、下記一般式(I)で示されるプロトピンやアロクリプトピンとそれらを基本骨格とするアルカロイド誘導体又は塩、及び一般式(II)で示されるサンギナリンやケレリスリンとそれらを基本骨格とするアルカロイド誘導体又は塩が、衣料害虫に対して高い摂食阻害効果もしくは忌避効果を示すとともに、抗菌性にも優れることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の構成を採用する。
(1)抗菌性を有するアルカロイド誘導体又はそれらの塩であって、一般式(I)
【化1】

(I)

(式中、R1、R2、R3、R4はおのおの独立して水素原子、水酸基、メチル基、メトキシ基、アセトキシ基を示すか、もしくはR1、R2及び/又はR3、R4は一緒になってメチレンジオキシ基を示す。また、Xはメチル基、メトキシ基又はトリフルオロメチル基を示す。)又は一般式(II)
【化2】

(II)

(式中、R5、R6、R7、R8はおのおの独立して水素原子、水酸基、メチル基、メトキシ基、アセトキシ基を示すか、もしくはR5、R6及び/又はR7、R8は一緒になってメチレンジオキシ基を示す。また、Xはメチル基、メトキシ基又はトリフルオロメチル基を示す。)で示される群から選ばれる一種又は二種以上の化合物を含有する防虫染料。
(2)アルカロイド誘導体又はそれらの塩が、プロトピン(R1、R2及びR3、R4が一緒になってメチレンジオキシ基、Xがメチル基)又はその塩である(1)記載の防虫染料。
(3)アルカロイド誘導体又はそれらの塩が、アロクリプトピン(R1、R2が一緒になってメチレンジオキシ基、R3及びR4がメトキシ基、Xがメチル基)又はその塩である(1)記載の防虫染料。
(4)アルカロイド誘導体又はそれらの塩が、サンギナリン(R5、R6及びR7、R8が一緒になってメチレンジオキシ基、Xがメチル基)である(1)記載の防虫染料。
(5)アルカロイド誘導体又はそれらの塩が、ケレリスリン(R5、R6が一緒になってメチレンジオキシ基、R7及びR8がメトキシ基、Xがメチル基)である(1)記載の防虫染料。
(6)アルカロイド誘導体又はそれらの塩が、タケニグサ由来物である(1)乃至(5)のいずれか記載の防虫染料。
【発明の効果】
【0008】
本発明の防虫染料は、有効成分であるアルカロイド由来物が、衣料害虫に対して高い摂食阻害効果もしくは忌避効果を示すとともに、抗菌性にも優れるので極めて実用的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の害虫防除剤は、有効成分として一般式(I)
【化3】

(I)

(式中、R1、R2、R3、R4はおのおの独立して水素原子、水酸基、メチル基、メトキシ基、アセトキシ基を示すか、もしくはR1、R2及び/又はR3、R4は一緒になってメチレンジオキシ基を示す。また、Xはメチル基、メトキシ基又はトリフルオロメチル基を示す。)又は一般式(II)
【化4】

(II)

(式中、R5、R6、R7、R8はおのおの独立して水素原子、水酸基、メチル基、メトキシ基、アセトキシ基を示すか、もしくはR5、R6及び/又はR7、R8は一緒になってメチレンジオキシ基を示す。また、Xはメチル基、メトキシ基又はトリフルオロメチル基を示す。)で示されるアルカロイド誘導体又はそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも一種を使用する。
【0010】
これらの化合物のうち、プロトピン(R1、R2及びR3、R4がそれぞれ一緒になってメチレンジオキシ基を形成)、アロクリプトピン(R1、R2が一緒になってメチレンジオキシ基を形成、R3とR4がメトキシ基)、サンギナリン(R5、R6及びR7、R8が一緒になってメチレンジオキシ基、Xがメチル基)、あるいはケレリスリン(R5、R6が一緒になってメチレンジオキシ基、R7及びR8がメトキシ基、Xがメチル基)はケシ科植物に特有のアルカロイドで、特に有用である。
【0011】
プロトピン、アロクリプトピン、サンギナリンあるいはケレリスリンは、タケニグサの生体あるいは乾燥体から、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、酢酸などの親水性溶媒やトルエン、ジエチルエーテル、酢酸エチル、塩化メチレン、クロロホルムなどの親油性溶媒あるいはそれらの何れかとの混合溶媒などを用いて常温乃至溶媒の沸点程度にて抽出することにより得られる。また、炭酸ガスによる超臨界抽出によっても抽出できる。これらの抽出物質はそのまま使用してもよいが、さらにイオン交換樹脂、シリカゲル、活性炭などによる吸着精製やカラムクロマト、再結晶などにより精製したものも使用できる。
【0012】
本発明では、プロトピン、アロクリプトピン、サンギナリンあるいはケレリスリン及びそれらの誘導体は、天然抽出物あるいは化学合成物のいずれでも構わない。そして、それらは無機酸(例えば炭酸、塩酸、硫酸、リン酸など)、有機酸(蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、脂肪酸、桂皮酸、ベンゼンスルホン酸、石炭酸など)との塩として使用することも可能である。
【0013】
一般式(I)又は一般式(II)で示されるアルカロイドやそれらの誘導体又はその塩は、防虫染料として用いる場合、必要ならば、水、アルコール類(例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール等)、ケトン類(例えばアセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等)の液体溶媒、更に、乳化、分散、安定化などの使用目的に応じて界面活性剤、水溶性高分子、酸化防止剤などを助剤とすることができる。
【0014】
また、染色に際して、媒染剤を併用するのが一般的である。媒染剤としては特に限定されないが、例えばタンニン、酢酸アルミニウム等があげられる。
本発明で用いるアルカロイド誘導体やそれらの塩は、化学構造中に含まれる塩基が、絹やウール繊維のチロシン残基を構成するフェノール性水酸基と強く結合するので、高い堅牢性を発揮する。
【0015】
本発明の防虫染料が対象とする衣料害虫としては、具体例として、例えば、イガ、コイガ、カツオブシムシ、ヒメマルカツオブシムシ、シミ等があげられ、また、バチルス セレウス(Bacillus cereus)、エンエリヒア コリ(Escherichia coli)、シュードモナス エルギノーサ(Psedomonas aeruginosa)、トリコフィートン メンタグロファイテス(Trichophyton mentagrophytes)等の細菌に対して高い抗菌性を示す。
【0016】
以下本発明を実施例にて更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
約3kgの
タケニグサの葉部および茎部メタノール抽出液をろ過後、エバポレーターにて濃縮し抽出物を得た。また、各種クロマトおよび再結晶により、有効成分としてプロトピン、アロクリプトピン、サンギナリン及びケレリスリンを単離した。これらの抽出物及び各単離成分をエタノールで所定濃度に溶解し、本発明の防虫染料とした。
【実施例2】
【0018】
[染色布の調製]
絹布10gに対し5%用量のアルカロイド誘導体塩酸塩を溶比1:200の割合で10%エタノール水溶液に溶解した。これを染器に加えよく攪拌し、これに糊抜きを行った絹布を入れ、35〜85℃の温湯で30分間静かに攪拌を続けた。次に水洗、洗濯に対する堅牢度を増進させる目的で、媒染剤としての酢酸アルミニウムの3%水溶液に染色した絹布を30分間浸した。これを取り出し1分間水洗し室内で自然乾燥した。この水洗と乾燥のサイクルを10回繰り返したが、黄色は殆ど褪色せず、堅牢性に優れていることを確認したうえで、以下の性能試験に供した。
【実施例3】
【0019】
[染色布の防虫試験]
供試染色布を4.5cm×4.5cmに裁断し、イガ又はヒメカツオブシムシ幼虫10頭とともに、直径7.5cm、深さ1.5cmのシャーレに入れ、蓋をして25±1℃の暗所に保存した。それぞれ1週間後、及び2週間後に染色布の食害状況を観察して防虫効力を評価した。評価結果を、下記基準にて表1に示した。
−;食害なし、 +;極小さい食害跡のあるもの、 ++;食害跡のあるもの、
+++;食害が著しいもの。
【0020】
【表1】



