説明

限外濾過膜およびその製造方法、並びにナノ粒子のサイズ分別方法

【課題】低コストでかつ簡便にナノ粒子をサイズ分離できる限外濾過膜等を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様に係る限外濾過膜は、3次元網目構造を有する架橋高分子膜を備え、(1)前記架橋高分子膜が有機溶媒により十分に膨潤せしめられ、(2)走査型顕微光散乱法で測定して求めた前記架橋高分子膜の流体力学的半径ξに2を乗じることによって算出される平均網目サイズ(2ξ)が、1nm以上、20nm以下の範囲にあり、(3)粒子が有機溶媒中に分散した流体を前記架橋高分子膜上に供給すると、前記網目サイズに1.3を乗じた値よりも大きい粒径の前記粒子をカットオフするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、限外濾過膜およびその製造方法に関する。また、前記限外濾過膜を透過した濾液および粒子に関する。さらに、ナノ粒子のサイズ分別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年,ナノ粒子に関する研究が精力的に行われ、様々な分野への応用が盛んに検討されている。例えば、金のナノ粒子は、半導体素子等の回路配線材料、金ナノ粒子特有の可視光の吸収(プラズモン吸収)を利用した医療材料、半導体特性を利用した触媒材料等として工業的に注目を集めている。金属酸化物のナノ粒子は磁性材料等として、金属硫化物や金属セレン化合物は粒子サイズに依存した蛍光を呈するナノ粒子として工業的に注目を集めている。
【0003】
本発明者らのグループは、特許文献1において、金属ナノ粒子からなるマイクロパターンを印刷する方法を提案した。シリコーン組成物の膜表面上に所望のパターンを形成させ、金属ナノ粒子溶液をこの膜から滲みださせて固体基板上に転写さることにより、金ナノ粒子からなるマイクロパターンを得るものである。
【0004】
非特許文献1には、シリカを膨潤させる際にトルエン中に含まれたアルキルチオールで保護された金のナノ粒子(2.6nm)を取り込み、光学材料に応用することが提案されている。
【0005】
金属をナノ粒子化すると、融点降下、蒸気圧上昇等の種々の粒径効果が現れる。たとえば、金のバルクの融点は1064℃であるのに対し、粒子径を2nm程度にすると200℃で融着できるようになる。従って、ナノ粒子とすることにより成型加工性がよくなる。非特許文献2には、粒径が10nm以下となると、1nmに近づくにつれて粒子の表面の活性が非常に高くなることが報告されている。非特許文献3には、金を超微粒子化することにより、触媒活性を示すことが報告されている。
【0006】
ナノ粒子における特徴的な諸機能を効率良く発現させるためには、粒子径を制御することが重要な課題となる。特許文献2には、単分散のナノ粒子を合成によるアプローチから得る方法が提案されている。具体的には、金属前駆体と界面活性剤の反応により金属−界面活性剤錯化合物を合成し、これを高温で熱分解させることにより単分散金属ナノ粒子を形成させる。その後、貧溶媒を添加し、さらに遠心分離工程を経ることにより単分散のナノ粒子を調製するものである。特許文献3には、10nm以下のサイズのミセル化されたナノ粒子を、液相分離法を利用することにより単分散に近いナノ粒子を得る方法が提案されている。
【0007】
特許文献4には、セラミックス相と柱状に成長した金属相とからなる複合膜を形成し、金属相部のみをエッチングすることによって、ナノメートルオーダーの細孔を有する多孔質セラミック膜が提案されている。
【0008】
非特許文献4には、サイズ排除クロマトグラフィー(Size-exclusion chromatography(SEC))によるナノ粒子の分離(例えば、5nmと15nmの粒子を分離)方法が提案されている。
【0009】
なお、ナノ粒子よりもサイズの小さい低分子化合物の例であるが、非特許文献5には、金の基板の上にシリコーン膜を配設し、このシリコーン膜表面に有機溶媒(エタノール)と低分子化合物(アルキルチオール)の混合溶液を供給すると、低分子化合物と有機溶媒がシリコーン膜下層の金の基板表面まで到達し、低分子化合物と金が反応して単分子膜が形成した例が開示されている。
【0010】
非特許文献6には、ポリアクリロニトリル/ポリアミド/ポリジメチルシロキサンの3成分複合膜が、ポリエチレングリコールとヘキサンを分離できることが示されている。また、非特許文献7には、ポリアクリロニトリルとポリジメチルシロキサンの2層膜が、ビマワリ油とヘキサンの混合液、又はポリイソブチレンとヘキサンの混合液からヘキサンのみを取り出すことができることが示されている。これらの先行技術から、ポリジメチルシロキサンからなる膜が分子ふるいの機能を有した濾過膜であることがわかる。
【0011】
なお、非特許文献8〜13および特許文献5については後述する。
【特許文献1】特開2007−62302号公報
【特許文献2】特表2005−504888号公報
【特許文献3】特許第3303129号公報
【特許文献4】特許第3135110号公報
【特許文献5】特開2006−071497公報
【非特許文献1】Tai, Y., et al., Advanced Materials, 2001, 13, p1611.
【非特許文献2】Kubo,R. et al., Rhys.Lett. 1962, 1, p49.
【非特許文献3】Haruta,M. et al., Catal.Today, 1997, 36, p153.
【非特許文献4】Wilcoxon,J.P. et al., J.Chem.Phys. 1998, 108, p9137.
【非特許文献5】Kim,I.C., et al. Ind.Eng.Chem.Res., 2002, 41, p5523
【非特許文献6】Stafie, N., et al. J. Membrane Sci., 2004, 228, p103
【非特許文献7】Balmer,T.E. et al., Langmuir, 2005, 21, p622.
【非特許文献8】Furukawa,H. et al., Phys.Rev.E, 2003, 68, p031406-1〜031406-14.
【非特許文献9】古川英光 他、高分子論文集,2002, 59, p.578-589.
【非特許文献10】Furukawa,H. et al., J.Phys.Soc., 2002, 71, p.2873-2880.
【非特許文献11】柴山充弘 他、高分子ゲルの最新動向,第8章,シーエムシー出版(2004).
【非特許文献12】Campbell,D.J. et al., J.Chem.Educ., 1999, 76, p537.
