陸上競技用シューズ
【課題】 陸上競技用シューズにおいて、軽量化し、さらに空気抵抗を低減する。
【解決手段】 アウトソール2およびミッドソール2′の上に固着され、長穴状の複数の貫通穴30〜32を有する甲被部3と、その各下端が甲被部3の下側周縁部に固着され、その各上端が着用者の足Fの足甲側に向かって延設されるとともに、各々間隔を隔てて配置された複数本のベルト71〜74と、ベルト71〜74の各上端の折返し部70を挿通する靴紐8と、甲被部8の前足部分を覆う開閉可能なカバー4とから陸上競技用シューズを構成する。この場合には、甲被部3に貫通穴30〜32を形成することにより、シューズの重量を軽くでき、さらに、甲被部3の前足部分をカバー4で覆うことにより、前足部分の凹凸をなくして、空気抵抗を低減できる。
【解決手段】 アウトソール2およびミッドソール2′の上に固着され、長穴状の複数の貫通穴30〜32を有する甲被部3と、その各下端が甲被部3の下側周縁部に固着され、その各上端が着用者の足Fの足甲側に向かって延設されるとともに、各々間隔を隔てて配置された複数本のベルト71〜74と、ベルト71〜74の各上端の折返し部70を挿通する靴紐8と、甲被部8の前足部分を覆う開閉可能なカバー4とから陸上競技用シューズを構成する。この場合には、甲被部3に貫通穴30〜32を形成することにより、シューズの重量を軽くでき、さらに、甲被部3の前足部分をカバー4で覆うことにより、前足部分の凹凸をなくして、空気抵抗を低減できる。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、陸上競技用シューズに関し、詳細には、その軽量化および空気抵抗低減のための構造の改良に関する。
【0002】
【従来の技術およびその課題】陸上競技用シューズにおいては、タイム向上のためにとくに軽量化が要求されている。そこで、従来より、シューズ構成部品の素材についての見直しや新素材の研究開発が積極的に行われてきた。しかしながら、素材の軽量化によるシューズの軽量化には一定の限界がある。
【0003】一方、構造の改良によるシューズの軽量化も行われてきた。たとえば、米国特許第 4,107,857号に示すものでは、シューズの内外甲側に、甲皮材のかわりに複数のストラップ片を設けるようにしている。しかしながら、この場合には、内外甲側で各々対応する各ストラップ片を締結しなければならず、実用上使い勝手の悪いものであった。
【0004】また、特開2000−210201号公報に示すように、シューズ全体を甲皮材で覆うことなく、包囲体と称される複数本のベルトのみで着用者の足を覆うようにしたことにより、シューズの軽量化を図ったものも提案されている。この場合には、シューズの表面積の大部分を占める甲皮材を用いないため、シューズ全体の軽量化に寄与する度合いは大きい。
【0005】しかしながら、この場合には、隣り合う各ベルトの間に間隙が形成されて、シューズ外表面に凹凸が形成されることになるため、シューズの空気抵抗が大きくなると考えられる。このため、競技時においてハイレベルでの記録の争いに悪影響を与えるおそれがある。また、各ベルトの間の間隙を通して雨や土がシューズ内部に入り込みやすく、シューズ内に雨や土が入り込むことによって、不快感を生じるだけでなく、足裏がシューズ内面で滑りやすくなって足とシューズとの一体感が失われ、記録向上に悪影響を及ぼすおそれがある。さらに、着用者の足がシューズ外側にさらされることになるため、足が外傷を受けるおそれもある。
【0006】本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、シューズの軽量化を図ることができ、しかも、空気抵抗を低減できる陸上競技用シューズを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明に係る陸上競技用シューズは、ソールと、前記ソールの上に固着されるとともに、その爪先部分および踵部分を除く領域において長穴状の複数の貫通穴を有する甲被部と、それぞれ間隔を隔てて配置され、前記甲被部の下側周縁部または前記ソールに固着されるとともに、着用者の足の足甲側に向かって上方に延びる複数本の帯状部材と、前記帯状部材の上端に連結された締付部材と、前記甲被部のうちの少なくとも前足部分を覆う開閉可能なカバー部材とを備えている。
【0008】請求項1の発明では、長穴状の複数の貫通穴が甲被部に形成されるので、シューズの重量を軽くできる。しかも、甲被部のうちの少なくとも前足部分を覆うカバー部材が設けられるので、該カバー部材により、前足部分の貫通穴が被覆され、その結果、シューズ外表面の凹凸が減少してシューズ外表面を平滑にできる。これにより、競技時の空気抵抗を低減でき、記録向上に寄与できる。
【0009】また、シューズの前足部分の貫通穴が被覆されるので、シューズの前足部分からシューズ内部に雨や土が浸入するのを防止できるとともに、着用者の足の前足部が外傷を受ける危険性を回避できる。さらに、シューズの前足部分全体がカバー部材で覆われることにより、シューズの前足部分の一体感をカバー部材の美観により表現することが可能になる。また、複数本の帯状部材を締付部材により緊締することによって、甲被部に長穴状の複数の貫通穴が形成された状態でも、甲被部と足とのフィット性を向上できる。
【0010】各帯状部材の下端側取付位置は、請求項2の発明に記載されているように、前記ソールの内甲側において着用者の足の拇指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの第1の領域、前記ソールの外甲側において着用者の足の小指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの第2の領域、着用者の足の第1基節骨の骨頭部近傍位置に相当する位置、および着用者の足の第4末節骨の骨底部近傍位置に相当する位置に配置されている。これにより、足指部分を除く領域を適切に緊締することができる。
【0011】カバー部材の下側周縁部は、請求項3の発明に記載されているように、前記甲被部の前記下側周縁部または前記ソールに固着されまたは着脱自在に装着されている。ここで、本明細書中で用いられる「固着」とは、縫合、接着または熱溶着などにより固定されていることをいい、また「着脱自在」とは、ファスナーやバックル、ボタン、ホック、フックなどを介して取り外し可能に取り付けられていることをいう。
【0012】また、請求項4の発明に記載されているように、シューズの踵部から内甲側および外甲側にかけて延びる帯状の緊締部材がさらに設けられていてもよい。この緊締部材の一部は踵部に係止されており、緊締部材の内甲側および外甲側配設部分は、シューズの内甲側および外甲側の各下方領域にそれぞれ設けた各折返し部を介してシューズの足甲側にそれぞれ折り返され、内甲側および外甲側配設部分の各先端側がシューズの足甲部に緊締可能になっている。
【0013】この場合には、緊締部材が、着用者の足を巻回して、踵骨から前方にかけて内甲側および外甲側の下部まで配設されるとともに、折返し部で折り返されて上方の足甲側に延設されるので、緊締部材を足甲部で緊締したときに、甲被部の踵部分を着用者の足の踵部分の形状に沿って密着させることができ、踵部分のフィット性を向上できる。
【0014】請求項5の発明に係る陸上競技用シューズは、ソールと、前記ソールの上に固着されるとともに、着用者の足の爪先部分および踵部分をそれぞれ保護する爪先保護部および踵保護部と、着用者の足を挿入するためのシューズ開口部の周縁部に沿って配設された帯状の開口補強部材と、それぞれ間隔を隔てて配置され、前記爪先保護部、前記踵保護部または前記ソールに固着されるとともに、着用者の足の足甲側に向かって上方に延び、前記開口補強部材に連結された複数本の帯状部材と、前記帯状部材の上端に連結された締付部材と、着用者の足の少なくとも前足部分に相当する領域を覆う開閉可能なカバー部材とを備えている。
【0015】請求項5の発明では、シューズ全体を甲皮材で覆うことなく、爪先保護部、踵保護部、開口補強部材、および間隔を隔てた複数本の帯状部材から着用者の足を覆うようにしたので、シューズ全体の重量を軽くできる。しかも、足の少なくとも前足部分に相当する領域を覆うカバー部材が設けられるので、該カバー部材により、隣り合う各帯状部材の間に形成された間隙が被覆され、その結果、シューズ外表面の凹凸が減少してシューズ外表面を平滑にできる。これにより、競技時の空気抵抗を低減でき、記録向上に寄与できる。
【0016】また、シューズの前足部分において各帯状部材間の間隙がカバー部材で被覆されることにより、シューズの前足部分からシューズ内部に雨や土が浸入するのを防止できるとともに、着用者の足の前足部が外傷を受ける危険性を回避できる。さらに、シューズの前足部分全体がカバー部材で覆われることにより、シューズの前足部分の一体感をカバー部材の美観により表現できるようになる。
【0017】さらに、請求項5の発明では、爪先保護部、踵保護部またはソールに固着された各帯状部材は、足甲側に向かって上方に延び、開口補強部材に連結されるとともに、その上端が締付部材に連結されている。これにより、たとえば靴紐のような締付部材による緊締が足甲部分で一括して行えるようになるので、締付部材の使い勝手を向上できる。さらに、各帯状部材を足甲側に向かって配設したことにより、締付部材の緊締時に各帯状部材に作用する張力の方向を着用者の足甲側に向かうように制御できるので、着用者の足の爪先から踵部分にかけて最適なフィット性を実現できるようになる。
