説明

難燃性薄肉絶縁電線

【目的】 本発明の目的は難燃性及び高度の耐摩耗性を備えた新規な難燃性薄肉絶縁電線を提供することにある。
【構成】 本発明は融点が直鎖状低密度ポリエチレンとカルボン酸変性ポリマとのブレンドポリマ100重量部に対して、シランカップリング剤で表面処理した水酸化マグネシウムを30〜100重量部含有する絶縁体を導体上に被覆し、架橋してなることをことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は難燃性で、かつ耐摩耗性に優れた難燃性薄肉絶縁電線に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、乗用車を中心に自動車の高性能、高機能化が著しく、これに伴いその電気・電子回路も増えることによりワイヤハーネスも肥大化する傾向にある。しかしながら、このワイヤハーネスの肥大化は配線スペースの増大、重量及びコストの増加などの弊害を招くことから、この肥大化に対する対策が要望されている。そこで、最近では、この一環としてワイヤハーネス電線の細径、薄肉化が検討されており、実際に導体上にポリ塩化ビニルからなる絶縁材料を被覆した絶縁電線においては芯線径及び絶縁厚の低減による細径、薄肉化が図られるようになってきた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、最近、地球環境の保全が世界的課題として注目されるようになり、自動車に代表される広範囲の分野で資源や加工品のリサイクル化、産業廃棄物処理問題が地球レベルで重大視されるようになってきた。このため、上述したような自動車用ワイヤハーネス電線に使用するポリ塩化ビニルに対しても、焼却時、腐蝕性のハロゲン系ガス発生が環境汚染源の一つとして問題視されるようになってきており、このような社会的動向から、ポリオレフィンに金属水酸化物を混和することで腐蝕性ガスの発生が少ないノンハロゲン難燃絶縁材料が注目されている。
【0004】しかしながら、このノンハロゲン難燃絶縁材料は、従来のポリ塩化ビニルからなる絶縁材料に比べて強靭性が劣り、特に、耐摩耗性が悪く、絶縁体の厚さが0.1〜0.6mmの薄肉電線への適用が難しかった。
【0005】そこで、本発明は上記問題点を有効に解決するために案出されたものであり、その目的は難燃性及び高度の耐摩耗性を備えた新規な難燃性薄肉絶縁電線を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明は直鎖状低密度ポリエチレンとカルボン酸変性ポリマとのブレンドポリマ100重量部に対して、シランカップリング剤で表面処理した水酸化マグネシウムを30〜100重量部含有する絶縁体を導体上に被覆し、架橋してなるものである。
【0007】本発明における直鎖状低密度ポリエチレンとは、エチレンとブテン−1以上の炭素数からなるアルケンとの共重合体である。また、このアルケンとしてはブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1などが挙げられ、密度が20℃で0.91〜0.94のものである。そして、これらのポリマは単独或いは2種以上併用することは勿論、他のポリオレフィンと併用することも可能である。
【0008】この直鎖状低密度ポリエチレンに添加するカルボン酸変性ポリマとは、低密度ポリエチレン、稠密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニルコポリマに代表されるポリオレフィンにカルボン酸をグラフト又は共重合したもので、カルボン酸としては無水マレイン酸が代表的である。上述のポリオレフィンとカルボン酸変性ポリマの比率は97/3〜70/30の範囲の重量比が望ましい。
【0009】水酸化マグネシウムには、凝縮、強靱性、難燃性などから平均粒径0.1〜5μmのものが好ましく、これはシランカップリング剤で表面処理する必要がある。このシランカップリング剤としては、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等に代表される不飽和結合を有するものが望ましい。
【0010】本発明において直鎖状低密度ポリエチレンとカルボン酸変性ポリマのブレンドポリマ100重量部に対して、配合する水酸化マグネシウムを30〜100重量部の範囲と限定した理由としては、その配合量が30重量部未満では目的とする難燃性を付与できず、反対に100重量部を越えた場合には耐摩耗性が著しく損なわれるからである。尚、本発明では上記絶縁体を導体外周に押出被覆後、パーオキサイドや電子線照射などにより架橋されることになる。
【0011】
【作用】本発明は上述したように、直鎖状低密度ポリエチレンとカルボン酸変性ポリマとのブレンドポリマと、シランカップリング剤で表面処理した水酸化マグネシウムとからなる組成物を導体上に被覆し、架橋してなるものであるため、難燃性を発揮し、特に耐摩耗性が大巾に向上する。すなわち、このシランカップリング剤は、その分子中に有機質と反応する官能基と無機質と結合する基を有しているため、混和する水酸化マグネシウムをこれで表面処理した際に、これが水酸化マグネシウムの表面に結合し、その表面に結合したシランカップリング剤の官能基がカルボン酸変性ポリマと反応することで水酸化マグネシウムとブレンドポリマとが一体に結合されて、耐摩耗性が大巾に向上することになる。
【0012】
【実施例】以下、本発明の実施例を詳述する。
【0013】表1の実施例1〜4及び比較例1〜6の各欄に示す配合成分に従って、各成分を220℃に設定した30mm2軸混練機で混練して形成し、その後、これら組成物を220℃設定の40mm押出機を用いて芯線外径0.87φの銅導体上に0.35mmの厚さで押出被覆し、その後、これを加速電圧2MeV,線量7×10-2MGyで電子線照射し、各種絶縁電線を得た。この際、導体はガスバーナで130℃に予熱した。
【0014】次に、このようにして製作した各種電線についてそれぞれ以下に示す評価を行った。
【0015】(1)耐摩耗性日本自動車規格(JASO)−D608−87に準拠し、荷重510gでブレードを用いた往復法による摩耗試験を4回行い、導体露出の最少回数を示した。
【0016】(2)難燃性JASO−D608−87に準拠し、試料300mmを水平に支持し、ブンゼンバーナの還元炎を10秒間あてた後の残炎時間が30秒以内を合格、30秒を越えるものを不合格と判定した。
【0017】
【表1】


