説明

難燃性ポリエステル繊維

【課題】十分な難燃性を有し、延伸性に優れ、延伸毛羽が少なく、製編織などの加工性に優れた難燃性ポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】リン化合物が共重合されたポリエチレンテレフタレート(A成分)とポリエチレンテレフタレート(B成分)の混合物からなるポリエステル繊維であって、A成分とB成分の質量比が4:1〜1:1、リン原子の含有量が3000〜7000ppmであることを特徴とする難燃性ポリエステル繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度で優れた難燃性を有し、建築資材用として好適な難燃性ポリエステルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
安全ネットや土木シート、あるいはメッシュシート等の建築資材は難燃性が必要であるため、従来、難燃性を有しないポリエステル繊維を用いて形成したこれらの建築資材は、安全ネットや土木シート等に成形加工を行った後、難燃加工を行ったり、また、メッシュシート等は難燃性を有するポリ塩化ビニル樹脂等を用いて樹脂加工を行い、目ずれ防止と難燃性を付与するのが一般的である。
【0003】
しかし、近年、難燃加工を施した安全ネットや土木シートは、長期の使用や洗濯等による難燃性能の持続性が問題となっている。また、難燃性の樹脂で樹脂加工を行ったメッシュシート等は、廃棄する場合に焼却すると有害ガスが発生しやすいため、埋め立て処理されるが、埋め立て処理される産業廃棄物が増加し、環境への影響が問題となっている。
【0004】
このようなことから、近年、ポリエステル繊維に特許文献1〜2に記載されているようなリン化合物を含有させた難燃性のポリエステル繊維を使用することで、安全ネットや土木シートに難燃性を付与したり、また、メッシュシート等の目ずれ防止が必要なものは、難燃性の繊維と難燃性能を阻害しない程度に少量の低融点の熱融着繊維を混繊や合撚し、メッシュシート等に製織した後、熱融着繊維の融点以上の温度で熱処理を行って交点部を接着することで目ずれ防止を行うことにより、難燃加工や樹脂加工を行わない建築資材が注目されている。
【0005】
このような建築資材用途に使用するポリエステル繊維は、ポリエステルの中でも安価で耐候性や寸法安定性に優れたポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称することがある。)を用いるのがコスト面においても有利である。
【0006】
そして、PETに前記したようなリン化合物を含有させる方法としては、重合時のPETにリン原子が所定の含有量になるように、リン化合物を添加して共重合したものが難燃性の向上の面で好ましい。しかし、高強度が必要な土木資材用途に用いる繊維を得るためには、高倍率の延伸を行う必要があるが、難燃性を満足するだけのリン原子量のリン化合物を共重合させると、通常のPET繊維と比較して延伸性が劣るようになる。また、これが原因で延伸毛羽が多く発生して製編織時に毛羽による停台が多くなり、加工性が劣るようになる。
【0007】
したがって、難燃性を満足するだけのリン原子量を含有していても、延伸性に優れ、延伸毛羽の少ない加工性に優れた難燃性ポリエステル繊維が要望されている。
【特許文献1】特公昭53−13479公報
【特許文献2】特公昭55−41610公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題を解決し、十分な難燃性を有し、かつ、延伸性に優れ、延伸毛羽が少なく、製編織などの加工性に優れた難燃性ポリエステル繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、リン化合物が共重合されたポリエチレンテレフタレート(A成分)とポリエチレンテレフタレート(B成分)の混合物からなるポリエステル繊維であって、A成分とB成分の質量比が4:1〜1:1、リン原子の含有量が3000〜7000ppmであることを特徴とする難燃性ポリエステル繊維を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の難燃性ポリエステル繊維は、繊維に十分な難燃性を付与するのに必要なリン原子量を含有しているにもかかわらず、延伸性に優れているため、延伸毛羽が少なく品位に優れている。このため、製編織時に毛羽による停台が少なくなり、製編織時の加工性も良好となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
本発明の難燃性ポリエステル繊維は、主に建築資材用途に用いられるため、高強度で優れた耐候性を有し、かつ安価であることが必要であり、したがって、繊維を構成する成分としては、安価で耐候性に優れたPETを採用することが必要である。
【0014】
そして、本発明の難燃性ポリエステル繊維は、リン化合物が共重合されたPET(A成分)とPET(B成分)との混合物を用いることが必要である。その理由は、A成分のみからなる繊維とすると、前記したように延伸性が劣るようになるが、A成分とB成分との混合物にすることにより、難燃性を損なうことなく延伸性を向上させることができるためである。
