説明

難燃性熱可塑性樹脂組成物およびその成形品

【課題】ハロゲン系難燃剤を使用せずに、米国UL規格94V−2に適合する優れた難燃性を有し、耐光性に優れ、物性バランスにも優れた熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ゴム質重合体にシアン化ビニル化合物と共重合性ビニル化合物をグラフト重合してなるグラフト共重合体(A)と、シアン化ビニル化合物と共重合性ビニル化合物を共重合してなる質量平均分子量90,000〜160,000のビニル共重合体(B)とからなる共重合体混合物100質量部に、リン系難燃剤(C)5〜20質量部を配合してなる難燃性熱可塑性樹脂組成物。該リン系難燃剤(C)はトリフェニルホスフィンオキサイドを含み、該共重合体混合物のアセトン不溶分のシアン化ビニル単位量CBが22.0〜32.0質量%、アセトン可溶分のシアン化ビニル単位量CBが22.0〜34.0質量%、|CB−CB|が0〜3.0質量%。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性熱可塑性樹脂組成物に関り、詳しくは、ハロゲン系難燃剤を使用することなくリン系難燃剤を配合することにより、米国UL規格94V−2に適合する難燃性を有すると共に、燃焼時のドリップ性に優れたより安全性が高い燃焼挙動を示し、しかも、耐光性に優れ、物性バランスにも優れた難燃性熱可塑性樹脂組成物に関する。
本発明はまた、この難燃性熱可塑性樹脂組成物の成形してなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
HIPS(高耐衝撃性ポリスチレン)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂などのスチレン系樹脂は、成形性、寸法安定性、耐衝撃性、剛性に優れているため、電気機器部品、自動車部品、建材等の構成材料として広く利用されている。これらのスチレン系樹脂には、その用途から、難燃性が要求されている。
【0003】
また、米国UL規格94V−2に適合する材料の多くは、成形体から燃焼部分がドリップすることにより、燃焼部分の炎を小さくする、または、消火に至ることから、より高い安全性を確保するために、着火後にできるだけ短時間でドリップすること、即ち、ドリップ性に優れることが望まれる。
【0004】
従来、スチレン系樹脂に難燃性を付与するために、難燃剤としてデカブロモジフェニルエステル等のハロゲン含有化合物を、また、難燃助剤としてアンチモン化合物を配合する技術がある。しかし、ハロゲン含有化合物は、燃焼時に分解して、人体に有害なガスを発生することから、環境上問題があった。
【0005】
そこで、ノンハロゲン難燃剤を用いた技術として、次のようなものが提案されている。
【0006】
例えば、特公昭57−1547号公報には、スチレン系樹脂に複合金属水酸化物を配合する技術が提案されている。しかし、複合金属水酸化物では、その実施例から明らかなとおり、多量配合するわりには難燃性の改善効果が低い。
【0007】
また、特開平10−130454号公報には、メラミンシアヌレートおよび/またはポリリン酸メラミンを配合する技術が提案されているが、この技術では、各種機械物性や耐熱性の低下を引き起こすリン酸エステル化合物の併用が必須である。
【0008】
リン酸エステルなどのリン系難燃剤を用いる技術は、その他、特開平10−120853号公報にも提案されている。
リン酸エステル等のリン系難燃剤は、燃焼時に炭化層を形成して難燃性を付与することが知られており、材料のリン含有量が多いほど、その難燃性付与効果が高められると考えられている。
しかしながら、リン系難燃剤は樹脂の可塑剤として作用することから、リン系難燃剤の配合で難燃性が高められても、反面各種機械物性や耐熱性が低下するなどの問題がある。
【0009】
なお、電気機器部品、自動車部品、建材等の構成材料など、その他いずれの用途においても、耐光性は、光による劣化が少ないことによる製品の耐久性向上、変色が少ないことによる外観維持等の面で非常に重要であることから、難燃性やその他の物性と共に、耐光性についてもより一層の向上が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭57−1547号公報
【特許文献2】特開平10−130454号公報
【特許文献3】特開平10−120853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、ハロゲン系難燃剤を使用することなくリン系難燃剤を用いて、米国UL規格94V−2に適合する優れた難燃性を有すると共に、燃焼時のドリップ性が良好ですばやく消火することで延焼を抑止することができる安全性の高い難燃性熱可塑性樹脂組成物であって、リン系難燃剤を配合したことによる機能物性や耐熱性の低下の問題がなく、耐光性に優れ、また、各種の物性バランスにも優れた難燃性熱可塑性樹脂組成物およびその成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のグラフト共重合体とビニル共重合体からなる、アセトン不溶分のシアン化ビニル単位の含有量とアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量との差が小さい共重合体混合物に、特定のリン系難燃剤を配合することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0013】
本発明はこのような知見に基いて達せされたものであり、以下を要旨とする。
【0014】
[1] ゴム質重合体に、シアン化ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物と共重合可能なビニル化合物とをグラフト重合してなるグラフト共重合体(A)と、シアン化ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物と共重合可能なビニル化合物とを共重合してなる、質量平均分子量が90,000〜160,000であるビニル共重合体(B)とからなる共重合体混合物に、該共重合体混合物100質量部に対して5〜20質量部のリン系難燃剤(C)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であって、該リン系難燃剤(C)がトリフェニルホスフィンオキサイドを含み、該共重合体混合物のアセトン不溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBが22.0〜32.0質量%であり、アセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBが22.0〜34.0質量%であり、これらの差の絶対値|CB−CB|が0〜3.0質量%であることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