【0018】爪先保護部は、請求項6の発明に記載されているように、着用者の足の拇指球部および小指球部から前方の部分を覆うようにしてもよい。これにより、足のすべての足指が爪先保護部で保護されるようになる。また、踵保護部は、請求項7の発明に記載されているように、着用者の足の少なくとも踵後端を覆っている。
【0019】各帯状部材の下端側取付位置は、請求項8の発明に記載されているように、ソールの内甲側において着用者の足の拇指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの第1の領域、ソールの外甲側において着用者の足の小指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの第2の領域、および着用者の足の第1基節骨の骨頭部近傍位置に相当する位置、および足の第4末節骨の骨底部近傍位置に相当する位置に配置されている。これにより、足指部分を除く領域を適切に緊締することができる。
【0020】カバー部材の下側周縁部は、請求項9の発明に記載されているように、爪先保護部およびソールに固着されまたは着脱自在に装着されている。また、請求項10の発明に記載されているように、爪先保護部および踵保護部を連結する帯状の側部補強部材をシューズの内外甲側下縁部に沿って配設するとともに、カバー部材の下側周縁部を爪先保護部および側部補強部材に固着しまたは着脱自在に装着するようにしてもよい。
【0021】カバー部材は、請求項11の発明に記載されているように、伸縮性のあるストレッチ素材から構成されているが好ましく、ここで、「ストレッチ素材」とは、皮膚のように身体の動きに合わせて適度に伸縮する素材のことをいう。
【0022】また、請求項12および13の発明にそれぞれ記載されているように、カバー部材の表面にエンボス加工またはシルミー加工を施すようにしてもよい。ここで、「エンボス加工」とは、昇温下で素材の表面を加圧して素材表面に凹凸を生じさせるような加工をいい、「シルミー加工」とは、昇温下で素材の表面を加圧して素材表面をフラットにする加工をいう。いずれの加工も、乱流効果または整流効果により空気抵抗を低減させることを目的にして行われる。
【0023】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施態様を添付図面に基づいて説明する。
〔第1の実施態様〕図1ないし図5は、本発明の第1の実施態様による陸上競技用シューズを説明するための図であって、図1は陸上競技用シューズの外甲側側面図において、カバーを閉じた状態を示す図、図2は図1のシューズにおいてカバーを開いた状態を示す図、図3はカバーを外した状態における図1のシューズの外甲側側面図、図4はカバーを外した状態における図1のシューズの内甲側側面図、図5はベルトの下端側取付位置を足の骨格構造との関係で示す図である。
【0024】これらの図に示すように、陸上競技用シューズ1は、短距離種目用のシューズであって、シューズの爪先部から踵部までシューズ全体にわたって延設されたアウトソール2と、アウトソール2の上に接着された甲被部3と、甲被部3の少なくとも前足部を覆うカバー4とから主として構成されている。
【0025】アウトソール2は、比較的硬質で反発性に富む合成樹脂から構成されており、その下側の接地面には複数のスタッド5が設けられている。これらのスタッド5は、たとえばセラミックス製、金属製または硬質樹脂製であって、アウトソール2の下面にねじ止め固定されている。またスタッド5は、アウトソール2と一体的に樹脂成形するようにしてもよい。アウトソール2の踵部前端側には、上方に延びる巻上げ部20が設けられており、該巻上げ部20にはスリット20aが形成されている。
【0026】アウトソール2の上面には、シューズの踵部から土踏まず部付近にかけてミッドソール2′が装着されている。ミッドソール2′は、たとえばエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などの熱可塑性樹脂の発泡体から構成されている。アウトソール2の上方には、シューズの踵部の保形性を維持するためのたとえば樹脂製のヒールカウンター6が設けられている。
【0027】甲被部3には、複数の貫通穴30,31,32が形成されている。これらの貫通穴30,31,32は、シューズの爪先部および踵部を除く領域において内甲側および外甲側にそれぞれ形成されており、いずれもシューズの概略前後方向に沿って長穴状に延びている。甲被部3の踵部分には、その外甲側および内甲側にそれぞれスリット3a,3bが形成されている。
【0028】甲被部3の内側には、シューズの下部から着用者の足の足甲側に向かって延びる、互いに間隔を隔てた複数本のベルト(帯状部材)71,72,73,74が設けられている。これらのベルト71〜74は、シューズの内甲側および外甲側にそれぞれ設けられており、足甲部を巻回するように配設されている。
【0029】ベルト71〜74を構成する材料としては、キック力の反作用を接地面から足裏に有効に伝達するために、高弾性を有し、引張強度の高い素材が用いられる。具体的には、引張強度が15g/d以上でかつ引張弾性率が500g/d以上である高弾性ポリエチレン繊維やポリアセタール繊維、ポリビニルアルコール繊維などが好適であるが、ナイロン繊維やポリエステル繊維から構成することも可能である。
【0030】ベルト71〜74は、甲被部3の貫通穴30,31,32の開口縁部に縫合されるか、あるいは、甲被部3に縫合されることなく、甲被部3の内部に形成されたポケット穴内をスライド自在に設けられており、また、その各下端は甲被部3の下側周縁部に固着されている。ベルト71〜74は、上方に向かうにしたがい互いの間隔を徐々に狭めつつ足甲側に延設されており、その各上端にはループ状の折返し部70が形成されている。ベルト71〜74の各折返し部70には、締付部材としての靴紐8が挿通している。靴紐8を締め付けることにより、ベルト71〜74を介して甲被部3が着用者の足の側に引き寄せられ、これにより、アウトソール2およびミッドソール2′が足裏に固定されるようになっている。
【0031】なお、折返し部70のかわりに、金属製または樹脂製のD形環状リングであるD環を用い、該D環に各ベルトを通すことにより、内甲側および外甲側の各ベルトを締結するようにしてもよい。またベルト74は、足甲側で折り返された後、その先端が踵後端部に固着されている。
【0032】ベルト71〜74の下端側取付位置は、足の骨格構造および可動部位などを考慮して、足を効果的に緊締できる位置に設定される。ベルト71の下端側取付位置は、図5に示すように、シューズの外甲側においては、着用者の足の第4末節骨DP4 の骨底部近傍位置に相当する位置に配置されており、シューズの内甲側においては、足の第1基節骨PP1 の骨頭部近傍位置に相当する位置に配置されている。
【0033】ベルト72〜74の下端側取付位置は、シューズの外甲側においては、足の小指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの領域に配置されており、シューズの内甲側においては、足の拇指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの領域に配置されている。
【0034】ベルト71〜74の幅は一定でもよいが、配置される部位に応じて適宜変化させるようにしてもよい。たとえば、土踏まず部の内外甲側に配置されるベルトはやや幅広のものを用い、前足部、爪先部および踵周辺部に用いられるベルトは幅狭のものを用いるようにする。なお、ベルトの本数は、本実施態様に限定されるものではなく、シューズのサイズやベルトの幅などに応じて適宜変えるようにすればよい。
【0035】ベルト72,73,74の配設角度は、緊締状態において、アウトソール2の上面に対してシューズ前方側から測って0゜〜90゜前後、好ましくは約20°〜約70°の範囲に設定される。また、ベルト71の配設角度は、同様にアウトソール2の上面に対してシューズ前方側から測って約60゜〜約180゜、好ましくは約90°〜約150°の範囲に設定される。
【0036】シューズの踵部の内甲側および外甲側には、緊締ベルト9が配設されている。緊締ベルト9は、甲被部3の踵部分に形成された各スリット3a,3bに挿入されるとともに、シューズの外甲側および内甲側にそれぞれ配設されている。緊締ベルト9の内甲側および外甲側配設部分は、ソール2の巻上げ部20に形成したスリット20aに挿入されてそれぞれ足甲側に折り返されている。
【0037】緊締ベルト9の外甲側配設部分の長さは、内甲側配設部分よりも長く、その先端部には一対の面ファスナー90,91が装着されており、緊締ベルト9の内甲側配設部分の先端には、外甲側配設部分が挿入されるバックル92が取り付けられている。緊締ベルト9の緊締の際には、外甲側配設部分をバックル92に通して折り返すとともに、面ファスナー90,91を互いに固着することによって、外甲側配設部分を内甲側配設部分に締結する。このように、緊締ベルト9はシューズの足甲部において緊締可能になっている。
