説明

階段被覆構造及びこれに用いる下地調整材

【課題】階段下地の面倒な補修作業等を不要にして効率良く被覆施工でき、良好な防滑性、防水性、衝撃緩和性、防音性等を発揮でき、雨水等が蹴上げを伝い落ちないよう水切りできる階段被覆構造と、これに用いる下地調整材を提供する。
【解決手段】硬質の合成樹脂又は金属で踏み面調整部2aと、段鼻調整部2bと、その下方に延びる蹴上げ調整部2cと、蹴上げ調整部の下端の水切り部2fを一体に形成した下地調整材2、及び、軟質の合成樹脂又はゴムによって踏み面被覆部3aと、段鼻被覆部3bと、その下方に延びる蹴上げ被覆部3cを一体に形成した階段被覆材3を、階段下地1に重ねて設けた階段被覆構造とする。下地調整材2で階段下地1の欠損部1a等をカバーすることで補修作業を省略して被覆施工効率を高め、軟質の階段被覆材3で防滑性、防水性、衝撃緩和性、防音性を発揮させ、水切り部2fで雨水等が蹴上げへ伝い落ちるのを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、階段下地の面倒な補修作業等を不要にして効率良く被覆施工することができる階段被覆構造と、これに用いる下地調整材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、既存の階段や新設の階段、特に既存の階段を軟質の合成樹脂製又はゴム製の被覆材で被覆することによって、階段の防滑性、意匠性、防水性、昇降時の衝撃緩和性、防音性などの向上が図られている。
【0003】
本出願人も、水平な踏み面被覆部と、その前端の段鼻被覆部と、該段鼻被覆部から垂れ下がる蹴上げ被覆部とを備えた合成樹脂製の階段用シートを階段に重ねて、階段用シートの踏み面被覆部と階段の踏み面を接着剤により、階段用シートの段鼻被覆部と階段の段鼻をシーリング剤により、それぞれ貼着すると共に、階段用シートの蹴上げ被覆部と階段の蹴上げを、独立気泡を備えた発泡倍率7〜40倍の樹脂発泡体よりなるテープ基材の両面に熱老化しにくい樹脂粘着剤層を設けた厚さ1.5〜5.0mmの両面粘着テープで貼着した階段構造を既に提案した(特許文献1)。
【0004】
また、階段の踏み面部と段鼻部と蹴上げ部とにそれぞれ配設される水平部と屈曲部と前垂れ部とを有する略L字形状の合成樹脂製の床材であって、前垂れ部の表面に水切り突起を設けた階段用床材や、前垂れ部の下端に水切り突起を有する水切り部材を固定した階段用床材も提案した(特許文献2)。
【0005】
一方、階段の踏み面をカバーする踏み面部と、これとほぼ垂直に形成された蹴込み面をカバーする蹴込み部を備えた階段用補修材であって、一体に構成されたL字型の金属基板、及び、該金属基板の少なくとも踏み面部表面に塗装された耐摩耗性塗料からなる階段用補修材を使用し、既設階段の踏み面をレベル調整した後、上記階段用補修材の踏み面部を既設階段の踏み面に取り付ける階段の補修方法も知られている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2003−293539号公報
【特許文献2】特開2007−56549号公報
【特許文献3】特開2003−184252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の階段構造や特許文献2の階段用床材をはじめとして、柔軟な合成樹脂製の被覆材やゴム製の被覆材で階段を被覆する場合は、柔軟な被覆材が階段下地の表面に追従し易いという利点を有する反面、階段下地に破損箇所(例えば段鼻の一部欠損など)や大きい凹凸(例えばモルタル仕上げが不良で踏み面の不陸が激しいものなど)がある場合には、被覆材で被覆し難いことがあり、無理やりに被覆すると、昇降時に被覆材が破損する恐れがあった。また、階段下地に凹凸があると、被覆材の表面にも凹凸ができたり、被覆材の剥離や浮き上がりが生じたりするため、水溜まりの原因や転倒事故の原因になるという問題もあった。このため、下地がモルタル仕上げの階段では、被覆材を貼り付ける前に、階段下地をモルタルで補修したり補正仕上げをしなければならない場合が多く、手間と時間がかかっていた。
【0007】
一方、特許文献3のような耐摩耗性塗料を塗装した金属基板からなる階段用補修材を用いて階段を補修する場合は、階段下地の補修作業を省略することが可能となるが、このような階段用補修材は、長期に亘って良好な防滑性を発揮し難く、意匠性、衝撃緩和性、防音性なども劣るという問題があった。
【0008】
本発明は上記事情の下になされたもので、その解決しようとする課題は、階段下地の面倒な補修作業等を不要にして効率良く被覆施工でき、良好な防滑性、防水性、衝撃緩和性、防音性等を発揮できると共に、階段の蹴上げに雨水等の伝い落ちた痕跡が残るのを防止することもできる階段被覆構造と、これに用いる下地調整材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る階段被覆構造は、階段下地に下地調整材と階段被覆材を重ねて設けた階段被覆構造であって、下地調整材は硬質の合成樹脂又は金属によって踏み面調整部と、段鼻調整部と、その下方に延びる蹴上げ調整部と、蹴上げ調整部の下端の水切り部とを一体に形成したものであり、階段被覆材は軟質の合成樹脂又はゴムによって踏み面被覆部と、段鼻被覆部と、その下方に延びる蹴上げ被覆部とを一体に形成したものであることを特徴としている。
【0010】
本発明の階段被覆構造においては、階段被覆材が、踏み面被覆部の後端から上方へ折り曲げる蹴上げ被覆部を更に一体に形成したものであってもよい。
【0011】
また、本発明の階段被覆構造においては、下地調整材の蹴上げ調整部の下部前面側に、階段被覆材の段鼻被覆部の下方に延びる蹴上げ被覆部の下端部を差し込む剥離防止溝を形成することが好ましい。下地調整材の踏み面調整部は、階段下地の踏み面の前縁部を被覆するだけの小さな前後寸法を有するものであってもよい。
【0012】
更に、本発明の階段被覆構造においては、下地調整材の少なくとも踏み面調整部の下面に、踏み面調整部の横幅方向に延びる断面が下広がり形状の凸条、又は/及び、踏み面調整部の横幅方向に延びる断面がV字形状の凸条を、互いに平行に複数形成することが好ましい。そして、下地調整材の踏み面調整部の上面を、後端に近づくほど高さが徐々に減少又は増加するように傾斜させることが好ましい。特に、下地調整材の踏み面調整部の下面に形成した複数の凸条の高さを、踏み面調整部の最も前端寄りに位置する凸条が最も高く、後端に近い凸条ほど低くなるように徐々に減少させて、踏み面調整部の上面を、後端に近づくほど高さが徐々に減少するように傾斜させるか、又は、下地調整材の踏み面調整部の下面に形成した複数の凸条の高さを、踏み面調整部の最も前端寄りに位置する凸条が最も低く、後端に近い凸条ほど高くなるように徐々に増加させて、踏み面調整部の上面を、後端に近づくほど高さが徐々に増加するように傾斜させることが好ましい。
