説明

防護服

【課題】原子力、化学物質、細菌に係る事故や事件の現場で着用者の安全を維持でき作業性の良い防護服を提供し、さらに、熱中性子の遮蔽も可能にした防護服を提供する。
【解決手段】防護服1は、フード11を有し、着用者の頭部から腕および脚までのほぼ全身を密閉するように覆うフード付カバーオール10と、手を防護する防護手袋20と、足を防護する防護靴30と、フード付カバーオール10の下に着用して体温を維持する体温維持ベスト40とから成り、フード付カバーオール10は、耐熱性や耐化学薬品性などを有する素材に撥液撥埃表面加工を施したものとし、体温維持ベスト40は、所定の温度で相変移して着用者の体温を維持する相変移材を含む素材のものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力、化学薬品、細菌に係る事故や事件等の際に現場で着用する防護服に関し、特に原子力に関連する事故等の際に着用する防護服に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力に関する事故としては、原子力発電所や放射性物質を取り扱う施設の火災や臨界事故等がある。また、化学物質に関する事故としては、化学工場の火災や運送中のタンクローリーの横転事故等による有毒化学物質の漏洩等がある。また、有毒化学物質が使用された事件としては、松本サリン事件や地下鉄サリン事件が挙げられる。また、細菌に関するものとしては、細菌を扱う研究所からの漏洩事故等が考えられる。さらに、放射性物質、有毒化学物質、細菌などを使用したテロ事件の発生なども皆無とはいえない。
【0003】
これら何れの場合であっても、その現場で作業をする作業者が着用する防護服には、現場環境における作業者自身の安全を確保できることと同時に、作業性の良いことが求められる。作業性を良くするためには、軽量で嵩張らないことが必要である。また、作業者の安全性と作業性の両面からは、引張・引裂き強度が高いこと、カバーオール型防護服であるだけでなく、外部環境から遮断した防護服内で体温が上昇してしまうことによるヒートストレスの対策も必要である。
【0004】
例えば、原子力事故の際に着用する放射線防護服としては、特許文献1に記載されたようなものがある。
【0005】
すなわち、防護服の外服であってその一部または全部に湿分透過素材を使用した外服と、外服の下に着用する、首から上の部分を覆うインナーフードと、インナーフード内で着用者の頭部に被るように形成されたヘッドバンドであって、送気孔が開けられたものと、外服に装着してヘッドバンドに空気を供給するフィルタ付き携帯電動送風機および送気ホースとを有し、湿分透過素材の外服によって外服内の湿分を比較的速く外部環境に排出するとともに、インナーフード内に送風する空気が着用者の熱と汗を取り去ることによってヒートストレスに対応したものである。
【0006】
【特許文献1】特開平10−197688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来の技術では、外服を完全密閉することと外服内への給気によって外服内の内圧を外部環境よりも高くすることとにより、放射性エアロゾルが外服内に侵入することを防止して内部被ばくを防ぐことはできるが、中性子線による外部被ばくに対しては何らの防護にもならないという問題点があった。
【0008】
また、放射性エアロゾルが付着したままの外服を長時間にわたって着用した場合には、放射性エアロゾルが発する放射線によって外部被ばくをしてしまうという問題点があった。さらに、このような防護服を有毒化学物質や細菌などが漏洩している事故現場で使用した場合には、有毒化学物質や細菌が外服に付着してしまうおそれがあるので使用することができないという問題点があった。
【0009】
本発明は、このような従来の技術が有する問題点に着目してなされたもので、原子力、化学薬品、細菌に係る事故や事件の現場で着用者の安全を維持するとともに作業性が良い防護服を提供することを目的とし、さらには、原子力に係る事故等の現場において熱中性子の遮蔽を可能にした防護服を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するための本発明の要旨とするところは、次の各項の発明に存する。
[1] 有毒化学物質や放射性物質、放射線が存在する環境下などで作業する際に着用する防護服(1)であって、
