説明

雌端子構造

【課題】低い端子挿入力と高い接触信頼性とを両立できる雌端子構造を提供する。
【解決手段】雌端子11は、電気接続部13の内方に設けられて後端側基端部から先端開口部15に向けて延びる弾性接触片19と、弾性接触片19の中間部にV字状に屈曲形成されて頂部31が天壁27の内面に当接する屈曲部29と、屈曲部29の変形を規制するため該屈曲部29に設けられた剛性アップ機構55と、屈曲部29より先端開口部15側に形成されて角ピン状接触部21と接触する前方接触部51と、屈曲部29より後端側に形成されて角ピン状接触部21と接触する後方接触部53と、後方接触部53と底壁37の突出先端面41との間に形成されて角ピン状接触部21の厚みT2よりも小さい後方間隙と、前方接触部51と底壁37の突出先端面41との間に形成されて角ピン状接触部21の厚みT2と略同等以下で、且つ後方間隙よりも大きい前方間隙と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雌端子構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、筒状の電気接触部内に弾性接触片を有する雌端子が知られている(例えば、特許文献1等)。
図5に示すように、雌型の端子503は、筒状の電気接触部501の対向側壁の一方(図中、上方)の内壁面側に、弾性接触片505が成形される。また、電気接触部501の対向側壁の他方(図中、下方)の内壁面側には、弾性接触片505と対向して突起507が設けられている。そして、弾性接触片505の接触部509と対向する突起507との間には、雄端子511の厚みTよりも小さい隙間Bが設けられている。
【0003】
そこで、弾性接触片505と対向する突起507との間の隙間Bに雄端子511が挿入されると、弾性接触片505が突起507と反対側へ変位して接触荷重が発生する。雄端子511に対する高い接触信頼性を得るためには接触荷重を高くすることが有効であり、弾性接触片505と対向する突起507との間の隙間Bを小さくする等して高い接触荷重を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−123935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のように弾性接触片505と突起507との間の隙間Bを小さくする等して接触荷重を高くすると、端子挿入時の雄端子511の挿入力が同時に高くなるため、高い接触信頼性と低い端子挿入力との両立は非常に困難であった。
【0006】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、低い端子挿入力と高い接触信頼性(高い接触荷重)とを両立できる雌端子構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 雄端子を先端開口部から受け入れる筒状の電気接続部と、前記電気接続部の内方に設けられて後端側基端部から前記先端開口部に向けて延びる弾性接触片と、前記弾性接触片の中間部にV字状に屈曲形成されて頂部が前記電気接続部の対向側壁の一方の内壁面に当接する屈曲部と、前記屈曲部の変形を規制するため該屈曲部に設けられた剛性アップ機構と、前記屈曲部より前記先端開口部側の前記弾性接触片に形成されて前記雄端子の電気接触部と接触する前方接触部と、前記屈曲部より後端側の前記弾性接触片に形成されて前記雄端子の電気接触部と接触する後方接触部と、前記後方接触部と前記対向側壁の他方の内壁面との間に形成されて前記雄端子の電気接触部の厚みよりも小さい後方間隙と、前記前方接触部と前記対向側壁の他方の内壁面との間に形成されて前記雄端子の電気接触部の厚みと略同等以下で、且つ前記後方間隙よりも大きい前方間隙と、を備えたことを特徴とする雌端子構造。
【0008】
上記(1)の構成の雌端子構造によれば、電気接続部内に挿入された雄端子の電気接触部が弾性接触片の前方接触部を通過する際は、前方間隙が雄端子の電気接触部の厚みと略同等以下で且つ後方間隙よりも大きくされているので、雄端子の電気接触部は前方接触部を対向側壁の一方の内壁面側へ殆ど変位させないか或いは若干変位させるだけである。そこで、雄端子の電気接触部には弾性接触片による接触荷重が殆ど作用しないか或いは所定の接触荷重よりも低い僅かな接触荷重が作用するだけである。
