説明

難燃性ポリエステル樹脂組成物

【課題】 ポリエステルの有する機械的特性を維持しながら、優れた難燃性を有する、非ハロゲン系の難燃性ポリエステル樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】 芳香族ジカルボン酸を酸成分としアルキレングリコールをジオール成分とするポリエステルに、樹脂組成物の全重量を基準として、下記一般式(I)で表されるリン酸エステル化合物を0.1〜30重量%、および、ポリオルガノシロキサンを0.001〜0.1重量%含有させる。
【化1】


(式中、RおよびRは、同一または異なって炭素数1〜8の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数6〜12の置換されていてもよいアリール基、炭素数3〜12の脂環式炭化水素基または炭素数7〜12のアラルキル基、RおよびRは水素原子または炭素数1〜8の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基、xは1〜9の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性ポリエステル樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、ホスホナリン構造とヒドロキシル基とを併せ持つ非ハロゲン系リン酸エステル化合物を配合した難燃性ポリエステル樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート等を代表とする、芳香族ジカルボン酸を酸成分とし、アルキレングリコールをジオール成分とするポリエステル樹脂は、強伸度等の機械的物性に優れ、比較的安価に製造でき、かつ成形が容易である等の優れた特性を有する。このため、電子部品や自動車部品をはじめ生活用品全般にわたり広く使用されている。しかし、これらのポリエステル樹脂は易燃性であり、特に電気や通信ケーブル、はんだを必要とする電子部品のような分野への使用は制限されるため、一層の難燃性が求められている。
【0003】
従来ポリエステル樹脂に難燃性を付与する方法としては、成形品の調製時に難燃剤を添加する方法が採用され、該難燃剤として、無機化合物、有機リン化合物、有機ハロゲン化合物、ハロゲン含有有機リン化合物などが用いられている。これらの難燃剤のなかでも優れた難燃効果を発揮するのは、有機ハロゲン化合物およびハロゲン含有有機リン化合物などのハロゲン系化合物とされている。しかしながら、これらのハロゲン系化合物は、成形時に熱分解してハロゲン化水素を発生し、成形金型の腐食、ポリエステル樹脂自体の劣化および着色などの問題を引き起こすだけでなく、ハロゲン化水素は毒性を有するために作業環境を悪化させるという問題を有する。さらに、火災のような燃焼に際しては、ハロゲン化水素やダイオキシンのような有毒ガスが発生して人体に悪影響を与えるという問題もある。
【0004】
一方、比較的良好な難燃効果を有する、ハロゲンを含まない難燃剤としては、従来有機リン化合物が汎用されている。代表的な有機リン化合物としては、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、クレジルジフェニルホスフェート(CDP)などの芳香族系リン化合物が挙げられ、これらはフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂などの各種エンジニアリング・プラスチックスの難燃剤として使用されている。しかしながら、これらの有機リン化合物(特に、TPP)は、難燃性を発現するリン元素の含有率が低いため、ポリエステル樹脂に充分な難燃性を付与するにはその配合量を多量にする必要があり、その結果ポリエステル樹脂が有する本来の物性を発揮できなくなるという問題がある。
【0005】
また別の有機リン化合物として、下記式(化1および化2)で表されるジオキサホスホリナン構造を有するリン化合物が提案されている(特許文献1および2)。しかし、これらの有機リン化合物も、ポリエステル樹脂に高度の難燃性を要求される分野においては、まだ充分な難燃性を付与することができていない。
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

【0008】
【特許文献1】特開昭55−110175号公報
【特許文献2】特開平6−321974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記背景技術を鑑みなされたもので、その目的は、ポリエステルの有する機械的特性を維持しながら、優れた難燃性を有する、非ハロゲン系のポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記目的を達成するために鋭意研究した結果、ホスホナリン構造とヒドロキシル基とを併せ持つ特定の非ハロゲン系リン酸エステル化合物とポリオルガノシロキサンとを併用すれば上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
かくして本発明によれば、「芳香族ジカルボン酸を酸成分としアルキレングリコールをジオール成分とするポリエステルに、樹脂組成物の全重量を基準として、下記一般式(I)で表されるリン酸エステル化合物を0.1〜30重量%、および、ポリオルガノシロキサンを0.001〜0.1重量%含有していることを特徴とする難燃性ポリエステル樹脂組成物。」が提供される。
【0012】
【化3】

