説明

防護衣

【課題】耐弾性能、耐突き刺し性能および耐刃性能に優れ、かつ、柔軟性を持ち、軽量な防護衣を提供する。
【解決手段】防護衣は、引張強度が17cN/dtex以上、引張弾性率が450cN/dtex以上である高強度繊維の積層体(PBO繊維の織物からなる第1のシート14およびポリアリレートフェルトの第2のシート16)と、シート14、16の間に介在する金属メッシュ層22とを有する。金属メッシュ層22は、柔軟性を有し、かつ、金属線材の線径が少なくとも略0.3mm以上であり、かつ、メッシュの径が略15mmより小さい。好ましくは、金属メッシュ層は、その金属線材が線径略0.8mm、外径略8mmのリングを、四方向に繰り返し連結させた構造となっている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、刃物などによる突き刺しから身体を防護するとともに、ピストルなど銃から発射された弾丸から身体を防護する防護衣に関する。
【0002】
【従来の技術】
防刃防護衣とは、身体の一部または全体を、刃物による突き刺しやアイスピックなどによる突き刺しから防護する具材の総称とする。また、防弾・防刃兼用防護衣とは、身体の一部または全体を、刃物やアイスピックなどによる突き刺しから防護するとともに、ピストルなど銃から発射された弾丸から防護する具材の総称とする。
【0003】
従来の防刃防護衣および防弾・防刃兼用防護衣(以下、総称して「防護衣等」と称する。)は、通常、金属素材にて作成されることが多い。また、軽量で柔軟性を要する場合には、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、アラミド繊維、高分子ポリアリレート繊維、高分子ポリエチレン繊維などの織物、および、それらの織物を樹脂で加工した具材、それらの繊維を平行に並べて積層し、樹脂で加工した具材、並びに、それらの繊維を材料にしたフェルトなどの具材(以下、これらの具材を、総称して「高強度繊維等」とも称する。)積層して作成される場合が多い。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
高強度繊維等を積層して防護衣等を作成した場合、軽量で柔軟な防護衣を提供することができ、耐弾性能と、アイスピックなど先端が鋭利で硬く細長い道具による突き刺しに耐える性能(以下、「耐突き刺し性能」と称する)については、高い性能を示す。しかしながら、ナイフや包丁などの刃物による突き刺しに耐える性能(以下、「耐刃性能」と称する)は劣る。その一方、高強度繊維等の積層枚数を増やすことにより、耐刃性能は改善されるが、軽量、柔軟性という、高強度繊維を使用した防護衣本来の特徴を失しめてしまう。
【0005】
そこで、高強度繊維と金属素材とを組み合わせた防護衣が提案されている。たとえば、特許文献1には、金属線材を扁平に加工し、その金属を金網状にすることで、金属の隙間を極力狭くし、金属の柔軟性、伸縮性および通気性を維持するとともに、耐突き刺し性能を向上させる技術が開示されている。この技術を利用して作られた防護衣は、上記加工された金属素材と、布帛との積層も可能である。
【0006】
【特許文献1】特開平9−42894号公報
しかしながら、上記特許文献1に開示された技術では、金網の隙間を極力狭くして、アイスピックの侵入を防止するものの、板状の防護材料と比較すると、耐突き刺し性能がやや劣ることは、上記文献でも自認しているところであり、このため、心臓部分などには、金属積層金網や金属板で補強することが勧められている。
【0007】
また、特許文献2には、胴体部分は、Kevlar(登録商標)の複数層から成るバット、比較的可撓性のあるプラスチック材料の層、および、鋼鉄メッシュの層を備えた構造が開示されている。しかしながら、上記特許文献2に開示された技術においては、硬質防弾プレートは、セラミックまたは鋼鉄からなり、その部分においては少なくとも柔軟性に欠くという問題点があった。
【0008】
【特許文献2】特表2002−538405号公報
本発明は、耐弾性能、耐突き刺し性能および耐刃性能に優れ、かつ、柔軟性を持ち、軽量な防護衣を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、引張強度が17cN/dtex以上、引張弾性率が450cN/dtex以上の高強度繊維の積層体と、当該積層体の表面或いは裏面の少なくとも一面に配置された金属メッシュ層とを備え、前記金属メッシュ層が、柔軟性を有し、かつ、金属線材の線径が少なくとも略0.3mm以上であり、かつ、メッシュの径が略15mmより小さいことを特徴とする防護衣により達成される。
【0010】