そして、更に電気接続部内に挿入された雄端子の電気接触部が弾性接触片の後方接触部に達すると、後方間隙が雄端子の電気接触部の厚みよりも小さくされているので、雄端子の電気接触部が後方接触部を対向側壁の他方の内壁面と反対側の一方の内壁面側へ変位させる。後方接触部が対向側壁の一方の内壁面側へ変位させられると、弾性接触片は剛性アップ機構により変形が規制された屈曲部を支点とし揺動回転されるので、前方接触部が対向側壁の一方の内壁面と反対側の他方の内壁面側へ変位する。そこで、雄端子の電気接触部には前方接触部が強く押し付けられる(前方間隙が小さくなる)。その結果、前方接触部と後方接触部に発生した総合接触荷重として所定の接触荷重が雄端子の電気接触部に付与される。
従って、雄端子の電気接触部が弾性接触片の後方接触部に達するまでは、端子挿入力を小さく抑えることができ、雄端子の電気接触部が後方接触部を対向側壁の一方の内壁面側へ変位させることで、所定の接触荷重も確保することができる。
【0009】
(2) 上記(1)の構成の雌端子構造であって、前記剛性アップ機構が、前記弾性接触片の幅方向中央位置で、前記屈曲部を頂部側から雄端子挿入方向に延びる溝状に凹ませて反対面側に突出させたビード加工部であることを特徴とする雌端子構造。
【0010】
上記(2)の構成の雌端子構造によれば、屈曲部の頂部側に、弾性接触片の幅方向に凹溝を挟んで二箇所の頂点が形成され、屈曲部がこの二箇所の頂点で一方の内壁面に当たるので、弾性接触片の幅方向に傾きのない安定的な揺動回転が可能となる。また、雄端子の電気接触部との接触後においても、弾性接触片が二箇所の支点で一方の内壁面に支持されるので、幅方向に傾きのない安定的な接触状態が維持される。
【0011】
(3) 上記(1)の構成の雌端子構造であって、前記剛性アップ機構が、前記弾性接触片における屈曲部の厚みを他の部位よりも厚くした厚肉部であることを特徴とする雌端子構造。
【0012】
上記(3)の構成の雌端子構造によれば、簡素な構造で弾性接触片の屈曲部の変形を規制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る雌端子によれば、低い端子挿入力と高い接触信頼性(高い接触荷重)とを両立できる。
【0014】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る雌端子構造を有した雌端子の全体斜視図である。
【図2】図1に示した雌端子の雄端子挿入方向に沿う縦断面図である。
【図3】(a)は図2のA−A断面図、(b)は(a)に示したビード加工部の変形例を示す断面図である。
【図4】図1に示した雌端子と雄端子との嵌合状態を示した縦断面図である。
【図5】従来の雌端子と共に雄端子を示した雄端子挿入方向に沿う縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
本実施形態に係る雌端子構造は、矩形筒状の電気接続部13の先端開口部15から挿入された雄端子17(図4参照)と電気的接続を行う雌端子11に好適に用いることができる。本実施形態では雄端子17が角ピン状接触部(電気接触部)21を有する角ピンタイプとなるが、例えば丸ピンタイプやタブタイプ等とすることもできる。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の雌端子11は、導電性金属板からなる同一展開材料に叩き加工や曲げ加工等を施すことで、図例の各部が形成される。なお、本明細書中、雌端子11は、雄端子17の挿入側を前、その反対側を後として説明する。
雌端子11は、電気接続部13の後方に、導体圧着部23と絶縁被覆圧着部25とが連設されている。導体圧着部23は、図示しない被覆電線から被覆を除去した導体を加締め固定する。絶縁被覆圧着部25は、被覆電線を被覆の上から加締め固定する。
【0018】
電気接続部13は、前端に雄端子17の角ピン状接触部21を受け入れる先端開口部15を有する。図2に示すように、電気接続部13の内方には、天壁27の後端に接続された後端側基端部18から先端開口部に向けて折り返して延びる片持ち梁状の弾性接触片19が設けられる。