(式中、RおよびRは、同一または異なって炭素数1〜8の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数6〜12の置換されていてもよいアリール基、炭素数3〜12の脂環式炭化水素基または炭素数7〜12のアラルキル基、RおよびRは水素原子または炭素数1〜8の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基、xは1〜9の整数である。)
【発明の効果】
【0013】
本発明の難燃性ポリエステル樹脂組成物は、ポリエステルが有する機械的特性を維持しながら優れた難燃性を示す。また、本発明で用いられているリン酸エステル化合物はその耐熱性が良好なので、成形時の熱分解によるポリエステル樹脂の着色や劣化を引起さず、また、燃焼したときに溶融した樹脂の滴下(ドリッピング)の生じない成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
先ず、本発明で用いられるポリエステルは、例えばテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(4−ジカルボキシメチルフェノキシ)エタン等の芳香族ジカルボン酸を酸成分とし、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等のアルキレングリコールをジオール成分とするポリエステルである。かかるポリエステルには、少量であれば上記の酸成分およびジオール成分以外の共重合成分を含有していてもよく、その共重合量は、通常全酸成分を基準として20モル%以下、好ましくは10モル%以下、特に好ましくは5モル%以下である。好ましく用いられる共重合成分としては、イソフタル酸、アジピン酸、セバチン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ビスフェノール化合物のエチレンオキサイド付加物、ネオペンチルグリコールなどのジオール成分、p−オキシ安息香酸、ω−ヒドロキシカプロン酸等のオキシ酸、ピパロラクトン等のラクトンをあげることができる。
【0015】
これらのポリエステルの中では、機械的物性および耐熱性の点からポリエチレンテレフタレートおよびポリエチレンナフタレートが好ましく、特にポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが好ましい。
【0016】
かかるポリエステルの固有粘度(重量比が6/4のフェノール/トリクロロエタン混合溶媒を用いて温度35℃で測定)は、小さすぎると機械的特性が不十分になる場合があり、逆に大きすぎると成形が難しくなる場合があるので0.55〜0.80dl/gの範囲が適当である。
【0017】
本発明の組成物は、上記のポリエステルに前記一般式(I)で表されるリン酸エステル化合物を、組成物重量を基準として0.1〜30重量%、好ましくは0.5〜20重量%、特に好ましくは1.0〜10重量%含有している必要がある。この含有量が0.1重量%未満の場合には本発明の目的を達成するのに十分な難燃性を発現するに至らず、逆に30重量%を超える場合には、得られるポリエステル成形体の物性が劣るようになるため、好ましくない。
【0018】
前記一般式(I)中、「炭素数1〜8の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基」としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチルのような直鎖状アルキル基、iso-プロピル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、iso-ペンチル、tert-ペンチル、neo-ペンチル、iso-ヘキシル、メチルヘキシル、メチルヘプチル、ジメチルヘキシル、2−エチルヘキシルのような分枝鎖状のアルキル基が挙げられ、なかでもメチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、iso-プロピル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチルなどの低級アルキル基が好ましく、メチルまたはエチルが特に好ましい。
【0019】
また「炭素数2〜8のアルケニル基」としては、例えば、ビニル、アリル、イソプロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニルなどが挙げられ、なかでもアリルが特に好ましい。「炭素数6〜12の置換されていてもよいアリール基」としては、フェニル、(o−、m−、p−)クレジル、(o−、m−、p−)トリル、(2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-、3,5-)キシリル、メシチル、トリメチルフェニル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ニトロフェニル、メトキシフェニル、ナフチルなどが挙げられ、なかでもフェニル、クレジル、キシリルが特に好ましい。
【0020】
また「炭素数3〜12の脂環式炭化水素基」は、飽和脂環式炭化水素基であっても不飽和脂環式炭化水素基であってもよいが、飽和脂環式炭化水素基がより好ましい。飽和脂環式炭化水素基の好ましい例としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどが挙げられ、なかでもシクロヘキシルが特に好ましい。「炭素数7〜12のアラルキル基」の好ましい例としては、ベンジル、フェネチルなどが挙げられ、なかでもベンジルが特に好ましい。
【0021】
一般式(I)の置換基RおよびRは、同一または異なって水素原子または炭素数1〜8の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基であり、「炭素数1〜8の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基」としては、置換基RおよびRと同様のものが挙げられる。置換基RおよびRとしては、水素原子、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、iso-プロピル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチルが好ましく、水素原子、メチルまたはエチルが特に好ましい。
【0022】
一般式(I)のxは、括弧内の構成要素の繰返し単位数を表し、具体的には1〜9、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜2の整数である。該一般式で表されるリン酸エステル化合物は、異なった繰返し単位を有する化合物の混合物であってもよく、この場合のxは平均値として表される。
【0023】
好ましく用いられるリン酸エステル化合物としては、下記化合物(ア)〜(ラ)を挙げることができ、なかでも(ア)〜(タ)、(ヌ)〜(マ)および(ラ)の化合物が好ましい。なお、これらの化合物は2種以上を併用しても構わない。
【0024】
【化4】

