説明

難焼結性Fe系金属間化合物合金の加圧焼結方法

【課題】グラファイト製型を用いて焼結性Fe系金属間化合物合金を加圧焼結する際の、融液の発生等の従来の問題点を解決し、難焼結性Fe系金属間化合物合金を比較的低コストで有効に加圧焼結することのできる加圧焼結方法を提供する。
【解決手段】グラファイト製型とFe系金属間化合物合金原料粉末の間に、グラファイト製型の側から厚さ0.2mm以上のカーボンシート、次に厚さ0.4mm以上のアルミナシートを挟み、不活性ガス中あるいは真空中において1150℃以上かつFe系金属間化合物合金の融点以下で加圧焼結することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難焼結性Fe系金属間化合物合金の加圧焼結方法に関する。より具体的には、難焼結性Fe系金属間化合物合金を加圧焼結する際にグラファイト製型を用いる加圧焼結方法に関する。(なお、本願発明において、「難焼結性」とは、相対密度が85%以上の焼結体とするのに1150℃以上の加圧焼結温度を必要とする焼結性を意味する。)
【背景技術】
【0002】
元々脆いことからほとんど注目されてこなかった金属間化合物について、近年それらが持つ優れた機械的性質、機能的特性などが注目され、一部は実用化されるようになってきている。特にFe系金属間化合物は原料が安価であることから、注目度も大きく、加圧焼結法や溶解法、各種コーティング法等いろいろな方法で製造方法が開発されている。
【0003】
緻密にできる加圧焼結温度が1150℃以上になる難焼結性Fe系金属間化合物合金をグラファイト製型による加圧焼結で得ようとする場合、鉄成分とグラファイト成分の反応を抑えるために、型と原料粉末の間にBNスプレーを塗ったり、Mo、Ti箔を挟んだりしている。
これを行わないと、1150℃以上で原材料中のFe成分と型のグラファイトが反応、融液が生じ、型のすきまから融液がでることで目標の合金が得られなくなるし、また、グラファイト型の繰り返し利用が困難化するためである。
しかし、BNスプレーを用いる場合、原料粉末にBNスプレー成分がしみ込んだり、型と原料粉末の間全体に均一にスプレーを吹き付けるのが難しいという問題がある。また、Mo箔、Ti箔を用いるのはコスト的に問題がある。
【0004】
特許文献1(特開2006-131952)には、Fe-Ti合金を焼結する際、金型の型穴壁面にカーボンペーパー又はアルミナペーパーを配した後、原料粉末を充填することが記載されている。しかしながら、特許文献1に記載のものは、グラファイト型を用いるものではないため、難焼結性Fe系金属間化合物合金をグラファイト製型による加圧焼結する際の前述の問題点を解決することの認識が全く存在しないし、また、カーボンペーパーとアルミナペーパーの両方を重ねて用いることについても全く記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-131952
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、グラファイト製型を用いて難焼結性Fe系金属間化合物合金を加圧焼結する際の前述のような従来の問題点を解決し、難焼結性Fe系金属間化合物合金を比較的低コストで有効に加圧焼結することのできる加圧焼結方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1の難焼結性Fe系金属間化合物合金の加圧焼結方法は、グラファイト製型とFe系金属間化合物合金原料粉末の間に、グラファイト製型の側から厚さ0.2mm以上のカーボンシート、次に厚さ0.4mm以上のアルミナシートを挟み、不活性ガス中あるいは真空中において1150℃以上で加圧焼結することを特徴とする。このような構成にしたとき、緻密にできる加圧焼結温度が1150℃以上になる難焼結性Fe系金属間化合物合金をグラファイト製型による加圧焼結で得ることができる。
【0008】
上記のように、グラファイト製型とFe系金属間化合物合金原料粉末の間に、グラファイト製型の側から厚さ0.2mm以上のカーボンシート、次に厚さ0.4mm以上のアルミナシートを挟む必要があるが、厚さ0.2mm以上のカーボンシートがないとアルミナシートをわずかに通り抜ける合金成分がグラファイト型と反応し、型とFe系金属間化合物合金が付着してしまう問題が起こる。また厚さ0.4mm以上のアルミナシートを挟まないと、型とFe系金属間化合物合金中のFe成分が反応を起こし、融液を発生してしまう。
【0009】