【非特許文献13】Shimizu,T. et al., J.Phys.Chem.B, 2003, 107, p2719.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したようにナノ粒子における特徴的な諸機能を効率よく発現させるためには、ナノ粒子のサイズを分離する技術を確立することが極めて重要である。ナノ粒子を分離する技術については、上記のようにいくつかの提案がある。しかしながら、1〜10nm程度の粒径サイズのナノ粒子を分離する技術については、まだ実用化に至っていないのが現状である。これは、1〜10nmのナノ粒子の分離を精度良く行うためには、ナノ粒子の合成過程での工夫(プロセス数の増加など)が必要であったり、大掛かりな装置が必要であったり、操作が複雑になるなどの問題があるためである。また、10nmを超える粒径サイズのナノ粒子についても、操作性がよく低コストのサイズ分離技術が望まれるところである。
【0013】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、低コストでかつ簡便にナノ粒子のサイズを分離できる限外濾過膜等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る限外濾過膜は、3次元網目構造を有する架橋高分子膜を備え、下記(1)〜(3)を満足するものである。すなわち、
(1)前記架橋高分子膜は、有機溶媒により十分に膨潤せしめられており、
(2)走査型顕微光散乱法で測定して求めた前記架橋高分子膜の協同拡散係から求まる流体力学的半径ξに2を乗じることによって算出される平均網目サイズ2ξが、1nm以上、20nm以下の範囲にあり、
(3)粒子が有機溶媒中に分散した流体を前記架橋高分子膜上に供給すると、前記平均網目サイズ2ξに1.3を乗じた値よりも大きい粒径の前記粒子をカットオフするものである。
【0015】
本発明に係る限外濾過膜によれば、膜の面積や膜厚を容易に変更できるので、用途に応じてフレキシブルに形状や形態を変えることができる。また、濾過法を採用しているので操作性がよく、簡便に利用できる。また、汎用性が高いので低コスト化も実現できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低コストでかつ簡便にナノ粒子のサイズを分離できる限外濾過膜等を提供することができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0018】
図1(a)は、本実施形態に係る限外濾過装置の一例を説明するための模式的斜視図、図1(b)は、図1(a)のIb−Ib切断部断面図である。限外濾過装置100は、同図に示すように限外濾過膜として機能する膨潤架橋高分子膜11、筺体12等を備える。筺体12は、底面が開口した円筒体により構成されている。膨潤架橋高分子膜11は、筺体12の底面に相当する箇所に形成されている。膨潤架橋高分子膜11の膜厚は、特に限定されないが、0.05mm〜50mmとすることが好ましい。膨潤架橋高分子膜11の膜厚が0.05mm未満の場合、供給する流体の重さ等により膜が破裂する場合がある。また、50mmを超えると、濾過に長時間を要し生産性に劣る恐れがある。より好ましい範囲は、0.2mm〜5mmである。
【0019】
膨潤架橋高分子膜11は、3次元網目構造を有し、有機溶媒によって十分に膨潤せしめられている。図2(a)および(b)は、架橋高分子膜の3次元網目構造の模式的説明図である。図中の左側は、有機溶媒によって膨潤させる前の架橋高分子膜の3次元網目構造を示しており、図中の右側は、有機溶媒により十分に膨潤させた架橋高分子膜の3次元網目構造を示している。架橋高分子膜は、主鎖部13と架橋部14、これらの架橋点15により構成されている。このような架橋高分子膜11aを有機溶媒によって十分に膨潤せしめると、図中の左側に示すように、3次元網目構造の空間部16に有機溶媒が侵入する。そして、有機溶媒と架橋高分子膜を構成する分子構造の種類に応じて、網目により囲まれる空間部16がオングストロームからナノメートルのスケールオーダーで均質的に拡大する。
【0020】
架橋高分子膜を膨潤させる溶媒としては、特に制限はなく、水以外の有機溶媒であって、架橋高分子膜に対して化学反応を示さないで、かつ膨潤可能な溶媒であればよい。たとえば、エタノール、アセトン、アセトニトリル、アニリン、ベンゾニトリル、ブタノール、クロロベンゼン、クロロホルム、シクロヘキサン、ジメチルホルムアミド、エーテル、イソプロパノール、メタノール、ニトロベンゼン、ペンタン、フェノール、プロパノール、α−ターピネオール、トルエン、ベンゼン、ヘプタン、ヘキサン、オクタンが挙げられる。好ましくは、トルエン、ヘキサン、オクタン、α−ターピネオールなどを挙げることができる。前述したように、有機溶媒に応じて網目サイズが変わるので、所望とする網目サイズに応じて適宜選定する。網目サイズを大きくしたい場合にはトルエン等を、小さくしたい場合にはメタノール等を選定する。用いる有機溶媒は、1種類に限定されず、必要に応じて複数種類としたり、添加剤を加えたりしてもよい。
【0021】
膨潤架橋高分子膜11の網目サイズは、主鎖部13と架橋部14によって構成される架橋点15の割合を制御することによっても調整できる。図2(b)に示すように、架橋密度を高くすれば網目サイズを小さくすることができる。本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、架橋剤と、架橋剤との反応点を有する高分子化合物との反応により架橋高分子膜を調製する場合には、架橋剤の濃度をコントロールすることによって簡便に網目サイズを調整可能であることがわかった。網目サイズを大きくしたい場合には、添加する架橋剤の濃度を少なくし、逆に網目サイズを小さくしたい場合には添加する架橋剤の濃度を多くすればよい。
【0022】
膨潤架橋高分子膜11において、3次元網目構造を形成する方法は特に限定されず、公知の方法を利用することができる。高分子鎖と架橋剤を反応させる方法に代えて、紫外線、可視光線、電子線等の活性エネルギー線を照射することにより、付加反応、重縮合、ラジカル重合等の反応を誘起して、3次元網目構造を得てもよい。
【0023】
膨潤架橋高分子膜11の3次元網目構造の平均網目サイズは、走査型顕微光散乱法により求めた流体力学的半径ξに2を乗じることにより算出することができる。本実施形態における平均網目サイズは、1nm以上、20nm以下の範囲とすることが好ましい。1nm未満の場合には、流体を濾過する時間が非常に長くなり、生産性に劣るという恐れがある。また、20nmを超えると、架橋高分子膜を膨潤させているため、濾過膜として、力学的に形状を保持することが難しい場合がある。このような場合には、多孔質のガラスフィルター等を支持体にし、膨潤架橋高分子膜を配置してもよい。なお、このような問題が生じなければ、1nm未満、20nm越えの平均網目サイズの架橋高分子膜を用いて、本件発明に係るナノ粒子のサイズを分別することが可能であることは言うまでもない。