フード(11)を有し、着用者の頭部から腕および脚までのほぼ全身を密閉するように覆うフード付カバーオール(10)と、着用者の手を防護する防護手袋(20)と、着用者の足を防護する防護靴(30)と、前記フード付カバーオール(10)の下に着用して着用者の体温を維持する体温維持ベスト(40)とから成り、
前記フード付カバーオール(10)、防護手袋(20)および防護靴(30)は、それぞれ少なくとも耐熱性、耐延焼性、耐熱伝導性、耐輻射熱性、引張り引裂き強度、耐化学薬品性を有する素材に、撥液撥埃表面加工を施して化学薬品や放射性物質の表面付着を防止するものであり、
前記体温維持ベスト(40)は、所定の温度で相変移して着用者の体温を維持する相変移材を含む素材を使用することを特徴とする防護服(1)。
【0011】
[2] 前記フード付カバーオール(10)と前記体温維持ベスト(40)との間に着用する、熱中性子を遮蔽する熱中性子遮蔽ベスト(50)と、
着用者の頭部を覆うように前記フード付カバーオール(10)のフード(11)の上から着用する、熱中性子を遮蔽する熱中性子遮蔽ヘッドギア(60)と、を備えたことを特徴とする[1]に記載の防護服(1)。
【0012】
[3] 有毒化学物質や細菌を吸着する吸着素材から成り、前記フード付カバーオール(10)と前記体温維持ベスト(40)との間に着用する吸着性インナー(71)と、前記吸着素材から成り、前記フード(11)の内側で頭部を覆うように着用する吸着性ヘッドカバー(72)と、前記吸着性素材から成り、前記防護靴(30)の下に着用する吸着性足カバー(73)を備えたことを特徴とする[1]または[2]に記載の防護服(1)。
【0013】
前記本発明は次のように作用する。
化学工場の事故や運送中のタンクローリーの横転事故などによって有毒化学物質が漏洩している事故現場や原子力関連施設の事故等において放射性エアロゾルや放射線が存在している事故現場などの環境下で作業する際に防護服(1)を着用する。
【0014】
防護服(1)を着用する際は、先ず、通常の衣服の上に体温維持ベスト(40)を着用し、次にフード付カバーオール(10)を着用してフード(11)を被る。この際、必要に応じて適宜にマスクやヘルメットを着用してほぼ全身を密閉する。次に、防護手袋(20)と防護靴(30)とを着用する。
【0015】
これにより、有毒化学物質が漏洩している現場環境において、溶液状の化学物質や固体の化学物質は、撥液撥埃表面加工されたフード付カバーオール(10)、防護手袋(20)、および防護靴(30)に付着せず、防護服(1)内への侵入を防ぐことができる。また、放射性エアロゾルが存在する現場環境下においても同様に撥液撥埃表面加工されたフード付カバーオール(10)には放射性エアロゾルが付着せず、防護服(1)内への放射性エアロゾルの侵入を防ぐことができる。
【0016】
フード付カバーオール(10)、防護手袋(20)および防護靴(30)は、それぞれ少なくとも耐熱性・耐延焼性・耐熱伝導性・耐輻射熱性・引張引裂き強度・耐化学薬品性を有しているので、現場が火災をともなう場合にも防護服(1)を着用して作業に当たっている着用者は火炎から守られる。また、フード付カバーオール(10)の下に着用している体温維持ベスト(40)は、所定の温度で固体から液体に相変移する相変移材を含む素材から作られているので、着用者の体温の上昇を防止して体温を維持することができ、もって作業中の着用者の安全確保と作業性の向上を図ることができる。所定の温度とは、通常の生活環境における人体の平均的な体温よりも低い温度で、例えば28℃程度である。
【0017】
さらに、熱中性子線が発生しているような現場環境においては、防護服(1)を着用する際に、体温維持ベスト(40)の上に熱中性子遮蔽ベスト(50)を着用し、その上にフード付カバーオール(10)を着用する。また、着用者の頭部を覆うようにフード付カバーオール(10)のフード(11)の上から熱中性子遮蔽ヘッドギア(60)を着用する。この際、眼球を放射線から守るためには、マスク(90)内側に放射線を遮断するような特殊ガラスでできた眼球保護具(200)を装着しておけばよい。
【0018】
また、現場環境が有毒化学物質に対してより高度な防護レベルが必要である場合、例えば兵器性の高い有毒化学物質が存在する場合や、細菌に対して高度な防護レベルが必要である場合には、体温維持ベスト(40)の上に吸着性インナー(71)を着用し、頭部を覆うように着用する吸着性ヘッドカバー(72)をフード付カバーオール(10)のフード(11)の内側で着用し、吸着性足カバー(73)を防護靴(30)の下に着用すればよい。