【0013】
また、本発明の階段被覆構造においては、下地調整材の踏み面調整部の後端に沿って排水溝を設けたり、下地調整材の少なくとも踏み面調整部の上面に、踏み面調整部の横幅方向に延びる小溝を互いに平行に複数形成したり、下地調整材の踏み面調整部を前後に複数分割して分割体の端部を前後方向にスライド可能に重ねて接合することも好ましい。
【0014】
一方、本発明の下地調整材は、階段被覆材を重ねて階段下地に取付ける略L字形状の断面を備えた下地調整材であって、硬質の合成樹脂又は金属によって踏み面調整部と、段鼻調整部と、その下方に延びる蹴上げ調整部と、蹴上げ調整部の下端の水切り部とを一体に形成したことを特徴とするものである。
【0015】
本発明の下地調整材においては、蹴上げ調整部の下部前面側に、階段被覆材の段鼻被覆部の下方に延びる蹴上げ被覆部の下端部を差し込む剥離防止溝を形成することが好ましい。そして、踏み面調整部は、階段下地の踏み面の前縁部を被覆するだけの小さな前後寸法を有するものでもよい。また、蹴上げ調整部の裏面には、階段被覆材の踏み面被覆部の後端から上方へ折り曲げる蹴上げ被覆部の厚み寸法に等しいか、若しくは若干大きい突出寸法を有するスペーサを形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の階段被覆構造のように、硬質の合成樹脂又は金属によって踏み面調整部と、段鼻調整部と、その下方に延びる蹴上げ調整部と、蹴上げ調整部の下端の水切り部とを一体に形成した下地調整材、及び、軟質の合成樹脂又はゴムによって踏み面被覆部と、段鼻被覆部と、その下方に延びる蹴上げ被覆部とを一体に形成した階段被覆材を使用し、これらの下地調整材と階段被覆材を重ねて階段下地に設けると、階段下地に欠損部分や凹凸があっても、硬質の下地調整材でカバーされて、階段被覆材の貼付けに適した欠損部分や凹凸のない階段下地に調整されるため、モルタル等による階段下地の面倒な補修作業を省略して、下地調整材の上に軟質の階段被覆材を貼り重ねることにより、効率良く被覆施工することができる。そして、貼り重ねた軟質の合成樹脂又はゴムからなる階段被覆材によって、階段昇降時の防滑性、防水性、衝撃緩和性、防音性等が向上するため、滑って転倒したり騒音が出たりすることがなくなり、安全且つ静かに昇降できるようになる。また、階段被覆材の蹴上げ被覆部を伝い落ちた雨水等は、下地調整材の蹴上げ調整部の下端の水切り部から下段の階段被覆材の踏み面被覆部の後端に落下し、階段下地の蹴上げを伝い落ちることがなくなるため、蹴上げの露出面に雨水等の伝い落ちた痕跡が汚れとなって残るのを防止することができる。
【0017】
本発明の階段被覆構造においては、階段被覆材として、上記階段被覆材の踏み面被覆部の後端から上方へ折り曲げる蹴上げ被覆部を更に一体に形成したものを使用してもよく、その場合は、踏み面被覆部の後端から上方へ折り曲げた蹴上げ被覆部によって、階段下地の踏み面の後端から立ち上がる蹴上げの表面まで被覆することができる。
【0018】
本発明の階段被覆構造において、下地調整材の蹴上げ調整部の下部前面側に、階段被覆材の段鼻被覆部の下方に延びる蹴上げ被覆部の下端部を差し込む剥離防止溝を形成してあると、この剥離防止溝に階段被覆材の蹴上げ被覆部の下端部を差し込むことによって、従来のように、蹴上げ被覆部を貼り付ける接着剤が硬化するまでに蹴上げ被覆部が端部より剥離したり、或いは、蹴上げ被覆部を貼り付けた接着剤や両面粘着テープが経時的に劣化して蹴上げ被覆部が剥離するのを、確実に防止できる利点がある。
【0019】
本発明の階段被覆構造において、下地調整材の踏み面調整部が、階段下地の踏み面の前縁部を被覆するだけの小さな前後寸法を有するものであると、踏み面調整部によって階段下地の踏み面全体を階段被覆材の貼り付けに適するように調整することはできないが、欠損部や凹凸が多く存在する階段下地の踏み面前縁部や段鼻部や蹴上げ上部を下地調整材で重点的にカバーして階段被覆材の貼り付けに適するように調整することができ、しかも、下地調整材の材料を大幅に節約してコストの低減と軽量化を達成できる利点がある。
【0020】
本発明の階段被覆構造において、下地調整材の少なくとも踏み面調整部の下面に、踏み面調整部の横幅方向に延びる断面が下広がり形状の凸条、又は/及び、踏み面調整部の横幅方向に延びる断面がV字形状の凸条を、互いに平行に複数形成してあると、例えば断面が下広がり形状の凸条が形成されている場合には、下地調整材の踏み面調整部を階段下地の踏み面に接着剤等で貼り付ける際に下広がり形状の凸条がアンカー効果を発揮するため、下地調整材を剥離しないように強固に貼り付けることが可能となり、しかも、該凸条が階段下地の踏み面の凹凸等に対応しながら部分的に接触して下地調整材を安定良く支持するため、下地調整材をガタツキなく階段下地に貼り付けることが可能となる。そして、下地調整材の踏み面調整部の下面に断面がV字形状の凸条が形成されている場合は、アンカー効果は小さくなるけれども、凸条の尖った下端が階段下地の踏み面の凹凸に対応しながら部分的に点接触ないし線接触するため、下地調整材の支持安定性が更に向上する効果があり、また、断面が下広がりの凸条と断面がV字形状の凸条が交互に形成されている場合は、双方の効果を発揮できるようになる。
【0021】
本発明の階段被覆構造において、下地調整材の踏み面調整部の上面を、後端に近づくほど高さが徐々に減少するように傾斜させてあると、その上に貼り重ねられた階段被覆材の踏み面被覆部も、後端に近づくほど高さが徐々に減少するように傾斜して、踏み面被覆部に雨水等が滞溜し難くなるため、雨水等により踏み面被覆部が滑り易くなって転倒する危険性を回避することができる。上記とは逆に、下地調整材の踏み面調整部の上面を、後端に近づくほど高さが徐々に増加するように傾斜させてあると、その上に貼り重ねられた階段被覆材の踏み面被覆部も、後端に近づくほど高さが徐々に増加するように傾斜するので、上記と同様に、踏み面被覆に雨水等が滞溜し難くなる。下地調整材の踏み面調整部を上記のように傾斜させる手段としては、例えば、踏み面調整部の肉厚を後端に近づくほど徐々に薄く又は徐々に厚くしたり、下地調整材の踏み面調整部の前端裏面又は後端裏面にスペーサを設けるなどの手段を採用することも可能であるが、前者の手段では、踏み面調整部の肉厚の薄い後端側の強度不足、又は、最も動荷重が負荷される踏み面調整部の肉厚の薄い前端側の強度不足を招く恐れがあり、後者の手段では、部品点数が増え施工が複雑になる。これらの不都合が生じない手段、即ち、前述したように、下地調整材の踏み面調整部の下面に形成した複数の凸条の高さを、踏み面調整部の最も前端寄りに位置する凸条が最も高く、後端に近い凸条ほど低くなるように徐々に減少させるという手段、又は下地調整材の踏み面調整部の下面に形成した複数の凸条の高さを、踏み面調整部の最も前端寄りに位置する凸条が最も低く、後端に近い凸条ほど高くなるように徐々に増加させるという手段によって、踏み面調整部の上面を傾斜させることが好ましい。