【0038】カバー4は、ファスナー40により開閉可能に構成されている。また、カバー4の下側周縁部は、甲被部3の下側周縁部、アウトソール2またはミッドソール2′に固着されるか、あるいは、ファスナー、ボタン、ホックまたはフックなどを介して、甲被部3の下側周縁部、アウトソール2またはミッドソール2′に着脱自在に装着される。
【0039】カバー4は、伸縮性のあるストレッチ素材から構成されているのが好ましく、とくにストレッチ素材のハーフトリコット編みにより構成されているのが好ましい。ここで、「ストレッチ素材」とは、皮膚のように身体の動きに合わせて適度に伸縮する素材のことをいう。また「ハーフトリコット編み」とは、縦編みの一種であって、ループを縦方向に連続して綴って編み上げる手法のことをいい、たとえば陸上競技用のウエアやタイツ、水着などに適用されている。
【0040】また、カバー4は、メッシュ素材、三軸織物素材またはナイロンやウレタン等の合成樹脂から構成されていてもよい。ここで、「三軸織物素材」とは、織物を構成する各糸が互いに60度の角度をなして交合している織物のことをいい、高強度を有し、保形性および耐久性に優れている。さらに、カバー4は人工皮革から構成することも可能である。
【0041】カバー4の表面には、エンボス加工やシルミー加工が施されているのが好ましい。ここで、「エンボス加工」とは、昇温下で素材の表面を加圧して素材表面に凹凸を生じさせるような加工をいい、また「シルミー加工」とは、昇温下で素材の表面を加圧して素材表面をフラットにする加工をいう。いずれの加工も、整流効果または乱流効果により空気抵抗を低減させることを目的として行われる。
【0042】この第1の実施態様によれば、長穴状の複数の貫通穴30〜32が甲被部3の内甲側および外甲側にそれぞれに形成されるので、シューズの重量を軽くできる。しかも、甲被部3の前足部分を覆うカバー4が設けられるので、該カバー4によって、前足部分の貫通穴30および貫通穴31,32の一部が被覆され、これにより、シューズ外表面の凹凸が減少してシューズ外表面を平滑にできる。その結果、シューズの空気抵抗が減少して、記録向上に寄与できる。
【0043】また、甲被部3の前足部分の貫通穴が被覆されることにより、シューズの前足部分からシューズ内部に雨や土が浸入するのが防止されるとともに、着用者の足の前足部が外傷を受ける危険性を回避できる。さらに、シューズの前足部分がカバー4で覆われることにより、シューズの前足部分の一体感をカバー4の美観によって表現できる。また、各ベルト71〜74を靴紐8により緊締することにより、甲被部3に貫通穴30〜32が形成された状態でも、甲被部3と足とのフィット性を向上できる。
【0044】〔第2の実施態様〕図6ないし図9は、本発明の第2の実施態様による短距離種目用の陸上競技用シューズを示しており、図6はカバー装着時の陸上競技用シューズの外甲側側面図であって、カバーを閉じた状態を示す図、図7は図6のシューズにおいてカバーを開いた状態を示す図、図8はカバーを外した状態における図6のシューズの外甲側側面図、図9はカバーを外した状態における図6のシューズの内甲側側面図である。なお、これらの図において、前記第1の実施態様と同一符号は同一または相当部分を示している。
【0045】この第2の実施態様が前記第1の実施態様と大きく異なっているのは、緊締ベルト9の内甲側配設部分および外甲側配設部分の長さがほぼ等しく、各先端に一対の面ファスナー90,91および92,93がそれぞれ装着されるとともに、足甲部に舌状片10が配設され、該舌状片10の左右両端にバックル11,12がそれぞれ設けられている点である。また、緊締ベルト9の内甲側および外甲側配設部分の折返し部として、ヒールカウンター6に形成されたスリット6aを用いている点も前記第1の実施態様と異なっている。
【0046】この場合、緊締ベルト9の緊締の際には、緊締ベルト9の外甲側配設部分は外甲側のバックル11に通してから折り返し、各面ファスナー90,91を互いに固着することにより該外甲側配設部分をバックル11に締結する。同様に、緊締ベルト9の内甲側配設部分は内甲側のバックル12に通してから折り返し、各面ファスナー92,93を互いに固着することにより該内甲側配設部分をバックル12に締結する。
【0047】また、甲被部3に形成された各貫通穴30,31,32の位置および形状は、前記第1の実施態様といくらか異なっているものの、この場合においても、甲被部3の内甲側および外甲側にそれぞれ3つの貫通穴が形成されている。
【0048】この第2の実施態様では、前記第1の実施態様と同様に、長穴状の複数の貫通穴30〜32が甲被部3の内甲側および外甲側にそれぞれに形成されるので、シューズの重量を軽くできる。しかも、甲被部3の前足部分を覆うカバー4が設けられるので、該カバー4によって、前足部分の貫通穴30,31が被覆され、これにより、シューズ外表面の凹凸が減少してシューズ外表面を平滑にでき、シューズの空気抵抗を減少できる。
【0049】また、甲被部3の前足部分の貫通穴が被覆されることにより、シューズの前足部分からシューズ内部に雨や土が浸入するのが防止されるとともに、着用者の足の前足部が外傷を受ける危険性を回避できる。さらに、シューズの前足部分がカバー4で覆われることにより、シューズの前足部分の一体感をカバー4の美観により表現できる。また、各ベルト71〜74を靴紐8により緊締することによって、甲被部3に貫通穴30〜32が形成された状態でも、甲被部3と足とのフィット性を向上できる。
【0050】〔第3の実施態様〕図10ないし図12は、本発明の第3の実施態様による短距離種目用の陸上競技用シューズを示しており、図10はカバー装着時の陸上競技用シューズの外甲側側面図であって、カバーを閉じた状態を示す図、図11は図10のシューズにおいてカバーを開いた状態を示す図、図12はカバーを外した状態における図10のシューズの外甲側側面図である。なお、これらの図において、前記第1の実施態様と同一符号は同一または相当部分を示している。
【0051】この第3の実施態様においては、甲被部が設けられていない点が前記第1および第2の実施態様と大きく異なっている。図10ないし図12に示すように、この陸上競技用シューズ1は、アウトソール2の上に接着され、着用者の足Fの爪先部分を保護する爪先保護部35と、ミッドソール2′の上に接着され、足Fの踵部分を保護する踵保護部36とを有している。また、足Fを挿入するためのシューズ開口部の周縁部に沿って、帯状の開口補強部材37が配設されている。開口補強部材37は、足Fの足首の回りを巻回しつつ足甲側に延設されている。
【0052】さらに、本実施態様では、前記第1および第2の実施態様における緊締ベルトが設けられておらず、これに相当するものとして、ベルト75が設けられている。ベルト75の下端は踵保護部36に固着されるとともに、その上端は足甲部で折り返されて下方に延び、その先端は再び踵保護36に固着されている。
【0053】他のベルト71〜74のそれぞれの取付位置および配設角度は、前記各実施態様におけるベルト71〜74の各取付位置および配設角度とほぼ一致している。また、ベルト71,72の下端は爪先保護部35に固着され、ベルト73,74の下端はソール2に固着されるとともに、各ベルト71〜75の上部は開口補強部材37に縫合されている。隣り合う各ベルトの間には、間隙38が形成されている。各ベルト71〜75の上端のループ状の折返し部70には、靴紐8が挿通している。
【0054】カバー4の下側周縁部は、爪先保護部35およびアウトソール2の下側周縁部および踵保護部36に固着されるか、あるいは、ファスナー、ボタン、ホックまたはフックなどを介してシューズに着脱自在に装着される。
【0055】なお、爪先保護部35は、足の第1足指ないし第5足指の各先端から少なくとも中足趾節関節MJ1 〜MJ5 (図5参照)近傍までの部分、または、足の拇指球部および小指球部から前方の部分を覆う形状を有しているのが好ましい。一方、踵保護部36は、少なくとも踵後端部から踝下方部付近を覆う形状を有している。爪先保護部35および踵保護部36は、織布、不織布、樹脂製シート、天然皮革または人工皮革、あるいはこれらを適宜組み合わせた素材から構成される。また、開口補強部材37もこれらと同様の素材から構成される。
【0056】この第3の実施態様では、シューズを甲皮材で覆うことなく、爪先保護部35、踵保護部36、開口補強部材37、および間隔を隔てた複数本のベルト71〜75から着用者の足を覆うようにしたので、シューズ全体の重量を軽くできる。しかも、足の少なくとも前足部分に相当する領域を覆うカバー4が設けられるので、該カバー4により、隣り合う各ベルト71〜75の間に形成された間隙38が被覆され、これにより、シューズ外表面の凹凸が減少してシューズ外表面を平滑にでき、競技時の空気抵抗を低減できる。
【0057】また、シューズの前足部分において各ベルト71〜75間の間隙38がカバー4で被覆されることにより、シューズの前足部分からシューズ内部に雨や土が浸入するのを防止できるとともに、着用者の足の前足部が外傷を受ける危険性を回避できる。さらに、シューズの前足部分がカバー4で覆われることにより、シューズの前足部分の一体感をカバー4の美観により表現できる。さらに、この場合には、靴紐のみで緊締を行えるので、靴紐の使い勝手を向上できる。