【0019】
これにより、万が一、有毒化学物質や細菌を含んだ現場の汚染雰囲気が防護服(1)のフード付カバーオール(10)内に入っても、吸着性インナー(71)、吸着性ヘッドカバー(72)、吸着性足カバー(73)によってそれらを吸着して無害化してしまうので、着用者の安全は維持される。
【発明の効果】
【0020】
本発明にかかる防護服によれば、フード付カバーオール、防護手袋、防護靴によって有毒化学物質や放射性エアロゾルの侵入を防止するとともに防護服への付着を防止し、体温維持ベストによって体温の上昇を抑えて維持することができるので、着用者の安全を維持することができるとともに良好な作業性をもたらすことができる。
【0021】
さらに、熱中性子遮蔽ベストと熱中性子遮蔽ヘッドギアとを併用して着用するとともに熱中性子遮蔽眼球保護具を使用することにより、着用者を熱中性子線による被ばくから守ることができる。
【0022】
また、吸着性インナー、吸着性ヘッドカバー、および吸着性足カバーを併用して着用することにより、万が一にフード付カバーオール内に有毒化学物質や細菌に汚染された雰囲気が進入しても、有毒化学物質や細菌を吸着し、それら吸着されたものは着用者には無害となるので、有毒化学物質や細菌に対する高度な防護レベルが必要とされる環境下でも着用者の安全を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面に基づき本発明の好適な一実施の形態を説明する。
各図は本発明の一実施の形態を示している。図1は、本発明の一実施の形態に係る防護服を全て着用した状態を説明する説明図である。図2は、図1におけるフード付カバーオールを示す正面図である。図3は、図2のフード付カバーオールを背面から見た背面図である。なお、図1の右半分は、フード付カバーオールの下に着用しているものを示している。
【0024】
図1に示すように、防護服1は、フード11を有するフード付カバーオール10、その下に着用する熱中性子遮蔽ベスト50、その下に着用する吸着性インナー71、吸着性インナー71の下に着用する体温維持ベスト40、フード11の内側で頭部を覆うように着用する吸着性ヘッドカバー72、足に履く吸着性足カバー73、吸着性足カバー73の上に履く防護靴30、防護手袋20、フード付カバーオール10のフード11の上から着用する熱中性子遮蔽ヘッドギア60を適宜に組み合わせて着用することができる。現場で防護服1を着用するときは、現場環境に合わせ適宜に図6および図9に示したようなヘルメット80、図10に示したようなマスク90、図11に示したような呼吸保護具100、眼球保護具200等を着用する。
【0025】
図1および図2に示したフード付カバーオール10は、フード11を有するつなぎ型のものである。このフード付カバーオール10および防護手袋20と防護靴30は、高強度で撥液性、耐延焼性、耐熱伝導性、耐輻射熱性、引張引裂き強度、耐化学薬品性能などに優れ、高機能を発揮する耐熱繊維であるケルメル社が製造しているポリアミド・イミド繊維(ケルメル材)のメタ系アラミド繊維が使用されている。
【0026】
フード付カバーオール10は、胴部の前面の開閉部12で開閉可能になっており、フード付カバーオール10を着用するときと、脱ぐときには開いておき、着用中は密閉可能に閉じておくことができる。また、フード付カバーオール10のフード11の前面には着用時に顔面が露出する部分の周囲にゴムが入っており、顔面の露出面積が絞られる。
【0027】
これらにより、フード付カバーオール10は、適宜にヘルメット80やマスク90とともに着用したときに、放射性エアロゾルや有毒化学物質によって汚染された汚染雰囲気が防護服1内に侵入することを防止することができる。また、フード付カバーオール10、防護手袋20および防護靴30は、アルミ蒸着が施されており、熱反射性能が高められている。さらに、その上からテフロン加工(「テフロン」はデュポン社の登録商標である。)が施されているので、優れた撥液性と撥埃性を発揮することができる。
【0028】
図4は、図1における熱中性子遮断ベストを示す正面図であり、図5は、図4の熱中性子遮断ベストを背面から見た背面図である。図4および図5に示す熱中性子遮蔽ベスト50は、放射線のうち熱中性子線を遮断して、着用者の胴体を熱中性子線による被ばくから防護するためのものである。
【0029】
