説明

防蟻薬剤注入システム

【課題】大がかりな工事を要しないことによる低コストを実現し、建築後であってもメンテナンスや修復の要請に対応可能であり、居住者の健康上の問題も十分に配慮され、かつ十分な防蟻効果を発揮する防蟻薬剤注入システムを提供する。
【解決手段】建物の基礎30の外周に沿って基礎30を取り囲むように埋設され、その両端に地上からアクセス可能な注入口20を有する1以上のパイプライン10を備え、両端の注入口20から伝搬性防蟻薬剤を注入して、パイプライン10に設けられた複数の孔から土壌に伝搬性防蟻薬剤を注入する防蟻薬剤注入システム2を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の白蟻被害を防ぐため、防蟻薬剤を土壌に注入するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物、特に木造家屋を白蟻被害から守るため、多くの場合、建物を建てた新築時に、基礎及び建物の土台部分に防蟻薬剤を塗布または散布する防蟻処理を行なっている。しかし、防蟻薬剤の効果が継続するのは5年といわれており、建築後5年ごとに、この防蟻薬剤を基礎及び建物の土台部分に塗布または散布する防蟻処理を繰り返す必要がある。
しかし、基礎及び建物の土台部分は非常に空間が狭く、建築後に、防蟻薬剤を塗り残しなくかつむらなく塗布または散布することは非常に困難である。また、防蟻薬剤を基礎及び建物の土台の表面に塗布または散布するだけでは、地中に生息する白蟻を完全に駆除することは難しい。
【0003】
この問題に対処するため、防蟻薬剤を土壌に注入するための多数のオリフィスが設けられたパイプを、建物の基礎近傍の地中に埋設した防蟻設備が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−49316号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の防蟻設備は、建物の基礎工事に際して、防蟻薬剤を土壌に注入するための多数のオリフィスが設けられたパイプを、少なくとも床下の地中に配管して、その上から土間コンクリートを打設して形成する。また、この配管には、外部から防蟻薬剤をパイプ内に注入するための注入口が設けられており、この注入口から防蟻薬剤を注入することにより、建物の完成後であっても、床下や、建物の周囲の地中にも配管した場合には建物周囲の地中に、防蟻薬剤を比較的容易に注入することができる。
【0006】
しかし、この設備では、建物の床下に土壌注入用のパイプラインを埋設するため、大がかりな工事を要し、設置コストが高騰する恐れがある。また、新築時に土間コンクリートを打設した以降においては、パイプを交換したり、パイプの配管ルートを変更したりすることができないので、メンテナンス上の問題が生じたり、不具合に対する対処が不可能になる問題が生じる。
【0007】
更に、例えば、建物の床下に埋設されたパイプが正常に配管されていなかったり、何らかの理由でパイプが損傷したことにより、注入した防蟻剤がパイプから漏れ出している場合であっても、注入口からそのような不具合をチェックすることはできないので、防蟻薬剤の散布に関する信頼性の問題が生じる恐れがある。また、床下の土壌にも防蟻薬剤を注入するので、居住者が気中の防蟻薬剤を吸い込む健康上の問題も生じる恐れがある。
更に、1つの注入口から多数の分岐を経た複雑な配管ルートを要するので、注入口から離れた箇所では、防蟻薬剤が十分に散布されない恐れがある。
【0008】
従って、本発明の目的は、上記の問題を解決して、大がかりな工事を要しないことにより低コストを実現し、建築後であってもメンテナンスや修復の要請に対応可能であり、居住者の健康上の問題も十分に配慮され、かつ十分な防蟻効果を発揮する防蟻薬剤注入システムを提供することにある。本発明の目的の更なる目的は、防蟻薬剤を土壌に注入するパイプに不具合がないかチェック可能な防蟻薬剤注入システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するため、本発明の防蟻薬剤注入システムの1つの実施態様は、建物の基礎の外周に沿って前記基礎を取り囲むように埋設され、その両端に地上からアクセス可能な注入口を有する1以上のパイプラインを備え、前記両端の注入口の少なくとも一方から伝搬性防蟻薬剤を注入して、前記パイプラインに設けられた複数の孔から土壌に前記伝搬性防蟻薬剤を注入することを特徴とする。
【0010】
ここで、「伝搬性防蟻薬剤」とは、グルーミング等の白蟻の習性を利用して、白蟻から白蟻へ薬剤を伝搬させて、より多くの白蟻を駆除する防蟻薬剤である。主に防除対象となる日本に生息する2種の白蟻のうち、イエシロアリについては100m以上、ヤマトシロアリについても10m程度の行動範囲があるといわれている。また、白蟻は土壌の湿度や硬度、土中の餌・障害物・忌避物質の有無等の影響により、三次元的に多方面に枝分かれした複雑な蟻道を形成する。そのため、建物周囲に防蟻薬剤を均一に注入することにより、建物内に進入しようとする白蟻のうち少なくともその一部が確実に薬剤と接触するようになり、上記グルーミング等により白蟻のコロニー(巣)全体に薬剤を伝搬させることが期待でき、これによって、全白蟻の死滅が期待できる。なお、社団法人日本しろあり対策協会が、「防除施工標準仕様書」で「維持管理型ベイトエ法」と規定する「ベイト工法」も薬剤を伝搬させる手法を用いている。このベイト工法では、通常、基礎外周に沿って1〜5m間隔、地表面より深さ10〜30cm程度に設置された容器内に、点状に薬剤を設置するのに対し、本実施態様では薬剤を線状に土壌注入するため、より容易に白蟻を薬剤に接触させることができる。
【0011】
また、「両端の注入口の少なくとも一方から伝搬性防蟻薬剤を注入する」とは、片側の注入口から注入する場合も含まれるし、両端の注入口から注入する場合も含まれる。更に詳細に述べれば、例えば、下記に示すように、一方の注入口から伝搬性防蟻薬剤を注入した後、反対側の注入口から伝搬性防蟻薬剤を注入する場合も含まれるし、両方の注入口から同時に伝搬性防蟻薬剤を注入する場合も含まれる。
【0012】
本実施態様によれば、パイプラインの両端の注入口の少なくとも一方から防蟻薬剤を注入することにより、パイプライン全域で十分な量の防蟻薬剤を均一に土壌注入できる。また、防蟻薬剤として、伝搬性防蟻薬剤を用いることにより、建物の基礎の内側には配管を行なわず、基礎の外側にのみにパイプラインを埋設することで、十分な防蟻効果を得ることができる。
よって、床下の地中にパイプラインを埋設する工事が不要となり、大がかりな工事を回避して設置工事コストを削減できる。また、建物の基礎の外側にだけ施工するので、建築後であってもメンテナンスや修復の要請に対応可能であり、建物の建築後に、新たにこの防蟻薬剤注入システムを設置することもできる。更に、建物床下に防蟻薬剤が散布されないので、居住者の健康上の面においても優れている。