【0058】なお、この第3の実施態様においては、図1313に示すように、爪先保護部35および踵保護部36を連結する帯状の側部補強部材39をシューズの内外甲側下縁部に沿って設けるようにしてもよく、この場合には、爪先保護部35、側部補強部材39および踵保護部36は一体的に構成される。また、このとき、カバー4の下側周縁部は、爪先保護部35、側部補強部材39および踵保護部36に固着されるか、あるいは、爪先保護部35、側部補強部材39および踵保護部36に着脱自在に装着される。
【0059】〔他の適用例〕前記各実施態様では、本発明が短距離種目用の陸上競技用シューズに適用された例を示したが、本発明をマラソンやジョギングのような長距離種目用の陸上競技用シューズに適用する場合には、アウトソールとしては、耐摩耗性および防滑性に富み、しかも軽い発泡ラバーや発泡ポリウレタンといった素材を用いるようにし、ミッドソールは、シューズの踵部から爪先部にかけてシューズ全体に延設させるようにする。
【0060】また、使用される種目に応じて、比較的反発性に富みかつ軽い合成樹脂からなるソールプレートをシューズの踵部から爪先部まで延設するとともに、該ソールプレートの踵部上面に、クッション性に富む素材からなるヒールウェッジを積層一体化するようにしてもよい。
【0061】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明の第1の発明に係る陸上競技用シューズによれば、長穴状の複数の貫通穴を甲被部に形成するようにしたので、シューズの重量を軽くできる。しかも、甲被部のうちの少なくとも前足部分を覆うカバー部材を設けるようにしたので、該カバー部材により、前足部分の貫通穴が被覆され、これにより、競技時の空気抵抗を低減できる効果がある。
【0062】また、本発明の第2の発明に係る陸上競技用シューズによれば、シューズ全体を甲皮材で覆うことなく、爪先保護部、踵保護部、開口補強部材、および間隔を隔てた複数本の帯状部材から着用者の足を覆うようにしたので、シューズ全体の重量を軽くできる。しかも、足の少なくとも前足部分に相当する領域を覆うカバー部材を設けるようにしたので、該カバー部材により、隣り合う各帯状部材の間に形成された間隙が被覆され、これにより、競技時の空気抵抗を低減できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施態様による陸上競技用シューズの外甲側側面図であって、カバーを閉じた状態を示す図である。
【図2】図1のシューズにおいてカバーを開いた状態を示す図である。
【図3】カバーを外した状態における図1のシューズの外甲側側面図である。
【図4】カバーを外した状態における図1のシューズの内甲側側面図である。
【図5】図1のシューズにおいて、ベルトの下端側取付位置と足の骨格構造との対応関係を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施態様による陸上競技用シューズの外甲側側面図であって、カバーを閉じた状態を示す図である。
【図7】図6のシューズにおいてカバーを開いた状態を示す図である。
【図8】カバーを外した状態における図6のシューズの外甲側側面図である。
【図9】カバーを外した状態における図6のシューズの内甲側側面図である。
【図10】本発明の第3の実施態様による陸上競技用シューズの外甲側側面図であって、カバーを閉じた状態を示す図である。
【図11】図10のシューズにおいてカバーを開いた状態を示す図である。
【図12】カバーを外した状態における図10のシューズの外甲側側面図である。
【図13】図12の変形例を示す図である。
【符号の説明】
1: 陸上競技用シューズ
2: アウトソール
2′: ミッドソール
5: スタッド
3: 甲被部
30〜32: 貫通穴
35: 爪先保護部
36: 踵保護部
37: 開口補強部材
38: 間隙
39: 側部補強部材
4: カバー(カバー部材)
40: ファスナー
71〜75: ベルト(帯状部材)
8: 靴紐(締付部材)
9: 緊締ベルト
PP1 : 第1指基節骨
DP4 : 第4指末節骨
MJ1 : 第1指中足趾節関節
MJ5 : 第5指中足趾節関節
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、陸上競技用シューズに関し、詳細には、その軽量化および空気抵抗低減のための構造の改良に関する。
【0002】
【従来の技術およびその課題】陸上競技用シューズにおいては、タイム向上のためにとくに軽量化が要求されている。そこで、従来より、シューズ構成部品の素材についての見直しや新素材の研究開発が積極的に行われてきた。しかしながら、素材の軽量化によるシューズの軽量化には一定の限界がある。
【0003】一方、構造の改良によるシューズの軽量化も行われてきた。たとえば、米国特許第 4,107,857号に示すものでは、シューズの内外甲側に、甲皮材のかわりに複数のストラップ片を設けるようにしている。しかしながら、この場合には、内外甲側で各々対応する各ストラップ片を締結しなければならず、実用上使い勝手の悪いものであった。
【0004】また、特開2000−210201号公報に示すように、シューズ全体を甲皮材で覆うことなく、包囲体と称される複数本のベルトのみで着用者の足を覆うようにしたことにより、シューズの軽量化を図ったものも提案されている。この場合には、シューズの表面積の大部分を占める甲皮材を用いないため、シューズ全体の軽量化に寄与する度合いは大きい。
【0005】しかしながら、この場合には、隣り合う各ベルトの間に間隙が形成されて、シューズ外表面に凹凸が形成されることになるため、シューズの空気抵抗が大きくなると考えられる。このため、競技時においてハイレベルでの記録の争いに悪影響を与えるおそれがある。また、各ベルトの間の間隙を通して雨や土がシューズ内部に入り込みやすく、シューズ内に雨や土が入り込むことによって、不快感を生じるだけでなく、足裏がシューズ内面で滑りやすくなって足とシューズとの一体感が失われ、記録向上に悪影響を及ぼすおそれがある。さらに、着用者の足がシューズ外側にさらされることになるため、足が外傷を受けるおそれもある。
【0006】本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたもので、その目的は、シューズの軽量化を図ることができ、しかも、空気抵抗を低減できる陸上競技用シューズを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】請求項1の発明に係る陸上競技用シューズは、ソールと、前記ソールの上に固着されるとともに、その爪先部分および踵部分を除く領域において長穴状の複数の貫通穴を有する甲被部と、それぞれ間隔を隔てて配置され、前記甲被部の下側周縁部または前記ソールに固着されるとともに、着用者の足の足甲側に向かって上方に延びる複数本の帯状部材と、前記帯状部材の上端に連結された締付部材と、前記甲被部のうちの少なくとも前足部分を覆う開閉可能なカバー部材とを備えている。
【0008】請求項1の発明では、長穴状の複数の貫通穴が甲被部に形成されるので、シューズの重量を軽くできる。しかも、甲被部のうちの少なくとも前足部分を覆うカバー部材が設けられるので、該カバー部材により、前足部分の貫通穴が被覆され、その結果、シューズ外表面の凹凸が減少してシューズ外表面を平滑にできる。これにより、競技時の空気抵抗を低減でき、記録向上に寄与できる。
【0009】また、シューズの前足部分の貫通穴が被覆されるので、シューズの前足部分からシューズ内部に雨や土が浸入するのを防止できるとともに、着用者の足の前足部が外傷を受ける危険性を回避できる。さらに、シューズの前足部分全体がカバー部材で覆われることにより、シューズの前足部分の一体感をカバー部材の美観により表現することが可能になる。また、複数本の帯状部材を締付部材により緊締することによって、甲被部に長穴状の複数の貫通穴が形成された状態でも、甲被部と足とのフィット性を向上できる。
【0010】各帯状部材の下端側取付位置は、請求項2の発明に記載されているように、前記ソールの内甲側において着用者の足の拇指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの第1の領域、前記ソールの外甲側において着用者の足の小指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの第2の領域、着用者の足の第1基節骨の骨頭部近傍位置に相当する位置、および着用者の足の第4末節骨の骨底部近傍位置に相当する位置に配置されている。これにより、足指部分を除く領域を適切に緊締することができる。
【0011】カバー部材の下側周縁部は、請求項3の発明に記載されているように、前記甲被部の前記下側周縁部または前記ソールに固着されまたは着脱自在に装着されている。ここで、本明細書中で用いられる「固着」とは、縫合、接着または熱溶着などにより固定されていることをいい、また「着脱自在」とは、ファスナーやバックル、ボタン、ホック、フックなどを介して取り外し可能に取り付けられていることをいう。