[2] 前記グラフト共重合体(A)が、ゴム質重合体20〜75質量部に、シアン化ビニル化合物23〜35質量%と、シアン化ビニル化合物と共重合可能なビニル化合物65〜77質量%とを含むビニル単量体混合物25〜80質量部をグラフト重合してなり、かつ、前記ビニル共重合体(B)が、シアン化ビニル化合物23〜35質量%と、シアン化ビニル化合物と共重合可能なビニル化合物65〜77質量%とを含むビニル単量体混合物を共重合してなることを特徴とする[1]に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【0016】
[3] グラフト共重合体(A)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBが22.0〜34.0質量%であり、ビニル共重合体(B)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBが22.0〜32.0質量%であり、これらの差の絶対値|CB−CB|が0〜1.5質量%であることを特徴とする[1]または[2]に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【0017】
[4] グラフト共重合体(A)および/またはビニル共重合体(B)におけるシアン化ビニル化合物と共重合可能なビニル化合物が、芳香族ビニル化合物58〜100質量%と、芳香族ビニル化合物以外の窒素元素を含有しないビニル化合物0〜42質量%とを含むことを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【0018】
[5] 前記リン系難燃剤(C)に含まれるトリフェニルホスフィンオキサイドの割合が50〜100質量%であることを特徴とする[1]ないし[4]のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【0019】
[6] [1]ないし[5]のいずれかに記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0020】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物によれば、ハロゲン系難燃剤を使用することなく、特定のリン系難燃剤を用いて、米国UL規格94V−2に適合する難燃性を有し、かつ、燃焼時に短時間でドリップが生じることで、炎の延焼をすばやく抑止する高い安全性を示し、しかも、耐光性に優れ、耐衝撃性や耐熱性、成形加工性といった物性バランスにも優れた成形品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
[難燃性熱可塑性樹脂組成物]
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、ゴム質重合体に、シアン化ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物と共重合可能なビニル化合物(以下「共重合性ビニル化合物」と称す場合がある。)とをグラフト重合してなるグラフト共重合体(A)と、シアン化ビニル化合物と共重合性ビニル化合物とを共重合してなる、質量平均分子量90,000〜160,000のビニル共重合体(B)とからなる共重合体混合物に、該共重合体混合物100質量部に対して5〜20質量部のリン系難燃剤(C)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であって、該共重合体混合物のアセトン不溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBが22.0〜32.0質量%であり、アセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBが22.0〜34.0質量%であり、該アセトン不溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBと該アセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBの差の絶対値|CB−CB|が0〜3.0質量%であることを特徴とする。
【0023】
<グラフト共重合体(A)>
本発明に係るグラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体に、シアン化ビニル化合物および共重合性ビニル化合物をグラフト重合してなるものである。
【0024】
該ゴム質重合体としては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体ゴム(EPDM)等の1種または2種以上を用いることができる。なお、EPDMに含有される非共役ジエン成分としては、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、1,4−ヘプタジエン、1,5−シクロオクタジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、11−エチル−1,11−トリデカジエン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、2,5−ノルボルナジエン、2−メチル−2,5−ノルボルナジエン、メチルテトラヒドロインデン、リモネン等のジオレフィンの1種または2種以上が挙げられる。
【0025】
また、シアン化ビニル化合物としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル等を挙げることができ、これらの1種または2種以上を使用することができる。
【0026】
共重合性ビニル化合物としては、芳香族ビニル化合物、芳香族ビニル化合物以外の窒素元素を含有しないビニル化合物が挙げられ、このうち、芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−,m−もしくはp−メチルスチレン、ビニルキシレン、p−tert−ブチルスチレン、エチルスチレン等、好ましくはスチレン、α−メチルスチレンを挙げることができる。これらの芳香族ビニル化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
芳香族ビニル化合物以外の窒素元素を含有しないビニル化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β−不飽和カルボン酸;メチル(メタ)アクリレート(なお、「(メタ)アクリレート」は「アクリレートまたはメタクリレート」を意味する。)、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のα,β−不飽和カルボン酸エステル類;無水マレイン酸、無水イタコン酸等のα,β−不飽和ジカルボン酸無水物類等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0028】