【0022】
本発明の階段被覆構造において、下地調整材の踏み面調整部の後端に沿って排水溝を設けてあると、後端に近づくほど高さが徐々に減少するように傾斜させた場合には、雨水等が階段被覆材の後端にある排水溝に向かって傾斜した踏み面被覆部から該排水溝に流れ込み、該排水溝の両端又は片端からスムーズに排水されるので、階段の排水性が向上する利点がある。また、後端に近づくほど高さが徐々に増加するように傾斜させた場合には、雨水等が階段被覆材の先端に向かって傾斜した踏み面被覆部から段鼻被覆部を通って下段の排水溝に流下ずるので、排水性が向上する。
【0023】
本発明の階段被覆構造において、下地調整材の少なくとも踏み面調整部の上面に、踏み面調整部の横幅方向に延びる小溝を互いに平行に複数形成してあると、踏み面調整部の上に階段被覆材の踏み面被覆部を貼り重ねるときに、小溝が空気抜き溝の役目を果たすため、膨らみが生じないように貼り重ねることができ、また、下地調整材の踏み面調整部の前後寸法が階段下地の踏み面の前後寸法より大きい場合には、上記小溝を切断ガイド溝として利用し、上記小溝に沿って踏み面調整部を容易に切断できる利点がある。
【0024】
本発明の階段被覆構造において、下地調整材の踏み面調整部を前後に複数分割し、分割体の端部を前後方向にスライド可能に重ねて接合したものは、分割体を前後方向にスライドさせることによって、下地調整材の踏み面調整部の前後寸法を階段下地の踏み面の前後寸法に合致するように調整できるので、被覆施工性が一層向上する利点がある。
【0025】
本発明に係る下地調整材は、略L字形状の断面を備えた下地調整材であって、硬質の合成樹脂又は金属によって踏み面調整部と、段鼻調整部と、その下方に延びる蹴上げ調整部と、蹴上げ調整部の下端の水切り部とを一体に形成したものであるから、これを接着剤等で階段下地に貼り付けると、前述のように階段下地の欠損部分や凹凸をカバーして階段被覆材の貼付けに適した欠損部分や凹凸のない階段下地に調整することができ、モルタル等による階段下地の面倒な補修作業を不要にして被覆施工性の大幅な向上を図ることができる。また、この下地調整材に重ねて設けた階段被覆材の蹴上げ被覆部を伝い落ちる雨水等は、蹴上げ調整部の下端の水切り部から落下し、階段下地の蹴上げを伝い落ちることがなくなるため、蹴上げの露出面に雨水等の伝い落ちた痕跡が汚れとなって残るのを防止することができる。
【0026】
本発明の下地調整材において、蹴上げ調整部の下部前面側に、階段被覆材の段鼻被覆部の下方に延びる蹴上げ被覆部の下端部を差し込む剥離防止溝を形成したものは、この剥離防止溝に階段被覆材の蹴上げ被覆部の下端部を差し込むことによって、従来のように蹴上げ被覆部を貼り付ける接着剤が硬化するまでに蹴上げ被覆部が端部から剥離したり、或いは、蹴上げ被覆部を貼付けた接着剤や両面粘着テープが経時的に劣化して蹴上げ被覆部が剥離するのを、確実に防止することができる。
【0027】
そして、本発明の下地調整材において、踏み面調整部が階段下地の踏み面の前縁部を被覆するだけの小さな前後寸法を有するものは、前述のように、その踏み面調整部によって階段下地の踏み面全体を階段被覆材の貼付けに適するように調整することはできないが、欠損部や凹凸が多く存在する階段下地の踏み面前縁部や段鼻部や蹴上げ上部を下地調整材で重点的にカバーして階段被覆材の貼り付けに適するように調整することができ、しかも、下地調整材の材料を大幅に節約してコストの低減と軽量化を達成することができる。
【0028】
また、本発明の下地調整材において、蹴上げ調整部の裏面に、階段被覆材の踏み面被覆部の後端から上方へ折り曲げる蹴上げ被覆部の厚み寸法に等しいか、若しくは若干大きい突出寸法を有するスペーサを形成したものは、蹴上げ調整部のスペーサより下側部分と階段下地の蹴上げとの間に、階段被覆材の踏み面被覆部の後端から上方へ折り曲げて階段下地の蹴上げに貼り付けた蹴上げ被覆部の上端部を挿入することによって、従来のように上方へ折り曲げた蹴上げ被覆部を貼り付ける接着剤が硬化するまでに該蹴上げ被覆部が上端から剥離したり、或いは、該蹴上げ被覆部を貼り付けた接着剤や両面粘着テープが経時的に劣化して該蹴上げ被覆部が剥離するのを、確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施形態を詳述する。
【0030】
図1は本発明の一実施形態に係る階段被覆構造の断面図、図2は同階段被覆構造に用いる階段被覆材の側面図、図3の(a)は同階段被覆構造に用いる本発明の下地調整材の側面図、(b)は(a)の円C1で囲んだ部分の拡大図、(c)は(a)の円C2で囲んだ部分の拡大図、図4〜図8はいずれも本発明の下地調整材の他の例を示す側面図である。
【0031】
図1に示す階段被覆構造は、既設のコンクリート製の階段下地1に、下地調整材2と階段被覆材3を重ねて設けたものであって、既設の階段下地1の段鼻には欠損部1aが、また、踏み面には凹凸1bが、部分的に存在している。
【0032】
下地調整材2は、階段下地1の上記欠損部1aや凹凸1bをカバーして、階段被覆材3の貼付けに適した欠損部や凹凸のない階段下地に調整し、モルタル等による階段下地1の面倒な補修作業を省略するために、階段下地1に貼り付けられるものであって、図1,図3に示すように、階段下地1の踏み面に重ねられる踏み面調整部2aと、階段下地1の段鼻に重ねられる段鼻調整部2bと、この段鼻調整部2bから下方に延びて階段下地1の蹴上げ上部に重ねられる蹴上げ調整部2cと、蹴上げ調整部2cの下端の水切り部2fなどが一体に形成された略L字形状の断面を有するものである。
【0033】