本発明によれば、軽量かつ柔軟性のある高強度繊維の積層体の特徴を損なわず、耐刃性能を向上させることが可能となる。主として胴体の防御を目的とする防護衣において、10Jないし50J程度の衝撃が想定され、これらの衝撃に対して、線径は少なくとも略0.3mm以上であるのが望ましい。また、刃物の最大刃幅は、15mmないし80mmと想定される。このため、金属メッシュの径は略15mmより狭いことが望ましい。
【0011】
また、本発明の目的は、複数の高強度繊維の積層体であって、引張強度が17cN/dtex以上、引張弾性率が450cN/dtex以上である高強度繊維の積層体と、当該積層体の間に介在する、少なくとも一以上の層の金属メッシュ層とを備え、前記金属メッシュ層が、柔軟性を有し、かつ、金属線材の線径が少なくとも略0.3mm以上であり、かつ、メッシュの径が略15mmより小さいことを特徴とする防護衣によっても達成される。
【0012】
複数の高強度繊維の積層体は、それぞれ異なる材料で形成されていても良い。また、積層体の間に、単一の金属メッシュ層を配置しても良いし、複数の積層体の間に、それぞれ、金属メッシュ層を配置し、その結果、複数の金属メッシュ層が形成されるように構成しても良い。
【0013】
好ましい実施態様においては、前記高強度積層体が、炭素繊維、高強度ガラス繊維、ポリビニルアルコール繊維、PBO繊維、アラミド繊維、高分子ポリアリレート繊維、高分子ポリエチレン繊維の織物、および、これらのうち選択された少なくとも一つを樹脂でシート状に加工した具材、並びに、前記繊維のうち選択された少なくとも一つを材料にしたフェルトのうち、いずれかから構成されている。
【0014】
別の好ましい実施態様においては、前記高強度積層体が、PBO繊維の織物を所定枚数積層した第1のシートと、ポリアリレートフェルトからなる第2のシートを含み、これらシートの間に金属メッシュが介在する。
また、好ましい実施態様においては、前記第1のシートが、前記PBO繊維の織物の糸方向に左右方向にそれぞれ45°の角度をつけた、所定間隔のステッチにより縫合されている。
【0015】
また、別の好ましい実施態様においては、前記金属メッシュ層が、チタン、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム、および、これらの合金から選択された材料から構成される。
【0016】
より好ましい実施態様においては、前記金属メッシュ層を構成する金属線材の線径が略0.8mm、そのメッシュ径が略8mmである。さらに、前記金属メッシュ層を構成する金属線材が、線径略0.8mm、外径略8mmのリングを、四方向に繰り返し連結させた構造であるのが望ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の実施の形態にかかる防護衣を使用した防護ジャケットの斜視図である。
【0018】
一例として、チョッキの形状のものを示したが、これに限定されるものではないことは言うまでもない。たとえば、パネル状の防護衣を作成し、チョッキの前後面のポケットに装着しても良い。図1の防護ジャケット10は、表面および裏面を覆うナイロンの表生地12を有し、表生地の内側に、以下に述べるようなシートで構成された防護衣が配置される。
【0019】
図2は、図1の部分切り欠き拡大図である。また、図3は、図2に示す防護衣の断面図である。図2および図3に示すように、この防護衣は、高強度繊維、たとえば、PBO繊維の織物が積層された第1層のシート(第1のシート)14と、高強度繊維、たとえば、ポリアリレートフェルトの第2層のシート(第2のシート)16から構成され、第2のシート上、第1のシートと対向する面に、金属メッシュが縫合されている。この実施の形態において、PBO繊維の織物が積層された第1のシートおよびポリアリレートフェルトの第2のシートを重ねている。これらPBO繊維およびポリアリレートフェルトは、引張強度17cN/dtex以上、引張弾性率450cN/dtex以上を有している。
【0020】
第1のシート14は、積層した高強度繊維の糸の方向(矢印aおよびb参照)に、それぞれ45°の角度をなすように、十字状のステッチ18が施され、全ての織物がしっかりと縫合される。
【0021】
第2のシート16は、高強度繊維の織物層20を含み、高強度繊維の織物層20の、第1のシート14と対向する表面上に、金属メッシュ層22が形成されている。
【0022】
金属メッシュ層22を構成する金属材料として、チタン、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム、或いは、これらの合金など種々の金属を利用することができる。また、単一の金属材料ではなく、複数の金属材料を利用してメッシュを構成しても良い。
【0023】
