説明

陰極線管及び表示装置

【課題】 陰極構体の熱損失を低減し、品質信頼性を向上させる。
【解決手段】 陰極構体は、ヒーター1を収納するスリーブ2と、スリーブ2の外側面を取り囲むように配置された筒状の陰極支持体3と、スリーブ2の中心軸2aが陰極支持体3の中心軸に略一致するように、スリーブ2と陰極支持体3とを連結する複数の支持部材4とを備える。複数の支持部材4のそれぞれの長手方向は、中心軸2aを含むいずれの平面とも平行でない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰極線管、及び、その陰極線管を用いた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
陰極線管について、その構造、及び、その動作原理について簡単に説明する。図9は代表的な陰極線管の断面図である。陰極線管は、フェースパネル16とファンネル15とが接合されてなり、内部が1×10-5Pa以下の高真空状態に保持されたガラス製のバルブを備える。バルブの内部には、電子銃11、内部磁気シールド17、シャドウマスク18等が封入されている。電子銃11は、ファンネル15のネック部12内に収納され、フェースパネル16の内面に形成されたスクリーン面19に向かって電子ビームを発射する。内部磁気シールド17は、電子ビームを外部磁界から遮蔽する。シャドウマスク18は、電子ビームを選択的に通過させる多数の電子ビーム通過孔が形成された板状の金属板からなり、スクリーン面19に対向して配置される。ファンネル15の外側には、コンバーゼンスヨーク13、及び、電子ビームを水平方向及び垂直方向に偏向させる偏向ヨーク14が取り付けられている。電子銃11の末端(スクリーン面19とは反対側端)に搭載された熱陰極から取り出された電子は、電子銃11内に形成される電子レンズによってスクリーン面19に形成された蛍光面上に収束され、且つ、偏向ヨーク14によってスクリーン面19を順次走査することで、スクリーンに映像が形成される。
【0003】
熱陰極を含む陰極構体について、簡単に説明する(例えば、特許文献1参照)。図10は代表的な陰極構体の一部切り欠き斜視図、図11は第1グリッド側から見たその上面図である。陰極構体は、ヒーター1を収納した円筒状の金属製のスリーブ2と、スリーブ2の外側面を取り囲むように配置された円筒状の陰極支持体3と、スリーブ2と陰極支持体3とを連結する複数の棒状の支持部材4とを備える。各支持部材4の一端はスリーブ2の外側面に溶接されており、他端は陰極支持体3の上端に溶接されている。複数の支持部材4は、スリーブ2の中心軸2aが陰極支持体3の中心軸と略一致するように、スリーブ2を陰極支持体3に対して保持している。スリーブ2の上面には、電子放射領域となるエミッタ5が配置されている。このような陰極構体は、陰極支持体3を介して、電子銃を構成する複数の電極を一体に保持する複数のサポートロッド(ビードガラス)に保持される。
【特許文献1】特開平11−283488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
陰極構体を動作させるためには、電子放出領域となるエミッタ5の温度を高温に保持する必要がある。エミッタ5の一般的な動作温度は、エミッタ5の種類によって変化するが、例えば、アルカリ土類金属材料などを塗布した酸化物型陰極構体であれば約800℃、タングステン製のペレットなどにバリウムなどの材料を含浸させた含浸型陰極構体であれば約1000℃である。
【0005】
エミッタ5の温度を高くするほどエミッション性能は上昇するが、ヒーター1の出力をむやみに上昇すると品質信頼性などの観点で不具合が生じる。
【0006】
ヒーター1の出力の上昇に伴う具体的な不具合としては、ヒーター1の点灯後のエミッション電流量の経時変化、エミッタ5から蒸発したバリウムなどがグリッド電極に付着して、グリッド電極が不要電子の放出源となるグリッドエミッション、などがある。
【0007】
これらの不具合を回避するためには、ヒーター1の出力を下げることが有効な手段である。ところが、エミッション性能を確保するためには、上記のようにエミッタ5の温度を確保する必要がある。
【0008】
