説明

除去剤およびその除去方法

【課題】ヒ素、カドミウム、鉛、クロムなどの有害な重金属を低コストで簡便に、且つ効率よく除去することができる新規の除去剤およびその除去方法を提供する。
【解決手段】重金属を除去するための除去剤であって、非晶質Ti(IV)および非晶質Fe(III)を含む非晶質Ti−Fe水酸化物を含有するか、または、硝酸鉄(III)および塩化チタン(IV)の水溶液をアルカリ金属水酸化物で中和して得られる沈殿物を含有する除去剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒ素(As)、カドミウム(Cd)、鉛(Pb)、クロム(Cr)などの重金属を除去するための除去剤およびその除去方法に関するものである。本発明の除去剤は、重金属に汚染された水(地表水、地下水、廃水など)や土壌などの汚染物質を処理するのに好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
鉱山や工場などから排出される重金属は、土壌や地下水を汚染するほか、人体に取り込まれて重篤な障害をもたらすことが知られている。また、重金属は、温泉の混入や地質からの溶出などの自然現象によっても地下水などに容易に混入するため、特に、発展途上国では重金属による地下水汚染が深刻な問題となっている。このうち、ヒ素はその高い毒性から、環境省による水質汚濁防止法の排水基準(pH5.8〜8.6)では100μg/L以下に定められている。WHOでは更に厳しく、飲料水基準値10μg/L以下に定められている。カドミウムおよび鉛も、ヒ素と同様、WHOの飲料水基準値10μg/L以下に定められている。また、Crの飲料水基準値は50μg/L以下である。
【0003】
重金属の除去方法としては、例えば、沈殿分離法(共沈法)、吸着法などが知られている。このうち沈殿分離法は、重金属によって汚染された水中に水酸化鉄を添加し、重金属を鉄と共に共沈させる方法である。しかし、沈殿分離法による重金属の除去効率は低い。
【0004】
具体的にヒ素を例に挙げて説明する。環境水に含まれるヒ素は、80%以上が無機態ヒ素化合物であり、有機態ヒ素化合物より強い毒性を有している。無機態ヒ素はヒ酸[As(V)]と亜ヒ酸[As(III)]の二つの形態で存在し、亜ヒ酸As(III)はヒ酸As(V)に比べて毒性が数倍程度強く、可溶性も高い。地表水のような酸化条件下では、As(V)が優占化学種(HAsO、HAsO、HAsO2−)であるのに対し、地下水などでは酸化還元電位が低下して還元状態になるため、As(III)の形態(HAsO、HAsO、HAsO2−)として存在することが多い。As(III)は、中性域〜酸性域でHAsO分子として存在するため、水からの除去が困難であるといわれている。実際のところ、沈殿分離法におけるAs(III)の共沈効率はAs(V)に比べて低く、As(III)をAs(V)に酸化して除去する必要があり、沈殿分離法によるヒ素の除去効率は低い。
【0005】
更に、沈殿分離法では、処理後に発生するスラッジの処分が問題となっている。そこで、吸着法による重金属除去が検討されているが、吸着剤として用いられる活性アルミナや活性炭などの重金属吸着能は低く、実用的でない。
【0006】
上記事情に鑑み、本発明者は、新規な重金属吸着剤として、安価で簡便に製造可能な非晶質水酸化鉄(III)を開示している。具体的には、特許文献1にSe(セレン)の除去方法を開示し、特許文献2にヒ素、カドミウム、鉛などの重金属を除去する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3830878号公報
【特許文献2】特開2006−218359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、有害な重金属を低コストで簡便に、且つ効率よく吸着し、除去することができる新規な除去剤およびその除去方法を提供することにある。好ましくは、特にAs(III)の吸着能に優れており、As(III)およびAs(V)の両方を同時に効率よく除去し得る新規な吸着剤およびその除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することのできた本発明の除去剤は、重金属を除去するための除去剤であって、非晶質Ti−Fe水酸化物を含有するか;または、硝酸鉄(III)若しくは塩化鉄(III)とおよび塩化チタン(IV)との混合水溶液をアルカリ金属水酸化物で中和して得られる沈殿物を含有するところに要旨を有している。
【0010】
本発明の好ましい実施形態では、Ti:Feのモル比は、1:1〜1:5の範囲である。
【0011】
本発明の好ましい実施形態では、上記重金属は、ヒ素、カドミウム、鉛、およびクロムよりなる群から選択される少なくとも一種である。
【0012】
また、上記課題を解決することのできた本発明の除去方法は、重金属に汚染された汚染物質から重金属を除去する方法であって、上記の除去剤を汚染物質と接触させるところに要旨を有している。
【0013】
本発明の好ましい実施形態では、上記汚染物質は汚染水または汚染土壌である。
【0014】
本発明の好ましい実施形態では、上記汚染物質はヒ素またはクロムであり、pH3〜10下で上記の除去剤を汚染物質と接触させるものである。
【0015】
本発明の好ましい実施形態では、上記汚染物質は鉛であり、pH4〜6.5下で上記の除去剤を汚染物質と接触させるものである。
【0016】