【0013】
本発明の防蟻薬剤注入システムのその他の実施態様は、更に、前記両端の注入口のうちの一方の注入口から前記伝搬性防蟻薬剤を所定量注入した後、前記一方の注入口を閉じて、注入した薬液が前記パイプライン中に残存している状態で、前記両端の注入口のうちの他方の注入口から前記伝搬性防蟻薬剤を注入して、土壌に前記伝搬性防蟻薬剤を注入することを特徴とする。
【0014】
本実施態様によれば、一方の注入口から防蟻薬剤を所定量注入することにより、防蟻薬剤の一部が複数の孔から土壌へ注入され、残りの防蟻薬剤がパイプライン内を流れて、他方の注入口へ到達し、パイプライン内に防蟻薬剤が充填された状態になる。その後、防蟻薬剤を注入してきた一方の注入口を閉じて、他方の注入口からパイプラインに防蟻薬剤を注入する。このとき、他方の注入口から防蟻薬剤を注入開始するまで、充填されていた防蟻薬剤の一部が複数の孔から土壌へ流出するが、防蟻薬液がパイプライン中に十分残存している状態で、一方の注入口(つまり、反対向きの注入における最端部)を閉じて、逆方向から防蟻薬剤の注入を行なうことができる。従って、パイプライン全域で十分な量の防蟻薬剤を土壌注入できる。特に、パイプラインが長い場合には、注入口から離れた領域に設けられた孔から土壌へ注入される防蟻薬剤の量が足りなくなる恐れがあるが、反対側の注入口から防蟻薬剤を注入する場合には、そのような領域は注入口の近くに位置するので、十分な量の防蟻薬剤の土壌注入を実現でき、パイプラインの全領域で十分な量の薬剤を均等に土壌注入できる。
【0015】
本発明の防蟻薬剤注入システムのその他の実施態様は、更に、分岐点を有さない2つ以上の前記パイプラインを備え、パイプラインの一方の注入口及び他のパイプラインの一方の注入口どうしが隣接して配置されることを特徴とする。ここで、パイプラインが2つであれば、1つのパイプラインにおける両端の注入口は、通常、取り囲んだ基礎の互いに反対側に配置され、2つのパイプラインの一方の注入口どうし及び他方の注入口どうしが隣接して配置される。
【0016】
本実施態様によれば、パイプラインが分岐点を有さず、2つのパイプラインを用いて防蟻薬剤の土壌注入を行なうので、パイプライン全域において均等な防蟻薬剤の土壌注入を安定して実現できる。
【0017】
本発明の防蟻薬剤注入システムのその他の実施態様は、更に、分岐点を有さない1つの前記パイプラインを備え、前記両端の注入口が隣接して配置されることを特徴とする。
【0018】
本実施態様によれば、パイプラインが分岐点を有さないので、パイプライン全域において均等な防蟻薬剤の土壌注入を安定して実現できる。また、2つの接続点が隣接して配置されるため、防蟻薬剤の注入や点検等の作業における利便性に優れる。
【0019】
本発明の防蟻薬剤注入システムのその他の実施態様は、更に、前記両端の注入口とそれぞれ連通した2箇所の分岐点を有する1つの前記パイプラインを備え、前記パイプラインが、前記2箇所の分岐点を両端とする2つのパイプライン領域を備え、前記2つのパイプライン領域が、前記基礎の外周に沿って前記基礎を取り囲むように埋設され、前記2つのパイプライン領域における流動抵抗が近似するように、前記2つの分岐点が配置されることを特徴とする。
【0020】
本実施態様によれば、注入口から注入された防蟻薬剤は、分岐点で左右に分かれて2つパイプライン領域を流れることになる。この場合、本実施態様では、2箇所の分岐点が、2つのパイプライン領域の流動抵抗が近似するように配置されるので、注入された防蟻薬剤がパイプラインの2つの領域にほぼ均等に流れる。よって、本実施形態では、分岐を用いたシンプルな構造でよって、パイプライン全域において均等な防蟻薬剤の土壌注入を実現できる。
【0021】
本発明の防蟻薬剤注入システムのその他の実施態様は、前記両端の注入口のうちの一方の注入口から液体を注入し、該注入した液体が前記両端の注入口のうちの他方の注入口に到達する量を確認することにより、前記パイプラインにおける漏液の有無を確認することを特徴とする。
【0022】
本実施態様によれば、例えば、何らかの理由でパイプラインで損傷が生じて、注入した防蟻剤が漏液している場合には、注入した液体が他方の注入口に到達する量を確認することにより、適切に漏液を検出することができるので、信頼性の高い防蟻薬剤注入を実現できる。なお、「注入口に到達する量を確認する」には、注入した液体が注入口に到達したが否か判断することも含まれる。
【0023】
本発明の防蟻薬剤注入システムのその他の実施態様は、前記パイプラインが、通液性または透液性を有する材料からなるパイプカバーで覆われていることを特徴とする。
【0024】
本実施態様によれば、パイプラインにあけられた孔から流出した防蟻薬剤は、一度、パイプカバー内に溜められ、通液性または透液性を有する材料からなるパイプカバーから徐々に均等に土壌へ注入される。これにより、パイプラインの周囲の土壌に、ほぼ均等に防蟻薬剤を注入することが期待できる。
【0025】
本発明の防蟻薬剤注入システムのその他の実施態様は、前記複数の孔が、前記パイプラインの円形断面において、円形の水平ラインより上側の方向にあけられていることを特徴とする。
【0026】
パイプラインの外へ流出した防蟻薬剤は重力で下側へ流れるが、本実施態様によれば、円形の水平ラインより上側の方向にあけられた孔から防蟻薬剤を流出させるので、パイプラインの周りで均等な防蟻薬剤の土壌注入が期待できる。また、上記のように、一方の注入口から防蟻薬剤を注入した後、反対側の注入口から防蟻薬剤を注入するとき、より多くの防蟻薬剤が残存した状態で防蟻薬剤の注入を開始することが好ましいが、円形の水平ラインよりも上側の方向に孔があけられている場合には、防蟻薬剤が孔を通して外へ漏れる量を抑制することができる。また、所定量注入後にパイプライン内に溜まる防蟻薬剤については、最終工程で清澄な水を注入し残液を押し出すことで、防蟻薬剤が無駄になることを防ぐことができる。
なお、防蟻薬剤の均等な土壌注入の観点からは、均等にあける孔の数は多い方が有利であるが、一方、製造コストが上昇する問題も生じる。このため、これらを総合的に判断すると、孔を水平ラインより上側の1〜4方向にあけることが好ましいといえる。
【0027】
本発明の防蟻薬剤注入システムのその他の実施態様は、前記複数の孔が、前記パイプラインの長手方向において、10〜30cmのピッチであけられていることを特徴とする。
【0028】