この下地調整材2は、アルミニウム、鋼板等の金属、ガラス繊維で補強された熱硬化性樹脂やポリカーボネート、アクリル、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂など、硬質で剛性のある合成樹脂又は金属で形成されたものが使用され、特に、押出成形法で成形された量産性の良いものが好ましく使用される。軟質の材料で形成されたものは、階段下地1の欠損部1aや凹凸1bに追従して変形するため、階段被覆材3の貼付けに適した階段下地を調整することはできない。
【0034】
この下地調整材2の踏み面調整部2aの下面には、踏み面調整部2aの横幅方向の一端から他端まで延びる断面が下広がり形状(台形状)の凸条2dが、一定間隔をあけて互いに平行に複数形成されている。そのため、図1に示すように接着剤4等で下地調整材2の踏み面調整部2aを階段下地1の踏み面に貼り付けると、下広がり形状の凸条2dがアンカー効果を発揮して、接着強度が大幅に向上し、しかも、この凸条2dが階段下地1の踏み面の凹凸1b等に対応しながら部分的に接触して下地調整材2を安定良く支持するため、下地調整材2をガタツキなく強固に階段下地1に貼り付けることができる。また、このような凸条2dを形成すると、該凸条2dが補強リブの役目もするため、下地調整材2の強度、特に撓み強度が向上する利点もある。
【0035】
凸条2dのピッチ間隔は10〜15mm程度に設定することが好ましく、また凸条2dの高さは1〜5mm程度に設定することが好ましい。凸条2dのピッチ間隔と高さをこれらの範囲に設定すると、上記の作用効果が顕著に発揮されるようになる。下地調整材2の肉厚(踏み面調整部2a、段鼻調整部2b、蹴上げ調整部2cの厚み寸法)は特に限定されないが、強度、重量、コスト等を総合的に勘案すると、2mm程度に設定するのが最適である。
【0036】
下地調整材の踏み面調整部の上面は水平でもよいが、この実施形態の下地調整材2は、凸条2dの高さを、踏み面調整部2aの最も前端寄り(図3では最も左寄り)に位置する凸条が最も高く、後端(図3では右端)に近い凸条ほど低くなるように徐々に減少させることによって、踏み面調整部2aの上面を後端に近づくほど高さが徐々に減少するように傾斜させている。このように下地調整材2の踏み面調整部2aを傾斜させると、その上に貼り重ねる階段被覆材3の踏み面被覆部3aも、後端に近づくほど高さが徐々に減少するように傾斜して、踏み面被覆部3aに雨水等が滞溜し難くなるため、雨水等により階段被覆材3の踏み面被覆部3aが滑り易くなって転倒する危険性を回避できる利点がある。尚、本実施態様とは逆に後端に近づくほど高さが徐々に増加するように傾斜させても、同様の効果を奏する。
【0037】
下地調整材2の踏み面調整部2aを上記のように傾斜させる手段としては、例えば、踏み面調整部2aの肉厚を後端に近づくほど徐々に薄くしたり、下地調整材2の踏み面調整部2aの前端裏面にスペーサ(不図示)を設ける等の手段を採用することも可能であるが、前者の手段では、踏み面調整部2aの肉厚が薄い後端側の強度不足を招く恐れがあり、後者の手段では、部品点数が増えて施工が複雑になるので、上記のように凸条2dの高さを、後端に近い凸条ほど低くなるように徐々に減少させるという手段で、踏み面調整部2aの上面を傾斜させることが好ましい。尚、凸条2dの高さを、後端に近い凸条ほど高くなるように徐々に増加させるという手段も、上述したように好ましい。
【0038】
尚、上記の下地調整材2では、凸条2dを踏み面調整部2aの下面のみに形成しているが、段鼻調整部2bや蹴上げ調整部2cの裏面に形成してもよいことは言うまでもない。
【0039】
図1,図3に示すように、この下地調整材2の蹴上げ調整部2cの下端の前面側には、階段被覆材3の蹴上げ被覆部3cの下端を支持する支持凸縁2eが形成されており、この蹴上げ調整部2cの下端(つまり支持凸縁2eの下面)にV字形状の断面を有する水切り部2fが形成されている。このような水切り部2fが存在しない場合は、階段被覆材3の蹴上げ被覆部3cを伝い落ちた雨水等が階段下地1の蹴上げの露出面を伝い落ちるため、雨水等の伝い落ちた痕跡が汚れとなって蹴上げの露出面に残ることになるが、上記水切り部2fが蹴上げ調整部2cの下端(支持凸縁2eの下面)に形成されていると、階段被覆材3の蹴上げ被覆部3cを伝い落ちる雨水等が上記水切り部2fから下段の階段被覆材3に落下するので、階段下地1の蹴上げ面に汚れが生じなくなる。
【0040】
下地調整材2の踏み面調整部2aと蹴上げ調整部2cとの夾角θは、階段下地1の踏み面と蹴上げの夾角が通常80°程度であるから、これを考慮して80°程度に設定することが好ましい。このような夾角θを有する下地調整材2は、従来の殆ど全ての階段下地1に対して、蹴上げ調整部2cが階段下地1の蹴上げと略平行となるように貼り付けることができる。また、下地調整材2の夾角θが階段下地の夾角よりも大きく、蹴上げ調整部2cの先端と階段下地の蹴上げの間に隙間があるような場合(不図示)でも、下地調整材2が充分な強度を持つようにしておけば、階段下地の角度を調整して階段被覆材3を被覆することができる。逆に、下地調整材2の夾角θが階段下地の夾角よりも小さい場合でも、階段下地の角度を調整して階段被覆材3を被覆できることは言うまでもない。更に、階段の各段の下地の夾角が若干変わっているような不揃いの階段でも、下地調整材2を用いれば、同一の角度に揃えて階段被覆材を被覆できるので、美しい仕上がりにすることができる。
【0041】
上記の下地調整材2は、階段下地1に対して、接着剤4やコーキング剤や粘着剤等で貼り付けるのが良く、特に、下面に凸条2dが形成された下地調整材2は、階段下地と強固に固定できる一液(湿気)硬化型ウレタン、二液硬化型ウレタン、二液硬化型エポキシ等の硬化型接着剤やコーキング剤、或いは、アクリル系エマルジョン等のエマルジョンタイプの接着剤やコーキング剤、ホットメルト接着剤で貼り付けることが好ましい。また、下地調整材2の蹴上げ調整部2cは、上記の接着剤等で貼り付ける他、ブチルゴム等のゴム系粘着剤やアクリル系粘着剤を芯材の両面に塗布した両面粘着テープを用いて貼り付けることも好ましい。もっとも、踏み面調整部2aと段鼻調整部2bを上記の接着剤4やコーキング剤で貼り付けるのみで下地調整材2を階段下地1に強固に固定できる場合は、下地調整材2の蹴上げ調整部2cを上記の接着剤等で階段下地1の蹴上げに貼り付ける必要は必ずしもない。
【0042】
また、上記の下地調整材2は、予め形成したビス孔からビスを階段下地1にねじ込む等の手段で、階段下地1から剥離しないように貼り付けてもよい。その場合は、ビス孔に座繰を形成し、ビス頭が下地調整材2の表面から突出しないようにすることが好ましい。
【0043】
尚、接着剤4や粘着剤で下地調整材2を階段下地1に貼り付ける場合には、階段下地1の表面に微細なシボやヘアラインを形成し、接着強度や粘着強度を高めることが好ましい。