本発明の好ましい実施形態では、上記汚染物質はカドミウムであり、pH4〜8下で上記の除去剤を汚染物質と接触させるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の除去剤は、安価で簡便に製造することができる上に、重金属の種類にかかわらず、高い吸着除去能を有している。よって、本発明の除去剤は、As、Cd、Pb、Crなどに対する重金属除去剤として好適に用いられる。特に本発明の除去剤は、これまで除去が困難であったAs(III)に対する吸着能に極めて優れており、As(III)およびAs(V)の両方を同時に効率よく除去することができる。本発明の除去剤を用いれば、有害な重金属を低コストで簡便、安全で且つ効率的に除去することができる。従って、本発明は、重金属で汚染された汚染水や汚染土壌などの汚染物質を浄化できる技術として、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施例1におけるX線回折の結果を示す図である。
【図2】図2(a)は、実施例2における濾液中のTi濃度とpHとの関係を示すグラフであり、図2(b)は、実施例2における濾液中のFe濃度とpHとの関係を示すグラフである。
【図3】図3(a)は、実施例3におけるNaCl中のFe濃度を示すグラフであり、図3(b)は、実施例3におけるNaCl中のTi濃度を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例4におけるAs(III)およびAs(V)の残存量の結果を示すグラフである。
【図5】図5(a)は、実施例6におけるpHとAs(III)吸着量との関係を示すグラフであり、図5(b)は、実施例6におけるpHとAs(V)吸着量との関係を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例8におけるCd濃度(初期濃度)とCd吸着量との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例9におけるPb濃度(初期濃度)とPb吸着量との関係を示すグラフである。
【図8】図8(a)は、実施例10におけるpHとCr(VI)吸着量との関係を示すグラフであり、図8(b)は、実施例10におけるpHとCr(III)吸着量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、非晶質水酸化鉄(III)を含有する重金属除去剤の改良技術に関するものである。本発明の重金属除去剤は、非晶質Ti−Fe水酸化物(Bimetal水酸化物)を含有している点で、非晶質水酸化鉄(III)のみを含有する、前述した特許文献1および2に記載の除去剤(Monometal水酸化物)と相違している。
【0020】
以下では説明の便宜上、本発明のようにTiとFeの両方を含む除去剤を「非晶質Bimetal水酸化物」または「Bimetal水酸化物」などと呼び、これに対し、特許文献1および2のようにFeのみを含みTiを含まない重金属除去剤を「非晶質Monometal水酸化物」または「Monometal水酸化物」などと呼び、両者を区別する場合がある。
【0021】
また、本明細書において「重金属」とは、密度が約4.0g/cm以上のものを意味し、おおむね、長周期型周期表の11〜15族の金属元素を対象とする。具体的には、As、Se、Pb、Cr、Cd、Cu、Hg、Zn、Mn、Co、Ni、Mo、Ta、Sn、Bi、Inなどが挙げられる。
【0022】
本発明の除去剤を用いれば、As、Cd、Pb、Crなどの重金属に対し、Feの非晶質Monometal水酸化物と同等またはそれ以上に優れた吸着除去作用が得られる。特に本発明の除去剤は、ヒ素の吸着除去作用に格段に優れており、このような顕著な効果は、Feの非晶質Monometal水酸化物ではなく、TiとFeの非晶質Bimetal水酸化物としたことによって初めて発揮されるものである。前述した特許文献2および後記する実施例でも確認したように、非晶質水酸化鉄(III)のみを含有するMonometalの除去剤は、As(V)の吸着能に優れている反面、As(III)の吸着能に若干劣る傾向がみられた。これに対し、本発明の除去剤を用いれば、特にAs(III)の吸着能が格段に高められることが確認された(後記する実施例を参照)。そのため、本発明の除去剤を用いれば、環境省によるヒ素の水質汚濁防止法の排水基準(pH5.8〜8.6で、100μg/L以下)を達成できるだけでなく、当該除去剤の添加量やpHなどを適切に制御することによって、WHOの飲料水基準(10μg/L以下)も充分達成できると考えられる。
【0023】
しかも、後記する実施例の欄で詳述するように、本発明の除去剤は、pHの変化(約3〜11)に対して安定で、電解質(NaCl)への溶解率も低いなど化学的・物理的な安定性に極めて優れている。従って、本発明の除去剤は、特に、重金属に汚染された汚染水などへの吸着処理に好適に用いられることも分かった。
【0024】
本発明に用いられる非晶質Ti−Fe水酸化物の組成は詳細には不明であるが、例えば、TiとFeが同一化合物の中に共存する非晶質Ti−Fe水酸化物;非晶質チタン水酸化物と非晶質鉄水酸化物の混合物;または、これらの混合物などが考えられる。
【0025】
本発明において、「非晶質Ti−Fe水酸化物を含む」とは、少なくとも非晶質Ti−Fe Bimetal水酸化物を含有することを意味する。従って、非晶質チタン(IV)水酸化物および非晶質水酸化鉄(III)のみからなり、当該2種類の成分で構成される除去剤は勿論のこと、他の吸着剤等を更に併用した除去剤も、本発明の除去剤に含まれる。また、本発明では、TiとFeの比率が異なる2種以上の非晶質Ti−Fe水酸化物を含む除去剤を用いても良い。また、上記の除去剤は、本発明の作用を損なわない範囲において、通常用いられる担体に担持されていてもよく、このようなものも本発明の範囲内に包含される。