【0025】
【化5】

【0026】
【化6】

【0027】
本発明で用いられる一般式(I)で表される上記リン酸エステル化合物は、下記一般式(II)で表されるリン化合物に、一般式(III)で表されるエポキシ化合物を反応させることにより製造することができる。
【0028】
【化7】

【化8】

式中、R、R、RおよびRは、一般式(I)と同義である。なお、一般式(II)で表されるリン化合物は、オキシハロゲン化リンとジオール化合物とを等モルで有機溶媒中で反応させ、得られた反応混合物に水を添加して加水分解することにより得ることができる。
【0029】
化合物(II)と化合物(III)の反応では、前者1モルに対して、後者の使用割合を1〜9.5モルの範囲で適宜変更すれば、xの値が所望のリン酸エステル化合物(I)を得ることができる。
【0030】
本発明のポリエステル樹脂組成物には、上記のリン酸エステル化合物に加えて、ポリオルガノシロキサンを0.001〜0.1重量%、好ましくは0.01〜0.08重量%含まれていることが肝要である。この含有量が0.001重量%未満の場合には、該リン酸エステル化合物をポリエステル中に混合する際の発泡により混合が難しいだけでなく、ポリエステル樹脂の分解も起こるためと考えられ、得られる樹脂組成物の機械的物性や難燃性が低下するので好ましくない。一方、0.1重量%を超える場合には、難燃性の向上効果が認められなくなるので好ましくない。
【0031】
好ましく用いられるポリオルガノシロキサンとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン等を挙げることができ、特にポリジメチルシロキサン、なかでも温度25℃での動粘度が20〜1000mm/sのポリジメチルシロキサンが好ましい。
【0032】
本発明の難燃性ポリエステル樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、酸化防止剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。なかでも酸化防止剤が特に有効である。その他の添加剤としては、例えば、非ハロゲン系化合物や無機化合物の難燃剤、滑剤、安定剤、着色剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、核剤等が挙げられる。
【0033】
非ハロゲン化合物の難燃剤としては、トリフェニルホスフェート、トリキシリルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリブチルホスフェート、およびその縮合物(例えば、大八化学工業社製、商品名CR−733S、CR−741、CR−747およびPX−200)などのリン酸エステル化合物が挙げられる。また、無機化合物の難燃剤としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン等が挙げられる。
【0034】
酸化防止剤としては、リン系化合物、ヒドロキノン系化合物、フェノール系化合物、アミン系化合物および硫黄系化合物などが挙げられ、好ましくはヒドロキノン系化合物およびリン系化合物である。これらの酸化防止剤は1種または2種以上を併用して使用することもできる。
【0035】
ヒドロキノン系化合物としては、ヒドロキノン、2,5−ジ−tert−ブチルヒドロキノン、2,5−tert−アミルヒドロキノン、オクチルヒドロキノン等が挙げられ、なかでも2,5−tert−アミルヒドロキノンが好ましい。一方、リン系化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)4,4−ジフェニレンホスホナイトなどの三価のリン化合物が挙げられる。
このような酸化防止剤の含有量は、前記リン酸エステル化合物(I)に対して0.5〜5重量%の範囲が適当である。
【0036】
以上に説明した本発明の難燃性ポリエステル樹脂組成物は、その製造方法は特に限定されず、任意の方法により製造することができる。例えば上記の成分を従来公知の方法、例えば二軸混練押出機を用いて溶融混練すればよい。また、ポリエステルの重縮合反応が終了した時点で、所定量の該リン酸エステル化合物(I)を添加し、溶融混合後に押出しても構わない。