【0015】
また、繊維を構成するA成分とB成分の質量比は、4:1〜1:1の範囲にする必要があり、好ましくは4:1〜3:2である。A成分がこの範囲より多くなると延伸性が劣るようになり、少なくなるとリン化合物が均一に分散されなくなり、難燃性能にばらつきが発生しやすくなるので好ましくない。
【0016】
次に、A成分に共重合させるリン化合物の種類は特に限定されるものではないが、前記した特許文献1〜2に記載されているリン化合物等を用いることができる。中でも、難燃性能や製糸性の面において、クラリアントジャパン社製の製品名:Oxa−Phospholan glycolester(3−メチルホスフィニコプロピオン酸とエチレングリコールのエステル化物)が好ましい。
【0017】
そして、A成分にリン化合物を共重合させるには、PETの重縮合反応開始前にリン化合物を目的とするリン原子の含有量になるように添加し、重縮合反応を行って一旦チップ化し、その後、高強度が必要とされる土木資材用途に用いる場合は、常用のPETと同様に任意の粘度まで固相重合を行い、高粘度化するのが好ましい。
【0018】
また、A成分中のリン原子の含有量は、繊維中におけるA成分とB成分の質量比及び繊維中のリン原子の含有量を考慮に入れると、3750〜14000ppmとすることが好ましい。
【0019】
B成分としては、リン原子を含有せず、さらには実質的に他の成分を含有、共重合しないPETとすることが好ましい。
【0020】
次に、本発明の難燃性ポリエステル繊維を構成するA成分とB成分からなる混合物の極限粘度〔η〕は0.85〜1.1が好ましく、極限粘度が0.85より低いと高強度が得られ難くなりやすく、また、1.1より高くなると延伸性が劣るようになったり、コスト面において好ましくない。
【0021】
上記したA成分とB成分からなる混合物の極限粘度は、紡糸時に用いるA成分とB成分の極限粘度で決まり、A成分とB成分の極限粘度は同じであっても、異なっていてもよいが、粘度差があまり大きすぎると混合斑による単糸間での粘度差や繊維の長手方向の粘度斑が大きくなるため、強伸度等の性能面で均一性が劣るようになりやすい。したがって、A成分とB成分との極限粘度〔η〕の差は0.2以下とすることが品質の面において好ましい。
【0022】
また、A成分とB成分の混合と紡糸は、各々別々の溶融押し出し機で溶融し、ポリマー化した後、計量ポンプで混合比を設定し、ミキサー等の混練器で混練しながら紡糸する方法、あるいは、原着繊維を紡糸する場合に一般的に用いる計量混合機等でドライブレンドしながら紡糸する方法を用いることができる。
【0023】
次に、本発明の難燃性ポリエステル繊維におけるリン原子の含有量は3000〜7000ppmとし、中でも3500〜6500ppmとすることが好ましく、さらには4000〜6000ppmとすることが好ましい。リン原子の含有量が3000ppmより少ないと難燃性が劣り、また、7000ppmより多くなると、リン化合物は高価であるためコスト面で不利益となる。
【0024】
本発明の難燃性ポリエステル繊維は、主として建築資材用途に用いられるため、切断強度は5.5cN/dtex以上とすることが好ましい。一方、延伸性等の操業性を考慮すると、上限は7.5cN/dtex程度が好ましい。
【0025】
また、繊度は常用の産業資材用途に適した400〜3000dtexとすることが好ましく、単糸繊度は2〜30dtexとすることが好ましい。
【0026】
さらに、本発明の難燃性ポリエステル繊維の断面形状は、丸断面、Y断面等の異形断面のいずれでもよい。
【0027】
また、本発明の難燃性ポリエステル繊維には、本来の性能を損なわない程度に着色顔料や各種添加剤等が添加されていてもよい。
【0028】
本発明の難燃性ポリエステル繊維の製造は、常用の溶融紡糸、延伸装置を用いて行うことができる。その場合、一旦未延伸糸で巻き取り、その後延伸を行うこともできるが、未延伸糸を巻き取らずに連続して延伸と弛緩熱処理を行って巻き取るスピンドロー法が生産性やコスト面で好ましい。
【0029】
スピンドロー法での巻き取り速度は2000〜4000m/分程度が好ましく、巻き取り速度が2000m/分より遅いと生産性が低下し、4000m/分より速いと延伸性が低下したり、高強度のものが得られ難くなる。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例における各物性値は、次の方法で測定した。
(a)PETの極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒とし、濃度0.5g/dl、温度20℃で測定した。
(b)切断強度、切断伸度
JIS L−1013に従い、島津製作所製オートグラフDSS−500を用い、試料長25cm、引っ張り速度30cm/分で測定した。
(c)延伸性(毛羽数の測定)
10kg巻きチーズを各々5本採取し、光電管方式の毛羽検知部を有するAN式4型全自動整経機を用いて、500m/分の速度で各チーズ8万mの毛羽測定を行い、チーズ5本の合計40万mにおける毛羽数の合計を毛羽数とし、この数値で延伸性を評価した。