【0026】
このうち、非晶質水酸化鉄(III)の詳細は、前述した特許文献1および特許文献2に記載したとおりである。すなわち、非晶質水酸化鉄(III)は、“amorphous iron(hydr)oxide", “amorphous ferric (III) iron(hydr)oxide", “amorphous ferric hydroxide oxide"等と呼ばれている非晶質の鉄(III)化合物であり、Fe23・nH2Oの組成を有する含鉄水酸化物の一種である。より具体的には、水酸化鉄(III)(Fe(OH)3),オキシ水酸化鉄(III)(FeO(OH))および水素化酸化鉄(III)(FeHO2)が混在した無定形のものである。この非晶質水酸化鉄(III)は天然にも存在する化合物であり、アルミニウムや有害な重金属を含んでいないので、安全に使用することができる。
【0027】
非晶質水酸化鉄(III)は、ヒ素などの重金属との親和性に優れているが、その主な理由は、その広い比表面積にある。表1に示すように、非晶質水酸化鉄(III)の比表面積は、他の(水)酸化鉄(III)類(Fe23・nH2O)である磁鉄鉱や赤鉄鉱および燐鉄鉱よりも大きい。
【0028】
【表1】

【0029】
また、非晶質チタン(IV)水酸化物は、TiO2・nH2Oの組成を有する含チタン水酸化物の一種である。より具体的には、水酸化チタン(IV)(Ti(OH)4),オキシ水酸化チタン(IV)(TiO(OH))および水素化酸化チタン(IV)(TiH3)が混在した無定形のものである。
【0030】
本発明において、「非晶質」とは、後記する方法でX線回折を行なったとき、結晶構造がみられないものをいう。詳細には、X線回折法で2θ値10°から80°に頂点を有するブロードな散乱帯を有する物であり、結晶性の回折線を有してもよい。好ましくは2θ値で10°以上80°以下にみられる結晶性の回折線のうち、最も強い強度が、2θ値で10°以上80°以下にみられるブロードな散乱帯の頂点の回折線強度の500倍以下であることが好ましく、さらに好ましくは100倍以下であり、特に好ましくは5倍以下であり、最も好ましくは結晶性の回折線を有さないことである。
【0031】
本発明において、優れた重金属吸着能を得るためには、TiとFeの含有比率は、概して、Feの比率が高い方がよい。特にヒ素に関しては、後記する実施例で実証したように、非晶質TiのAs除去能は非晶質FeのAs除去能より劣る傾向にあり、Feの比率が少なくなってTiの比率が高くなると、Feの活性サイトがTiで覆われ、Feの吸着能が低下するのではないかと推察される。具体的には、処理対象となる重金属の種類や濃度、汚染物質の性状などによって適宜適切に設定すれば良いが、Ti:Feのモル比は、おおむね1:1〜1:5であることが好ましい。
【0032】
上記Bimetal水酸化物は、例えば、Fe供給源(硝酸鉄(III)、塩化鉄(III)など)とTi供給源(塩化チタン(IV)など)との混合水溶液をアルカリ金属水酸化物で中和し、沈殿して得られる。従って、本発明では、このようにして得られた沈殿物を本発明の除去剤として用いることができる。具体的には、TiとFeの比率が所定比率となるように、硝酸鉄(III)水和物の水溶液と塩化チタン(IV)の水溶液を混合し、NaOHなどのアルカリ金属水酸化物で、おおむねpH7近傍(例えば、pH7±1の範囲)になるように調整し、得られた沈殿物を凍結乾燥するなどして調製すれば良い。
【0033】
本発明の除去方法は、上記の除去剤を重金属汚染物質と接触させることを特徴とする。これにより、汚染物質中の重金属は当該除去剤に吸着され、不溶化する。
【0034】
本発明の処理対象となる重金属汚染物質は、固体、液体、気体のいずれの状態にあるものであってもよい。例えば、As、Cd、Pb、およびCrよりなる群から選択される少なくとも一種の重金属によって汚染された土壌、汚染された地下水、鉱山や工場からの排水、工場から排出される煤煙等を挙げることができる。
【0035】
As、Cd、Pb、Crなどの重金属は、環境中で単体として存在する場合もあり得るが、ほとんどは塩やイオンの状態で存在する。本発明方法は、これら重金属をイオン状態で吸着する性能に優れているので、処理すべき対象に応じた処理態様を取る必要がある。例えば、煤煙を処理する場合には、本発明除去剤をフィルターに担持したものに煤煙を通すことも考えられる。
【0036】
具体的な処理方法としては、例えば汚染土壌を処理する場合には、汚染土壌に水と本発明除去剤を加え、攪拌することによって不溶化させることが好ましい。処理対象が液体である場合は、本発明除去剤をそのまま添加した上で攪拌してもよい。
【0037】
処理中の温度は、特に制限されるものではないが、例えば5〜50℃程度でよい。5℃以上とすることで、重金属の水中への溶出効率や、本発明除去剤への重金属吸着効率を高くできるからである。また、50℃以下にすることで、処理対象物質の変質を抑制し、再利用を可能にできる。
【0038】