本実施態様によれば、パイプラインの長手方向において、10〜30cmのピッチで孔があけられているので、環状のパイプラインの全域で効果的に防蟻薬剤の土壌注入が実現できる。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明の防蟻薬剤注入システムでは、パイプラインの両端の注入口の少なくとも一方から防蟻薬剤を注入することにより、パイプライン全域で十分な量の防蟻薬剤を均一に土壌注入でき、防蟻薬剤として伝搬性防蟻薬剤を注入することにより、基礎の外側にのみにパイプラインを埋設するだけで、十分な防蟻効果を得ることができる。よって、床下の地中にパイプラインを埋設する工事が不要となり、大がかりな工事を回避して設置工事コストを削減できる。また、建物の基礎の外側にだけ施工するので、建築後であってもメンテナンスや修復の要請に対応可能であり、建物の建築後に、新たにこの防蟻薬剤注入システムを設置することもできる。また、建物床下に防蟻薬剤が散布されないので、居住者の健康上の面においても優れる。
更に、本発明の防蟻薬剤注入システムでは、注入した液体が他方の注入口に到達する量を確認することにより、注入した防蟻剤がシステム中で漏液していることを適格に検出することができるので、信頼性の高い防蟻薬剤注入を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の防蟻薬剤注入システムの第1の実施形態の全体構成を模式的に示す平面図である。
【図2】本発明の防蟻薬剤注入システムの第2の実施形態の全体構成を模式的に示す平面図である。
【図3】本発明の防蟻薬剤注入システムの第3の実施形態の全体構成を模式的に示す平面図である。
【図4】図1〜3の矢印E−Eから見た側面断面図である。
【図5】図1〜3の矢印F−Fから見た側面図である。
【図6】図4に示すパイプライン部分の拡大図である。
【図7】防蟻薬剤を片側から注入した場合と、防蟻薬剤を両側から注入した場合とにおける地中の薬剤量の測定結果を示すグラフである。
【図8】防蟻薬剤を土壌注入するための孔の径が異なる本発明に係るパイプラインのその他の実施形態を模式的に示す断面図である。
【図9】防蟻薬剤を片側から注入した場合と、防蟻薬剤を両側から同時に注入した場合とを比較するため模式的にパイプラインを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の防蟻薬剤注入システムの実施形態について、以下に図面を用いながら詳細に説明する。
(本発明の防蟻薬剤注入システムの第1の実施形態の説明)
始めに、図1及び図4〜6を用いて、本発明の防蟻薬剤注入システムの第1の実施形態の構成を説明する。ここで、図1は、本発明の防蟻薬剤注入システムの第1の実施形態の全体構成を模式的に示す平面図であり、図4は、図1の矢印E−Eから見た側面断面図であり、図5は、図1の矢印F−Fから見た側面図であり、図6は、図4に示すパイプラインの拡大図である。
【0032】
図1において、本実施形態の防蟻薬剤注入システム2は、建物の基礎30の外周に沿って基礎30を取り囲むように埋設された、分岐点を有さない2つのパイプライン10a及び10bを備え、各パイプライン10a、10bの両端には、地上からアクセス可能な注入口20が形成されている。また、各パイプライン10a、10bの両端の注入口20は、基礎30の互いに反対側(図1で下側と上側)に配置されており、2つのパイプライン10a、10bの一方(例えば図1で図面下側)の注入口20どうしが隣接し、他方(例えば図1で図面上側)の注入口20どうしが隣接して配置されている。
【0033】
各パイプライン10a、10bは、直管状のパイプ4が90度エルボ4aを介して互いに接続され、建物の基礎30の外周に沿ってコの字形に形成され、更にその両端に90度エルボ4aを介して接続管6が接続されている。この接続管6は端部で上方へ曲がり、その最上部に注入口20が形成されている(図5参照)。
パイプライン10a、10bを構成するパイプ4には、液体をパイプの4の外へ流出させるための複数の孔14があけられており(図4、6参照)、注入口20から注入されてパイプ4の中を流れる防蟻薬剤は、この孔14からパイプ4の外へ流れ出て、パイプ4が埋設された周囲の土壌に注入される。
なお、パイプ4、接続管6、90度エルボ4a、後述する分岐部材8等は、何れも硬質塩化ビニルを始めとする樹脂材料で構成することができるが、温度条件や耐久性の条件等により、金属材料等を用いることもできる。
【0034】
図4に示すように、パイプライン10a、10bのパイプ4は、建物32を支持する基礎30の外側近傍の地中に埋設されている。パイプ4と基礎30の外面との間の間隔は、0〜50cm程度が好ましく、0〜20cm程度がより好ましい。また、パイプ4の埋設深さは、地上から5〜50cm程度が好ましく、10〜30cm程度がより好ましい。パイプ4の外径としては、1〜10cm程度が好ましく、1〜3cm程度がより好ましい。孔14の径としては、1〜5mmが好ましく、2〜3mm程度がより好ましい。
また、本実施形態では、環状のパイプライン10の長手方向において、孔14は5〜50cm程度のピッチで設けることが好ましく、10〜30cm程度ピッチで設けることがより好ましい。
【0035】
本実施形態においては、図6に示す拡大図のように、パイプ4の円形断面において、孔14は、パイプ4の円形断面において、円形の水平ラインより上側の方向にあけられている。図6(a)に示す実施形態では、孔14が2方向にあけられ、特に、垂直上方から両側に概ね同一の角度(例えば、60度ずつ)であけられている。また、図6(b)に示す実施形態では、孔14が3方向にあけられており、更に、孔14を4方向以上にあけることもできる。なお、パイプ4の外へ流出した液体は、重力で下側へ流れるので、円形の水平ラインよりも上側に、より多くの孔14を設けることが好ましい。
後述するように、一方の注入口20から防蟻薬剤を注入し、その後、反対側の注入口20から防蟻薬剤を注入する場合、より多くの防蟻薬剤が残存した状態で、反対側から防蟻薬剤の注入を開始することが好ましい。このとき、円形の水平ラインよりも上側に孔14を設ける場合には、防蟻薬剤が孔14を通して外へ漏れる量を抑制することができる。
【0036】
また、パイプ4の外側には、通液性を有する微孔(メッシュ)が全域に均等に形成されたパイプカバー12で覆われている。本実施形態のパイプカバー12は、ポリエチレンテレフタレートの不織物で構成され、5〜10cm程度の幅の不織物幅の片側を縫い付けて筒状にしたものである。
ただし、パイプカバー12は、これに限られるものではなく、その他の任意の通液性を有する材料を用いることができ、透液性を有する任意の材料を用いることもできる。また、パイプカバー12の大きさは、パイプ4の外径に応じて(例えば、2〜20mm程度の隙間があく程度)定めることが好ましい。
【0037】