【0012】また、請求項4の発明に記載されているように、シューズの踵部から内甲側および外甲側にかけて延びる帯状の緊締部材がさらに設けられていてもよい。この緊締部材の一部は踵部に係止されており、緊締部材の内甲側および外甲側配設部分は、シューズの内甲側および外甲側の各下方領域にそれぞれ設けた各折返し部を介してシューズの足甲側にそれぞれ折り返され、内甲側および外甲側配設部分の各先端側がシューズの足甲部に緊締可能になっている。
【0013】この場合には、緊締部材が、着用者の足を巻回して、踵骨から前方にかけて内甲側および外甲側の下部まで配設されるとともに、折返し部で折り返されて上方の足甲側に延設されるので、緊締部材を足甲部で緊締したときに、甲被部の踵部分を着用者の足の踵部分の形状に沿って密着させることができ、踵部分のフィット性を向上できる。
【0014】請求項5の発明に係る陸上競技用シューズは、ソールと、前記ソールの上に固着されるとともに、着用者の足の爪先部分および踵部分をそれぞれ保護する爪先保護部および踵保護部と、着用者の足を挿入するためのシューズ開口部の周縁部に沿って配設された帯状の開口補強部材と、それぞれ間隔を隔てて配置され、前記爪先保護部、前記踵保護部または前記ソールに固着されるとともに、着用者の足の足甲側に向かって上方に延び、前記開口補強部材に連結された複数本の帯状部材と、前記帯状部材の上端に連結された締付部材と、着用者の足の少なくとも前足部分に相当する領域を覆う開閉可能なカバー部材とを備えている。
【0015】請求項5の発明では、シューズ全体を甲皮材で覆うことなく、爪先保護部、踵保護部、開口補強部材、および間隔を隔てた複数本の帯状部材から着用者の足を覆うようにしたので、シューズ全体の重量を軽くできる。しかも、足の少なくとも前足部分に相当する領域を覆うカバー部材が設けられるので、該カバー部材により、隣り合う各帯状部材の間に形成された間隙が被覆され、その結果、シューズ外表面の凹凸が減少してシューズ外表面を平滑にできる。これにより、競技時の空気抵抗を低減でき、記録向上に寄与できる。
【0016】また、シューズの前足部分において各帯状部材間の間隙がカバー部材で被覆されることにより、シューズの前足部分からシューズ内部に雨や土が浸入するのを防止できるとともに、着用者の足の前足部が外傷を受ける危険性を回避できる。さらに、シューズの前足部分全体がカバー部材で覆われることにより、シューズの前足部分の一体感をカバー部材の美観により表現できるようになる。
【0017】さらに、請求項5の発明では、爪先保護部、踵保護部またはソールに固着された各帯状部材は、足甲側に向かって上方に延び、開口補強部材に連結されるとともに、その上端が締付部材に連結されている。これにより、たとえば靴紐のような締付部材による緊締が足甲部分で一括して行えるようになるので、締付部材の使い勝手を向上できる。さらに、各帯状部材を足甲側に向かって配設したことにより、締付部材の緊締時に各帯状部材に作用する張力の方向を着用者の足甲側に向かうように制御できるので、着用者の足の爪先から踵部分にかけて最適なフィット性を実現できるようになる。
【0018】爪先保護部は、請求項6の発明に記載されているように、着用者の足の拇指球部および小指球部から前方の部分を覆うようにしてもよい。これにより、足のすべての足指が爪先保護部で保護されるようになる。また、踵保護部は、請求項7の発明に記載されているように、着用者の足の少なくとも踵後端を覆っている。
【0019】各帯状部材の下端側取付位置は、請求項8の発明に記載されているように、ソールの内甲側において着用者の足の拇指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの第1の領域、ソールの外甲側において着用者の足の小指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの第2の領域、および着用者の足の第1基節骨の骨頭部近傍位置に相当する位置、および足の第4末節骨の骨底部近傍位置に相当する位置に配置されている。これにより、足指部分を除く領域を適切に緊締することができる。
【0020】カバー部材の下側周縁部は、請求項9の発明に記載されているように、爪先保護部およびソールに固着されまたは着脱自在に装着されている。また、請求項10の発明に記載されているように、爪先保護部および踵保護部を連結する帯状の側部補強部材をシューズの内外甲側下縁部に沿って配設するとともに、カバー部材の下側周縁部を爪先保護部および側部補強部材に固着しまたは着脱自在に装着するようにしてもよい。
【0021】カバー部材は、請求項11の発明に記載されているように、伸縮性のあるストレッチ素材から構成されているが好ましく、ここで、「ストレッチ素材」とは、皮膚のように身体の動きに合わせて適度に伸縮する素材のことをいう。
【0022】また、請求項12および13の発明にそれぞれ記載されているように、カバー部材の表面にエンボス加工またはシルミー加工を施すようにしてもよい。ここで、「エンボス加工」とは、昇温下で素材の表面を加圧して素材表面に凹凸を生じさせるような加工をいい、「シルミー加工」とは、昇温下で素材の表面を加圧して素材表面をフラットにする加工をいう。いずれの加工も、乱流効果または整流効果により空気抵抗を低減させることを目的にして行われる。
【0023】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施態様を添付図面に基づいて説明する。
〔第1の実施態様〕図1ないし図5は、本発明の第1の実施態様による陸上競技用シューズを説明するための図であって、図1は陸上競技用シューズの外甲側側面図において、カバーを閉じた状態を示す図、図2は図1のシューズにおいてカバーを開いた状態を示す図、図3はカバーを外した状態における図1のシューズの外甲側側面図、図4はカバーを外した状態における図1のシューズの内甲側側面図、図5はベルトの下端側取付位置を足の骨格構造との関係で示す図である。
【0024】これらの図に示すように、陸上競技用シューズ1は、短距離種目用のシューズであって、シューズの爪先部から踵部までシューズ全体にわたって延設されたアウトソール2と、アウトソール2の上に接着された甲被部3と、甲被部3の少なくとも前足部を覆うカバー4とから主として構成されている。
【0025】アウトソール2は、比較的硬質で反発性に富む合成樹脂から構成されており、その下側の接地面には複数のスタッド5が設けられている。これらのスタッド5は、たとえばセラミックス製、金属製または硬質樹脂製であって、アウトソール2の下面にねじ止め固定されている。またスタッド5は、アウトソール2と一体的に樹脂成形するようにしてもよい。アウトソール2の踵部前端側には、上方に延びる巻上げ部20が設けられており、該巻上げ部20にはスリット20aが形成されている。
【0026】アウトソール2の上面には、シューズの踵部から土踏まず部付近にかけてミッドソール2′が装着されている。ミッドソール2′は、たとえばエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などの熱可塑性樹脂の発泡体から構成されている。アウトソール2の上方には、シューズの踵部の保形性を維持するためのたとえば樹脂製のヒールカウンター6が設けられている。
【0027】甲被部3には、複数の貫通穴30,31,32が形成されている。これらの貫通穴30,31,32は、シューズの爪先部および踵部を除く領域において内甲側および外甲側にそれぞれ形成されており、いずれもシューズの概略前後方向に沿って長穴状に延びている。甲被部3の踵部分には、その外甲側および内甲側にそれぞれスリット3a,3bが形成されている。
【0028】甲被部3の内側には、シューズの下部から着用者の足の足甲側に向かって延びる、互いに間隔を隔てた複数本のベルト(帯状部材)71,72,73,74が設けられている。これらのベルト71〜74は、シューズの内甲側および外甲側にそれぞれ設けられており、足甲部を巻回するように配設されている。
【0029】ベルト71〜74を構成する材料としては、キック力の反作用を接地面から足裏に有効に伝達するために、高弾性を有し、引張強度の高い素材が用いられる。具体的には、引張強度が15g/d以上でかつ引張弾性率が500g/d以上である高弾性ポリエチレン繊維やポリアセタール繊維、ポリビニルアルコール繊維などが好適であるが、ナイロン繊維やポリエステル繊維から構成することも可能である。
【0030】ベルト71〜74は、甲被部3の貫通穴30,31,32の開口縁部に縫合されるか、あるいは、甲被部3に縫合されることなく、甲被部3の内部に形成されたポケット穴内をスライド自在に設けられており、また、その各下端は甲被部3の下側周縁部に固着されている。ベルト71〜74は、上方に向かうにしたがい互いの間隔を徐々に狭めつつ足甲側に延設されており、その各上端にはループ状の折返し部70が形成されている。ベルト71〜74の各折返し部70には、締付部材としての靴紐8が挿通している。靴紐8を締め付けることにより、ベルト71〜74を介して甲被部3が着用者の足の側に引き寄せられ、これにより、アウトソール2およびミッドソール2′が足裏に固定されるようになっている。