本発明に係るグラフト共重合体(A)としては、具体的にはABS(ポリブタジエン−スチレン−アクリロニトリル)樹脂、ASA(アクリルゴム−スチレン−アクリロニトリル)樹脂、AES(エチレン−プロピレン−非共役ジエン系ゴム−スチレン−アクリロトリル)樹脂が挙げられる。
【0029】
本発明に係るグラフト共重合体(A)は、特にゴム質重合体20〜75質量部、好ましくは40〜70質量部に、シアン化ビニル化合物23〜35質量%および共重合性ビニル化合物65〜77質量%を含むビニル単量体混合物25〜80質量部、好ましくは30〜60質量部をグラフト重合したものが好ましい。
【0030】
グラフト共重合体(A)において、ゴム質重合体の割合が上記下限より少ないと、得られる難燃性熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性が劣る傾向となり、上記上限を超えると共重合体(B)との相溶性が低下する傾向となるので好ましくない。
【0031】
また、グラフト共重合体(A)を製造する際に用いるビニル単量体混合物は、ビニル単量体混合物全体を100質量%として、好ましくはシアン化ビニル化合物23〜35質量%、共重合性ビニル化合物65〜77質量%、より好ましくはシアン化ビニル化合物24〜34質量%と共重合性ビニル化合物66〜76質量%、さらに好ましくはシアン化ビニル化合物26〜32質量%と共重合性ビニル化合物68〜74質量%とからなるものである。ビニル単量体混合物中のシアン化ビニル化合物および共重合性ビニル化合物の割合が上記範囲を外れると、得られる難燃性熱可塑性樹脂組成物の成型加工性、耐衝撃性および耐熱性の少なくともいずれかに劣る傾向となり、物性バランスの優れた難燃性熱可塑性樹脂組成物を得ることが難しい。
【0032】
また、共重合性ビニル化合物としては、前述の如く、芳香族ビニル化合物と芳香族ビニル化合物以外の窒素元素を含有しないビニル化合物とが挙げられるが、その使用割合は、共重合性ビニル化合物全体を100質量%として、好ましくは芳香族ビニル化合物58〜100質量%、芳香族ビニル化合物以外の窒素元素を含有しないビニル化合物0〜42質量%、より好ましくは芳香族ビニル化合物65〜100質量%、芳香族ビニル化合物以外の窒素元素を含有しないビニル化合物0〜35質量%、さらに好ましくは芳香族ビニル化合物80〜100質量%、芳香族ビニル化合物以外の窒素元素を含有しないビニル化合物0〜20質量%である。芳香族ビニル化合物以外の窒素元素を含有しないビニル化合物の使用量が多過ぎると成形加工性が劣る傾向にあり、好ましくない。
【0033】
本発明におけるグラフト共重合体(A)を製造する際のグラフト重合方法については特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、塊状懸濁重合、懸濁重合および乳化重合等の一般的な重合方法をいずれも採用することができる。
【0034】
上記グラフト重合は、例えば、先ず、乳化重合にて製造されたゴム質重合体を攪拌翼ジャケット付き反応器内に仕込み、次にグラフト重合させるビニル単量体混合物の全量または一部を数回に分けて、一括または連続して滴下し、攪拌しながら40〜70℃にて、5〜60分間放置した後、更に開始剤を添加することにより行うことができる。これにより添加したビニル単量体混合物は、ゴム質重合体に含浸し、ゴム質重合体内にて重合体となって、グラフト共重合体(A)が得られる。
【0035】
このようなグラフト重合反応時の蒸留水へのシアン化ビニル化合物の溶解や単量体転化率などの影響から、グラフト共重合体(A)の製造に用いたビニル単量体混合物中のシアン化ビニル化合物の含有量に対して、得られるグラフト共重合体(A)のシアン化ビニル単位の含有量は変化する。
【0036】
本発明におけるグラフト共重合体(A)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBは、22.0〜34.0質量%、特に25.0〜30.0質量%であることが好ましい。このシアン化ビニル単位の含有量CBが上記範囲を外れると、得られる難燃性熱可塑性樹脂組成物の成型加工性、耐衝撃性および耐熱性の少なくともいずれかに劣る傾向なり、物性バランスの優れた難燃性熱可塑性樹脂組成物を得ることが難しい。
【0037】
なお、本発明において、グラフト共重合体(A)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBは、グラフト共重合体(A)をメタノール洗浄後にアセトンに溶解させ、アセトン可溶分を濃縮した後、メタノールで再沈殿させ、濾過により沈殿物を採取後、この沈殿物を元素分析にかけ、窒素原子換算することによる求めることができる。
【0038】
<ビニル共重合体(B)>
本発明に係るビニル共重合体(B)は、シアン化ビニル化合物と共重合性ビニル化合物とを共重合してなる、質量平均分子量が90,000〜160,000のものである。
【0039】
本発明において、ビニル共重合体(B)を製造する際に用いるシアン化ビニル化合物、共重合性ビニル化合物としては、各々前述のグラフト共重合体(A)を製造する際に用いることができるシアン化ビニル化合物、共重合性ビニル化合物として例示したものが挙げられ、それぞれ、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0040】
このビニル共重合体(B)は、シアン化ビニル化合物と共重合性ビニル化合物とを含むビニル単量体混合物を共重合することにより製造されるが、このビニル単量体混合物中のシアン化ビニル化合物と共重合性ビニル化合物との割合は、ビニル単量体混合物全体を100質量%として、好ましくはシアン化ビニル化合物23〜35質量%、共重合性ビニル化合物65〜77質量%、より好ましくはシアン化ビニル化合物24〜34質量%と共重合性ビニル化合物66〜76質量%、さらに好ましくはシアン化ビニル化合物26〜32質量%と共重合性ビニル化合物68〜74質量%とからなる。ビニル単量体混合物中のシアン化ビニル化合物および共重合性ビニル化合物の割合が上記範囲を外れると、得られる難燃性熱可塑性樹脂組成物の成型加工性、耐衝撃性および耐熱性の少なくともいずれかに劣る傾向となり、物性バランスの優れた難燃性熱可塑性樹脂組成物を得ることが難しい。
【0041】
また、共重合性ビニル化合物としては、前述の如く、芳香族ビニル化合物と芳香族ビニル化合物以外の窒素元素を含有しないビニル化合物とが挙げられるが、その使用割合は、共重合性ビニル化合物全体を100質量%として、好ましくは芳香族ビニル化合物58〜100質量%、芳香族ビニル化合物以外の窒素元素を含有しないビニル化合物0〜42質量%、より好ましくは芳香族ビニル化合物65〜100質量%、芳香族ビニル化合物以外の窒素元素を含有しないビニル化合物0〜35質量%、さらに好ましくは芳香族ビニル化合物80〜100質量%、芳香族ビニル化合物以外の窒素元素を含有しないビニル化合物0〜20質量%である。芳香族ビニル化合物以外の窒素元素を含有しないビニル化合物の使用量が多過ぎると成形加工性が劣る傾向にあり、好ましくない。