エミッタ5の定格温度と、品質不具合の回避とを同時に実現するためには、陰極構体での熱損失をできるだけなくした効率の良い熱設計が要求される。陰極構体における熱損失の中でも支持部材4を介したスリーブ2から陰極支持体3への熱伝導による熱損失の占める割合は大きく、この熱損失を改善することでヒーター1の出力を低減することが可能である。
【0009】
支持部材4を介した熱損失を低減するためには、支持部材4の断面積を小さくすることが有効であると考えられる。ところが、支持部材4の断面積をむやみに小さくすると、支持部材4の機械強度が弱くなるため、陰極構体の生産歩留まりが大幅に劣化してしまう。実際の陰極構体の設計においては、支持部材4での熱損失と、陰極構体の歩留まりとを考慮して、支持部材4の断面が矩形の場合であれば、幅が0.3mm程度、厚さが0.1mm程度の略長方形にされることが多い。
【0010】
本発明は、熱損失が少なく、品質信頼性に優れた陰極構体を備えた陰極線管及び表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の陰極線管は、ヒーターを収納するスリーブと、前記スリーブの外側面を取り囲むように配置された筒状の陰極支持体と、前記スリーブの中心軸が前記陰極支持体の中心軸に略一致するように、前記スリーブと前記陰極支持体とを連結する複数の支持部材とを備えた陰極構体を有する。そして、前記複数の支持部材のそれぞれの長手方向は、前記スリーブの前記中心軸を含むいずれの平面とも平行でないことを特徴とする。
【0012】
本発明の表示装置は、上記の本発明の陰極線管を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、陰極構体の熱効率を改善できるため、陰極線管及び表示装置の低消費電力化と品質信頼性向上とを同時に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の陰極線管は、陰極構体を除いて特に限定はなく、例えば図9に示した従来の陰極線管と同様であっても良い。従来と同様の部分についての説明を省略し、本発明に特有の部分について説明する。
【0015】
図1は本発明の陰極線管に使用される陰極構体の一実施形態の一部切り欠き斜視図、図2は、第1グリッド側から見たその上面図である。従来の陰極構体を示した図10及び図11と同一の部材については同一の符号を付している。以下、従来の陰極構体との相違点を中心にして、本発明を説明する。
【0016】
図1及び図2に示す本発明の陰極構体は、図10及び図11に示す従来の陰極構体と、支持部材4において相違する。
【0017】
即ち、従来の陰極構体では、図10に示すように、各支持部材4ごとに、その長手方向と平行で、且つ、スリーブ2の中心軸2aを含む仮想面20が必ず存在している。換言すれば、図11に示すように、中心軸2aと平行な方向から見たとき、複数の支持部材4は中心軸2aを中心として放射状に設けられている。
【0018】
これに対して、本発明の陰極構体では、図1に示すように、いずれの支持部材4についても、その長手方向と平行で、且つ、スリーブ2の中心軸2aを含む仮想面は存在しない。図1において、仮想面21は、支持部材4とスリーブ2の外側面との接合部と、スリーブ2の中心軸2aとを含む面であり、仮想面22は、支持部材4と陰極支持体3の上端との接合部と、スリーブ2の中心軸2aとを含む面である。本発明の陰極構体では、仮想面21と仮想面22とは異なる面であり、支持部材4の長手方向は、これらのいずれとも平行ではない。
【0019】
このような相違により、以下のような相違が生じる。
【0020】
第1に、図1及び図2に示す本発明の陰極構体では、図10及び図11に示す従来の陰極構体に比べて、スリーブ2及び陰極支持体3の各寸法が同じ場合、支持部材4の長さが長い。
【0021】
第2に、ヒーター1の点灯により支持部材4が加熱されてその長手方向に熱膨張する際、陰極支持体3に対するスリーブ2の相対的移動に関して相違する。即ち、支持部材4の熱膨張により、図10及び図11に示す従来の陰極構体では、スリーブ2は、陰極支持体3に対して中心軸2aの方向に第1グリッド側に移動するのに対して、図1及び図2に示す本発明の陰極構体では、スリーブ2は、陰極支持体3に対して、中心軸2aの方向に第1グリッド側に移動するとともに、中心軸2a回りに回転する。従って、支持部材4の熱膨張量が同じ場合、本発明の陰極構体では、支持部材4の熱膨張の一部が、スリーブ2の回転挙動に費やされるので、スリーブ2の中心軸2aの方向に沿った移動量は、従来の陰極構体に比べて少ない。この結果、本発明では、エミッタ5と第1グリッドとの間の間隔の変動は、従来に比べて小さい。
