説明

除染装置

【課題】除染済みの収容物(樹脂容器)78を収容したバッグ2を、簡単な構成で効率よく除染し、そのまま無菌環境で開封する。
【解決手段】除染前の物品(バッグ)2を加熱する加熱室8と、室内に過酸化水素蒸気を吹き出す吹き出し口56が設けられ、加熱室8で加熱されたバッグ2を過酸化水素蒸気で除染する除染室10と、除染後のバッグ2をエアレーションするエアレーション室12とが連続して設けられ、これら各室8、10、12内に配置された搬送手段4によってバッグ2を搬送しつつ前記各処理を行うものであり、さらに、過酸化水素蒸気が広い範囲に拡散しないように、前記除染室10を狭いトンネル状の空間とし、この除染室10の内壁面を、ヒータ60によって加熱するようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素蒸気によって物品を除染(汚染を除去すること)する除染装置に係り、特に、物品を搬送しつつ連続的に処理を行うようにした除染装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無菌充填ラインにおいて内容物が充填される容器を、予め除染し、包装体に収容した状態で供給するようにしたものが従来から知られている。このような容器は、包装体の外面を除染した後、無菌環境下で開封して取り出され、その後、充填装置に送られて充填が行われる。
【0003】
前記のように除染済みの物品を収容した包装体の外面を除染した後、無菌環境下で開封するようにした装置はすでに知られている(例えば、特許文献1、特許文献2および特許文献3参照)。これら各特許文献に記載された装置は、いずれもバッチ処理を行うものであり、大量の物品の処理を行うためには、内部で除染を行う除染庫あるいは除染後の物品の保管庫等の設備が大型化するという問題があった。
【0004】
これに対し、前記除染済みの物品を収容した包装体の処理を連続的に行う除染装置が提案されている(特許文献4参照)。この特許文献4に記載された除染装置(特許文献4では、パッケージを殺菌するための装置と呼んでいる)は、加熱ゾーンと、殺菌ゾーンと、通気ゾーンと、それに連結された充填ゾーンとを有しており、これら各ゾーンが隔壁によって互いに隔てられている。
【0005】
前記加熱ゾーンでは、上部のノズルから高温の無菌空気を導入し、底部の出口から高温の空気を引き出すようになっている。同様に、殺菌ゾーンには、上部のノズルからガス状過酸化水素を導入し、底部の出口から過酸化水素を引き出すようにしている。また、通気ゾーンは、上部のノズルから高温の無菌空気を導入し、底部の出口から高温の空気を引き出すようにしている。この殺菌装置では、加熱ゾーンで加熱されたパッケージが殺菌ゾーンに移動され、上部のノズルから導入されたガス状過酸化水素に曝されて殺菌される。その後、通気ゾーンで過酸化水素が除去される。
【特許文献1】特許第3503284号公報(第2頁、第6頁、図1)
【特許文献2】特開2005−205067号公報(第5−8頁、図2)
【特許文献3】特開2005−143726号公報(第5−7頁、図2)
【特許文献4】特表2006−508873号公報(第6−8頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献4に記載された発明の構成では、殺菌ゾーン内を所定の過酸化水素ガス濃度に維持し、室内に殺菌対象物を通過させることで殺菌するように構成されている。ところが、殺菌対象物を過酸化水素ガス雰囲気に充分に暴露させる必要があるため、殺菌対象物が大きくなると殺菌ゾーン内に長い搬送路が必要となり装置が大型化するとともに、殺菌に時間がかかるという問題があった。また、殺菌ゾーン内に汚染された状態の物品が順次搬入され、殺菌済みの物品が再汚染される可能性があった。
【0007】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、高濃度の過酸化水素蒸気で短時間に除染を行い、また、装置が大型化することを避けることができる除染装置を提供することを目的とするものである。さらに、過酸化水素蒸気の凝縮や結露を防止して効率的に除染を行えるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、除染前の物品を加熱する加熱室と、加熱された物品を過酸化水素蒸気で除染する除染室と、除染後の物品をエアレーションするエアレーション室と、前記物品を搬送して前記各室を通過させる搬送手段とを備え、この搬送手段によって前記除染室内を搬送される物品に、過酸化水素蒸気を接触させてその表面を除染する除染装置において、前記除染室に、この室内に過酸化水素蒸気を吹き出す吹き出し口と、吹き出し口から吹き出された過酸化水素蒸気が物品の周囲から拡散することを防止するために物品の周囲を覆う内壁面と、この内壁面の表面を加熱する加熱手段とを設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の除染装置は、吹き出し口から吹き出された過酸化水素蒸気が物品の周囲から拡散することを防止するために物品の周囲を内壁面で覆っているので、高濃度の過酸化水素蒸気で短時間に除染を行うことが可能である。また、除染室の内壁面を加熱する加熱手段を設けたので、過酸化水素蒸気の凝縮や結露を防止して効率的に除染を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