メッシュ層の形状は、メッシュは、リング状の金属を組み合わせたもの、つまり、図4に示すように、所定の線径の金属線材をリング状に形成したもの(リング:たとえば符号24−0参照)の四方に同様なリングを繰り返し連結配置したもの(たとえば、符号24−1〜4参照)であっても良い。或いは、針金状の線材を編んだものなど、柔軟性を維持した状態で金属材料を加工したものを利用することができる。
【0024】
また、本実施の形態では、高強度繊維の層(たとえば、PBO繊維の織物を積層した第1のシート)と、高強度繊維の層(たとえば、ポリアリレートフェルトの層からなる第2のシート)との間に、金属メッシュ層22が配置されているが、このような配置に限定されるものではなく、高強度繊維の織物の積層面の表面、裏面、或いは、積層面の中間に配置しても良い。また、積層面の複数の間に、それぞれ金属メッシュ層22を配置しても良い。
【0025】
このように構成された防護衣の作用に付いて以下に説明する。概略的にいうと、高強度繊維を積層体から作られる防護衣の耐刃性能が、当該積層体に配置された金属メッシュ層により補完され、向上する。しかも、金属メッシュ層は、高強度繊維の耐刃性能を補完する目的で使用されるため、金属のみで構成される防護衣と比較すると、金属の使用量を著しく少なくすることができ、軽量で柔軟性のある防護衣の特徴を十分に発揮することができる。
【0026】
同時に、積層体に付加されて配置された金属メッシュ層は、高強度繊維の積層体の防護衣の、本来の耐弾性能、耐刃性能、耐突き刺し性能を低下させることはなく、したがって、金属メッシュ層の付加により、より高い耐弾性能、耐刃性能、耐突き刺し性能を発揮することができる。
【0027】
高強度繊維の積層体の防護衣で、耐突き刺し性能が発揮されるためには、突き刺しの衝撃に対して、この防護衣が、変形(凹み)を許容する構造であることを要する。変形を許容しない構造では、耐突き刺し性能が低下する。たとえば、金属薄板、ポリカーボネイト板、プラスチックなどの樹脂板のような、変形(凹み)を許容しがたい板状の具材を、高強度繊維の積層体と重ね合わせて防護衣を作成した場合、これら板状の具材を含まない場合と比較して、耐突き刺し性能が低下する。
【0028】
これに対して、本実施の形態によれば、柔軟性のある金属メッシュ層と、高強度繊維の積層体とを重ね合わせて防護衣を構成した場合には、突き刺しによる変形(凹み)を許容するため、高強度繊維の積層体の防護衣と少なくとも同等の耐突き刺し性能を発揮することができる。
【0029】
[実施例1]
PBO繊維の織物50枚を積層し(厚み略8mm)、糸方向に45°の角度を付け4cm間隔でステッチを縫製し、50枚全てを縫合し第1のシートを作成した。また、5mm厚のポリアリレートフェルトに、ステンレス製のリングメッシュ(線径0.8mm、リング外径略8mm)を縫合し第2のシートを作成した。第1のシートが前面になるように、第1のシートおよび第2のシートを縫合し、実施例1にかかる防護衣を作成した。
【0030】
[比較例1]
PBO繊維の織物を50枚積層し、糸方向に45°の角度を付け4cm間隔でステッチを縫製し、50枚全てを縫合し、比較例1にかかる第3のシートを作成した。第3のシートとポリアリレートフェルトとを縫製し、比較例1にかかる第2の防護衣を作成した。
【0031】
[比較例2]
PBO繊維の織物を50枚積層し、糸方向に45°の角度を付け4cm間隔でステッチを縫製し、50枚全てを縫合し比較例2にかかる第4のシートを作成した。この第4のシートとポリアリレートフェルトとを縫合し、かつ、0.6mm厚のチタン合金板と積層して、比較例2にかかる第3の防護衣を作成した。
【0032】
[耐突き刺し性能評価]
耐突き刺し性能評価に関して、被試験資材(防護衣)の裏側に40mmのウレタンを配置し、アイスピックに加重をかけて、1.02m上から垂直落下させて、刃先の貫通量により性能を評価した。
【0033】
試験においては、加重量を変化させるため、20J、30J、40Jおよび50Jというように、エネルギー量を変化させて、それぞれについて貫通量を測定した。表1は、各サンプルの耐突き刺し性能を評価した結果を示す。表1において、横欄にエネルギー量、縦欄に被試験資材(防護衣)を設定した。また、標柱の数字は貫通量(単位:mm)を表す。
【0034】
【表1】



【0035】
表1から、実施例1にかかる第1の防護衣は、比較例1にかかる第2の防護衣と同等の耐突き刺し性能を有することがわかる。
【0036】
[耐刃性能評価]
耐刃性能評価に関して、被試験資材(防護衣)の内側に40mmのウレタンを配置し、バタフライナイフに加重をかけて、1.02m上から垂直落下させて、刃先の貫通量により性能を評価した。
【0037】