【0031】なお、折返し部70のかわりに、金属製または樹脂製のD形環状リングであるD環を用い、該D環に各ベルトを通すことにより、内甲側および外甲側の各ベルトを締結するようにしてもよい。またベルト74は、足甲側で折り返された後、その先端が踵後端部に固着されている。
【0032】ベルト71〜74の下端側取付位置は、足の骨格構造および可動部位などを考慮して、足を効果的に緊締できる位置に設定される。ベルト71の下端側取付位置は、図5に示すように、シューズの外甲側においては、着用者の足の第4末節骨DP4 の骨底部近傍位置に相当する位置に配置されており、シューズの内甲側においては、足の第1基節骨PP1 の骨頭部近傍位置に相当する位置に配置されている。
【0033】ベルト72〜74の下端側取付位置は、シューズの外甲側においては、足の小指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの領域に配置されており、シューズの内甲側においては、足の拇指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの領域に配置されている。
【0034】ベルト71〜74の幅は一定でもよいが、配置される部位に応じて適宜変化させるようにしてもよい。たとえば、土踏まず部の内外甲側に配置されるベルトはやや幅広のものを用い、前足部、爪先部および踵周辺部に用いられるベルトは幅狭のものを用いるようにする。なお、ベルトの本数は、本実施態様に限定されるものではなく、シューズのサイズやベルトの幅などに応じて適宜変えるようにすればよい。
【0035】ベルト72,73,74の配設角度は、緊締状態において、アウトソール2の上面に対してシューズ前方側から測って0゜〜90゜前後、好ましくは約20°〜約70°の範囲に設定される。また、ベルト71の配設角度は、同様にアウトソール2の上面に対してシューズ前方側から測って約60゜〜約180゜、好ましくは約90°〜約150°の範囲に設定される。
【0036】シューズの踵部の内甲側および外甲側には、緊締ベルト9が配設されている。緊締ベルト9は、甲被部3の踵部分に形成された各スリット3a,3bに挿入されるとともに、シューズの外甲側および内甲側にそれぞれ配設されている。緊締ベルト9の内甲側および外甲側配設部分は、ソール2の巻上げ部20に形成したスリット20aに挿入されてそれぞれ足甲側に折り返されている。
【0037】緊締ベルト9の外甲側配設部分の長さは、内甲側配設部分よりも長く、その先端部には一対の面ファスナー90,91が装着されており、緊締ベルト9の内甲側配設部分の先端には、外甲側配設部分が挿入されるバックル92が取り付けられている。緊締ベルト9の緊締の際には、外甲側配設部分をバックル92に通して折り返すとともに、面ファスナー90,91を互いに固着することによって、外甲側配設部分を内甲側配設部分に締結する。このように、緊締ベルト9はシューズの足甲部において緊締可能になっている。
【0038】カバー4は、ファスナー40により開閉可能に構成されている。また、カバー4の下側周縁部は、甲被部3の下側周縁部、アウトソール2またはミッドソール2′に固着されるか、あるいは、ファスナー、ボタン、ホックまたはフックなどを介して、甲被部3の下側周縁部、アウトソール2またはミッドソール2′に着脱自在に装着される。
【0039】カバー4は、伸縮性のあるストレッチ素材から構成されているのが好ましく、とくにストレッチ素材のハーフトリコット編みにより構成されているのが好ましい。ここで、「ストレッチ素材」とは、皮膚のように身体の動きに合わせて適度に伸縮する素材のことをいう。また「ハーフトリコット編み」とは、縦編みの一種であって、ループを縦方向に連続して綴って編み上げる手法のことをいい、たとえば陸上競技用のウエアやタイツ、水着などに適用されている。
【0040】また、カバー4は、メッシュ素材、三軸織物素材またはナイロンやウレタン等の合成樹脂から構成されていてもよい。ここで、「三軸織物素材」とは、織物を構成する各糸が互いに60度の角度をなして交合している織物のことをいい、高強度を有し、保形性および耐久性に優れている。さらに、カバー4は人工皮革から構成することも可能である。
【0041】カバー4の表面には、エンボス加工やシルミー加工が施されているのが好ましい。ここで、「エンボス加工」とは、昇温下で素材の表面を加圧して素材表面に凹凸を生じさせるような加工をいい、また「シルミー加工」とは、昇温下で素材の表面を加圧して素材表面をフラットにする加工をいう。いずれの加工も、整流効果または乱流効果により空気抵抗を低減させることを目的として行われる。
【0042】この第1の実施態様によれば、長穴状の複数の貫通穴30〜32が甲被部3の内甲側および外甲側にそれぞれに形成されるので、シューズの重量を軽くできる。しかも、甲被部3の前足部分を覆うカバー4が設けられるので、該カバー4によって、前足部分の貫通穴30および貫通穴31,32の一部が被覆され、これにより、シューズ外表面の凹凸が減少してシューズ外表面を平滑にできる。その結果、シューズの空気抵抗が減少して、記録向上に寄与できる。
【0043】また、甲被部3の前足部分の貫通穴が被覆されることにより、シューズの前足部分からシューズ内部に雨や土が浸入するのが防止されるとともに、着用者の足の前足部が外傷を受ける危険性を回避できる。さらに、シューズの前足部分がカバー4で覆われることにより、シューズの前足部分の一体感をカバー4の美観によって表現できる。また、各ベルト71〜74を靴紐8により緊締することにより、甲被部3に貫通穴30〜32が形成された状態でも、甲被部3と足とのフィット性を向上できる。
【0044】〔第2の実施態様〕図6ないし図9は、本発明の第2の実施態様による短距離種目用の陸上競技用シューズを示しており、図6はカバー装着時の陸上競技用シューズの外甲側側面図であって、カバーを閉じた状態を示す図、図7は図6のシューズにおいてカバーを開いた状態を示す図、図8はカバーを外した状態における図6のシューズの外甲側側面図、図9はカバーを外した状態における図6のシューズの内甲側側面図である。なお、これらの図において、前記第1の実施態様と同一符号は同一または相当部分を示している。
【0045】この第2の実施態様が前記第1の実施態様と大きく異なっているのは、緊締ベルト9の内甲側配設部分および外甲側配設部分の長さがほぼ等しく、各先端に一対の面ファスナー90,91および92,93がそれぞれ装着されるとともに、足甲部に舌状片10が配設され、該舌状片10の左右両端にバックル11,12がそれぞれ設けられている点である。また、緊締ベルト9の内甲側および外甲側配設部分の折返し部として、ヒールカウンター6に形成されたスリット6aを用いている点も前記第1の実施態様と異なっている。
【0046】この場合、緊締ベルト9の緊締の際には、緊締ベルト9の外甲側配設部分は外甲側のバックル11に通してから折り返し、各面ファスナー90,91を互いに固着することにより該外甲側配設部分をバックル11に締結する。同様に、緊締ベルト9の内甲側配設部分は内甲側のバックル12に通してから折り返し、各面ファスナー92,93を互いに固着することにより該内甲側配設部分をバックル12に締結する。
【0047】また、甲被部3に形成された各貫通穴30,31,32の位置および形状は、前記第1の実施態様といくらか異なっているものの、この場合においても、甲被部3の内甲側および外甲側にそれぞれ3つの貫通穴が形成されている。
【0048】この第2の実施態様では、前記第1の実施態様と同様に、長穴状の複数の貫通穴30〜32が甲被部3の内甲側および外甲側にそれぞれに形成されるので、シューズの重量を軽くできる。しかも、甲被部3の前足部分を覆うカバー4が設けられるので、該カバー4によって、前足部分の貫通穴30,31が被覆され、これにより、シューズ外表面の凹凸が減少してシューズ外表面を平滑にでき、シューズの空気抵抗を減少できる。
【0049】また、甲被部3の前足部分の貫通穴が被覆されることにより、シューズの前足部分からシューズ内部に雨や土が浸入するのが防止されるとともに、着用者の足の前足部が外傷を受ける危険性を回避できる。さらに、シューズの前足部分がカバー4で覆われることにより、シューズの前足部分の一体感をカバー4の美観により表現できる。また、各ベルト71〜74を靴紐8により緊締することによって、甲被部3に貫通穴30〜32が形成された状態でも、甲被部3と足とのフィット性を向上できる。
【0050】〔第3の実施態様〕図10ないし図12は、本発明の第3の実施態様による短距離種目用の陸上競技用シューズを示しており、図10はカバー装着時の陸上競技用シューズの外甲側側面図であって、カバーを閉じた状態を示す図、図11は図10のシューズにおいてカバーを開いた状態を示す図、図12はカバーを外した状態における図10のシューズの外甲側側面図である。なお、これらの図において、前記第1の実施態様と同一符号は同一または相当部分を示している。
【0051】この第3の実施態様においては、甲被部が設けられていない点が前記第1および第2の実施態様と大きく異なっている。図10ないし図12に示すように、この陸上競技用シューズ1は、アウトソール2の上に接着され、着用者の足Fの爪先部分を保護する爪先保護部35と、ミッドソール2′の上に接着され、足Fの踵部分を保護する踵保護部36とを有している。また、足Fを挿入するためのシューズ開口部の周縁部に沿って、帯状の開口補強部材37が配設されている。開口補強部材37は、足Fの足首の回りを巻回しつつ足甲側に延設されている。
