説明

難燃性スチレン系樹脂組成物及びそれを用いた液晶TVバックカバー

【課題】成形性が向上し、耐熱性、耐衝撃強度のバランスに優れたUL燃焼試験V−0を有する難燃性スチレン系樹脂組成物を提供し、かつ、この難燃性樹脂組成物を射出成形して得られる液晶TVバックカバーを提供する。
【解決手段】(A)マトリックスの還元粘度が0.65dl/g以上で、ゴム状重合体のゲル含有量が19.0質量%以上であるゴム変性スチレン系樹脂100質量部に、(B)2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンの臭素系難燃剤15.0〜23.0質量部、(C)難燃助剤2.0〜5.0質量部、及び(D)タルク2.5〜9.0質量部を配合してなる難燃性スチレン系樹脂組成物で、さらに溶融温度240℃において、せん断速度が610sec−1時に溶融粘度が100Pa・s以上であって、かつ、せん断速度が6.1sec−1時に溶融粘度が1000Pa・s以下である難燃性スチレン系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性スチレン系樹脂組成物、及びそれからなる成形体に関する。詳しくは大型成形品に要求される成形性、衝撃強度、耐熱性、難燃性のバランス特性に優れた難燃性スチレン系樹脂組成物である。また、この難燃性スチレン系樹脂組成物を射出成形して得られる成形体、特に液晶TVバックカバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂はその特性を生かし広範囲な用途に使用されている。中でも高度な難燃性を付与させた難燃性スチレン系樹脂組成物はワープロ、パーソナルコンピュータ、プリンター、複写機等のOA機器、TV、VTR、オーディオ等の家電製品等を初めとする多岐の分野で使用されている。これら、OA機器・家電製品などの分野では、低コスト化が要求され、プラスチック部品の薄肉化が必要とされている。また、液晶TVは大型化され、これらに対応するため使用される樹脂組成物には、難燃性以外に強度、耐熱性、さらに成形性が要求される。通常、成形性を向上させるには滑剤を添加しているが、滑剤添加量によって耐熱性が低下する(特許文献1(段落番号31、実施例等)参照)。また、成形性を向上させるには、樹脂組成物の主成分である樹脂の分子量を低下させ流動性を上げることで対処できるが耐熱性や衝撃強度が低下する(特許文献2(段落番号0007、表2等)参照)。また、射出成形条件変更で射出圧力を上げると、ソリ・バリなどの成形不良が発生し、一方、成形温度を上げると、金型汚染性が生じ好ましくない。これらの問題を解決する為、一般的な難燃性スチレン系樹脂組成物を用いた成形品が得られる成形温度又は射出圧力で、液晶TVバックカバーの必要な特性を損ねることなく、薄肉成形部の末端部への充填をそれらの成形温度及び射出圧力を上げることなく成形できる成形性の良好な難燃性樹脂組成物の改良が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−151974号公報
【特許文献2】特開平10−36603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、大型成形品の薄肉成形部の末端部への充填を特に成形温度及び射出圧力を上げることなく成形でき、耐熱性、耐衝撃強度のバランスに優れたUL燃焼試験V−0を有する難燃性スチレン系樹脂組成物を提供し、かつ、この難燃性樹脂組成物を射出成形して得られる液晶TVバックカバーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、特定のゴム変性スチレン系樹脂を選択し、特定の難燃剤、難燃助剤及び無機充填剤を特定量の組成比で添加することによって、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
1.(A)マトリックス部分の還元粘度が0.65dl/g以上で、ゴム状重合体のゲル含有量が19.0質量%以上であるゴム変性スチレン系樹脂100質量部に対し、(B)2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンの臭素系難燃剤15.0〜23.0質量部、(C)難燃助剤2.0〜5.0質量部、及び(D)タルク2.5〜9.0質量部を配合してなる難燃性スチレン系樹脂組成物で、さらに溶融温度240℃におけるせん断速度が610sec−1時に溶融粘度が100Pa・s以上であって、かつ、せん断速度が6.1sec−1時に溶融粘度が1000Pa・s以下である難燃性スチレン系樹脂組成物。