【0037】
このようにして得られた難燃性ポリエステル樹脂組成物は、一旦ペレット状に成形した後に再度溶融して、あるいはペレット状に成形することなく連続して種々の成形品に成形することができる。例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形、発泡成形、紡糸成形、フィルム製膜などにより、板状、シート状、フィルム状、糸状等の任意の形状に成形することができる。
【0038】
これらの成形で用いられる成形機は特に限定されないが、例えば、通常の射出成形機や、いわゆる射出圧縮成形機、二軸スクリュー押出機、一軸スクリュー押出機、ベント付き二軸スクリュー押出機、ベント付き一軸スクリュー押出機などが好ましく用いられる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、本発明における各種特性は、以下の測定方法にしたがった。
(1)固有粘度
ポリエステルおよび組成物は、フェノール/トリクロロエタン=6/4(重量比)を溶媒に用いて35℃恒温下オストワルト型粘度計を用いて測定した。
(2)難燃性およびドリッピング
UL94規格(第5版、第11章)に定める試験法にしたがって測定した。難燃性は試験片に接炎後、消炎までの時間により評価し、ドリッピング性は燃焼落下物によって試験体下に置かれた脱脂綿が着火するか否かで判定した。
(3)ヤング率
難燃性ポリエステル樹脂を180℃で6時間乾燥語、小型製膜機に供給後、縦横各4.5倍延伸して、平均厚み30μmの単層フィルムを調製し、縦方向のヤング率を測定した。
(4)着色性
燃焼試験前後の試験片をそれぞれ3mmメッシュまで粉砕し、10mm径のアルミ製リングにいれ、東洋精機製MINI TEST PRESS10を用いて、300℃で10MPa負荷で2分間プレスし、成型体を作製した。グレタマクベス製CE−3100分光光度計で測定しCol−b値の差△bを評価した。
【0040】
[製造例1]
1リットルの4つロフラスコに攪拌機、温度計および水スクラバーを連結したコンデンサーを取り付け、このフラスコにネオペンチルグリコール104g(1モル)、トルエン100gを充填し、加熱攪拌した。次いで、恒温装置により反応液を50℃に保持しつつ、オキシ塩化リン153.5g(1モル)を1時間かけて追加した。追加後、脱塩酸反応を完結すべく、前記温度で4時間攪拌した。さらに、この反応液に水36g(2モル)を追加し、80℃で約4時間で攪拌した。次いで、過剰の水を回収し、反応液を80℃に保持しつつ、プロピレンオキサイド72g(1.24モル)を2時間かけて追加した。追加後、前記温度で4時間攪拌し、減圧下でトルエンを回収して、目的のリン酸エステル化合物(製造例1:xの平均値は1.2)を得た。
【0041】
[製造例2]
実施例1のプロピレンオキサイド72gをエチレンオキサイド53g(1.24モル)に代えた以外は実施例1と同様にして、リン酸エステル化合物(製造例2:xの平均値は1.2)を得、GPCおよびIRでその確認を行った。得られたリン酸エステル化合物は透明な液体で、その収量は210g(収率96%)であった。
【0042】
[製造例3]
実施例1のネオペンチルグリコール104gをエチルブチルプロパンジオール160g(1モル)に代えた以外は実施例1と同様にして、リン酸エステル化合物(製造例3:xの平均値は1.2)を得、GPCおよびIRによりその確認を行った。得られたリン酸エステル化合物は透明な液体で、その収量は270g(収率98%)であった。