【0022】
以上のような相違に基づく本発明の効果を示す実験結果を示す。
【0023】
図3に、ヒーター1点灯後の定常状態時のエミッタ5の温度を、図1及び図2に示す本発明の陰極構体(以下、「本発明品」という)、及び、図10及び図11に示す従来の陰極構体(以下、「従来品」という)について測定した結果を示す。本発明品及び従来品について、それぞれ10個ずつ測定した。本発明品と従来品とは、ヒーター1、スリーブ2、陰極支持体3に関して同一設計とし、支持部材4に関してのみ上記のように相違する。本発明品と従来品とで供給電力条件は同一としたので、エミッタ5の温度の相違は陰極構体の熱効率の相違に基づく。
【0024】
図3より、本発明品は、従来品に比べて、エミッタ5の温度が約10℃高い。これより、本発明品は、従来品に比べて、熱効率が良いことが分かる。この理由は、本発明品では、従来品に比べて、支持部材4が長いので、スリーブ2から支持部材4を介して陰極支持体3に伝導される熱量が少なくなるためであると考えられる。このように、本発明によれば、支持部材4を介しての熱損失量を低減できるので、陰極構体全体の熱損失量を低減できる(即ち、熱効率を向上できる)。従って、ヒーター1の出力を低減することができるので、ヒーター1の消費電力を低減できる。また、ヒーター1の動作温度を下げることができるので、ヒーター1の寿命が改善され、高品質の陰極構体を実現できる。更に、ヒーター1の動作温度を下げることで、前述のグリッドエミッションを回避できるという効果もある。
【0025】
図4に、ヒーター1の点灯後のエミッション電流の経時変化を、本発明品及び従来品について測定した結果を示す。エミッション電流の測定は以下のようにして行った。
【0026】
図5は、エミッション電流の測定に使用した陰極線管に内蔵された電子銃の電極配置を示した断面図である。エミッタ5側から順に、第1グリッド31、第2グリッド32、フォーカス電極33、アノード電極34を配置した。第1グリッド31からアノード電極34の各電極には、エミッタ5から放出された電子ビームが通過する貫通孔が形成されている。陰極構体に90Vを印加し、第1グリッド31は接地し、第2グリッド32に600V、フォーカス電極33に7kV、アノード電極34に28kVをそれぞれ印加した。この電子銃において、ヒーター1の点灯後のエミッション電流、即ちエミッタ5からの電子ビーム電流の経時変化を測定した。本発明品と従来品とは、支持部材4に関してのみ上記のように相違する。ヒーター1への供給電力条件も本発明品と従来品とで同一とした。
【0027】
エミッション電流量は、陰極構体のエミッション性能が十分に確保されている場合は、エミッタ5、第1グリッド31、第2グリッド32の各電位と、エミッタ5と第1グリッド31との間の間隔、第1グリッド31と第2グリッド32との間の間隔によって決定される。ヒーター1を点灯すると、ヒーター1からの熱エネルギーによって各部材が熱膨張するので、熱的安定状態に達するまで各電極間の間隔は経時変化し続ける。従って、ヒーター1の点灯後、各部材の熱膨張が平衡状態に至るまでの期間は、エミッション電流量は経時変化する。当然のことながら、ヒーター1から供給される熱エネルギーが大きくなるほど、各部材の熱膨張量が大きくなるため、エミッション電流の経時変化量も大きくなる。
【0028】
図4より、本発明品を用いた陰極線管では、従来品を用いた陰極線管に比べて、エミッション電流の経時変化量が少ない。この理由は、支持部材4の構造上の相違に基づく。詳細は以下の通りである。ヒーター1を点灯すると、支持部材4が加熱されて、その長手方向に熱膨張する。支持部材4の熱膨張は、従来品においては、スリーブ2を第1グリッド31に接近させるように移動させるのに対して、本発明品では、これに加えて、更に、スリーブ2を中心軸2a回りに回転させる。本発明品では、支持部材4の熱膨張の一部がスリーブ2の回転に費やされるので、スリーブ2の中心軸2aの方向に沿った移動量は、従来品に比べて少ない。従って、本発明品では、従来品に比べて、スリーブ2(即ち、エミッタ5)と第1グリッド31との間の間隔の経時変化量は小さい。よって、エミッション電流の経時変化量は、本発明品を用いた陰極線管では、従来品を用いた陰極線管に比べて小さくなる。このように、本発明によれば、陰極構体の品質信頼性を向上させることができる。