除染前の物品を加熱する加熱室と、過酸化水素蒸気を吹き出す吹き出し口が設けられ、前記加熱室で加熱された物品を前記過酸化水素蒸気で除染する除染室と、除染後の物品をエアレーションするエアレーション室と、前記物品を搬送して、前記各室内を通過させる搬送手段とを備えており、さらに、吹き出し口から吹き出された過酸化水素蒸気が物品の周囲から拡散することを防止するために物品の周囲を覆っている内壁面の、表面を加熱する加熱手段を設けたので、過酸化水素蒸気の凝縮や結露を防止して効率的に除染を行うという目的を達成することができる。
【実施例1】
【0011】
以下、図面に示す実施例により本発明を説明する。図1は本発明の一実施例に係る除染装置の全体の構成を示す縦断面図、図2は前記図1の要部の横断面図および過酸化水素蒸気の供給経路を示す概略構成図である。この除染装置は、予め除染された収容物(例えば、樹脂容器)がバッグ2内に収容された状態で供給され、搬送手段4によって搬送される間に除染処理が行われ、その後、無菌空間内でバッグ2を開放して内部の樹脂容器を取り出すようにしている。なお、バッグ2が請求項に記載した物品である。
【0012】
この除染装置は、隔壁によって区画された複数のチャンバー6、8、10、12、14、16が設けられており、これら各チャンバー6〜16内に渡って設置された搬送手段4によって、外部から導入された前記バッグ2を搬送する間に除染および樹脂容器の取り出し等の処理を行う。搬送手段4は、両端のプーリ18、20に掛け回された搬送ケーブル22に所定の間隔でフック24が取り付けられており、これら各フック24にバッグ2が一つずつ吊り下げられて搬送される。この搬送手段4によって搬送されてきたバッグ2が最初に導入される第1のチャンバー6は、この除染装置の内部の各処理を行うチャンバー(後に説明するチャンバー8、10,12、14参照)内に外気が流入し、あるいは前記チャンバー8、10,12、14内の気体が外部に流出することを防止する前室(ダイナミックエアロック室)であり、排気用ブロア26によって内部が排気されて陰圧に維持されている。
【0013】
前記前室6と隔壁28を隔てて隣接する第2チャンバー8は、前記搬送手段4のフック24に吊り下げられて搬入されてきたバッグ2を加熱する加熱室である。この加熱室8には、給気ブロア30によって、外部のエアがヒータ32に送られ加熱されてから送り込まれる。また、この加熱室8内のエアは、排気用ブロア34によって排出される。この排気されるエアは、後に説明する除染室10から加熱室8内に流れ出た過酸化水素蒸気を含んでいるため、触媒36を介して過酸化水素を分解した後排出する。なお、前記第1チャンバー6の入口壁38、および、第1チャンバー(前室)6と第2チャンバー(加熱室)8との間の隔壁28には、前記搬送手段4の搬送ケーブル22および、この搬送ケーブル22にフック24を介して吊り下げられているバッグ2が通過可能なサイズの開口38a、28aが設けられている。加熱室8は、給気用ブロア30による給気量と排気用ブロア34による排気量を制御することにより、内部の圧力が所定の陽圧に維持されている。
【0014】
前記第2チャンバー(加熱室)8に続いて第3チャンバーである除染室10が配置されている。この除染室10は、図2に示すように、搬送ケーブル22とこの搬送ケーブル22にフック24を介して吊り下げられているバッグ2が通過できるだけの広さ(断面積)を有するトンネル状に形成されている。この除染室10には、過酸化水素蒸気供給装置40が接続されている。過酸化水素蒸気供給装置40は、過酸化水素溶液を収容する容器42内の液をポンプ44によって蒸発器46に送って蒸発させ、一方、外部の空気をブロア48によって導入し、除湿機50を通じて除湿した後、ヒータ52で加熱して前記蒸発器46に送り、この蒸発器46で蒸発させた過酸化水素蒸気を、加熱したエアによって前記除染室10に供給する。
【0015】