【0024】
ここで、走査型顕微光散乱法とこの測定法に用いられる光散乱解析装置について説明する。まず、溶液内に分散した粒子のサイズを溶液状態のまま測定する方法として広く用いられている動的光散乱法について説明する。動的光散乱法は、溶液内部で起こっている熱運動を光の散乱現象を通して測定することにより、1μm以下から0.1nmまでの溶液内部の微細な構造をその運動性から解析する方法である。可視光レーザーを光源に用いた動的光散乱法は、溶液内に分散した粒子のサイズを溶液状態でそのまま測定する方法として広く用いられている。
【0025】
この動的光散乱法は、ゲルの微細網目構造を解析するために用いることができる。しかし、一般にゲルからの散乱光にはゲル内部の網目構造の不均一性に起因して、散乱光の干渉によって生じる過剰な散乱成分が不可避に含まれ、この過剰成分の寄与を考慮して正しく解析する方法がなかった。
【0026】
上記問題を解決すべく、走査型顕微光散乱法(Scanning microscopic light scattering)が開発された(非特許文献8、非特許文献9参照)。この走査型顕微光散乱法では、不均一性に起因する散乱光の過剰成分を厳密に考慮して、時間平均と空間平均を正しく行った統計平均(アンサンブル平均)の測定量を決定できる。これにより、可視光レーザーを光源に用いて、ゲル等の透明試料の複雑な微細構造を解析できるようになった。すなわち、不均一な試料で起こる多重散乱光を加味して導出された新しい数学的公式によるアンサンブル平均相関関数の決定方法(非特許文献10)と、光散乱で測定される光子パルスの時系列データから効率良く光子相関関数を算出する方法とが確立したことにより、今日では、溶媒内に存在する不均一なゲルの微細構造を解析する光散乱解析方法および光散乱解析装置が完成している(特許文献5)。
【0027】
上記光散乱解析方法は、散乱光強度の経時変化の観測、時間平均相関関数の導出、アンサンブル平均自己相関関数の導出、アンサンブル平均自己相関関数の逆ラプラス変換、協同拡散係数の導出、流体力学的半径(ξ)と平均網目サイズ(2ξ)の算出から構成されている(非特許文献9、非特許文献11)。この光散乱解析装置により、本発明に係わる溶媒中に存在する架橋高分子膜の平均網目サイズ(2ξ)を正確に決定できる。ここで、算出される平均網目サイズは、おおよそ正規分布に従い、存在する網目サイズの中で最も存在率の高い網目の孔径に対応する。網目サイズの分布は、用いる架橋高分子の種類によるが、平均網目サイズに1.3を乗じた値が最大の網目サイズであることが望ましい。平均網目サイズに1.3を乗じた値よりも最大網目サイズが大きい場合、カットオフされる閾値が大きくなり、濾液に含まれるナノ粒子の粒径分布が広くなることになる。
【0028】
次に、限外濾過装置100を用いてナノ粒子のサイズを分別する方法について説明する。限外濾過装置100の筺体12内に、水を除く有機溶媒に粒子が分散した濾過対象流体18を供給することにより、膨潤架橋高分子膜11の最大網目サイズよりも大きい粒径の粒子22をカットオフすることができる。最大網目サイズは、網目サイズの分布により異なるが、走査型顕微光散乱法により観測される平均網目サイズに1.3を乗じた値以内にある。そして、最大網目サイズよりも小さい粒径の粒子21と有機溶媒が膨潤架橋高分子膜11を透過して濾液収容器に収容される。得られた濾液20から、最大網目サイズよりも小さい粒径の粒子21を得ることができる。水を除く有機溶媒に分散でき、膨潤架橋高分子膜1と化学反応しない、若しくは非可逆吸着しない粒子であればサイズ分離をすることが可能である。ただし、濾過による粒径のロスを抑制する観点から、膨潤架橋高分子膜11との物理的相互作用が小さいものであることが好ましい。
【0029】
粒子の表面にアルキル基等の非極性基を備えるようにすることにより、有機溶媒に分散する粒子を簡便に調製することができる。好適な粒子としては、シェル部がメチレン鎖を含む有機基からなるコアシェル粒子を挙げることができる。シェル部にメチレン鎖を含む有機基を導入することにより、コアシェル粒子を簡便に非極性化することができる。シェル部のメチレン鎖を含む有機基の例としては、アルキルアミン、アルキルチオール、アルキルジオール等を挙げることができる。メチレン鎖を含むアルキル基等はコアシェル粒子の最外層を構成し、有機溶剤に分散するようになる。アミノ基、チオール基、ジチオール基等の極性官能基は、主にコア部の金属または金属酸化物のナノ粒子表面に吸着した状態となる。コアシェル粒子の分散に用いる有機溶剤の誘電率にもよるが、極性官能基がコアシェル粒子の最表面に露出することもある。シェル部は、低分子有機化合物のみならず、高分子化合物であってもよい。コア部の好適な例としては、金属又は金属酸化物を挙げることができる。
【0030】
コア部の金属、金属酸化物、金属硫化物、金属セレン化合物としては、特に制限はなく、金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム、タングステン、ニッケル、銅、タンタル、ビスマス、鉛、亜鉛、錫、チタン、アルミニウム、鉄等、およびこれらの酸化物、硫化物、セレン化合物を挙げることができる。金属は複数種の金属の混合でもよい。硫化カドミウム、カドミウムセレナイド等の蛍光を呈するナノ粒子でもよい。
【0031】
コア部とシェル部の結合形態は、化学結合のみならず、静電相互作用等の物理的結合であってもよい。コアシェル粒子を分散させる有機溶媒としては、特に制限はなく、水以外の有機溶剤であって、架橋高分子膜に反応しない、不溶のものであればよい。例えば、エタノール、アセトン、アセトニトリル、アニリン、ベンゾニトリル、ブタノール、クロロベンゼン、クロロホルム、シクロヘキサン、ジメチルホルムアミド、エーテル、イソプロパノール、メタノール、ニトロベンゼン、ペンタン、フェノール、プロパノール、α−ターピネオール、トルエン、ベンゼン、ヘプタン、ヘキサン、オクタンが挙げられる。好ましくは、トルエン、ヘキサン、オクタン、α−ターピネオールなどが挙げられる。1種類の溶媒に限定されるものではなく、必要に応じて複数の有機溶媒の混合としたり、分散剤等の添加剤を加えたりしてもよい。
【0032】