【0043】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル(以下、NDCMという)100モル(24.4kg)、エチレングリコール(以下、EGという)180モル(11.2kg)、酢酸マンガン四水和物0.03モルを反応器に仕込み、窒素雰囲気下で240℃まで昇温してエステル交換反応を行った。メタノールの留出量が理論量に対して90%以上に達した後、NDCM100モルに対して三酸化二アンチモン0.02モルと、得られる組成物に対して製造例1で製造したリン酸エステル化合物(化合物1)5重量%とを加え、さらにポリジメチルシロキサン(信越シリコーン製KF−96:粘度100mm/s)の含有量が0.024重量%となるように添加し、260℃で30分間保持した。その後、昇温と減圧を徐々に行い、最終的に300℃、0.1kPa以下で重合を行った。適度な溶融粘度になった時点で反応を終了し、固有粘度IV0.63のポリエチレンナフタレート樹脂組成物を得た。
得られたポリエステル樹脂組成物を厚み30μmのフィルムに製膜した。その評価結果を表1に示す。
【0044】
[実施例2〜4、比較例1〜2]
リン酸エステル化合物の種類および配合量、並びにポリジメチルシロキサンの配合量を表1記載(ただし、比較例2ではリン酸エステル化合物として化学式(化2)で表される化合物を用いた)のとおりに変更する以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。これを実施例1と同様にして評価した結果を表1にあわせて示す。
【0045】
[比較例3、4]
リン酸エステル化合物の種類および配合量、並びにポリジメチルシロキサンの配合量を表1記載のとおりに変更する以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。これを実施例1と同様にして評価した結果を表1にあわせて示す。なお比較例4では、樹脂組成物の固有粘度が充分上がらず、フィルムの物性が低くなるだけでなく著しいドリッピングを起こす結果となった。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の難燃性ポリエステル樹脂組成物は、ホスホリナン構造とヒドロキシル基を有する特定のリン酸エステル化合物とポリオルガノシロキサンとを同時に有しているので、機械的性能を損なうことなく、難燃性の改善された種々の成形品を製造するのに好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸を酸成分としアルキレングリコールをジオール成分とするポリエステルに、樹脂組成物の全重量を基準として、下記一般式(I)で表されるリン酸エステル化合物を0.1〜30重量%、および、ポリオルガノシロキサンを0.001〜0.1重量%含有していることを特徴とする難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【化1】

(式中、RおよびRは、同一または異なって炭素数1〜8の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、炭素数6〜12の置換されていてもよいアリール基、炭素数3〜12の脂環式炭化水素基または炭素数7〜12のアラルキル基、RおよびRは水素原子または炭素数1〜8の直鎖状もしくは分枝鎖状のアルキル基、xは1〜9の整数である。)
【請求項2】
リン酸エステル化合物のRおよびRが低級アルキル基で、xが1〜5の整数である請求項1記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
リン酸エステル化合物のRおよびRがそれぞれメチルまたはエチルである請求項1または2記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
ポリオルガノシロキサンが、ポリジメチルシロキサンである請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性ポリエステル樹脂組成物。

【公開番号】特開2006−335889(P2006−335889A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−162599(P2005−162599)
【出願日】平成17年6月2日(2005.6.2)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】