これにより、2方向にあけられた孔14からパイプ4の外へ流出した防蟻薬剤は、一度、パイプカバー12で溜められ、均等に設けられた微孔(メッシュ)から土壌へ注入されるので、パイプ4の周りで、360度ほぼ均等に土壌注入することができる。同様に、長手方向のピッチ間においても、パイプカバー12で防蟻薬剤を溜めることによりほぼ均等に土壌注入することができる。このような2方向にあけられた孔14の配置と、適切な孔14のピッチ寸法と、均一な微孔(メッシュ)が設けられたパイプカバー12との組み合わせにより、防蟻薬剤の均等な土壌注入が実現できる。
なお、パイプカバー12により、パイプ4の孔14に土や異物が混入することを防いだり、パイプ4の損傷を防ぐことができるので、長期間安定した防蟻薬剤の土壌注入を実現できる。
【0038】
防蟻薬剤の均等な土壌注入の観点からは、孔14をより多方向に孔をあけ、より短いピッチで孔をあける方が有利であるが、製造コストが上昇する問題も生じる。よって、パイプカバー12との組み合わせ及び製造コストのバランスを考えると、孔14を、円形断面の水平ラインよりも上側に1〜4方向にあけ、10〜30cm程度のピッチにするのが好ましいといえる。
【0039】
また、図5に示すように、4本の接続管6は、それぞれ基礎30の外側の地面に掘られたピット24内に伸び、接続管6の端部に形成された注入口20は、このピット24内の空間に開口している。これにより、地上から注入口20へアクセス可能になっている。注入口20は、通常キャップ22が装着され、接続管6やパイプ4内に異物が入るのを防いでいる。また、ピット24も通常はピットカバー26で覆われており、通常、建物周辺の障害とならないように配慮されている。なお、注入口20が設けられたピット空間は、樹脂で一体成形され、ピットカバー26も取り付けられた注入口ボックスを設置して実現することもできる。
【0040】
ここで、図1に示す2本のパイプライン10a、10bのうち、例えば、1つのパイプライン10aにおいて、2本の接続管6の各々に形成された注入口20の両方を開口し、例えば、図1の下側の注入口20に防蟻薬剤の注入ポンプ(図示せず)を接続して、防蟻薬剤を注入すると、防蟻薬剤は接続管6内を流れ、90度エルボ4a(接続点A)を通って、基礎30の周囲のパイプ4内を流れる。防蟻薬剤は、このパイプ4内を流れる間にその一部が孔14からパイプ4の外へ流れ出て、パイプ4が埋設された周囲の土壌に防蟻薬剤を注入することができる。
【0041】
残りの防蟻薬剤は更にパイプ4内を流れて、90度エルボ4a(接続点B)及び接続管6を経て、図1の上側の注入口20へ達し、パイプライン10内に防蟻薬剤が充填された状態になる。所定量の防蟻薬剤を注入した後、図1の下側の注入口20から注入ポンプを取り外して、その注入口20を閉じ、図1の上側の注入口20に注入ポンプを接続して、パイプライン10へ防蟻薬剤の注入を開始する。
再び防蟻薬剤の注入を開始するまで、充填されていた防蟻薬剤の一部が複数の孔14から土壌へ流出するが、上記のように孔14がパイプ4の円形断面の水平ラインよりも上方向にあいている場合には、防蟻薬剤の流出を抑制することができ、注入した防蟻薬剤がパイプライン中に十分残存している状態で、逆方向から防蟻薬剤の注入を開始することができる。
【0042】
以上のように、注入した防蟻薬剤がパイプライン中に十分残存している状態で、図1の下側の注入口20を閉じて、図1の上側の注入口20から防蟻薬剤を注入するので、十分な量の防蟻薬剤を孔14から土壌へ注入することができる。特に、パイプライン10が長い場合には、防蟻薬剤の注入口20から離れた領域(例えば、図1の中央領域Cの上側の領域)に設けられた孔14から土壌へ注入される防蟻薬剤の量が不十分になる恐れがあるが、反対側の注入口20から防蟻薬剤の注入を行なう場合には、その領域は注入口20の近傍に位置するので、十分な量の防蟻薬剤の土壌注入を行なうことができる。従って、基礎30の周囲のパイプライン10aの全領域で、十分な量の防蟻薬剤を均等に土壌注入することができる。
なお、もう一方のパイプライン10bについても、同様な手順で防蟻薬剤の土壌注入を行なうことができる。
【0043】
また、本実施形態では、伝搬性防蟻薬剤を用いることによって、建物の基礎30の外側にパイプライン10を埋設するだけで、十分な防蟻効果を得ることができる。なお、この点に関する技術的な説明は後述する。
【0044】
防蟻薬剤の土壌注入は、1つのパイプライン10a、10bについて順に行なうこともできるし、2台の注入ポンプを用意して、各パイプライン10a、10bについて、同時に防蟻薬剤を土壌注入することもできる。なお、1つのパイプライン10a、10bにおける防蟻薬剤の土壌注入の所要時間は、土壌により変動するが、30秒〜5分程度が好ましいと考えられる。この第1の実施形態では、流路中に分岐点がないので、パイプライン10全域で均等な防蟻薬剤の土壌注入を安定して実現できる。
【0045】
なお、本実施形態では、基礎30が略長方形の平面配置になっているので、各パイプライン10、10bは、コの字形の形状を有しているが、これに限られるものではなく、更に複雑な形状の基礎や非対称な形状の基礎の周囲に埋設された場合であっても、その外周に沿った形状を有することができる。
【0046】
<防蟻薬剤の注入手順に関する説明>
次に、上記のような構成の防蟻薬剤注入システム2を用いて、防蟻薬剤を注入する手順を説明する。
パイプライン10aを例にとって説明すると、始めに、図4に示すように、2箇所のピットカバー26を開け、2箇所の注入口20に装着されたキャップ22をそれぞれ取り外して、注入口20を開口させる。まず、一方の注入口20、例えば、図1の下側の注入口20において、防蟻薬剤の注入ポンプ(図示せず)を接続して、防蟻薬剤をパイプライン10a内に注入する。注入された防蟻薬剤は接続管6から基礎30の周囲のパイプ4内を流れる。そして、このパイプ4内を流れる間にその一部が孔14からパイプ4の外へ流出して土壌注入が行なわれ、残りの防蟻薬剤が中心領域C越えて流れ、接続管6を通って、図1の上側の注入口20から溢れ出す。
【0047】
ここで、上側の注入口20から溢れ出した防蟻薬剤の量を確認することにより、パイプライ10aにおける漏液の有無を確認することきる。例えば、何らかの理由でパイプライン10aで損傷が生じて、注入した防蟻剤が漏液している場合には、他方の注入口20に到達する(溢れ出す)量が減少したり、場合によっては一切の到達しなくなる。これを確認することにより、適格に漏液を検出することができるので、信頼性の高い防蟻薬剤注入を実現できる。
なお、漏液の有無の確認だけであれば、水を始めとするその他の液体を注入して行なうこともでき、この場合には、高価な防蟻薬剤を浪費する恐れを回避することができる
【0048】
