説明

集成マイカ板

【課題】 柔軟性を有し、高温の電熱絶縁用に使用してもアウトガスの発生が少ない集成マイカ板を得る。
【解決手段】 マイカ原料を抄造した原紙板に、フッ素化ポリエーテル骨格とその末端を修飾し且つケイ素を含む架橋反応基とを有する高分子材料を架橋反応させてなる液状のフッ素エラストマーからなる接着剤を含浸させた後、加熱圧縮して集成マイカ板を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高温の電熱絶縁用に使用されることを前提とした集成マイカ板に関する。
【背景技術】
【0002】
高温の電熱絶縁用に最適な絶縁素材として集成マイカ板が広く使用されている。
【0003】
前記集成マイカ板はマイカ原鉱を粒状に粉砕したマイカ原料を抄造した原紙板に接着剤を含浸させた後、加熱圧縮して得られるものであり、この場合、含浸させる接着剤としてはシリコーン樹脂ワニス、エポキシ樹脂ワニスなどが採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平6−84698号公報
【特許文献2】実開平7−32898号公報
【特許文献3】特公平7−059217号公報
【特許文献4】特開2003−217800号公報
【特許文献5】特開平9−63755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記集成マイカ板は電気絶縁性、強度、耐腐食性、断熱性、不燃性に優れ、かつ加工性が良く、電気発熱体の基板となる電気絶縁板として最適であることより広く採用されている。
【0006】
ところで、例えば特許文献3、4に示すように、前記集成マイカ板を電気発熱体の基板となる電気絶縁板として使用する場合、金属ケースや金属プレートに固定して使用されることが多い。この場合、通電して加熱した場合、集成マイカ板に対し、金属部分の熱膨張率が高いために、両者を強固に固定すると集成マイカ板に損傷を生じ、また緩く固定すると両者間にずれが生じて電気的な問題が生じるおそれがあった。
【0007】
また、電熱機器によっては、機器本体の電気発熱体の収容箇所が曲面となっており、そこに収容する電気絶縁板である集成マイカ板も曲面を有するものが要求され加工手間を要する問題があった。
【0008】
以上の現象は、シリコーン樹脂ワニスやエポキシ樹脂ワニスなどを含浸させた集成マイカ板が柔軟性に乏しいことにより生じるものであるが、これに対し、柔軟性に富んだ電気絶縁板としてシリコーンラバー板が知られている(例えば、特許文献5)。
【0009】
しかしながら、シリコーンラバー板は耐熱温度が低く、耐熱温度が高い集成マイカ板と同じ場面では使用できないという問題があった。また、集成マイカ板、シリコーンラバー板共通の特性として、それを電気発熱体の基板となる電気絶縁板として使用した場合、加熱時に低分子シロキサン成分がアウトガスとしてにじみ出すことが挙げられるが、これにより電気回路部分が汚染されて接触不良を引き起こす問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明の集成マイカ板は前記の従来技術の問題点に鑑みて創作されたものであり、マイカ原料を抄造した原紙板に、フッ素化ポリエーテル骨格とその末端を修飾し且つケイ素を含む架橋反応基とを有する高分子材料を架橋反応させてなる液状のフッ素エラストマーからなる接着剤を含浸させた後、加熱圧縮して得ることを特徴とする。
【0011】
この発明において、接着剤として使用されるフッ素エラストマーは下記一般式に示されるものが挙げられる。
【化2】