【0042】
ビニル共重合体(B)は、このようなビニル単量体混合物から、常法に従って、乳化重合、懸濁重合、塊状重合またはこれらの組み合わせからなる共重合反応によって製造することができる。
【0043】
このような共重合反応時の蒸留水へのシアン化ビニル化合物の溶解や単量体転化率などの影響から、ビニル共重合体(B)の製造に用いたビニル単量体混合物中のシアン化ビニル化合物の含有量に対して、得られるビニル共重合体(B)のシアン化ビニル単位の含有量は変化する。
【0044】
本発明におけるビニル共重合体(B)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBは、22.0〜32.0質量%、特に25.0〜30.0質量%であることが好ましい。このシアン化ビニル単位の含有量CBが上記範囲を外れると、得られる難燃性熱可塑性樹脂組成物の成型加工性、耐衝撃性および耐熱性の少なくともいずれかに劣る傾向なり、物性バランスの優れた難燃性熱可塑性樹脂組成物を得ることが難しい。
【0045】
なお、本発明において、ビニル共重合体(B)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBは、ビニル共重合体(B)をメタノール洗浄後にアセトンに溶解させ、アセトン可溶分を濃縮した後、メタノールで再沈殿させ、濾過により沈殿物を採取後、この沈殿物を元素分析にかけ、窒素原子換算することによる求めることができる。
【0046】
また、ビニル共重合体(B)の質量平均分子量は、GPCを用いて測定したポリスチレン換算値で、90,000〜160,000、好ましくは90,000〜125,000、さらに好ましくは90,000〜115,000である。
【0047】
ビニル共重合体(B)の質量平均分子量が、90,000未満であると耐衝撃性および/または耐熱性が劣る傾向となり、160,000を超えると成形加工性および難燃性が劣る傾向となるだけでなく、ドリップ性も悪くなり、安全性の高い、また物性バランスの良好な樹脂組成物が得ることが難しくなる。
【0048】
<共重合体混合物>
本発明に係る共重合体混合物は、グラフト共重合体(A)とビニル共重合体(B)とからなるものであるが、これらの合計量100質量部において、各々、次のような割合で含有されることが好ましい。
グラフト共重合体(A):10〜70質量部、特に15〜40質量部
ビニル共重合体(B):30〜90質量部、特に60〜85質量部
さらに、該共重合体混合物中におけるゴム含有量は、好ましくは5〜20質量%、より好ましくは6〜16質量%、さらに好ましくは8〜14質量%である。ゴム含有量がこの範囲であると、燃焼性に優れる傾向にある。
【0049】
グラフト共重合体(A)の配合量が上記下限よりも少ないと、得られる樹脂組成物が耐衝撃性に劣る傾向となり、上記上限を超えると、耐熱性に劣る傾向となる。また、ビニル共重合体(B)の配合量が上記下限より少ないと、得られる樹脂組成物が流動性、燃焼性に劣る傾向となり、上記上限を超えると耐衝撃性に劣る傾向となる。
【0050】
また、本発明に係る共重合体混合物において、この共重合体混合物中のグラフト共重合体(A)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBと、ビニル共重合体(B)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBとの差の絶対値|CB−CB|は0〜1.5質量%、特に0〜1.0質量%であることが好ましい。|CB−CB|が1.5質量%を超えると、得られる難燃性熱可塑性樹脂組成物の燃焼性とドリップ性が悪くなる傾向となる。
【0051】
なお、グラフト共重合体(A)、ビニル共重合体(B)はそれぞれ1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらを2種以上用いる場合、共重合体混合物中のグラフト共重合体(A)、ビニル共重合体(B)のいずれの組み合わせにおいても、|CB−CB|が上記上限以下となるようにすることが好ましい。
【0052】
本発明において、前述のようにグラフト共重合体(A)やビニル共重合体(B)を製造する際には、重合時の蒸留水へのシアン化ビニル化合物の溶解や単量体転化率の影響から、グラフト共重合体(A)およびビニル共重合体(B)の重合に用いたビニル単量体混合物中のシアン化ビニル化合物の含有量に対して、得られる共重合体混合物のシアン化ビニル単位の含有量は変化する。
【0053】
本発明における共重合体混合物のアセトン不溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBは、22.0〜32.0質量%、好ましくは25.0〜30.0質量%である。CBが上記上限よりも多いと成形加工性に劣る傾向にあり、上記下限よりも少ないと耐衝撃性、耐熱性に劣る傾向にあるためである。
【0054】
また、本発明における共重合体混合物のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBは、22.0〜34.0質量%、好ましくは25.0〜30.0質量%である。CBが上記上限よりも多いと成形加工性に劣る傾向にあり、上記下限よりも少ないと耐衝撃性、耐熱性に劣る傾向にあるためである。
【0055】
また、本発明における共重合体混合物のアセトン不溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBとアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBの差の絶対値|CB−CB|は0〜3.0質量%である。|CB−CB|が0〜3.0質量%であることにより、難燃性とドリップ性に優れた難燃性熱可塑性樹脂組成物が得られる。|CB−CB|は好ましくは0.1〜2.5質量%であり、さらに好ましくは0.3〜2.5質量%である。|CB−CB|がこの範囲にあれば、得られる樹脂組成物の耐衝撃性と燃焼性のバランスが一層向上する傾向にある。
【0056】
本発明における共重合体混合物のアセトン不溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBは、このアセトン不溶分をオゾン分解した後、得られた成分の元素分析による窒素原子換算から求めることができるが、共重合体混合物中のグラフト共重合体(A)のメタノール洗浄後のアセトン不溶分をオゾン分解した後、得られた成分の元素分析による窒素原子換算から求めることもできる。
【0057】
また、本発明における、共重合体混合物のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBは、このアセトン可溶分の元素分析による窒素原子換算により求めることができるが、このシアン化ビニル単位の含有量CBは、前述の共重合体混合物中のグラフト共重合体(A)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBとビニル共重合体(B)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBを用いて、下記計算式より求めることもできる。