初めて防蟻薬剤注入システム2内に液体を流す場合であっても、流体のシミュレーション計算により、どれぐらいの流量の液体が他方の注入口20まで到達するか把握することが可能なので、このやり方で、防蟻薬剤注入システム2における漏液の有無を確認することができる。また、一度、実際に液体を流してチェックをした後には、その流量測定データに基づいて、次回以降の漏液の有無の確認を実施できる。
【0049】
以上の手順で漏液が無いと確認できた場合には、所定量の防蟻薬剤の土壌注入を継続し、その後、図1の下側の注入口20から注入ポンプを外して、キャップ22を取り付けて開口部を閉じる。そして、図1の上側の注入口20に防蟻薬剤の注入ポンプを接続して、防蟻薬剤をパイプライ10a内に注入する。これにより、防蟻薬剤がパイプライン10a内に十分残存する状態で、防蟻薬剤を反対側から注入することができるので、パイプライン10aの全領域で十分な量の防蟻薬剤を土壌注入できる。
もう一方のパイプライン10bについても、同様の手順で適格に漏液を検出することができ、引き続いて、防蟻薬剤の土壌注入を行なうことができる。
【0050】
(本発明の防蟻薬剤注入システムの第2の実施形態の説明)
次に、図2及び図4〜6を用いて、本発明の防蟻薬剤注入システムの第2の実施形態の構成を説明する。ここで、図2は、本発明の防蟻薬剤注入システムの第2の実施形態の全体構成を模式的に示す平面図であり、上記と同様に、図4は、図2の矢印E−Eから見た側面断面図であり、図5は、図2の矢印F−Fから見た側面図であり、図6は、図4に示すパイプライン部分の拡大図である。
【0051】
既に説明した図1に示す第1の実施形態では、2つのパイプライン10a及び10bを備え、2つのパイプライン10a、10bで概ね半分ずつ分担して建物の基礎30を取り囲んでいるが、図2に示す第2の実施形態では、1つのパイプライン10を備え、1つのパイプライン10で基礎30を取り囲んでいる点で異なる。また、第1の実施形態では、パイプライン10a、10bにおける両端の注入口20が、取り囲んだ基礎30の互いに反対側(図1では上下)に配置され、2つのパイプライン10a、10bの一方の注入口20(例えば図1の下側)どうし、及び他方の注入口20(例えば図1の上側)どうしが隣接して配置されているが、第2の実施形態では、パイプライン10の両端の注入口20が隣接して配置されている点で異なる。
【0052】
このため、図2の左側の注入口20から注入された防蟻薬剤は、接続官6及び90度エルボ(接続点A)を経て、建物の基礎30内を時計回りに流れ、注入口20から最も離れた中心領域Cに達し、更に進んで、もう一方の90度エルボ(接続点B)及び接続官6を経て、図2の右側の注入口20へ達する。このようにして、所定量の防蟻薬剤の土壌注入を行なった後、図2の左側の注入口20を閉じて、今度は、図2の右側の注入口20から防蟻薬剤を注入して土壌注入を行なう。この場合には、パイプライン10内に防蟻薬剤が十分残存した状態で、防蟻薬剤の注入を行なうことができるので、十分な量の防蟻薬剤を土壌注入できる。その他の点については、概ね第1の実施形態と同様なので、更に詳細な説明は省略する。
【0053】
この第2の実施形態でも、流路中に分岐がないので、安定した状態で所定の流量の防蟻薬剤を流すことができ、パイプライン10全域で均等な防蟻薬剤の土壌注入を安定して実現できる。また、2つの注入口20が隣接しているので、薬剤注入ポンプのハンドリングや、一方の注入口を用いたパイプラインの漏液チェックにおいては、より手間をかけずに行なうことができる。
【0054】
(本発明の防蟻薬剤注入システムの第3の実施形態の説明)
次に、図3〜6を用いて、本発明の防蟻薬剤注入システムの第3の実施形態の構成を説明する。ここで、図3は、本発明の防蟻薬剤注入システムの第3の実施形態の全体構成を模式的に示す平面図であり、図4は、図3の矢印E−Eから見た側面断面図であり、図5は、図3の矢印F−Fから見た側面図であり、図6は、図4に示すパイプライン部分の拡大図である。
【0055】
図3において、第3の実施形態の防蟻薬剤注入システム2は、2箇所の分岐点A、Bを有する1つのパイプライン10を備え、パイプライン10は2箇所の分岐点A及びBを両端とする2つのパイプライン領域10a(点ACBを結ぶパイプルート)及びパイプライン領域10b(点ADBを結ぶパイプルート)を有する。パイプライン領域10a及び10bにより、建物の基礎30の外周に沿って基礎30を取り囲む環状のパイプルートを形成している。
パイプライン領域10a及び10bは、分岐点A及びBで分岐部材(T字コネクタ)8を介して2本の接続管6が接続されている。2本の接続管6は、それぞれ一端(分岐点A及びB)で(分岐部材8を介して)パイプライン領域10a、10bに接続され、他端が防蟻薬剤の注入口20になっている。
【0056】
パイプライン領域10a及び10bは、直管状のパイプ4が、分岐部材8及び90度エルボ4aを介して互いに接続され、基礎30の外周を囲むように、全体として環状に形成されている。この環状のパイプルートを形成するパイプ4には、液体をパイプの4の外へ流出させるための複数の孔14があけられており(図4、6参照)、注入口20から注入されてパイプ4の中を流れる防蟻薬剤は、この孔14からパイプ4の外へ流れ出て、パイプ4が埋設された周囲の土壌に注入される。
【0057】
ここで、2本の接続管6の各々に形成された2つの注入口20のうちの一方の注入口20(例えば、図3の下側の注入口20)に防蟻薬剤の注入ポンプ(図示せず)を接続して、防蟻薬剤を注入すると、防蟻薬剤は接続管6内を流れ、分岐点A(分岐部材8)において、防蟻薬剤は左右に分かれて、2つのパイプルート、つまりパイプライン領域10a及びパイプライン領域10b内を流れる。そして、各パイプライン領域10a及び10b内を流れる間に、孔14からパイプ4の外へ流れ出て、パイプ4が埋設された周囲の土壌に防蟻薬剤を注入することができる。残りの防蟻薬剤は、パイプライン領域10a、10b内を更に流れて、分岐点B(分岐部材8)から図3の上側の注入口20に達する。このようにして、所定量の防蟻薬剤の土壌注入を行なった後、次に、図3の下側の注入口20から注入ポンプを外して、この注入口20を閉じ、図3の上側の注入口20に注入ポンプを接続して、今度は反対側から、防蟻薬剤の土壌注入を開始する。この場合には、パイプライン10内に防蟻薬剤が十分残存した状態で、防蟻薬剤の注入を行なうことができるので、十分な量の防蟻薬剤を土壌注入できる。
【0058】
本実施形態でも、伝搬性防蟻薬剤を用いることによって、建物の基礎の外側にパイプライン10を埋設するだけで、十分な防蟻効果を得ることができる。なお、この点に関する技術的な説明は後述する。
【0059】