汚染物質を処理する場合におけるpHの適値は、除去すべき重金属の種類により異なる。例えば、AsおよびCrの少なくとも一方に汚染されている物質を処理する場合には、pH3〜10の水中で本発明除去剤と汚染物質とを混合することが好ましい。詳細には、後記する実施例で示すように、ヒ素についてはAs(III)、As(V)の種類によって、クロムについてはCr(III)、Cr(VI)の種類によって、それぞれ至適pHは相違する。例えば、As(III)およびCr(III)では、おおむねpH8〜10のアルカリ付近で吸着量が最大となり、一方、As(V)およびCr(VI)では、おおむねpH2〜3近傍の酸性付近で吸着量が最大となる。いずれにせよ、本発明の除去剤を用いれば、排水基準のpH範囲(pH5.8〜8.6)において、いずれの形態の重金属にも良好な吸着能を発揮することが確認された。
【0039】
また、Pbに汚染されている物質を処理する場合には、pH4〜6.5(より好ましくはpH5〜6)の水中で本発明除去剤と汚染物質とを混合することが好ましい。pH4以上であれば、土壌の植物生育能等は失活することはなく、また、pH6.6以下においてPb(OH)からPb2+が溶出するので、この溶出Pb2+を本発明除去剤により効率よく吸着し、不溶化することができるからである。当該範囲内における本発明除去剤および本発明方法の優れた効果は、後述する実施例で充分実証されている。
【0040】
また、Cdに汚染されている物質を処理する場合には、pH4〜8(より好ましくはpH6〜8)の水中で本発明除去剤と汚染物質とを混合することが好ましい。pH4以上であれば、土壌の植物生育能等は失活することはなく、また、pH8以下においてCd(OH)からCd2+が溶出することので、この溶出Cd2+を本発明除去剤により効率よく吸着し、不溶化することができるからである。当該範囲内における本発明除去剤および本発明方法の優れた効果は、後述する実施例で充分実証されている。
【0041】
本発明除去剤の添加量などは、処理すべき汚染物質の濃度やpHなどによって適切に定めれば良い。
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0043】
以下の実施例1〜3では、下記(ア)〜(エ)の4種類の試料を用い、各試料の結晶構造、並びにpHおよび電解質に対する安定性を調べた。
【0044】
(1)試料の製造方法
以下に示すように、TiとFeを0.5:0.5または0.2:0.8のモル比で含有する2種類の非晶質Bimetal水酸化物(本発明例1、2)の試料を製造した。比較のため、Tiのみを含有しFeを含有しない非晶質Monometal水酸化物、およびFeのみを含有しTiを含有しない非晶質Monometal水酸化物(特許文献1および特許文献2に記載の非晶質水酸化鉄)の試料も同様に製造した。
(ア)本発明例1(後記する図および表では、「1:1−s」と略記)
Ti:Fe=0.5:0.5の非晶質Bimetal水酸化物
(イ)本発明例2(後記する図および表では、「1:4−s」と略記)
Ti:Fe=0.2:0.8の非晶質Bimetal水酸化物
(ウ)比較例1(後記する図および表では、「Ti−s」と略記)
Ti:Fe=1.0:0.0の非晶質Monometal水酸化物
(エ)比較例2(後記する図および表では、「Fe−s」と略記)
Ti:Fe=0.0:1.0の非晶質Monometal水酸化物
【0045】
具体的には、まず、硝酸鉄(III)九水和物(和光純薬工業製のFe(NO・9HO)および四塩化チタン(和光純薬工業製のTiCl)を上記の比率に従って希釈し、各溶液5000mLを調製した。次に、pHメーターの電極を上記溶液に浸け、1MのNaOHでpHを7.0に調整した。3時間静置後に1MのNaOHでpHを7.0±0.1に再度調整し、4時間静置後に沈殿物と水が分離した時点で上澄み液をデカンテーション法で取り除いた。得られた沈殿物を透析膜に入れ、脱イオン水に浸けて透析を行った。脱イオン水の電気伝導度(EC)が変化しなくなるまで1日2回脱イオン水を交換した。透析後の沈殿物を凍結乾燥用ビーカーに移し、エタノール層で試料を回しながら凍らせ、完全に凍ったら凍結乾燥機(TOKYO TIKAKIKAI CO.LTD.,FD−1)を用いて凍結乾燥を開始した。凍結乾燥終了後、得られた粉末試料をガラス瓶に入れ、実験を行なうまでデシケーター中で保管した。
【0046】
実施例1 X線回折による結晶構造の確認
上記(1)の方法で得られた(ア)〜(エ)の4種類の試料をアルミ試料板の穴に載せ、平らに押し固めて余分な粉末試料を取り除いた。このように処理した各試料の結晶構造を、X線回折装置(SIMAZDU XD−D1w)を用いて以下の測定条件で行った。
<測定条件>
・電圧 :30kV
・電流 :20mA
・スキャンモード :連続スキャン
・高角度 :80deg
・低角度 :10deg
・積分時間 :1sec
・走査速度 :2deg/min
・フルスケール :5.0kcps
・ゴニオメーターの駆動軸:θ−2θ
・固定軸&角度 :10.0000deg
【0047】
X線回折の結果を図1に示す。参考のため、商業用TiO(和光純薬)のX線回折結果を図1に併記する。
【0048】
図1に示すように、商業用TiOでは結晶性を示すピークがみられたのに対し、上記の方法で製造した4種類の試料は、いずれも結晶性を示すピークは見られず、非晶質の形態であると推察された。
【0049】
実施例2 安定性試験(pHの影響)
本実施例では、pHに対する安定性(pH3〜11)を調べた。
【0050】
まず、100mL容フタ付瓶に0.05MのNaCl溶液を40mL入れ、この溶液をスターラーで撹拌しながら、0.1MのHClと0.1MのNaOHでpH=3、5、7、9、11に調整した。このようにして得られたpH調整液のそれぞれに、上記の各試料を10mg(250mg/L)ずつ加えて24時間振とうした後、0.45μmメンブレンフィルターで濾過した。濾液中のTiおよびFeの濃度を、高周波プラズマ発光分光分析装置(SHIMADZU ICP−1000IV)にて測定し、TiおよびFeの溶解率を調べた。