2.溶融温度240℃において、せん断速度が610sec−1時に溶融粘度が100〜150Pa・sであって、かつ、せん断速度が6.1sec−1時に溶融粘度が650〜1000Pa・sである前記1に記載の難燃性スチレン系樹脂組成物。
3.UL94燃焼試験でV−0を有する前記1〜2のいずれかに記載の難燃性スチレン系樹脂組成物。
4.前記1〜3のいずれかに記載の難燃性スチレン系樹脂組成物から得られる液晶TVバックカバー。
【発明の効果】
【0007】
本発明に関わる難燃性スチレン系樹脂組成物は、大型成形品向けに成形性を向上させ、耐熱性、耐衝撃強度のバランスに優れたUL燃焼試験V−0を有する難燃性スチレン系樹脂組成物である。この利点を生かして液晶TVバックカバーの薄肉化、かつ、大型化の進展に寄与すると共に、その産業上の利用価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例2、6及び比較例7、8は、溶融温度240℃における、せん断速度と溶融粘度との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の(A)ゴム変性スチレン系樹脂としては、芳香族ビニル重合体のマトリックス中にゴム状重合体が粒子状に分散してなる重合体を言う。例えば、芳香族ビニル単量体と不活性溶媒の混合液にゴム状重合体を溶解し、攪拌して塊状重合、懸濁重合、溶液重合等を行うことにより得られる重合体であるが、重合法には限定されるものではない。更には、芳香族ビニル単量体と不活性溶媒の混合液にゴム状重合体を溶解して得られた重合体に、別途得られた芳香族ビニル重合体を混合した混合物であってもよい。
【0010】
上記の芳香族ビニル単量体としては、主にスチレンである。o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン等が挙げられるが、スチレンが最も好適である。また、これらの単量体から2種以上を併用して使用することも出来る。
【0011】
上記のゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体等があり、ポリブタジエンが好ましい。ポリブタジエンとしてはシス結合の含有量が高いハイシスポリブタジエン、シス結合の含有量が低いローシスポリブタジエン等が挙げられる。それぞれ単独でも混合しても使用することができる。
【0012】
マトリックス部分の分子量は、還元粘度(ηsp/C)で0.65dl/g以上、好ましくは0.67dl/g以上が適当である。0.65dl/g未満だと実用的に十分な強度が発揮できない等の問題がある。また、還元粘度の上限は溶融粘度の規定を満たす範囲に制限される。一般に還元粘度が大きくなると流動性が悪くなり、成形温度を上げないと薄肉部の成形に支障をきたすことになるので、0.75dl/gを超えないことが好ましい。
なお、還元粘度(ηsp/C)は(A)ゴム変性スチレン系樹脂1gにメチルエチルケトン15mlとアセトン15mlの混合溶媒を加え、温度25℃で2時間振とう溶解した後、遠心分離で不溶分を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を取り出し、500mlのメタノールを加えて樹脂分を析出させ、これを乾燥する。同操作で得られた樹脂分をトルエンに溶解させポリマー濃度0.4%(質量/体積)の試料溶液を作製した。この試料溶液、及び純トルエンを温度30℃の恒温にし、ウベローデ型粘度計により溶液流下秒数を測定して、下記式にて算出する。
ηsp/C=(t1/t0−1)/C
t0:純トルエン流下秒数
t1:試料溶液流下秒数
C:ポリマー濃度
【0013】
さらに、ゴム状重合体のゲル含有量は19.0質量%以上、好ましくは20.0質量%以上が適当である。ゴム状重合体のゲル含有量が19.0質量%未満だとを実用的に十分な強度が発揮できない等の問題がある。また、ゲル含有量の上限は溶融粘度の規定を満たす範囲に制限される。一般にゲル含有量が多くなると流動性が悪くなり、成形温度を上げないと薄肉部の成形に支障をきたすことになる。23.0質量%を超えないことが好ましい。
なお、ゴム状重合体のゲル含有量は、ゴム変性スチレン系樹脂中のゴム状分散粒子の割合であり、1gのゴム変性スチレン系樹脂組成物をメチルエチルケトン15mlとアセトン15mlの混合溶媒に加え、温度25℃で2時間振とう溶解した後、遠心分離して不溶分を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を除去して不溶分を得、温度70℃で15時間程度真空乾燥し、20分間デシケーター中で冷却した後、乾燥した不溶分の質量G(g)を測定して次の式で求めることが出来る。