本実施形態では、パイプライン10に設けられた2箇所の分岐点A及びBは、環状のパイプルート(パイプライン領域10a及び10b)の略対向する位置に配置されている。これにより、パイプライン領域10aの流動抵抗とパイプライン領域10bの流動抵抗とが、ほぼ同一になる。なお、本実施形態では、基礎30が略長方形の平面配置になっているので、パイプライン領域10a及びパイプライン領域10bは、ほぼ対称な配置になっている。しかし、これに限られるものではなく、環状のパイプライン10が、更に複雑な形状の基礎や非対称な形状の基礎の周囲に埋設された場合であっても、分岐点A、Bを両端とする2つのパイプライン領域10a、10bにおいて、各々のパイプライン領域の流動抵抗が近似するような位置に、分岐点A、Bを位置決めすることができる。
【0060】
パイプライン領域10a及びパイプライン領域10bの流動抵抗が近似するようにすることによって、分岐点A、Bにおいて接続管6から左右に分かれて、パイプライン領域10a及びパイプライン領域10b内を流れる防蟻薬剤の流量をほぼ同一にすることができる。よって、パイプライン領域10a及びパイプライン領域10bにおいて、ほぼ均等な防蟻薬剤の土壌注入が実現できる。
【0061】
本実施形態では、流路中に流れが左右に分かれる分岐点が存在するが、2つのパイプライン領域10、10bの流動抵抗が近似するように分岐点A、Bを配置することによって、パイプライン領域10a及びパイプライン領域10b内を流れる防蟻薬剤の流量をほぼ同一にして、両領域における均等な防蟻薬剤の土壌注入が実現できる。
【0062】
(防蟻薬剤の片側注入と両側注入における薬剤分布の比較試験)
次に、上記のように、パイプラインの両側から防蟻薬剤を注入することによる効果を検証するため、片側注入と両側注入における薬剤分布の比較試験を行なった。なお、以降に記載する試験においては、何れも直径約2mmの孔が20cmピッチであけられた孔付きパイプを用いた。
【0063】
防蟻薬剤を片側から注入する試験においては、約24mの長さの孔付きパイプを深さ約20cmに埋設して、一方の端部を塞ぎ、一方の端部に注入口を形成し、伝搬性防蟻薬剤の希釈液を、片側の注入口から120L注入することにより土壌中に注入した。
一方、防蟻薬剤を両側から注入する試験においては、約20mの長さの孔付きパイプを深さ約20cmに埋設して、左右両側の端部に注入口を形成し、伝搬性防蟻薬剤の希釈液を、一方の端部から50L注入して土壌注入した後、この端部を閉じて、注入した伝搬性防蟻薬剤の希釈液がパイプ内に十分残存した状態で、反対の端部から伝搬性防蟻薬剤の希釈液を50L注入(計100L注入)することにより土壌注入した。
【0064】
薬剤注入日の翌日に、注入口(両側注入の場合には一方の注入口)から0、1、4、10、16、19、20mの地点の土壌サンプルを採取した。1つの地点で、パイプの周囲4か所(パイプを中心に左側上、左側上、右側下、右側上)の土壌サンプルを採取した。そして、土壌サンプル中の有効成分の濃度を測定し、4か所の測定値の平均値を各地点の薬剤量とした。
【0065】
ここで、図7に試験結果を示す。図7(a)のグラフは、片側注入における各地点での薬剤量を示し、図7(b)のグラフは、両側注入における各地点での薬剤量を示す。ここで、グラフの横軸は注入口からの距離(m)を示し、縦軸は薬剤量(ppm)を示す。
図7(a)に示すように、片側注入の場合には、注入口から離れるにつれて、土壌中に存在する薬剤量が減少し、注入口から10mの地点では、5ppm近傍まで減少している。一方、両側注入においては、図7(b)に示すように、両端の注入口から最も遠い10m地点(中央領域)であっても、薬剤量の落ち込みが比較的少なく、パイプが埋設された全域において、10ppm以上の十分な薬剤量が注入されていることが実証された。
【0066】
(孔14に関するその他の実施形態の説明)
次に、図8を用いて、孔14に関するその他の実施形態の説明を行なう。パイプライン10の流路において、注入口20から離れるにつれて、防蟻薬剤の流れが有する運動エネルギが徐々に小さくなるので、孔14から流出する防蟻薬剤の量が減っていく。そこで、これに対処するため、図8に示す実施形態では、パイプライン10の流路において、注入口20から離れるにつれて、孔14の径を大きくしている。注入口20から順に、配置されている孔14の径をd1、d2、d3、d4.d5、d6とすると、d1<d2<d3<d4<d5<d6となっている。
これにより、少ない運動エネルギであっても、より多くの防蟻薬剤を孔14から流出させることができる。なお、孔14の大きさの変化は、パイプライン10の長さ及び形状等を考慮して、個々のパイプライン10で最適なものを定めることが好ましい。
【0067】
(防蟻薬剤を同時に両端から注入する実施形態の説明)
上記の実施形態においては、何れもパイプラインの一方の端部から防蟻薬剤を注入し、その後、パイプラインの反対側の端部から防蟻薬剤を注入しているが、パイプラインの両端から防蟻薬剤を同時に注入する実施形態も考えられる。この実施形態について以下に説明する。
図9は、防蟻薬剤を土壌注入するためのパイプを模式的に表わした断面図であり、図9(a)では一方の端部に注入口が形成され、図9(b)では、本発明のように両側の端部に注入口20が形成されている。矢印は、防蟻薬剤の流れを示し、矢印の長さで流速(流量)を示す。
【0068】
図9(a)では、片側の注入口からは防蟻薬剤が注入される場合を示す。注入口から注入された防蟻薬剤は、流路にあけられた孔を通過するたびに、その一部が孔からパイプの外部へ流出し、残りの防蟻薬剤は流路内を流れていく。これを繰り返すうちに、パイプの中を流れる防蟻薬剤の流量は減り、同時に防蟻薬剤の流れが有する運動エネルギも小さくなるので、図9(a)の矢印で示すように、孔から流出する防蟻薬剤の流量は徐々に減じていく。このため、注入口から最も離れた中心領域では、十分な量の防蟻薬剤が土壌に注入されない恐れがある。
【0069】
図9(b)では、本発明のパイプライン10を構成するパイプ4の実施形態を模式的に示す。この場合、両側の注入口20から防蟻薬剤が同時に注入され、各々の防蟻薬剤は左右反対方向に流れて、中心領域近傍で流れが衝突する。従って、所謂「水撃作用」と同様な効果により、防蟻薬剤はエネルギを得ることができる。
注入口20から注入された防蟻薬剤は、上記の図9(a)に示す場合と同様に、流路にあけられた孔14を通過するたびに、その一部が孔14からパイプの外部へ流出し、残りの防蟻薬剤は流路内を流れていくので、注入口20を離れるにつれて孔14から流出する防蟻薬剤の流量は徐々に減り、運動エネルギも減っていく。一方、中心領域に近づくにつれて、流れの衝突によるエネルギを受けるので、孔14から流出する防蟻薬剤の流量を増やすことができる。
【0070】