【0051】
これらの結果を表2に示す。また、各試料における濾液中のTi残存濃度およびFe残存濃度の結果を、それぞれ、図2(a)および図2(b)に示す。濾液中のTi/Feの残存濃度が低い程、試料からのTi/Feの溶解が少なく、安定であることを意味している。
【0052】
【表2】

【0053】
まず、Fe濃度について考察する。図2(b)から明らかなように、本発明例1、2は、比較例1、2と同様、pH3でFeの濃度が最も高くなったが、いずれも10mg/L以下であり、環境省による鉄の水質汚濁防止法の排水基準値(10mg/L以下)を満足していた。pH3のFe濃度が最も高かった本発明例2からのFe溶解率は、全Fe量(40mg)の約6%以下であり、pHの変化に対して概ね安定であることが確認された。
【0054】
次に、Ti濃度について考察する。図2(a)から明らかなように、本発明例1、2は、比較例1、2と同様、pHの変化にかかわらず殆ど安定であり、いずれも1mg/L以下と非常に低く、Feに比べて極めて安定であることが分かった。また、本発明例からのTi溶解率は、全Ti量(40mg)の約1%程度であり、pHの変化に対して極めて安定であることが確認された。
【0055】
実施例3 安定性試験(電解質の影響)
本実施例では、電解質(NaCl)に対する安定性を調べた。
【0056】
まず、100mL容フタ付瓶に0.05MのNaCl溶液を40mL加え、スターラーで撹拌しながら、0.1MのHClと0.1MのNaOHを用いてpH5.0±0.1に調整した。このpH調整液(pH5)中に上記の各試料を10mgずつ加えて24時間振とうした後、0.45μmメンブレンフィルターで濾過した。濾液中のTi濃度およびFe濃度を、前述した実施例2と同様にして測定した。
【0057】
比較のため、0.05MのNaCl溶液の代わりに脱イオン水を用意し、上記と同様にして実験を行い、濾液中のTi濃度およびFe濃度を測定した。
【0058】
これらの結果を図3に示す。図3(a)および図3(b)は、各試料における濾液中のFe濃度およびTi濃度の結果をそれぞれ、示している。
【0059】
まず、Fe濃度について考察する。図3(a)から明らかなように、本発明例1、2のFe濃度は、比較例2と同様、約0.5mg/L以下と非常に低く、環境省による鉄の水質汚濁防止法の排水基準値(10μg/L以下)を充分満足していた。
【0060】
次に、Ti濃度について考察する。図3(b)から明らかなように、本発明例1、2のTi濃度は、Feの場合と同様、約0.5mg/L以下と非常に低かった。
【0061】
以上の結果より、本発明例1、2の試料は、NaClに殆ど溶解せず、電解質中で極めて安定であることが確認された。
【0062】
以下の実施例4〜7では、上記(ア)〜(エ)の各試料を用い、種々の条件下でヒ素の吸着試験を行なった。実験に用いたヒ素溶液の調製方法は以下のとおりである。
【0063】
ヒ酸[As(V)]および亜ヒ酸[As(III)]はそれぞれ、NaHAsO・7HO、NaAsOを脱イオン水で希釈し、1000mg/Lに調整したものを原液として用いた。後記する吸着実験には、この原液を脱イオン水で適宜希釈した水溶液を用いた。
【0064】
実施例4 ヒ素の吸着試験(1)
本実施例では、ヒ素濃度:5mg/L、試料の添加量:10mg、pH7.0、0.05MのNaClの一定条件下で、以下のようにして吸着処理を行なった。
【0065】
まず、0.05MのNaClを電解質として用い、5.0mg/Lのヒ素溶液を40ml調製した。この溶液をスターラーで撹拌しながら、0.1MのHClと0.1MのNaOHを用いてpH7±0.1に調整した。このpH調整液に各試料を10mgずつ加えて24時間振とうした後、0.45μmメンブレンフィルターで濾過した。
【0066】
このようにして得られた濾液中のAs(V)濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(SHIMADZU ICP−1000IV)にて測定した。また、濾液中のAs(III)濃度は、形態別As分析用前処理装置(SHIMAZU:ASA−2sp)を接続した原子吸光光度計(SHIMAZU:AA−6800)にて測定した。As(III)については、酸化によりAsの形態が変化しないように窒素ガスで充満させたグローブボックス(As−600BR アズワン株式会社)内で吸着処理を行い、分析直前までシリコン栓をした。
【0067】
これらの結果を図4に示す。濾液中As(V)およびAs(III)の濃度は、それぞれの残存率を示し、残存率が高いほど、吸着量が少ないことを示している。
【0068】
また、表3に、図4の結果から算出したAs(V)およびAs(III)の除去率を示す。
【0069】
【表3】

【0070】
まず、As(III)について考察する。本発明例1、2のAs(III)除去率は、いずれも90%以上と高い。特に、非晶質水酸化物中のFe率が高い本発明例2(1:4−s)では約96.5%と非常に高く、非晶質Feの比較例2よりも高くなった。
【0071】
次に、As(V)について考察する。本発明例1、2のAs(V)除去率は、いずれも約85%以上と高かった。
【0072】
従って、本発明1および本発明2のようなバイメタル試料を用いれば、As(V)に対する優れた除去率が得られるだけでなく、比較例1、2のモノメタル試料では達成できなかった極めて優れたAs(III)に対する除去率も得られる点で、非常に有用であることが確認された。更に、本発明例による優れたAs吸着能は、バイメタル中のFeの比率が高くなるにつれて向上する傾向にあることも確認された。