膨潤架橋高分子膜の平均網目サイズを求める走査型顕微光散乱法では、膨潤した架橋高分子膜の屈折率と膨潤させるのに用いる有機溶剤との屈折率が等しい、若しくはできるだけ等しい状態が好ましい。濾過対象流体18中の有機溶媒は、膨潤架橋高分子膜11を膨潤させる有機溶媒と必ずしも同じとする必要はないが、前述したとおり、有機溶媒の種類により、架橋高分子膜の平均網目サイズが変わり得るので、同一の溶媒若しくは類似の極性を有する有機溶媒を用いることが好ましい。濾過対象流体18中の有機溶媒を、走査型顕微光散乱法による平均網目サイズの解析に用いた有機溶媒と異にする場合は、膨潤前の架橋高分子膜の体積を計測し、有機溶媒に浸漬した膨潤後の体積を計測して、上記解析に用いた有機溶媒と略一致している有機溶媒を用いることができる。有機溶媒により等方的に膨潤する架橋高分子膜の場合においては、膨潤前の架橋高分子膜の面積または膜厚を計測し、有機溶媒に浸漬した膨潤後の面積または膜厚を計測して、上記解析に用いた有機溶媒と略一致している有機溶媒を用いることができる。この際、有機溶媒に、必要に応じて他の有機溶媒を混合したり、分散剤等の添加物を加えたりしてもよい。
【0033】
本実施形態に係るコアシェル粒子の粒子径は、透過型電子顕微鏡により観測することができる。シェル部が有機化合物や高分子化合物から構成されるコアシェル粒子の場合、金属や金属酸化物等からなるコア部の方がシェル部より電子密度が高くなる。
このため、透過型電子顕微鏡により観測すると、コア部の電子線透過が妨げられ、コア部がシェル部より暗く観察される。なお、シェル部の境界が明瞭に観察されない場合には、コア部の直径をナノ粒子の粒径として扱うこともある。
【0034】
膨潤架橋高分子膜11の具体的分子構造は、上記条件を満たしていれば特に限定されないが、柔軟性に優れているものが、耐久性が良好であり、膨潤架橋高分子膜における高分子鎖の伸直性や網目構造における自由空間の均一性の観点から好ましい。また、本実施形態に係る膨潤濾過装置100は、濾過対象流体中の粒子と物理的相互作用が小さいものであることが好ましい。かかる観点から、濾過対象とする粒子と極性が近いものであることがより好ましい。濾過対象とする粒子の表面部の少なくとも一部をアルキル基とする場合には、架橋高分子も非極性とすることが好ましい。
【0035】
膨潤架橋高分子膜11は、ナノ粒子が透過可能な網目構造となるように、網目サイズ17を調整する必要がある。架橋高分子の分子構造、膨潤させる有機溶媒の種類によるので一概には言えないが、一般的には架橋密度は、単位体積当たりの架橋点数[個/nm]で、1×10-4個/nm以上、1×101個/nm以下の範囲とする。1×10-4個/nm未満であると、膜として保持することが難しい可能性がある。
【0036】
3次元的な架橋構造を備えた高分子膜が膨潤平衡に達している場合、走査型顕微光散乱法で求まる流体力学的半径ξに2を乗じた値は平均網目サイズ2ξであり、架橋点間の距離と考えることができる。ここで、流体力学的半径ξは、協同拡散時において網目を構成する高分子鎖が形成する剛体球の半径とみなすことができるので、1nmあたりの架橋点の数を架橋密度Zは、以下の式<1>より求めることができる。
【数1】

流体力学的半径ξが0.5nmから10.0nmの範囲である場合、相当する架橋密度は2.4×10−4個/nm以上、1.9個/nm以下の範囲となる。
【0037】
膨潤した架橋高分子膜には、一般的なオルガノゲルを用いることができる。オルガノゲルを形成する高分子樹脂の例としては、多糖誘導体、ビニル重合体、縮重合体を挙げることができる。多糖誘導体の具体例としては、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロースゲル、酢酸セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、シクロデキストリン等を挙げることができる。シクロデキストリンの包摂現象を利用した環動ゲルも挙げられる。ビニル重合体としては、単量体やマクロモノマーを、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基を複数含有する架橋剤存在下で、熱または光重合した高分子樹脂を挙げることができる。
【0038】
ビニル重合体の具体的な例としては、ポリ(スチレン)、ポリ(メタクリル酸(2−フェニル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メチルエステル)(PDMMA)、ポリ(N,N−アクリル酸ジメチルアミノエチルエステル)、ポリ(アクリロキシプロパンスルホン酸)、ポリ(アクリロニトリル)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAm)、ポリ(クロロメチルスチレン)、ポリ(ジビニルベンゼン)、ポリ(メタクリル酸ヒドロキシエチルエステル)(PHEMA)、ポリ(ビニルピリジン)、ポリ(ビニルピロリドン)(PVP)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)、ポリ(N-メチロールアクリルアミド)、ポリ(メトキシエチレングリコールメタクリレート)、イソブチレン−マレイン酸共重合体、ポリエチレン、ポリ(エチレンイミン)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、ポリ(テトラフルオロエチレン)、マロン酸ジニトリル等を挙げることができる。縮重合体の具体的な例としては、ポリ(シロキサン)、ラダー型ポリシロキサン、シリカ、シリコーン樹脂、ナイロン、ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレンオキシド、ポリ-L-ロイシン、ポリイミド、ポリアミック酸等が挙げられる。また、低分子化合物でも有機溶剤と混合することによりオルガノゲルを形成することができる、12-ヒドロキシステアリン酸等を用いることもできる。
【0039】
また、予め単量体やマクロモノマーを重合して、可溶性の高分子樹脂を得、成型後に電子線や紫外線等の活性エネルギー線を照射して、不溶な高分子樹脂を得てもよい。可溶な高分子の分子量は、特に限定されない。例えば、数平均分子量が数百〜数百万程度とすることができる。3次元網目構造を形成する際に、網目サイズの分布が小さいものであることがより好ましい。かかる観点から、単一の種類、若しくは類似構造を有する高分子鎖により架橋高分子膜を構成することが好ましい。また、架橋密度が均質的になるように、架橋条件が場所によって異ならないように留意し、温和な条件で架橋反応させることが好ましい。
【0040】