熱中性子遮蔽ベスト50は、フード付カバーオール10の下に着用するものであり、後述する体温維持ベスト40の上に着用するものであり、体温維持ベスト40の上に後述する吸着性インナー71を着用している場合には、吸着性インナー71の上に着用するものである。
【0030】
熱中性子遮蔽ベスト50は、熱中性子線を遮断するための遮蔽材として、シリコンゴムに炭化ホウ素を添加した素材が用いられている。すなわち、図示した熱中性子遮蔽ベスト50のカバーの内部には、ほぼ全体に炭化ホウ素を添加したシリコンゴムで作られた不図示の熱中性子線遮蔽板が入っている。
【0031】
熱中性子遮蔽ベスト50は、首から股間部下方までと胴体の正面側から脇にかけてとを保護する正面保護部51および首から股間部下方までと胴体の背面側から脇にかけてとを保護する背面保護部52とから成る。正面保護部51と背面保護部52とは、一方の肩にかかる部分が面ファスナー53によって開閉可能になっており、胴体の側部を回って繋ぐ面ファスナー54,55と、股間の下を回って繋ぐ面ファスナー56と、首周りを調節するための面ファスナー57が設けられている。これらの面ファスナー53〜57によって着用者の体格にかかわらず効果的にかつ着心地よく着用することができる。面ファスナー53〜57は、オスの面ファスナーとし、熱中性子遮蔽ベスト50のカバーを面ファスナーのメスと同様の機能を有するように処理したものでもよいし、カバーにメスの面ファスナーを設けてもよい。
【0032】
図1および図6から図8には、着用者の頭部を熱中性子線から防護するための熱中性子遮蔽ヘッドギア60が示されている。
熱中性子遮蔽ヘッドギア60は、図1、図6および図7に示したようにヘルメット80の内側に取り付けられて着用者の後頭部側から顔面側までを覆う熱中性子防護シコロ61と、図1および図8に示したようにヘルメット80の外側に取り付けられてヘルメット80の全体を覆う熱中性子防護ヘッドカバー62とから成っている。これらは何れも熱中性子線の遮蔽材として熱中性子遮蔽ベスト50と同様に炭化ホウ素を添加したシリコンゴムが用いられる。
【0033】
図7に示したように、熱中性子防護シコロ61は、湾曲した帯状に形成されている。熱中性子防護シコロ61は、表面側被覆材61aと裏面側被覆材61bとの間に炭化ホウ素を添加したシリコンゴム製の熱中性子遮蔽板61cを挟んで作られている。表面側被覆材61aおよび裏面側被覆材61bのうち少なくとも表面側被覆材61aは、フード付カバーオール10と同一の素材が使用されており、同様の表面処理が施されている。
【0034】
熱中性子遮蔽ヘッドギア60には、ヘルメット80に取り付けるための止め部66が設けられている。この止め部66は、例えばボタンとして、ヘルメット80側に設けた不図示のボタンと着脱可能なものである。また、止め部66をオスまたはメスの面ファスナーとし、ヘルメット80側にメスまたはオスの面ファスナーを設けて着脱自在にしてもよい。さらに、ねじによってヘルメット80に固定してもよい。
【0035】
熱中性子遮蔽ヘッドギア60の長さは、ヘルメット80に取り付けて着用者がヘルメット80を被って熱中性子遮蔽ヘッドギア60の両端を合わせたときに十分に重なるだけの長さが取られている。熱中性子遮蔽ヘッドギア60の両端部の一方にはオスの面ファスナーが取り付けられており、もう一方の端部にはメスの面ファスナーが取り付けられている。これにより、熱中性子遮蔽ヘッドギア60は両端部を合わせた状態に維持することができる。この状態は兜のシコロのように着用者の首から顔面にかけて目の周辺部を除いて全てを覆うことができる。
【0036】
図8に示した熱中性子防護ヘッドカバー62は、ヘルメット80の外側に被せることができるように形成されている。熱中性子防護ヘッドカバー62は、ヘルメット80全体を覆うことができる大きさのものであり、その裾にはゴムが通されている。熱中性子防護ヘッドカバー62をヘルメット80に着用するときは、ヘルメット80に被せた熱中性子防護ヘッドカバー62の裾をヘルメット80の鍔81の下まで下げてから離せば、ゴムで絞られて裾がヘルメット80の鍔81に掛かって装着される。
【0037】