【0073】
実施例5 ヒ素の吸着試験(2)
本実施例では、ヒ素濃度(初期濃度)を1〜50mg/Lの範囲で変化させたときの吸着能を調べた。詳細には、試料の添加量(10mg)およびpH(As(III)ではpH7.0、As(V)ではpH6.0)を一定にし、ヒ素濃度を表4のように種々変化させ、以下の吸着処理を行った。
【0074】
まず、0.05MのNaClを電解質として用い、1.0mg/L、2.0mg/L、5.0mg/L、7.5mg/L、10.0mg/Lの各種ヒ素溶液を40mL調製した。この溶液をスターラーで撹拌しながら、0.1MのHClと0.1MのNaOHを用いて、As(V)溶液はpH6±0.5に、As(III)溶液はpH7±0.1に、それぞれpHを調整した。このpH調整液に各試料を5mgずつ加え、24時間振とうした後、0.45μmメンブレンフィルターで濾過した。このようにして得られた濾液中のAs(V)濃度およびAs(III)濃度を、前述した実施例4と同様にして測定した。
【0075】
このようにして得られた濾液中のAs残存濃度を表4に示す。表中の太字斜線は、環境省の排水基準値(100μg/L以下)を満足しているものである(以下の表についても同じ。)。
【0076】
【表4】

【0077】
まず、As(III)について検討すると、As濃度が同じ場合、本発明例1および本発明例2の吸着能は、他の試料を用いた場合に比べて上昇する傾向が見られた。As濃度が2mg/L以下の場合、本発明例1および2の試料を用いれば、環境省の排水基準値(0.1mg/L以下)を達成でき、特に、バイメタル中のFeの比率が高い本発明例2を用いれば、比較例2よりも高いAs(III)吸着能が発揮されることが確認された。バイメタル中のTiとFeの比率に着目すると、Feの比率が高い本発明例2の方が、Feの比率が少ない本発明例1よりもAs(III)吸着能が高いことが分かる。
【0078】
上記とほぼ同様の傾向は、As(V)についても見られた。
【0079】
更に、Langmuirのモデル式によって得られる吸着等温線に基づき、表4の結果から各試料におけるAs(III)およびAs(V)の最大吸着量を算出した。その結果を表5に示す。
【0080】
【表5】

【0081】
表5より、As(III)の最大吸着量は、本発明例2では93.6mg/g、本発明例1では88.0mg/gと非常に高く、いずれの比較例よりも高値を示した。また、本発明例1、2におけるAs(V)の最大吸着量は41.9mg/gと、比較例2とほぼ同程度の高値を示した。このように本発明例のヒ素の最大吸着量は非常に高く、従来汎用されている活性アルミナなどの吸着剤に比べても際立って高くなっている。
【0082】
以上の結果を勘案すれば、本発明例の吸着剤は、特に、As(III)の吸着能に優れており、バイメタル中のFeの比率が高いほどヒ素に対する吸着能は向上することが確認された。
【0083】
実施例6 ヒ素の吸着試験(3)
本実施例では、pHを3〜10の間で変化させたときの吸着能を調べた。詳細には、試料の添加量(10mg)およびヒ素濃度(5.0mg/L)を一定にし、pHを3〜10の間で変化させ、以下の吸着処理を行った。
【0084】
まず、0.05MのNaClを電解質として用い、5.0mg/Lのヒ素溶液を40ml調製した。この溶液をスターラーで撹拌しながら、0.1MのHClと0.1MのNaOHを用いて、pH=3、5、7、9、10(いずれも、±0.1の範囲内)に調整した。次に、各pH調整液中に試料を5mgずつ加え、24時間振とうした後、0.45μmメンブレンフィルターで濾過した。このようにして得られた濾液中のAs(V)濃度およびAs(III)濃度を、前述した実施例4と同様にして測定し、濾液中の各ヒ素濃度(残存率)から吸着量を算出した。
【0085】
これらの結果を図5に示す。
【0086】
図5(a)にAs(III)吸着量の結果を示す。本発明例1では、pHが高くなるにつれてAs(III)吸着量が顕著に増加したのに対し、本発明例2では、pHによる変化は本発明1に比べて小さく、アルカリ側(pH8〜9)で高い吸着量を示した。
【0087】
図5(b)にAs(V)吸着量の結果を示す。本発明例1ではpHの影響を殆ど受けないのに対し、本発明例2ではpH3で最も高く、pHが高くなるにつれて吸着量は減少した。
【0088】
また、排水基準のpH範囲(pH5.8〜8.6)に着目すると、As(III)の吸着量は本発明例2が最も高く、As(V)の吸着量は本発明例2より本発明例1の方が高くなった。
【0089】
これらの結果を勘案すると、本発明の吸着剤は、特に排水基準のpH範囲において極めて有効に発揮されることが分かった。また、バイメタル中のTiとFeの比率が異なる2種類以上の吸着剤を併用して用いると、より優れた特性が発揮されることも示唆された。
【0090】
実施例7 ヒ素の吸着試験(4)
本実施例では、吸着剤の添加量を2〜30mgに変化させたときの吸着能を調べた。詳細には、ヒ素濃度(5.0mg/L)およびpH(7±0.1)と一定にし、試料の添加量を表6に示すように変化させ、以下の吸着処理を行った。
【0091】
まず、0.05MのNaClを電解質として用い、5.0mg/Lのヒ素溶液を40ml調製した。この溶液をスターラーで撹拌しながら、0.1MのHClと0.1MのNaOHを用いてpH7±0.1に調整した。このpH調整液に各試料を2mg、5mg、10mg、30mg、50mgずつ加え、24時間振とうした後、0.45μmメンブレンフィルターで濾過した。このようにして得られた濾液中のAs(III)濃度およびAs(V)濃度を、前述した実施例4と同様にして測定した。