【0052】さらに、本実施態様では、前記第1および第2の実施態様における緊締ベルトが設けられておらず、これに相当するものとして、ベルト75が設けられている。ベルト75の下端は踵保護部36に固着されるとともに、その上端は足甲部で折り返されて下方に延び、その先端は再び踵保護36に固着されている。
【0053】他のベルト71〜74のそれぞれの取付位置および配設角度は、前記各実施態様におけるベルト71〜74の各取付位置および配設角度とほぼ一致している。また、ベルト71,72の下端は爪先保護部35に固着され、ベルト73,74の下端はソール2に固着されるとともに、各ベルト71〜75の上部は開口補強部材37に縫合されている。隣り合う各ベルトの間には、間隙38が形成されている。各ベルト71〜75の上端のループ状の折返し部70には、靴紐8が挿通している。
【0054】カバー4の下側周縁部は、爪先保護部35およびアウトソール2の下側周縁部および踵保護部36に固着されるか、あるいは、ファスナー、ボタン、ホックまたはフックなどを介してシューズに着脱自在に装着される。
【0055】なお、爪先保護部35は、足の第1足指ないし第5足指の各先端から少なくとも中足趾節関節MJ1 〜MJ5 (図5参照)近傍までの部分、または、足の拇指球部および小指球部から前方の部分を覆う形状を有しているのが好ましい。一方、踵保護部36は、少なくとも踵後端部から踝下方部付近を覆う形状を有している。爪先保護部35および踵保護部36は、織布、不織布、樹脂製シート、天然皮革または人工皮革、あるいはこれらを適宜組み合わせた素材から構成される。また、開口補強部材37もこれらと同様の素材から構成される。
【0056】この第3の実施態様では、シューズを甲皮材で覆うことなく、爪先保護部35、踵保護部36、開口補強部材37、および間隔を隔てた複数本のベルト71〜75から着用者の足を覆うようにしたので、シューズ全体の重量を軽くできる。しかも、足の少なくとも前足部分に相当する領域を覆うカバー4が設けられるので、該カバー4により、隣り合う各ベルト71〜75の間に形成された間隙38が被覆され、これにより、シューズ外表面の凹凸が減少してシューズ外表面を平滑にでき、競技時の空気抵抗を低減できる。
【0057】また、シューズの前足部分において各ベルト71〜75間の間隙38がカバー4で被覆されることにより、シューズの前足部分からシューズ内部に雨や土が浸入するのを防止できるとともに、着用者の足の前足部が外傷を受ける危険性を回避できる。さらに、シューズの前足部分がカバー4で覆われることにより、シューズの前足部分の一体感をカバー4の美観により表現できる。さらに、この場合には、靴紐のみで緊締を行えるので、靴紐の使い勝手を向上できる。
【0058】なお、この第3の実施態様においては、図1313に示すように、爪先保護部35および踵保護部36を連結する帯状の側部補強部材39をシューズの内外甲側下縁部に沿って設けるようにしてもよく、この場合には、爪先保護部35、側部補強部材39および踵保護部36は一体的に構成される。また、このとき、カバー4の下側周縁部は、爪先保護部35、側部補強部材39および踵保護部36に固着されるか、あるいは、爪先保護部35、側部補強部材39および踵保護部36に着脱自在に装着される。
【0059】〔他の適用例〕前記各実施態様では、本発明が短距離種目用の陸上競技用シューズに適用された例を示したが、本発明をマラソンやジョギングのような長距離種目用の陸上競技用シューズに適用する場合には、アウトソールとしては、耐摩耗性および防滑性に富み、しかも軽い発泡ラバーや発泡ポリウレタンといった素材を用いるようにし、ミッドソールは、シューズの踵部から爪先部にかけてシューズ全体に延設させるようにする。
【0060】また、使用される種目に応じて、比較的反発性に富みかつ軽い合成樹脂からなるソールプレートをシューズの踵部から爪先部まで延設するとともに、該ソールプレートの踵部上面に、クッション性に富む素材からなるヒールウェッジを積層一体化するようにしてもよい。
【0061】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明の第1の発明に係る陸上競技用シューズによれば、長穴状の複数の貫通穴を甲被部に形成するようにしたので、シューズの重量を軽くできる。しかも、甲被部のうちの少なくとも前足部分を覆うカバー部材を設けるようにしたので、該カバー部材により、前足部分の貫通穴が被覆され、これにより、競技時の空気抵抗を低減できる効果がある。
【0062】また、本発明の第2の発明に係る陸上競技用シューズによれば、シューズ全体を甲皮材で覆うことなく、爪先保護部、踵保護部、開口補強部材、および間隔を隔てた複数本の帯状部材から着用者の足を覆うようにしたので、シューズ全体の重量を軽くできる。しかも、足の少なくとも前足部分に相当する領域を覆うカバー部材を設けるようにしたので、該カバー部材により、隣り合う各帯状部材の間に形成された間隙が被覆され、これにより、競技時の空気抵抗を低減できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施態様による陸上競技用シューズの外甲側側面図であって、カバーを閉じた状態を示す図である。
【図2】図1のシューズにおいてカバーを開いた状態を示す図である。
【図3】カバーを外した状態における図1のシューズの外甲側側面図である。
【図4】カバーを外した状態における図1のシューズの内甲側側面図である。
【図5】図1のシューズにおいて、ベルトの下端側取付位置と足の骨格構造との対応関係を示す図である。
【図6】本発明の第2の実施態様による陸上競技用シューズの外甲側側面図であって、カバーを閉じた状態を示す図である。
【図7】図6のシューズにおいてカバーを開いた状態を示す図である。
【図8】カバーを外した状態における図6のシューズの外甲側側面図である。
【図9】カバーを外した状態における図6のシューズの内甲側側面図である。
【図10】本発明の第3の実施態様による陸上競技用シューズの外甲側側面図であって、カバーを閉じた状態を示す図である。
【図11】図10のシューズにおいてカバーを開いた状態を示す図である。
【図12】カバーを外した状態における図10のシューズの外甲側側面図である。
【図13】図12の変形例を示す図である。
【符号の説明】
1: 陸上競技用シューズ
2: アウトソール
2′: ミッドソール
5: スタッド
3: 甲被部
30〜32: 貫通穴
35: 爪先保護部
36: 踵保護部
37: 開口補強部材
38: 間隙
39: 側部補強部材
4: カバー(カバー部材)
40: ファスナー
71〜75: ベルト(帯状部材)
8: 靴紐(締付部材)
9: 緊締ベルト
PP1 : 第1指基節骨
DP4 : 第4指末節骨
MJ1 : 第1指中足趾節関節
MJ5 : 第5指中足趾節関節
【特許請求の範囲】
【請求項1】 陸上競技用シューズであって、ソールと、前記ソールの上に固着されるとともに、その爪先部分および踵部分を除く領域において長穴状の複数の貫通穴を有する甲被部と、それぞれ間隔を隔てて配置され、前記甲被部の下側周縁部または前記ソールに固着されるとともに、着用者の足の足甲側に向かって上方に延びる複数本の帯状部材と、前記帯状部材の上端に連結された締付部材と、前記甲被部のうちの少なくとも前足部分を覆う開閉可能なカバー部材と、を備えた陸上競技用シューズ。
【請求項2】 請求項1において、前記帯状部材の下端側取付位置が、前記ソールの内甲側において着用者の足の拇指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの第1の領域、前記ソールの外甲側において着用者の足の小指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの第2の領域、着用者の足の第1基節骨の骨頭部近傍位置に相当する位置、および着用者の足の第4末節骨の骨底部近傍位置に相当する位置に配置されている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項3】 請求項1において、前記カバー部材の下側周縁部が、前記甲被部の前記下側周縁部または前記ソールに固着されまたは着脱自在に装着されている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項4】 請求項1において、シューズの踵部から内甲側および外甲側にかけて延びる帯状の緊締部材がさらに設けられるとともに、前記緊締部材の一部は前記踵部に係止され、前記緊締部材の内甲側および外甲側配設部分は、シューズの内甲側および外甲側の各下方領域にそれぞれ設けた各折返し部を介してシューズの足甲側にそれぞれ折り返されており、前記内甲側および外甲側配設部分の各先端側がシューズの足甲部に緊締可能になっている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項5】 陸上競技用シューズであって、ソールと、前記ソールの上に固着されるとともに、着用者の足の爪先部分および踵部分をそれぞれ保護する爪先保護部および踵保護部と、着用者の足を挿入するためのシューズ開口部の周縁部に沿って配設された帯状の開口補強部材と、それぞれ間隔を隔てて配置され、前記爪先保護部、前記踵保護部または前記ソールに固着されるとともに、着用者の足の足甲側に向かって上方に延び、前記開口補強部材に連結された複数本の帯状部材と、前記帯状部材の上端に連結された締付部材と、着用者の足の少なくとも前足部分に相当する領域を覆う開閉可能なカバー部材と、を備えた陸上競技用シューズ。