【0044】
下地調整材2に貼り重ねられる階段被覆材3は、図1,図2に示すように、軟質の合成樹脂又はゴムによって、下地調整材2の踏み面調整部2aに貼り重ねられる踏み面被覆部3aと、下地調整材2の段鼻調整部2bに貼り重ねられる段鼻被覆部3bと、この段鼻被覆部3bから下方に延びて下地調整材2の蹴上げ調整部2cに貼り重ねられる蹴上げ被覆部3cとが一体に形成されたものであり、踏み面被覆部3aの上面には、滑り止め用の大小の突起3d,3eが突設されている。そして、階段昇降時に大きい応力、剪断力、衝撃力等が作用する段鼻被覆部3bは厚肉化されて補強されており、かつ、段鼻被覆部3bの裏面と下地調整材2の段鼻調整部2bが密着するように、段鼻被覆部3bの裏面の曲率半径と段鼻調整部2bの表面の曲率半径が同一に設定されている。また、踏み面被覆部3aと蹴上げ被覆部3cとの夾角θも、下地調整材2の夾角θと同様に80°程度に設定されている。
【0045】
階段被覆材3としては、軟質塩化ビニル、軟質ポリオレフィン等の軟質の熱可塑性合成樹脂又は合成ゴムからなる単層シートを図2に示すような略L形に曲げ加工したもの、軟質の熱可塑性合成樹脂からなる表面層と裏面層を積層した二層構造のシートを略L形に曲げ加工したもの、軟質の熱可塑性合成樹脂からなる表面層と裏面層との間にガラス繊維層を設けた三層構造のシートを略L形に曲げ加工したもの、裏面層の下面に合成樹脂製不織布を更に積層した三層又は四層構造のシートを略L形に曲げ加工したもの等が使用される。これらの中でも、表面層と裏面層との間にガラス繊維層を設けた階段被覆材は、ガラス繊維層によって寸法安定性や強度が向上する利点があり、また、裏面層の下面に合成樹脂製不織布を積層した階段被覆材は、下地調整材2に貼り付ける際にかみこんだ空気が合成樹脂製不織布の空隙を通って抜けたり、合成樹脂製不織布の空隙が接着剤から発生したガスを均一に含むことができ、階段被覆材の膨れを防止できると共に、接着強度も向上する利点があるので、特に好ましく使用される。
【0046】
このような階段被覆材3は、一液(湿気)硬化型ウレタン接着剤、二液硬化型ウレタン接着剤、二液硬化型エポキシ接着剤等、各種エマルジョン系の接着剤を用いて下地調整材2に貼り重ねられるが、特に、階段被覆材3の蹴上げ被覆部3cの裏面に前記の両面粘着テープを予め貼着しておき、硬化型接着剤が完全に硬化して充分な接着力を発揮するまでの間、この両面粘着テープで階段被覆剤3の蹴上げ被覆部3cを下地調整材2の蹴上げ調整部に貼り付けて、階段被覆材3がズレたり剥離したりすることがないように固定することが好ましい。尚、図1においては、階段被覆材3を貼り付けるための硬化型接着剤や両面粘着テープは図示されていない。
【0047】
また、図示されていないが、この階段被覆材3の周縁部や下地調整材2の周縁部は、コーキング剤によって止水と剥離防止を図ることが好ましく、そのようなコーキング剤としては、一液(湿気)硬化型ウレタン、二液硬化型ウレタン、二液硬化型エポキシなどのコーキング剤が好ましく使用される。
【0048】
また、図1に示すように、下地調整材2の踏み面調整部2aの後端に沿って排水溝5を設けることが好ましく、このような排水溝5を設けると、雨水等が階段被覆材3の傾斜した踏み面被覆部3aから該排水溝5に流れ込み、該排水溝5の両端又は片端からスムーズに排水されるので、階段の排水性が向上する利点がある。更に、蹴上げ調整部2cの下端に水切り部2fがある場合は、水切り部2fと排水溝5とを垂直関係に形成しておくと、蹴上げ被覆部3cを伝い落ちる雨水等が水切り部2fから直接排水溝5に落下するので、階段の排水性の向上が図れる。
【0049】
以上の階段被覆構造のように、硬質の合成樹脂又は金属からなる下地調整材2を階段下地1に貼り付けると、階段下地1に欠損部分1aや凹凸1bがあっても硬質の下地調整材2でカバーされて、階段被覆材3の貼付けに適した欠損部分や凹凸のない階段下地に調整されるため、従来のモルタル等による階段下地の面倒な補修作業を省略して下地調整材2の上に軟質の階段被覆材3を貼り重ねることにより、効率良く被覆施工することができる。そして、貼り重ねた軟質の合成樹脂又はゴムからなる階段被覆材3によって、階段昇降時の防滑性、防水性、衝撃緩和性、防音性等が向上するため、滑って転倒したり大きい騒音が出たりすることがなくなり、安全且つ静かに昇降できるようになる。また、既述したように、階段被覆材3の蹴上げ被覆部3cを伝い落ちた雨水等は、下地調整材2の蹴上げ調整部2cの下端の水切り部2fから下段の階段被覆材3の踏み面被覆部3aの後端に落下し、階段下地1の蹴上げを伝い落ちることがなくなるため、蹴上げの露出面に雨水等の伝い落ちた痕跡が汚れとなって残るのを防止することもできる。
【0050】
本発明の階段被覆構造においては、上記の下地調整材2に代えて、図4〜図8に示すような種々の下地調整材を使用することができる。
【0051】
図4に示す下地調整材20は、踏み面調整部2aの下面に、該踏み面調整部2aの横幅方向の一端から他端まで延びる断面がV字形状の凸条2gを一定間隔をあけて互いに平行に複数形成し、踏み面調整部2aの最も前端寄りに位置する凸条が最も高く後端に近い凸条ほど低くなるように各凸条2gの高さを徐々に減少させることによって、踏み面調整部2aの上面を後端に近づくほど低くなるように傾斜させたものである。この下地調整材20の他の構成は前記下地調整材2と同様であるから、図4において同一部分に同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0052】
このような下地調整材20を接着剤4等で階段下地1に貼り付けると、凸条2gによるアンカー効果は前記下地調整材2の下広がり形状の凸条2dより低下するが、V字形状の凸条2gの尖った下端が階段下地1の踏み面の凹凸1b等に対応しながら部分的に点接触ないし線接触して、より安定的に下地調整材20を支持できるようになるため、前記下広がり形状の凸条2dで支持する場合よりも、下地調整材20の支持安定性が向上する利点がある。
【0053】
図5に示す下地調整材21は、踏み面調整部2aの下面に、該踏み面調整部2aの横幅方向の一端から他端まで延びる断面が下広がり形状の凸条2dと、断面がV字形状の凸条2gを一定間隔をあけて交互に形成し、踏み面調整部2aの最も前端寄りに位置する凸条が最も高く後端に近い凸条ほど低くなるように各凸条2d,2gの高さを徐々に減少させることによって、踏み面調整部2aの上面を後端に近づくほど低くなるように傾斜させたものである。このように下広がり形状の凸条2dとV字形状の凸条2gを交互に形成する場合は、V字形状の凸条2gの高さが両隣の下広がり形状の凸条2dより少し高くなるように設定し、主にV字形状の凸条2gによって下地調整材21を支持させることが好ましい。この下地調整材21の他の構成は前記下地調整材2と同様であるから、図5において同一部分に同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0054】