試験においては、加重量を変化させるため、20J,30J、40Jおよび50Jというように、エネルギー量を変化させて、それぞれについて貫通量を測定した。表2は、各サンプルの耐刃性能を評価した結果を示す。表2において、横欄にエネルギー量、縦欄に被試験資材(防護衣)を設定した。また、標柱の数字は貫通量(単位:mm)を表す。
【0038】
【表2】



【0039】
表2から、実施例1にかかる第2の防護衣は、比較例2にかかる第3の防護衣と同等以上の耐刃性能を有することがわかった。このように、実施例1によれば、耐突き刺し性能および耐刃性能に優れた防護衣が提供できることがわかった。
【0040】
本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【0041】
たとえば、防護ジャケットの全面に、本発明にかかる防護衣の構造を適用しても良いし、或いは、防護ジャケットの特に必要な部分に、上記構造を適用し、他の部分は、高強度繊維の積層体のみで構成しても良い。
【0042】
【発明の効果】
本発明によれば、耐弾性能、耐突き刺し性能および耐刃性能に優れ、かつ、柔軟性を持ち、軽量な防護衣を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかる防護ジャケットの例を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1の部分切り欠き拡大図である。
【図3】図3は、図2の略断面図である。
【図4】図4は、本実施の形態にかかる金属メッシュ層の部分平面図である。
【符号の説明】
10 防護ジャケット
12 表生地
14 第1のシート
16 第2のシート
20 織物層
22 金属メッシュ層
24 金属リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張強度が17cN/dtex以上、引張弾性率が450cN/dtex以上の高強度繊維の積層体と、当該積層体の表面或いは裏面の少なくとも一面に配置された金属メッシュ層とを備え、
前記金属メッシュ層が、柔軟性を有し、かつ、金属線材の線径が少なくとも略0.3mm以上であり、かつ、メッシュの径が略15mmより小さいことを特徴とする防護衣。
【請求項2】
複数の高強度繊維の積層体であって、引張強度が17cN/dtex以上、引張弾性率が450cN/dtex以上である高強度繊維の積層体と、当該積層体の間に介在する、少なくとも一以上の層の金属メッシュ層とを備え、
前記金属メッシュ層が、柔軟性を有し、かつ、金属線材の線径が少なくとも略0.3mm以上であり、かつ、メッシュの径が略15mmより小さいことを特徴とする防護衣。
【請求項3】
前記高強度積層体が、炭素繊維、高強度ガラス繊維、ポリビニルアルコール繊維、PBO繊維、アラミド繊維、高分子ポリアリレート繊維、高分子ポリエチレン繊維の織物、および、これらのうち選択された少なくとも一つを樹脂でシート状に加工した具材、並びに、前記繊維のうち選択された少なくとも一つを材料にしたフェルトのうち、いずれかから構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の防護衣。
【請求項4】
前記高強度積層体が、PBO繊維の織物を所定枚数積層した第1のシートと、ポリアリレートフェルトからなる第2のシートを含み、これらシートの間に金属メッシュが介在することを特徴とする請求項2に記載の防護衣。
【請求項5】
前記第1のシートが、前記PBO繊維の織物の糸方向に左右方向にそれぞれ45°の角度をつけた、所定間隔のステッチにより縫合されていることを特徴とする請求項4に記載の防護衣。
【請求項6】
前記金属メッシュ層が、チタン、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム、および、これらの合金から選択された材料からなることを特徴とする請求項1ないし5の何れか一項に記載の防護衣。
【請求項7】
前記金属メッシュ層を構成する金属線材の線径が略0.8mm、そのメッシュ径が略8mmであることを特徴とする請求項1ないし6の何れか一項に記載の防護衣。
【請求項8】
前記金属メッシュ層を構成する金属線材が、線径略0.8mm、外径略8mmのリングを、四方向に繰り返し連結させた構造であることを特徴とする請求項7に記載の防護衣。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2004−245510(P2004−245510A)
【公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−36372(P2003−36372)
【出願日】平成15年2月14日(2003.2.14)
【出願人】(593111060)株式会社金星 (15)
【Fターム(参考)】