弾性接触片19の中間部には、頂部31が電気接続部13の対向側壁の一方の内壁面である天壁27の内面に当接可能とされた屈曲部29がV字状に屈曲形成されている。この屈曲部29は、後述する剛性アップ機構55によって開き方向の変形が規制されている。
【0019】
弾性接触片19は、先端開口部15から挿入された雄端子17の角ピン状接触部21を電気接続部13の対向側壁の他方の内壁面である底壁37の内面に向かって押圧する(図4参照)。底壁37には、電気接続部13の内方に向かって突出して雄端子挿入方向に延びる突起39が突設されている。突起39は、突出先端面41が、角ピン状接触部21の他方の面(図中、下面)43に接触する筒側接触部となる。
【0020】
底壁37の両側には側壁45が立設され、一方の側壁45は天壁27に連続し、他方の側壁45は天壁27に上から被せられる上板47に連続する。上板47には、図示しないコネクタハウジングの端子収容室に係止する係止片49が形成される。
【0021】
図2に示すように、弾性接触片19には、屈曲部29より先端開口部15側に形成されて雄端子17の角ピン状接触部21と接触する前方接触部51と、屈曲部29より後端側に形成されて雄端子17の角ピン状接触部21と接触する後方接触部53とが設けられている。これら前方接触部51と後方接触部53とは、角ピン状接触部21の一方の面(図中、上面)33と接触する。
【0022】
そこで、中間部にV字状に屈曲形成されると共に開き方向の変形が規制された屈曲部29の頂部31が天壁27の内面に当接可能とされた弾性接触片19は、後方接触部53が天壁27の内面側へ変位させられると、屈曲部29の頂部31を支点とし図2中反時計回りに揺動回転される。
【0023】
弾性接触片19が揺動回転される際の支点とし屈曲部29の頂部31が機能できるように、屈曲部29には剛性を上げて屈曲部29の開き方向の変形を規制するための剛性アップ機構55が設けられる。
図3(a)に示すように、本実施形態の剛性アップ機構55は、弾性接触片19の幅方向中央位置で、屈曲部29を頂部31側から雄端子挿入方向に延びる溝状に凹ませて反対面側に突出させたビード加工部57として形成される。このビード加工部57によれば、屈曲部29の頂部31側に、弾性接触片19の幅方向に凹溝61を挟んで二箇所の頂点31aが形成され、頂部31がこの二箇所の頂点31aで天壁27の内面に当たるので、弾性接触片19は幅方向に傾きがない安定的な揺動回転が可能となる。
【0024】
なお、剛性アップ機構55は、変形例として、図3(b)に示すような構成であってもよい。すなわち、この変形例に係る剛性アップ機構55は、弾性接触片19の幅方向中央位置で、屈曲部29を頂部31の反対面側から雄端子挿入方向に延びる溝状に凹ませて頂部31側に突出させたビード加工部59として形成される。従って、ビード加工部59が頂点31aを有することになる。
【0025】
なお、剛性アップ機構55は、弾性接触片19における屈曲部29の厚みを他の部位よりも厚くした厚肉部であってもよい。このような構成とすれば、簡素な構造で弾性接触片19の屈曲部29の開き方向の変形を規制することができる。
【0026】
更に、弾性接触片19の後方接触部53と底壁37の突出先端面41との間には、後方間隙Bbが形成される。この後方間隙Bbは、角ピン状接触部21の厚みT2よりも必ず小さく形成されている。
また、弾性接触片19の前方接触部51と底壁37の突出先端面41との間には、前方間隙Baが形成される。この前方間隙Baは、角ピン状接触部21の厚みT2と略同等以下で、且つ後方間隙Bbよりも大きく形成されている。
【0027】
すなわち、角ピン状接触部21の厚みT2と、前方間隙Baと、後方間隙Bbとは、T2≧Ba>Bbの寸法関係となっている。
なお、角ピン状接触部21の厚みT2と略同等以下とは、角ピン状接触部21の厚みT2より僅かに大きいプラス公差の寸法をも含むものである。
【0028】
次に、本実施形態に係る雌端子構造を有する雌端子11の作用を説明する。
電気接続部13内に挿入された雄端子17の角ピン状接触部21が弾性接触片19の前方接触部51を通過する際は、前方間隙Baが角ピン状接触部21の厚みT2と略同等以下で且つ後方間隙Bbよりも大きくされているので、角ピン状接触部21は前方接触部51を天壁27の内面側へ殆ど変位させないか或いは若干変位させるだけである。