【0058】
CB=(G×S×CB+S×CB)/(G×S+S
G:グラフト共重合体(A)1g中のアセトン可溶分のグラム量
:共重合体混合物中のグラフト共重合体(A)の配合量
:共重合体混合物中のビニル共重合体(B)の配合量
CB:グラフト共重合体(A)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分の
シアン化ビニル単位の含有量
CB:ビニル共重合体(B)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分の
シアン化ビニル単位の含有量
【0059】
<難燃性熱可塑性樹脂組成物の分析>
本発明に係る共重合体混合物中のアセトン可溶分およびアセトン不溶分のシアン化ビニル単位の含有量は、製造された難燃性熱可塑性樹脂組成物からも求めることができる。
この場合、まず、難燃性熱可塑性樹脂組成物1gをクロロホルム20mlに溶解し、その後、メタノール400ml中に滴下してポリマー成分を再度析出させ、析出した固形分(ポリマー成分)を濾過などにより取り出す。取り出した固形分が、難燃性熱可塑性樹脂組成物中の共重合体混合物に該当するので、これをアセトン可溶分とアセトン不溶分とに遠心分離により分離する。その後は、前述の共重合体混合物のアセトン不溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBの分析の場合と同様に、このアセトン不溶分をオゾン分解した後、得られた成分の元素分析による窒素原子換算から、アセトン不溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBを求めることができる。また、アセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBは、上記と同様にこのアセトン可溶分の元素分析による窒素原子換算により求めることができる。
【0060】
<リン系難燃剤(C)>
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物では、上述の共重合体混合物に対して、トリフェニルホスフィンオキサイドを含むリン系難燃剤(C)を配合することを必須の構成要件とする。トリフェニルホスフィンオキサイドとしては市販品を用いることができ、例えばケイ・アイ化成(株)製「PP−560」を用いることができる。
リン系難燃剤(C)としてトリフェニルホスフィンオキサイドを用いることにより、縮合リン酸エステル等の他のリン系難燃剤を用いる場合に比べて優れた耐光性が得られ、更には成形加工性も改善される。
【0061】
本発明で用いるリン系難燃剤(C)は、トリフェニルホスフィンオキサイドのみからなるものであってもよく、トリフェニルホスフィンオキサイドと他のリン系難燃剤とを含むものであってもよい。
【0062】
トリフェニルホスフィンオキサイドと併用し得る他のリン系難燃剤としては、特に限定されることはなく、通常一般的に用いられるリン系難燃剤を用いることができ、代表的にはリン酸エステル、ポリリン酸塩、ホスファゼン化合物などの有機リン系化合物や、赤リンが挙げられる。
【0063】
上記の有機リン系化合物におけるリン酸エステルの具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリス(フェニルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジフェニル(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジ(イソプロピルフェニル)フェニルホスフェート、モノイソデシルホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、ジフェニル−2−アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル−2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、メラミンホスフェート、ジメラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、トリクレジルホスフィンオキサイド、メタンホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジエチル、レゾルシノールポリフェニルホスフェート、レゾルシノールポリ(ジ−2,6−キシリル)ホスフェート、ビスフェノールAポリクレジルホスフェート、ハイドロキノンポリ(2,6−キシリル)ホスフェートならびにこれらの縮合物などの縮合リン酸エステルを挙げることができる。市販の縮合リン酸エステルとしては、例えば大八化学社製PX−200(レゾルシノールビスジキシレニルホスフェート)、PX−201(ハイドロキノンビスジキシレニルホスフェート)、CR−733S(レゾルシノールビスジフェニルホスフェート)、CR−741(ビスフェノールAビスジフェニルホスフェート)などを挙げることができる。
【0064】
これらのトリフェニルホスフィンオキサイド以外の他のリン系難燃剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、上述の共重合体混合物100質量部に対し、トリフェニルホスフィンオキサイドを含有するリン系難燃剤(C)を5〜20質量部、好ましくは6〜12質量部配合してなるものである。このリン系難燃剤(C)の配合量が上記下限未満では十分な難燃性及び耐光性を得ることができず、上記上限を超えると耐熱性が悪くなる傾向にある。
【0066】
また、本発明で用いるリン系難燃剤(C)がトリフェニルホスフィンオキサイドとトリフェニルホスフィンオキサイド以外の他のリン系難燃剤とからなる場合、リン系難燃剤(C)としてトリフェニルホスフィンオキサイドを用いることによる上記効果を有効に得る上で、リン系難燃剤(C)中のトリフェニルホスフィンオキサイドの割合は、10〜100質量%、更に50〜100質量%、特には80〜100質量%であることが好ましく、リン系難燃剤(C)はとりわけトリフェニルホスフィンオキサイドのみからなることが好ましい。
【0067】
<他の添加剤>
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物には、更に上記の諸成分の他に、その物性を損なわない範囲において、樹脂組成物の製造時(混合時)、成形時に用いられる通常の他の添加剤、例えば滑剤、顔料、染料、充填剤(カーボンブラック、シリカ、酸化チタン等)、耐熱剤、酸化劣化防止剤、耐候剤、離型剤、可塑剤、帯電防止剤等を配合することができる。