【0021】
試験の結果、タケニグサ抽出物及び各単離成分をエタノールで所定濃度に溶解した本発明の防虫染料は、衣料害虫に対して優れた摂食阻害効果を示すことが認められた。
【実施例4】
【0022】
[染色布の抗菌試験]
供試染色布の細菌及び糸状菌に対する抗菌活性をハロー試験法で行い、その阻止円の直径を測定することによって抗菌布としての評価を行った。試験結果を表2に示す。
【0023】
【表2】



・試験菌1;Bacillus cereus NBRC3002, ブイヨン寒天培地。
・試験菌2;Escherichia coli NIHJ, ブイヨン寒天培地。
・試験菌3;Psedomonas aeruginosa ATCC27853, ブイヨン寒天培地。
・試験菌4;Trichophyton mentagrophytes IFO5975, サブロー寒天培地。
【0024】
試験の結果、本発明によって得られた染色布は、高い抗菌性を有し、長期間保存後においても褪色の危惧がないことを示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌性を有するアルカロイド誘導体又はそれらの塩であって、一般式(I)
【化1】

(I)

(式中、R1、R2、R3、R4はおのおの独立して水素原子、水酸基、メチル基、メトキシ基、アセトキシ基を示すか、もしくはR1、R2及び/又はR3、R4は一緒になってメチレンジオキシ基を示す。また、Xはメチル基、メトキシ基又はトリフルオロメチル基を示す。)又は一般式(II)
【化2】

(II)

(式中、R5、R6、R7、R8はおのおの独立して水素原子、水酸基、メチル基、メトキシ基、アセトキシ基を示すか、もしくはR5、R6及び/又はR7、R8は一緒になってメチレンジオキシ基を示す。また、Xはメチル基、メトキシ基又はトリフルオロメチル基を示す。)で示される群から選ばれる一種又は二種以上の化合物を含有することを特徴とする防虫染料。
【請求項2】
アルカロイド誘導体又はそれらの塩が、プロトピン(R1、R2及びR3、R4が一緒になってメチレンジオキシ基、Xがメチル基)又はその塩であることを特徴とする請求項1記載の防虫染料。
【請求項3】
アルカロイド誘導体又はそれらの塩が、アロクリプトピン(R1、R2が一緒になってメチレンジオキシ基、R3及びR4がメトキシ基、Xがメチル基)又はその塩であることを特徴とする請求項1記載の防虫染料。
【請求項4】
アルカロイド誘導体又はそれらの塩が、サンギナリン(R5、R6及びR7、R8が一緒になってメチレンジオキシ基、Xがメチル基)であることを特徴とする請求項1記載の防虫染料。
【請求項5】
アルカロイド誘導体又はそれらの塩が、ケレリスリン(R5、R6が一緒になってメチレンジオキシ基、R7及びR8がメトキシ基、Xがメチル基)であることを特徴とする請求項1記載の防虫染料。
【請求項6】
アルカロイド誘導体又はそれらの塩が、タケニグサ由来物であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか記載の防虫染料。

【公開番号】特開2009−46411(P2009−46411A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−212884(P2007−212884)
【出願日】平成19年8月17日(2007.8.17)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】