【請求項6】 請求項5において、前記爪先保護部が、着用者の足の拇指球部および小指球部から前方の部分を覆っている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項7】 請求項5において、前記踵保護部が、着用者の足の少なくとも踵後端を覆っている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項8】 請求項5において、前記帯状部材の下端側取付位置が、前記ソールの内甲側において着用者の足の拇指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの第1の領域、前記ソールの外甲側において着用者の足の小指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの第2の領域、着用者の足の第1基節骨の骨頭部近傍位置に相当する位置、および着用者の足の第4末節骨の骨底部近傍位置に相当する位置に配置されている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項9】 請求項5において、前記カバー部材の下側周縁部が、前記爪先保護部および前記ソールに固着されまたは着脱自在に装着されている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項10】 請求項5において、前記爪先保護部および前記踵保護部を連結する帯状の側部補強部材が、前記シューズの内外甲側下縁部に沿って配設されており、前記カバー部材の下側周縁部が、前記爪先保護部および前記側部補強部材に固着されまたは着脱自在に装着されている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項11】 請求項1または5において、前記カバー部材が伸縮性のあるストレッチ素材から構成されている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項12】 請求項1または5において、前記カバー部材の表面にエンボス加工が施されている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項13】 請求項1または5において、前記カバー部材の表面にシルミー加工が施されている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項1】 陸上競技用シューズであって、ソールと、前記ソールの上に固着されるとともに、その爪先部分および踵部分を除く領域において長穴状の複数の貫通穴を有する甲被部と、それぞれ間隔を隔てて配置され、前記甲被部の下側周縁部または前記ソールに固着されるとともに、着用者の足の足甲側に向かって上方に延びる複数本の帯状部材と、前記帯状部材の上端に連結された締付部材と、前記甲被部のうちの少なくとも前足部分を覆う開閉可能なカバー部材と、を備えた陸上競技用シューズ。
【請求項2】 請求項1において、前記帯状部材の下端側取付位置が、前記ソールの内甲側において着用者の足の拇指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの第1の領域、前記ソールの外甲側において着用者の足の小指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの第2の領域、着用者の足の第1基節骨の骨頭部近傍位置に相当する位置、および着用者の足の第4末節骨の骨底部近傍位置に相当する位置に配置されている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項3】 請求項1において、前記カバー部材の下側周縁部が、前記甲被部の前記下側周縁部または前記ソールに固着されまたは着脱自在に装着されている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項4】 請求項1において、シューズの踵部から内甲側および外甲側にかけて延びる帯状の緊締部材がさらに設けられるとともに、前記緊締部材の一部は前記踵部に係止され、前記緊締部材の内甲側および外甲側配設部分は、シューズの内甲側および外甲側の各下方領域にそれぞれ設けた各折返し部を介してシューズの足甲側にそれぞれ折り返されており、前記内甲側および外甲側配設部分の各先端側がシューズの足甲部に緊締可能になっている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項5】 陸上競技用シューズであって、ソールと、前記ソールの上に固着されるとともに、着用者の足の爪先部分および踵部分をそれぞれ保護する爪先保護部および踵保護部と、着用者の足を挿入するためのシューズ開口部の周縁部に沿って配設された帯状の開口補強部材と、それぞれ間隔を隔てて配置され、前記爪先保護部、前記踵保護部または前記ソールに固着されるとともに、着用者の足の足甲側に向かって上方に延び、前記開口補強部材に連結された複数本の帯状部材と、前記帯状部材の上端に連結された締付部材と、着用者の足の少なくとも前足部分に相当する領域を覆う開閉可能なカバー部材と、を備えた陸上競技用シューズ。
【請求項6】 請求項5において、前記爪先保護部が、着用者の足の拇指球部および小指球部から前方の部分を覆っている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項7】 請求項5において、前記踵保護部が、着用者の足の少なくとも踵後端を覆っている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項8】 請求項5において、前記帯状部材の下端側取付位置が、前記ソールの内甲側において着用者の足の拇指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの第1の領域、前記ソールの外甲側において着用者の足の小指球部近傍位置に相当する位置から踵骨近傍位置に相当する位置までの第2の領域、着用者の足の第1基節骨の骨頭部近傍位置に相当する位置、および着用者の足の第4末節骨の骨底部近傍位置に相当する位置に配置されている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項9】 請求項5において、前記カバー部材の下側周縁部が、前記爪先保護部および前記ソールに固着されまたは着脱自在に装着されている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項10】 請求項5において、前記爪先保護部および前記踵保護部を連結する帯状の側部補強部材が、前記シューズの内外甲側下縁部に沿って配設されており、前記カバー部材の下側周縁部が、前記爪先保護部および前記側部補強部材に固着されまたは着脱自在に装着されている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項11】 請求項1または5において、前記カバー部材が伸縮性のあるストレッチ素材から構成されている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項12】 請求項1または5において、前記カバー部材の表面にエンボス加工が施されている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【請求項13】 請求項1または5において、前記カバー部材の表面にシルミー加工が施されている、ことを特徴とする陸上競技用シューズ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2002−306204(P2002−306204A)
【公開日】平成14年10月22日(2002.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−112653(P2001−112653)
【出願日】平成13年4月11日(2001.4.11)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成14年10月22日(2002.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成13年4月11日(2001.4.11)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】
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