図9には、熱中性子防護ヘッドカバー62を取り付けるヘルメット80が示されている。ヘルメット80は鍔81のあるものである。ヘルメット80は、鍔81よりも上の部分を一周するようにヘッドバンド82を取り付けられるようになっている。ヘッドバンド82は、内部に炭化ホウ素を添加したシリコンゴム板を入れてあり、熱中性子線を遮断することができる。このヘッドバンド82は、その側面に取り付けられた面ファスナー83とヘルメット80の外側に取り付けられた面ファスナー84とによってヘルメット80に取り付けられる。ヘッドバンド82の両端部にも面ファスナー84,85が取り付けられており、両端部をつなげることができる。
【0038】
なお、熱中性子遮蔽ヘッドギア60は、熱中性子防護シコロ61と熱中性子防護ヘッドカバー62とが別体のものとして示したが、それらを一体に形成したものでもよい。例えば、着用者の頭部を覆うようにフード付カバーオール10のフード11の上に着用したヘルメット80の上から被るように着用するものであってもよい。
【0039】
なお、熱中性子遮蔽ベスト50および熱中性子遮蔽ヘッドギア60には、熱中性子線を遮断するために炭化ホウ素を添加したシリコンゴムを用いたが、酸化ガドリニウム粉末を添加したシリコンゴムや難燃性金属水酸化物と炭化ホウ素とを添加したシリコンゴム等を用いてもよい。
【0040】
図1に示した吸着性インナー71、吸着性ヘッドカバー72、吸着性足カバー73は、有毒化学物質や細菌を吸着することができる同一の吸着性素材によって作られている。その素材としては、基布と外層布との間に球状活性炭を使用した球状活性炭フィルターを挟んだものである。この球状活性炭フィルターは、有毒化学物質や放射性エアロゾルを吸着することができる。この球状活性炭フィルターは、例えば有毒化学物質であるサリン、ブタン、ソマン、VX等を吸着することができるが、これら有毒化学物質を吸着した球状活性炭フィルターに手で触れてもそれらが直接に手に触れることがない。したがって、それら有毒化学物質が実質的に無害化したのと同様の効果が発揮される。
【0041】
この球状活性炭フィルターを狭持する基布と外層布は、球状活性炭フィルターの吸着性の維持や着用時の肌触りなどからニット材が好ましい。ただし、基布および外層布はニット材に限定されるものではなく、通気性の良いものであればよい。
【0042】
吸着性インナー71は、長袖長ズボンのつなぎ服のタイプが好ましい。また、吸着性ヘッドカバー72は、頭から被り、吸着性インナー71の襟まで達するものが好ましい。吸着性ヘッドカバー72は、マスク着用時のスペースを確保するために、目から口にかけて露出するように開いており、その開いた部分の周縁にはゴムが通されている。これにより、マスク90を着用したときに、開いた部分がゴムによって絞られてマスク90と吸着性ヘッドカバー72とが密接する。足に履く吸着性足カバー73は、着用したときに吸着性インナー71の裾よりも十分に高い位置まで達するようにハイカットされている。
【0043】
図1に破線で示した体温維持ベスト40は、所定の温度を越えると熱を吸収して固体から液体に相変移する相変移材を含む素材から作られている。これにより、着用者の体温が上昇するような条件下でも熱を吸収することにより、体温を維持することができる。所定の温度とは、通常の生活環境における人体の平均的な体温よりも低い温度で、例えば28℃程度である。
【0044】
図10に示したものは、防護服1を着用する際に、現場環境の状態によって必要であれば着用するマスク90である。また、図11に示したものは、防護服1を着用する際に、現場環境の状態によって必要であればマスク90とともに使用する呼吸保護具100であり、高圧空気ボンベ101を備えたものである。
【0045】
なお、熱中性子に晒される現場環境では、図1に示したようにマスク90内に熱中性子を遮蔽するようなホウケイ酸ガラスでできた眼球保護具200を設けておく。
【0046】
次に作用を説明する。
本実施の形態に係る防護服は、化学物質の漏洩している現場や放射性エアロゾルが存在したり放射線に晒されたりするような現場、細菌が漏洩している現場等における作業をする際に適宜に組み合わせて着用し、着用者の安全を確保しながら作業性を維持することができる。
【0047】
第1の例とし、化学工場の事故や運送中のタンクローリーの横転事故などによって有毒化学物質が漏洩している事故現場や原子力関連施設の事故等の場合であって、放射性エアロゾルや放射線に晒される事故現場などの環境下で作業する場合には、体温維持ベスト40、フード付カバーオール10、防護手袋20、防護靴30を図9に示したマスク90に不図示のフィルターを装着したものとともに着用する。また、現場環境によっては、マスク90と図11に示した呼吸保護具100とを組み合わせて使用する。