このような下地調整材21を接着剤4等で階段下地1に貼り付けると、下広がり形状の凸条2dのアンカー作用による接着強度の向上と、V字形状の凸条2gによる支持安定性の向上との双方の効果を発揮できる利点がある。
【0055】
図6に示す下地調整材22は、蹴上げ調整部2cの下部前面側に、階段被覆材3の段鼻被覆部3bの下方に延びる蹴上げ被覆部3cの下端部を差し込む剥離防止溝2hを形成し、蹴上げ調整部2cの下端(つまり剥離防止溝2hの下面)にV字形状の断面を有する水切り部2fを設けたものである。この下地調整材22の他の構成は前記下地調整材2と同様であるから、図6において同一部分に同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0056】
このような下地調整材22は、剥離防止溝2hに階段被覆材3の蹴上げ被覆部3cの下端部を差し込むことによって、従来のように蹴上げ被覆部を貼り付ける接着剤が硬化するまでに蹴上げ被覆部が剥離したり、或いは、蹴上げ被覆部を貼り付けた接着剤や両面粘着テープが経時的に劣化して蹴上げ被覆部が剥離するのを、確実に防止できる利点がある。尚、上記剥離防止溝2hを形成した下地調整材22を用いる場合は、階段被覆材の蹴上げ被覆部3cと下地調整材の蹴上げ調整部2cとを固定する両面粘着テープを用いると、剥離防止溝2hに階段被覆材3の蹴上げ被覆部3cの下端部を差し込みづらくなるため、階段被覆材の蹴上げ被覆部3cと下地調整材の蹴上げ調整部2cとの固定には、接着剤又はコーキング剤を用いることが望ましい。
【0057】
図7に示す下地調整材23は、踏み面被覆部2aの上面に、該踏み面調整部2aの横幅方向の一端から他端まで延びる小溝2kを、凸条2dの相互間隔と同じ相互間隔をあけ、凸条2dと凸条2dの中間に位置させて、互いに平行に複数形成したものである。この下地調整材23の他の構成は前記下地調整材2と同様であるから、図7において同一部分に同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0058】
このような下地調整材23は、その踏み面調整部2aの上に階段被覆材3の踏み面被覆部3aを貼り重ねるときに、小溝2kが空気抜き溝の役目を果たすため、膨らみが生じないように貼り重ねることができ、また踏み面調整部2aと階段被覆材3の踏み面被覆部3aを接着する際のアンカーとしても働くため、強固に階段被覆材3を固定することができる。更に、下地調整材23の踏み面調整部2aの前後寸法が階段下地1の踏み面の前後寸法より大きい場合には、上記小溝2kを切断ガイド溝として利用し、上記小溝2kに沿って踏み面調整部2aを容易に切断できる利点がある。
【0059】
図8に示す下地調整材24は、その踏み面調整部を前後に二分割し、前側の分割体20aの後端部に一段低い受け段部2mを形成して、この受け段部2mに後側の分割体21aの前端部を前後方向にスライド可能に重ねて接合するように構成したものである。受け段部2mの前後幅は特に限定されないが、あまり広すぎると、階段下地1の踏み面に貼り付けるときの支持安定性が低下するので、受け段部2mの前後幅は、凸条2dの相互間隔と同程度ないし相互間隔の2倍程度とすることが好ましい。また、受け段部2mの段差面と後側の分割体21aとの間に生じる凹空部には、前述したコーキング材を詰めることが好ましい。尚、この下地調整材24の他の構成は前記下地調整材2と同様であるから、図8において同一部分に同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0060】
このような分割タイプの下地調整材24は、前側の分割体20aの受け段部2mの範囲内で、後側の分割体21aの前端部を前後方向にスライドさせることによって、踏み面調整部2aの全体の前後寸法を階段下地1の踏み面の前後寸法に対応して調整できるため、被覆施工性が更に向上する利点がある。尚、上記の下地調整材24は踏み面調整部2aを二分割しているが、三分割以上としてもよいことは言うまでもない。
【0061】
また、上記の分割タイプの下地調整材24においては、後側の分割体21aの後端に、階段被覆材3の踏み面被覆部3aの後端を挿入して該踏み面被覆部3aの剥離を防止するコ字形断面の剥離防止溝部を設けたり、U字形断面の排水溝部を設けたりすることも好ましい。
【0062】
分割タイプの下地調整材24は、階段下地の踏み面の前後寸法に合わせて、後側の分割体21aをスライドさせて前後寸法を調整可能なため、非分割タイプの下地調整材のように踏み面調整部の後端部を切断して調整する必要がない。従って、後側の分割体21aの後端に上記の剥離防止溝部や排水溝部を一体に設けることができるので、剥離防止溝を設けた場合ば、階段被覆材3の踏み面被覆部3aの後端を剥離防止溝部に差し込むことによって踏み面被覆部3aの剥離を防止することができるし、また、排水溝部を設けた場合は、別個に排水溝部を設置することが不要となるので、部材点数の削減、コストの低減、施工性の向上を図ることが可能となる。
【0063】
図9は本発明の他の実施形態に係る階段被覆構造の断面図である。
【0064】
この階段被覆構造は、階段下地1の踏み面から段鼻及び段鼻下方の蹴上げ上部に亘って下地調整材25と階段被覆材30を貼り重ねると共に、階段被覆材30の後端から上方へ折り曲げた蹴上げ被覆部3fによって、階段下地1の踏み面の後端から立ち上がる蹴上げの表面まで被覆したものである。
【0065】
下地調整材25は、蹴上げ調整部2cの裏面に、階段被覆材30の後端の蹴上げ被覆部3fの厚み寸法に等しいか、若しくは若干大きい突出寸法を有するスペーサ2nを形成した点で、前記の下地調整材2と構成が異なるものである。この下地調整材25の他の構成は前記の下地調整材2と同様であるので、図9において同一部分に同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0066】