また、本発明の目的を損なわない程度に、例えば前記共重合体混合物100質量部に対して10質量部以下の範囲であれば、前記グラフト共重合体(A)およびビニル共重合体(B)以外の樹脂およびゴムやエラストマー等が含まれていてもよい。
【0068】
<製造方法>
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物を製造する方法には特に制限はなく、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物は、通常行われている方法および装置を使用して製造することができる。一般的に使用されている方法は、溶融混合法であり、その際に用いる装置の例としては、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ローラー、ニーダー等を挙げることができる。難燃性熱可塑性樹脂組成物の製造は、回分式または連続式のいずれで行ってもよく、また、各成分の混合順序にも特に制限はなく、全ての成分が十分に均一に混合されればよい。
【0069】
[成形品]
本発明の成形品は、上述した本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものであり、その成形方法としては、射出成形、シート押出成形、真空成形、圧空成形、異形押出成形、発泡成形、ブロー成形など、熱可塑性樹脂組成物に汎用の成形方法をいずれも適用することができる。
【0070】
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品の用途としては特に制限はないが、その優れた難燃性と物性バランスにより、OA・家電分野、電気・電子分野、自動車分野、建材分野等の各種用途に有用である。
【実施例】
【0071】
以下、製造例、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0072】
以下において、得られた樹脂組成物の各種物性ないし特性の評価方法は次の通りである。
【0073】
(1)難燃性:UL94規格の試験方法に従って、厚み0.75mmおよび3.0mmでそれぞれ試験を実施し、下記UL94V−2に適合するか否かで評価した。表1〜3において、UL94V−2に適合するものをV−2とし、適合しない物をOUTと表記した。
<UL94V−2>
接炎を中止した後の各回の有炎燃焼時間(秒):30秒以下
試験片5個への合計10回の接炎による有炎燃焼時間(秒):250秒以下
有炎滴下物による脱脂綿の着火:あり
【0074】
(2)初期滴下時間(秒):UL94規格の試験方法に従って、厚み3.0mmで試験を実施する際、はじめの有炎滴下物を生じる時間を測定し、試験片5個の平均時間を初期滴下時間とした。この時間が短いものほど、炎が小さくなる、または消火するのが速く、炎の延焼をすばやく抑制することができることから、安全性が高い。
【0075】
(3)耐衝撃性:ISO試験法179に準拠し、23℃、4mm、Vノッチ付きシャルピー衝撃強さ(KJ/m)を測定した。
【0076】
(4)成形加工性:ISO試験法1133に準拠し、220℃でのメルトボリュームレート(cm/10min)を測定した。
【0077】
(5)耐熱性:ISO試験法75に準拠し、1.83MPa、4mm、フラットワイズ法で荷重たわみ温度(℃)を測定した。
【0078】
(6)耐光性:90×50×2mm厚の試験片につき、キセノンを用い、63℃、雨なしの条件にて300時間照射を行い、照射前後の色差(ΔE)を測定した。
【0079】
<製造例1:グラフト共重合体(A−1)の製造>
蒸留水170質量部に、ジエン系ゴム(ポリブタジエン、ゲル含有量:95%、平均粒子径:3000Å)50質量部と、スチレン74質量%およびアクリロニトリル26質量%のビニル単量体混合物50質量部と、不均化ロジン酸カリウム1質量部、水酸化ナトリウム0.01質量部、ピロリン酸ナトリウム0.45質量部、硫酸第1鉄0.01質量部、デキストローズ0.57質量部、t−ドデシルメルカプタン0.08質量部およびクメンハイドロパーオキサイド1.0質量部とを仕込み、60℃から反応を開始し、途中で75℃まで昇温し、2時間半後に乳化グラフト重合を完結させた。
反応生成物のラテックスを硫酸水溶液で凝固、水洗した後、乾燥してグラフト共重合体(A−1)を得た。なお、単量体転化率は96%、ゴム含有量は50.9質量%であった。
【0080】
グラフト共重合体(A−1)をメタノールで洗浄後、アセトンに溶解させた後、このアセトン可溶分を濃縮し、メタノールで再沈殿させ、濾過により沈殿物を採取した。この沈殿物を乾燥させた後、元素分析装置として、Yanaco製MT−6を使用して、窒素原子換算によるシアン化ビニル単位の含有量を、グラフト共重合体(A−1)のシアン化ビニル単位の含有量とした。
このグラフト共重合体(A−1)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量は24.3質量%であった。
【0081】
<製造例2:グラフト共重合体(A−2)の製造>
蒸留水170質量部に、製造例1で用いたものと同様のジエン系ゴム65質量部と、スチレン70質量%およびアクリロニトリル30質量%のビニル単量体混合物35質量部と、不均化ロジン酸カリウム1質量部、水酸化ナトリウム0.01質量部、ピロリン酸ナトリウム0.45質量部、硫酸第1鉄0.01質量部、デキストローズ0.57質量部、t−ドデシルメルカプタン0.07質量部およびクメンハイドロパーオキサイド1.0質量部とを仕込み、60℃から反応を開始し、途中で75℃まで昇温し、2時間半後に乳化グラフト重合を完結させた。
反応生成物のラテックスを硫酸水溶液で凝固、水洗した後、乾燥してグラフト共重合体(A−2)を得た。なお、単量体転化率は97%であり、ゴム含有量は66.1質量%であった。また、製造例1と同様にして求めたグラフト共重合体(A−2)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量は26.7質量%であった。
【0082】
<製造例3:グラフト共重合体(A−3)の製造>
蒸留水170質量部に、製造例1で用いたものと同様のジエン系ゴム50質量部と、スチレン67質量%およびアクリロニトリル33質量%のビニル単量体混合物50質量部を用いたこと以外は製造法1と同条件で反応を行い、グラフト共重合体(A−3)を得た。なお、単量体転化率は96%であり、ゴム含有量は51.9質量%であった。また、製造例1と同様にして求めたグラフト共重合体(A−3)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量は29.2質量%であった。
【0083】
<製造例4:グラフト共重合体(A−4)の製造>