【0048】
防護服1を着用するに際し、体温維持ベスト40は通常の衣服の上に着用することができる。次にフード付カバーオール10の開閉部12を開いてフード付カバーオール10に腕と脚を入れて着用してから開閉部12を閉じる。次に、防護靴30を着用し、マスク90を着けてからフード11を被る。この際、フード11は顔面が露出する部分の周囲に通してあるゴムが縮んで露出部分が絞られるとともに、フード11とマスク90との間が密閉される。最後に、防護手袋20を着用する。
【0049】
このような組合せで着用した防護服1は、有毒化学物質が漏洩している現場環境において、溶液状の化学物質や固体の化学物質は、テフロン加工による撥液撥埃表面加工されたフード付カバーオール10、防護手袋20、および防護靴30に付着せず、また、密閉された防護服1内への侵入が妨げられる。また、放射性エアロゾルが存在する現場環境下においても同様に撥液撥埃表面加工されたフード付カバーオール10には放射性エアロゾルが付着せず、防護服1内への放射性エアロゾルの侵入を防ぐことができる。
【0050】
フード付カバーオール10、防護手袋20および防護靴30は、それぞれ耐熱性、耐延焼性、耐熱伝導性、耐輻射熱性、引張引裂き強度、耐化学薬品性を有する素材の上にアルミ蒸着を施してあるので、より高い輻射熱性能も有している。これにより、現場が火災をともなう場合にも作業に当たっている着用者を火炎や熱から守ることができる。また、現場が火災をともなう場合や火災の発生がなくても高温環境下にある場合には、フード付カバーオール10の下に着用している体温維持ベスト40が着用者の体温やフード付カバーオール10内の熱を吸収するので着用者の体温の上昇を防止することができる。これにより、作業中の着用者の安全が確保できるとともに作業性の向上を図ることができる。
【0051】
次に、第2の例として、熱中性子線が発生しているような現場環境の場合には、前記の防護服1の着用に加えて、体温維持ベスト40の上に熱中性子遮蔽ベスト50を着用する。この熱中性子遮蔽ベスト50は、体温維持ベスト40の上に着用する。また、着用者の頭部を覆うようにフード付カバーオール10のフード11の上から熱中性子遮蔽ヘッドギア60を取り付けたヘルメット80を着用する。すなわち、熱中性子防護シコロ61や熱中性子防護ヘッドカバー62を取り付けたヘルメット80を着用する。この際、眼球を熱中性子から守るために、マスク90の中に熱中性子を遮断するホウケイ酸ガラスのような特殊ガラスでできた眼球保護具200を装着する。これにより、防護服1の着用者は、熱中性子による被ばくを避けることができる。
【0052】
また、第3の例として、現場環境に兵器性の高い有毒化学物質が存在するような一層に高度な防護レベルが必要である場合や、細菌に対して高度な防護レベルが必要である場合に対処する場合には、前記第1の例で着用した組み合わせの防護服1にさらに、体温維持ベスト40の上に吸着性インナー71を着用し、吸着性ヘッドカバー72を着用して頭部を覆い、吸着性足カバー73を履いた上にフード付カバーオール10を着用し、防護手袋20および防護靴30を着用すればよい。
【0053】
これにより、万が一、有毒化学物質や細菌を含んだ現場環境の空気が防護服1のフード付カバーオール10内に入っても、吸着性インナー71、吸着性ヘッドカバー72、吸着性足カバー73によって有毒化学物質や細菌を吸着してしまうので、着用者の安全は維持される。
【0054】
なお、現場の状況によっては、第2の例の場合に着用した熱中性子遮蔽ベスト50および熱中性子遮蔽ヘッドギア60を取り付けたヘルメット80を着用しても良いことは言うまでもない。
【0055】
なお、上記の説明では、フード付カバーオール10がフード11と一体となったものについて説明したが、図12に示すようにフード付カバーオール10と同一素材のものでフード11が一体となっていないカバーオール110にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施の形態に係る防護服を全て着用した状態を説明する説明図である。
【図2】図1におけるフード付カバーオールを示す正面図である。
【図3】図2のフード付カバーオールを背面から見た背面図である。
【図4】図1における熱中性子遮断ベストを示す正面図である。
【図5】図4の熱中性子遮断ベストを背面から見た背面図である。
