説明

防錆剤

【課題】水溶性の金属加工液で加工された金属部品および水に濡れた金属に対し、充分な防錆効果を発揮する防錆剤を開発する。また凹凸のある金属表面にも充分な防錆効果を発揮する防錆剤を開発する。
【解決手段】水溶性の有機溶剤をベースに、防錆剤をこれに添加するものである。これは、水で濡れた状態で尚且つ凹凸のある金属表面においても充分に防錆能力を発揮され、また金属に附着した水溶性の加工液を充分に溶解させるだけの能力を発揮する防錆剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属の防錆・防食を目的とする防錆剤である。
本発明の防錆剤は、水溶性加工液で使用された金属加工部品の保管等において使用される防錆剤である。また、水および腐食性のある水溶液に浸されてしまった金属に対しても、用いられる。
【背景技術】
【0002】
金属加工、たとえば切削加工、研削加工、塑性加工等においては、加工油剤として、水により希釈して使用する水溶性タイプと、そのまま使用する油性タイプとがある。
このうち、特に水溶性タイプのものは、希釈に用いる水が金属を腐食することがあり、通常何らかの防錆剤が添加されている。しかし、防錆剤が添加されている水溶性加工油剤のままでは必ずしも充分に防錆能力があるとは限らない。そこで単体の防錆剤が別途使用されている。
【0003】
従来の防錆剤は、油性防錆剤・水置換防錆剤・水溶性防錆剤・溶剤希釈型防錆剤であった。油性防錆剤は、防錆性能を持つ添加剤を油に溶解させたものであり、油で濡れた状態あるいは乾燥した状態の金属に附着させることにより、金属を錆び及び腐食から守る事ができる。
水置換防錆剤は、油性防錆剤ではあるが、なおかつ水で濡れた状態の金属表面に浸透し、水を金属表面より浮き立たせ金属表面より排除しつつ、油性防錆剤を金属表面に附着させることにより、金属を錆び及び腐食から守る事ができる。
水溶性防錆剤は、防錆性能を持つ水溶性の防錆剤を水に溶解させ、水で濡れた状態あるいは水で希釈された溶液で濡れた状態、あるいは乾燥した状態の金属に附着または浸漬させることにより、金属を錆び及び腐食から守る事ができる。
溶剤希釈型防錆剤は、防錆性能を持つグリースあるいは樹脂状の添加剤を有機溶剤に溶解させたものであり、乾燥した状態の金属に附着させる。これは、有機溶剤が蒸発したあと、添加剤がグリース状あるいは樹脂状の皮膜を形成し、金属を錆び及び腐食から守る事ができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年は、水溶性の加工液を使用する機械が増えており、防錆及び防食に対する要求が増えている。しかしながら従来の技術では、水で濡れた状態で尚且つ凹凸のある金属表面においては充分に防錆能力を発揮されていないことが多い。
油性防錆剤は、水よりも浸透性が弱い為、金属表面に附着されないため、防錆剤としての能力が発揮されない。
水置換防錆剤は、凹部のある金属表面にまで作用することはできず、防錆剤としての能力が発揮されているとは言えない。
水溶性防錆剤は、金属に附着した水溶性の加工液を、充分に溶解させるだけの能力を有しているものではないため、防錆剤としての能力が充分には発揮されているとは言えない。溶剤希釈型防錆剤は、乾燥した状態の金属に附着させるよう設計されてあり、金属に附着した水溶性の加工液を溶解して金属表面に作用することはない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の問題を解決するものであり、水溶性の有機溶剤をベースに、防錆剤をこれに添加するものである。これは、水で濡れた状態で尚且つ凹部のある金属表面においても充分に防錆能力を発揮され、また金属に附着した水溶性の加工液を充分に溶解させるだけの能力を発揮する防錆剤を提供することを目的とした。
水溶性の有機溶剤は、凹部であろうがなかろうが金属に附着した水溶性の加工液を充分に溶解させるだけの能力を有している。また水溶性の有機溶剤は、水溶性の防錆剤を溶解させる能力があり、この有機溶剤が蒸発したあとには、本品に溶解させた防錆剤のみが金属表面に残り附着されるため、防錆能力を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、実施例により本発明の防錆剤について詳しく説明する。
(1)防錆剤のテスト。
まず始めに3%の塩化ナトリウム水溶液を用意する。次に非常に錆びやすいと言われる鋳鉄の粉末を用意する。
▲1▼防錆剤としてメタノールに、ジエタノールアミンを10%と硼砂1%を添加する。
▲2▼比較対照として、ジエタノールアミンを10%と硼砂1%を添加した水を用意する。
▲3▼もう一つの比較対照として市販の水置換防錆剤(新日本石油社製アンチラストP1500)用意する。
▲4▼三つ目の比較対照として市販の油性防錆剤(新日本石油製社アンチラストP1400)を用意する。
鋳鉄の粉末5gをステンレススプーンに取り3%の塩化ナトリウム水溶液に浸す。この塩化ナトリウム水溶液に浸された鋳鉄の粉末を、ステンレススプーンに入れたまま、▲1▼▲2▼▲3▼▲4▼のそれぞれの液に浸す。これを、濾紙に入れ観察した。
▲1▼のメタノールにジエタノールアミンを10%と硼砂1%を添加したものは、14日経過した後も錆びの発生は見られない。
▲2▼のジエタノールアミンを10%と硼砂1%を添加した水は、3時間で錆が発生した。
▲3▼の水置換防錆剤は、12時間で錆が発生した。
▲4▼の油性防錆剤は30分で錆びが発生した。
▲5▼ちなみに、3%の塩化ナトリウム水溶液に浸しただけで、濾紙に入れたものは5分で錆が発生した。
【0007】
この結果によれば、メタノールが、塩化ナトリウム水溶液の附着した鋳鉄表面より完全にこの水溶液を溶解させ、水溶性防錆剤が鋳鉄に附着し錆を防いだことがわかる。
他の油性防錆剤および水置換防錆剤および水溶性防錆剤10%水溶液は、防錆効果の時間に差はあるが、防錆を期待するだけの能力が発揮されていないことがわかる。
【0008】
(2)溶解性のテスト
次にソルブル型水溶性切削油を用いて、溶解テストを行った。ステンレススプーンにソルブル型水溶性切削油の原液を入れる。
▲1▼このスプーンをメタノール液にゆっくりと浸漬静置させたところ、ソルブル型水溶性切削油の原液は4時間で完全溶解した。
▲2▼このスプーンを水にゆっくりと浸漬静置させたところ、ソルブル型水溶性切削油の原液は72時間経過後も完全溶解はしない。
【0009】
この結果によれば、水溶性有機溶剤であるメタノールの溶解力は水に比較して、かなり大きいことが解る。また凹部でも、溶解性能が早いことが解る。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水溶性加工液を使用した後の金属部品に優れた防錆効果を発揮することができる。また凹凸のある金属表面にも防錆効果を発揮することができる。
この防錆剤は、鉄鋼材料ばかりではなく、アルミニウム、銅等の非鉄金属に対しても有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性を有する有機溶剤をベースにした防錆剤
【請求項2】
水溶性でもあり油溶性でもある有機溶剤をベースにした防錆剤