蒸留水170質量部に、製造例1に用いたものと同様のジエン系ゴム50質量部と、スチレン78重量%およびアクリロニトリル22重量%のビニル単量体混合物50重量部を用いたこと以外は製造法1と同条件で反応を行い、グラフト共重合体(A−4)を得た。なお、単量体転化率は96%であり、ゴム含有量は52.2質量%であった。また、製造例1と同様にして求めたグラフト共重合体(A−4)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量は21.2質量%であった。
【0084】
<製造例5:ビニル共重合体(B−1)の製造>
蒸留水120質量部に、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.003質量部と、スチレン76.0質量%およびアクリロニトリル24.0質量%のビニル単量体混合物100質量部と、t−ドデシルメルカプタン0.35質量部、過酸化ベンゾイル0.15質量部およびリン酸カルシウム0.5質量部とを添加して、110℃で10時間懸濁重合し、ビニル共重合体(B−1)を得た。
このビニル共重合体(B−1)の質量平均分子量Mwは141,000であり、単量体転化率は98%であった。
【0085】
ビニル共重合体(B−1)をメタノールで洗浄後、アセトンに溶解した後、このアセトン可溶分を濃縮し、メタノールで再沈殿させ、濾過により沈殿物を採取した。この沈殿物を乾燥させた後、元素分析装置として、Yanaco製MT−6を使用して、窒素原子換算によるシアン化ビニル単位の含有量を、ビニル共重合体(B−1)のシアン化ビニル単位の含有量とした。
このビニル共重合体(B−1)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量は22.5質量%であった。
【0086】
<製造例6:ビニル共重合体(B−2)の製造>
ビニル単量体混合物として、スチレン73.0質量%とアクリロニトリル27.0質量%のビニル単量体混合物を用い、t−ドデシルメルカプタンの量を0.4質量部とした以外は製造例5と同条件で懸濁重合を行い、ビニル共重合体(B−2)を得た。
このビニル共重合体(B−2)の質量平均分子量Mwは115,000であり、単量体転化率は97%であり、製造例5と同様にして求めたメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量は25.7質量%であった。
【0087】
<製造例7:ビニル共重合体(B−3)の製造>
ビニル単量体混合物として、スチレン72.0質量%とアクリロニトリル28.0質量%のビニル単量体混合物を用い、t−ドデシルメルカプタンの量を0.5質量部とした以外は製造例5と同条件で懸濁重合を行い、ビニル共重合体(B−3)を得た。
このビニル共重合体(B−3)の質量平均分子量Mwは105,000であり、単量体転化率は98%であり、製造例5と同様にして求めたメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量は27.0質量%であった。
【0088】
<製造例8:ビニル共重合体(B−4)の製造>
ビニル単量体混合物として、スチレン72.0質量%とアクリロニトリル28.0質量%のビニル単量体混合物を用い、t−ドデシルメルカプタンの量を0.3質量部とした以外は製造例5と同条件で懸濁重合を行い、ビニル共重合体(B−4)を得た。
このビニル共重合体(B−4)の質量平均分子量Mwは165,000であり、単量体転化率は97%であり、製造例5と同様にして求めたメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量は27.0質量%であった。
【0089】
<製造例9:ビニル共重合体(B−5)の製造>
ビニル単量体混合物として、スチレン70.0質量%とアクリロニトリル30.0質量%のビニル単量体混合物を用い、t−ドデシルメルカプタンの量を0.5質量部とした以外は製造例5と同条件で懸濁重合を行い、ビニル共重合体(B−5)を得た。
このビニル共重合体(B−5)の質量平均分子量Mwは99,000であり、単量体転化率は97%であり、製造例5と同様にして求めたメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量は29.0質量%であった。
【0090】
<製造例10:ビニル共重合体(B−6)の製造>
ビニル単量体混合物として、スチレン70.0質量%とアクリロニトリル30.0質量%のビニル単量体混合物を用い、t−ドデシルメルカプタンの量を0.4質量部とした以外は製造例5と同条件で懸濁重合を行い、ビニル共重合体(B−6)を得た。
このビニル共重合体(B−6)の質量平均分子量Mwは123,000であり、単量体転化率は97%であり、製造例5と同様にして求めたメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量は29.2質量%であった。
【0091】
<製造例11:ビニル共重合体(B−7)の製造>
ビニル単量体混合物として、スチレン70.0質量%とアクリロニトリル30.0質量%のビニル単量体混合物を用い、t−ドデシルメルカプタンの量を0.3質量部とした以外は製造例5と同条件で懸濁重合を行い、ビニル共重合体(B−7)を得た。
このビニル共重合体(B−7)の質量平均分子量Mwは155,000であり、単量体転化率は98%であり、製造例5と同様にして求めたメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量は29.3質量%であった。
【0092】
<製造例12:ビニル共重合体(B−8)の製造>
ビニル単量体混合物として、スチレン69.0質量%とアクリロニトリル31.0質量%のビニル単量体混合物を用い、t−ドデシルメルカプタンの量を0.4質量部とした以外は製造例5と同条件で懸濁重合を行い、ビニル共重合体(B−8)を得た。
このビニル共重合体(B−8)の質量平均分子量Mwは113,000であり、単量体転化率は98%であり、製造例5と同様にして求めたメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量は30.0質量%であった。
【0093】
<リン系難燃剤(C)>
リン系難燃剤(C)として下記製品を用いた。
(c−1)ケイ・アイ化成(株)製「PP−560」(トリフェニルホスフィンオキサイド)
(c−2)大八化学工業(株)製「PX−200」(レゾルシノールビスジキシレニルホスフェート)
【0094】
[実施例1〜10、比較例1〜5]
上記各製造例で得られた各重合体とリン系難燃剤とを表1〜3に示す割合で配合し、ヘンシェルミキサーで混合した後、押出機で混練してペレット化した。
【0095】
得られた樹脂組成物のペレットを用いて、前述の各評価(1)〜(6)を行い、結果を表1〜3に示した。
【0096】