除染室10は、両側の側壁10a、10bに複数の吹き出し口56が設けられており、前記過酸化水素蒸気供給装置40から配管58を通して送られた過酸化水素蒸気がこれら複数の吹き出し口56から吹き込まれる。除染室10の側壁10a、10b、天壁10cおよび底壁10dの外面を囲んでヒータコード60が装着されている。この除染室10のトンネル状の空間を囲む壁面(側壁10a、10b、天壁10C、底壁10d)全体にヒータ60が装着されてこれら壁面10a、10b、10C、10dを加熱するようになっており、トンネル状の空間を囲んでいる内壁面(全体を符号10eで示す)を加熱することによって、その表面が結露することを防止している。
【0016】
除染室10は、内部の空間が前記搬送ケーブル22とこの搬送ケーブル22のフック24に吊り下げられているバッグ2が通過できるだけの狭い空間(断面積)になっており、前記吹き出し口から室10内に吹き込まれた過酸化水素蒸気がバッグ2の周囲から拡散することを防止するようにバッグ2の周囲を覆っている。第2チャンバーである加熱室8の出口側の壁面62には、除染室10の断面積とほぼ同じサイズの開口62aが形成されている。そして、この除染室10への入口(開口62a)の加熱室8側には、カーテン64が設置されている。
【0017】
除染室10の下流側には、第4チャンバーであるエアレーション室12が設けられている。このエアレーション室12の入口側の壁面66には、除染室10の断面積とほぼ同じサイズの開口66aが形成されている。そして、この除染室10からの出口(前記開口66a)のエアレーション室12側には、カーテン68が設置されている。除染室10の入口側と出口側に設置されたカーテン64、68によって、除染室10内の圧力が維持されるようになっている。エアレーション室12内は、給気用ブロア70によってエアが供給されるとともに、排気用ブロア72によって排気されている。この排気管には、触媒74が設けられており、エアレーション室12から排気されたエアに含まれている過酸化水素を分解して除去する。このエアレーション室12内は、給気用ブロア70による給気量と排気用ブロア74による排気量を制御することにより、前記加熱室8とほぼ同じ高さの陽圧に維持されている。また、前記除染室10内は、前記加熱室8およびエアレーション室12よりも高い圧力の陽圧に維持されている。
【0018】
第4チャンバーであるエアレーション室12の下流側の第5チャンバー14は、除染が終了した後エアレーションによって過酸化水素蒸気が除去されたバッグ2を、開封して内部に収容されている収容物78を取り出す作業を行う処理室である。この処理室14には、外部の作業者が室内に両手を挿入して作業ができるようにグローブ76が設けられている。この処理室14では、外部の作業者がグローブ76を介して室内に手を挿入し、バッグ2を開封して内部の収容物78を取り出してホッパ80内に投入する。ホッパ80内に投入された収容物78は、次の工程、例えばフィラ等に送られる。この処理室14には、給気用ブロア82からエアが供給され、前記エアレーション室12よりも高い陽圧に維持されている。
【0019】
容器等の収容物78をバッグ2から取り出す第5チャンバー(処理室)14の下流側には、第6チャンバー16が設けられている。この第6チャンバー16は、前記上流側の各チャンバーに外気が流入しあるいは内部の処理室14側の雰囲気が外部に流出することを防止する後室(ダイナミックエアロック室)であり、前記前室6と同様に、排気用ブロア84によって内部が排気されて陰圧に維持されている。前記エアレーション室12と処理室14との間の隔壁86、処理室14と後室16との間の隔壁88および後室16の外部側の壁面90には、それぞれ、搬送ケーブル22およびバッグ2が通過可能な開口86a、88a、90aが形成されている。
【0020】
以上の構成に係る除染装置の作動について説明する。運転中は、第1チャンバー6、第2チャンバー8、第4チャンバー12、第5チャンバー14および第6チャンバー16に、それぞれ設けられている給気用ブロア30、70、82および排気用ブロア26、34、72、84から各チャンバー6、8、12、14、16内にエアを供給するとともに、室内のエアを排出することにより、第5チャンバーである処理室14を最も高い陽圧に、そして、第2チャンバーである加熱室8と第4チャンバーであるエアレーション室12内を、前記処理室14よりも低い圧力の陽圧に維持し、さらに、第1チャンバーである前室6と第6チャンバーである後室16を陰圧に維持しておく。また、第3チャンバーである除染室10に、過酸化水素蒸気供給装置40から過酸化水素蒸気を吹き込み、このチャンバー10内を所定の過酸化水素蒸気濃度に維持するとともに、このチャンバー10内を、前記処理室14とほぼ同じ圧力の陽圧に維持しておく。
【0021】