シリコーン樹脂の具体例としては、例えば、下記一般式(1)で表わされるオルガノポリシロキサン(1)と、下記一般式(2)で表わされるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(2)を挙げることができる。
【化1】

【化2】

ただし、この一般式は単に組成を示し、構造を示すものではない。即ち、(SiRO)と(SiHRO)とがランダムに結合していてもよい。
【0041】
〜Rは、炭素数1〜20の脂肪族又は芳香族の一価炭化水素、又はSiH基と反応性を有する反応基を表し、一分子中にこの反応基を少なくとも2つを含む。なお、R〜RはSiH基を含まない。このSiH基と反応性を有する反応基としては、アルコキシ基、アルケニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニルフェニル基等が挙げられるが、好ましくはビニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基又はビニルフェニル基である。
【0042】
炭素数1〜20の脂肪族又は芳香族の一価炭化水素としては、メチル基又はフェニル基が好ましく、メチル基がより好ましい。また、これらR〜Rは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、更に、RとRは、それぞれ2種以上の基が混じっていてもよい。例えば、オルガノポリシロキサン(1)が一分子中にRとしてメチル基とフェニル基を混在して有するものであってもよい。Rについても同様である。
【0043】
〜Rは、炭素数が1〜20の脂肪族又は芳香族の1価炭化水素、好ましくはメチル基又はフェニル基、より好ましくはメチル基を表す。また、これらR〜Rは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、更に、R、R、Rは、それぞれ2種以上の基が混じっていてもよい。例えば、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(2)が一分子中にRとしてメチル基とフェニル基を混在して有するものであってもよい。RやRについても同様である。l、m、nはそれぞれ分子量約200〜50000に相当する整数を表し、nは2以上である。
【0044】
オルガノポリシロキサン(1)のアルケニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニルフェニル基などの反応基と、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(2)のSiH基との間で調節された架橋度で架橋する。本実施形態に係る架橋高分子膜は必要に応じて触媒やその他の添加剤を含んでもよい。
【0045】
所望のサイズの粒子が通過するように網目サイズを調整するために、上述したように、有機溶媒の種類、架橋剤の種類、添加する架橋剤の濃度、架橋条件、用いる高分子鎖等を適宜選定する。本実施形態に係る3次元網目構造の網目サイズの上限は、濾過によりカットオフしたいサイズの粒径に応じて決める。本実施形態において、濾液として採取可能な範囲は、網目サイズよりも小さいものとなる。
【0046】
図3は、本実施形態に係る限外濾過装置100を用いて、濾過する際の断面説明図である。本実施形態において、濾過対象流体18を筺体12内に供給する。分散液が膜を浸透しやすくするために分散液を例えば0.01〜1.0MPa程度に加圧してもよい。濾過対象流体18は、濃度勾配を駆動力にして浸透し、網目サイズよりも小さい粒子及び有機溶媒を濾液として得ることができる。
【0047】
本実施形態の限外濾過膜によれば、架橋高分子膜を有機溶媒により膨潤させることにより、簡便な方法で網目サイズを均質的に拡大および調整することが可能である。また、このような網目サイズを有する濾過膜の面積や膜厚を容易に変更できるので、用途に応じてフレキシブルに形状や形態を変えることができる。また、濾過法により架橋高分子膜の網目サイズよりも大きい粒子をカットオフできるので、操作性がよく、簡便に利用できる。しかも、濾過対象流体中の粒子径のカットオフ閾値が1nm〜20nmの範囲に調整することが容易である。その結果、極めて簡便に、1nm〜20nm程度の粒子のサイズを分別することができる。特に、これまで実用化されていなかった1nmから10nmのサイズの範囲を簡便に分別可能であるという優れた効果を有する。また、汎用性が高いので低コスト化も実現できる。
【0048】
本実施形態においては、架橋高分子膜を有機溶媒により十分に膨潤させることにより、網目サイズを簡便に均質化することができる。そのため、特定の粒径サイズ以下のナノ粒子しか透過しない系を確立することができ、濾過対象流体の粒子のサイズ分別を高精度に行うことができる。
【0049】
なお、限外濾過装置100を、溶液状のレジスト組成物等のゴミを除去する手段として用いてもよい。レジスト膜のパターンは数ナノメートルオーダーの解像度を有する。従って、ナノメートルレベルの粒子等のいわゆるゴミを除去することは極めて重要となる。
前述したとおり、1〜10nmのナノ粒子を簡便にサイズ分離する方法は実用化されていない。本実施形態に係る限外濾過装置100によれば、レジスト組成物等のゴミ、特に1〜10nmのナノ粒子を除去する手段として有用である。
【0050】
本実施形態においては、筺体として円筒状のものを例に挙げたが、これに限定されるものではない。たとえば、底部にメッシュ状の金網や多孔質ガラスを形成させて、その上に架橋高分子膜(限外濾過膜)を載置するようにしてもよい。また、限外濾過装置100に加圧装置を取り付けてもよい。これにより、濾過速度を高めることができる。また、架橋高分子膜の網目サイズよりも大きな孔サイズの支持膜等の支持体を架橋高分子膜の上面、又は/および下面に積層するようにしてもよい。また、架橋高分子膜を複数層積層して用いてもよい。限外濾過膜に捕捉されたナノ粒子は、架橋高分子膜をより膨潤させる有機溶媒を通過させることにより、回収され、濾過膜は洗浄される。
【0051】
[実施例]
次に、実施例によりさらに本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されるものではない。なお、以下に記載する試薬等は、特に断らない限りは一般に市販されているものである。
【0052】
<架橋高分子膜の網目サイズの測定>
上記走査型顕微光散乱法に基づいた光散乱解析装置により、膨潤したシリコーン樹脂の平均網目サイズ(2ξ)を算出した。解析は以下の条件で行った。
可視光レーザーの波長(λ):5.32×10−7[m]
レーザー光の出力:250[mW]
試料温度(T):303[K]
観測単位体積:30[?m
散乱光検出角度(θ):30,40,45,50,55