【発明の効果】
【0012】
この発明において集成マイカ板に含浸される接着剤であるフッ素エラストマーはそれが固化した場合に柔軟性に富むことが知られている。よって、この発明の集成マイカ板はその属性として接着剤としてシリコーン樹脂ワニス、エポキシ樹脂ワニスを使用した従来の集成マイカ板に比し高い柔軟性を有することとなる。その結果、それを電気発熱体が設けられる電気絶縁板としてマイカヒーターに用いた場合、金属ケースや金属プレートに強固に固定しても、加熱時の金属部分の膨張に追従して弾性変形しするので損傷のおそれがない。従って、緩く固定することによるマイカヒーターと金属部分のずれの問題が解消されることなる。
【0013】
また、前記と同様の理由により、曲げ特性が良好な可撓性に富む電気絶縁板が得られるので、曲面の加工性も向上することとなる。
【0014】
さらに、この発明の集成マイカ板はシリコーンラバー板や従来の集成マイカ板に比べて加熱時の低分子シロキサン成分のにじみ出しが少ないので、アウトガスにより電気回路部分を汚染した接触不良を生じさせることがなく、また、クリーンルームで使用する電熱機器の電気発熱体の電気絶縁板としても使用可能となる。
【0015】
さらに、この発明の集成マイカ板はその属性としてシリコーンラバー板は勿論のこと、従来の集成マイカ板に比べても、耐高温特性、耐低温特性に優れ、耐薬品性、耐溶剤性にも優れる。
【0016】
一方、この発明において集成マイカ板に含浸される接着剤であるフッ素エラストマーは吸湿率が低いので、高湿度の環境下で使用することを想定した電熱機器に最適のものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】従来技術の集成マイカ板の可撓試験結果を示す図面代用写真。
【図2】この発明の集成マイカ板の可撓試験結果を示す図面代用写真。
【図3】シリコーンラバー板の可撓試験結果を示す図面代用写真。
【図4】従来技術の集成マイカ板の可撓試験結果を示す図面代用写真。
【図5】従来技術の集成マイカ板の可撓試験結果を示す図面代用写真。
【図6】この発明の集成マイカ板の可撓試験結果を示す図面代用写真。
【図7】この発明の集成マイカ板の可撓試験結果を示す図面代用写真。
【発明を実施するための形態】
【0018】
マイカ原料を抄造した原紙板にフッ素化ポリエーテル骨格とその末端を修飾し且つケイ素を含む架橋反応基とを有する高分子材料を架橋反応させてなる液状のフッ素エラストマーからなる接着剤を含浸させた後、これら重ね合わせ、熱プレスや加熱されたロールプレスで圧着した後、適当な乾燥を行って集成マイカ板を得る。
【0019】
この実施例においては、前記接着剤として信越化学工業製のSIFEL(登録商標)を用いている。その構造は下記一般式に示されるものである。
【0020】
【化3】

【実施例1】
【0021】
前記の集成マイカ板と従来技術の集成マイカ板とシリコーンラバー板の可撓試験を行った。試験方法は直径51mmの金属製パイプにこれらの絶縁体を手でゆっくりと巻きつき、絶縁体の折損の有無を検査することにより行った。
【0022】
図1は従来技術の集成マイカ板の試験結果を示す写真であり、巻き付け直後にひび割れを起こし、金属製パイプに沿って折れ曲げることができなかったことが確認された。図4は金属製パイプから集成マイカ板を外して拡げた状態の表側、同じく図5は裏側を示す写真であるが、折損していることが確認された。
【0023】
図2はこの発明の集成マイカ板の試験結果を示す写真であり、支障なく金属製パイプに沿って折れ曲がることが確認された。図6は金属製パイプからこの発明の集成マイカ板を外して拡げた状態の表側、同じく図7は裏側を示す写真であるが、折損は認められなかった。
【0024】
図3はシリコーンラバー板の試験結果を示す写真であり、支障なく金属製パイプに沿って折れ曲がることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイカ原料を抄造した原紙板に、フッ素化ポリエーテル骨格とその末端を修飾し且つケイ素を含む架橋反応基とを有する高分子材料を架橋反応させてなる液状のフッ素エラストマーからなる接着剤を含浸させた後、加熱圧縮して得られることを特徴とする集成マイカ板。
【請求項2】
接着剤として使用されるフッ素エラストマーは下記一般式に示されるものである請求項1記載の集成マイカ板。
【化1】


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−282936(P2010−282936A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137420(P2009−137420)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(391066364)株式会社東西 (2)
【Fターム(参考)】