【0029】
そこで、雄端子17の角ピン状接触部21には弾性接触片19による接触荷重が殆ど作用しないか或いは所定の接触荷重よりも低い僅かな接触荷重が作用するだけである。
そして、更に電気接続部13内に挿入された角ピン状接触部21が弾性接触片19の後方接触部53に達すると、後方間隙Bbが角ピン状接触部21の厚みT2よりも小さくされているので、角ピン状接触部21が後方接触部53を底壁37の突出先端面41と反対側の天壁27の内面側へ変位させる。後方接触部53が天壁27の内面側へ変位させられると、弾性接触片19は剛性アップ機構55により変形が規制された屈曲部29の頂部31を支点とし揺動回転されるので、前方接触部51が天壁27の内面と反対側の底壁37の突出先端面41側へ変位する。
【0030】
そこで、雄端子17の角ピン状接触部21には前方接触部51が強く押し付けられる(前方間隙Baが小さくなる)。その結果、前方接触部51と後方接触部53に発生した総合接触荷重として所定の接触荷重が雄端子17の角ピン状接触部21に付与される。
【0031】
従って、雄端子17の挿入し始めである角ピン状接触部21が弾性接触片19の後方接触部53に達するまでは、端子挿入力を小さく抑えることができる。そして、図4に示したように、雄端子17の挿入終了間際に角ピン状接触部21が後方接触部53を天壁27の内面側へ変位させることで、所定の接触荷重を確保することができる。
【0032】
即ち、上述した本実施形態に係る雌端子構造を有する雌端子11によれば、低い端子挿入力と高い接触信頼性(高い接触荷重)とを両立できる。
なお、本発明の雌端子構造は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0033】
11…雌端子
13…電気接続部
15…先端開口部
17…雄端子
18…後端側基端部
19…弾性接触片
21…角ピン状接触部(電気接触部)
27…天壁(一方の内壁面)
29…屈曲部
31…頂部
33…一方の面
37…底壁
41…突出先端面(他方の内壁面)
43…他方の面
51…前方接触部
53…後方接触部
55…剛性アップ機構
57…ビード加工部
Ba…前方間隙
Bb…後方間隙
T2…角ピン状接触部(電気接触部)の厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄端子を先端開口部から受け入れる筒状の電気接続部と、
前記電気接続部の内方に設けられて後端側基端部から前記先端開口部に向けて延びる弾性接触片と、
前記弾性接触片の中間部にV字状に屈曲形成されて頂部が前記電気接続部の対向側壁の一方の内壁面に当接する屈曲部と、
前記屈曲部の変形を規制するため該屈曲部に設けられた剛性アップ機構と、
前記屈曲部より前記先端開口部側の前記弾性接触片に形成されて前記雄端子の電気接触部と接触する前方接触部と、
前記屈曲部より後端側の前記弾性接触片に形成されて前記雄端子の電気接触部と接触する後方接触部と、
前記後方接触部と前記対向側壁の他方の内壁面との間に形成されて前記雄端子の電気接触部の厚みよりも小さい後方間隙と、
前記前方接触部と前記対向側壁の他方の内壁面との間に形成されて前記雄端子の電気接触部の厚みと略同等以下で、且つ前記後方間隙よりも大きい前方間隙と、
を備えたことを特徴とする雌端子構造。
【請求項2】
請求項1記載の雌端子構造であって、
前記剛性アップ機構が、前記弾性接触片の幅方向中央位置で、前記屈曲部を頂部側から雄端子挿入方向に延びる溝状に凹ませて反対面側に突出させたビード加工部であることを特徴とする雌端子構造。
【請求項3】
請求項1記載の雌端子構造であって、
前記剛性アップ機構が、前記弾性接触片における屈曲部の厚みを他の部位よりも厚くした厚肉部であることを特徴とする雌端子構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−114937(P2013−114937A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260811(P2011−260811)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)