【図6】熱中性子遮蔽ヘッドギアの熱中性子防護シコロを取り付けたヘルメットを示す図であり、(A)は正面図であり、(B)は側面図である。
【図7】図6の熱中性子防護シコロを示す図であり、(A)は表面を示す平面図であり、(B)は裏面を示す底面図であり、(C)は内部を示す図である。
【図8】図1における、ヘルメットに装着する熱中性子防護ヘッドカバーを示す図であり、(A)は正面図であり、(B)は側面図である。
【図9】ヘルメットとヘルメットに取り付けるヘッドバンドを示す図であり、(A)は、ヘッドバンドを取り付けたヘルメットの正面図を示し、(B)は、ヘッドバンドを取り付けたヘルメットの側面図を示し、(C)は、ヘッドバンドをはずしてあるヘルメットの正面図を示し、(D)は、ヘッドバンドをはずしてあるヘルメットの側面図を示し、(E)は、ヘッドバンドの両面を示す図である。
【図10】使用状態によって図1の防護服と組み合わせて使用するマスクを示す斜視図である。
【図11】使用状態によって図1の防護服と組み合わせて使用するマスクを示す斜視図である。
【図12】フードと一体ではないカバーオールの正面側と背面側を例示する図である。
【符号の説明】
【0057】
1…防護服
10…フード付カバーオール
11…フード
12…開閉部
20…防護手袋
30…防護靴
40…体温維持ベスト
50…熱中性子遮蔽ベスト
51…正面保護部
52…背面保護部
53,54,55,56,57…面ファスナー
60…熱中性子遮蔽ヘッドギア
61…熱中性子防護シコロ
61a…表面側被覆材
61b…裏面側被覆材
61c…熱中性子遮蔽板
62…熱中性子防護ヘッドカバー
66…止め部
71…吸着性インナー
72…吸着性ヘッドカバー
73…吸着性足カバー
80…ヘルメット
81…鍔
82…ヘッドバンド
83,84,85…面ファスナー
90…マスク
100…呼吸保護具
101…高圧空気ボンベ
110…カバーオール
200…眼球保護具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有毒化学物質や放射性物質、放射線が存在する環境下などで作業する際に着用する防護服であって、
フードを有し、着用者の頭部から腕および脚までのほぼ全身を密閉するように覆うフード付カバーオールと、着用者の手を防護する防護手袋と、着用者の足を防護する防護靴と、前記フード付カバーオールの下に着用して着用者の体温を維持する体温維持ベストとから成り、
前記フード付カバーオール、防護手袋および防護靴は、それぞれ少なくとも耐熱性、耐延焼性、耐熱伝導性、耐輻射熱性、引張り引裂き強度、耐化学薬品性を有する素材に、撥液撥埃表面加工を施して化学薬品や放射性物質の表面付着を防止するものであり、
前記体温維持ベストは、所定の温度で相変移して着用者の体温を維持する相変移材を含む素材を使用することを特徴とする防護服。
【請求項2】
前記フード付カバーオールと前記体温維持ベストとの間に着用する、熱中性子を遮蔽する熱中性子遮蔽ベストと、
着用者の頭部を覆うように前記フード付カバーオールのフードの上から着用する、熱中性子を遮蔽する熱中性子遮蔽ヘッドギアと、を備えたことを特徴とする請求項1に記載の防護服。
【請求項3】
有毒化学物質や細菌を吸着する吸着素材から成り、前記フード付カバーオールと前記体温維持ベストとの間に着用する吸着性インナーと、前記吸着素材から成り、前記フードの内側で頭部を覆うように着用する吸着性ヘッドカバーと、前記吸着性素材から成り、前記防護靴の下に着用する吸着性足カバーと、を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の防護服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−133772(P2010−133772A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−308522(P2008−308522)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 博覧会名 東京国際消防防災展2008 主催者名 株式会社東京ビッグサイト 開催日 平成20年6月5日から6月8日まで
【出願人】(508128381)栄冠商事株式会社 (2)
【出願人】(595015926)アスク・サンシンエンジニアリング株式会社 (10)
【出願人】(398047881)エイブル山内株式会社 (1)
【Fターム(参考)】