ゲル含有量(質量%)=(G/1)×100
【0014】
ゴム状重合体含有量については特に制限ないが、ゴム変性スチレン系樹脂に一般的に使用される5〜15質量%が適当である。ゴム状重合体含有量は、成形品に必要な耐衝撃強度と剛性のバランス等を勘案して決めることが望ましい。ゴム状重合体の平均粒子径については特に制限ないが、一般的には0.4〜6.0μmであり、好ましくは0.5〜3.0μmが適当である。ゴム状重合体の粒子径が小さ過ぎると耐衝撃強度が急激に低下し、粒子径が大きくなると成形品の表面光沢等の外観が悪くなる傾向がある。
【0015】
(B)難燃剤としては、2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンを使用する。難燃剤の添加量は、(A)ゴム変性スチレン系樹脂100質量部に対して15.0〜23.0質量部である。好ましくは16.0〜21.0質量部である。難燃剤の添加量が(A)ゴム変性スチレン系樹脂に対して15.0質量部未満だと難燃性に劣り、試験片厚み1.5mmでUL94燃焼試験でのV−0レベルが確保できない。23.0質量部を超えると実用的に十分な耐熱性が得られないので好ましくない。
【0016】
(C)難燃助剤は、(B)難燃剤の難燃効果を更に高める働きをするものであり、例えば酸化アンチモンとして三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダ等、ホウ素系化合物としてホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、無水ホウ酸亜鉛、無水ホウ酸等、スズ系化合物として酸化第二スズ、スズ酸亜鉛、ヒドロキシスズ酸亜鉛等、モリブデン系化合物として酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム等、ジルコニウム系化合物として酸化ジルコニウム、水酸化ジルコニウム等、また亜鉛系化合物として硫化亜鉛等が挙げられる。なかでも三酸化アンチモンを使用することが特に好ましい。
【0017】
(C)難燃助剤の添加量は、(A)ゴム変性スチレン系樹脂100質量部に対して2.0〜5.0質量部である。(C)難燃助剤の添加量が、(A)ゴム変性スチレン系樹脂に対して2.0質量部未満だと難燃性に劣りUL94燃焼試験でのV−0レベルが確保できない。5.0質量部を超えると燃焼時のグローイング挙動を高めるので好ましくない。
【0018】
無機充填剤として(D)タルクを使用する。タルクの添加量は、(A)ゴム変性スチレン系樹脂100質量部に対して2.5〜9.0質量部である。好ましくは3.0〜6.5質量部である。タルクが、(A)ゴム変性スチレン系樹脂に対して2.5質量部未満だと耐熱性が劣り、9.0質量部を超えると実用的に十分な強度が発揮できないので好ましくない。
【0019】
本発明は、(A)マトリックスの還元粘度が0.65dl/g以上で、ゴム状重合体のゲル含有量が19質量%以上のゴム変性スチレン系樹脂100質量部に対し、(B)2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンの臭素系難燃剤15.0〜23.0質量部、(C)難燃助剤2.0〜5.0質量部、及び(D)タルク2.5〜9.0質量部を配合してなる難燃性スチレン系樹脂組成物で、さらに溶融温度240℃におけるせん断速度が610sec−1の時に溶融粘度が100Pa・s以上であって、かつ、せん断速度が6.1sec−1の時に溶融粘度が1000Pa・s以下であることが必須である。
【0020】
せん断速度が610sec−1の時に溶融粘度が100Pa・sより小さく、かつせん断速度が6.1sec−1の時に溶融粘度が1000Pa・s以下であると、流動性はよいが、耐熱性が低くなる。
また、せん断速度が610sec−1の時に溶融粘度が100Pa・s以上で、せん断速度が6.1sec−1の時に溶融粘度が1000Pa・sを超えると、流動性が悪くなる。
さらに、溶融温度240℃において、せん断速度が610sec−1時に溶融粘度が100〜150Pa・sの範囲であることが好ましい。また、溶融温度240℃において、せん断速度が6.1sec−1時に溶融粘度が650〜1000Pa・sであることが好ましい。
【0021】
なお、本発明の溶融粘度は、温度240℃でJIS K 7199に基づき下記の条件で測定した値をいう。
測定装置 :キャピログラフ1D(東洋精機社製)
溶融温度 :240℃
シリンダ内径:9.55mm
ダイ長 :40mm
ダイ直径 :1mm
余熱時間 :6分間
測定中の待機時間:試験圧力が±3%以内に安定するまで