また、以下の方法で、各共重合体混合物のアセトン不溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBとアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBを求め、この結果を、用いたビニル共重合体(B)の質量平均分子量Mwと、グラフト共重合体(A)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CB、およびビニル共重合体(B)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBと、|CB−CB|および|CB−CB|と共に、表1〜3に示した。なお、表1〜3には、各共重合体混合物のゴム含有量を併記した。
【0097】
<CB,CB
得られた樹脂組成物のペレット1gをアセトン80ml中に投入して23℃で12時間放置した後、15分間超音波洗浄器にかけ、その後、遠心分離機を用いて12,000rpmで90分間遠心分離を行ってアセトン可溶分(上澄み液)を得た。このアセトン可溶分を濃縮し、メタノールで再沈殿させ、濾過により沈殿物を採取した。この沈殿物を60℃の真空乾燥機に入れて12時間以上乾燥した後、元素分析にかけ、窒素原子換算によりアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBとした。
なお、元素分析には、Yanaco製MT−6を使用した。
一方、遠心分離機により、上澄み液を取り除いた後の固形分をアセトン不溶分として採取し、このアセトン不溶分をクロロホルム中に分散させ、オゾン分解した後、アセトン可溶分と同様の手法でアセトン不溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBを求めた。
【0098】
なお、表1〜3には、グラフト共重合体とビニル共重合体との共重合体混合物中のシアン化ビニル化合物と共重合可能なビニル化合物由来の成分100質量部に対するリン系難燃剤の割合を併記した。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
【表3】

【0102】
<考察>
実施例1〜10のように、本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物によれば、ハロゲン系難燃剤を使用することなくトリフェニルホスフィンオキサイドを含有するリン系難燃剤を配合することにより、米国UL規格94V−2に適合する難燃性を有し、さらに、初期滴下時間が短く、炎の延焼をすばやく抑制することができる、より安全性が高い燃焼挙動を有し、しかも、耐衝撃性、耐熱性、耐光性、成形加工性の各種物性のバランスが優れた難燃性熱可塑性樹脂組成物が提供される。
【0103】
一方、比較例1〜2は、共重合体混合物のシアン化ビニル単位の含有量の差の絶対値|CB−CB|が本発明の範囲を超えており、難燃性が不十分であるだけでなく、初期滴下時間も長く、安全性も低い。比較例3はビニル共重合体の質量平均分子量Mwが本発明の範囲を超えており、難燃性が不十分であるだけでなく、ドリップ性が悪く、初期滴下時間が長くなり、安全性も低い。比較例4は、共重合体混合物のアセトン不溶分のシアン化ビニル化合物の含有量CBが本発明の範囲未満であり、耐衝撃性および耐熱性に劣る。リン系難燃剤としてトリフェニルホスフィンオキサイドを用いた実施例7と、リン系難燃剤としてトリフェニルホスフィンオキサイドを含まないものを用い、その他は実施例7と同配合とした比較例5とを比べることにより、リン系難燃剤としてトリフェニルホスフィンオキサイドを用いることにより、耐光性および成形加工性が大幅に改善されることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム質重合体に、シアン化ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物と共重合可能なビニル化合物とをグラフト重合してなるグラフト共重合体(A)と、シアン化ビニル化合物と、シアン化ビニル化合物と共重合可能なビニル化合物とを共重合してなる、質量平均分子量が90,000〜160,000であるビニル共重合体(B)とからなる共重合体混合物に、該共重合体混合物100質量部に対して5〜20質量部のリン系難燃剤(C)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であって、
該リン系難燃剤(C)がトリフェニルホスフィンオキサイドを含み、
該共重合体混合物のアセトン不溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBが22.0〜32.0質量%であり、アセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBが22.0〜34.0質量%であり、これらの差の絶対値|CB−CB|が0〜3.0質量%であることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記グラフト共重合体(A)が、ゴム質重合体20〜75質量部に、シアン化ビニル化合物23〜35質量%と、シアン化ビニル化合物と共重合可能なビニル化合物65〜77質量%とを含むビニル単量体混合物25〜80質量部をグラフト重合してなり、かつ、
前記ビニル共重合体(B)が、シアン化ビニル化合物23〜35質量%と、シアン化ビニル化合物と共重合可能なビニル化合物65〜77質量%とを含むビニル単量体混合物を共重合してなることを特徴とする請求項1に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記グラフト共重合体(A)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBが22.0〜34.0質量%であり、ビニル共重合体(B)のメタノール洗浄後のアセトン可溶分のシアン化ビニル単位の含有量CBが22.0〜32.0質量%であり、これらの差の絶対値|CB−CB|が0〜1.5質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記グラフト共重合体(A)および/またはビニル共重合体(B)におけるシアン化ビニル化合物と共重合可能なビニル化合物が、芳香族ビニル化合物58〜100質量%と、芳香族ビニル化合物以外の窒素元素を含有しないビニル化合物0〜42質量%とを含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記リン系難燃剤(C)に含まれるトリフェニルホスフィンオキサイドの割合が50〜100質量%であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。

【公開番号】特開2012−167228(P2012−167228A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30922(P2011−30922)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(502163421)ユーエムジー・エービーエス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】