(d)難燃性
JIS L−1091 8.4D法(接炎試験)に従ってn=5で測定し、その平均値とした。なお、接炎回数の数値が大きいほど難燃性が高いことを示す。
【0031】
実施例1
テレフタル酸とエチレングルコールとのモル部を100:170とし、圧力0.3MPaG、温度250℃で4時間エステル化反応を行って得た低分子量のオリゴマーを、重縮合反応槽に送液し、リン化合物(製品名:『Oxa−Phospholan glycolester』:クラリアントジャパン社製、3−メチルホスフィニコプロピオン酸とエチレングリコールのエステル化物)を添加し、触媒として三酸化アンチモンを添加し、温度280℃、減圧度1.3hPa以下で3時間の重縮合反応を行った。そして、極限粘度〔η〕0.7、リン原子の含有量が7000ppmのPETを得、次にこのPETを温度220℃、減圧下で攪拌しながら17時間の固相重合を行い、極限粘度〔η〕1.02のPETを得、これをA成分として用いた。
また、B成分としては、極限粘度〔η〕が1.02のPETを用いた。
そして、計量混合機を使用してA成分とB成分の質量比が3:2となるように計量混合を行いながら溶融紡糸した。すなわち、常用の溶融紡糸装置に孔径が0.6mm、孔数192個の溶融紡糸口金を装着し、温度300℃で紡出した後、長さ30cm、温度450℃の加熱筒を通過させ、次いで長さ150cmの横型冷却装置により温度20℃、速度0.7m/秒の冷却風で冷却し、油剤を付与して非加熱の第1ローラに引き取った。連続して非加熱の第2ローラで1.01倍の引き揃えを行った後、温度400℃、圧力0.7MPaのスチームを繊維に吹き付けながら温度220℃の第3ローラで5.6倍の延伸を行った。その後、温度190℃の第4ローラで弛緩率3%の弛緩処理を行い、速度3000m/分のワインダーに巻き取って、ポリエステル繊維(1111dtex/192フィラメント、リン原子の含有量が4200ppm、丸断面形状)を得た。
【0032】
実施例2
A成分とB成分の質量比を4:1に変更した以外は実施例1と同様に行い、リン原子の含有量が5600ppmのポリエステル繊維を得た。
【0033】
実施例3
A成分を得る際のリン化合物の添加量を変更し、極限粘度〔η〕1.02、リン含有量が8000ppmのPETを得、これをA成分として用いた以外は実施例1と同様に行い、リン原子の含有量が4800ppmの難燃性ポリエステル繊維を得た。
【0034】
比較例1
B成分を用いず、A成分である極限粘度〔η〕が1.02、リン原子の含有量が7000ppmのPETのみを用いた以外は実施例1と同様に行い、難燃性ポリエステル繊維を得た。
【0035】
比較例2
A成分を得る際のリン化合物の添加量を変更し、極限粘度〔η〕1.02、リン含有量が4900ppmのPETを得、これをA成分として用い、B成分との質量比を6:1とした以外は実施例1と同様に行い、リン原子の含有量が4200ppmの難燃性ポリエステル繊維を得た。
【0036】
比較例3
A成分を得る際のリン化合物の添加量を変更し、固相重合時間を変更し、極限粘度〔η〕0.9、リン含有量が11000ppmのPETを得、これをA成分として用い、B成分との質量比を2:3とした以外は実施例1と同様に行い、リン原子の含有量が4400ppmの難燃性ポリエステル繊維を得た。
【0037】
実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた繊維の特性値と難燃性及び延伸性の評価結果を併せて表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1から明らかなように、実施例1〜3で得られたポリエステル繊維は、切断強度、切断伸度共に建築資材用として満足する性能を有しており、また難燃性に優れ、さらに延伸性が良好で延伸毛羽が少なかったため、製編織などの加工性に優れたものであった。
一方、比較例1のポリエステル繊維はB成分を含有せず、比較例2のポリエステル繊維はB成分が少ないため、いずれも延伸性が悪く、延伸毛羽が多いものとなった。このため、製編織などの加工性に劣るものであった。また、比較例3のポリエステル繊維はB成分が多すぎたため、リン化合物が均一に分散されなくなり、難燃性にばらつきが生じ、難燃性に劣るものとなった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン化合物が共重合されたポリエチレンテレフタレート(A成分)とポリエチレンテレフタレート(B成分)の混合物からなるポリエステル繊維であって、A成分とB成分の質量比が4:1〜1:1、リン原子の含有量が3000〜7000ppmであることを特徴とする難燃性ポリエステル繊維。


【公開番号】特開2008−1999(P2008−1999A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−170113(P2006−170113)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】