【0029】
上記の実施形態では、支持部材4の長手方向と直交する面における断面形状は矩形であったが、本発明はこれに限定されない。例えば、図6に示すように、断面形状が円形又は楕円形の支持部材4を用いても良い。
【0030】
また、支持部材4とスリーブ2の外側面との固定方法に関して、支持部材4の端部を、図1に示したようにスリーブ2の外側面に沿うように90度以下の角度で折り曲げても良いし、図7に示すように90度より大きな角度で折り返しても良い。この場合も、支持部材4の長手方向と直交する面における断面形状は、矩形に限定されず、例えば、図8に示すように、円形又は楕円形であっても良い。
【0031】
更に、上記の実施形態では、支持部材4の数は3本であったが、本発明はこれに限定されず、2本あるいは4本あるいはそれ以上の本数であってもかまわない。
【0032】
上記の説明では、陰極線管を例に説明したが、本発明は、陰極線管を備えた表示装置にも適用することができる。ここで、表示装置とは、具体的には、陰極線管を用いたTV受像管装置、コンピューター用ディスプレイ装置などを例示できる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の利用分野は特に制限はなく、熱陰極を備える陰極線管及びこれを搭載した表示装置に広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の陰極線管に使用される陰極構体の一実施形態の一部切り欠き斜視図
【図2】本発明の陰極線管に使用される陰極構体の一実施形態の上面図
【図3】陰極構体のエミッタ温度の測定結果を示した図
【図4】ヒーター点灯後のエミッション電流の経時変化の測定結果を示した図
【図5】エミッション電流の測定に使用した電子銃の電極配置を示した断面図である。
【図6】本発明の陰極線管に使用される陰極構体の別の実施形態の一部切り欠き斜視図
【図7】本発明の陰極線管に使用される陰極構体の更に別の実施形態の一部切り欠き斜視図
【図8】本発明の陰極線管に使用される陰極構体の更に別の実施形態の一部切り欠き斜視図
【図9】陰極線管の一例の断面図
【図10】従来の陰極構体の一部切り欠き斜視図
【図11】従来の陰極構体の上面図
【符号の説明】
【0035】
1 ヒーター
2 スリーブ
3 陰極支持体
4 支持部材
5 エミッタ
11 電子銃
12 ネック部
13 コンバーゼンスヨーク
14 偏向ヨーク
15 ファンネル
16 フェースパネル
17 内部磁気シールド
18 シャドウマスク
19 スクリーン面
31 第1グリッド
32 第2グリッド
33 フォーカス電極
34 アノード電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒーターを収納するスリーブと、前記スリーブの外側面を取り囲むように配置された筒状の陰極支持体と、前記スリーブの中心軸が前記陰極支持体の中心軸に略一致するように、前記スリーブと前記陰極支持体とを連結する複数の支持部材とを備えた陰極構体を有する陰極線管であって、
前記複数の支持部材のそれぞれの長手方向は、前記スリーブの前記中心軸を含むいずれの平面とも平行でないことを特徴とする陰極線管。
【請求項2】
前記支持部材の前記長手方向と直交する面における断面形状が矩形である請求項1に記載の陰極線管。
【請求項3】
前記支持部材の前記長手方向と直交する面における断面形状が円形又は楕円形である請求項1に記載の陰極線管。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の陰極線管を備えた表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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