せん断速度 :6.1sec−1〜6100sec−1の範囲
【0022】
本発明の難燃性スチレン系樹脂組成物は目的を損なわない範囲で他の添加剤、例えば可塑剤、滑剤、安定剤、紫外線吸収剤、充填剤、補強剤等を添加することが出来る。
【0023】
本発明の難燃性スチレン系樹脂組成物の混合方法は、公知の混合技術を適用することが出来る。例えばミキサー型混合機、V型ブレンダー、及びタンブラー型混合機等の混合装置であらかじめ混合しておいた混合物を、更に溶融混練することで均一な難燃性樹脂組成物とすることが出来る。溶融混練にも特に制限はなく公知の溶融技術を適用出来る。好適な溶融混練装置として、バンバリー型ミキサー、ニーダー、ロール、単軸押出機、特殊単軸押出機、及び二軸押出機等がある。更に押出機等の溶融混練装置の途中から難燃化剤等の添加剤を別途に添加する方法がある。
【実施例】
【0024】
以下に例を挙げて具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0025】
実施例及び比較例で使用した(A−1)から(A−9)ゴム変性スチレン系樹脂は、それぞれ以下の組成である。
(A−1)ゴム変性スチレン系樹脂の組成はマトリックス部分のポリスチレンの還元粘度0.68dl/g、ゴム状重合体含有量7.1質量%、及びゴム状重合体のゲル含有量21.9質量%で、ゴム状重合体は、シス1、4結合を90モル%以上の比率で含有するハイシスポリブタジエンゴムとローシスポリブタジエンゴムを50/50の割合で使用した。
(A−2)ゴム変性スチレン系樹脂の組成はマトリックス部分のポリスチレンの還元粘度0.73dl/g、ゴム状重合体含有量6.8質量%、及びゴム状重合体のゲル含有量20.6質量%で、ゴム状重合体はシス1、4結合を90モル%以上の比率で含有するハイシスポリブタジエンゴムを使用した。
(A−3)ゴム変性スチレン系樹脂の組成はマトリックス部分のポリスチレンの還元粘度0.70dl/g、ゴム状重合体含有量7.5質量%、及びゴム状重合体のゲル含有量22.6質量%で、ゴム状重合体はシス1、4結合を90モル%以上の比率で含有するハイシスポリブタジエンゴムとローシスポリブタジエンゴムを56/44の割合で使用した。
(A−4)ゴム変性スチレン系樹脂の組成はマトリックス部分のポリスチレンの還元粘度0.73dl/g、ゴム状重合体含有量7.1質量%、及びゴム状重合体のゲル含有量21.9質量%で、ゴム状重合体はシス1、4結合を90モル%以上の比率で含有するハイシスポリブタジエンゴムとローシスポリブタジエンゴムを50/50の割合で使用した。
(A−5)ゴム変性スチレン系樹脂の組成はマトリックス部分のポリスチレンの還元粘度0.70dl/g、ゴム状重合体含有量7.6質量%、及びゴム状重合体のゲル含有量23.3質量%で、ゴム状重合体はシス1、4結合を90モル%以上の比率で含有するハイシスポリブタジエンゴムとローシスポリブタジエンゴムを50/50の割合で使用した。
(A−6)ゴム変性スチレン系樹脂の組成は、ゴム状重合体としてはシス1、4結合を90モル%以上の比率で含有するハイシスポリブタジエンゴムとローシスポリブタジエンゴムを50/50の割合で使用したゴム変性スチレン系樹脂にスチレン−ブタジエン−スチレン共重合体タフプレン315P(旭化成ケミカルズ社製)を1質量%添加しものである。添加後のマトリックス部分のポリスチレンの還元粘度0.69dl/g、ゴム状重合体含有量9.3質量%、及びゴム状重合体のゲル含有量26.5質量である。
(A−7)ゴム変性スチレン系樹脂の組成はマトリックス部分のポリスチレンの還元粘度0.63dl/g、ゴム状重合体含有量7.1質量%、及びゴム状重合体のゲル含有量21.9質量%で、ゴム状重合体はシス1、4結合を90モル%以上の比率で含有するハイシスポリブタジエンゴムとローシスポリブタジエンゴムを50/50の割合で使用した。
(A−8)ゴム変性スチレン系樹脂の組成はマトリックス部分のポリスチレンの還元粘度0.76dl/g、ゴム状重合体含有量7.1質量%、及びゴム状重合体のゲル含有量21.9質量%で、ゴム状重合体はシス1、4結合を90モル%以上の比率で含有するハイシスポリブタジエンゴムとローシスポリブタジエンゴムを50/50の割合で使用した。
(A−9)ゴム変性スチレン系樹脂の組成はマトリックス部分のポリスチレンの還元粘度0.68dl/g、ゴム状重合体含有量6.2質量%、及びゴム状重合体のゲル含有量17.8質量%で、ゴム状重合体はシス1、4結合を90モル%以上の比率で含有するハイシスポリブタジエンゴムとローシスポリブタジエンゴムを50/50の割合で使用した。
【0026】