z軸の単位走査距離:33[?m]
観測単位体積一箇所あたりの散乱光サンプリング時間:90[s]
観測単位体積の個数:31
有機溶媒(トルエン)の屈折率(n):1.5
有機溶媒(トルエン)の粘性率(η):0.59[Pa・s]
観測試料のサイズ:10[mm]×10[mm]×10[mm]
【0053】
これらの条件下で測定を行い、アンサンブル平均相関関数から、ゲル網目の協同拡散(ゲルモード)に起因する速い緩和Γ[s−1]が測定される。Γからは協同拡散係数Dが以下の式<2>により求まる。
【数2】

ここで、qは散乱ベクトルの大きさであり、以下の式<3>より求まる。
【数3】

このとき、Einstein−Stokesの式を用いると、以下の式<4>から流体力学的半径ξが求まる。そして、これに2を乗じることにより平均網目サイズ2ξを決定できる。
【数4】

ここで、k=1.38×10−23[J/(K・mol)]はBoltzmann定数である。
【0054】
<架橋高分子膜の膨潤度の測定>
膨潤前の架橋高分子膜の重量をW(g)とし、十分な量の有機溶媒に十分な時間浸漬した後の架橋高分子膜の重量をW(g)として下記式<5>より膨潤度S(%)を求めた。本実施例においては、1日経過後の架橋高分子膜の重量をW(g)とした。
【数5】

なお、本実施例においては有機溶媒としてトルエンを用いているが、他の有機溶媒でも同様にして膨潤度を求めることができる。
【0055】
<コアシェル粒子の粒径の計測>
コアシェル粒子の粒径は、透過型電子顕微鏡を用いて行った。本実施例においては、後述するようにデカンチオールで被覆された金ナノ粒子のうちのコア部の金ナノ粒子の直径を用いて、用いたナノ粒子の粒径としている。デカンチオールがオールトランス構造であれば、最大分子長は、約1.2nmになる。それ故、デカンチオール被覆金ナノ粒子の粒径は、金からなるコア部の粒径より大きく、コア部と最大分子長の2倍の和より小さいと考えてよい。
【0056】
具体的な観測方法と粒径の評価方法を説明する。溶媒トルエンに分散しているデカンチオール被覆金ナノ粒子を、カーボン支持膜付き銅グリッドに塗布して乾固させた後、透過型電子顕微鏡により50万倍で撮影した。撮影した写真は、スキャナーで1200dpiの解像度でデジタル化し、粒子500個のコア部の直径(X)を計測した。ここで、n個目のコア部の直径をXとすると、デカンチオール被覆金ナノ粒子のコア部の平均サイズ(Xave)と標準偏差(s)は、それぞれ下式<6><7>により算出できる。
【数6】

【数7】

分散は、標準偏差の2乗(s)で与えられる。
【0057】
(実施例1)
架橋高分子膜の一例として、シリコーン樹脂を用いた例について説明する。シリコーン樹脂は、ベース樹脂と架橋剤を反応させることにより得た。ベース樹脂としては、DawCorning社製のSylgard184−A(Lot.No.30JAN2006)を、架橋剤としては、Sylgard184−B(Lot.No.30JAN2006)を使用した。ベース樹脂9.85gと架橋剤0.15gを混合して、架橋剤濃度が1.5wt%の架橋高分子前駆体液10を調製した。この架橋高分子前駆体液10は、図4に示すように、ベース樹脂の末端のビニル基と、架橋剤に含まれるジメチル/メチルヒドロゲンシロキサンとのハイドロシリレーション反応により架橋構造とすることができる(非特許文献12参照)。
【0058】
図5は、本実施例1の限外濾過装置の製造方法を説明するための断面模式図である。この限外濾過装置100aは、膨潤架橋高分子膜たる膨潤シリコーン膜11a、筺体12a等を備える。まず、シリコン基板23を用意し、これをキセノンエキシマーランプ(ウシオ電機株式会社製)を用いて、1kPaの減圧下、300秒間の真空紫外線照射(発光波長172nm)により洗浄した。そして、自然酸化膜付きのシリコン基板23をトリメチルクロロシラン(アルドリッチ社製)に浸漬し、窒素ガスを吹き付けて乾燥させることにより、トリメチルクロロシラン単分子膜24が形成された疎水性のシリコン基板23を得た。この疎水性シリコン基板23の平滑な面を水平に置き、その平滑面にシリコーンゴム製の円筒の鋳型(外径16mm,内径15mm,高さ15mm)の底部が接するように密着させた(図5(a)参照)。
【0059】
この円筒部を筺体12aとし、その内部に0.15gの架橋高分子前駆体液10を注ぎ、架橋高分子前駆体液10の漏れがないことを確認した後、65℃のオーブンの中で12時間加熱を行った。その結果、直径15mm、厚さ1mmの架橋高分子膜たるシリコーン膜10aを得た。その後、筺体12aとともに架橋したシリコーン膜10aをシリコン基板13から剥離し、筺体12aの一底面がシリコーン膜10aにより充填されたものを得た。次いで、シリコーン膜10aを100mLの有機溶媒トルエンに浸漬して、シリコーン膜(ポリジメチルポリシロキサン(PMDS)を十分に膨潤させた。
【0060】
次いで、筺体12aの上部側から円筒内部に有機溶媒トルエンを注ぎ、膨潤したシリコーン膜からトルエンを透過させることにより、未反応のベース樹脂と架橋剤を溶出させて除去した。本実施例1に係る膨潤したゲル状のシリコーン膜(膨潤架橋高分子膜)を、以下、「膨潤シリコーン膜1」と呼ぶ。「膨潤シリコーン膜1」における膨潤度は、1290%であった。また、走査型顕微光散乱(SMILS)装置により観測された「膨潤シリコーン膜1」の平均網目サイズ2ξは10.43±0.44nmであった。
【0061】
(実施例2)
架橋剤の濃度が2.0wt%であるという以外は、上記実施例1と同様にしてシリコーン膜を作製した。具体的には、ベース樹脂9.80gと架橋剤0.20gを混合した架橋高分子前駆体液2を調製してシリコーン膜を作製した。得られた膜を「膨潤シリコーン膜2」とする。トルエンで膨潤させた「膨潤シリコーン膜2」の膨潤度は589%であった。走査型顕微光散乱(SMILS)装置により観測された、「膨潤シリコーン膜2」の平均網目サイズ2ξは6.53±0.48nmであった。
【0062】
(実施例3)
架橋剤の濃度が3.0wt%であるという以外は、上記実施例1と同様にしてシリコーン膜を作製した。具体的には、ベース樹脂9.70gと架橋剤0.30gを混合した架橋高分子前駆体液3を調製してシリコーン膜を作製した。得られた膜を「膨潤シリコーン膜3」とする。トルエンで膨潤させた「膨潤シリコーン膜3」の膨潤度は475%であった。走査型顕微光散乱(SMILS)装置により観測された、「膨潤シリコーン膜3」の平均網目サイズ2ξは4.06±0.08nmであった。
【0063】
(実施例4)