本発明に係る請求項2の難焼結性Fe系金属間化合物合金の加圧焼結方法は、用いるFe系金属間化合物合金の融点が1150℃以上2000℃以下の二元系金属間化合物であることを特徴とする。これはFeが含まれている二元系金属間化合物合金の原料粉末をグラファイトに直接接触させ1150℃以上で加圧焼結すると必ず融液が発生する反応が起きる一方、室温からAl2O3の融点(2054℃)近傍の温度までFe系金属間化合物合金にはAl2O3と反応する金属は存在しないためである。
さらに、本発明に係る請求項3の難焼結性Fe系金属間化合物合金の加圧焼結方法は、Fe系金属間化合物合金が、Fe4Si、Fe3Si、FeSi、αFeSi2、FeTi、Fe2Ti、Fe3Mo2、Fe7Mo6、FeMo、FeAlから選択される1種以上であることを特徴とする。
【0010】
また本発明に係る請求項4の難焼結性Fe系金属間化合物合金の加圧焼結方法は、加圧焼結時の加圧力を20MPa以上80MPa以下とすることを特徴とする。これは20MPa未満の場合、緻密化が進まず、80MPa超過の場合グラファイトの型が破損するためである。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、従来のように原料粉末にスプレー成分がしみ込んだり、型と原料粉末の間全体に均一に吹き付けるのが難しいBNスプレーを用いたり、コスト的に問題があるMo箔、Ti箔などの金属箔を用いる必要がなく、安価なカーボンシートとアルミナシートを用いることから、難焼結性Fe系金属間化合物合金の有効な加圧焼結方法ということができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】グラファイト製型に対するカーボンシート、アルミナシート及び原料粉末のセット状態を示す断面図。
【図2】実施例1におけるFeSi粉末の加圧焼結中の温度と下部ストローク位置の時間変化を示す図面(時間は焼結時間)。
【図3】実施例2におけるFe7Mo6粉末の加圧焼結中の温度と下部ストローク位置の時間変化を示す図面(時間は焼結時間)。
【図4】実施例3におけるFeTi粉末の加圧焼結中の温度と下部ストローク位置の時間変化を示す図面(時間は焼結時間)。
【図5】難焼結性Fe系金属間化合物合金粉末をアルミナシート+カーボンシートを挟み焼結した場合と、それらを挟まないで焼結した場合の下部ストローク位置の時間変化を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明に用いるアルミナシートは、Fe系金属間化合物の原料粉末がグラファイト型やカーボンシートに直接接触するのを防止する。その厚みは、Fe系金属間化合物のFe成分の通り抜けがわずかとなるように0.4mm以上とする。そのようなFe成分の通り抜けを防止する上では、厚さの上限は特に定める必要はないが、あまり厚くすると、コスト高となるし、また、曲面等を含む複雑な製品形状の場合、グラファイト型の加圧力を原料粉末へ正確に伝達する上で障害となるので、通常は、1mm以下、好ましくは、0.6mm以下とすることができる。
【0014】
本発明に用いるカーボンシートは、アルミナシートをわずかに通り抜けるFe系金属間化合物の合金成分がグラファイト型に接触しないようにブロックするものであり、例えば、グラファイトシート、炭素繊維シート、炭素−炭素繊維複合シート等を用いることができる。その厚さは、0.2mm以上でないと、そのブロック機能が充分に発揮できない。ブロック機能を発揮する上で厚さの上限は特に定める必要はないが、あまり厚くすると、コスト高となるし、また、曲面等を含む複雑な製品形状の場合、グラファイト型の加圧力を原料粉末へ正確に伝達する上で障害となるので、通常は、1mm以下、好ましくは、0.5mm以下とすることができる。
【0015】
本発明の加圧焼結方法に用いるFe系金属間化合物は、Fe4Si、Fe3Si、FeSi、αFeSi2、FeTi、Fe2Ti、Fe3Mo2、Fe7Mo6、FeMo、FeAlなどのFeを含みかつ融点が1150℃以上2000℃以下の二元系金属間化合物から選択される1種又は2種以上を用いることができる。アルミナシートは、その融点(2054℃)に近づくと、Fe成分の通り抜けを防止するのが困難化するので、融点が2000℃を超えるFe系金属間化合物を用いることは好ましくない。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で各種の設定調整や設計変更が可能であることは言うまでもない。
【0017】
(実施例1)