還元粘度(ηsp/C)の測定は、ゴム変性スチレン系樹脂1gにメチルエチルケトン15mlとアセトン15mlの混合溶媒を加え、温度25℃で2時間振とう溶解した後、遠心分離で不溶分を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を取り出し、500mlのメタノールを加えて樹脂分を析出させ、不溶分を濾過乾燥した。同操作で得られた樹脂分をトルエンに溶解してポリマー濃度0.4%(質量/体積)の試料溶液を作製した。この試料溶液、及び純トルエンを温度30℃の恒温でウベローデ型粘度計により溶液流下秒数を測定して、下式にて算出した。
ηsp/C=(t1/t0−1)/C
t0:純トルエン流下秒数
t1:試料溶液流下秒数
C:ポリマー濃度
【0027】
ゴム状重合体のゲル含有量は、1gのゴム変性スチレン系樹脂組成物をメチルエチルケトン15mlとアセトン15mlの混合溶媒に加え、温度25℃で2時間振とう溶解した後、遠心分離して不溶分を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を除去して不溶分を得、温度70℃で15時間程度真空乾燥し、20分間デシケーター中で冷却した後、乾燥した不溶分の質量G(g)を測定して次の式でより求めた。
ゴム状重合体のゲル含有量(質量%)=(G/1)×100
【0028】
ゴム状重合体含有量の測定は、ゴム変性スチレン系樹脂をクロロホルムに溶解させ、一定量の一塩化ヨウ素/四塩化炭素溶液を加え暗所に約1時間放置後、15質量/体積のヨウ化カリウム溶液と純水50mlを加え、過剰の一塩化ヨウ素を0.1Nチオ硫酸ナトリウム/エタノール水溶液で滴定し、付加した一塩化ヨウ素量から算出した。
【0029】
(B)難燃剤には、(B−1)2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンである第一工業製薬社製の商品名ピロガードSR245を使用した。また、比較用難燃剤として、(B−2)エチレンビスペンタブロモベンゼンであるアルベマール社製の商品名SAYTEX−8010(以下、S8010略記載)を使用した。
【0030】
(C)難燃助剤には、鈴裕化学社製、商品名AT−3CN(三酸化アンチモン)を使用した。
【0031】
(D)タルクには、富士タルク社製の商品名KPタルクを使用した。
【0032】
次に、本発明の難燃性スチレン系樹脂組成物の混合方法を述べる。(A)ゴム変性スチレン系樹脂、(B)難燃剤、(C)難燃助剤、及び(D)タルクを表1から表3に示す配合量にて、これら全成分をヘンシェルミキサー(三井三池化工(株)製、FM20B)にて予備混合し、二軸押出機(東芝機械(株)製、TEM26SS)に供給してストランドとし、水冷してからペレタイザーへ導きペレット化した。この際、シリンダー温度230℃、供給量30kg/時間とした。
【0033】
なお、予備混合時に、ソジウムアルミノシリケートとA型ゼオライトの混合物、カルシウムステアレート、ミネラルオイル、及び無機系着色剤も同時添加した。
【0034】
なお、実施例、比較例に示された各種測定は以下の方法により実施した。
【0035】
(1)溶融粘度の測定
溶融粘度の測定は、JIS K 7199に基づき測定を行った。
測定装置 :キャピログラフ1D(東洋精機社製)
溶融温度 :240℃
シリンダ内径:9.55mm
せん断速度 :6.1sec−1〜6100sec−1の範囲
ダイ長 :40mm
ダイ直径 :1mm
余熱時間 :6分間
測定中の待機時間:試験圧力が±3%以内に安定するまで
【0036】
(2)難燃性の測定
難燃性の測定は、米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ社のサブジェクト94号の垂直燃焼試験方法に準拠し、試験片厚さ1.5mmの燃焼性を評価した。評価結果は下記の様に表記した。
94V−0を合格とした。
【0037】
(3)シャルピー衝撃強度の測定
シャルピー衝撃強度は、JIS K 7111−1に基づき測定を行った。
測定装置:シャルピー試験機(東洋精機製)
ノッチタイプ:タイプA
打撃方向:エッジワイズ
測定環境:23℃
シャルピー衝撃強度が7KJ/m2未満だと、液晶TVバックカバーの成形品の強度が不十分なので、7KJ/m2以上を満たす組成物を合格とした。
【0038】
(4)荷重たわみ温度(HDT)
荷重たわみ温度は、JIS K 7191に基づき測定を行った。
測定装置:No.148−HD−PC−3(安田精機製)
応力:1.80MPa
支点間距離:64mm
試験片サイズ:長さ80mm 幅10mm 高さ4mm フラットワイズ
荷重たわみ温度が70℃未満だと、液晶TVバックカバーの成形品の耐熱性が不十分なので、温度70℃以上を満たす組成物を合格とした。