架橋剤の濃度が4.0wt%であるという以外は、上記実施例1と同様にしてシリコーン膜を作製した。具体的には、ベース樹脂9.60gと架橋剤0.40gを混合した架橋高分子前駆体液4を調製してシリコーン膜を作製した。得られた膜を「膨潤シリコーン膜4」とする。トルエンで膨潤させた「膨潤シリコーン膜4」の膨潤度は372%であった。走査型顕微光散乱(SMILS)装置により観測された、「膨潤シリコーン膜4」の平均網目サイズ2ξは2.74±0.37nmであった。
【0064】
(実施例5)
架橋剤の濃度が6.0wt%であるという以外は、上記実施例1と同様にしてシリコーン膜を作製した。具体的には、ベース樹脂9.40gと架橋剤0.60gを混合した架橋高分子前駆体液5を調製してシリコーン膜を作製した。得られた膜を「膨潤シリコーン膜5」とする。トルエンで膨潤させた「膨潤シリコーン膜5」の膨潤度は275%であった。走査型顕微光散乱(SMILS)装置により観測された、「膨潤シリコーン膜5」の平均網目サイズ2ξは1.78±0.13nmであった。
【0065】
(実施例6)
架橋剤の濃度が10.0wt%であるという以外は、上記実施例1と同様にしてシリコーン膜を作製した。具体的には、ベース樹脂9.00gと架橋剤1.00gを混合した架橋高分子前駆体液2を調製してシリコーン膜を作製した。得られた膜を「膨潤シリコーン膜6」とする。トルエンで膨潤させた「膨潤シリコーン膜6」の膨潤度は201%であった。走査型顕微光散乱(SMILS)装置により観測された、「膨潤シリコーン膜6」の平均網目サイズ2ξは1.20±0.23nmであった。
【0066】
図6(a)に、上記実施例1〜6に係る膨潤シリコーン膜の架橋剤添加濃度に対して膨潤度をプロットしたものを示す。同図より、添加する架橋剤の濃度が小さくなるにつれて膨潤度が大きくなることがわかる。これは、架橋密度が低くなると、3次元網目構造の網目サイズが大きくなり、有機溶媒を取り込む空間部16が大きくなることを示唆している。図6(b)に、上記実施例1〜6に係る膨潤シリコーン膜の架橋剤添加濃度に対して相関長をプロットしたものを示す。同図より、添加する架橋剤の濃度が小さくなるにつれて相関長が大きくなることがわかる。これは、架橋密度が低くなると、3次元網目構造の網目サイズが大きくなることを示唆している。カットオフしたい粒子の粒径サイズに応じて、架橋剤の濃度を制御して架橋高分子膜を製造すればよい。無論、有機溶媒の種類によっても網目サイズを調整することができる。
【0067】
(実施例7)
<「デシル基保護金ナノ粒子1」の合成>
アルキル基をシェル部に備える金ナノ粒子を上記非特許文献13に従って合成した。修飾基のアルキル基は、デシル基を含むデカンチオールを用いて、金ナノ粒子の最外層に導入した。具体的合成方法は、以下のとおりである。まず、臭化テトラオクチルアンモニウム(Wako社製)0.66g(1.2mmol)を160mLのトルエンに溶解させ、この溶液に塩化金酸・四水和物(Wako社製)0.27g(0.6mmol)を加えた。次いで、デカンチオール(Wako社製)0.10g(0.6mmol)を20mLのトルエンに溶解させた溶液を加えて、10分間撹拌した。
【0068】
さらに、水素化ホウ素ナトリウム(Wako社製)0.23g(6.0mmol)を20mLの脱イオン水に溶解させた溶液を加えて、12時間撹拌した。12時間後、撹拌を止めて静置し、有機相と水相に分離させた。分液により有機相を取り出し、エバポレーターにより室温で濃縮乾固させた。次いで、30mLのトルエンと300mLのメタノールを加えて、30分間撹拌した。その後、回転数10,000rpmの遠心分離を30分間施して上澄み液を除去した。遠沈管底部に集まった暗紫色の物質にメタノールを加え、再度溶媒に分散させた。さらに、回転数10,000rpmの遠心分離を30分間施し、再度上澄み液を除去した。メタノールによる洗浄操作を2回繰り返した後に、遠沈管底部の暗紫色の物質を室温減圧下で乾固させて、「デシル基保護金ナノ粒子1」を得た。
【0069】
「デシル基保護金ナノ粒子1」にトルエンを加えて、5wt%の「デシル基保護金ナノ粒子1」を含む「コアシェル粒子分散液1」を調製した。この「コアシェル粒子分散液1」を、カーボン支持膜付銅グリッドに塗布して乾固させた後、透過型電子顕微鏡で500個の粒子サイズを計測した。ドデシル基保護金ナノ粒子のコア部の平均粒子径は2.0nmであり、標準偏差sは0.8nm、分散sは0.7であった。コア部の最大サイズは6nmであった。図7(a)に、「コアシェル粒子分散液1」中に分散する粒子の粒子径分布を示す。
【0070】
<「デシル基保護金ナノ粒子2」の合成>
コア部の大きいデシル基保護金ナノ粒子を前記非特許文献13に従って調製した。すなわち、前述した減圧下で乾固させた「デシル基保護金ナノ粒子1」を、ガラス製の容器に入れ、その容器をオーブンに入れた。そして、2℃/minの昇温速度で室温から160Cまで上げ、160Cで30分間加熱した。所定加熱時間後、速やかにオーブンから取り出し、室温に冷却した後、30mLのトルエンと300mLのメタノールを加えて、30分間撹拌した。30分間の回転数10,000rpmでの遠心分離とメタノールのデカンテーションによる洗浄を、「デシル基保護金ナノ粒子1」を作製する際と同様に2回繰り返し、濃縮乾固させて、「デシル基保護金ナノ粒子2」を得た。
【0071】
「デシル基保護金ナノ粒子2」にトルエンを加えて、5wt%の「デシル基保護金ナノ粒子2」を含む「コアシェル粒子分散液2」を調製した。この「コアシェル粒子分散液2」を、カーボン支持膜付銅グリッドに塗布して乾固させた後、透過型電子顕微鏡で粒子500個を観察した結果、金ナノ粒子のコア部の平均粒子径は5.5nm、標準偏差sは1.7nm、分散sは2.8であった。コア部の最大粒子径は11nmであった。図7(b)に、「コアシェル粒子分散液2」中に分散する粒子の粒子径分布を示す。
【0072】
<2峰性のコアシェル粒子分散液の調製>
上記実施例1〜6に係る膨潤シリコーン膜が、ナノ粒子のフィルターとして有効であることを明示するために、粒径分布に2つのピークを示す(2峰性)金ナノ粒子の溶液を調製した。前述の平均粒子径2.0nmの「デシル基保護金ナノ粒子1」と平均粒径が5.5nmの「デシル基保護金ナノ粒子2」を同じ重量で混合し、ナノ粒子の含有量が5wt%となるようにトルエンを加えた。この溶液を「コアシェル粒子分散液3」と呼ぶ。透過型電子顕微鏡で粒子500個を観察した結果、金コア部の粒径が2.2nmと5.5nmに極大分布を持つことを確認した。コアの最大粒子径は9nmである。この「コアシェル粒子分散液3」を用いて上記実施例1〜6の膨潤シリコン膜の透過実験を行った。図8に、「コアシェル粒子分散液3」中に分散する粒子の粒子径分布を示す。
【0073】
(実施例8)