【0018】この結果、表1に示すように本発明に係る実施例1〜4の各試料は、いずれも難燃性が良好でかつ優れた耐摩耗性を発揮した。
【0019】これに対し、無水マレイン酸変性ポリエチレンを添加しない比較例1、電子線未照射の比較例2、シランカップリング剤以外の表面処理剤で処理した水酸化マグネシウムを用いた比較例3及び融点が120℃未満のポリマを使用した比較例4はいずれも導体露出の最少回数が実施例1〜4の半分以下であり、耐摩耗性が低かった。また、水酸化マグネシウムの混和量が30重量部以下の比較例5では耐摩耗性は著しく向上したが、難燃性が不合格となり、さらに、水酸化マグネシウムの混和量が100重量部を越える比較例6では難燃性は合格したが、反対に耐摩耗性が著しく低下してしまった。
【0020】
【発明の効果】以上要するに本発明によれば、難燃性及び耐摩耗性が大巾に向上するため、薄肉化が可能となって自動車のワイヤーハーネスとして適用することが可能となると共に、焼却時に腐蝕性の高いハロゲン系ガスを発生しないため、環境汚染防止に大きく寄与することができる等といった優れた効果を発揮する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 直鎖状低密度ポリエチレンとカルボン酸変性ポリマとのブレンドポリマ100重量部に対して、シランカップリング剤で表面処理した水酸化マグネシウムを30〜100重量部含有する絶縁体を導体上に被覆し、架橋してなることを特徴とする難燃性薄肉絶縁電線。
【請求項2】 上記絶縁体厚さが0.1〜0.6mmであることを特徴とする請求項1記載の難燃性薄肉絶縁電線。
【請求項3】 上記直鎖状低密度ポリエチレンが、エチレンとブテン−1以上の炭素数からなるアルケンとの共重合体であることを特徴とする請求項1記載の難燃性薄肉絶縁電線。
【請求項4】 上記カルボン酸変性ポリマが、ポリオレフィンにカルボン酸をグラフト又は共重合したものであることを特徴とする請求項1記載の難燃性薄肉絶縁電線。
【請求項5】 上記ブレンドポリマを構成するポリオレフィンとカルボン酸変性ポリマとの配合比率が、97/3〜70/30であることを特徴とする請求項1記載の難燃性薄肉絶縁電線。
【請求項6】 上記水酸化マグネシウムが、平均粒径0.1〜5μmの粉状体であることを特徴とする請求項1記載の難燃性薄肉絶縁電線。

【公開番号】特開平7−176219
【公開日】平成7年(1995)7月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−320122
【出願日】平成5年(1993)12月20日
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)