また、階段被覆材30は、踏み面被覆部3aの後端から上方へ折り曲げる蹴上げ被覆部3fを更に一体に形成した点で、前記の階段被覆材3と構成が異なるものである。この階段被覆材30の後端の蹴上げ被覆部3fは、施工現場において階段下地1の後端から立ち上がる蹴上げに沿うように上方へ折り曲げられるものであり、最初から上方へ折り曲げられているものではない。この階段被覆材30の他の構成は前記階段被覆材3と同様であるので、図9において同一部分に同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0067】
図9に示すように、下地調整材25は、その踏み面調整部2a、段鼻調整部2b、蹴上げ調整部2cのスペーサ2nより上側部分が、前記の接着剤4によって、階段下地1の踏み面、段鼻、蹴上げ上部にそれぞれ貼り付けられている。そして、この下地調整材25の上に、階段被覆材30の踏み面被覆部2a、段鼻被覆部2b、蹴上げ被覆部2cが前記の一液(湿気)硬化型ウレタン接着剤、二液硬化型ウレタン接着剤、二液硬化型エポキシ接着剤等、各種エマルジョン系の接着剤(不図示)で貼り重ねられると共に、階段被覆材30の後端の蹴上げ被覆部3fが、階段下地1の踏み面の後端から立ち上がる蹴上げに沿うように上方に折り曲げられて、上記接着剤や前記両面粘着テープ(不図示)で蹴上げに貼り付けられており、この蹴上げ被覆部3fの上端が、階段下地の上段に貼り付けられた下地調整材25の蹴上げ調整部2cの下部(スペーサ2nより下側部分)と蹴上げとの間隙に挿入されている。
【0068】
このような実施形態の階段被覆構造では、前記実施形態の階段被覆構造と同様の作用効果に加えて、階段下地1の蹴上げを階段被覆材30の後端の蹴上げ被覆部3fまで全て被覆して美観を向上させることができるようになり、しかも、蹴上げ被覆部3fの上端部を下地調整材26の蹴上げ調整部2cの下部で押さえることによって、接着剤が硬化するまでに蹴上げ被覆部3fが剥離したり、或いは、蹴上げ被覆部3fを貼り付けた接着剤や粘着剤が経時的に劣化して蹴上げ被覆部3fが剥離するのを、確実に防止できるといった作用効果が奏される。
【0069】
図10は本発明の更に他の実施形態に係る階段被覆構造の断面図、図11は同階段被覆構造に用いられる本発明の下地調整材の側面図である。
【0070】
この階段被覆構造は、踏み面調整部2aの前後寸法が小さい下地調整材26と前述した階段被覆材30を重ねて階段下地1に貼り付けたものである。
【0071】
この階段被覆構造に用いられる下地調整材26は、前述した硬質の合成樹脂や金属によって、階段下地1の踏み面前縁部に重ねられる前後寸法の小さい踏み面調整部2aと、階段下地1の段鼻に重ねられる段鼻調整部2bと、この段鼻調整部2bから下方へ伸びて階段下地1の蹴上げ上部に重ねられる蹴上げ調整部2cとを一体に形成すると共に、蹴上げ調整部2cの下部前面側に、階段被覆材3の蹴上げ被覆部3cの下端部を差し込む剥離防止溝2hを形成し、蹴上げ調整部2cの下端(つまり剥離防止溝2hの下面)にV字形の断面形状を有する水切り部2fを一体に突設したものである。そして、蹴上げ調整部2cの裏面には、階段被覆材30の後端の蹴上げ被覆部3fの厚み寸法に等しいか、若しくは若干大きい突出寸法を有する複数(図11では2つ)のスペーサ2nが一体に形成されている。
【0072】
図10に示すように、下地調整材26は、蹴上げ調整部2cの下部(下側のスペーサ2nより下側部分)を除いて、前記の接着剤4で、階段下地の踏み面の前縁部、段鼻、蹴上げ上部に貼り付けられている。そして、階段被覆材30は、蹴上げ被覆部3cがその下端部を下地調整材26の剥離防止溝2hに挿入した状態で蹴上げ調整部2cに重ねられ、段鼻被覆部3bが下地調整材27の段鼻調整部2bに重ねられ、踏み面被覆部3aの前縁部が下地調整材27の踏み面調整部22aに重ねられて、前記の接着剤でそれぞれ貼り付けられており、更に、踏み面被覆部3aの前縁部より後側部分と、階段下地1の後端から立ち上がる蹴上げに沿って上方に折り曲げられた蹴上げ被覆部3fは、階段下地1の踏み面と該蹴上げの表面に、前記の一液(湿気)硬化型ウレタン接着剤、二液硬化型ウレタン接着剤、二液硬化型エポキシ接着剤等、各種エマルジョン系の接着剤(不図示)で直接貼り付けられている。また、階段被覆材30の蹴上げ被覆部3fの上端部は、階段下地1の上段に貼り付けられた下地調整材26の蹴上げ調整部2cの下部(下側のスペーサ2nより下側部分)と蹴上げとの間隙に挿入されている。
【0073】
このような階段被覆構造では、下地調整材26の踏み面調整部2aによって階段下地1の踏み面全体を階段被覆材の貼り付けに適するように調整することはできないが、欠損部や凹凸が多く存在する階段下地1の踏み面前縁部や段鼻部や蹴上げ上部を、下地調整材27で重点的にカバーして階段被覆材の貼り付けに適するように調整できるため、前述した下地調整材2,20,21,22,23,24,25と同様に、欠損部や凹凸の面倒な補修を省略して効率良く被覆施工することができ、しかも、下地調整材26の材料を大幅に節約してコストの低減と軽量化を達成できるといった効果が奏される。
【0074】
また、階段被覆材30の蹴上げ被覆部3cの下端部が下地調整材26の剥離防止溝2hに差し込まれ、階段被覆材30の後端から立ち上がる蹴上げ被覆部3fの上端部が、下地調整材26の蹴上げ調整部2cの下部と蹴上げとの間隙部に挿入されているため、蹴上げ被覆部3c,3fを貼り付ける接着剤が硬化するまでに蹴上げ被覆部3c,3fが剥離したり、或いは、蹴上げ被覆部3c,3fを貼り付けた接着剤が経時的に劣化して蹴上げ被覆部3c,3fが剥離するのを確実に防止できるといった効果も奏される。そして、階段下地1の蹴上げを階段被覆材30の後端の蹴上げ被覆部3fまで全て被覆するので、階段の美観を向上させることができ、また、水切り2fによって、蹴上げ被覆部3fが雨水の伝い落ちる痕跡で汚れるのを防止できるといった効果も奏される。
【0075】
図10,図11に示す実施形態では、スペーサ2nの断面が方形になっているが、前述の凸条2d,2gと同様に、先広がり形状又はV字形状の断面を有するスペーサとして、アンカー作用による接着強度の向上、及び、支持安定性の向上を図るようにしてもよい。また、階段被覆材30に代えて前述した階段被覆材3を貼り重ねてもよく、その場合は、スペーサ2nを形成しても、形成しなくてもよい。
【0076】
尚、本発明の図4〜図8に示す実施態様の下地調整材では、踏み面調整部を後端に近づくほど高さが減少するように傾斜させたものについて説明したが、後端に近づくほど高さが増加するように傾斜させた下地調整材としてもよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一実施形態に係る階段被覆構造の断面図である。