従って、図9(b)の矢印に示すように、孔14から流出する防蟻薬剤の流量は、図9(a)に比べて減少する度合いが少なくなり、注入口20から最も離れた中心領域でも、十分な量の防蟻薬剤が土壌に注入することができる。
【0071】
以上のように、防蟻薬剤を両端から同時に注入した場合には、反対方向に流れる防蟻薬剤が中央領域で衝突し、これにより、水撃作用によるものと同様なエネルギを得ることができるので、中央領域においても、このエネルギを用いて十分な量の防蟻薬剤を土壌中に注入することができる。
【0072】
(伝搬性防蟻薬剤を用いることに関する説明)
次に、伝搬性防蟻薬剤を用いて防蟻処理を行なうことに関する説明を行なう。ここで、伝搬性蟻薬剤とは、グルーミング等の白蟻の習性を利用して、白蟻から白蟻へ薬剤を伝搬させて、より多くの白蟻を駆除する蟻薬剤である。
本発明に使用される殺虫剤としては、下記に示すように、伝播効果が期待できる非忌避性、遅効性薬剤が使用できる。
【0073】
ネオニコチノド系化合物類:イミダクロプリド、クロチアニジン、ニテンピラム、アセタミプリド、チアメトキサム、チアクロプリド、ジノテフラン
ピロール系化合物類:クロルフェナピル
フェニルピラゾール系化合物類:アセトプロール、エチプロール、フィプロニル、バニリプロール、ピリプロール、ピラフルプロール、TI−809
幼若ホルモン様物質や、キチン合成阻害物質等の昆虫成長制御剤:ピリプロキシフェン、メトプレン、ハイドロプレン、フェノキシカルブ、ジフルベンズロン、テフルベンズロン、フルフェノクスロン、ビストリフルロン、ヘキサフルムロン、トリフルムロン、ノバルロン、クロルフルアズロン、ルフェヌノン、ノビフルムロンブプロフェジン、エキサゾール、シロマジン
アントラニルアミド系化合物類:クロラントラニリプロール
オキサジアジン系化合物類:インドキサカルブ
ネライストキシン系化合物類:カルタップ、ベンスルタップ、チオシクラム、モノスルタップ、ビスルタップ
ホウ素系化合物類:ホウ酸、硼砂
その他:ヒドラメチルノン、スルフルアミド等
【0074】
製剤の例としては、乳剤、エマルジョン剤、マイクロエマルジョン剤、フロアブル剤、水和剤、水溶剤、懸濁剤等が挙げられるが、薬剤によっては、マイクロカプセル化等の製剤技術を用いて、さらに非忌避性、遅効性を高めた製剤を用いる方がより効果的な場合もある。
【0075】
また、殺虫剤原体としては、非忌避性、遅効性薬剤でなくても、マイクロカプセル化等の製剤技術により、伝播効果のある製剤とできる場合、有機リン系化合物類、ピレスロイド様・ピレスロイド系化合物類、カーバメート系化合物類などの殺虫剤も使用できる。なお、マイクロカプセル化した場合、製剤は懸濁剤等となる。
その他の殺虫剤を系統別に挙げると下記のとおりである。
【0076】
有機リン系化合物類:プロペタンホス、アセフェート、リン化アルミニウム、ブタチオホス、キャドサホス、クロルエトキシホス、クロルフェンビンホス、クロルピリホス、クロルピリホスメチル、シアノホス、ダイアジノン、DCIP、ジクロフェンチオン、ジクロルボス、ジメトエート、ジメチルビンホス、ジスルホトン、EPN、エチオン、エトプロホス、エトリムホス、フェンチオン、フエニトロチオン、ホスチアゼート、ホルモチオン、リン化水素、イソフェンホス、イソキサチオン、マラチオン、メスルフェンホス、メチダチオン、モノクロトホス、ナレッド、オキシデプロホス、パラチオン、ホサロン、ホスメット、ピリミホスメチル、ピリダフェンチオン、キナルホス、フェントエート、プロフェノホス、プロパホス、プロチオホス、ピラクロホス、サリチオン、スルプロホス、テブピリムホス、テメホス、テトラクロルビンホス、テルブホス、チオメトン、トリクロルホン、バミドチオン、ホキシム
【0077】
ピレスロイド様、ピレスロイド系化合物類:エントフェンプロックス、シラフルオフェン、ペルメトリン、アクリナトリン、アレスリン、ベンフルスリン、ベーターシフルトリン、ビフェントリン、シクロプロトリン、シフルトリン、シハロトリン、シペルメトリン、ジメフルトリン、デルタメトリン、エスフェンバレレート、フェンプロパトリン、フェンバレレート、フルシトリネート、フルフェンプロックス、フルメトリン、フルバリネート、ハルフェンプロックス、イミプロトリン、メトフルトスリン、プラレトリン、プロフルトリン、ピレトリン、レスメトリン、シグマ−サイパーメスリン、テフルトリン、トラロメトリン
【0078】
カーバメート系化合物類:フェノブカルブ、アラニカルブ、ベンダイオカルブ、ベンフラカルブ、カルバリル、カルボフラン、カルボスルファン、クロエトカルブ、エチオフェンカルブ、フェノチオカルブ、フェノキシカルブ、フラチオカルブ、イソプロカルブ、メトルカルブ、メソミル、メチオカルブ、NAC、オキサミル、ピリミカーブ、プロポキスル、XMC、チオジカルブ、キシリルカルブ
【0079】
ジベンゾイルヒドラジン系化合物類:クロマフェノジド、ハロフェノジド、メトキシフェノジド、テブフェノジド
バチルス・チューリンゲンシス菌トキシン系化合物類:バチルス・チューリンゲンシス菌の生芽胞及び産生結晶毒素
トロポロン系化合物類:ヒノキチオール、α−ツヤプリシン、γ−ツヤプリシン、β−ドラブリンおよびノートカチン
アルキルアミンアセテート:炭素数8〜18の混合または単一アルキルアミンアセテート
フタル酸ジアミド系化合物類:フルベンジアミド
マクロライド系化合物類:アバメクチン、エマメクチン、ミルベメクチン、ミルベマイシンオキシム、モキシデクチン、スピノサド
トリアジン系化合物類:トリプロピルイソシアヌレート
ナフタリン系化合物類:モノクロルナフタリン
塩素化ジアルキルエーテル添加系化合物:オクタクロロジプロピルエーテル
その他:ピリダリル等
【0080】
本発明においては、伝搬性防蟻薬剤を用いることによって、従来では床下に埋設していたパイプラインを必要とせず、建物の基礎の外側にパイプラインを配置するだけで、建物の白蟻被害を効果的に防ぐことができる。つまり、建物の基礎の外側にだけ伝搬性防蟻薬剤の薬剤処理層を形成するだけで、建物の基礎の外側の白蟻の侵入を防ぐことだけでなく、建物の基礎の内側(床下)や地中深くに存在する白蟻が建物の基礎に到達して活動することも防ぐことができる。
【0081】
<伝搬性防蟻薬剤の土壌移行性の確認試験の説明>
次に、本発明の防蟻薬剤注入システムにより、伝搬性防蟻薬剤を土壌注入した後、所定の期間が経過しても、防蟻効果に対して十分な濃度の伝搬性防蟻薬剤が残存しているか否か確認する試験を行った。
【0082】
本試験では、片側、両側注入における薬剤分布の比較試験と同様なパイプ、伝搬性防蟻薬剤を用いて土壌注入を行なった。そして、140日経過後に、注入口から約4.5mの距離にあるパイプの周囲の土壌のサンプルを採取して、サンプル中に含まれる伝搬性防蟻薬剤の濃度を測定した。