【0092】
これらの結果を表6にまとめて示す。
【0093】
【表6】

【0094】
表より、吸着剤の添加量が増加するにつれ、As(III)およびAs(V)の残存濃度は減少し、吸着量は増加した。
【0095】
詳細には、As(III)の吸着能は、本発明例2が最も優れており、比較例2よりも高くなった。本発明1のAs(III)吸着能も高く、本発明例1、2はいずれも、20mgの添加量でAs(III)濃度を排水基準値以下に低減することができた。
【0096】
また、As(V)の吸着能は、比較例2よりも若干劣るが、本発明例1、2のいずれも、20mgの添加量でAs(V)濃度を排水基準値以下に低減することができた。すなわち、ヒ素濃度5mg/Lの溶液に本発明例の試料を0.5〜1g/L程度添加すれば、ヒ素濃度を排水基準値以下に抑えられることが分かった。
【0097】
これらの実施例の結果より、本発明例1、2のAs吸着能は非常に優れており、特に、As(III)に対する吸着能が格段に向上すること、このような効果は、バイメタル中のFeの比率が高いほど有効に発揮されることが充分実証された。水中にはAs(III)とAs(V)の両方が存在することを考慮すると、Feの比率が高い本発明例2はいずれの吸着量も高いため、As吸着剤として極めて有用であることが示唆された。また、これらの結果より、吸着剤の添加量やpHなどの処理条件を適切に調整することによって、処理水のAs濃度をWHOの飲料水基準値(10μg/L)以下に抑えることも充分可能であることが示唆された。更には、本発明例1と本発明例2を組み合わせて用いるなどの二段階吸着処理を行うことにより、As(V)とAs(III)の両方をより完全に除去することも可能であると考えられる。
【0098】
実施例8 Cdの吸着試験
本実施例では、上記(ア)〜(ウ)の3種類の試料を用い、試料の添加量(10mg)およびpH(7±0.1)を一定にし、Cd濃度(初期濃度)を5〜50mg/Lの範囲で変化させたときの各試料のCd吸着能を調べた。
【0099】
まず、CdCl2を脱イオン水で希釈し、1000mg/Lに調製したものを原液として用いた。この原液を脱イオン水で更に適宜希釈し、5mg/L、10mg/L、20mg/L、30mg/L、50mg/Lの各種濃度のCd溶液を40mLずつ調製した。
【0100】
次に、100mL容フタ付瓶に0.05MのNaCl溶液40mLを加えた後、上記の各種Cd溶液を40mLずつ加えたこの溶液をスターラーで撹拌しながら、0.1MのHClと0.1MのNaOHを用いてpH7±0.1に調整した。このpH調整液に各試料を10mgずつ加え、24時間振とうした後、0.45μmメンブレンフィルターで濾過した。このようにして得られた濾液中のCd濃度を、原子吸光光度計(SHIMAZU:AA−6800)を用いて測定し、濾液中のCd濃度(残存率)から吸着量を算出した。
【0101】
このようにして得られたCd吸着量を図6に示す。また、濾液中のCd残存濃度を表7に示す。
【0102】
【表7】

【0103】
これらの結果より、本発明例1(表および図中、「1:1−s」)および本発明例2(表および図中、「1:4−s」)のCd吸着能は、比較例1(表および図中、「Fe−s」)と同等またはそれ以上に優れており、Cd初期濃度が5〜30mg/Lの場合、比較例1よりも優れたCd吸着能が確認された。
【0104】
更に、Langmuirのモデル式によって得られる吸着等温線に基づき、表7の結果から各試料におけるCdの最大吸着量を算出した。その結果、Cdの最大吸着量は、Feの比率が少ない本発明例1では約33mg/gであり、一方、Feの比率が高い本発明例2と比較例1の最大吸着量は同じで、約26mg/gであった。
【0105】
実施例9 Pbの吸着試験
本実施例では、上記(ア)〜(ウ)の3種類の試料を用い、試料の添加量(10mg)およびpH(6±0.1)を一定にし、Pb濃度(初期濃度)を5〜250mg/Lの範囲で変化させたときの各試料のCd吸着能を調べた。
【0106】
まず、PbCl2を脱イオン水で希釈し、1000mg/Lに調製したものを原液として用いた。この原液を脱イオン水で更に適宜希釈し、5mg/L、10mg/L、100mg/L、150mg/L、200mg/L、250mg/Lの各種Pb溶液を40mLずつ調製した。
【0107】
次に、100mL容フタ付瓶に0.05MのNaCl溶液40mLを加えた後、上記の各濃度のPb溶液を40mLずつ加えた。この溶液をスターラーで撹拌しながら、0.1MのHClと0.1MのNaOHを用いてpH6±0.1に調整した。このpH調整液に各試料を10mgずつ加え、24時間振とうした後、0.45μmメンブレンフィルターで濾過した。このようにして得られた濾液中のPb濃度を、原子吸光光度計(SHIMAZU:AA−6800)を用いて測定し、濾液中のPb濃度(残存率)から吸着量を算出した。
【0108】
このようにして得られたCd吸着量を図7に示す。また、濾液中のPb残存濃度(mg/L)を表8に示す。
【0109】
【表8】

【0110】
これらの結果より、本発明例1(表および図中、「1:1−s」)および本発明例2(表および図中、「1:4−s」)のPb吸着能は、比較例1とほぼ同等またはそれ以上に優れており、Pb初期濃度が250mg/L近傍では、比較例1(表および図中、「Fe−s」)よりもPb吸着能が高くなる傾向が見られた。
【0111】