「コアシェル粒子分散液3」を用いて、実施例1〜6で作製した膨潤シリコーン膜の性能を評価した。「コアシェル粒子分散液3」を筺体12aの上面から注入し、注入時を時間0分として、270分経過後の濾液を回収した。得られた濾液を透過型電子顕微鏡により観測した。膨潤したシリコーン膜を透過したデカンチオール被覆金ナノ粒子のコア部の平均サイズ(Xave)と最大サイズ(Dmax)、標準偏差(s)、分散(s2)を評価した。その結果を表1に示す。
【0074】
なお、濾過性能の評価基準は以下に従い行った。
判定1:デカンチオール被覆金ナノ粒子が透過せず、有機溶媒のみが透過した膜
判定2:透過した粒子コア部の最大粒径(Dmax)が4nm以下の膜
判定3:透過した粒子コア部の最大粒径が8nm以下の膜
【表1】

上記の判定結果から、平均網目サイズ(2ξ)が10.43±0.44nmである「膨潤シリコーン樹脂1」から、最大粒径10.4nmの被覆粒子が透過したことがわかる。また、平均網目サイズ(2ξ)が6.53±0.48nmである「膨潤シリコーン樹脂2」から、最大粒径6.4nmの被覆粒子が透過したことがわかる。また、平均網目サイズ(2ξ)が4.06±0.08nmである「膨潤シリコーン樹脂3」から、最大粒径4.9nmの被覆粒子が透過したことがわかる。平均網目サイズに1.3を乗じた値より大きな粒子は、「膨潤シリコーン樹脂1」から「膨潤シリコーン樹脂6」においていずれの場合も確認されなかった。
【0075】
図9(a)に、「コアシェル粒子分散液3」を「膨潤シリコーン樹脂2」を用いて濾過した際の濾液中の粒子の粒子径分布を、図9(b)に、「コアシェル粒子分散液3」を「膨潤シリコーン樹脂3」を用いて濾過した際の濾液中の粒子の粒子径分布を示す。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】(a)は本実施形態に係る限外濾過装置の一例を説明するための模式的斜視図、(b)は図1(a)のIb−Ib切断部断面図。
【図2】(a),(b)は、本実施形態に係る架橋高分子膜の3次元網目構造の模式的説明図。
【図3】本実施形態に係る限外濾過装置の濾過時の断面説明図。
【図4】本実施例に係る架橋高分子の合成法を説明するための図。
【図5】本実施例に係る限外濾過装置の模式的断面図。
【図6】(a)は本実施例に係る架橋剤濃度に対する膨潤シリコーン膜の膨潤度を示す図、(b)は本実施例に係る架橋剤濃度に対するシリコーン膜の相関長を示す図。
【図7】(a)は本実施例に係る「コアシェル粒子分散液1」の粒子径分布を示す図、(b)は本実施例に係る「コアシェル粒子分散液2」の粒子径分布を示す図。
【図8】本実施例に係る「コアシェル粒子分散液3」の粒子径分布を示す図。
【図9】(a)は本実施例に係る「コアシェル粒子分散液3」を「膨潤シリコーン膜2」を用いて濾過した濾液の粒子径分布を示す図、(b)は本実施例に係る「コアシェル粒子分散液3」を「膨潤シリコーン膜3」を用いて濾過した濾液の粒子径分布を示す図。
【符号の説明】
【0077】
10 架橋高分子前駆体液
10a シリコーン膜
11 膨潤架橋高分子膜
12 筺体
13 高分子主鎖部
14 架橋部
15 架橋点
16 空間部
17 網目サイズ
18 濾過対象流体
19 濾液収容器
20 濾液
21 網目サイズより小さい粒子
22 網目サイズより大きい粒子
23 シリコン基板
100 限外濾過装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元網目構造を有する架橋高分子膜を備え、下記(1)〜(3)を満足する限外濾過膜。
(1)前記架橋高分子膜が有機溶媒により十分に膨潤せしめられている。
(2)走査型顕微光散乱法で測定して求めた前記架橋高分子膜の協同拡散係数から求まる流体力学的半径ξに2を乗じることによって算出される平均網目サイズ2ξが、1nm以上、20nm以下の範囲にある。
(3)粒子が有機溶媒中に分散した流体を前記架橋高分子膜上に供給すると、前記平均網目サイズに1.3を乗じた値よりも大きい粒径の前記粒子をカットオフする。
【請求項2】
請求項1に記載の限外濾過膜において、
前記粒子は、コアシェル粒子であり、
前記コアシェル粒子のコア部が金属、金属酸化物、金属硫化物、又は金属セレン化合物であり、シェル部がメチレン鎖を含む有機基であることを特徴とする限外濾過膜。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の限外濾過膜において、
前記コアシェル粒子のカットオフ閾値が、粒子径1.3nm以上、26nm以下の範囲にある限外濾過装置。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の限外濾過膜において、
前記架橋高分子膜の主成分がシリコーン樹脂であることを特徴とする限外濾過膜。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4に記載の限外濾過膜に流体を供給して、前記限外濾過膜を透過した濾液。
【請求項6】
請求項1、2、3又は4に記載の限外濾過膜に流体を供給して、前記限外濾過膜を透過した粒子。
【請求項7】
限外濾過膜の製造方法であって、
3次元網目構造の架橋高分子膜を合成する工程と、
前記架橋高分子膜を有機溶媒により十分に膨潤させる工程を備え、
前記膨潤させる有機溶媒の種類と前記架橋高分子膜の架橋密度を調整することにより、走査型顕微光散乱法で測定して求められる前記架橋高分子膜の協同拡散係数から求まる流体力学的半径ξに2を乗じることによって算出される平均網目サイズ2ξが、1nm以上、20nm以下の範囲にある限外濾過膜の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の限外濾過膜の製造方法において、
前記架橋高分子膜を、高分子化合物と架橋剤を反応させることにより得、
前記架橋剤の添加量により、前記架橋密度を調整する限外濾過膜の製造方法。
【請求項9】
ナノ粒子のサイズ分別方法であって、
架橋構造を有する3次元網目構造の架橋高分子膜を有機溶媒により十分に膨潤させ、
ナノ粒子が有機溶媒に分散した流体を前記架橋高分子膜に供給することにより、前記平均網目サイズに1.3を乗じた値よりも大きい粒子をカットオフするナノ粒子のサイズ分別方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−11927(P2009−11927A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−176318(P2007−176318)
【出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】