この状態で、搬送手段4の搬送ケーブル22に等間隔で設けられているフック24に、除染済みの樹脂容器(収容物78)が収容されて密封状態になっているバッグ2を一つずつ引っ掛けて吊り下げる。搬送手段4の搬送ケーブル22が走行して、バッグ2は順次第1チャンバーである前室6内に搬入される。この前室6は、陰圧に維持されており、外部側から侵入してきたエアと、下流側の加熱室8側から流れ込む雰囲気が排気用ブロア26によって排気されるので、この前室6を越えて内部に侵入したり、外部に排出されることがない。
【0022】
前室6を通過したバッグ2は搬送ケーブル22の走行により第2チャンバー(加熱室)8に搬入される。加熱室8にはヒータ32を介して加熱されたエアが供給されており、バッグ2は次の除染室10で除染が行われる前に予備加熱される。
【0023】
加熱室8を通過したバッグ2は第3チャンバー(除染室)10に搬入される。この除染室10内は、過酸化水素蒸気供給装置40から送られた過酸化水素蒸気が側壁10a、10bに設けられている吹き出し口56から吹き込まれ、しかも、搬送ケーブル22とバッグ2が通過可能であるだけの狭い断面積を有するトンネル状になっており、この狭い空間内に過酸化水素蒸気が吹き込まれることにより、過酸化水素蒸気が所定の高濃度に維持されている。従って、この除染室10を通過するバッグ2が短時間で除染される。また、除染室10の周囲の壁面10a、10b、10c、10dには、外面側にヒータコード60が巻き付けられて加熱されており、この除染室10の内壁面10eの表面が所定の温度に維持されているので、過酸化水素蒸気の凝縮や結露を抑制することができ、効率的に除染を行うことができる。なお、この除染室10は、最も高い陽圧に維持されているので、除染前の上流側の雰囲気が侵入することはない。
【0024】
除染室10で除染が行われたバッグ2は、次の第4チャンバー(エアレーション室)12で、給気用ブロア70から吹き付けられたエアによって、除染室10で付着した過酸化水素蒸気が除去される。この過酸化水素は、排気用ブロア72によって排出される際に触媒74によって分解される。
【0025】
除染およびエアレーションが行われたバッグ2は、第5チャンバー(処理室)14に搬入される。この処理室14では、外部の作業者がグローブ76を介して両手を挿入し、バッグ2を開放してバッグ2内に収容されていた収容物78を取り出し、ホッパ80内に投入する。処理室14では外部の作業者がグローブ76を介して収容物78をバッグ2から取り出すので、処理室14内の環境を破壊することはない。この処理室14まで密封された状態で搬送されてきたバッグ2は、以後は開封された状態(開封された状態のバッグを符号2Aで示す)で搬送される。
【0026】
開封されたバッグ2Aは、後室16を通過して外部に排出される。後室16内も前室6と同様に陰圧に維持されているので、内部の雰囲気が外部に漏れることはなく、外部のエアが内部に侵入することもない。搬送ケーブル22の走行によって外部に搬出された開封後のバッグ2Aは、フック24から取り外され、このフック24には、除染済みの収容物(樹脂容器等)78が収容された新たなバッグ2が吊り下げられて、前記と同様の動作が行われる。このように各チャンバー6〜16内を走行する搬送手段4によって、除染済みの収容物78を収容したバッグ2を搬送しつつ連続的に除染することができるので、極めて効率的であり、しかも、装置を大型化することなく、コンパクトなスペースに設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】除染装置の全体の構成を簡略化して示す構成図である。(実施例1)
【図2】図1の除染装置の除染室を断面にした図および過酸化水素蒸気供給装置の構成図である。
【符号の説明】
【0028】
2 物品(バッグ)
4 搬送手段
8 加熱室
10 除染室
10e 除染室の内壁面
12 エアレーション室
56 吹き出し口
60 加熱手段(ヒータコード)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
除染前の物品を加熱する加熱室と、加熱された物品を過酸化水素蒸気で除染する除染室と、除染後の物品をエアレーションするエアレーション室と、前記物品を搬送して前記各室を通過させる搬送手段とを備え、この搬送手段によって前記除染室内を搬送される物品に、過酸化水素蒸気を接触させてその表面を除染する除染装置において、
前記除染室に、この室内に過酸化水素蒸気を吹き出す吹き出し口と、吹き出し口から吹き出された過酸化水素蒸気が物品の周囲から拡散することを防止するために物品の周囲を覆う内壁面と、この内壁面の表面を加熱する加熱手段とを設けたことを特徴とする除染装置。

【図1】
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【図2】
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