表1に示されたFeSi原料粉末7.5gを図1に示されるようにセットした。図1において、グラファイト製ダイの外径、内径、高さはそれぞれ40mm、20.5mm、40mm、グラファイト製パンチの外径、高さはそれぞれφ20mm、25mmである。グラファイト製型とFeSi原料粉末の間に、グラファイト製型の側から厚さ0.2mmのカーボンシート、次に厚さ0.4mmのアルミナシートを挟んだ。このようなセット状態において、焼結温度1250℃、保持時間10分、加圧力40MPa、雰囲気アルゴンガス1気圧の条件で加圧焼結した。図2に、その際の時間経過における温度変化と、焼結開始時を0mmとした下部ストローク位置の変化(変位)を示す。
【0018】
【表1】

【0019】
図5に、難焼結性Fe系金属間化合物合金粉末をアルミナシート+カーボンシートを挟み焼結した場合と、それらを挟まないで焼結した場合の下部ストローク位置の時間変化の模式図を示す。温度が1150℃より低い焼結初期では、どちらの場合も融液が発生しないので、原料粉末の緻密化に伴って下部ストロークの変位は増加する。しかし、1150℃を超えると、アルミナシート+カーボンシートを挟み焼結した場合では、変位が小さくなり、その後、ほとんど変位が生じなくなるが、それらを挟まないで焼結した場合では、原料粉末の鉄成分と型のグラファイトとが反応して融液が発生し、型の隙間から型の外部に漏れるので、変位が急激に増大する(0.5mm/s以上)現象が見られる。
このような図5の模式図との対比で図2を見ると、1150℃以上で変位が急激に増大する現象が見られないので、型の外部に漏れるような融液が発生していないことが明らかである。すなわち、図2では、焼結開始から1150℃程度までは、原料粉末の緻密化に伴って下部ストロークの変位は増加したが、1150℃を超えても変位の急激な増大は見られず、焼結時間の経過とともに変位が小さくなり、最終的には、ほとんど変化しなくなった。このような下部ストロークの焼結終期の変位の減少は、緻密化が起こらないか緻密化が終了して熱膨張のみが起きていることを示しており、融液の発生を防止して緻密に焼結できたことを意味している。得られたFeSi焼結体の相対密度は97%であった。
【0020】
(実施例2)
原料粉末をFe7Mo67.0g、焼結温度を1200℃とした以外は実施例1と同様にして加圧焼結した。図3にその際の時間経過における温度変化と、下部ストローク位置の変化(変位)を示す。図2と同様に、焼結時間の経過とともに下部ストロークの変位が小さくなり、最終的には、ほとんど変化しなくなっており、融液の発生を防止して緻密に焼結できたことを意味している。得られたFe7Mo6焼結体の相対密度は98%であった。
【0021】
(実施例3)
原料粉末をFeTi9.0g、焼結温度を1200℃とした以外は実施例1と同様にして加圧焼結した。図4にその際の時間経過における温度変化と、下部ストローク位置の変化(変位)を示す。図2、図3と同様に、焼結時間の経過とともに下部ストロークの変位が小さくなり、最終的には、ほとんど変化しなくなっており、融液の発生を防止して緻密に焼結できたことを意味している。得られたFeTi焼結体の相対密度は97%であった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の難焼結性Fe系金属間化合物合金の加圧焼結方法は緻密に焼結できる温度が1150℃以上2000℃以下のFe系金属間化合物合金をベースとした高強度の構造材料、耐摩耗性材料、機能性材料などの製造方法として期待される。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラファイト製型とFe系金属間化合物合金原料粉末の間に、グラファイト製型の側から厚さ0.2mm以上のカーボンシート、次に厚さ0.4mm以上のアルミナシートを挟み、不活性ガス中あるいは真空中において1150℃以上かつFe系金属間化合物合金の融点以下で加圧焼結する、難焼結性Fe系金属間化合物合金の加圧焼結方法。
【請求項2】
Fe系金属間化合物合金は、融点が1150℃以上2000℃以下の二元系金属間化合物である請求項1に記載の難焼結性Fe系金属間化合物合金の加圧焼結方法。
【請求項3】
Fe系金属間化合物合金が、Fe4Si、Fe3Si、FeSi、αFeSi2、FeTi、Fe2Ti、Fe3Mo2、Fe7Mo6、FeMo、FeAlから選択される1種以上である請求項2に記載の難焼結性Fe系金属間化合物合金の加圧焼結方法。
【請求項4】
加圧焼結時の加圧力を20MPa以上80MPa以下とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の難焼結性Fe系金属間化合物合金の加圧焼結方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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