具体的な試験方法としては、6月末に伝搬性防蟻薬剤の土壌注入を行ない、梅雨及び台風時期を過ぎた140日経過後の11月中旬に、下記に示す11箇所から各々2つのサンプル(計22サンプル)を採取して試験を行なった。
【0083】
各土壌サンプルの石やゴミを予め取り除き、乾燥器(40℃)で一晩乾燥した。乾燥した土壌25を三角フラスコに採取後、メタノール約100mlを加えて、超音波洗浄器にて30分間抽出した。超音波抽出後、約2時間随時振り混ぜながら浸漬抽出した後、濾過し、濾液をロータリーエバポレータで蒸留乾固し、乾固物に内部標準液1ml、アセトン4mlを加え溶解させ、濾過した濾液を試験溶液とした。試験結果を下表(表1)に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
表1に示すように、パイプ4の周囲10cm以内には、十分な量の伝搬性防蟻薬剤が残存していることが判明した。この試験結果から、1ppm以上の濃度の伝搬性防蟻薬剤が建物の基礎の外側に残存しているので、梅雨及び台風時期を過ぎた140日経過後であっても、実用上十分な防蟻効果を有することが実証された。
【0086】
<伝搬性防蟻薬剤を用いる場合の作用効果に関する説明>
以上のように、本発明の防蟻薬剤注入システムでは、伝搬性防蟻薬剤を用いることにより、建物の基礎の外側にだけ環状のパイプラインを埋設するだけで、実用上十分な防蟻効果を発揮することができる。よって、床下への環状のパイプラインの埋設工事が不要となり、大がかりな工事を回避して設置工事コストを削減できる。また、建物の基礎の外側にだけ施工するので、建築後であってもメンテナンスや修復の要請に対応可能であり、建物の建築後に新たに防蟻薬剤注入システムを備えることできる。
【0087】
(防蟻薬剤注入システムの安全性に関する説明)
本発明の防蟻薬剤注入システムでは、伝搬性防蟻薬剤を用いることにより、建物の基礎の外側にだけパイプラインを埋設することにより、実用上十分な防蟻効果を発揮することができる。これにより、従来のように、建物の床下に防蟻薬剤が散布されないので、居住者の健康に関してもより安全なシステムであるといえる。この点を確認するため、本発明の防蟻薬剤注入システムを用いて、住宅の基礎の外側に伝搬性防蟻薬剤を土壌注入した場合の住宅内部での伝搬性防蟻薬剤の気中濃度を測定する試験を行なった。
【0088】
<防蟻薬剤の気中濃度測定試験の説明>
本試験では、0.03%の伝搬性防蟻薬剤の水溶液を5L/mで注入口から注入して、住宅の基礎の外側に土壌注入し、処理中、処理後3時間後、処理後24時間後について、下記の3箇所の気中濃度を測定した。測定結果を下表(表2)に示す。
【0089】
【表2】

【0090】
表2に示すように、処理中、処理後3時間後、処理後24時間後の何れの時期においても、気中の防蟻成分は検出限界値未満であった。これにより、本発明の防蟻薬剤注入システムは、建物床下に防蟻薬剤が散布されないので、居住者が防蟻薬剤を吸う恐れが少なく、居住者の健康上の面においても優れたシステムであることが実証された。
【0091】
(本発明の防蟻薬剤注入システムのその他の実施形態の説明)
本発明の防蟻薬剤注入システムは、上記の実施形態に限られるものではなく、その他の様々な実施形態が本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0092】
2 防蟻薬剤注入システム
4 孔付きパイプ
4a 90度エルボ
6 接続管
8 分岐部材
10 環状のパイプライン
10a、b パイプライン領域
12 パイプカバー
14 孔
20 注入口
22 キャップ
24 ピット
26 ピットカバー
30 建物の基礎
32 建物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の基礎の外周に沿って前記基礎を取り囲むように埋設され、その両端に地上からアクセス可能な注入口を有する1以上のパイプラインを備え、
前記両端の注入口の少なくとも一方から伝搬性防蟻薬剤を注入して、前記パイプラインに設けられた複数の孔から土壌に前記伝搬性防蟻薬剤を注入することを特徴とする防蟻薬剤注入システム。
【請求項2】
前記両端の注入口のうちの一方の注入口から前記伝搬性防蟻薬剤を所定量注入した後、前記一方の注入口を閉じて、注入した薬液が前記パイプライン中に残存している状態で、前記両端の注入口のうちの他方の注入口から前記伝搬性防蟻薬剤を注入して、土壌に前記伝搬性防蟻薬剤を注入することを特徴とする請求項1に記載の防蟻薬剤注入システム。
【請求項3】
分岐点を有さない2つ以上の前記パイプラインを備え、パイプラインの一方の注入口及び他のパイプラインの一方の注入口どうしが隣接して配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の防蟻薬剤注入システム。
【請求項4】
分岐点を有さない1つの前記パイプラインを備え、
前記両端の注入口が隣接して配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の防蟻薬剤注入システム。
【請求項5】
前記両端の注入口とそれぞれ連通した2箇所の分岐点を有する1つの前記パイプラインを備え、
前記パイプラインが、前記2箇所の分岐点を両端とする2つのパイプライン領域を備え、
前記2つのパイプライン領域が、前記基礎の外周に沿って前記基礎を取り囲むように埋設され、
前記2つのパイプライン領域における流動抵抗が近似するように、前記2つの分岐点が配置されることを特徴とする請求項1または2に記載の防蟻薬剤注入システム。
【請求項6】
前記両端の注入口のうちの一方の注入口から液体を注入し、該注入した液体が前記両端の注入口のうちの他方の注入口に到達する量を確認することにより、前記パイプラインにおける漏液の有無を確認することを特徴とする請求項1から5の何れか1項に記載の防蟻薬剤注入システム。
【請求項7】
前記パイプラインが、通液性または透液性を有する材料からなるパイプカバーで覆われていることを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の防蟻薬剤注入システム。
【請求項8】
前記複数の孔が、前記パイプラインの円形断面において、円形の水平ラインより上側の方向にあけられていることを特徴とする請求項1から7の何れか1項に記載の防蟻薬剤注入システム。
【請求項9】
前記複数の孔が、前記パイプラインの長手方向において、10〜30cmのピッチであけられていることを特徴とする請求項1から8の何れか1項に記載の防蟻薬剤注入システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図7】
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