更に、Langmuirのモデル式によって得られる吸着等温線に基づき、各試料におけるPbの最大吸着量を算出した。その結果、Pbの最大吸着量は、本発明例2が最も高く257.4mg/gであり、次いで、本発明例1の216.3mg/gであり、いずれも比較例1(187.7mg/g)より高かった。
【0112】
実施例10 Crの吸着試験
本実施例では、上記(ア)〜(ウ)の3種類の試料を用い、試料の添加量(10mg)およびCr濃度(5.0mg/L)を一定にし、pHを2〜10の間で変化させたときのCr吸着能を調べた。
【0113】
まず、Cr(NO・9HO[Cr(III)]およびKCr[(Cr(VI)]をそれぞれ脱イオン水に希釈し、1000mg/Lに調製したものを原液として用い、脱イオン水で希釈して、5.0mg/Lの各Cr溶液を調製した。
【0114】
次に、100mL容フタ付瓶に0.05MのNaCl溶液40mLを加えた後、上記の各Cr溶液を40mLずつ加えた。この溶液をスターラーで撹拌しながら、0.1MのHClと0.1MのNaOHを用いてpH=2、4、6、8、10(いずれも±0.1の範囲内)に調整した。次に、各pH調整液中に試料を10mgずつ加え、24時間振とうした後、0.45μmメンブレンフィルターで濾過した。このようにして得られた濾液中のCr(III)濃度およびCr(VI)濃度を、原子吸光光度計(SHIMAZU:AA−6800)を用いて測定し、濾液中の各Cr濃度(残存率)から吸着量を算出した。
【0115】
Cr(VI)吸着量の結果を図8(a)に、Cr(III)吸着量の結果を図8(b)に、それぞれ示す。
【0116】
図8に示すように、本発明例(図中、「1:1−s」および「1:4−s」)はいずれも、比較例1(図中、「Fe−s」)とほぼ同程度の良好なCr吸着能を有しており、Cr(VI)では、本発明例2の方が良好な吸着作用が確認された。
【0117】
更にCr溶液のpHと各試料のCr吸着能を詳細に検討すると、Crイオンの種類によって相違が見られた。詳細には、Cr(III)ではpHが高くなるにつれて吸着量が増加し、pH8〜10の範囲で、いずれの試料も吸着量が最大となったのに対し、Cr(VI)ではpHが低くなるにつれて吸着量は高くなってpH2〜3近傍で吸着量が最大となり、pHが高くなると吸着量は低下した。Cr(VI)の上記挙動は前述したAs(V)に類似しており、Cr(III)の上記挙動は前述したAs(III)に類似している。
【0118】
このようにCrイオンの種類によって逆転現象が生じるのは、両者のイオン形態が相違することに起因すると考えられる。すなわち、Cr(VI)は水中で、HCrO,CrO2−,Cr2−などのアニオン形態で存在するのに対し、Cr(III)は水中で、Cr(OH)2+,Cr(OH),Cr(OH)4+,Cr(OH)5+などのカチオン形態で存在する。一般にpHが高くなるにつれ、吸着剤の表面は負荷電が増加するため,カチオンであるCr(III)イオンが引きつけられ、当該Cr(III)の吸着量が増加する。逆にpHが低くなると吸着剤の表面は正の荷電が増加するため、アニオンであるCr(VI)イオンが引きつけられ、当該Cr(VI)の吸着量が増加する。その結果、Cr(III)とCr(VI)は、正反対の挙動を示したと考えられる。
【0119】
上記8〜10の実験結果より、本発明の除去剤は、Asのほか、Cd、Cr、Pbに対しても良好な吸着除去作用を有することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属を除去するための除去剤であって、非晶質Ti−Fe水酸化物を含有することを特徴とする除去剤。
【請求項2】
重金属を除去するための除去剤であって、硝酸鉄(III)または塩化鉄(III)と塩化チタン(IV)との混合水溶液をアルカリ金属水酸化物で中和して得られる沈殿物を含有することを特徴とする除去剤。
【請求項3】
Ti:Feのモル比は、1:1〜1:5である請求項1または2に記載の除去剤。
【請求項4】
前記重金属は、ヒ素、カドミウム、鉛、およびクロムなる群より選択される少なくとも一種である請求項1〜3のいずれかに記載の除去剤。
【請求項5】
重金属に汚染された汚染物質から重金属を除去する方法であって、請求項1〜4のいずれかに記載の除去剤を前記汚染物質と接触させることを特徴とする除去方法。
【請求項6】
前記汚染物質は汚染水または汚染土壌である請求項5に記載の除去方法。
【請求項7】
前記汚染物質はヒ素またはクロムであり、pH3〜10下で接触させるものである請求項5または6に記載の除去方法。
【請求項8】
前記汚染物質は鉛であり、pH4〜6.5下で接触させるものである請求項5または6に記載の除去方法。
【請求項9】
前記汚染物質はカドミウムであり、pH4〜8下で接触させるものである請求項5または6に記載の除去方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−255050(P2009−255050A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26625(P2009−26625)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年2月13日〜14日 国立大学法人高知大学主催の「高知大学大学院農学研究科修士論文発表会」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年3月 高知大学総合研究センター発行の「高知大学リサーチマガジン第3号」に発表
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【Fターム(参考)】