【0039】
(5)大型成形:42インチ液晶TVバックカバーの成形 平均肉厚2.0mm
成形機種:三菱MMV 型締め力2000t
シリンダー温度:235℃
射出圧力、射出速度、及び金型温度などを変更しても成形サイクルアップが生ぜず、かつ、成形不良(ソリ・バリ・ショートなど)の発生しない条件が見出された場合は合格とした。
【0040】
各種試験の試験片の作製条件
シャルピー衝撃強度用試験片、また荷重たわみ温度試験片は、射出成形機(日本製鋼所(株)製、J100E−P)にて、JIS K 7139に記載のA型試験片(ダンベル)を成形した。この際の成形条件はJIS K 6926−2に準拠して行った。シャルピー衝撃強度用試験片は、該ダンベル片の中央部より切り出し、切削でノッチ(タイプA、r=0.25mm)を入れ、試験に用いた。また、荷重たわみ温度試験片は、該ダンベル片の中央部より切り出し、試験に用いた。
【0041】
燃焼性の評価用試験片は、射出成形機(日本製鋼所(株)製、J100E−P)にて、127×12.7×1.5mmの燃焼用試験片を成形した。この際、シリンダー温度190℃、金型温度30℃とした。
【0042】
実施例1〜6、比較例1〜12の各配合及び結果を表1〜3に示す
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
実施例より、本発明の難燃性スチレン系樹脂組成物は成形性、耐衝撃性、耐熱性、難燃性がバランス良く改良されていることがわかる。
【0047】
しかし本発明の規定を満足しない比較例で得られた難燃性スチレン系樹脂組成物では、成形性、耐衝撃性、耐熱性、難燃性の何れかに優れることはあっても、その全てに優れていることはないことがわかる。
【0048】
例えば、(D)タルクが規定量より少ないと耐熱性が低下し(比較例1)、多いとシャルピー衝撃強度が低下する(比較例2)。(B)難燃剤の量が規定量より少ないと難燃性に劣りUL94燃焼試験でのV−0レベルが確保できなく(比較例3)、多いと耐熱性が低下する(比較例4)。また、溶融温度240℃においてせん断速度6.1sec−1時の溶融粘度が1000Pa・s以上だと大型成形が劣る(比較例5〜8,10,12)。また、(A)ゴム変性スチレン系樹脂の還元粘度、またはゲル含有量が規定値より小さいとシャルピー衝撃強度が低下する(比較例9,11)。また、他の臭素系難燃剤S8010を用いるとシャルピー衝撃強度及び大型成形性が劣る(比較例12)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)マトリックス部分の還元粘度が0.65dl/g以上で、ゴム状重合体のゲル含有量が19.0質量%以上のゴム変性スチレン系樹脂100質量部に対し、(B)2,4,6−トリス(2,4,6−トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジンの臭素系難燃剤15.0〜23.0質量部、(C)難燃助剤2.0〜5.0質量部、及び(D)タルク2.5〜9.0質量部を配合してなる難燃性スチレン系樹脂組成物で、さらに溶融温度240℃におけるせん断速度が610sec−1時に溶融粘度が100Pa・s以上であって、かつ、せん断速度が6.1sec−1時に溶融粘度が1000Pa・s以下である難燃性スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
溶融温度240℃において、せん断速度が610sec−1時に溶融粘度が100〜150Pa・sであって、かつ、せん断速度が6.1sec−1時に溶融粘度が650〜1000Pa・sである請求項1に記載の難燃性スチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
UL94燃焼試験でV−0を有する請求項1〜請求項2のいずれか1項に記載の難燃性スチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の難燃性スチレン系樹脂組成物から得られる液晶TVバックカバー。

【図1】
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【公開番号】特開2012−219250(P2012−219250A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89685(P2011−89685)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(399051593)東洋スチレン株式会社 (37)
【Fターム(参考)】