【図2】同階段被覆構造に用いる本発明の階段被覆材の側面図である。
【図3】(a)は同階段被覆構造に用いる下地調整材の側面図、(b)は(a)の円C1で囲んだ部分の拡大図、(c)は(a)の円C2で囲んだ部分の拡大図である。
【図4】本発明に係る下地調整材の他の例を示す側面図である。
【図5】本発明に係る下地調整材の更に他の例を示す側面図である。
【図6】本発明に係る下地調整材の更に他の例を示す側面図である。
【図7】本発明に係る下地調整材の更に他の例を示す側面図である。
【図8】本発明に係る下地調整材の更に他の例を示す側面図である。
【図9】本発明の他の実施形態に係る階段被覆構造の断面図である。
【図10】本発明の更に他の実施形態に係る階段被覆構造の断面図である。
【図11】同階段被覆構造に用いる本発明の階段被覆材の側面図である。
【符号の説明】
【0078】
1 階段下地
1a 欠損部
1b 凹凸
2,20,21,22,23,24,25,26 下地調整材
2a 踏み面調整部
2b 段鼻調整部
2c 蹴上げ調整部
2d,2g 凸条
2f 水切り部
2h 剥離防止溝
2k 小溝
2m 受け段部
2n スペーサ
20a 前側の分割体
21a 後側の分割体
3,30 階段被覆材
3a 踏み面被覆部
3b 段鼻被覆部
3c 蹴上げ被覆部
3f 踏み面被覆部の後端から上方に折り曲げる蹴上げ被覆部
4 接着剤
5 排水溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
階段下地に下地調整材と階段被覆材を重ねて設けた階段被覆構造であって、下地調整材は硬質の合成樹脂又は金属によって踏み面調整部と、段鼻調整部と、その下方に延びる蹴上げ調整部と、蹴上げ調整部の下端の水切り部とを一体に形成したものであり、階段被覆材は軟質の合成樹脂又はゴムによって踏み面被覆部と、段鼻被覆部と、その下方に延びる蹴上げ被覆部とを一体に形成したものであることを特徴とする階段被覆構造。
【請求項2】
階段被覆材が、踏み面被覆部の後端から上方へ折り曲げる蹴上げ被覆部を更に一体に形成したものであることを特徴とする請求項1に記載の階段被覆構造。
【請求項3】
下地調整材の蹴上げ調整部の下部前面側に、階段被覆材の段鼻被覆部の下方に延びる蹴上げ被覆部の下端部を差し込む剥離防止溝を形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の階段被覆構造。
【請求項4】
下地調整材の少なくとも踏み面調整部の下面に、踏み面調整部の横幅方向に延びる断面が下広がり形状の凸条、又は/及び、踏み面調整部の横幅方向に延びる断面がV字形状の凸条を、互いに平行に複数形成したことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の階段被覆構造。
【請求項5】
下地調整材の踏み面調整部の上面を、後端に近づくほど高さが徐々に減少又は増加するように傾斜させたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の階段被覆構造。
【請求項6】
下地調整材の踏み面調整部の下面に形成した複数の凸条の高さを、踏み面調整部の最も前端寄りに位置する凸条が最も高く、後端に近い凸条ほど低くなるように徐々に減少させて、踏み面調整部の上面を、後端に近づくほど高さが徐々に減少するように傾斜させるか、又は、下地調整材の踏み面調整部の下面に形成した複数の凸条の高さを、踏み面調整部の最も前端寄りに位置する凸条が最も低く、後端に近い凸条ほど高くなるように徐々に増加させて、踏み面調整部の上面を、後端に近づくほど高さが徐々に増加するように傾斜させたことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の階段被覆構造。
【請求項7】
下地調整材の踏み面調整部の後端に沿って排水溝を設けたことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の階段被覆構造。
【請求項8】
下地調整材の少なくとも踏み面調整部の上面に、踏み面調整部の横幅方向に延びる小溝を互いに平行に複数形成したことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の階段被覆構造。
【請求項9】
下地調整材の踏み面調整部を前後に複数分割し、分割体の端部を前後方向にスライド可能に重ねて接合したことを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の階段被覆構造。
【請求項10】
下地調整材の踏み面調整部が、階段下地の踏み面の前縁部を被覆するだけの小さな前後寸法を有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の階段被覆構造。
【請求項11】
階段被覆材を重ねて階段下地に取付ける略L字形状の断面を備えた下地調整材であって、硬質の合成樹脂又は金属によって踏み面調整部と、段鼻調整部と、その下方に延びる蹴上げ調整部と、蹴上げ調整部の下端の水切り部とを一体に形成したことを特徴とする下地調整材。
【請求項12】
蹴上げ調整部の下部前面側に、階段被覆材の段鼻被覆部の下方に延びる蹴上げ被覆部の下端部を差し込む剥離防止溝を形成したことを特徴とする請求項11に記載の下地調整材。
【請求項13】
踏み面調整部が、階段下地の踏み面の前縁部を被覆するだけの小さな前後寸法を有することを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の下地調整材。
【請求項14】
蹴上げ調整部の裏面に、階段被覆材の踏み面被覆部の後端から上方へ折り曲げる蹴上げ被覆部の厚み寸法に等しいか、若しくは若干大きい突出寸法を有するスペーサを形成したことを特徴とする請求項11ないし請求項13のいずれかに記載の下地調整材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−144497(P2009−144497A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47251(P2008−47251)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【分割の表示】特願2007−324713(P2007−324713)の分割
【原出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【Fターム(参考)】